『麦と葡萄 牛久醸造場』ビール醸造という強みを生かして牛久ワインの再興を目指す

日本ワインの産地といえば?とたずねられて思い浮かぶのは、山梨や長野かもしれない。しかし、実はほかにも、日本ワインの歴史を語るうえで重要な場所がある。その場所とは、茨城県牛久市。

今回紹介するのは、2020年、茨城県牛久市に誕生したワイナリー「麦と葡萄 牛久醸造場」だ。

牛久の地で長年ビールとワイン醸造に励み、酒造りに魅了され続けてきた代表の角井さんと、栽培醸造担当の佐野さんにお話を伺った。

麦と葡萄 牛久醸造場は、彼らの醸造に対する情熱と、お酒へのあふれる愛情が魅力の醸造所だ。ワインとビール、両方を醸すからこそできることと、柔軟な発想に注目してほしい。

麦と葡萄 牛久醸造場はどのように生まれ、どんなぶどう栽培をしているのか。またどんなワイン造りをおこなっているのだろうか。個性あふれるワイナリーのストーリーを、ぜひ最後までじっくりと楽しんでいただきたい。

『醸造への情熱がワイナリーを生む 麦と葡萄 牛久醸造場の誕生の経緯』

最初に紹介するのは、ワイナリー誕生の経緯だ。代表の角井さんと栽培醸造担当者の佐野さんは、もともと同じ会社に勤務していた。なぜワイナリーを立ち上げるに至ったのか、ふたりの思いや、具体的な歩みについてみていきたい。

▶︎ビール・ワインの醸造に憧れて 牛久シャトーへの異動

茨城県牛久市にある「牛久シャトー」をご存知だろうか。牛久シャトーは、日本最古の観光ワイナリーだ。日本ワインの歴史を残す貴重な施設として、国指定重要文化財や日本遺産に認定されている。

今回紹介する、麦と葡萄 牛久醸造場の角井さんと佐野さんは、牛久シャトーを所有していた「合同酒精株式会社」の社員だった。合同酒精株式会社は、焼酎などの酒製造を主業とする会社だ。ほかにも食品や医薬品を製造しており、角井さんと佐野さんは医薬品の研究所で働いていたのだ。

角井さんが入社したのは2004年のこと。研究所に5年間勤めた後、醸造に興味があった角井さんは上司に直談判する。

「ビールを造りたいので、異動させてほしいとお願いしました。研究部門から醸造部門に異動したいという人は、大変珍しかったようです」と、角井さんは笑う。

異動願いが受理され、角井さんはビール醸造部門での勤務を開始した。その後、牛久シャトーのワイン醸造部門に関わることになったのは、2008年のことだった。

佐野さんの経歴も追っていこう。佐野さんは、角井さんの6年後輩として入社した。

「私はそもそも、ワインの仕事をしたくて合同酒精株式会社に入社しました。しかし、新入社員が牛久シャトーの部門に配属されることはほぼありません。そこで自分も角井さんと同じく、上司に相談して異動しました」。

佐野さんの要望を聞き、当時の上司は角井さんのことを思い出したそうだ。醸造部門に行きたいという希望は、それほどまでに珍しいケースだったといえる。

ビールが造りたかった角井さんと、ワインが造りたかった佐野さん。念願の牛久シャトーでの仕事は、充実したものだった。

「当初はワイン醸造を希望していましたが、年中醸造可能なビールから醸造経験を積みました。すると、ビール造りの面白さにもはまっていきました。結果的にビール醸造に携われてよかったと考えています。今につながる、よい経験を積むことができました」と、佐野さん。

ビールの原料はワインに比べてより自由度が高く、原料の組み合わせやアイデアで味が変わる。ビールの自由な醸造は、ワインを造るうえでも参考になった。反対に、ワイン醸造の経験が、ビール醸造に生かせる場面もあった。

やりたいことに打ち込む毎日を送っていた角井さんと佐野さんだったが、2018年に転機が訪れる。2018年末に、合同酒精株式会社が牛久シャトーの飲食部門から撤退することになったのだ。

▶︎ビールとワインの醸造を続けたい 退職から醸造所立ち上げへ

会社に残っている限り、このままではワインとビールの醸造から離れることになる。しかし角井さんのワイン造りとビール造りに対する情熱は大きかった。

「2019年に会社を希望退職しました。ワインとビールに携わっていたいと思い、2019年7月にはワイナリーを立ち上げたのです。佐野さんにも声をかけ、来てくれることになりました」。

醸造免許を取得したのは、2020年4月。醸造所になる物件探しをする必要もあった。

「ちょうど新型コロナウイルスが流行している最中だったため、醸造設備を整えるための機材を作る工場がストップしていました。想定より遅くなりましたが、2020年8月から醸造がスタートできています」。

2020年ヴィンテージは、買いぶどうでのワイン醸造をおこなった。自社畑でのぶどう栽培を開始しているので、今後自社畑のぶどうが本格的に収穫できれば、牛久産のぶどうを牛久で醸造したワインが生まれる。

麦と葡萄 牛久醸造場では、ワインだけでなく、ビールも醸造している。両方醸造することの利点を生かしているのだ。

「ビールとワインで醸造タンクを兼用しているのが、ほかのワイナリーにはない特徴ですね。ビールのタンクは炭酸に対応しているので、ペティアンのワインを同じタンクで造ることができます」。

▶︎ワイナリーのロゴマークに込めた思い

麦と葡萄 牛久醸造場のロゴマークについての思いも紹介したい。ロゴマークが模しているのは、バラのつぼみ。バラのつぼみをロゴマークに採用したのには理由がある。

ひとつは、茨城県でぶどう栽培とワイン醸造を行っていることの表現だ。バラは茨城県のシンボル。県の花であり、県章もバラのイメージが用いられている。

ふたつ目は、バラとぶどうの結びつきが強い点だ。バラとぶどうは同じ病害虫に弱く、バラの方がぶどうよりも繊細な植物である。そのため、バラをぶどう畑に植えるとぶどうの病気をいち早く察知できるのだ。

そして3つ目は、角井さんの思いを表している。

「バラはとげがあって、触るとひっかかりますよね。自分たちが造ったものを飲んだときに、こころに残り、記憶にひっかかるものでありたいという思いを込めたのです」。

麦と葡萄 牛久醸造場が醸造するシリーズの中で、『エピヌ』という名前のブランドがある。エピヌとはフランス語でいばらの意味だ。

牛久の魅力を酒で表現し、多くの飲み手の心に残るものを提供したい。麦と葡萄 牛久醸造場の思いは、まっすぐに酒造りを追求する姿勢に表れている。

『牛久でのぶどう栽培 工夫と努力』

続いて見ていくのは、麦と葡萄 牛久醸造場のぶどう栽培についてだ。

自社畑では、どんなぶどうを、どんなこだわりを持って育てているのだろうか?栽培している品種についてのエピソードや、自社畑の気候風土の特徴などをみていこう。

▶︎麦と葡萄 牛久醸造場で育てるぶどう品種 自社畑に合う品種を選ぶ

麦と葡萄 牛久醸造場は、牛久に自社畑を保有している。おもに栽培しているのは、白ワイン用ぶどうのシャルドネと、赤ワイン用ぶどうのメルロー。植樹したのは2020年だ。2022年を迎え、まとまった量の収穫が見込まれている。

2021年には、白ワイン用ぶどうのプティ・マンサンと赤ワイン用ぶどうのタナを植えた。そのほかにも、少量ずつ試験的に植えている品種があるという。

新しく植えた品種の収穫は、まだ2年以上先になるだろう。「樹が成長するのを待っている段階です」と、佐野さん。

それぞれのぶどう品種を栽培している理由についても尋ねた。まずは「シャルドネ」から。シャルドネは、佐野さんが好きなぶどう品種だ。

「私がワインの世界に入りたいと思った理由が、シャルドネにあるのです。大学生のとき、初めて飲ませてもらったワインがとても美味しくて、それが『シャブリ』でした」。

シャブリとは、フランスブルゴーニュ地方で生産されている、シャルドネを100%使用したワインだ。石灰岩土壌で栽培されるシャルドネからは、ミネラル感とキレが秀逸なワインが生み出され、全世界にファンが多い。

牛久で育てるシャルドネは、いったいどんな味を出すのだろうか。今後の醸造に期待したい。

「メルロー」を栽培する理由は、日本での栽培実績が多く、牛久でも育つ品種だと考えたからだ。また牛久シャトー時代に醸造経験があったことからも、安定して栽培と醸造ができる品種として採用した。また、メルローは、ぶどうの苗木も手に入りやすい。比較的湿度が高くても栽培できるため、土地への定着が期待できる。

プティ・マンサンとタナの栽培理由についてもみていこう。

「尊敬している、栽培醸造家の安蔵正子さん(2022年に『Cave an』というワイナリーを開業、元・丸藤葡萄酒工業)が栽培している品種です。彼女にワイン造りを教わっていた時期に、『プティ・マンサンとタナなら平地で気温と湿度が比較的高い牛久でも、一定の品質が確保できるのでは』という感覚を持ちました」。

プティ・マンサンとタナは、日本の気候でも実績を残している品種だ。温暖な気候の茨城県南部に適する品種と見込んで栽培している。

なお、正子さんの夫でシャトーメルシャンの安蔵光弘さんは、茨城県出身だそうだ。「安蔵さんご夫妻には、研修時から今までずっと、相談事のアドバイスをいただいたりして、とてもお世話になっています」と、佐野さん。

牛久の地に適するワイン用ぶどう品種を選定し、実際に栽培をすすめることで、可能性を見出す。

▶︎牛久でのぶどう栽培

麦と葡萄 牛久醸造場は、いったいどんな天候と土壌の環境でぶどうを育てているのだろうか。栽培環境についてみていこう。

自社畑の土壌は、関東に特有の火山灰土がメイン。水はけが非常によく、ぶどう栽培にとって有利だ。土質はふかふかの黒ボク土。水はけの悪い粘土質な部分は避け、水はけのよい場所で栽培するように心がけている。

畑があるのは、平地と小さな台地。斜面の勾配は緩やかだ。昼夜の寒暖差があまりない点はぶどう栽培にとって難しいポイントだが、一方で、ぶどうに「牛久らしさ」を出せる可能性も秘めている。

「現状、ぶどうの仕立て方は垣根のみです。まずは牛久シャトー時代に経験したことを、そのまま実践しています。今後は、棚栽培にもチャレンジしたいですね」。

牛久シャトー時代にぶどう栽培経験があるとはいえ、栽培をすべて自分の力でおこなうのは、はじめてのこと。まずは、慣れている方式である垣根仕立てからスタートしたのだ。

一方、佐野さんも棚栽培の可能性に注目しており、今後畑が増えたときには、棚仕立てを採用する可能性がある。

「雨が多い日本の天候では、棚栽培がよいとおっしゃる先輩方も多いです。先の話にはなりますが、棚栽培もはじめて、棚と垣根を比較していきたいです」。

棚仕立ては、地面からの距離があるため、多湿環境の栽培に強い特徴がある。また、樹勢の強い品種にあう点も、棚仕立てならではの強みだ。

牛久の自社畑でのぶどう栽培は、まだ始まったばかりだ。

「牛久シャトーを創業した神谷傳兵衛さんが残したぶどう品種リストには、カベルネ・ソーヴィニヨンやマルベックといった、今なお有名な品種もありますが、今では廃れてしまった品種名も書かれています。土地にどんなぶどう品種があうかは、長い歴史のなかで移り変わるもの。自分たちはこれから、茨城に合う品種をみつけていきたいです」。

麦と葡萄 牛久醸造場は、今後もたくさんのチャレンジをしながら、土地ならではの栽培方法を確立していくのだろう。毎年、ワイナリーの情報を追いかけながらワインを飲むのも楽しそうだ。

▶︎ぶどう栽培の工夫 自分達の土地を理解する

続いて、ぶどう栽培の工夫について伺った。

「ぶどうに無理をさせない栽培をしています。むやみに無農薬にこだわるのではなく、適切なタイミングで防除することで、ぶどうを健全な状態に保つことを心がけています」。

無農薬にこだわると、場合によっては病害虫でぶどうが全滅する恐れもある。そのため、麦と葡萄 牛久醸造場では、最低限の防除でぶどうを育てられる工夫をしているのだ。

具体的におこなっているのは、ぶどうに発生する病気を、仕組みから理解すること。そして、予防するタイミングを細かく見極めることだ。

防除のタイミングは、「ぶどうの葉が何枚になったとき」など、具体的かつブレのない基準を見極めて実施している。

「防除に関する勉強は欠かさないようにしていますが、教えてくれる講師の方のお話は、山梨県や長野県を基準にしていることがほとんどです。牛久とは気候が違うため、そのまま当てはめることはできないケースもあるのです。牛久ならではのタイミングを考えるのが、重要ですね」。

大切なのは、自分たちが育てるぶどうを観察し、土地を理解すること。最低回数の防除で、美しく生き生きとしたぶどうが収穫できるように、佐野さんたちは日々、工夫と観察、努力を続けている。

『 ワインとビールで多くの人を楽しませたい 麦と葡萄 牛久醸造場の醸造』

麦と葡萄 牛久醸造場で醸造するワインについての話に移っていこう。

ワインだけでなくビールも醸造している、麦と葡萄 牛久醸造場。ビールを醸造しているからこそできる工夫や魅力あふれるワイン造りは、ワインファンだけでなく、幅広いお酒好きに知ってほしい内容だ。

ワイナリーがめざすワイン像から醸造の工夫まで、ひとつひとつじっくりと紹介していきたい。

▶︎麦と葡萄 牛久醸造場が目指すワイン 「自分達だからできること」を表現したい

麦と葡萄 牛久醸造場には、ふたつの目標がある。

ひとつは、ビールを醸造しているからこそできるワインを造ること。もうひとつは、世界のワイン好きが納得するワインを醸造することだ。

「ワインとビールを醸造しているからこそできる、ワインを造りたいです。どちらも造っている強みを生かしたラインナップを、今後も展開していきたいですね」と、佐野さん。

具体的に、増やしたいと考えているラインナップがあるという。シャルマ方式で醸造したスパークリングワインと、クラフトビールの技術を応用したフレーバードワインだ。

前述の通り、麦と葡萄 牛久醸造場ではビールの醸造タンクでワインも醸造している。ビールタンクは、発泡性の酒を入れられるのが強みだ。せっかくビールタンクを所有しているのだから、これを生かさない手はない。

フレーバードワインの可能性も大きい。角井さんは、甘味果実酒の免許も保有している。

そのため、ハーブやホップを利用した酒を造ることができるのだ。フレーバードワインなら、普段ワインを飲まない層にもアピールでき、変わり種のワインを求める人の興味も引ける。

「フレーバードワインをメインにすることはありませんが、自分たちだからこそできるもののひとつとして、取り入れられたらと思っています」と、角井さん。

麦と葡萄 牛久醸造場のビール部門では、ビールとワインのブレンド酒も販売している。ワイン酵母を使用したビールを造ったり、樽熟成させたビールを造ったりと、さまざまな試みがおこなわれているのだ。ワインでも同様に、ビールの醸造技術を生かした、新しい商品を生みだすことを目指す。

また同時に、世界を目指す正統派ワイン醸造も目指す。

「ワインもビールも、全世界で親しまれている世界基準のお酒です。将来的には、海外の人が飲んで美味しいと思ってもらえるワインを目指したいです。海外ワインを飲む日本のお客様にも受け入れていただくことが目標ですね」。

ブラインドで飲んでも美味しいといってもらえるワインが理想、と佐野さんも同意する。

栽培や醸造の工夫で、王道の美味しいワインを造ること。自分たちにしかできないワイン造りをすること。ふたつの目標を組み合わせることで、より幅広い層にワイナリーの魅力を訴求できる。

「もちろん、美味しいワインを作ることを大前提に考えていますが、究極的に目指すのはワインとビールの枠を超えた『飲んで美味しいお酒』を造ることです」。角井さんの言葉は、ただ純粋によいものや楽しいものを追求する強さに満ちている。

麦と葡萄 牛久醸造場のワイン醸造に対する姿勢は、ワインに対する視野を広げ、もっと自由に「お酒」を楽しむことを教えてくれる。

▶︎試行錯誤が楽しい ワイン醸造の工夫と苦労のエピソード

醸造で苦労した点についても伺った。

「シャインマスカットを絞る作業が大変でした。しかし、工夫して醸造したことで、新しい発見もあったのです」と、佐野さん。

2021年のこと、シャインマスカット農家のかたから、ワインの委託醸造の依頼を受けた。シャインマスカットは果皮が非常に薄く、果皮と果肉もぴったりと密着している。大量に持ち込まれたシャインマスカットをワインにしようと搾汁していたのだが、圧倒的な絞りにくさに苦戦したのだ。

「一生懸命絞っても、半分以上は絞れず、滓として残ってしまう状態でした。同じくシャインマスカットでワインにしている造り手の方に聞いても、絞りにくさに苦労されているようでしたね」。

当初は、通常の白ワインと同様、果汁を発酵させることでワインにしようとしていた佐野さん。しかし佐野さんは、残った絞り滓のあまりの香りのよさに「もったいなさ」を感じた。

「捨てるのは惜しいから、滓も発酵させてしまおう、と醸し発酵をしたのです。すると、滓を発酵したものは、果汁のみを発酵させたものとはまた違った香りが出て来て驚きました」。

果汁のみを発酵させたのも、絞り滓を発酵させたのも、使用した酵母は同じだ。同様の条件かつ「シャインマスカットが原料」という点も同じなのに、違う性質を持つ芳香が生まれたのだ。

出来上がったワインは、ブレンドすることでひとつの商品に仕上がった。

佐野さんは、「今思うと、最初から果皮ごと醸せばよかったです。そうすれば最初の搾汁に苦労する必要はなかったのですが」と笑う。

果汁のみだと、いわゆる「マスカットの香り」が全面に出ていたが、果皮を醸したワインを加えたことで「花の香り」が加わり奥行きが生まれた。工夫によって深い香りを出せるという、新しい発見になったのだ。苦労のなかでも、貴重な経験を見つけられたエピソードだった。

▶︎どんなぶどうでも美味しいワインにできるように 醸造への思い

「醸造所ができて、まだ2年しか経っていませんが、たった2年のあいだにも、天候などの差から、ぶどう品質のばらつきを感じます。品質のばらつきがあるなか、醸造の工夫でどういうワインに仕上げるか考えるのが、苦しくもあり楽しい部分です」と、角井さん。

ぶどうは農作物であるため、年ごとの品質の差を避けることはできない。どれだけ手をかけて栽培したとしても、天候ひとつでぶどうの出来は大きく変わってしまう。

美味しいぶどうから美味しいワインが生まれるのは、ある意味「当然」なこと。しかし美味しいぶどうを待つだけがワイン醸造ではない。醸造の工夫で、さまざまな風味を表現することができるのだ。

「ぶどうの品質が思わしくなかった年があったとしても、いかに美味しく飲んでもらえるものを造れるか、頭をひねっています。醸造の工夫でよいワインにすることが、醸造家の腕の見せどころだと思っているのです」。

醸造に頭を悩ませることは難しいことだが、「面白く、工夫しがいがある」と話す角井さん。角井さんは、醸造という営みに誇りを持っている。楽しんで醸造する人の手からは、楽しいお酒が生まれるはずだ。

『牛久ワインをもっと身近に 将来への展望』

最後に、麦と葡萄 牛久醸造場が掲げる将来の展望を紹介したい。ワイン造りに関する目標と、ワイナリーの運営に関する目標というふたつの柱でみていこう。

▶︎自社栽培のぶどうから、よいワインを造りたい

「2022年ヴィンテージに、念願の自社栽培のぶどうを醸造できるので、よいものにしていきたいです」と、角井さんが意気込みを話してくれた。

美味しいワインを造るため、佐野さんが目標としているのは「ブレンド力の強化」だ。現在は、さまざまな品種を育てている麦と葡萄 牛久醸造場。多くの品種を育てているのは、メイン品種であるシャルドネとメルローの魅力を深めるためのブレンド用として使用するためでもある。

「ブレンドのために、酸が落ちにくい品種や、糖が保たれる品種を選んでいるのです。自分でもブレンドは未知の部分ですが、よいものにできたらと思います」。

例えば、赤ワイン用ぶどう品種の「タナ」は、発色が鮮やかで酸と糖を保つ力が強いぶどうだといわれている。メルローやカベルネ・ソーヴィニヨンとブレンドすることで、ワインの味にアクセントを与えることもできる。

狙いどおりの仕上がりをブレンドで表現するために、2022年ヴィンテージから、佐野さんのチャレンジが本格始動する。

▶︎間口の広いワイナリー目指して

「ワイン好きからビール好き、もちろんそれ以外のお客様にも、それぞれの提案ができるワイナリーでありたいです」。

間口を広げるためにすすめていくのは、販売価格を下げるための商品開発と、販売方法を確立することだ。日常的に飲めるワインのラインナップを造ることを目標にする。

ただし、小規模ワイナリーがボトル単価を下げるのには限界がある。そのため、麦と葡萄 牛久醸造場では、「ビールバー」のような感覚でワインを飲んでもらえる販売を進めている。

「ビールサーバーのように、持ち込んだペットボトルに直接ワインを入れて提供しています。ボトル代やエチケット代が浮くので、より手頃な価格で提供できるのです」。

ボトル販売にこだわらないことで、ビールを楽しみに飲みに来たお客様や、高級感からワインを敬遠していたお客様でも、気軽にワインに触れることができる。

一度飲んでもらえれば、ワインに対するハードルが下がる。さらに、ワインにハマってもらえれば大成功だ。

麦と葡萄 牛久醸造場をはじめた当初は、クラフトビール好きとワイン好きの客層は重なっているのではと予測していた角井さん。しかし実際に運営してみると、意外と両者の層は被っていないことに気づいたという。

「想定外ではありましたが、逆に言うと、伸びしろがあるということですよね」。

ビールを飲みに来た客にはスパークリングワインを勧めたり、ワイン好きにはビールを試してもらったりして、双方の魅力を伝えている。今後も、麦と葡萄 牛久醸造場の伸びしろに注目だ。

▶︎茨城ワインを盛り上げるために

茨城県内では、近年、新規ワイナリーが増えつつある。角井さんは、茨城全体でワインを盛り上げていきたいと話す。

「県内のほかのワイナリーさんとも連携しながら、茨城全体で、ワイナリーをお客様に知って頂く機会を作っていきたいと考えています」。

茨城は、東京からのアクセスが良好な場所にある。多くの人が気軽に訪れることができるため、ツーリズムの企画も組み立てやすいはずだ。

また外部だけではなく、地域の人々に「ワイン」を広める活動も続ける。

「牛久には、牛久シャトーが100年も前からありました。そのため『なんとなく身近にワインがある』という市民の感覚を肌で感じています。ビールバー・スタイルを活用し、より気軽に楽しんでもらって、ワインをもっと根付かせることを目指していきたいです」。

角井さんは、ぶどう栽培の先生から、「牛久は新興ワイン産地ではなく、再興ワイン産地」だといわれたそうだ。牛久のワインを復活させ、牛久を再びワインの町にするために、麦と葡萄 牛久醸造場はワインを造り続けるのだ。

『まとめ』

麦と葡萄 牛久醸造場は、ビール醸造とワイン醸造をどちらもおこなっていることが強みだ。美味しいワインを醸すと同時に、ビール造りから発想転換したワイン造りもおこなっており、1度で何度も楽しめる、稀有なワイナリーなのだ。

ワインファンはもちろんのこと、ビールファンや、これからワインやビールを飲んでみたい人にもおすすめしたいワイナリーだ。

麦と葡萄 牛久醸造場を訪れたなら、ぜひ「今まで飲んだことがないお酒」にも、チャレンジしてみてほしい。新しい発見があることだろう。枠にとらわれることなくお酒を楽しむことで、麦と葡萄 牛久醸造場を満喫してほしい。

基本情報

名称麦と葡萄 牛久醸造場
所在地〒300-1221
茨城県牛久市牛久町531-3
アクセスJR牛久駅から徒歩8分
圏央道つくば牛久インターから車で15分
GoogleMaphttps://goo.gl/maps/Sfnu6eowMzCaw1Ty6

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