追跡!ワイナリー最新情報!『HASE de KODAWAAR WINERY』 ドメーヌ・ワイナリーとして、新たな一歩を踏み出す

長野県松本市にある「HASE de KODAWAAR WINERY(ハセ・ド・コダワール・ワイナリー)」は、代表社員ワイン醸造マイスターの長谷川福広(よしひろ)さんが経営するワイナリーだ。

自社畑は長野県内の4か所にあり、松本市山辺ではピノ・グリとリースリング、塩尻市片丘ではシャルドネやピノ・ノワールなど7種類を栽培している。さらに、2022年7月に完成した自社醸造所に隣接する畑では、欧州系品種のぶどうとりんごの栽培も手がけている。

HASE de KODAWAAR WINERYのぶどう栽培へのこだわりは、「自然を味方にする」畑作りをすること。自社畑では、下草を生やして土壌を豊かにする「草生栽培」と、化学肥料を使わない栽培管理を実践している。

2024年に5回目を迎えるワイン醸造は、基本に忠実に造ることを重視。手間暇をかけて、自分の納得のいくワインを造りたいと考えている長谷川さんは、ぶどう栽培とワイン醸造に日々奮闘している。

今回は、2023年から2024年にかけてのHASE de KODAWAAR WINERYの最新情報を、長谷川さんに伺った。さっそく紹介していきたい。

『HASE de KODAWAAR WINERYのぶどう栽培』

全国的に記録的な猛暑に見舞われた2023年。HASE de KODAWAAR WINERYの自社畑があるエリアでも、開花前の時期からすでに、例年よりも高い気温が続いた。そのため、開花時期が早かったことはもちろん、樹の成長も想定よりも早くすすんだそうだ。

ぶどう栽培において、天候はぶどうの質や収量に直結する大きな要素である。HASE de KODAWAAR WINERYでは、変化する気候にどのような対応をしたのだろうか。

▶︎2023〜2024年のぶどう栽培

「自社畑の樹は、最も樹齢が高いもので8年目、新しい樹は4年目です。新しい区画はようやく収穫できるようになってきたところですね。2023年は開花時期の前から気温が高かったために生育が早かったのですが、出てきた新梢を摘み取る『摘心』をしたことで副梢が伸びて、かえって樹勢が強まってしまいました」。

摘心は一般的に、枝を伸ばすのではなく房を付けることに養分を集中させるためにおこなう作業だ。だが2023年は狙ったような効果を得ることができなかった。摘心を実施したタイミングも影響しているのだろうか。副梢が伸びたことで結果的に樹がこんもりと茂ってしまい、房のつき方も思わしくなかった。

特に、樹勢が強い品種特性を持つメルローやピノ・グリが「過繁茂」状態となったため、伸びてしまった枝をどんどん刈り込むことで対応した。

樹勢が強くなりすぎる現象は気候変動の影響もあるのか、HASE de KODAWAAR WINERYの畑以外でも起きているという。長野県の栽培講習会でも同様の課題について議論されたことがあるそうなので、しばしば見られる現象なのだろう。

摘心は開花後のタイミングで実施する作業ではあるが、2023年の傾向をふまえて、2024年は早めに実施。品種にもよるが、房のつき方が回復した品種もあったため、一定の効果はあったといえそうだ。

HASE de KODAWAAR WINERYの自社畑は標高650〜780mという比較的高所に点在している。もともと冷涼な気候が特徴のエリアだが、近年は夏季の気温上昇が懸念材料だ。日中は30~35℃まで上昇するため、暑すぎてぶどうは生育を止めてしまうほど。朝晩の気温は25~26℃まで下がるが、平均気温は年々上がってきている印象だという。

暑さに翻弄された2023年は、幸いにも台風や雨の影響は少ない年だった。だが、春先には遅霜の被害が出たという。被害は軽微だったものの、若いシラーの新芽が霜焼けを起こしてしまったのだ。

「遅霜対策としては、煙を焚いて夜温が下がらないようにする方法などがあり、補助金も出るのですが、完璧に防ぐのは難しいですね。自社畑の収量が減った分は、買いぶどうを増やすことで対応しました」。

▶︎土地に合う品種は、ピノ・ノワールとリースリング

HASE de KODAWAAR WINERYの自社畑で栽培しているぶどうのうち、どんな品種が土地にあっているのだろうか。これまで栽培を手がけてきた印象を尋ねてみた。

「比較的土地に合っていると感じるのは、ピノ・ノワールですね。樹勢が強いという問題があるので対策は必要ですが、歳を重ねるにつれて、よいぶどうが収穫できるようになってきました。また、リースリングもしっかりと熟すようになったので期待が持てます」。

植栽してから時間が経過するうちに、ぶどう自身が環境に慣れて、土地に合わせて生育するようになってきたと感じている長谷川さん。植物の順応性の高さには驚かされるそうだ。

リースリングの品質が上がったことで、今後はリースリングがどのような白ワインに仕上がるのかも楽しみだ。長谷川さんにとって、リースリングとピノ・グリは特に大事にしたい品種だという。HASE de KODAWAAR WINERYのリースリングのワインは人気が高く、収量が減ってしまった2023年は予約段階で売り切れてしまったそう。2024年はより多くのワインがリリースされるのが待ち遠しい。

▶︎土壌作りにおける工夫とこだわり

学生時代に土壌学を学んできた長谷川さんは、ぶどう栽培をする上で、ぶどうに適した豊かな土壌作りをすることを重視している。「草は友達」というモットーを掲げ、草生栽培を採用しているHASE de KODAWAAR WINERYの自社畑では、微生物の力で土壌のポテンシャルを高めるのが基本方針だ。

長谷川さんのこだわりが詰め込まれた土壌管理ついて、直近の取り組みを紹介しておこう。

HASE de KODAWAAR WINERYの自社畑では、化学肥料を使用しない栽培をおこなっている。できるだけ自然に近い環境でぶどう栽培を実施する中、収穫後に毎年欠かさず土壌に加えているのがカルシウム資材だ。

日本では多くの土地が酸性寄りのため、果樹や野菜などの栽培をする上で、pH値を矯正することを目的として石灰を加えることがある。だが、長谷川さんがカルシウム資材を使うのはpH値を矯正する目的ではなく、「栄養分としてカルシウムを与えるつもりで撒いている」という。

「果樹は野菜よりも深く根を張るため、土壌改良をする場合には大量の資材を投入する必要があります。カルシウム資材を投入するのは土壌改良が目的なのではなく、土地が持つ個性を生かしながら、よりぶどう栽培に適した環境を整えるためです」。

草生栽培で豊かな土壌を作り、ぶどうにとって好ましい状態に少しずつ近づけていくこと自体も、テロワールの一部としてワインの個性になる。主に赤ワイン用品種を栽培している自社畑は、もともとミネラル分が少ない火山灰土壌であるため、自然な方法でゆるやかに環境を整えていければと思っているのだ。

豊かな土作りのために実施している草生栽培では、生やす草の種類もいろいろと試している最中だ。窒素分を増やすために豆科の植物を植え付けるなどの取り組みをおこなっているが、狙い通りに定着させるのはなかなか難しい。下草を刈り取った後は、そのまま畑に残して肥料にするが、刈り取るタイミングも悩みどころなのだとか。よりよい土壌作りを目指して、長谷川さんの試行錯誤はこれからも続いていく。

『HASE de KODAWAAR WINERYのワイン醸造』

続いては、HASE de KODAWAAR WINERYの直近のワイン造りについて深掘りしていこう。

まず注目すべきは、2024年にフランスで開催された「フェミナリーズ世界ワインコンクール」で金賞を受賞したこと。受賞銘柄は、「HILLS Melrot 2022」だ。

「『HILLS Melrot 2022』は早摘みのメルローを使い、醸造に苦労しましたが、深みがあり満足のいく味わいになりました。2022年ヴィンテージは完売しましたが、『HILLS Melrot 2023』はまだ購入いただけます。2022年より酸味と渋みが少なく、香り高く飲みやすい味わいですよ」。

▶︎自社栽培のぶどうを使った赤ワインを醸造予定

2024年からは、自社栽培したぶどうを使って醸造する銘柄が増える予定だ。すでに自社ぶどうを使用していたピノ・グリとリースリングに加え、メルローやピノ・ノワールなどの赤ワイン用品種も、自社栽培のぶどうを増やしていく予定だ。

自社栽培のぶどうを使ったワインを造ることで、これまで栽培において取り組んできたカルシウム資材の使用や草生栽培の効果がどのくらい出ているのかを確認することもできるだろう。

「自社畑のメルローは、やや酸味が強く、豊かな香りに仕上がると予測しています。これまでのHASE de KODAWAAR WINERYの赤ワインよりも優しい風味になると思うので、楽しみにお待ちください」。

▶︎2023年のおすすめ銘柄

2023年ヴィンテージのワインで長谷川さんがおすすめしてくれたのは、「Chardonnay 2023」だ。2023年から醸造を開始したシャルドネは、アカシア材の樽で半年間熟成。樽香を抑えた仕上がりで、あっさりと飲みやすい味わいが特徴だ。

「よくある香りではつまらないので、アカシア樽を使用してみました。通常のオーク樽よりも軽めの風味なので、樽熟成したワインが苦手な人にも気に入っていただけると思います。ステンレスタンクで熟成したタイプのシャルドネも造ったので、飲み比べていただくのもよいかもしれません」。

狙い通りに仕上がったというアカシア樽熟成のシャルドネは、ステンレスタンク熟成のものよりもマイルドな味わいだ。刺身などの和食に合わせて味わってみてほしい。

また、メルローとピノ・ノワールを混醸した新銘柄の「HILLS Rouge Rouge Pino」は、しっかりとした飲み口と、後から広がる華やかな余韻が自慢だ。ぜひあわせて、手にとっていただきたい。

▶︎HASE de KODAWAAR WINERYのこれから

最後に尋ねたのは、HASE de KODAWAAR WINERYのこれからについて。ワイン造りだけではなく、イベント参加やコンクール出品に関してもお話いただいた。

まず、醸造に関しては、新しい品種を使ったワインにも挑戦していきたいと考えているという長谷川さん。

「長野県では高齢化などでぶどう栽培を辞める人も多く、ワイン原料が手に入りにくくなっているのが現状です。そのため、これまで扱っていなかった品種にもどんどんチャレンジしていきたいですね。今のところ、マスカット・ベリーAやヤマブドウなどを検討しています」。

自分が美味しいと感じて、さらに体にもよいワインを造りたいと考えているそうだ。今後新たにリリースされるであろう、これまでにはない味わいも心待ちにしたい。

さらに今後は、HASE de KODAWAAR WINERYのワインを、より多くの人に知ってもらうための取り組みも検討している。県内はもちろん、県外のイベントや試飲会にも積極的に参加する予定とのことなので、ワイン関連のイベントでHASE de KODAWAAR WINERYのワインに出会えるチャンスが増えるだろう。

「地域のワイナリーがいくつも集まるようなワインイベントに足を運んでいただくと、たくさんのワインが味わえて飲み比べができるのでおすすめですよ。松本市では毎年6〜7月に、『ワインサミット in 松本』を開催しており、私も参加しています。また、近隣の温泉地で実施されるイベントなどにもどんどん出かけて行き、観光PRに貢献したいと考えています」。

一方で、コンクールへの出品も継続していく予定だという長谷川さん。ワイン造りを学んだ塩尻ワイン大学の仲間のワインが、2024年の「日本ワインコンクール」で金賞を受賞したことに刺激を受けたという。新たな挑戦を続けたいと話してくれた長谷川さんの表情は輝いていた。

『まとめ』

2018年にぶどう栽培を開始し、2022年には自社の醸造所を完成させたHASE de KODAWAAR WINERY。2024年以降のヴィンテージでは、長谷川さんのこだわりでもある「自然を味方にする」という考え方に基づいた畑作りの効果がどれくらい出ているのかに期待が高まる。

「手間暇かけてしっかりと観察しているからこそ、生育段階でのちょっとした変化にもすぐに気付くことができます。2024年のぶどうは過去最高の収量が確保できると思いますので、より多くのワインをリリースできますよ。私自身、とても楽しみにしています」。

こだわりをしっかりと追求し、より美味しいワインを目指すHASE de KODAWAAR WINERY。楽しみながらぶどうを栽培し、ワインを造る長谷川さんが生み出す豊かな味わいに、これからも引き続き注目していきたい。


基本情報

名称HASE de KODAWAAR WINERY(ハセ・ド・コダワール・ワイナリー)
所在地〒399-0024
長野県松本市寿小赤665‐4
アクセス最寄り駅:篠ノ井線線 村井駅
最寄りインター:長野道塩尻北IC
マップ:https://hasedekodawaar.jp(ホームページ下部)
HPhttps://hasedekodawaar.jp/


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