追跡!ワイナリー最新情報!『渋谷ワイナリー東京』大都市・渋谷で、ワインのテーマパークのような存在に

『渋谷ワイナリー東京』はその名のとおり、東京都渋谷区にある都市型ワイナリーだ。ワイナリーにはレストランが併設されており、自社醸造のワインと料理のペアリングが楽しめる。

渋谷ワイナリー東京の運営母体は、東京と大阪で都市型ワイナリーを経営する「株式会社スイミージャパン」。都市型ワイナリーの魅力はなんといっても、「造り手」と「飲み手」の距離が近いことだろう。渋谷ワイナリー東京は、ワイン醸造だけでなくワイン会や醸造体験などを通して、ワインが持つ楽しさすべてを体験できる場所をかたち作る。

株式会社スイミージャパンが運営するワイナリーは、日本各地だけでなく海外からもぶどう原料を調達し、バラエティ豊かなワインを造っているのが特徴だ。そして、渋谷ワイナリー東京が特に大切にしているのは、ぶどうの特徴をワインに表現すること。ぶどうの個性を輝かせるためにはどうすればよいかに焦点を当てる。

今回は醸造責任者の村上学さんに、渋谷ワイナリー東京の2022〜2023年についてのお話を伺った。新たな取り組みや今後実現するであろう企画など、渋谷ワイナリー東京の今に迫っていこう。

『さまざまな地域のぶどうから、個性あるワインを』

人とのつながりを大切にワイン造りをおこなう渋谷ワイナリー東京では、ぶどうはすべて生産者から購入している。そのため、よいぶどうを手に入れるには、まずは生産者を知ることが重要だ。

「渋谷ワイナリー東京のオープンから3年間で、さまざまな地域の生産者さんとのご縁ができました。ぶどうは収穫できるまで最終的な品質を確かめることができないため、生産者さんがぶどう栽培に取り組む様子や人柄で購入先を選ばせていただくことも多いのです」。

▶︎生産者やボランティアとのつながりを大切に

絆を大切にする渋谷ワイナリー東京では、ぶどうの収穫時にはできるだけ現地に出向く。収穫や選果にはワイナリースタッフだけでなくボランティアも募るため、ここでも「人とのつながり」が生まれる。

「現地でのボランティアに参加いただいた方は、自分が携わったぶどうがどんなワインになるかに興味をもって、出来上がったワインを飲みにお店に足を運んでくださるのです。コロナ禍では実現できなかった『人とのつながり』を持つことがようやく実現できるようになり、本当に幸せですね」。

また、醸造所での仕込みの際にも、除梗・破砕を手伝ってくれるボランティアを募集しているそうだ。ボランティアの募集情報は公式SNSで発信しているので、参加してみたい方はチェックしてみてはいかがだろうか。

▶︎ワイン醸造におけるこだわり

渋谷ワイナリー東京では、日本の生産者のぶどうだけでなく、海外産の原料も使用している。いろいろな地域のぶどうを扱っていることがワイナリーの強みだ。

また、原料だけでなく「造り」に関してもバリエーション豊富なのが特徴。同じ原料を使っても、昨年と同様のワインにするとは限らない。

「すべてが『一期一会』ですね。産地と品種が同じぶどうであっても、去年と同じ味や香りというわけではありません。そのため、まったく同じワインは造れません。幸いにも、渋谷ワイナリー東京に来てくださるお客さまには、『いつものこの味でなければイヤだ』という方はほとんどいません。今日はどんな新しいワインが楽しめるのだろうかという期待を持って来店してくださるのです」。

渋谷ワイナリー東京のワインを喜んでくれるお客様がいるからこそ、安心して自由なワイン造りができる。ワイン造りに対する自由度の高さこそが、渋谷ワイナリー東京の強みのひとつなのだ。渋谷ワイナリー東京ならではのワインの特徴を生かすため、今後もできるだけぶどうの地域や品種はバラエティに富んだものにしたいと考えているという。

ちなみに「同じワインは造らない」と話してくれた村上さんだが、今までに造ったワインの記録はデータとしてすべて残しているという。

「醸造日記を毎日つけています。趣味のひとつと言えるかもしれませんね」と、笑う村上さん。ワインのことを考えるのが楽しくて仕方がないという様子がひしひしと伝わってきた。

▶︎個性こそがワインの魅力

「私はよく、ワイン醸造を子育てに例えます。子育てと同じで、ワイン造りも正解はひとつではありません。『うちは医者の家系だから、この子は医者にしよう』と親が考えた場合、子供が医者になれなければ、その子育ては失敗になってしまいますよね。それと同じで、ワインに『毎年同じ味』を求めると、『求められる味にワインを近づける』ための醸造になってしまいます。しかし、ぶどうの糖度や酸などは年によって異なるので、その違いを生かしたワイン造りをしたいのです」。

渋谷ワイナリー東京のワイン醸造では、「どんなワインになりたいの?」とぶどうに問いかけて、ぶどうの声に耳を傾ける。大きく道を踏み外すことのないように支えるが、基本的には見守るというスタイルだ。

「赤ワイン用品種でも、色付きが薄めであれば、軽やかさを生かしてロゼにします。個性を尊重することが大切なので、あえて赤ワインにする必要はないのです。それに、個性のあるワインの方が、飲み比べをしたお客様から率直な感想をいただけますよ。さまざまな人が行き交う渋谷という街ならではのワイン造りかもしれませんね」。

それぞれの個性が魅力を発揮できれば、多様性を容認することにもつながる。万人に好まれるワインを目指さなくても、必ず「好きだ」と感じてくれる人はいる。

ぶどうに真正面から向き合い、個性を大切に醸造している渋谷ワイナリー東京。いざ造り始めてみたら、最初の想定とは違う方向に向かったということもある。だが、それすらもぶどうの個性と捉えて、渋谷の街でのワイン造りを楽しむのだ。

『渋谷ワイナリー東京 最新のワイン醸造』

続いては、具体的なワイン造りのエピソードに移りたい。渋谷ワイナリー東京では2022〜2023年にどのようなワイン醸造をおこなったのだろうか。

限られたスペースで醸造する都市型ワイナリーのため、見学に訪れるほかのワイナリーの醸造家たちは、渋谷ワイナリー東京の醸造スペースのコンパクトさに驚くという。

▶︎スケジュール調整の難しさ

「作業スペースを確保するために、タンクの上に一時的に物を置くなど、立体的に空間を活用しています。置き場所がないので機器は増やさず、可能な限り手作業で仕込んでいます。醸造工程を無理なく手作業で終えられるよう、原料ぶどうは800kg単位で仕入れます。しかし、仕入れのタイミングや作業スケジュールを調整することが難しいこともあります」。

例えば、渋谷ワイナリー東京ではオーストラリアからも原料を調達している。海外原料を使用する場合、醸造のスケジュールを立てやすいのがメリットだ。貨物の入港予定と検疫の日程を考えることで、引き渡しがいつになるかという予定が1週間以上前にわかるからだ。

渋谷ワイナリー東京の醸造スケジュールを具体的に見てみよう。まず、南半球に位置するオーストラリアの場合、ぶどうは3月に収穫される。搾汁した果汁またはもろみは新鮮なまま急速冷凍され、ドラム缶に入れた状態で輸入。原料が届くのは夏頃だ。例年7月末から一部の原料を解凍して醸造作業をスタートし、造りきれなかった分は冷凍のまま保管して次のタイミングに回す。

続いて、9月頃からは日本産ぶどうの収穫が始まる。天候によって収穫時期が前後することも多く、自分たちの都合でスケジュール調整をすることはできない。また、日本の原料は保管がきかないため、届き次第すぐに醸造を開始する。

そして、日本ワインの醸造がひと段落した翌年の1月頃から、冷凍保管していた海外原料でのワイン造りを再開するのだ。

当初、「南半球の原料を使えば日本と収穫時期が真逆になり、常に醸造を回せる」と考えて輸入を始めたのだが、実際には原料が届くのは7月頃。想定以上の時間がかかっているため、今では別のアイデアを温めている最中だという。

「今後はヨーロッパ産の原料を使うことを視野に入れています。輸送にかかる時間を考えると、南半球よりもヨーロッパからぶどうを調達したほうがうまいぐあいに醸造スケジュールを調整できるのではないかというわけです」。

渋谷ワイナリー東京では、今後もバラエティに富んだワイン造りを進めていく。スペインやイタリア、さらに北米や南米のぶどうを使ったワインが、近々ラインナップするかもしれない。

▶︎スパークリングワインに注目

2022〜2023年の渋谷ワイナリー東京では、スパークリングワインの醸造にも力を入れた。

「特に、『ペット・ナット』に可能性を感じています。特別な機器を使用しないペット・ナットは、小規模ワイナリーに非常に合っている醸造スタイルだと思いますよ」。

ペット・ナットとは、微発泡で口当たりの優しいスパークリングワインで、多くの場合酵母を除去しないので濁りがあるのが特徴だ。フランス語の「Pétillant Naturel(ペティアン・ナチュレル)を略して、「Pet Nat(ペット・ナット)」と呼ばれるようになった。

渋谷ワイナリー東京がスパークリングワインに力を入れることにしたのは、「レストランで食事をする際に、乾杯から渋谷ワイナリー東京のワインを飲んで欲しい」という思いから。渋谷ワイナリー東京を訪れるお客様の多くは1杯目として発泡したお酒を注文するため、スパークリングワインの醸造を決意したのだ。

「瓶内二次発酵のスパークリングワインだと、長期間貯蔵するスペースが必要なので、造る想定をしていなかったのです。しかし、瓶内一次発酵のペット・ナットなら比較的短期間で造れます。瓶内二次発酵のスパークリングワインも少量ずつですが造り始めました。お客様にも好評ですよ」。

2023年に醸造したスパークリングワインは、デラウェアのオレンジスパークリングと、オーストラリアのソーヴィニヨン・ブランで造ったスパークリングだ。2023年10月末のハロウィンパーティーとクリスマスパーティーのときにお披露目し、大好評だったという。

「みなさん美味しいと言ってくださったので、嬉しかったですね。フルーティーな辛口に仕上がり、満足のいく出来でした。澱(おり)に旨味があり、濁りまで魅力的なスパークリングワインができました」。

今後も渋谷ワイナリー東京では、スパークリングワインを積極的に生産していく。スパークリングワインの醸造は、残糖分と気圧の計算さえ間違えなければ微生物汚染などのリスクも少なく、非常に造りやすいのだとか。店舗を訪れた際には、渋谷ワイナリー東京自慢のスパークリングワインで乾杯するのがおすすめだ。

▶︎スチューベンから複数種類のワインを

次に、直近のワイン造りの構想や、新たな取り組みについて見ていこう。

「スチューベンを使って、赤と白のワインを両方造るという試みをしました。通常は800kg単位で原料ぶどうを仕入れていますが、2種類のワインを同時に造ろうと考えて1.600kgを仕入れたのです」。

2種類のワインを同時に造る方法は、次のとおりである。まずはぶどう全体を除梗破砕し、出てきた果汁を白ワインにする。そして、タンクに残った醪(もろみ)すべてを醸し発酵して、赤ワインにする。そうすることによって、同じ原料から最小限の手間と機材で2種類のワインが出来上がるというわけだ。

またこの方法は、通常の2倍の量の醪で赤ワインを醸すことになるため、通常よりも「濃い赤ワイン」ができるというメリットもある。

ちなみに、出来上がったスチューベンの赤ワインにはシャルキュトリー(肉加工食品)の盛り合わせ、白ワインは野菜中心の前菜の盛り合わせが合うという。渋谷ワイナリー東京のレストランでは、シェフがワインの味に合わせた料理を提供してくれるとのことだ。

「白ワインと赤ワイン以外に、スチューベンの味わいの特徴を生かせるロゼも造るかもしれません。また、スパークリングワインにする予定もあるので、多彩なスチューベンワインを楽しみにしてほしいですね」。

『イベント・企画開催にも積極的』

最後のテーマは、渋谷ワイナリー東京が実施・参加する「イベント」や「企画」について。「ワインのテーマパーク」を掲げる渋谷ワイナリー東京は、ただワインを提供するだけのワイナリーではない。ワインにまつわるあらゆる企画に取り組み、地域とともにワインの素晴らしさを発信するのだ。

渋谷ワイナリー東京がおこなっている取り組みを紹介していきたい。

▶︎ワイン会を大切に

渋谷ワイナリー東京は、「生産者」「造り手」「消費者」が交流できる「ワイン会」の場を大切に考えた活動をおこなってきた。コロナ禍を乗り越えて、2022年からはワイン会の実施を再開し、今後はほぼ毎月のペースで実施していくという。

ホールスタッフが「醸造補佐」としてワイン造りに携わっている渋谷ワイナリー東京では、スタッフが臨場感を持ってワイン醸造について説明できる。「ワインの裾野を広げたい」という会社の理念を、そのままあらわしたような体制が魅力的。ワイン会に参加すれば、造り手たちの生の声を聞けるだろう。

「うちのワイン会はぶどう生産者さんをお呼びすることもあり、生産者のみなさんに感謝を伝えるよい機会です。生産者と消費者を繋げる場として、今後も続けていきたいですね」。

▶︎「渋谷」という地域に深く根ざすワイナリーへ

渋谷という街には、渋谷にしかない個性がある。渋谷でワインを造ることの意義について尋ねてみた。

「渋谷という場所で活動していると、さまざまな方からコラボのお声がけをいただき、とても楽しいです。今後も渋谷の企業や学校、プロ・スポーツチーム、地元の商店街などとコラボしていきたいですね」。

2023年11月、渋谷では「忠犬ハチ公生誕100年」のイベントがおこなわれた。イベントのために渋谷ワイナリー東京が造ったのが、「スクランブルクロス」という銘柄。渋谷ワイナリー東京には珍しいブレンドワインだ。

「山梨のデラウェアと、秋田県大館(おおだて)市のナイヤガラをブレンドしたワインを造りました。現在の大館市はハチ公の生まれ故郷なので、どうしても大館のぶどうを使いたかったのです。縁あってなんとか原料を仕入れることができました。渋谷の観光協会や大館地域の方とも何度も話し合って実現した企画です」。

渋谷ならではの取り組みを今後も続け、地域に根ざした存在になっていきたいと考えている渋谷ワイナリー東京。今後目指すのは、渋谷でしかできないワイン造りや体験の提供を追求すること。渋谷ワイナリー東京は、これからも地域のストーリーを感じられるようなワイン造りに全力で取り組んでいく。

『まとめ』

2022〜2023年も、年ごとの個性あふれるワインを造った渋谷ワイナリー東京。2023年にはスパークリングワイン醸造を本格的に開始し、レストランで乾杯する際の選択肢が増えた。

「渋谷ワイナリー東京の自由度の高さは、小さいワイナリーだからこその強みでもあります。また、お客様の反応を間近に見ることができる環境だからこそ、あえてニッチな方向に突き進めるのかもしれません。これからも安心して、個性丸出しのワインを造っていきたいですね。ぜひInstagramのアカウントをフォローして、イベントにご参加ください」。

また、株式会社スイミージャパンでは、ワイン醸造やレストランだけでなく、新規ワイナリーのプロデュース業・コンサルティング業にも力を入れている。ワイナリーをやってみたいという人がいたら、ぜひ相談してほしいということだ。

ワインに関するさまざまな分野で活躍する渋谷ワイナリー東京の今後の動きから、ますます目が離せない。


基本情報

名称渋谷ワイナリー東京
所在地〒150-0001
東京都渋谷区神宮前6-20-10
MIYASHITA PARK North 3F
アクセスJR山手線 渋谷駅より徒歩5分 
東急田園都市線 渋谷駅より徒歩5分
HPhttps://www.shibuya.wine/

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