追跡!ワイナリー最新情報!『月山ワイン山ぶどう研究所』糖度の高いぶどうが採れた2021年はワインの出来に期待大

「月山ワイン山ぶどう研究所」は、日本古来のヤマブドウと、ヤマブドウの交配品種を中心にワインを醸造している。
「月山(がっさん)」とは、ワイナリーがある山形県鶴岡市から望むことができる火山。月山ワイン山ぶどう研究所は、月山が見渡せる一帯に古くから自生していたヤマブドウで、1979年にワイン醸造をはじめた歴史あるワイナリーだ。 

「山ぶどう」をワイナリー名に冠していることも珍しいが、月山ワイン山ぶどう研究所は運営母体が「農協」である点でも稀有な存在だ。およそ130の契約農家たちとの二人三脚で、品質の高いワインを生産している。 

月山ワイン山ぶどう研究所のワインは、山形という豪雪地帯ならではの「個性」を出すことを目指して醸造されているのが特徴だ。ぶどう本来の味を追求し、品種やテロワールの魅力を引き出したワイン造りは高く評価されている。

月山ワイン山ぶどう研究所の「ソレイユ・ルバン」シリーズのワインはコンクール受賞歴も多数。特に「ヤマソービニオン」や「甲州」を使ったワインの評価が高い。 

今回は、月山ワイン山ぶどう研究所の「2021年のぶどう栽培とワイン醸造」についてお話を伺った。ワイナリーがたどった1年間の出来事を共に追っていこう。

『糖度が上がった2021年のぶどう ぶどう栽培の奥深さを改めて知った年』

昨年、2020年は想像を超えた豊作の年だった月山ワイン山ぶどう研究所。農協が運営しているワイナリーなので、ぶどうを栽培しているのは農家組合員たちだ。
生産者自身も驚くほど、たくさんのぶどうが収穫できた年だった。 

続く今年、2021年のぶどう栽培はどうだったのかが気になるところ。今年度新たに所長に就任された、成澤 健さんにお話を伺った。 

▶高品質のぶどうが収穫できた2021年

「昨年、2020年は近年まれに見る豊作だったため、醸造用タンクがいっぱいになるほどでした。ところが2021年は、収量が落ちました」。

収量が落ちた理由としては「ぶどうの樹の疲れ」が原因として考えられている。植物にとって、実をつけるには非常にたくさんのエネルギーとする。
2020年に多くの実をつけすぎたことで、翌年に結実させるエネルギーが残っていなかった可能性があるのだ。

収量が下がればワイン生産量も少なくなる。ワイナリーにとって難しい年だったのではないか?成澤さんに尋ねると、返ってきた答えは意外なものだった。
「昨年よりも収量が大幅に減ったとはいえ、実は醸造量的には十分でした。むしろ収穫量が下がったことで、一粒一粒の品質が上がりました」。

しかし、2021年には予測しなかった現象が起こった。ぶどうは通常、品種によってある程度の収穫時期が予測できる。しかし、2021年はいつもの順番通りとはならなかった。収穫の遅い品種が早く採れ、遅い品種が早く採れるなどてんでバラバラ。経験豊富な契約農家も困惑するほどだった。

「天候の影響もあるかもしれませんが、農家さんと話をしていると『2020年が豊作すぎて、樹が混乱してしまったのでは?』なんて話にもなりました。そのくらい、不思議な現象でした」。

何十年とぶどうを栽培していても、原因が解明できない現象に直面することがある。ぶどう栽培は、毎年何が起こるかわからない。臨機応変さが求められ、プロの技術と経験の必要性が改めて実感させられる。

例年にない2020年の豊作を経て、高品質なぶどうを生み出すことができた2021年の月山ワイン山ぶどう研究所。2021年のワインがリリースされたら、2020年ヴィンテージと比較してみるのもよいだろう。ぶどうの性質の違いを感じることができるはずだ。

異なるヴィンテージのワインを飲み比べて、ぶどう栽培の様子を思い描いてみたい。自然の不思議がワインにダイレクトに映り込む様子を楽しむのが、ヴィンテージ比較の醍醐味だ。

▶急な寒暖差に救われる 読めない天気が続いた年

ぶどう栽培にとって、最も大切な要素とも言えるのが「天候」。
2021年の天候はどのようなものだったのだろうか。

「一言でいうと、安定しない天候の1年でしたね。やはり温暖化の影響というべきでしょうか」。

過去にはなかったタイミングで雨が降るなど、天候が予測しづらいところがあったという。一部のぶどうには病気も見られたが、最終的には問題なく収穫できた。

糖度が大きく上がった2021年のぶどうだったが、実は糖度の上がるタイミングが例年よりも遅く、生産者たちをヒヤヒヤさせていたという。

ぶどうの糖度が大きく上がる原因は昼夜の気温の寒暖差だ。今年は収穫時期が近づいても、十分な寒暖差が生まれない日々が続いた。
しかし収穫直前になって急激に寒暖差が出たことで、糖度が大きく上昇した。
「結果として、昨年よりも1週間から10日ほど早く収穫を始めることができました」。

▶変わらない絆 130件の契約農家との関係

月山ワイン山ぶどう研究所の契約農家数は、2021年時点でも昨年と変わらず130件前後。年齢的な理由で廃業する方もいるものの、契約農家の総数や栽培面積に大きな変化は見られない。

各地で耕作放棄地の問題が増加の一途をたどる中、なぜ月山ワイン山ぶどう研究所の契約農家にはマイナスの影響が少ないのだろうか。

「跡継ぎがおらず辞める農家さんがいても、畑がそのまま放棄されることは少ない。次の代がいる農家さんの畑として集約するケースが多いですね」。
少なくとも向こう2〜3年は、ワインの生産量に影響が出るような変化は出ないだろうと成澤さんは分析する。

月山ワイン山ぶどう研究所は、農協と地域の農家たちが協力して発展させてきた歴史があるワイナリーだ。ワイナリーとぶどう農家の絆は固い。
地域全体の力で、今後もワイン造りの品質をさらに向上させていくことだろう。

『ぶどうのポテンシャルを最大限発揮するワイン醸造に取り組む』

続いては、2021年のワイン醸造について見ていこう。高品質なぶどうが収穫できた2021年、ワインはいったいどんな味わいに仕上がるだろうか。醸造の様子や、今年度の取り組みを紹介したい。

▶ぶどうのよさがワインのよさに 期待かかる2021年ヴィンテージ

「2021年の新酒ワインはすでに完売しました。品質についてもご好評いただいています」と成澤さん。新酒ワインとしてリリースされたのは、デラウエアを使用した白ワインだ。糖度の高さから、ほどよいボリュームが感じられる仕上がり。酸も十分で、新酒ながらも飲みごたえがあるワインになった。

続いては、ヤマソービニオンを原料としたワインの醸造経過について紹介しよう。ヤマソービニオンは、月山ワイン山ぶどう研究所が醸造する赤ワインの主要品種だ。

「2021年のヤマソービニオンの品質が特に素晴らしかったため、ワインになったときの品質も大変期待できます。ワインの出来はぶどうの品質が8〜9割といいますからね」。なお成澤さん自身が好きな自社のワインも、ヤマソービニオン主体の赤ワインなのだそうだ。

2021年のヤマソービニオンは、糖度の基準を大幅に越えた果実がたくさん収穫できた。ぶどう本来のポテンシャルの高さを生かした醸造を目指し、現在は熟成工程に入っているところだ。

ヤマソービニオンの2021年ヴィンテージはすぐに飲めるわけではない。飲み手からすると「もどかしい」と感じるかもしれないが、最低でも1〜2年はじっくりと熟成させる。

「不安もありますが、これからどのように味わいが変化していくか、ワインの成長を楽しみに待ちたいですね」。ヤマソービニオンは豊富な酸があり、長期熟成に向いたぶどう品種だ。熟成期間を経て、さらに味に深みが付与されていくことだろう。

月山ワイン山ぶどう研究所では、2021年4月に行われた「フェミナリーズ 世界ワインコンクール」で、「ソレイユ・ルバン ヤマソービニオン」が見事、金賞を受賞。新型コロナウイルスの影響で世界各国のワインコンクールが相次いで中止になるなか、数少ない開催コンクールで勝ち取った金賞だった。

「2021年ヴィンテージができあがったら、引き続き受賞できたら嬉しいですね。やはりコンクールで賞をいただくことは、造ったものを認められたという嬉しさがありますから」。

高品質なぶどうが持つ本来の力を引き出した醸造で、周囲を納得させられるワインを目指す月山ワイン山ぶどう研究所。2021年ヴィンテージは、ぶどうの美味しさを存分に感じられる「当たり年」になるかもしれない。

▶月山ワイン山ぶどう研究所の味を継承することの大切さ

月山ワイン山ぶどう研究所の2021年のワイン造りは、後継者育成に力を入れた1年でもあった。前任者の技術や知識を引き継ぎながら、月山ワイン山ぶどう研究所ならではの味を表現することに努力を重ねた。

「初めてやることに対する苦労はもちろんあります。醸造方法や経験はしっかりと記録されているため、まずは記録を参考にしつつ実戦経験を重ねることが大切。基本に忠実に、醸造作業を行っていきたいです」。

長くワイナリーが続く以上、醸造担当者の入れ替わりは避けることができない。大切なのは、今まで積み重ねてきた「ワイナリーの味」を、次の担当者に継承していくことなのだ。

今は「新しいことへの挑戦」よりも、月山ワイン山ぶどう研究所の味を引き継いで表現していくことに実直に取り組みたいと話す成澤さん。「近道はないと思うので、まずは基本に忠実に造ることですね」。

月山ワイン山ぶどう研究所が今まで造ってきた味を表現し続けること。成澤さんの言葉の端々からは、背負う責任の重さが感じられる。

『3つの困難を乗り越えて 2022年も変わらない味を追求する』

月山ワイン山ぶどう研究所が目標にしていること、これからすべきこととは一体何だろうか。次年度に向けた思いや目標を紹介していきたい。

「2020年から2021年にかけては3つの苦難があり、その影響が今なお続いています。次年度もこれらの影響を乗り越えるための努力が続くでしょう。ワイナリーのメンバーが力を合わせて、当たり前のことを当たり前にできるようになるように、努力を続けたいです」。

月山ワイン山ぶどう研究所が2020年に直面した3つの苦難。ひとつめはワイナリーを襲った集中豪雨、ふたつめは新型コロナウイルスの影響、そして最後がワイナリー内の体制変更だ。

▶2020年に起こった集中豪雨被害からの立て直し

集中豪雨が起こったのは、2020年7月。国道沿いにあるワイン貯蔵庫が浸水し、なんと1万本近くのワインが廃棄せざるを得ない事態におちいった。

「貯蔵庫の側には沢が流れているのですが、水があふれて貯蔵トンネルまで流れ込んでしまったのです。トンネルには泥水が入り込み、ワインが売り物として提供できなくなってしまいました」。
瓶の中に泥水が入ったわけではなかったが、廃棄処分にすることを判断した。

大きな損害になったが、浸水した一部のワインは「足湯」用途や「シルク染め」の原料として利用してもらうことができた。
「行政も応援してくれました。地域の皆さんの協力のおかげで、一部でも流用できて本当に救われました」。

▶新型コロナウイルスの影響 イベントも徐々に増やすことができれば

新型コロナウイルスによる販売量の低下からも、大きな影響を受けた。新型コロナウイルス流行前と比較して売り上げは2〜3割減少。飲食店や酒屋からの注文が減ったことが大きい。
また2020年にぶどうの豊作によって在庫が増えたことも、困難な状況に拍車をかけた。しかし苦難の時期を乗り越え、2021年10月下旬頃からは注文の復活が見られているという。

2022年は、状況が落ち着けばイベントの開催が再開される可能性もある。新型コロナウイルス流行前には毎年9月に行われていた「月山ワイン祭り」の開催についても、今後の進展に注目したい。

▶新体制の安定稼働に向けて

月山ワイン山ぶどう研究所では、新体制でスタートを切ったワイナリーの安定稼働に向けた取り組みも、引き続き目標に掲げていく。メンバー全員で前任者が今までやってきたことを共有し、知識と経験両方を積んでいくことを目指す。

月山ワイン山ぶどう研究所では、契約農家が栽培しているぶどう畑の栽培データを細かく収集している。蓄積された、ワイン造りに必要不可欠な情報は、醸造をするうえで参考になる大きな財産だ。

「皆で協力しあい、月山ワインの味を引き継いでいきます。今、一番大切なことだと思っています」。

新体制で始動した、2021年の月山ワイン山ぶどう研究所。たゆまぬ努力を続ける造り手たちを、2022年ヴィンテージも引き続き応援していきたい。

『まとめ』

月山ワイン山ぶどう研究所にとって、2021年は変化の1年だった。しかし、「ワイナリーとしてできること」を明確に見すえる月山ワイン山ぶどう研究所が目指す目標に真摯に取り組む姿勢は今までと変わらない。

ワイナリーとしてできることとは、シンプルなふたつのこと。品質の高いぶどうから、ぶどうとテロワールの個性を引き出したワインを醸造すること。そしてワイナリーの味を新しいメンバーで継承し、引き続き表現していくことだ。

非常に高品質なぶどうに恵まれた2021年。熟成中のワインがリリースされるのはまだ数年は先のこと。どのような味に育って飲み手を驚かせてくれるのか、今から楽しみでならない。

既にリリースされている月山ワイン山ぶどう研究所のワインを味わいつつ、2021年ヴィンテージのリリースを心待ちにしたい。


【月山ワイン山ぶどう研究所】山形ワインの個性表現を追求する、異色の「農協」ワイナリー

基本情報

名称月山ワイン山ぶどう研究所
所在地〒997-0403
山形県鶴岡市越中山字名平3-1
アクセス羽越線鶴岡駅より車で40分
山形道月山ICより国道112号線を酒田・鶴岡方面に直進で25分
HPhttps://www.gassan-wine.com/index.html

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