追跡!ワイナリー最新情報!『BookRoad~葡蔵人~』魅力的なイベントとワインが生まれた1年

東京都台東区の下町にあるワイナリー「BookRoad~葡蔵人~」。御徒町駅から徒歩6分ほどの場所にある醸造所では、ひとりの女性がワインを醸す。醸造責任者の須合美智子さんだ。

BookRoad~葡蔵人~は、料理店を展開する有限会社K’sプロジェクトが運営母体。須合さんは料理店のパートとして働いていたが、ワイナリー事業の参加に名乗りを挙げて醸造家になった。

人との絆や縁を大切に考えているBookRoad~葡蔵人~。掲げる目標は、ワインで笑顔を届けることだ。ワインに使用するぶどうは、契約農家と二人三脚で栽培したもの。ぶどうの個性を生かすため、シンプルな方法で醸造されるワインは親しみやすい味わいだ。

2021年、BookRoad~葡蔵人~はどんな1年間を過ごしたのだろうか。ぶどう栽培やワイン造り、また新しい試みやイベントについて話を伺った。

『2021年のぶどう栽培と新たな品種』

BookRoad~葡蔵人~は、契約農家のぶどうからワインを醸造している。2021年のぶどうの出来や栽培の様子はどんなものだったのだろうか。ぶどう栽培の新たな取組についても紹介したい。

▶雨に悩まされつつもぶどうは軒並み高品質

「2021年は雨が多かったです。病気の発生に気を遣った1年でした」。

必要以上に晴れたり雨が降ったりと、極端な天候はぶどう栽培のトラブルが起きやすい。栽培上気になる様子が見られるときは、現場にいる契約農家から須合さんに逐一報告が来る。

2021年は、度重なる雨でぶどうに病気の発生が見られたため、契約農家と栽培方針の話し合いを丁寧に行った。須合さんから依頼したことは、畑を十分に観察してもらうことと、病気が発生したら、早期に対処してもらうこと。
降雨は避けようがなく、病気発生自体を防ぐのは難しいが、適切な対策を行えばダメージを最小限にできるからだ。

雨の影響は収穫作業にも響いた。よいワインを造るためには、ぶどうを最高の状態で収穫し、速やかに醸造作業に移ることが重要になる。そのため収穫日を起点とした醸造スケジュールは、事前に綿密に調整する。しかし2021年は、収穫予定日の多くが雨模様だった。雨が降っていると収穫作業が難航するため、通常は日程をずらすしかない。

「困ったことに、『その日しか収穫できるタイミングがない』という日に限って、雨だったこともありました。ぶどうをピックアップに行く日程にも関わるため、一度収穫をずらすと醸造スケジュールの調整が困難なのです」。
収穫予定日を逃すとぶどうのピークが過ぎてしまうと判断した須合さんは、契約農家に相談。雨の中、収穫を決行してもらった。

一部収穫日がずれ込んだ畑では収量が減少したものの、全体として見れば十分な量が確保できた。
「むしろ2021年は、収量が多すぎるくらいでした。醸造できるワインの量には限りがあり、ぶどうが多すぎても困るため、次年度の課題として話し合いをしました」。

ぶどうは生き物だ。長期間保存しておくことはできないため、多すぎてもいけないのである。醸造量とのバランスを考え、適量の収穫を目指す必要がある。

「雨や収量の問題などはありましたが、品質は非常によいぶどうを買い取ることができました。すべて契約農家さんのおかげです」。

契約農家によって丁寧な選果が行われているため、傷んだぶどうが醸造所にやってくることはない。契約農家を信頼し尊敬している須合さんの姿勢は、お互いのつながりを強め、高品質なぶどうを生み出すのだ。

▶新しい品種が収穫できた2021年

2021年、BookRoad~葡蔵人~の醸造所には、新たなぶどう品種が到着した。

いずれも赤ワイン用のぶどう品種、「ピノ・ノワール」「シラー」「プティ・ヴェルド」だ。

ピノ・ノワールの2021年収穫量は1,000kgほど、シラーとプティ・ヴェルドも少量が届いた。じゅうぶんな量があるピノ・ノワールは、単一品種を使用した贅沢なワインに仕上げる。

一方、シラーとプティ・ヴェルドは現在どのように使用するか考案中。単一品種のワインにできる量ではないため、おそらくアッサンブラージュ(ブレンド)に使用されるだろう。最終的にどんなワインに仕上がるか、興味が尽きない。

新しい3つの品種は、契約農家が今後力を入れていく予定の品種であり、次年度以降収量が上がっていく可能性が高い。シラーやプティ・ヴェルドの単一品種ワインを楽しめるのも近いかもしれない。乞うご期待だ。

「契約農家さんの丁寧な作業のおかげで、さまざまな品種のぶどうが収穫できています。2021年は初めて『傘掛け』を手伝いに行きました。想像を超えた大変さで、改めて農家さんの苦労を実感できました」。

傘掛けとは、ぶどうの房にひとつひとつ「覆い」を付けていく作業のことだ。雨に弱いぶどうを保護する役割があり、ぶどう栽培において、重要な作業工程のひとつである。

地道な作業を毎年欠かさず行うことで、高品質なぶどうが生まれている。そして、高品質なぶどうから、上質なワインができるのだ。BookRoad~葡蔵人~のワインは、製造工程に関わるすべての人の努力と思いの結晶だ。

『よいぶどうからよいワインが生まれた2021年』

続いてはBookRoad~葡蔵人~のワイン醸造と、開催したイベントをみていこう。

2021年ヴィンテージのワインはどのような出来なのだろうか。また新しい試み「醸造家体験イベント」とは。

ワイン造りにまつわる興味深い最新エピソードを、ひとつひとつ紐解いていこう。

▶ぶどう本来の味を表現できたヴィンテージ

BookRoad~葡蔵人~の2021年ヴィンテージのワイン造りはほぼ完了。シーズンを振り返ると、例年通りの仕上がりにまとまったものもあれば、とりわけ香りがよく出たワインもあった。お客様から高い評価をもらったワインもあり、総じてよい出来のヴィンテージになった。

2021年ヴィンテージのワインに対し、須合さんは「美味しいぶどうが持つ、本来の特徴を引き出せた」と話す。

「よいワインになるのは、よいぶどうが届くからです。契約農家さんの、高い栽培技術のたまものです。ぶどうの持つ力を醸造で引き出せているのが自分だとしたら、こんなにも嬉しいことはありません」。

須合さんはどこまでも謙虚に、よいワインはぶどうのおかげであることを強調する。自身の醸造技術を「まだまだ不十分」と厳しく評価しているのだ。

どうやったら美味しいワインができるのか、求める味を表現するためにはどんな醸造技術が必要なのか。日々悩み、葛藤している須合さん。眼差しは穏やかだが、言葉からは純粋な向上心や、ワインへの思いの強さがうかがえる。

BookRoad~葡蔵人~のワインが、ぶどうのよさを豊かに表現できていることは事実。シンプルな醸造でぶどうのよさを素朴に引き出すワインを造れているのは、須合さんの人柄や探究心の成せる技だ。

ワイン造りに関わった人々が、シーズン中に事故や大きなトラブルなく過ごせたことに、安堵と感謝の気持ちを表す須合さん。2021年のよかったことを尋ねると「今年もみんな健康だったことと、無事にワインができたことがよかったことですね」と、シンプルな喜びを語ってくれた。

BookRoad~葡蔵人~は人の温かさ、さりげない日々を大切に思う気持ちに満ちている。人に対する優しい思いや態度は、自然とワインの味に表現される。大切な人と幸せを感じる場面で飲むワインとして、ぴったりだ。

▶2021年ヴィンテージの銘柄 自信につながるワイン

BookRoad~葡蔵人~の2021年ヴィンテージは、既にリリース済みの銘柄が多数ある。お客様から嬉しい感想も届いており、須合さんの励みになっているという。

お客様からの評判が特に高かった、3つの銘柄を紹介していこう。

まずは、茨城の農園で育てているぶどう品種「富士の夢」のワイン。「昨年と醸造工程を少し変えたのですが、それが影響したのか、よい香りが出せました」。品種の個性である濃い色調と、華やかな香りが美しく表現された1本だ。

また、白ワインの「シャルドネ」は、発売直後から大人気の銘柄。大絶賛の声が上がったワインで、万人におすすめできるものに仕上がった。深い味と香りを持ち、豊かな気分にさせてくれるワインだ。

3つめに紹介するのは、「デラウェアスパークリング」。須合さんが今までに造ったデラウェアスパークリングの中で、もっともよい出来と呼べるものになった。爽やかさとまろやかさが調和した、どんなシーンにも合うスパークリングになっている。

発売中の2021年ヴィンテージワインは、完売間近な銘柄も多い。特に「シャルドネ」と「デラウェアスパークリング」は大人気で、オンライン販売分の在庫が残り少ないという。気になっている人は、早めに公式ホームページをチェックしてみてほしい。

▶新イベント「醸造家体験」

BookRoad~葡蔵人~では2021年、注目の新イベント、「醸造家体験」ができる企画が開催された。気になる内容を説明しよう。

醸造家体験イベントは、参加者主体でワインを醸造する試みだ。まず参加者自身に、どのようなワインを造りたいか決めてもらう。2021年は赤ワインならカベルネ・ソーヴィニヨン、白ワインなら甲州を使用したワイン造りをした。

ぶどうの収穫作業から参加してもらい、その後の仕込み作業も、実際に自分で行うのだ。搾汁から濾過瓶詰めまでを本格的に体験して、参加者はまさしく「醸造家」となる。

瓶の形、ラベルのデザインはどうするか、ワインのすべてを自分で決めて、オリジナルワインを造ることができるのだ。

イベントに参加したのは、各回10名前後。ワイナリーのイベント未経験者から、ぶどう収穫の経験者まで、さまざまな人が参加した。年齢、仕事、性別など、参加者のカラーは多彩。なかには、兵庫県からはるばる参加した人もいたそうだ。

多様性あふれる参加者の面々だったが、お互いに共通点もあった。共通点はふたつあり、「ワイン好き」であることと、「本格的な醸造は体験したことがない」ことだ。

「みなさん、すべての作業工程について、ひとつひとつ真剣に悩んでいらっしゃいました。ワイン造りの奥深さに驚いたようでしたね」。

醸造家体験イベントにおいて、須合さんはあくまでもサポート役に徹した。出来上がったワインはそのまま参加者が持ち帰ることになる。ワインやワイナリー好きに知ってほしい、ほかではあまり見られない濃密な企画だ。

▶参加型の取り組みは2021年も継続

「BookRoad~葡蔵人~のワインは、みんなと協力しながら造り上げていると思っています。毎年、お客様も一緒になってワインを造っているイメージです」。

BookRoad~葡蔵人~では、SNSを使ったお客様との交流が盛んだ。SNSにワイン造りの様子を公開しているのはもちろん、醸造の手伝いを募集することもある。2021年は数名のお客様が参加し、醸造を手伝ってもらった。

ほかにも、「ワインのラベルを一緒に決める企画」など、客参加型の企画が多数発信された。参加型の取り組みは、次年度以降も継続する予定だ。

「一緒に楽しむことで、少しでもワインを身近に感じてほしいですね」。
須合さん達の強い思いが、新しい企画を次々と生み出している。

『東京の自社畑とイベント規模の拡大を 2022年の目標』

最後にお話を伺ったのは、2022年シーズンに達成したい目標についてだ。

須合さんから話が出たのは、「新しい自社畑」と「イベント開催」という2つの目標だった。これらの取り組みはすでに進行中。新しい挑戦とワイン醸造を控えた須合さんたちは、新シーズンも忙しい毎日を過ごすことになりそうだ。

それでは早速、2つの目標のそれぞれの内容と、展望を覗いてみよう。

▶東京、八王子に新しいぶどう畑が誕生

「八王子に畑を借りることができました。2022年は土壌調整をして、畑作りを行っていきます」。

2022年、BookRoad~葡蔵人~の自社畑が東京に誕生するのだ。東京都心からやや離れた場所にある畑の周囲は、自然豊かでのどかな場所。地域内にほかの作物の畑はあるが「ぶどう畑」はない。そのため、ワイン用ぶどう栽培は地域発の試みになる。

「周囲にぶどう栽培経験者はいませんが、土地に合いそうな品種などを契約農家さんとも相談しながら進めていきます。心強い味方がいるので、あまり心配はしていません」。
須合さんは明るく答える。前向きな言葉からは、挑戦できることに対する喜びや希望が伝わってくる。

開墾は草刈り作業からスタート。ぶどうの苗を植樹するのは、2023年の春になる見込みだ。2022年はぶどうをしっかりと育てるための下地作りに費やす。手間ひまかけてじっくりと土台を作ることで、ぶどうが健全で豊かに成長することが期待できる。

「東京産ぶどうのワインを造れるのが楽しみです」。
数年後の収穫に向け、大きな夢が広がる。

▶2022年も醸造家体験イベントを

2021年に開催した醸造家体験イベントに、大きな手応えとやりがいを感じた須合さん。

「ワインに醸造できるぶどう品種を増やし、イベントにも、より多くの人に参加してほしいですね。もっとお客様と一緒にワインを造りたいです」。
内容と規模を拡大し、さらに本格的な醸造が行えるイベントを企画中。2022年に、もっとレベルアップした醸造家体験イベントを開催するのが目標だ。

現在検討中なのは、イベントの募集開始時期について。2021年は収穫から参加してもらったが、2022年は収穫以前から参加してもらうことも考えている。

「契約農家さんともイベントについて話し合っています。収穫のほかにも、さまざまな栽培作業を体験してもらおうと考えているのです」。

自分でワインを造り、出来上がったワインを手にしたときの達成感は、想像を絶するほど大きなものだろう。ワインが好きな人はより深くワインを知りたくなり、ワインを飲んでこなかった人もワインの面白さに魅了されるはずだ。

「ワイン造りは大変ですが、楽しさの方が勝る作業です」と、須合さん。
醸造家体験に参加することで、少しでも醸造家の気持ちに近づけるのではないだろうか。

『まとめ』

契約農家との深いつながりで、2021年の悪天候を乗り越えたBookRoad~葡蔵人~。品質の高いぶどうによって、過去最高の出来になったワインも生まれた。特に「デラウェアスパークリング」は、須合さんが自信を持っておすすめできる1本だ。

ぶどう栽培や醸造以外にも、開催したイベントに着目したい。2022年も引き続き行う予定の「醸造家体験」イベントは、すべてのワインファンに知ってほしい内容だ。自分でワイン造りをする、貴重な体験ができる企画なのである。

BookRoad~葡蔵人~は、過去も未来も変わらずに、「ワインがつなぐ人の縁」を生み出し続ける。美味しいワインはもちろんのこと、ワインを楽しむ「時間や方法」までを提供しているのだ。

ワインを飲むだけでは満足できなくなった人は、ぜひBookRoad~葡蔵人~のイベントに参加してほしい。「幸せな時間とワイン」という、最高のペアリングを体験できるに違いない。


基本情報

名称BookRoad~葡蔵人~
所在地〒110-0016
東京都台東区台東3丁目40−2
アクセス最寄り駅:JR御徒町駅、日比谷線仲御徒町駅から徒歩6分
HPhttps://www.bookroad.tokyo/

関連記事

  1. 『富士山北山ワイナリー』自然と共生しながらワイン産業の未来を考えるワイナリー

  2. 『ぶどうの樹』地酒として地元の人に愛されるワインを目指す

  3. 『グランポレール勝沼ワイナリー』産地の個性を醸し、日本ワインの未来を切り開くワイナリー

  4. 『さっぽろワイン』札幌近郊で育ったぶどうでワインを醸造 地域でひろく愛されるワイン造りを志す

  5. 『タケダワイナリー』山形の個性と造り手の思いを映す、滋味あふれるワイン

  6. 追跡! ワイナリー最新情報!『ケアフィットファームワイナリー』 新たなコミュニティの創造を目指す