『小林生駒高原葡萄酒工房』自社農園で栽培したぶどうを100%使用した、おいしいワイン造り

年間を通じてさまざまな花が咲き乱れる、自然豊かな生駒高原。
「小林生駒高原葡萄酒工房」は、宮崎県小林市の生駒高原に設立されたワイナリーだ。2017年に小林市でワイナリー特区の醸造免許を取得し、ワイン造りをスタートした。

醸造するワインには、小林市で栽培した自社農園のぶどうを100%使用。試行錯誤をしながら、自然の恵みあふれるワインを醸造している。

醸造責任者の児玉真吾さんと、醸造担当者の杉尾里和さんにお話を伺った。それでは早速、魅力たっぷりの小林生駒高原葡萄酒工房について紹介しよう。

『経営母体は創業45年、地域に根差した事業に力を入れる企業』

小林生駒高原葡萄酒工房の経営母体は、宮崎市に本社を構える「株式会社NPK」。
「安心安全を基盤としたゆとりある暮らしへのサポート」を経営理念とし、警備事業を中心とした幅広い事業を展開する。宮崎県や宮崎市の公共施設の管理運営を行う指定管理事業や介護事業、農業生産法人など、地域に根差した事業にも力を入れている企業だ。

▶業者の出身地である小林市に地域貢献をしたい

宮崎県小林市は、警察官僚を定年退職後に株式会社NPKを設立した創業者、児玉義廣氏の出身地でもある。地元、小林市に地域貢献をしたいと、二代目社長の児玉和博さんが次々と新しい取り組みをスタートした。

小林市の須木地区では、2014年から同社の農業生産法人である「実りの265株式会社」で、栗や米の栽培を手がける。そして2016年には小林生駒高原葡萄酒工房として、ぶどう栽培も開始した。

「小林市の生駒地区のぶどう農家さんから、ぶどう園を借りてぶどうの生産を始めたのが、ワイナリーを始めるきっかけになりました」。

小林市は、宮崎県内トップのぶどう産地。地元産のぶどうのPRのためにも、ぶどうを使った加工品を売り出そうと計画し、ワイン醸造と販売をはじめたのだ。

▶みんなでぶどうやワインの勉強を重ね、ワイナリーをカタチに

醸造責任者を務める児玉真吾さんも、ワイナリー事業に従事する前までは、警備事業の所長職を担当していた。ワイナリーを始める計画が立ち上がった際に、ワイナリー準備室に抜擢されたのだ。

ワイナリー事業に携わるまでは、ワインはたしなむ程度だったという児玉さん。ぶどう栽培とワイン造りに関わることが決まり、九州やオーストラリアのワイナリーに行って研修を受けた。
また、広島にある「酒類総合研究所」の講習でも勉強を重ねたという。

圃場には、ぶどう栽培の専属の担当者が配属されている。だが、ぶどう栽培を始めた当時は誰もが初心者だったそう。全員で切磋琢磨しながら、次第にワイナリーを形にしてきたのだ。

『雨の量や気温、湿度調整のためビニールで覆って栽培』

宮崎県は降雨量が多く、気温も高い。雨からぶどうを守るため、レインカットはもちろん、ビニールハウス内での栽培も行っている。水分量や気温、湿度などを適切に調整し、良質なぶどう作りに努める。

▶土壌の分析を進めて、ぶどう栽培に最適な土に改良

ぶどうを育てている土壌は黒ボク土で、水を保持しやすい特徴を持つ。特に水分の多い土壌では、ワイン専用品種ではなく生食用のぶどうを栽培している。

また、ぶどう栽培に最適な土をつくるため、専門家に依頼して圃場の土を分析。ぶどう栽培に適した環境を作るため、試行錯誤している。数年かけて土壌を改良していく予定だ。

小林生駒高原葡萄酒工房では、棚栽培を採用している。雨の跳ね返りなどを考慮しての選択だ。畑を管理するスタッフの人数が限られているので、垣根栽培よりも作業効率がよく、機械を入れられて管理しやすい棚栽培にメリットがある。
また、雨が多く枝が徒長しやすいため、棚栽培はスペースの有効活用にもなるという。

▶ワインを造るぶどうはすべて、自分たちで栽培する

小林生駒高原葡萄酒工房のこだわりは、「ワイン醸造に使用するぶどうは、すべて自分たちで栽培する」こと。
自社栽培100%へのこだわりは、社長の願いでもある。

「2016年にぶどう栽培をはじめた当初から、社長も一緒に、ぶどう農家やワイナリーを訪れて知識を仕入れています。社長は畑が大好きで、今も週に3回ほど、早朝5時から畑に出ているほどなんですよ」と、杉尾さん。

枝の誘引作業などは、社長自らが率先して行っているという。担当社員が一丸となって、社長のこだわりが反映したぶどう造りをおこなっているのだ。

『宮崎県内一のぶどうの産地、小林市』

宮崎県の中でも、県内一のぶどうの生産地である小林市。小林生駒高原葡萄酒工房で栽培するのは、マスカット・べ―リーAやピオーネといった国産品種。
そしてピノ・ノワールやメルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンなどのワイン専用品種が9種類。特に国産品種は、和食に合うワインに醸造したいと考えている。

▶さまざまなぶどう品種を栽培する理由

小林生駒高原葡萄酒工房を代表するワイン用ぶどうは、2016年から育てているマスカット・ベーリーA。現在、最も収量が多い品種だ。収穫されたマスカット・ベーリーAは高品質で、良質なワインの原料となる。

世界中で広く栽培されるワイン用ぶどうの品種のメルローやシャルドネは、天候がよければ小林市でも生育がよい。

ワイン用ぶどうのほかにも、生食用としてシャインマスカットやピオーネも栽培している。小林市の土壌や気候に適性がある品種を見極めるため、試験的に多くの品種を栽培している段階だ。

▶現在の圃場は約2.2ha、今後はもっと広げていきたい

小林生駒高原葡萄酒工房の自社農園はふたつある。ひとつめはワイナリーから車で10分圏内の立地にあり、広さは約1ha。ワイン専用品種を栽培する。

もうひとつはワイナリーから車で30分ほどの場所で、生食用のぶどうとマスカット・ベーリーA、ピオーネを育てる1.2ha程度の圃場だ。

あわせて約2.2haもの広さがあるものの、今後さらに広げていきたいとの思いがある。
「近隣の畑などの土地を所有する方と調整しながら、徐々に増やしていきたいですね」と、児玉さんは意気込みを話してくれた。

『ワイナリーやワインは、地元に愛されてこそ』

ワインは、地元の人に愛されてこそ。小林生駒高原葡萄酒工房が目指すのは、地元である宮崎県小林市の地元食材とともに、日常的に味わってもらえるワインだ。

九州は焼酎文化が強いという地域性があり、日常酒としてワインを飲む人は少ない。そのため、ワインを飲みなれない人でも美味しいと感じる、飲みやすいワインの普及を目指す。

▶初心者でも飲みやすいマスカット・ベーリーAは地元向けに

はじめてワインを飲む人でも、すんなりと味わえるワインのラインナップをそろえることが狙いだ。
「地域に根差し、ワインを飲んでくれる人を少しずつ増やしていきたいですね」と、児玉さんは戦略を語る。

現在は直売所や本社でワインを販売しており、醸造したワインの多くは宮崎県内で消費されている。近隣からの引き合いも徐々に増えてきているという。

▶メルローやシャルドネは、本格派ワインを好む人に

本格派ワインを好む人向けのワインとしては、メルローやシャルドネなどのラインナップがおすすめだ。

「メルローやシャルドネは、どちらかというと県外向けの商品ですね。今後は、ワイン好きのお客様に好まれるワインも、もっと増やしていきたいです」。
ゆくゆくは県外の飲食店などに販路を広げることも視野に入れている。

『生駒高原に、カフェとショップ併設のワイナリーをオープン』

小林生駒高原葡萄酒工房のファーストヴィンテージは2017年。現在の醸造所ができる前のことで、こじんまりしたスペースでの醸造からスタートした。

ぶどうの樹の成長とともに収量が増えることを見越して、2019年6月に現在の醸造所をオープン。小林市の人気観光地である生駒高原に、醸造所にカフェ、ショップが併設されたおしゃれなワイナリーが登場したのだ。

▶品質を担保することが、ワイン醸造の一番のポイント

小林生駒高原葡萄酒工房のワインの醸造では、ワインの品質担保を第一に心がけた醸造をしている。経営母体の警備会社の基本理念が「安心安全」ということもあり、消費者が安心安全に飲めるワインの品質を重視しているのだ。

小林生駒高原葡萄酒工房では基本的にはステンレスタンクを使って醸造と熟成をおこなう。最近では一部、樽熟成を導入し、新しい樽を毎年買い足している段階だ。

現在はマスカット・ベーリーAを中心に樽を使用して熟成させる。新樽は樽香が強すぎてワインの香りが負けてしまう可能性がある。
そのため、軽めのトースティングを依頼するなどの工夫をしつつ、新たなチャレンジを重ねている。

▶毎年チャレンジを重ねる

醸造に関して苦労したことを尋ねてみた。「醸造所を移転して、環境が変わった最初の年の醸造が、一番苦労しましたね」と、児玉さんは振り返る。

タンクのサイズが変わり、大容量のタンクでの仕込みにはじめて挑戦したときのことだ。仕込み量が少ない場合には、手作業が多いことの大変さがある。しかし、醸造量が増えることで、仕込みや醸造過程での対応を、環境に合わせて変化させる必要があったのだ。

そんな苦労を乗り越え、毎年新しい試みに意欲的なのも、小林生駒高原葡萄酒工房の魅力だ。赤ワインからはじめたラインナップに、白ワインを追加。樽熟成や甘口ワインにも挑戦してきた。

小林生駒高原葡萄酒工房のオンラインショップをのぞくと、アイテム数が多いことに驚かされる。試行錯誤しつつ商品化を実現してきたワインは、幅広いラインナップを誇る。
選ぶ楽しみがあることも、小林生駒高原葡萄酒工房の大きな強みなのだ。

『小林の方言を採用した「ん・ダモシタン」シリーズ』

続いては、ワイン初心者におすすめの人気シリーズを紹介しよう。小林生駒高原葡萄酒工房のワインに、「ん・ダモシタン」というシリーズがある。「んだもしたん」とは聞き慣れない言葉だが、いったいどんな意味なのだろうか。
実は、小林市がある西諸(にしもろ)地域で使われる方言で、「おやまあ!」といったニュアンスを持つ言葉なのだという。

▶小林市のPR動画の流行から「ん・ダモシタン」シリーズが誕生

小林生駒高原葡萄酒工房が、地元の人に親しんでもらえる商品名を模索していたときのこと。小林市が作成したYouTubeの広報動画で、「んだもしたん」という言葉が使用され、流行した。ワインの名称に方言を使えば、地元の人に親しみを持ってもらえるのではないかと考えたのだ。

「『んだもしたん』を商品名に使えないかと小林市に打診して、許可が下りました。地元の人に親近感を持ってもらえ、しかも小林市のPRにもなる。面白い響きの言葉なので、市外や県外の人にも興味を持ってもらえるのが名付けの決め手でしたね」。

こうして誕生した「ん・ダモシタン」シリーズ。地元愛あふれる小林生駒高原葡萄酒工房のワインにぴったりの、素敵なネーミングだ。

▶地元出身の有名人がInstagramで紹介した「ん・ダモシタン」

「ん・ダモシタン」シリーズは名前のインパクトもあり、有名人に紹介される機会も多い。小林市出身の芸能人が、Instagramのライブ配信機能であるインスタライブで取り上げた際には、「ん・ダモシタン」シリーズが一度に100本以上も売れたという。
地元に愛され、PR効果も抜群の「ん・ダモシタン」シリーズ。まさに小林生駒高原葡萄酒工房のねらいどおりだ。

▶2021年は8,000~9,000本を醸造する予定

2020年の醸造本数は7,000本弱。2021年はさらに増えて8,000~9,000本程度を醸造する予定だ。7月末に最初の収穫をして、仕込みを開始した。ぶどうの軸を取り除く「除梗破砕」から始まり、ワイン造りの作業が続く忙しいシーズンだ。

特に大変な作業は、瓶にワインを詰めた後のコルクの打栓。小林生駒高原葡萄酒工房ではすべて手打ちでおこなう。力が必要で、時間もかかる大変な作業だという。

小林生駒高原葡萄酒工房が醸造所でワイン造りをする様子は、ワイナリー正面に設けられたガラス張りの窓から見学が可能だ。窓の上部に各工程の説明パネルが設置されていることに、ワイナリーの心づかいが感じられる。

『記念日や誕生日、クリスマスなどに飲んでほしい』

小林生駒高原葡萄酒工房のワインは、「記念日や誕生日、クリスマスなどハレの日に飲んでほしい」と児玉さん。地元の人には、家族や友人と一緒に飲んで話のネタにしてもらいたい。地元の食材を使った和食とも、相性は抜群だ。

▶宮崎牛や地鶏など、地元の食材を使った和食に合ったワイン

地元産の食材で一番に名前があがるのが宮崎牛だ。宮崎牛ブランドの中でも、小林市の牛はトップクラスの品質を誇る。小林市は果樹栽培も盛んで、ごぼう、サツマイモ、里芋なども特産品として名高い。

「宮崎県では牛や鶏などの畜産品をブランド化しており、さらに太平洋側に行けば魚も獲れます。一次産業が多い県なんですよ」。
小林生駒高原葡萄酒工房では和食に合うワインを目指し、新鮮な地元食材とのマリアージュも楽しんで欲しいという。

▶強みは自社農園のぶどう100%のワインであること

小林生駒高原葡萄酒工房のワインの強みは、自社農園で栽培したぶどうのみを使ってワインを醸造していることだ。収穫前のぶどうの状態をしっかりと確認して分析し、適切な収穫時期を判断する。

天候やぶどうの状態に応じて「いつもより早いけれど収穫しよう」といった柔軟な対応がしやすいのがメリットだ。

また、醸造所のタンクが空いている状態を確認して収穫できるのも、自社農園を持つ小林生駒高原葡萄酒工房の特徴だ。醸造作業が段取りよく準備ができ、美味しいワインにつながるのだ。

『まとめ』

2017年にワイン造りをスタートさせた小林生駒高原葡萄酒工房。スタッフ一丸となってワイン造りに取り組む様子が垣間見え、今後のさらなる進化が楽しみなワイナリーだ。

「2016年に植えたばかりの若い樹なので、樹の成長を見守っているところです。長い目で見て醸造も変化させ、ワインの味に反映していきたいです」と、児玉さんが展望を語ってくれた。

「酵母の種類を増やして、より複雑実のある味わいのワインを増やしていきたいです」と、杉尾さん。
今後は、より本格的なワイン醸造に挑戦していくつもりだ。

さらに、小林生駒高原葡萄酒工房は地域の観光を活性化させる役割も担う。
「生駒高原自体が小林市でも有数の観光地です。新型コロナ収束後にはまた、ワイナリーにも多くの人に来てほしいですね」。
集客イベントも積極的に行うことを予定している。

生駒高原に多くの観光客が訪れ、ワイナリーがこれまで以上に地域活性化に貢献する未来を楽しみにしたい。

基本情報

名称小林生駒高原葡萄酒工房
所在地〒886-0005
宮崎県小林市南西方8565−7
アクセス
小林ICから車で5分
電車
西小林駅から車で11分
HPhttps://www.np-k.co.jp/wine/

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