『 飛鳥ワイン 』創業90年!自社栽培の高品質なぶどうが自慢の老舗ワイナリー

大阪府羽曳野市にある「飛鳥ワイン」は、1934年創業のワイナリーだ。地元で栽培されたぶどうを活用し、地元の人たちに愛されるワイン造りを長年おこなってきた。

地形や気候の面では苦労することも多いが、そんな中でも高品質なワインを造ることができるのは、社員一丸となって取り組む、丁寧な栽培管理の賜物だ。関西エリアでは最大級の規模を誇る自社畑で実践しているのは、農薬の使用量を可能な限り抑えた循環型農法である。

現在、飛鳥ワインの二代目として代表取締役を務めるのは仲村裕三さん。今回は、裕三さんの息子である仲村茂記さんにお話を伺った。

飛鳥ワインの創業からの歩みと、ぶどう栽培・ワイン醸造におけるこだわり、そして今後の展望について紹介していこう。

『飛鳥ワインの歴史と、ぶどう栽培』

飛鳥ワインの創業は、1934年のこと。きっかけとなったのは、1934年9月に日本列島を縦断した室戸台風だ。日本列島を縦断して各地に甚大な被害をもたらし、農作物への被害も大きかったという記録が残っている。

「当時、大阪はデラウェアの一大産地でした。羽曳野の生食用ぶどうも室戸台風による大きな被害を受けたのです。救済措置として酒造免許が交付され、生食用として出荷できないぶどうをワインにしたのがワイナリーの始まりです」。

100軒ほどの農家が同時期にワイン造りを始めたが、今日まで続いているのは、柏原市の「カタシモワイナリー」と羽曳野市の「河内ワイン」、そして飛鳥ワインだけだという。

飛鳥ワインの創業者は、仲村さんの祖父にあたる仲村義雄さん。第二次大戦中には一時期ワイン造りを中断したこともあったものの、2024年には創業90周年を迎えた。

▶︎飛鳥ワインの過去から現在まで

創業当初は地元産のデラウェアを使用したワインの他、輸入した濃縮果汁やバルクワインも使用していた飛鳥ワイン。その後、二代目が経営を引き継いだ頃には自社畑で垣根仕立てでのぶどう栽培をスタートさせた。関西エリアではいち早くヨーロッパ系のワイン用品種の栽培を始めたのだ。

「ヨーロッパ系のワイン用品種のぶどう栽培を始めたのは、2000年頃でした。どんな品種が羽曳野市の土地に合うかという情報が全くない状態でしたので、メルローやシャルドネなどメジャーな品種をはじめとしたさまざまな品種を植えて、土地への適性を検証するところから開始したのです」。

時間をかけて栽培する品種を絞り、栽培管理の方法を年々ブラッシュアップ。次第に、ヨーロッパ系品種で造ったワインでもコンクールで入賞できるようになってきた。そして2023年には 「Japan Wine Competition 2023」 において、初の金賞獲得を成し遂げたのだ。

2023年は、仲村さんが家業を継ぐことを決心した年でもある。これまでは公務員として畜産に携わってきたが、飛鳥ワインの後継者となるべく修行を開始した。2024年からは長野県のワイナリーで研修中で、ぶどう栽培とワイン醸造の技術習得に勤めている。

▶︎自社畑で栽培している品種

続いては、飛鳥ワインが栽培しているぶどうを確認していこう。2024年現在、栽培している品種は30種類を超える。5haを超える規模の自社畑は、関西のワイナリーではトップクラスの広さを誇る。

順調に育ち、単一でワインに仕込めるだけの収量が確保できている品種は以下の通りだ。

  • メルロー
  • カベルネ・ソーヴィニヨン
  • シラー
  • シャルドネ
  • ソーヴィニヨン・ブラン
  • リースリング
  • アルモノワール
  • 甲州
  • マスカット・ベーリーA
  • デラウェア

「最も栽培量が多いのはデラウェアで、2haほどを占めています。デラウェアと甲州とマスカット・ベリーAは棚栽培で、それ以外の品種は垣根栽培です。甲州で垣根を試したこともありますが、樹勢が強すぎたので途中から一文字短梢栽培に切り替えました。仕立て方を強引に変えたため、幹がS字に曲がってしまったのですが、健全に育ち収量も安定しています。ぶどうの生命力の強さに驚かされますね」。

赤ワイン用品種として仲村さんが注目しているのは、アルモノワールだ。病害虫に強く、羽曳野市の気候にもあっていると感じている。複数の要素がバランスよく美味しいワインができるため、栽培本数を少しずつ増やしているところだという。

▶︎羽曳野市の気候と、自社畑の特徴

飛鳥ワインがある羽曳野市の気候と、自社畑の特徴を紹介しよう。羽曳野市の年間降水量は1250mmほど。温暖な瀬戸内気候のため、病害虫被害には常に注意が必要だ。飛鳥ワインの自社畑は標高50〜100m程度に点在している。山の斜面にあるため、水はけや風通しは良好だ。

土壌は区画によって粘土質と砂質があり、ワイナリーの最寄り駅である近鉄南大阪線の上ノ太子駅の北と南では性質が大きく異なる。砂質土壌は特に水はけがよいため、植栽しているメルローの生育に向いているそうだ。

「区画ごとの面積が小さいため重機を入れることができず、薬剤の散布や草刈りも小型の機械を使って手作業でおこなっています。そのため、畑の維持管理には非常に時間がかかっているのです。北海道のように広大な一枚畑がある地域と比べると、非効率なのは仕方がないですね」。

雨対策としては、ビニール製の雨除けを使用。房の上部のみの雨除けを設置した区画では房が雨にぬれて病気が発生してしまった経験があるため、樹の上部を屋根のように覆うタイプを設置している。

気温が高く雨が多い地域のため、丁寧な栽培管理が欠かせない。生育期から収穫まではもちろん、休眠期にも畑での仕事がたくさんあるのだ。例えば、冬季には「巻き蔓」を全て除去している。蔓の中に病原菌が残ったまま越冬すると、翌年のぶどうに影響が出るためだ。

「冬場になると蔓が乾燥して固くなってくるので、取り除くのには手間がかかります。飛鳥ワインのスタッフは、年間を通じて常に畑にいて作業をしている感じですね」。

また、飛鳥ワインが実施している、ふたつの取り組みについても紹介しておこう。

まず、農薬の使用はできる限り少量に抑え、除草剤は使用してしない。栽培しているぶどうは「大阪エコ農産物」として認定されているため、消費者は安心して口にできる。さらに、循環型農業にも積極的に取り組んでいる飛鳥ワイン。剪定枝や梗は細かいチップ状にして、搾かすや澱(おり)と混ぜて堆肥化してから畑に戻している。

大規模なぶどう栽培をおこなっているからこそ、環境と人に配慮した取り組みを重視するのが飛鳥ワインならではのこだわりだなのだ。

▶︎学びを今後に生かす

家業を継ぐため、ぶどう栽培とワイン醸造に関する知識を付け、経験を積むことを決意した仲村さん。長野県でのワイナリーでの修行では、日々多くのことを得られていると話してくれた。

大阪と長野では気候や土壌、畑の条件など多くの点で異なる。しかし、だからこそ新たな気付きがあるのだという。

「飛鳥ワインはこれまで、『大変なことも気合で乗り切るんや!』という考え方でやってきたのです。そのため、うちの畑では機械化なんて無理だと思い込んでいました。しかし、長野という新たな環境で学ぶ中で視野を広く持てるようになり、土地に合う方法を模索していくことの重要性を知ることができました」。

大型の機材を使うことはできなくても、軽量化されたタイプなら検討できるかもしれない。急な斜面でも、タイヤではなくキャタピラタイプのものなら導入できるかもしれない。また、栽培管理の手間を減らすために、より土地に合う品種の導入や栽培方法の見直しも可能なのではないか。

大阪の気候や土壌、畑の特徴を生かして飛鳥ワインならではの最適解を模索していくことが、次世代を担う仲村さんに課された大きな課題だ。大阪に戻った時に、長野での経験どのように生かしていくのか、期待が膨らむ。

『飛鳥ワインのワイン造り』

「飛鳥ワインのワイン造りは、畑から始まっている」と話してくれた仲村さん。ぶどう農家が始めたワイン造りが、醸造工程以上に栽培管理を重視しているのは当然だろう。

「農家からスタートしたワイナリーらしく、健全なぶどうを作ることに力を入れています。醸造責任者ですら、ずっと畑にいるくらいですから」と、仲村さんは朗らかに笑う。

そんな飛鳥ワインが醸造においてこだわっているのは、手を加えすぎないこと。地元産のぶどうを無駄にせず、地域の人たちに美味しく飲んでもらうことを目的として誕生したワイナリーだからこそ、目指すのはオーソドックスなオールド・スタイル。癖のない味わいが地元の人に愛され、広く受け入れられている。

飛鳥ワインのワイン醸造に迫るとともに、おすすめ銘柄も紹介していこう。

▶︎地元の人に愛されるワイン

飛鳥ワインの醸造では、ぶどうの果実感や品種の特性を前面に出す造りにこだわっている。ぶどうの品質と風味をそのまま表現し、亜硫酸の使用も最低限に抑えている。また、古樽を使うことで、ぶどうそのものの味わいがより引き立つように心がけているのも工夫のひとつだ。

家業を継ぐことを決めるまでは、日常的にワインを飲む習慣がなかったという仲村さん。そんな自分の経験も踏まえ、ワインの世界への入口となるようなワインを造りたいと考えている。

また、多くの人に飲んでもらうには、美味しいと思ってもらえる味わいとともに手に取りやすい価格設定であることも重要だ。

「ワイン初心者の私が飲んでも美味しいと感じる、敷居が高くないワインを造りたいと思っています。一方、もともとワインがお好きな方には、上位ランクの銘柄をおすすめします。どの銘柄も品種の特徴をしっかりと表現することを目指していますので、造り手の思いを感じながら飲んでいただきたいですね」。

飛鳥ワインのアイテムは30種類ほどあり、大きくふたつのラインナップに分けられる。ひとつはワイン初心者も手に取りやすい1,000円台のシリーズで、デラウェアやマスカット・ベーリーAなどを使ったデイリーワインだ。

もうひとつは、メルローやシャルドネなどの欧州系品種を使ったワイン。こちらはワイン好きの方やちょっとした特別な時間のお供におすすめのラインナップである。

▶︎おすすめ銘柄の紹介

仲村さんおすすめのワインをいくつか紹介いただいたので、順に紹介していこう。まずは、甘口のデイリーワイン「飛鳥 デラウェア」だ。

「『飛鳥 デラウェア』は飛鳥ワインの看板商品です。甘口ですが、早摘みしたデラウェアを使っていますので、酸味も感じられる爽やかな味わいです。デザートワインとして楽しんでいただくのはもちろん、コッテリとした味付けの中華料理とのペアリングも美味しいですよ。よく冷やして飲んでください」。

「飛鳥 デラウェア」のアルコール度数は10%程度と低め。気軽にグイグイ飲めるのが嬉しいポイントだ。

続いては、ちょっと特別なシーンやプレゼントにも最適な、「飛鳥 砂越畑 メルロー」。飛鳥ワインの自社畑の中でも、特に砂地の水はけのよい区画で栽培したメルローで仕込んだワインである。樽のほのかな香りが、メルローの果実感と絶妙にマッチ。無濾過でぶどうの美味しさを余すところなく瓶詰めしているため、濃厚な味わいが特徴だ。肉料理全般に合わせて楽しみたい。高品質なメルローが収穫できた時のみ仕込む銘柄なので、見かけたらぜひ手に取りたい1本だ。

続いて、「飛鳥 スパークリング シャルドネ」である。2023年の初受賞に続き、2024年も「Japan Wine Competition」で金賞を受賞した、飛鳥ワインを代表する1本だ。

「瓶内二次発酵させた、本格的なスパークリングワインです。瓶詰め後に1年半程度寝かせて酵母としっかり触れさせました。爽快な青りんごやグレープフルーツのような香りとともに、酵母の風味もある複雑な味わいが魅力です」。

「飛鳥 スパークリング シャルドネ」は合わせられる料理の幅が広く、特におすすめなのは天ぷらなどの和食だという。

最後に紹介するのは、お徳用として販売している1.8ℓ入りの一升瓶ワインだ。赤・白・ロゼワインと、甘口の赤・白ワインのラインナップがある。

「一升瓶ワインは、主に地元の人に楽しんでいただいてます。私の祖父もよく飲んでいたのを思い出しますね。近くの道の駅やぶどうの直売所などでも販売していますよ」。

『飛鳥ワインのこれから』

創業90年を迎えた飛鳥ワインは、これからどのような未来を歩んでいくのだろうか。ぶどう栽培とワイン醸造、ワイナリーの設備などに関して、今後の展望を伺ったので触れておきたい。

気候変動の影響によって安定しない環境が続く中、今後も美味しいワインを飲み手に届けるためには、多角的な施策が必要となる。まずは、ぶどう栽培において実施を検討しているという構想から紹介していこう。

▶︎新たな取り組みにも積極的

現在、飛鳥ワインで栽培している品種は、いずれも2000年頃に植栽して、時間をかけて土地に合うものを選んできたものばかり。だが、気温の上昇や雨の降り方の変化などが続いているため、育てる品種や栽培方法を刷新する必要が出てきているのだ。

「かつて私の父がおこなったように、現在の気候や土壌に合う品種と栽培方法を改めて見直すタイミングなのだと感じています。新たな品種の可能性を探るとともに、大阪で伝統的に栽培が続けられてきたデラウェアに関しても、栽培管理の方法を見直していきたいですね」。

今後は、よりアロマティックな特性を持つ品種も増やしていきたいという希望を持っている仲村さん。試験栽培を繰り返すうちに、羽曳野市の気候にマッチする品種が選別されていくことだろう。

また、栽培に関しては、より酸味が残った状態でデラウェアが収穫できるように試行錯誤していくつもりだ。

「飛鳥ワインのデラウェアは甘口タイプなので、今後は辛口の美味しいデラウェアワインにも挑戦したいですね。地域で長く愛されてきた品種なので、よりいっそう魅力を生かしていけるような方法を模索していくつもりです」。

やりたいことが本当にたくさんあると話してくれた仲村さん。飛鳥ワインの未来の姿が楽しみだ。

▶︎人が集まるワイナリーを目指す

飛鳥ワインでは、月1回の頻度でワイナリーツアーを実施している。また、新酒をリリースするタイミングでは、飲食店の出店もある「新酒祭」も実施。参加者の多くは大阪からだが、中には県外からの参加もあるため、今後は実施回数を増やすことも検討している。

「大阪の都心部から電車1本で来られるのが、飛鳥ワインの推しポイントです。最寄り駅から徒歩3分の好立地にあるので、都市型ワイナリーよりもきていただきやすいくらいですよ」。

ワイナリーツアーでは、参加者同士が交流できる仕掛け作りもしていくつもりだ。また、ワイナリーショップも改築して、古民家カフェのようなくつろげる場を提供することも視野に入れている。多くの人が集まって賑わうことで、飛鳥ワインはさらに魅力を増していくことだろう。

『まとめ』

老舗ならではの知見を存分に生かし、さらに新しいことにもどんどん挑戦していく飛鳥ワイン。最後に、飛鳥ワインならではの魅力と強みについて尋ねてみた。

「厳しい条件の中でも創意工夫をしながら、ぶどう栽培とワイン醸造に取り組んでいるのが強みだといえるでしょうか。実は、苗木作りから棚の設置まで、全て自前でやっています」。

以前は失敗ばかりだったという苗木作りも、実施を重ねるごとに接ぎ木の精度を高め、2023年には8割以上が成功。他社に譲る余裕も出てきたそうだ。

ぜひワイナリーに来て、そんな苦労話やこだわりを聞きながら、畑を眺めてワインを試飲して欲しいと話してくれた仲村さん。

羽曳野市の自然が育んだぶどうの美味しさをそのまま詰め込んだワインを味わいに、現地まで足を伸ばしてみてはいかがだろうか。

基本情報

名称飛鳥ワイン
所在地〒583-0842 
大阪府羽曳野市飛鳥1104
アクセス電車でお越しの場合:
上ノ太子駅北口より徒歩3分
車でお越しの場合:
羽曳野東ICより3分、太子ICより5分
HPhttps://asukawine.co.jp/

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