追跡!ワイナリー最新情報!『シャトー・メルシャン』次世代につながるワイン造りで、日本ワイン業界を牽引

「日本を世界の銘醸地に」というヴィジョンを掲げ、日本ワインを牽引し続けるブランドであるシャトー・メルシャンには、山梨県甲州市の「勝沼ワイナリー」、長野県塩尻市の「桔梗ヶ原ワイナリー」、長野県上田市の「椀子(まりこ)ワイナリー」という3つのワイナリーがある。

3つのワイナリーは、それぞれの土地のテロワールや歴史、地域との絆を大切にしながら個性を発揮。切磋琢磨し合いながら、日本ワイン業界を牽引し続けているのだ。

それぞれのヴィンヤードの土壌や天候の特徴をしっかりと理解した上で、テロワールの魅力を引き出すブドウ栽培とワイン造りをおこなっているシャトー・メルシャン。2024年の日本ワインコンクールでは、3つのワイナリーが共に金賞を受賞した。

今回は、3つのワイナリーの2023~2024年における変化や取り組みについて、ゼネラル・マネージャーの小林弘憲さん、チーフ・ワインメーカーの勝野泰朗さん、桔梗ヶ原ワイナリー長の高瀬秀樹さん、椀子ワイナリー長の生駒元さんにお話を伺った。シャトー・メルシャンの最新情報を紹介していこう。

『日本を世界の銘醸地に』導くための取り組み

2019年に3ワイナリー体制に移行したシャトー・メルシャン。5年が経過して、3つのワイナリーそれぞれの力がようやく出てきたと小林さんは話す。

シャトー・メルシャンが日本ワインの発展に向けて日々取り組んでいることについて、さまざまな角度から深掘りする。

▶︎気候変動への対応

温暖化や線状降水帯の発生など、日本全国でさまざまな異常気象が観測されている昨今。シャトー・メルシャンがブドウ栽培をおこなっている山梨や長野でも、環境の変化を感じるそうだ。

「大きな変化がある中でも、私たちはよいブドウを作って、よいワインを造らなければなりません。そのためには、地域の今の気候にあった適地・適品種を心がける必要があります」。

シャトー・メルシャンでは、どのように適地・適品種の考え方を取り入れているのだろうか。まずは、勝沼ワイナリーについて見ていこう。

「勝沼ワイナリーがある山梨県甲州市は、20年前に比べて本当に暑くなりましたね。私たちがすべきことは、今まで評判がよかった品種も改めて見直すことです。変化していく気候に柔軟に対応しながら、暖かい地域でもポテンシャルが発揮できる品種に植え替えを進めています」。

甲州市はもともと夏場の気温が高くなる地域だが、近年では温暖化が進み、7~8月の最高気温が40℃近くまで達することもある。そのため、新しい畑を検討するときはこれよりまでも標高が高い場所を選んでいるという。冷涼な地域に畑を移して、新時代の栽培適地を開拓していく必要があるのだ。

また、高品質なメルローに定評がある長野県塩尻市の桔梗ヶ原ワイナリーでは、最近はより標高が高い片丘地区にある「片丘ヴィンヤード」でのカベルネ・フランの栽培にも力を入れているのが特徴だ。変わりゆく気候にふさわしい品種を育てることで、今後も次々と、魅力的なワインが新たにリリースされていくことだろう。

▶︎ピノ・ノワールに注目

各ワイナリーの変化や新たな取り組みについて、さらに詳しく紹介したい。異常気象の影響を受けてはいるものの、標高が高いヴィンヤードにとっては、気候変動は悪い面ばかりではないという。まずは、長野県上田市の椀子ワイナリーで栽培するピノ・ノワールに注目したい。

以前から椀子ワイナリーで栽培していたピノ・ノワールのワインが、2023年7月に満を持して発売された。ヴィンテージは2017年と2021年。日本のピノ・ノワールのイメージをくつがえすような、凝縮感がありパワフルな味わいが特徴だ。

「椀子ワイナリーのピノ・ノワールに特有の風味が生まれたのは、強粘土質の土壌や、標高の高さなどの環境による影響が大きいと考えています。詳しく検証していく必要はありますが、風の強さがブドウにとってストレスとなり、ブドウの皮に厚みが出ていることが関係しているのかもしれません」と、生駒さん。

椀子ワイナリーでは、栽培管理をする中で、除葉や摘房のタイミングにも気を使っている。粒が密着せずまばらについた状態の「バラ房」になるように工夫し、ブドウの粒がつぶれないように見守る。椀子ワイナリーのテロワールと細やかな栽培が融合したことで、パワフルで特有の風味を持つピノ・ノワールができあがったのだろう。

「果実感がしっかりとしていて、ポリフェノール分が感じられる味わいです。2017年ヴィンテージはパワフルな印象で、2021年ヴィンテージはよりピノ・ノワールらしいチャーミングなところを持ち合わせていますよ」。

2017年は降水量が少なかったため、凝縮感が出てパワフルなワインに仕上がっているそうだ。ピノ・ノワールのワインはワイナリー限定品のため、現地でしか購入できない。ワイナリーに足を運び、2017年と2021年の違いも味わってみたいものだ。

▶︎土地をあらわすブドウの魅力

2024年の日本ワインコンクールでは複数の入賞を果たしたシャトー・メルシャン。椀子ワイナリーでは、「シャトー・メルシャン 椀子シラー」「シャトー・メルシャン 椀子シラー ブロック13」の2つが金賞を受賞した。

椀子ワイナリーがリリースしているシラーのワインには、「椀子シラー(2021)」と「椀子シラー ブロック13(2022)」の2種類がある。「ブロック13」というのは、椀子ヴィンヤードにある16の区画のうち、13番目の区画のこと。ブロック13のシラーのみを使用したワインという意味だ。それぞれの銘柄に、どのような違いがあるのか生駒さんに伺った。

「ブロック13で獲れたブドウは、他の区画と比べて明らかにスパイスの香りが強いという特徴があります。ブロック13ならではの味わいにフォーカスし、スパイシーさを強く引き出したのが、『椀子シラー ブロック13』なのです」。

ブロック13は高低差がないため、雨が降るとぬかるんでしまう場所である。一見、ブドウにとってはあまりよくない環境にも見える。だが、水がたまることがストレスとなることで、シラーのスパイシーな香りが増えているという。マイナス面の影響が想定されがちな「ストレス」によって、よい影響が出ることもあるのが興味深い。

特徴的なブドウを育むブロック13ではあるが、他の区画と違うのは傾斜がなく平面な点だけだという。椀子ヴィンヤードは東京ドーム6個分にもなる広大なブドウ畑のため、区画によって環境の違いが出てくるのは当然のことだと言えそうだ。

▶︎晩熟系品種が栽培可能に

温暖化の話題が出ると、ブドウ栽培に及ぼす悪影響ばかりが取り沙汰されがちだ。しかし、桔梗ヶ原ワイナリーがある寒さの厳しい塩尻市にとっては、温暖化の影響はブドウ栽培において悪いことばかりではなかったと高瀬さんは話す。

「塩尻市では、かつては極寒の冬を越せるブドウ品種が少なかったのです。しかし、気候変動の影響で気温が上がったことがよい方向に働き、最近は栽培可能な品種が増えてきました。今までは適熟させることが難しかった品種でも、しっかりとバランスよく熟した状態での収穫が可能になったのです」。

もちろん、これまでは気候に適合していたメルローなどの品種において、糖度が高くなり酸が低くなるという影響があるのは否めない。しかし一方で、カベルネ・フランなど晩熟系の品種への期待が高まっているのだ。

すでに、片丘ヴィンヤードで栽培したカベルネ・フランを使った「シャトー・メルシャン 片丘ヴィンヤード カベルネ・フラン2021」は、2024年の日本ワインコンクールで金賞受賞の実績がある。

「私たちのこれまでの取り組みが、ようやく実を結ぶ時がやってきたのだと感じています。桔梗ヶ原に比べて片丘はまだ認知度が低いエリアですが、金賞を受賞してたくさんの方に知っていただけるきっかけとなったので大変嬉しいですね」。

栽培管理においては、これまでの知見を生かすと共に、新たに発生するさまざまな困難にも逐一対応していくことが求められるという点では、今後さらに高い技術力が必要とされるのかもしれない。だが、カベルネ・フラン以外にも、塩尻市の気候に合った新しい品種の栽培に力を入れているという桔梗ヶ原ワイナリー。今後どんな品種のワインが生まれるのかとても楽しみだ。

▶︎未来につながる挑戦

山梨県甲州市の勝沼ワイナリーでは、環境変化に適応するためにおこなった品種の整備が進んでいる。また、標高の高い土地にブドウ畑を開場した成果も出始めていると小林さんが話してくれた。

「新しく植えた品種や標高の高いところに新たに移したブドウを、2024年に初めて収穫しました。今私たちが取り組んでいるのは、次世代につながる仕事です。先輩たちから引き継いできた品種があるように、私たちも10~20年先の次世代を見据えた品種整備をし、地球環境が変動する中でも歴史をつないでいかなくてはなりません」。

ブドウ栽培とワイン造りは、長い年月を必要とする仕事だ。苗の植え付けからスタートし、長期熟成ワインができるまでに数十年単位でかかることも珍しくはない。未来を見据えた対応に着々と取り組んでいるシャトー・メルシャンでは、将来どんなワインがリリースされるのだろうか。

▶︎サステナブルな取り組み

3つのワイナリーでは、それぞれに持続可能な取り組みをおこなっている。今回は、椀子ワイナリーでおこなっている具体的な取り組みを生駒さんにお話をいただいたので、ピックアップしたい。

「椀子ワイナリーでは、ブドウの絞りかすを堆肥にして、ブドウ畑に戻す循環型の取り組みをおこなっています。そのほかにも、降り注いだ雨を貯水槽に貯めて雨水を再利用するなど、環境に配慮した施策を実践しています」。

農業においても持続可能な取り組みが求められる現代では、いかに循環型のワイナリー事業を実現できるかも重視される。

例えば、毎年収穫後には枝の剪定をおこなうが、剪定枝を処分するために燃やすと二酸化炭素が発生してしまう。二酸化炭素の排出量を減らすことは、シャトー・メルシャンのような大規模事業者にとって大きな課題である。

「椀子ワイナリーでは、枝を細かく砕いてブドウ畑に撒き、時間をかけて肥料にしています。椀子ワイナリーが目指すワイン造りは、環境に配慮した循環型農業です。サステナブルな取り組みを検証し続け、生物多様性の保全や地球環境保護につなげているのです」。

『シャトー・メルシャンに共通する思い』

3つのワイナリーそれぞれに個性が異なるカラーがあり、切磋琢磨し合いながらワイン造りに励んでいるシャトー・メルシャン。

それぞれに地域性と特色はあるが、ブドウ栽培とワイン造りにおいての「魂はひとつ」だと勝野さんは語る。シャトー・メルシャンが共通して抱く思いについて尋ねてみた。

▶︎産地形成の重要性

「日本を世界の銘醸地に」というヴィジョンのもと、日本ワインというカテゴリーを育てたいと考えているシャトー・メルシャン。ヴィジョン実現のために必要なことのひとつに「産地形成」がある。

シャトー・メルシャンが考える産地形成とは、自分たちだけよいブドウが収穫できて、よいワインを造るということではない。周りのワイナリーも一緒になって、優れたブドウからワインを造れる産地を形成していくことなのだと、勝野さんは言う。

「ワインを造るメーカーが、ある土地にたくさん集まって切磋琢磨し合い、その土地をワインで表現することを目指しています。まずは、地元の皆さんにワインを飲んでいただくことを実現します。そして次のステップでは、地域全体が自信をもっておすすめできる特産品として世に出していくことが大切なのです」。

例えば、桔梗ヶ原ワイナリーが片丘の地に新しく畑を持った際には、3社ほどが同時期に片丘でのワイン造りに走り出した。そして現在では、ワイン造りを目指す人が他にも片丘に集まってきている。片丘の地は新たな産地として、今後ますます発展していくだろう。

いくつもの生産者と地域の人が手を取り合って産地を形成していくことが、「日本を世界の銘醸地に」することにつながっているのだ。

▶︎日本庭園のようなワイン造り

シャトー・メルシャンの3つのワイナリーには、それぞれ産地や品種の特徴がありつつも、ワイン造りにおいて共通している考え方がある。それが「フィネス&エレガンス(調和のとれた上品な味わい)」と「日本庭園のようなワイン造り」だ。突出するものはなく、欠けるものもない、完全なる調和がもたらす味わいであることを目指している。

「3つのワイナリーごとの個性はありますが、『フィネス&エレガンス』がベースにあることで、シャトー・メルシャンとしての芯がぶれず、まとまりができています。自然と共生していくこと、ブドウをよく見て向き合うことを大切に、これからも日本庭園のようなワイン造りをしています」。

『シャトー・メルシャンへようこそ』

シャトー・メルシャンでは、それぞれのワイナリーでのイベントや企画が盛りだくさんだ。ワイナリーに足を運べば、より一層、日本ワインの魅力に触れられるだろう。どんなイベントや企画があるのか紹介していこう。

▶︎訪れて楽しいワイナリー

勝沼ワイナリーと椀子ワイナリーは、営業日ならいつでも訪れることができ、ワインの試飲や購入ができる。また、どちらのワイナリーでも、ブドウ栽培やワインづくり、テイスティングが楽しめるツアーを実施している(有料・要予約)。勝沼ワイナリーでは、日本のワインづくりの歴史が学べる「メルシャンワイン資料館」も併設していて、無料で見学することができる。

さらに桔梗ヶ原ワイナリーでは、通常は非公開だが不定期に公開日を設定し、ワイナリーツアーやテイスティング、ワイナリー限定品の販売をおこなっている。以前よりも公開日が増え、現在の公開ペースは月に1回ほどだ。

「椀子ワイナリーでは、バック・ヴィンテージや産地ごとの特徴を比較できる企画など、さまざまな楽しいイベントをおこなっています。日本ワインにもっと興味を持っていただけると思いますよ。是非イベントに参加していただき、ワインを五感で感じていただけたら嬉しいです」と、椀子ワイナリー長の生駒さん。

ワイナリーの公開日やイベントの詳細は、シャトー・メルシャン公式ホームページでチェックできる。季節ごとに魅力的なイベントが開催されるため、ぜひ足を運んでみたい。ワインの産地を訪れることで日本ワインについての新たな学びと、今まで知らなかった楽しみ方を見つけることができるだろう。

『まとめ』

「日本を世界の銘醸地に」というヴィジョンを掲げるシャトー・メルシャンでは、ワイン用ブドウの産地を支援する「日本ワインの未来を応援しよう!」というドネーション企画を定期的に実施している。

キャンペーン期間中は、売り上げ1本につき10円を産地に贈呈。ワイナリーに行けなくても、スーパーや百貨店で日本ワインを購入し飲むことが一番の応援になると、小林さん。

刻々と移り変わる環境変化に対応できるように、ワイナリーも変化すべき時を迎えており、シャトー・メルシャンでも先を見据えた栽培や醸造をおこなっているところだ。

今後もシャトー・メルシャンの躍進に注目し、次々とリリースされる魅力的なワインに酔いしれたい。


基本情報

名称シャトー・メルシャン
HPhttps://www.chateaumercian.com/
勝沼ワイナリーhttps://www.chateaumercian.com/winery/katsunuma/
桔梗ヶ原ワイナリーhttps://www.chateaumercian.com/winery/kikyogahara/
椀子ワイナリーhttps://www.chateaumercian.com/winery/mariko/

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