広島県三次市にある「Vinoble Vineyard & Winery」。
2021年に誕生した新しいワイナリーだが、実力は既に折り紙付きだ。代表取締役の横町崇さんは、数々のワイナリーで栽培と醸造を担当してきた経験者。そのうえ、「ぶどう畑の棚作り」「醸造コンサルティング」「苗木生産」など、ワイン回りのあらゆる業務をこなす。まさしくワイン生産のプロフェッショナルなのだ。
ワイン生産に関わる各工程に精通した横町さんは、なぜこのタイミングでワイナリーを設立しようと考えたのか?またどういった思いでどんなワインを醸造しているのか?
気になる疑問をぶつけると、興味深いお話がたくさん飛び出した。順を追って紹介していきたい。
『偶然が生み出したワインへの道 がむしゃらに歩みワイナリー立ち上げへ』
Vinoble Vineyard & Wineryの代表取締役である横町さんは、ワイナリーがある広島県三次市の出身だ。
横町さんは「ワイン造り全般」のプロフェッショナル。「醸造」だけでなく、苗木生産や棚造りまでの知識と経験がある人は、日本全国をみても横町さん以外にはなかなか見当たらない。
経歴からしてもともとワインに興味があったのだろうと予想していたのだが、実際はやや異なる。実は横町さんは、もともと東京でデザイン関係の仕事をしていたのだ。
どんな経緯があって、ワインに関わる仕事にたずさわることになったのか。横町さんの経歴をたどりながら、Vinoble Vineyard & Winery設立までを追ってみよう。
▶デザイン業界からワイン業界へ
東京農業大学で醸造学科を出た横町さん。陸上競技の長距離走選手で、大学へは「運動選手学校推薦型選抜」試験で進学した。入学することになった醸造学科は、偶然の進学先。そのため、将来自分がワイン醸造に携わることになるとは考えていなかった。
「夢はデザインに携わることでした。学生時代はデザイン関連の専門学校にも通い、ダブルスクールをして学び、必死にデザインを学びました」。
横町さんの努力は実り、卒業後には東京で印刷会社に就職。雑誌デザインの業務に就いた。連日、残業が深夜まで及ぶ激務だったが、なんとか食らいつきながら仕事をこなす日々だった。
デザイン業界で働くことの過酷な現実と向き合うなか、仕事に就いて2年ほどたった頃のこと。地元の広島県三次市から突然声がかかる。依頼されたのは、「広島三次ワイナリーで醸造家になってほしい」という内容だった。
将来について漠然とした悩みを抱きはじめた時期だったこともあり、横町さんは地元に帰還することを決意。地元ワイナリーに就職することになったのだ。横町さんとワインとの関わりは、このときスタートすることになる。
▶醸造家として経験を積む日々 辞令をきっかけに独立へ
2000年から2008年まで、「広島三次ワイナリー」で醸造家として勤務した横町さん。新たなるステージを求め、山梨県の「勝沼醸造」に転職した。
勝沼醸造は当時、岡山県新見市哲多町に2haの自社畑を保有していた。横町さんは、哲多町の自社畑の栽培担当者として5年間勤務した。栽培シーズンは岡山でぶどうの世話に明け暮れ、秋は山梨に出向きワインを仕込んだ。
運命が変わったのは2013年。勝沼醸造が哲多町の畑を手放すことになったのだ。「会社からは山梨に来るよういわれましたが、既に地元の三次市に家を建てていたのです。結婚して子供もいたため、引っ越しは家族に負担をかけてしまうと思いました」。
山梨で仕事を続けるか、会社を辞めて地元に残るか。悩みに悩んだ末、地元に残ることにした。会社を辞めた横町さんは、独立を決意したのだった。
しかし独立への道は容易ではなかった。
「独立といっても、最初は『自分のワイナリーを造る』という構想はありませんでした。運送業のアルバイトなどもしながら、経験のあるぶどう栽培でなんとか食いつなぐ日々でした」。
いち会社員という立場だったことから、手元の資金は多いとはいえない。自分のワイナリーなど、夢物語だった。横町さんは生活のため、依頼されたワイン造りに関する仕事をがむしゃらにこなした。だが当時たずさわったさまざまな仕事の経験と実績が、現在経営する幅広い事業分野につながることになるのだ。
▶苗木生産にコンサルティング ワインに関するあらゆることを経験
独立後の横町さんが、どんな仕事を経験したのかについて紹介したい。まずは、ぶどう苗木の生産業だ。
苗木生産は、勝沼醸造の関連会社である苗木生産会社から依頼されて、2013年からスタートした。現在横町さんは、同社の取締役を兼務している。
次におこなったのが、ワイナリー運営のコンサルティング事業。日本でワイナリーブームが起こりつつあった2014年から開始した事業だ。
2000年代前半から始まった「ワイン特区」の制度により、個人によるワイナリー経営が増加。横町さんが独立した2013年頃は、横町さんの周囲でも「ワイナリーを造りたい」という声が増えていた。ワイナリーを造るには、「酒造免許」を取得するハードルがある。そこでワイン醸造の経験者である横町さんに、指導を依頼する声がかかるようになる。
「個人で新規にワイナリーを立ち上げる人の多くは、元会社員です。ゼロからのスタートで酒造免許を取得するのは難しいのが現実。ワイナリー設立に関するコンサルディング事業ははニーズがありました」。
ワイナリーコンサルティング事業が軌道にのり、日本全国から依頼が殺到した。多いときには、5件並行して指導に当たることもあった。なお2022年現在も、横町さんはワイナリー経営と並行してコンサルティング事業に尽力している。
苗木生産、コンサルティングに続き横町さんが手がけたのは、ぶどう棚の建設業。自分の畑にぶどう棚を設置するため、ぶどう棚を造る広島の建設会社に弟子入りして技術を覚えたのがきっかけだ。
畑作りとぶどう栽培、そしてワイン醸造。いつしか横町さんは「ワインを造るうえで必要なすべての工程を熟知した」稀有な存在になっていた。
▶コツコツと増やした自分の畑 ついに誕生した『Vinoble Vineyard & Winery』
苗木生産、コンサルティングと休む暇なく働いた横町さん。忙しい身ではあったが、自分の畑のぶどう栽培とワイン醸造もこなした。
横町さんが自分の畑を持ったきっかけについても紹介しよう。横町さんが自分のぶどう畑を取得したのは、広島三次ワイナリーで働いていたころのことだ。広島三次ワイナリーでは、契約農家のぶどうを利用してワイン造りをしていた。
ある日横町さんは醸造家として、契約農家に収量制限を依頼した。だが、年齢の若さや農業未経験だったことが理由だったのだろう。横町さんの要望は、契約農家になかなか聞き入れてもらえなかったのだ。「本当に悔しかったですね。契約農家さんと対等に話をするには、自分でもぶどうを作って経験を積みあげるしかないと思いました」。
横町さんは、両親の土地を借りて自分のぶどう畑を開墾。最初の植栽は2001年、横町さんが好きな「ピノ・ノワール」だった。徐々に畑の面積を増やし、現在の自社畑の総面積は2haに及ぶ。
独立後にすぐ委託醸造で自社ブランドのワインができたのは、自分で畑を作っていた下地があったからこそだ。2013年にスタートした自社ブランドの委託醸造ワインは、年間醸造量300本からスタートした。
「最初は、ずっと委託醸造で自分のワイン造りをしていこうと思っていました。しかし徐々に生産量が増えるにつれ、おぼろげながらも『自分のワイナリーを立ち上げる』という目標が生まれてきたのです」。
委託醸造で造ったワインは、国内外から評価を受けた。評判は口コミで広がり、仕事の幅が広がった。ワイナリー立ち上げに向けた大きなステップになったのだ。
だが、ワイナリー立ち上げを具体的に検討しはじめると、数々の問題が立ちはだかった。一番の問題は、ワイナリーの建設場所をどうするかということだ。
「やるからには、お客さんを呼び込めるワイナリーにしたいと思っていました。訪問のしやすさには立地が重要。場所の妥協したくなかったのです」。
どこにワイナリーを建設すべきか。土地を厳選しているところで幸運が舞い込む。2017年、横町さんの義父が高速道路のインターチェンジ側に約2haの耕作放棄地を見つけてきたのだ。アクセス良好で訪問客が来やすい立地。まさしくワイナリー建設に適した土地だった。
土地は決まったが、さらなる問題があった。ワイナリーの建設費用の問題だ。
「完全に個人でワイナリーを始めるには、補助金を利用しないと資金的な問題がクリアできません。そこで農林水産省の6次産業交付金を利用しようと考えました」。
だが、6次産業に関する交付金の予算は縮小傾向にある。行政を含めた周囲の人々は、「申請が通る望みはほとんどないから、あきらめるべきでは」と口をそろえた。
結果はどうなったのか?なんと見事、補助金を勝ち取ったのだ。
「『ずっとワイン産業に携わっていた人間が、自分のワイナリーを造る』という点が評価されたようです」。
横町さんがコツコツと積み上げてきた経験と、研磨してきた技術力が功を奏したのだ。
2020年12月、満を持してワイナリー建設に着工。2021年6月にVinoble Vineyard & Wineryが完成した。7月に醸造免許を取得し、初ヴィンテージは2021年。長い年月ワイン産業に携わってきた横町さんだが、ワイナリーの歴史は今まさに始まったばかり。Vinoble Vineyard & Winery今後の活躍が、大いに楽しみだ。
『知識と経験を生かしたぶどう栽培』
続いては、Vinoble Vineyard & Wineryで育てるぶどうについてみていきたい。
Vinoble Vineyard & Wineryならではの栽培方法やこだわり、横町さんがぶどう栽培において大切にしていることとは何か?ひとつひとつ掘り下げてみよう。
▶Vinoble Vineyard & Wineryのぶどう品種 苗屋ならではの多彩なラインナップ
Vinoble Vineyard & Wineryで育てるぶどう品種は多岐にわたる。横町さんは兼務している苗木生産の業務もおこなっているからだ。育てるすべての品種を紹介することは難しいため、今回はVinoble Vineyard & Wineryでワイン造りに使用されている品種を中心に紹介していく。
まずは赤ワイン用ぶどう品種からだ。栽培量の多い品種は以下の6種類。
- ピノ・ノワール
- カベルネ・ソーヴィニヨン
- カベルネ・フラン
- メルロー
- プティ・ヴェルド
- バルベーラ
最も栽培量が多いのは、横町さんが好きだというピノ・ノワール。なんと同じピノ・ノワールの中でも、10種類もの異なる「クローン苗」を栽培している。
クローン苗とは、味や性質の違いを持った苗をそれぞれ「接ぎ木」で増やしたもの。ぶどうはたとえ同じ品種であっても、苗によって味や性質に個性が出る。個性が好ましい苗を選抜して増やしたものが、クローン苗なのだ。
続いて白ワイン用ぶどう品種を見ていこう。中心的に栽培している白ワイン用ぶどう品種は5種類。以下の品種だ。
- シャルドネ
- ソーヴィニヨン・ブラン
- セミヨン
- ゲヴュルツトラミネール
- ピノ・グリ
このほかにも「ジンファンデル」や「ミュスカ」「シュナン・ブラン」「ムニエ」など、栽培品種は幅広い。栽培量が少ないものだと、3〜5本ずつといったごくごく少ない単位で育てているものもある。
苗木生産事業では、日本においてまだ広まっていない品種を試験栽培しているからだ。2021年からは、農林水産省の認可を受けて隔離栽培施設を開設。より多様なぶどう品種を栽培するようになった。
多種多様なぶどうを育てながら、品種の個性を見極めてワイン造りに生かす横町さん。横町さんの作る苗は、Vinoble Vineyard & Wineryだけでなく日本全国のワイナリーで植樹される。まさに日本のワイナリーの未来を育てているといっても過言ではない。
▶棚仕立てでぶどうを育てる 土地を最大限生かした栽培方法
Vinoble Vineyard & Wineryの圃場では棚仕立てを採用している。「西日本は雨が多いため、品質を考えると棚栽培が適しているのです」。
ヨーロッパで主流の垣根栽培と比較すると、棚栽培は高温多湿に強い栽培方式だ。ぶどうが地表からどの程度の位置に実るかで病気になりやすさが変わる。垣根栽培の場合、雨が降ると雨水の跳ね返りがぶどうに付着するリスクが高いのだ。また、実が水に濡れることは、味の低下にもつながる。一方の棚栽培は、地表から上がってくる湿度に影響されにくいことも利点だ。
また棚栽培を利用する理由には「限られた土地の有効活用」という側面もある。西日本のぶどう栽培用地は、元田んぼだった場所がほとんど。限られた土地を最大限活用しないと、生産量を安定させるのが難しい。棚栽培ではぶどうの房が天面に広がっているため、地表面が自由に移動できるのだ。
広島ならではのぶどう栽培を追求し、土地を有効活用することを考えた結果たどり着いたのが「棚栽培」なのだ。
一方で、棚栽培にはデメリットもある。それは「初期費用の高さ」と「ぶどうの味の濃さを出しづらいこと」だ。Vinoble Vineyard & Wineryでは、これらのデメリットを解消するための工夫をしている。
まず初期費用の高さは、横町さん自身の力で棚を建設することで解消。ぶどうの味の濃さを出すために行っているのが「密植栽培」だ。密植栽培とは、その名の通り苗を密にして植えていくこと。
「密植栽培すると隣の苗との距離が近くなるため、根が水分を吸い上げるときにストレスがかかります。適度なストレスがかかることで、味が濃縮するのです」。
味の品質を向上させるとともに、収量を安定させることも両立させているのが特徴だ。一文字短梢と呼ばれる剪定方法で枝を伸ばし、収量の向上につとめる。
▶天候による絶えない苦労 ぶどう栽培の難しさ
Vinoble Vineyard & Wineryのぶどう栽培で、苦労したことや困難だったことについて伺った。横町さんの答えはシンプルかつ切実だった。「苦労することは、やはり天候ですね。2021年シーズンは特に大変でした。降雨量が例年にないくらいの多さで、日照不足に悩まされました」。
大変だったという2021年を振り返る。まず、8月の雨量が凄まじく、500〜600mmを記録。お盆前から台風が襲来するなど、ぶどうにとって大切な時期がことごとく悪天候に重なった。収穫期に雨が多くなると、ぶどうの病気が増える。実際に収量は2020年と比較して1t以上減ったそうだ。Vinoble Vineyard & Wineryの収穫作業は毎年ボランティアのメンバーが手伝いに来る。5〜6年参加しているメンバーも驚くほど、今までになく厳しい状態だった。
「雨除けを設置しないと厳しい時代になっているのかもしれないですね。うちはすべてのぶどうにレインカットをしているので雨には濡れませんが、それでも病気が出ました。今後の天候も見ながら、栽培の工夫を続けていく必要がありそうです」。
悪天候がもたらしたのは病気だけではない。日照不足が原因で、糖度が伸び悩んだ点にも苦労した。比較的温暖な気候の三次市では、例年ぶどうの糖度は上がりやすく、むしろ酸が減少しがちだった。しかし今年は真逆。酸が豊富なぶどうができ、糖度がなかなか上がらなかったのだ。「ワイン造りにおいても、今までの造りが通用しなかったのが難しかったですね」。
地球環境の変化によって、天候が変動していくことは避けられない。少しでもぶどうを環境に適応させるために、Vinoble Vineyard & Wineryでは土作りを重視。ぶどう本来の力で生育できる土壌環境を整えていく。
Vinoble Vineyard & Wineryのぶどう畑では、除草剤や化学肥料は使用していない。開園当初は土壌分析を行い、結果に基づいて施肥を行っていた。しかし現在は、土中の微生物を増やすことが重要だと考え、微生物のエサとなる堆肥や腐葉土などの有機質、また水はけをよくするための資材を投入するのみだ。「三次は粘土質土壌です。水はけを改善してぶどうの根を張りやすくすれば、ぶどうは土の養分を自力で吸収してくれる。ぶどうの力に任せるのが最良だと考えています」。
ぶどうがたくましく成長すれば、気候の変動にも左右されづらくなる。横町さんは、ぶどう本来の力を信じて栽培をおこなっている。ぶどうの育成をしっかりとサポートをすることで、天候上の困難に立ち向かうのだ。
「今後も新しい気候にあった栽培方法の模索は続きます。次のシーズンがよい年になるようにと願っています」。
人にはどうすることもできない「天候」。しかしぶどうを育てるのもまた、天候の力だ。Vinoble Vineyard & Wineryは環境を受け入れ、土地に合う栽培方法を選ぶことで、高品質なぶどうを栽培する。よりよいワイン造りのため、常に最善を考え続けているのだ。
『Vinoble Vineyard & Wineryのワイン 品種の個性を表現する』
続いて紹介するのはVinoble Vineyard & Wineryのワインについてだ。横町さんが目指すワインには迷いがない。どんなワインを醸造しているのか、そして醸造のこだわりとは何か。順番にみていきたい。
▶「濁らないワイン」が特徴のVinoble Vineyard & Winery
「うちのワインの特徴は『濁らない』こと。ある意味世間の流行りとは真逆かもしれません」。
昨今流行しているワインには「濁り」が見られるものも多い。しかし横町さんのワインは、しっかりと濁りを除去したうえで瓶詰めされている。
横町さんが濁らないワインを造るのには、大きな理由がある。
「品種の個性をくっきりと強調させたい」という狙いがあるからだ。
「濁りによって、品種個性以外の味や香りを出したくないのです。伝えたい香りにピントを合わせるイメージで、濁りを取っています」。
濁りを除去するために、酒石酸の安定化や蛋白混濁(熱や保存環境でタンパク質が固形化する現象)が起こらないよう処理をおこなっている。衛生管理などの基本的な作業は丁寧に実施し、流通時に異物などが発生しないよう細心の注意をはらう。
▶Vinoble Vineyard & Wineryのワイン銘柄 ヴィンテージによって変わるラインナップ
Vinoble Vineyard & Wineryのワイン銘柄は現在、計6種類。
委託醸造のワインは以下のラインナップだ。
- Pinot Noir(ピノ・ノワールの赤ワイン)
- Vinoble Rouge Type BDX(カベルネ・フランとメルローをブレンドした赤ワイン)※2022年1月現在 完売
- Chardonnay Barrel Fermentation(シャルドネの白ワイン)
続く自社醸造は以下の通り。
- Semillon Sparkling(セミヨンによる瓶内二次発酵のスパークリングワイン)
- Muscat Bailey A Rosé(買いぶどうのマスカット・ベーリーAによるロゼワイン)
- Rosalio Bianco(買いぶどうのロザリオビアンコによる白ワイン)
また近日中に、ソーヴィニヨン・ブランの白ワインがリリースされる予定だ。
おすすめの銘柄について伺った。「2021年は、スパークリングが素晴らしい出来です。あえて早摘みして酸を残すことで、ぶどう本来の特徴を表現しました」。
Vinoble Vineyard & Wineryのスパークリングワインは、こだわりの瓶内二次発酵だ。セミヨンならではのコクに酵母の旨味が合わさり、飲みごたえのあるスパークリングワインに仕上がっている。
Vinoble Vineyard & Wineryでは、セミヨンを「貴腐ワイン」か「スパークリングワイン」のどちらかに醸す。今年は「糖より酸」が豊かな年だったのですべてのセミヨンをスパークリングワインとして仕込んだ。次年度以降は、セミヨンの「貴腐ワイン」も楽しみに待ちたい。
なお紹介した銘柄は、Vinoble Vineyard & Winery公式オンラインショップからも購入できる。気になる方は、ぜひチェックしてみてほしい。特に2021年らしさを味わえるスパークリングワインに注目だ。
『三次でしかできないワイン造りを目指して』
生活のためのワイン造りから、より高品質なワイン造りへ。自身の考えや行動がワイン産業の未来を見据えた方向へとシフトしつつあると話す横町さん。
「自分が広島でワインを造る意味は、広島ならではの魅力を表現すること。そして三次だからこそできる『貴腐ワイン』を造ることだと思っています」横町さんの答えは淀みない。
Vinoble Vineyard & Wineryの目標と、今後取り組んでいきたいことについて話を伺った。
▶広島県の気候的魅力を表現
広島の魅力は、場所によって異なる多彩な気候だ。広島北部では積雪2mに達することもあるほどで、りんごの産地が多い。対する南部は瀬戸内気候。穏やかな陽気が続く地域で、レモンなどの柑橘類がよく育つ。同じ県内でも気候が大きく異なるのが広島の個性だ。
「北ではリースリングなどのドイツ系品種、南ではアルバリーニョなどの海洋性気候に合う品種を栽培してみたいです。広島県全体の魅力を、ワインやぶどうで表現したいですね」。
広島ならではの魅力をワインで表現することが、ワインの未来や地域の活性化に役立つはず。横町さんはこれまでの経験を生かし、日本ワインの未来をよりよくする方法を考える。
▶三次の気候を生かした「貴腐ワイン」の醸造
Vinoble Vineyard & Wineryの将来を語るうえで欠かせないキーワードが「貴腐ワイン」だ。
貴腐ワインとは、貴腐菌の性質を利用して造る極甘口ワインのこと。はちみつのようなコクとドライフルーツのような香りを持つワインだ。
「貴腐ワインは生産するための気象条件が厳しく、国内ではあまり造られていません。しかし三次は貴腐ワインができる環境がそろう特殊な環境なのです」。
貴腐ワインができる条件とは、いったいどのようなものなのだろうか?貴腐菌は、灰色カビ病の原因となる細菌だ。成熟したぶどうの果皮に貴腐菌が付き、特殊な環境下に置かれた場合にのみ、貴腐ワインの醸造が可能となる。
貴腐ワインができる気候条件とは、ぶどう成熟期の朝に霧が発生し、昼にはカラッと晴れる日が続くこと。霧が媒介してぶどうに付着した貴腐菌は、果実の糖分を凝縮させる。さらに、昼間に晴れることで適度に実が乾燥し、実が健全に保たれる。霧による貴腐菌発生と乾燥を繰り返すことでどんどん糖分が凝縮され、コクと旨味のある甘口ワインができる下地が整うのだ。
世界でも貴腐ワインの産地は限られており、条件の難しさを物語る。三次は盆地なので、朝霧が多く昼には放射熱で乾燥する土地。まさしく貴腐ワインに最適な気候条件を備えているのだ。
「貴腐ワインは栽培と技術、気候の3拍子がそろわないとできないワインです。だからこそ、この土地でしかできないワインとして、こだわりを持ちたいのです」。
貴腐ワインは収穫時期を引き伸ばして凝縮させていくため、栽培のリスクも高い。また実が凝縮する分、できるワインは通常の9分の1ほどと大変少量だ。さまざまなリスクを負いながら造る必要があるため、価格は必然的に高くなってしまう。しかし「三次でしか造れないワイン」の価値ははかりしれない。貴腐ワインが安定的に醸造できれば、日本や世界で認められる存在になることだろう。
『まとめ』
Vinoble Vineyard & Wineryは、広島県三次市ならではの土地と気候の個性を十分に生かしたぶどう栽培をおこなっている。高品質なぶどうから生まれるワインは、品種の個性、横町さんの信念を色濃く映しているのだ。
ぶどう栽培から畑作り、ワイン醸造までワインに関するあらゆる工程を知り尽くした横町さん。ワイン哲学には、迷いがなく明快だ。挑戦を続け、立ち止まらずワイン造りの道を歩き続ける横町さん。
困難な道を突き進む姿をみれば、誰もが応援したくなるだろう。ぜひワイナリーを実際に訪れて、Vinoble Vineyard & Wineryの魅力をじゅうぶんに感じてみてほしい。
基本情報
名称 | Vinoble Vineyard & Winery |
所在地 | 〒728-0016 広島県三次市四拾貫町1371 |
アクセス | 車 三次東ICより車で5分 電車 下和知駅より車で6分 |
HP | https://vinoble-vineyard.jp/ |