『Domaine Beau』 ぶどうの個性を生かし、エレガントできれいな味のワインを造る

富山県南砺(なんと)市にある「Domaine Beau」は、2019年にぶどう栽培を始め、2020年に自社醸造をスタートしたワイナリーだ。創設者は、富山県高岡市で酒販店を経営していた中山安治さん。美味しいワインに出会って感動した経験から、ワイナリー設立を志したという。

Domaine Beauが自社畑で栽培しているのは、ワイン専用品種14種類。有機肥料のみを使用し、低農薬栽培をおこなっているのが特徴だ。ぶどうの個性が生きたエレガントできれいな味のワインを目指し、品種ごとの特性に合わせた丁寧な栽培管理を心がけている。

今回は、ワイン醸造担当の松倉一矢さんに、ワイナリー設立までの経緯とぶどう栽培とワイン醸造におけるこだわりについて詳しく伺った。富山で生まれるワインの魅力に迫っていこう。

『Domaine Beau 設立までの経緯と、ぶどう栽培の特徴』

まずは、Domaine Beauができるまでを振り返りたい。富山県高岡市で、輸入ワインや富山県の日本酒など、厳選した美味しいお酒を扱う酒販店を営んでいた中山さん。店を息子に譲ることを決めたとき、「これまでお世話になったお客様に恩返しがしたい」と、自分でワイナリーを設立することを考えた。

だが、高岡市にはぶどう栽培に適した場所を確保することができなかったため、自治体に相談したところ、南砺市立野原にある現在の自社畑を紹介されたのだ。

2017年にワイナリー運営会社である「トレボー株式会社」を設立し、2019年からぶどう栽培を始めた。2020年には醸造免許を取得して、自社醸造をスタート。トレボー株式会社は、「総合化事業(6次化)認定事業所」だ。

初めての自社醸造をおこなった2020年には、300㎏の自社ぶどうをワインにした。出来上がった200本ほどのワインは、お世話になった人たちに贈ったという。

その後は自社畑のぶどう以外にも、さまざまなエリアの買いぶどうを使用してワイン造りを進めてきたのだ。

▶︎Domaine Beauの自社畑 土壌の特徴

Domaine Beauの自社畑がある南砺市の立野原地区は、標高160~200m。「立野原台地」という小高い丘のようになっているエリアで、日本海側に向かって約3%傾斜している。

一帯は明治時代後期から終戦まで「立野原陸軍演習場」として使用され、終戦後に払い下げられた。約40年前に農地として造成された場所で、2,500㎡の区画が数十も連なっている。合計14haの自社畑は数年以上耕作放棄されていた区画が多いそうだ。

「6年かけて少しずつ植樹し、2024年現在では4万2,000本を栽培しています。表土の25~30㎝は数十年間農地として利用された色の濃い耕作層で、その下は茶色から白色かかった開析の進んだ粘土質です。最初の区画には暗渠(あんきょ)排水を設置しましたが、植え付けする区画をどんどん増やしたため、全てに対応することは難しかったですね。そのため、水はけをよくするための対策として、木材チップを堆肥化した「バーク堆肥」を『疎水(そすい)材』として撒いています」。

立野原台地は東西南の三方を1,000m級の山々に囲まれ、吹き下ろしの風が通り抜ける。特に雪解けを迎える時期には南西向きに吹く強風が激しく、被害が出ることも珍しくはない。だが、風が吹き抜けるおかげで湿気が溜まりにくく、病害虫の影響が軽減されているのだ。

▶︎自社畑周辺の気候と、ぶどう栽培における工夫

富山県南砺市は、南側の山を越えると岐阜県飛騨市、西側の山を越えると石川県金沢市に面しているという立地。

立野原地区は干し柿の産地で、周辺にはたくさんの柿の木が植えられている。その他、米やじゃがいも、さつまいもを栽培している農家も多い。

海からは内陸に35km程度入った場所にあり、日本海側に多い高温多湿な気候だ。また標高が160~200mと低いため、夜温や最低気温も高いため寒暖の差が少なく、ぶどうの酸が落ちやすい傾向がある。

年間降水量は平均1400mm程度だが、2023年は例年よりも少ない1200mmだったため、病果が少なく健全なぶどうが収穫できた。また、気温の上昇によって糖度はしっかりと上がったものの、酸の低下が顕著だった。そのため2024年は、糖度ではなく酸の数値を基準にして収穫タイミングを決定する予定だ。

「毎年学びながら、よりよいぶどう栽培をおこなう工夫をしています。得られた知見はメンバーと共有し、経験を重ねているところです。雨対策としては、グレープゾーンの上部にビニールをかけるグレープガードを設置しています。現在は白ワイン用ぶどうを中心におこなっていますが、雨対策は今後も実施規模の拡大が必要ですね」。

冷涼なイメージがある富山だが、立野原は夜温が下がりにくいのが特徴だ。夏季には夜温が25〜26℃ということだから、都心部と大差ないのだ。朝8時にはすでに30℃を超えるため、日中に畑で長時間の作業をおこなうのは負担が大きい。そこで、Domaine Beauの社員とアルバイトメンバーは、6月~10月半ばまで朝6時には勤務をスタートして午後3時には仕事を終える。日の出と共に起きる生活をおこない、ぶどうの成長を見守っているのだ。

▶︎栽培している品種

最初に植えた1万本の樹が6年目を迎えた2024年、Domaine Beauの自社畑では、収量が十分に確保できるようになった。2024年の春にも新たに植栽した苗もあるので、これからも収量は右肩上がりだ。

Domaine Beauが栽培している品種は、全部で14品種。赤ワイン用品種と白ワイン用品種に分けて、それぞれ紹介しよう。

赤ワイン用品種は以下。

  • メルロー
  • カベルネ・ソーヴィニヨン
  • ピノ・ノワール
  • シラー
  • カベルネ・フラン
  • プティ・ヴェルド
  • タナ

白ワイン用品種は以下。

  • シャルドネ
  • ソーヴィニヨン・ブラン
  • リースリング
  • ゲヴュルツトラミネール
  • ヴィオニエ
  • ピノ・グリ
  • シュナン・ブラン

2024年に植えたばかりのシュナン・ブランも含め、栽培しているのはほとんどがフランス原産の品種。Domaine Beauの品種選びは、代表の中山さんがフランスワインを飲み慣れてることに由来している。

もともと酒販店を経営していたことから、自らフランスなどに買い付けに行くことが多かった中山さんは、ぶどうがテロワールの違う日本、そして富山県でワインになった時、どんな表情を見せるてくれるのか楽しみにたくさんの品種を育てている。また、エレガントできれいな味わいのピュアなワインを造りたいという思いが強かったのだ。飲み慣れたフランスワインが日本の食事ともよく合うことをイメージできていたため、品種を選ぶ際の基準としたという。

▶︎ぶどうの個性を引き出す栽培管理

Domaine Beauのぶどうは、全ての品種において垣根栽培を採用している。畝(うね)の間隔は2.2~2.5mに設定しており、樹間は1mほど。仕立ては樹勢の強いソービニヨン・ブラン、シラーでは芽とびが多くなるのでコルドンを採用。その他の品種では作業性の面も踏まえて、コルドンとギヨのハイブリットが多い。

自社畑で手がけている品種は、実に14種類もある。そのため、各品種の個性を生かせるよう、剪定はもちろん芽かきや誘引、摘芯などはタイミングをしっかりと検討してそれぞれ適切な時期や方法で実施しているのだ。

さらに2024年からは、果房を未熟な状態で間引いて収量制限をおこなう「グリーン・ハーベスト」を導入。特にシャルドネとメルローにおいて、より品質が高い果実を収穫できるように工夫を始めた。

「全ては、よいワインを造るためのこだわりと工夫です。ぶどうの個性を引き出す管理への試行錯誤は、これからも継続していきます。今はまだ樹が若いので、赤ワイン用品種が本領を発揮するにはもう少し時間が必要でしょう。一方で、白ワイン用品種の方は、すでにソーヴィニヨン・ブランやゲヴュルツトラミネールのポテンシャルの高さを感じています」。

『Domaine Beauのワイン醸造』

続いては、Domaine Beauのワイン醸造に話題を移して深掘りしていこう。Domaine Beauが目指すのは、品種ごとの個性を最大限に生かしたクリーンでピュアなワイン。また、香りと味わいのバランスがよくエレガントで、余韻がしっかりとあるワインを理想としている。

ワイン造りにおいて重視しているのは、衛生管理や酸化のリスクを回避することだ。さらに、発酵温度の管理を徹底することで、きれいな味わいを実現している。

醸造工程における工夫について詳しく見ていきたい。

▶︎醸造担当 松倉さんの経歴

ここでまず、ワイン醸造担当として活躍している松倉さんの経歴を紹介しておこう。松倉さんは学生時代、東京バイオテクノロジー専門学校で食品や微生物などについて学んだ。

卒業後は日本酒を造りたいと考えて、地元である富山県富山市の酒蔵で蔵人として日本酒造りに勤しんだ。10年ほど勤務した後は異なる業種に従事。そんな時、酒蔵時代に親交があったDomaine Beau代表の中山さんから、ワイナリー設立を考えているので協力してくれないかと打診を受けたのだ。2017年頃のことだった。

中山さんのスローガンである「情熱は伝播する」という熱い思いに賛同してワイナリー設立プロジェクトに関わることになった松倉さんは、2018年の夏に山梨県北杜市明野地区での圃場研修に参加。また、仕込みの時期には、山梨県甲州市勝沼町にあるワイナリー「丸藤葡萄酒工業」で醸造研修を受けた。

そして、2019年には富山に戻って、ワイナリー建設に尽力。工場の設計段階から関わった際、レイアウトなどを決める際には、酒蔵時代の経験がとても役立ったそうだ。

▶︎ワイン醸造における工夫

きれいな味わいのワインを実現するため、Domaine Beauでは収穫した全てのぶどうを冷蔵保存してから仕込む。2℃に設定した冷蔵庫で一晩寝かせて、しっかりと冷えた状態で仕込みに取り掛かるのだ。

「冷蔵庫で保管することで、収穫直後の新鮮な状態を維持できるのです。原料ぶどうを常温で仕込むと、野生酵母で自然に発酵が始まってしまうため、一定期間、醗酵が起きない低温状態に置き、酸化や微生物汚染を防いでいるのです」。

また、病果をしっかりと取り除いた状態の果実のみを利用することにも気を配っている。まずは畑で収穫する際に病果を落とし、さらに醸造所で選果も徹底。厳しいチェックを実施しているという。

Domaine Beauが目指すワイン造りは、健全なぶどうを栽培し、きれいな状態で仕込むことからすでに始まっているのだ。

▶︎「コールド・マセレーション」のメリット

収穫したぶどうをいったん冷蔵することは、醸造工程でもよい効果が得られる。Domaine Beauでは、選果したぶどうを除梗破砕してタンクに入れた状態で冷却する「コールド・マセレーション」を実施しているためだ。酵母を添加して発酵が始まる前に、発酵ができない低温状態を維持することで、色素やタンニンをしっかりと抽出できる。

「赤ワイン用ぶどうは、基本的に全ての仕込みで3日間ほどコールド・マセレーションをしています。冷却を停止してから1〜2日置いてタンク内の温度が上がって来たら、乾燥酵母を添加して発酵を開始するタイミングです」。

また、白ワインの仕込みでは、除梗破砕後にプレス機内で果汁と果皮を接触させアロマ成分の前駆体を抽出する「スキン・コンタクト」も実施。スキン・コンタクトの時間は品種によって異なるが、品種ごとの特性をより濃厚に表現するために効果がある工程だという。

さらに、原料ブドウを冷却することはその後の工程においてもメリットがある。白ワインを醸造する際には、ぶどうの固形分や繊維質、比重の重たいタンパク質等をタンクの底に沈殿させて清澄させる「デブルバージュ」という工程がある。そのため、なるべく低温でおこなうことが、沈殿効率のアップや酵母添加前の原料由来の微生物の増殖を防ぐためにたいへん有効なのだ。

▶︎目指す品質を実現するために

コールド・マセレーションを採用している理由を、さらに詳しく尋ねてみた。

発酵温度と発酵スピードは比例関係である。立野原での主要な赤ワイン品種「メルロー」は、9月中旬から本格的な収穫・仕込みをおこなうが、外気はまだ30℃以上。温度管理した室内でも日中は23℃位になる。

チラー設備等で発酵温度の管理をしない場合、1週間~10日ほどでアルコール発酵が終了。その後は、色素などを抽出するための「醸(かも)し」期間を置いてから圧搾工程に入る。だが、醸し期間を長くおくと、酵母以外の微生物が活動し始める危険性があるそうだ。

「熟成前の段階での汚染を避けるためには、糖がなくなったらすぐに絞って、リンゴ酸が乳酸に変わる反応である『マロラクティック発酵』に入るのが望ましいのです。しかし、色素やタンニンをしっかりと抽出するためには、十分に漬け置く時間が必要です。そこで、発酵後ではなく、発酵前にコールド・マセレーションをすることで、トータルの浸漬時間を長くしています」。

現在のスタイルに行き着くまでには、松倉さんが他のワイナリーから学んだり、きれいなワインを造るためにはどうすればよいのかを調べたりと、さまざまな紆余曲折があった。

松倉さんが以前手がけていた日本酒は、ワインとは違い、毎年誤差が出ないように同じ味と品質を目指して造るお酒だ。また、日本酒は原料の米を削って雑味をなくし、麹(こうじ)を使ってでんぷんを糖化するため、工程がワインとは異なる。ただし、温度管理については、日本酒造りで学んだ経験がワイン造りにも大きく役立っていることを実感していると話してくれた。

▶︎「立野原 プリムール 2023」

Domaine Beauからリリース済みのワインをいくつか紹介しておこう。まず、「立野原 プリムール 2023」は、シャルドネに日本酒用の酵母である「清酒酵母」を使用した銘柄だ。「サクラアワード」で銀賞を受賞した「立野原 プリムール 2023」は、2023年11月に新酒としてリリースされた。日本酒造りに従事していた松倉さんのルーツが感じられる、興味深いワインだ。

「自社栽培のシャルドネを清酒酵母を使って醸造しました。前職の清酒醸造の際、低温管理した大吟醸のアロマにマスカット香を感じたことがあり、ニュートラルな品種と言われるシャルドネでマスカットの香りのするワインを目指しました。日本酒のような風味もほのかに感じられる仕上がりとなっています」。

「立野原 プリムール 2023」に使用しているシャルドネは、Domaine Beauが自社畑で栽培している白ワイン用品種の中でもっとも栽培面積が広く、2024年度は10tほどの収穫を見込んでいる。ステンレスタンクでの熟成や樽熟成、日本酒酵母を使ったものなどバラエティー豊かなラインナップを造る予定だということなので、いくつかの銘柄を購入して飲み比べてみるもの面白いかもしれない。

▶︎「立野原 ソーヴィニヨン・ブラン 2023」

ソーヴィニヨン・ブランのワイン「立野原ソーヴィニヨン ブラン 2023」も、Domaine Beauの自信作だ。

「『立野原ソーヴィニヨン ブラン 2023』は、糖度が22~23℃で果皮が黄色くなるまで完熟させたぶどうを使っています。ステンレスタンクで熟成させており、クリアな味わいが魅力ですよ。グアバやパイナップル、柑橘などの香りが特徴で、富山県の特産品である白エビを使ったかき揚げによく合います」。

「立野原ソーヴィニヨン ブラン 2023」は、キリっとした酸が際立つ味わいだ。淡白な味の食材にマッチする仕上がりとなっているので、富山湾で水揚げされた新鮮なホタルイカにも合わせてみたい。

Domaine Beauのワイン造りでは、品種ごとの個性を表現するため、単一品種での仕込みを基本としている。自社栽培のぶどうはもちろん、農家から購入したぶどうについても単一で仕込み、各農家さんの名前や圃場のマップなどの情報をエチケットのデザインに入れているそうだ。Domaine Beauのワインのエチケットデザインは、代表自身がイラスト化した思い入れのある作品でもある。ボトルを手にした際には、ぜひエチケットのデザインにも注目してみてほしい。

栽培農家への感謝の気持ちを込めた取り組みのおかげでアイテム数が次第に増えて、選ぶ楽しみがあるのもDomaine Beauのワインの魅力だ。2023年ヴィンテージの銘柄も順次リリースしているため、オンラインショップをチェックしてみるのがおすすめだ。

『まとめ』

松倉さんにとって、Domaine Beauでぶどう栽培とワイン造りに携わる日々は、面白いことだらけ。いつも新しい発見があるのはもちろん、年ごと品種ごとでワインの味わいが変わってくる点も、ワイン造りの興味深いところだという。Domaine Beauのワインは、ワイン造りを楽しんでいる造り手の思いが大いに詰まっている、ワクワクするような味わいだ。

「ワインの仕上がりは、ぶどうの出来栄えに大きく左右されると感じています。よく『ワインはぶどうが7割』だと言われますが、その通りですね。どんなワインができるかは、ぶどうの品質でほぼ決まります」。

自社畑の樹はこれからさらに成長していくため、さらに多くのワインを造ることが可能となる。今後は、直近で植樹したシュナン・ブランを使ったやや甘口のスパークリングワインを造ることも検討しているということなので、楽しみにしたい。

毎年、収穫後には収穫祭イベントを実施しているため、Domaine Beauのワインが気になったら、ぜひ現地に足を運んで造り手の思いを感じながら味わってみたいものだ。

基本情報

名称Domaine Beau
所在地〒939-1755
富山県南砺市立野原西1197
アクセスhttps://tresbeau.co.jp/access/
HPhttps://tresbeau.co.jp/

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