北海道のほぼ中央に位置する富良野市。東に十勝岳連峰、西に夕張山地芦別岳を望む、美しい自然に恵まれたこの街に、2022年に創立50周年を迎えた老舗ワイナリー「富良野市ぶどう果樹研究所(以下、『ふらのワイン』)」がある。
今回、ふらのワインについてお話を伺ったのは、製造課長の高橋克幸さん。前職では醤油造りの研究者だったという異色の醸造家だ。
ふらのワインは、なんと富良野市が運営している市営のワイナリー。こだわりぬいたワイン造りへの姿勢が伝わってくるエピソードについて、余すところなく紹介していこう。
『ふらのワイン設立のストーリー』
自治体がワイナリー運営に部分的に関わる例は少なくない。しかし、自治体が経営するワイナリーは、全国でも珍しい存在だ。ふらのワインでは、富良野市の職員自らがぶどうを栽培し、ワインを造る。
「私も地方公務員なんですよ」と、高橋さん。ふらのワインの発足について、説明してくれた。
▶︎ぶどう栽培の開始と、ワイナリー立ち上げまで
1960年代後半に減反政策が開始され、米作りが盛んだった富良野市の平野部の田んぼは、米以外の作物を作る畑にどんどんと変えられていった。条件のよい場所では玉ねぎなどの作物が作られたが、問題は傾斜地や砂利の多い田んぼだった。活用法がなかなか見出せなかったのだ。
当時の富良野市職員は調査をおこない、土地を活用する方法を探った。その結果、果樹栽培をおこなうべきだとの方針を固めたのだった。
富良野市では果樹の中でも特にぶどうに注目し、栽培に着手することにした。富良野市内の農家に栽培を依頼したのだ。市内の農家はほかの作物と並行し、いわゆる「補完作物」としてのぶどう栽培を開始。収穫したぶどうを市が買い取ることで、農家は収入を安定させられるメリットがあった。
また、ぶどうを生食用として販売するよりも、加工してワインにすることで、農家の収入に還元しやすい。そこで、市が運営するワイナリーでワイン造りをおこなうことになった。1972年、農家のためのワイン事業がスタートしたのだ。
ふらのワインは減反政策から発想の転換によって地域の農業振興を目的として、設立されたワイナリーなのである。
▶︎一大観光地となった富良野
ふらのワインが創業した当時、北海道にはまだワイナリーが少なかった。そのため、物珍しさもあってかふらのワインはスタート時から地域でまずまずの販売実績を残したそうだ。また、その後さらにふらのワインが大きく成長していった背景には、人気テレビドラマシリーズ「北の国から」の存在がある。
「北の国から」は1981年から放送された、富良野を舞台としたテレビドラマシリーズである。このドラマをきっかけに、富良野は一躍人気の観光地となった。富良野を訪れた観光客向けの土産物として、ふらのワインの売り上げは急上昇したのだ。
「富良野市長が農家さんに、『ぶどうを作ってくれないか、みんなの収入にもなるから』と頼み込んだそうです。たくさんの地元農家さんに賛同いただき、最盛期には50軒以上の農家さんからぶどうを提供してもらっていました」。
ぶどう栽培未経験の農家たちは、北海道立中央農業試験場の専門家等からの助言を受けながら、富良野にはどのような栽培方法が向いているのかを試行錯誤。そして、現在にまで続くふらのワインの礎を築いたのだ。
『ふらのワインのぶどう栽培』
現在、ふらのワインにぶどうを出荷している農家は21軒ある。ほかの作物と並行して、ぶどう栽培もしているのだ。
21軒の農家のぶどう畑を合わせると、面積は30haと広大だ。また、よりこだわりぬいたぶどうで高品質なワインを造るため、ふらのワイン直営の畑でもぶどうを栽培している。自社畑も21haほどの広さがあるそうだ。
▶︎こだわりの栽培品種
ふらのワインが栽培品種として最初に選んだのは、セイベルだ。セイベルは、品種交配の専門家、アルバート・セイベルが作り出したアメリカ系とフランス系のハイブリット種。セイベルにはいくつもの種類があるが、ふらのワインでは赤ワイン用品種の13053と白ワイン用品種の5279の2種類を選んだ。
富良野の冬はマイナス30度にまで気温が下がる。いっぽうで、夏は30度を超えることもめずらしくない。2021年には、なんと最高気温が38度まで上がったそうだ。世界的に見ても、ここまで寒暖差が大きいぶどうの産地はあまりない。
そんな厳しい気候のなかでも寒さや病気に強く、一定以上の収量が望める品種として選ばれたのがセイベルなのだ。地元の農家に栽培してもらうということを前提にスタートしたふらのワインでは、栽培しやすく確実に収入に繋がる品種を選ぶ必要があった。
▶︎ドイツ系品種とオリジナル品種も栽培
だが、セイベルは高品質なワイン向けの品種というわけではない。そのため1980年代前半から、ワイナリーの自社畑でドイツ系品種を中心としたぶどうの栽培を始めた。ケルナーやバッカス、ミュラートゥルガウ、ツヴァイゲルトレーベなどだ。手間はかかるが高品質なワインになる品種を増やしていった。
「私たちには品種交配の技術もあるので、自社で開発した『ふらの2号』というオリジナルのぶどう品種も栽培しています」。
ふらの2号は、セイベル13053とヤマブドウを交配してできた品種だ。ヤマブドウを交配することで耐寒性の強い品種を作ろうとの試みを重ね、1985年に選抜されたのがふらの2号だ。ふらの2号は「羆の晩酌(ひぐまのばんしゃく)」という銘柄の赤ワインやアイスワインに使われている。
また、2003年頃からは温暖化対策としてカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー 、ピノ・ノワール、リースリングなども増やし始めている。
「当時、北海道ではカベルネ・ソーヴィニヨンを植えているところは少なかったと思います。今では樹が大きくなり、糖度が24度を超えるほどの非常によいぶどうが収穫できるようになりました」。
ふらのワインが先を見据えていた甲斐があり、ぶどうの成長と温暖化の波をぴったりと合わせられた形だ。
また、ケルナーやリースリング、ツヴァイゲルトレーベも富良野の土地に適していて、非常によいぶどうが収穫できる。特にリースリングは寒さに強くて枯れにくく、ふらのの土地にあっていると感じているそうだ。また、この先の温暖化の状況にもよるが、シラーも高いポテンシャルが期待できる品種だという。
ふらのワインは常に先を読み新たな時代に対応していく、非常に意欲的なワイナリーなのだ。
▶︎凍害から樹を守る仕立て方と越冬対策
富良野エリアでぶどうを栽培するうえで、一番のリスクは凍害である。そのため、ふらのワインでは、寒冷地ならではの仕立て方でぶどうを栽培している。
「地べたを這うように主幹を伸ばしていく方法の垣根栽培をしています。春には地面から40cmほどのところで幹を針金にしばって、そこから枝を伸ばします。収穫後、冬になると針金からはずして幹を地面に沿わせます。樹全体が雪にすっぽりと包まれた状態にして、凍害を防ぐのです」。
だが、雪が少ない年もある。2019〜2020年の冬は正月になっても雪がなく、地元のスキー場がオープンできないほどだった。雪がない場合にはぶどうの樹が凍害を起こす。だが、ふらのワインでは事前に対策を講じていたため、難を逃れることができたのだ。具体的な対策を見ていこう。
ぶどうは樹の中にデンプン質を蓄えることで、越冬するための原料とする。蓄えたデンプンは寒さをトリガーとしてブドウ糖に変わり、寒さから樹を守る「不凍液」として働くのだ。そのため、できるだけ多くデンプンを蓄えさせることが重要だ。では、十分なデンプンを蓄えさせるためにはどうすればよいのだろうか。
答えは、収穫を早めに実施すること。収穫が遅いと、糖分が果実に取られてしまうためだ。また、葉が落ちると光合成ができなくなるため、葉があるうちに幹の中にしっかりと養分を蓄えさせる必要もある。
大切なのは、ぶどうの品質と越冬のための準備のバランスを考えながら収穫時期を決めることだ。ふらのワインでは、剪定は葉が落ちてから実施するということを農家にも徹底指導している。葉が落ちて、樹が光合成をしなくなったら剪定をしてもよい。
葉が落ちるのを待つ場合、富良野ではすでに降雪が始まっている可能性もあるため、雪の中での剪定は大変な作業となる。しかし、凍害対策の効果はしっかりとあらわれた。雪が少ない冬でも凍害を避けられたのだ。
土地に合う栽培方法を見極めることは、ぶどう栽培をする上で欠かせない。ふらのワインの先見の明に拍手を送りたい。
▶︎土作りにも注力
富良野市の東方30kmほどには、活火山の十勝岳がある。そのため、ふらのワインがぶどうを作っている畑の土壌は火山灰土が多く含まれている。
「もともと果樹栽培をおこなってきた土地ではないため、石がゴロゴロ出てきたり、粘土質だったりと、条件があまりよくないところが多いのです。自社畑には、耕作不適地だった場所が多いですね。平らなところもほとんどないため、傾斜地を縫うようにぶどう畑を造成しています」。
ぶどう栽培に向かない土地でぶどうを作るにあたり、高橋さんが保有する日本土壌協会の資格が非常に役立っている。
「土壌改良や土壌診断を自分達でおこなえるだけの知識を持っています。土づくりでは、土壌の成分に注目することが一般的ですが、実はぶどう栽培をする上では、土の硬さも重要なのですよ」。
地中に伸びる根の周囲の土が固い場合、根の伸びが悪かったり、根が空気を吸えずに窒息したりということが起きる。そのため、土壌に空気を入れる作業も必要だ。
また、土に空気を含ませる目的で、トラクターの後ろに「サブソイラー」という爪状の工具をつけて、畑の畝間に気道を作る作業をおこなう。畝間に気道ができると、根の周りにも空気が入って根が元気になっていく。
高橋さんは自らの知識を用い、農家たちにも土壌改良に関しての指導をおこなっている。通常であれば改良普及センターや農協などが担う役目を、ふらのワインではすべて自らでこなし、そのための勉強も欠かさないのだ。
「指導する立場であるのにもかかわらず、我々がわからないというわけにもいかないので、自発的に勉強して、さまざまな研修会などにも行き、知識を得たり人脈を開拓したりしています」。
▶︎ぶどう栽培でもリーダーシップを発揮
ぶどうの様子をこまめに見ることは、ぶどう栽培において重要なポイントである。年ごとの天候などに大きく左右される農業では、例年通りにやればよいというわけにはいかないのだ。
高橋さんは製造課長だが、醸造の現場だけでなく畑にもこまめに顔を出し、ぶどうと人へのフォローを欠かさない。
「一般的な役所の課長というのは、事務作業が多く、机に向かう時間が長くなりますが、私はそういうわけにはいきません。農家さんに頑張ってもらうフォローのためなどに、時間があれば畑に行くようにしています」。
富良野市の職員とたくさんの農家の方たちの力が結集して成り立っているふらのワインの屋台骨を支えている重要な柱の1本は、まちがいなく高橋さんなのだ。
『ふらのワインのワイン造り』
ふらのワインでは、ワイン造りにおいて「富良野らしさ」が感じられることを大切にしている。ほかではあまり造られていない味わいや、オリジナリティがあるワインを造ろうと心がけているのだ。
▶︎オリジナリティを大切に
「富良野で育ったぶどうならではの特徴を生かし、ほかのエリアの真似をしないことが重要だと考えています」。
ふらのワインのこだわりは、ツヴァイゲルトレーベを例にとってみるとわかりやすい。ツヴァイゲルトレーベは冷涼な気候を好むため、北海道で広く栽培されている品種だ。北海道のツヴァイゲルトレーベは、ベリー系の華やかな香りと果実味があるのが特徴で、比較的飲みやすいワインに造られることが多い。
しかし、富良野エリアでツヴァイゲルトレーベを育てると、なぜかタンニンが非常に多く、舌がザラつくほど渋い。ワインにすると、色も味わいも濃く仕上がるという。
そのためふらのワインでは、富良野ならではの味わいをあえて生かし、長期熟成させている。しかも、樽で1年と瓶で4年、合計5年と長期間の熟成をさせるのだとか。
「5年間も熟成させたワインだと、通常は販売価格をかなり高く設定する必要がありますが、うちは市営ワイナリーなので、市民目線の価格設定と品質にこだわったものづくりを目指しています」。
せっかくほかにはないぶどうができたなら、富良野の特徴を生かしたワインにしようというのがふらのワインのスタンスである。一般的なイメージとは異なる味わいの長期熟成させたツヴァイゲルトレーベは、万人受けするわけではないが、ファンも非常に多い美味しさだ。
▶︎希少品種にも挑戦
ふらのワインのオリジナリティの追求は品種選びにおいても徹底されている。ハンガリーの品種「イルシャイ・オリヴェール」と、アメリカの品種「ニューヨーク・マスカット」というかなり珍しい品種も栽培しているのだ。
ニューヨーク・マスカットは香りがよく、ふらのワインで人気のロゼワイン『ソレイユ』として醸造される。
また、日本ではほとんど普及していない、リースリングの交配品種である「エーレンフェルザー」も導入している。エーレンフェルザーを使ったワインを醸造しているのは、日本ではふらのワインだけだ。ふらのワインがエーレンフェルザーに出会ったのは、カナダでのことだった。
「アイスワインを造るために、カナダに研修に行きました。いくつかのワイナリーを回った中で、非常に美味しいエーレンフェルザーのアイスワインをいただいたのです。香りが非常によく、ぜひ日本でも造りたいと考えました」。
アイスワインとは、ぶどうが樹上で凍結したタイミングで収穫し、凍ったままのぶどうを圧搾して造る甘口デザートワインのことだ。だが富良野の気候では、実が凍るまで実らせておくと、気温が低すぎてエーレンフェルザーは枯れてしまう。
そのためふらのワインでは、収穫したエーレンフェルザーをスティルワインとして醸造した。香りがよく美味しいワインに仕上がるそうだ。数量限定ではあるがリリースを続けている。
また、ふらのワインがメインとして使用しているぶどう品種のセイベルは、北海道でもほかのワイナリーではあまり使われなくなりつつある。5279を植えているのはふらのワインだけで、13053も減少傾向だ。
「セイベルは、単体での評価は決して高くはないのですが、ブレンドするとコンクールで受賞できるレベルのワインができます。セイべル5279を使った『バレルふらの』の白は、日本ワインコンクールやサクラアワードなどでの受賞歴が多数あります。うちでしか造れないものなので、オリジナリティのひとつだと思っています」。
周囲に流されることなく我が道を行くことで、ふらのワインはオリジナリティを極め、独自の強みにしているのだ。
▶︎醤油造りでの経験を生かす
製造課長を務める高橋さんは、北海道岩見沢市の出身。北海道大学を卒業後、群馬県館林市の「正田醤油」に就職し、4年ほど醤油造りに従事していた。
「北海道に帰ろうかというタイミングで、たまたま富良野市の醸造技術者募集の話を聞きました。醤油も醸造して造るものなので、学んだ技術が生かせるだろうと思って採用試験を受けたのです」。
醤油とワインには共通点が多いと高橋さんは言う。まず、どちらも酸化には非常に弱い。そのため、できるだけ酸化させないように造らなければならない。
また、どちらも製造の過程で衛生管理が非常に重要である。醤油はまったくの無菌状態で売られ、ワインもできるだけ余計な菌を入れないよう造らなければ、好ましくない香りや味が出てしまう。
「ワイン醸造では酵母や乳酸菌などを使うので、香りや味などのコントロールに必要な温度管理に対しても醤油造りの技術が役に立っていますね」。
醤油醸造で培った徹底した衛生管理の知識を、高橋さんはワイン醸造においても大いに役立てている。醤油造りの経験を活用してワインを造っている高橋さんは、少し珍しい経歴を持つ「公務員」醸造家なのだ。
▶︎高橋さんおすすめの銘柄
高橋さんの一番のおすすめのワインは、赤ワインの「羆の晩酌(ひぐまのばんしゃく)」という銘柄。絵本の表紙のような素朴で愛らしい羆(ひぐま)のイラストのエチケットがお土産にもぴったりの1本だ。
実はこのエチケットのイラストは、ドラマ「北の国から」の原作・脚本を手がけた倉本聰氏の娘さんのイラストなのだとか。
「倉本さんの娘さんは、富良野市在住のイラストレーターでした。ラベルデザインが可愛らしくてインパクトもあるので、ジャケ買いならぬ『エチケット買い』をするお客様も多いですね」。
「羆の晩酌」は、しっかりとした辛口タイプ。かなり濃い目でスパイシーな味わいだが、後味はすっきりしている。渋みは穏やかなので醤油を使った和食や、お好み焼きなどのソース味のものなど、幅広い料理に合わせやすい。使用している品種は、ふらの2号がメインで、ツヴァイゲルトレーベをブレンドしている。もし富良野まで直接足を運ぶ機会があれば、ぜひ地元の名物であるエゾシカ料理と一緒に味わってもらいたいそう。
また、ふらの2号単体で醸造したワインなら、高橋さんのおすすめは「アイスワイン f ルージュ」だ。
アイスワイン f ルージュは、国内初となる自然凍結によるアイスワイン。ぶどうを樹上で自然凍結させるためには、マイナス8度以下の気温が24時間以上続く自然環境が必要である。富良野はこの条件を満たすことができる国内でも数少ない地域なのだという。ちなみに、アイスワイン f ルージュは製造本数に限りがあるため、富良野市内でのみ販売されている限定商品となっている。運良く出会えたら、ぜひ味わってみたい1本だ。
▶︎クリアなぶどうの特徴を最大限に引き出す
高橋さんがワイン造りをする上で最もこだわっているのは、収穫したぶどうを醸造所に運んでから実施する選果の工程だ。
醸造所に運ばれるほとんどのぶどうが房のままなのだが、まずはその房に振動を加え、ふるいにかける。すると、ぶどうの粒に挟まった花のカスや、虫などを落とすことができる。
「ぶどうの房の間には、アリやテントウムシなど、いろいろな虫がいます。手で取り除くのは難しいのですが、電動で振動を加えるとポロポロと落ちてきます」。
振動をかけられたぶどうは、ベルトコンベアで運ばれる。ベルトコンベアの両サイドには3人ずつがスタンバイし、未熟なぶどうやカビのついたぶどうなどを見つけては取り除く。合計6人もの人員を使って選果をするワインとなると、通常のワイナリーであればプレミアム品として売り出さなければ採算が合わない。しかしふらのワインでは、リリースしているすべてのワインにおいて、6人での選果をおこなっているのだ。
選果されたぶどうは、粒と茎を分ける「除梗破砕機」にかけられ、ぶどうの粒は軸から外され、ばらばらの状態になる。このとき、ぶどうが機械によってたたかれるため、軸が折れてしまうことがある。すると、軸が粒と一緒にタンクに入ったりプレス機にかけられたりしてしまい、品種によっては青臭さが出てワインに悪影響を与える。そのため、ふらのワインでは2021年から、折れた軸を取り除くための機械も導入した。
「粒だけがきれいに回収できるようになりました。ここまでこだわると、ぶどう以外の余計な成分がワインの味に一切感じられなくなります。とにかくぶどうのニュアンスだけでワインを作ることを大切にしています」。
また、高橋さんはぶどうの品種それぞれに合った酵母選びにもこだわってきた。10年以上の研究を重ね、品種の特徴をもっとも強く押し出す酵母を見つけ出して醸造に使っている。
ぶどうだけのクリアな風味と、品種特徴を余すことなく贅沢に表現しているのが、ふらのワインのこだわりの味なのだ。
▶︎ふらのワインの未来
最後に、ふらのワインの未来について尋ねてみた。
「常に10年、20年後を見るようにしています。気象データを見ると、緯度が北になるほど、今後もより大きな気候変動が発生することが予測できます。これまでふらのワインでは、凍害対策や温暖化に対する施策を成功させた実績があります。今後も、データ解析に基づいて品種選定などをおこなっていきます」。
また、SDGsにも取り組むべきだと考えており、化学肥料や酸化防止剤の使用を徐々に削減していく方針だ。有機栽培なども視野に入れ、進め方を検討中だという。
さらに、新たな交配品種の候補もあり、やりたいこととやるべきことは山積みだと、なんとも楽しそうに話してくれた高橋さん。今後のふらのワインのために、将来を見据えて走り続ける高橋さんの、好奇心旺盛な少年のように輝く瞳が印象的だった。
『まとめ』
ふらのワインの醸造量は年間20〜30万本程度。ネットでの販売以外では、北海道限定での販売だ。今後は首都圏での販売も視野に入れているが、ぜひ富良野に来て、現地でふらのワインを味わって欲しいと話してくれた高橋さん。
「富良野には美味しい食材がたくさんあります。富良野の気候と風土で育った朝採れ野菜などの食材と一緒に、うちのワインを味わっていただくのがいちばん美味しいと思いますよ」。
富良野の美しい自然のなかでこだわり抜いて丁寧に造られた、ふらのワイン。地元の食材と一緒に味わうためなら、今すぐにでも飛んで行きたいものだ。
基本情報
名称 | 富良野市ぶどう果樹研究所(ふらのワイン) |
所在地 | 〒076-0048 北海道富良野市清水山 |
アクセス | JR富良野駅よりタクシーで5~10分 道央道三笠インターチェンジから乗用車で1時間 |
HP | http://www.furanowine.jp/ |