追跡!ワイナリー最新情報!『サントネージュワイン』テロワールを表現したワインを続々とリリース

1942年に創業した「サントネージュワイン」は、創業80年を超える歴史を持つ。「よいワインはよいぶどうから」をモットーとして、日々努力を続けているワイナリーだ。

ワイナリー名の「サントネージュ」とは、フランス語で「聖なる雪」を意味する。ワイナリーがある山梨県山梨市から見える富士山に冠する雪をイメージし、「高い志でよいワインを造ろう」という思いから名付けられた。

高品質なぶどうの産地として名高い山梨市牧丘町の自社畑で、こだわりのぶどう栽培をおこなっているサントネージュワイン。自社畑のぶどうは、標高の高さを生かしたキレのある酸が最大の特徴だ。また、ワイン醸造には山形県上山市で栽培されたぶどうも使用。山梨と山形という異なるテロワールの特徴を生かした多彩なワインを醸す。

多数の銘柄を醸造するサントネージュワインだが、シャルドネをナイトハーベストすることで強さを引き出した「山梨 牧丘 倉科畑 シャルドネ」は、造り手が自らおすすめする、自慢の1本。樽香に負けない力強さを持ち、ふくよかさが際立つワインに仕上がっている。

今回は、そんなサントネージュワインの、2022年から2023年のぶどう栽培とワイン醸造に迫っていこう。ヴィンヤードマネージャーの宮川養一さんに、詳しいお話を伺った。

『2022〜2023年のぶどう栽培を振り返って』

最初に見ていくのは、2022〜2023年ヴィンテージのぶどう栽培について。ぶどう栽培に大きな影響を与える天候はどうだったのか。まずは、山梨と山形の天候の様子から振り返る。

また、2022〜2023年のぶどうの品質・収量などについてもあわせて見ていきたい。

▶︎2022年と2023年の天候 高温多湿・酷暑との戦い

山梨市牧丘町と山形県上山市の、2022年と2023年の天候の特徴を確認しておこう。日本各地で気候変動の影響が大きく感じられる近年ではあるが、2022年は「高温多湿」、2023年は「猛暑」が目立つヴィンテージだったそうだ。

2023年の湿度に関しては、山梨と山形で明暗が分かれた。山梨は梅雨の降水量が非常に少なく、カラッとした天気が多かったため熟度の高いヴィンテージに。山形は雨や曇天の日数も多かったため、ほぼ例年通りとなった。

「特に山梨に関しては、雨が少なかったという面ではよい年でしたね。台風の影響もなかったため、天候に関する心配事の少ない年でした。全体的に素晴らしい品質のぶどうが収穫できましたよ」。

サントネージュワインには、畑の区画ごとに個別に仕込んだ銘柄、「シングルヴィンヤードシリーズ」がある。このシリーズに使われるぶどうを栽培している畑は、山形の盆地の南向き斜面に広がっており、ぶどうにとって最高の環境だ。

全体的に例年通りの出来だったという山形のぶどうだが、シングルヴィンヤードの「中島」「佐竹」「奈良崎」「渡辺」に関しては、特に高い水準のぶどうが収穫できた。

「シングルヴィンヤードの畑は地形的に優れた環境にあるだけでなく、栽培者が品質向上のために真摯に努力しています。そのため、天候に関係なく安定的に高品質なぶどうが生産できる体制が整っているのです」。

天候不順や異常気象は、もはや『異常』ではなく、毎年のことになってきたと話してくれた宮川さん。毎年のように激変する天候にあわせた栽培を実践していくことが、ここ10年で当たり前になってきたという。

だからこそ生産者たちは、「変化があること」を当然だと考えて、年ごとの天候に真摯に向き合う。例えば近年増えているのが、1か月分の雨量が1時間で降ってしまうような集中豪雨。こういった天候は予測することが難しく、「起こっても大丈夫なように日頃から管理をする」「日々の観察を徹底する」といった方法でフレキシブルに対応するしかない。

年ごとの異常気象に負けず安定した品質を提供できるのは、平素からの努力を惜しまない生産者の取り組みがあるからこそ。サントネージュワインの美味しさの秘訣は、栽培家の日々のたゆまぬ努力が支えているのだ。

▶︎プティ・マンサンの栽培がスタート

2023年に新たにスタートした栽培の取り組みがある。山形の圃場でプティ・マンサンの植樹を開始したことだ。

「今まで山形では、シャルドネとソーヴィニヨン・ブラン、そしてヴェルデレー(「セイベル9110」の別称)の3品種を生産していました。しかし、ヴェルデレーの認知度が低いことやシャルドネ生産者の高齢化により作付面積が減っていることから、プティ・マンサンの生産を新たに開始しました」。

プティ・マンサンを選択した理由は、上山地区に合う品種だということがわかっているから。上山地区にある他社の圃場ではすでに品質の高いプティ・マンサンの栽培実績があり、魅力的なプティ・マンサンのワインが製造されている。

「苗木の数が一度に揃わなかったため、これからも少しずつ増やしていく予定です。病気にも強いという話を聞いていますし、現地の生産者達も期待しているので、今後もしっかりと育てていきたいですね」。

ワインになるのは、3〜5年先になるだろう。サントネージュのニューフェイス、プティ・マンサンのワインの誕生が楽しみだ。

『新製品が続々誕生 2022〜2023年のワイン醸造』

続いては、サントネージュワインの2022〜2023年ヴィンテージのワインについて。広いラインナップが魅力のサントネージュワインだが、特におすすめの銘柄についても尋ねてみた。

醸造の様子やワインの味わいと香り、新製品の情報などについて掘り下げていこう。

▶︎サントネージュオリジナル品種「恋紅」

まずは、サントネージュワインで栽培している、オリジナルのぶどう品種「恋紅(こいべに)」を紹介しよう。「恋紅」とは、どんな品種なのだろうか。

「今までも収穫自体はしていましたが、まとまった量が収穫できたのは初めてです。ようやく、製品化するための初醸造を迎えられそうです」と、宮川さんは、嬉しさを声ににじませる。

「恋紅」は、メルローとマルベックを交配した赤ワイン用品種だ。最大の特徴は、真っ黒に見えるほど色の濃い果皮。着色が良好で、非常に濃い真紅の赤ワインができる。「恋紅」という名称で品種登録したが、開発当初は「濃紅」という名だったとの逸話があるのもうなずける。

ワインにしたときの香りは、どちらかというとマルベックの印象が強い。スパイシーかつなめらかで、芳醇な香りが際立つそうだ。

「収穫時期が早めの早生品種で、昨今の気候変動にも対応できます。秋雨前線や台風などが増える前の9月前半に収穫できるのが大きな利点ですね。2023年のファースト・ヴィンテージがうまく醸造できれば、今後さらに栽培を増やしていきたいと考えています」。

2023年の恋紅は、十分に樽熟成して芳醇な香りを生かしたワインにする予定だという。カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローの「シングルヴィンヤードシリーズ」と同じくらいの期間、樽熟をかけるつもりなのだとか。ファースト・ヴィンテージの生産量は少量のみで、2025年頃のリリースを予定している。

「今のところ、恋紅単体としてリリースする予定です。オリジナル品種ですので、単一品種でワインにすることに意味があるでしょう。熟成後の様子をみてからの判断にはなりますが、ぜひ『単一品種のワイン』としてリリースされることを楽しみにお待ちください」。

▶︎日本ワインコンクール受賞ワイン「牧丘甲州オレンジワイン2022」

2023年にリリースしたワインの中で、特筆すべき銘柄がある。「牧丘甲州オレンジワイン2022」だ。

サントネージュワインにとって、牧丘オレンジワインのリリースは2023年が初めて。なお、2023年はロゼワインの初リリースを迎えた年でもあり、新製品ラッシュだった。

さて、「牧丘甲州オレンジワイン2022」の紹介に移っていこう。日本ワインコンクール2023で銀賞を受賞、さらに「甲州カテゴリー」のオレンジワインの中で最高得点を獲得した自信作だ。宮川さん自身、「牧丘甲州オレンジワイン」には強い思い入れがあるという。

「2015年頃からずっと、牧丘に『甲州』を植えてもらうようにお願いしていたのです。ようやく収穫でき、待望の甲州で造ったオレンジワインが『牧丘甲州オレンジワイン』なのです。牧丘の畑は標高の高い場所にあり、甲州の房全体が美しいピンクに色付きます。また、小粒で果皮の成分が出やすくオレンジワインに適していますよ」。

試験醸造を始めたのは2019年で、2022年に念願のファースト・ヴィンテージを迎えた。味わいについても深掘りしていこう。「牧丘甲州オレンジワイン」は、「ワイン単体で飲んでも美味しいワイン」がテーマだ。元来、甲州オレンジワインは、食事と合わせることを前提に造られることが多い。バランスの取れた味わいで、幅広い味わいの食事と合わせやすいためだ。

「オレンジワインは皮や種ごと醸すので、甲州のオレンジワインには渋みや苦味が出やすいという側面があり、だからこそ食事と合わせやすいのです。しかし、『牧丘甲州オレンジワイン』はワインだけで飲んでも楽しめるように、極力滑らかさを追求し、苦味と渋みを抑えた味わいを目指しました。香りもフローラルで、ワインだけで飲んでも美味しいですよ。味わいのバランスを考え、やや甘口に仕上げました」。

苦味や渋みを抑えるための秘訣は、醸し期間をやや短めに設定したこと。醸し期間を短くできたのは、ひとえに「ぶどう本来の色」が濃かったためだという。醸し期間を短くしても美しいオレンジの色合いが出たのだ。「牧丘甲州オレンジワイン」は、どんな料理と合わせると美味しいのだろうか。

「和食・洋食を問わず、何にでも合いますよ。私が先日試したのは、ピザとのペアリングです。また、サンマなどの焼き魚や鮎など、少し苦味のある魚との相性もよいと感じます」。

宮川さんおすすめの飲み方は、しっかりと冷やしてから抜栓し、飲み進めるうちにだんだんと温度が上がっていく過程を楽しむ方法だ。最初はすっきりとした美味しさを味わい、その後は徐々にワインから立ち上がる香りも楽しもう。サントネージュワインの自信作を、じっくりと堪能していただきたい。

▶︎2023年の新酒にも注目

「個人的には、ぶどうの品質がよかった2023年の山梨県産ぶどうの新酒がおすすめですよ」と、宮川さん。

2023年ヴィンテージの新酒としてリリースされた銘柄は、「甲州スパークリング 2023(新酒)」と「マスカット・ベーリーA ロゼ スパークリング 2023(新酒)」。残念ながら、ロゼのスパークリングワインは解禁日である11月3日から10日ほどで完売してしまった。

「ロゼのスパークリングは、マスカット・ベーリーAらしいキュートな味わいです。香りが華やかで、果実味も豊かですよ。発色が濃くて美しく、ぶどうが持つ力を感じられるワインになりました。2023年のマスカット・ベーリーAは、スパークリング以外にも樽熟成中のものもあります。2023年のぶどうは非常によい出来でしたので、リリースを楽しみにお待ちください」。

『サントネージュワインのこれから』

最後に、2024年以降のサントネージュワインについて尋ねてみた。ぶどう栽培・ワイン醸造の側面はもちろん、サントネージュワインのワインが味わえるイベントも気になるところだ。

今後取り組む予定にしていることや、目標についてもお話いただいたので紹介していこう。

▶︎新しい品種の可能性を追求

今後力を入れていきたいこととして宮川さんが挙げたのは、新しいぶどうの可能性を追求すること。具体的には、「山形のプティ・マンサン」と「山梨の『恋紅』」にさらに注力していくことだという。

「プティ・マンサンには、非常に期待しています。上山市の畑に適した品種として注目しているワイナリーが他にもあるので、私たちも乗り遅れないように栽培していきたいですね。もうひとつは、オリジナル品種である『恋紅』の可能性を追求することです。自社の目玉品種として成熟させていくべきだという使命を持って取り組んでいきます」。

また、さらにぶどうの品質を向上させるため、牧丘の畑に適したクローンや台木を増やしていくことを今後の目標としている。これまでも継続的におこなってきた取り組みではあるが、これからも引き続き進めていきたいと宮川さんは力強く話してくれた。

「日本の農業は、後継者不足が深刻な状況です。そのため、今後も長くぶどう栽培を続けられる仕組みを構築していくことが重要だと考えています。また、産地のブランド化のために有効な取り組みも続け、地域をさらに盛り上げていきたいですね」。

これからも末永く、ぶどう栽培とワイン醸造を続けていくために。サントネージュワインは、農業と地域の未来も考えながら歩みを進めていく。

▶︎イベントにも注力

「自社ワインのアピールにつながるイベントには、積極的に参加したいですね。せっかく素晴らしい品質のワインを造っても、お客様に飲んでもらえなければ意味がありませんから。造り手自身もさまざまな場所に出向き、サントネージュワインを多くのお客様に知っていただくことは、とても大切だと考えています」。

サントネージュワインは、地元だけでなく、都心部でも数々のイベントに精力的に参加している。特徴的なのは、異業種とのコラボイベントにも積極的なことだ。

例えば、2022年から始めた、山梨の焼き鳥屋「鶏やあさぎ」とのコラボイベントは、「新酒のお披露目」と「焼鳥とワインのマリアージュ」を楽しんでもらうために開催された。

また、横浜のクラフトビール醸造所「TDM 1874 Brewery(ティーディーエム 1874 ブリュワリー)」のヌーヴォー解禁イベントにも参加。東京・下北沢でワインの試飲販売をおこなった。

ワインの美味しさについて造り手から直接聞くことができれば、ワインを味わう楽しみはさらに加速するだろう。さらに、ワインができるまでのストーリーを感じることで、よりいっそう美味しさと味わいの深みに気づくはずだ。

サントネージュワインが参加するイベントについては、公式SNSで最新情報が公開されている。ぜひこまめにチェックして足を運んでみてほしい。



『まとめ』

2023年のサントネージュワインは、健全なぶどうに恵まれ喜ばしい年だった。特に山梨の圃場では病害虫の被害が非常に少なく、糖度も十分に上がって果実味豊かな果実が収穫できた。

「2017年から育てていた牧丘の甲州をファーストリリースできたということが、本当によかったです。出来に満足していますし、今後にも期待が持てます。グラン・クリュである牧丘のシャルドネとカベルネ・ソーヴィニヨンに関しては、ヴィンテージに関係なく優れた品質のワインを造らなくてはならないという使命を常に持っています。山形のぶどうに関しても、中島メルローと奈良崎メルローが安定した品質を保てているので、うまく樽熟成させて、素晴らしいワインに仕上げていきたいですね」。

たくさんの美味しさと楽しみを味わえる、サントネージュの最新ヴィンテージ。発売中の銘柄に舌鼓を打ちながら、今後リリースされる銘柄も心待ちにしたい。


基本情報

名称サントネージュワイン
所在地〒405-0018 
山梨県山梨市上神内川107-1
アクセスhttps://www.sainteneige.co.jp/access/
HPhttps://www.sainteneige.co.jp/

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