『京都ワイナリー四条河原町醸造』 生産者・お客様と共にワインを創る、都市型ワイナリー

「京都ワイナリー四条河原町醸造」は2023年10月、京都市内にある百貨店「京都髙島屋 S.C. T8」の地下1階にオープンした都市型ワイナリーだ。 

醸造に使用しているのは、厳選して日本各地から購入したぶどうと海外原料。店頭では、国内外から仕入れたナチュールワインの販売もおこなっている。 

京都ワイナリー四条河原町醸造の特徴は、店内で醸造した出来立てのワインを「量り買い」できること。常時数種類がそろう自社醸造ワインを、タンブラー持参で購入するリピート客も次第に増えてきた。

長い歴史を誇り、なおかつ世界有数の観光都市でもある京都でワインを造るという、ほかにはない魅力を持つ京都ワイナリー四条河原町醸造。どのようなビジョンを持ち、京都の街の中心でワインを醸すのか。 

今回は、京都ワイナリー四条河原町醸造の成り立ちやこだわり、今後の展望などについて、運営会社である「株式会社ケイオス」の代表取締役CEO、澤田充さんにお話を伺った。軽快な語り口でお話いただいたワイナリーの魅力を、さっそく紹介していこう。 

『京都ワイナリー四条河原町醸造の立ち上げまで』

澤田さんが代表取締役を務める株式会社ケイオスは、商業施設の開発や街づくり、街のブランディングなどを中心に事業を展開してきた企業だ。なぜ都市型ワイナリーの経営に乗り出したのかという点が気になる人も多いのではないだろうか。 

実は、株式会社ケイオスが自社ワイナリーを立ち上げることになったきっかけは、大阪国際空港(伊丹空港)の改装時に、世界初の空港内ワイナリー「大阪エアポートワイナリー」のプロデュースをしたことだった。 

▶︎世界初・空港内ワイナリーをプロデュース 

株式会社ケイオスが伊丹空港の改装プロジェクトに携わったのは、ちょうど空港のビジネスモデルが変わろうとしていた頃のこと。空港が利益を出すためにはハブ空港としての稼働率を上げる必要があるが、発着料が高い空港は敬遠され、利用されにくくなる。そのため、空港側は発着料を下げて、多くの航空会社に利用してもらうための転換をはかっていた。つまり、時代の変遷とともに、航空機の発着料だけでは利益を出せない時代が訪れていたのだ。 

世界中の空港でビジネスモデルの刷新が進み、空港施設内にさまざまな施設や店舗を作って、 利用者にお金を落としてもらう仕組みが構築されつつあった。例えば、世界の空港ではショッピングセンターだけでなく、動物園や美術館などが併設されて新しい価値と収益を生み出していた。 

伊丹空港を改装するにあたり、世界各国の空港を調べた澤田さん。注目したのは、ドイツの空港内に建設されたビールの醸造所だった。そこで、伊丹空港内でワインを醸造するワイナリーをオープンするという企画を提案。東京で都市型ワイナリー「深川ワイナリー東京」を展開している「株式会社スイミージャパン」にワイナリー運営を任せることになった。 

そして、世界初の空港内ワイナリーである大阪エアポートワイナリーを成功させた澤田さんに次に持ちかけられたのが、京都髙島屋の新館のプロデュース企画だったのだ。 

「京都ならではのブランド造りを目指して、京都の人たちに愛されるものを作ろうと考えました。大阪エアポートワイナリー立ち上げの経験を生かし、京都の街なかに都市型ワイナリーを造るのはどうかと提案しました。京都ワイナリー四条河原町醸造はワインの醸造所ですが、根底には『京都のまちづくり』という思想があるのです」。

▶︎老舗百貨店内に自社ワイナリーを 

京都ワイナリー四条河原町醸造がオープンしたのは、2023年10月17日のこと。ワイナリーのコンセプトは、「ワインのある日常の暮らしを提案する、毎日通える街なかのワイン屋」。ワインを日常的に楽しんでもらいたいという、澤田さんの思いが色濃く反映されている。 

「日本ではワインは格式張ったお酒という印象が強いですが、海外ではもっと日常でカジュアルに楽しまれています。そこで、日本でももっと気軽にワインを楽しめる場所があってもよいのではないかと考えたのです」。 

さらに、京都ワイナリー四条河原町醸造は、自然派ワインにこだわり、環境に配慮したサステナブルな取り組みにも意欲的。店頭では、自社醸造のワインをタップで提供し、持参したタンブラーなどに入れて持ち帰ることが可能だ。 

「タンブラーやマイボトルを使った『量り買い』は、昔のお豆腐屋さんで持参した鍋に豆腐を入れてもらっていたイメージです。ドレスコードがある場所でワインを楽しむのはもちろん素敵ですが、もっといろいろな楽しみ方や気軽な飲み方があればよいのではと考えました。それを実現するための場所が、京都ワイナリー四条河原町醸造なのです」。

『京都ワイナリー四条河原町醸造のワイン造り』

京都ワイナリー四条河原町醸造は、ぶどう農家から買い付けた原料を使ってワインを醸造する、いわゆる「ネゴシアン」タイプのワイナリーだ。 

購入しているのは、できるだけ自然に近いかたちで有機的な栽培をされたぶどう。ベースは国内のぶどう農家から購入したぶどうを使用しているが、原料が確保できない時期には海外原料を使用することもある。 

京都ワイナリー四条河原町醸造が、どのようなこだわりを持ってワインを造っているのかについて焦点を当てていこう。 

▶︎さまざまなスタイルのワインに挑戦 

店舗のオープンからこれまでに、滋賀県長浜市のマスカット・ベーリーAや山梨県韮崎市の甲州、青森県のスチューベンなどを使用したワインを醸造。甲州は白ワインだけなく、オレンジワインとしても仕込んだ。

「現在は買いぶどうだけを使用していますが、将来的には北海道でぶどう栽培をする計画もあります。畑のすぐそばでオーベルジュを経営したり、目的型のレストランをオープンしたりと、幅広いお客様にワインを楽しんでいただける仕組みづくりをしていきたいですね」。 

できることをコツコツとやっていき、隙あらば面白いことに取り組みたいと笑顔で話してくれ た澤田さん。今後の展開に期待したい。

▶︎ターゲットも多彩 

京都ワイナリー四条河原町醸造がターゲットとする客層は4つに別れている。具体的には、「髙島屋に足を運んだ人」「ワインが好きな人」「ものづくりが好きな人」「インバウンドの人」だ。 

来店者の大多数を占めるのは、「髙島屋に足を運んだ人」。髙島屋に来た買い物客がたまたまワイナリーを見かけて、店内でワインを造っていることに興味を持ってくれるケースが多いのだとか。あえて店名に「四条河原町」という地名をつけているのも、京都のど真ん中でワインを造っていることをわかりやすくアピールするためだという。 

また、「ワインが好きな人」「ものづくりが好きな人」「インバウンドの人」という異なる属性の客層にも、それぞれヒットするポイントを持っている京都ワイナリー四条河原町醸造。自社醸造のワインとワインに合う料理や仕入れたナチュールワインは、さまざまな人を笑顔にする魅力を秘めている。 

「これまでワインに興味がなかった方が好きになるきっかけを提供していきたいですね。さらに、インバウンドのお客様が日本にも気軽に楽しめる美味しいワインがあると感じていただけたら嬉しいです」。

『京都ワイナリー四条河原町醸造のワインの特徴』

京都ワイナリー四条河原町醸造が目指すのは、水のようにカジュアルに飲める軽い味わいのワイン。ぶどうが育った土地のテロワールや、日本ならではのよさが自然と感じられる味わいが理想だという。 

2023年10月にオープンして、12月1日からは店舗内で仕込んだワインの提供をスタート。年間醸造量は約10,000ℓ だ。さらに、12月末にはボトルワインの販売も始まった。 

京都ワイナリー四条河原町醸造のワインの味わいについて、詳しく紹介していこう。

▶︎カジュアルに飲めるフレッシュなワイン

好きな量だけを購入して自宅で楽しむことができる京都ワイナリー四条河原町醸造のワインは、 もちろん店舗で飲むこともできる。お店でワインを飲む場合は、美味しく飲んでもらうためにグラスで提供。 

自社醸造のワインは、フレッシュでライトな味わいが特徴だが、仕入れるぶどうによって醸造手法を変えるなど、柔軟に対応している。届いたぶどうをどのように仕込むかは、醸造担当者を中心に意見を出し合いながら決めていくのだとか。

オープンからあまり時間が経っていないため、まだ定番銘柄といえるものはない。今後、京都ワイナリー四条河原町醸造の顔となるワインができるのも楽しみにしたい。 

店内で仕込んでいるワインは、赤ワインと白ワイン、オレンジワイン。こだわりは添加物を極力使わずナチュラルに仕上げていることだ。

▶︎ワイン造りの体験イベントを開催

京都ワイナリー四条河原町醸造では、ワイン造りを体験できるイベントを開催している。さまざまな醸造工程に参加してくれるボランティアを募集しており、応募した人は来店してワイン造りに参加できる。お客様との繋がりを大切にし、みんなで造るワインを目指しているのだ。 

「たくさんの方にワイン造り体験をしていただいています。京都市内の徒歩で行ける場所でワイン醸造ができるのは、非常に珍しい体験です。日本ワインに触れるきっかけとなり、ファンになってくれる人をどんどん作っていけたらと考えています」。

また、店舗では自社醸造のワインが常時4〜5種類楽しめる。仕込みから2〜3か月程度で提供するため、コンスタントに新酒が提供できる環境だ。訪れるたびに新しいワインに出会える楽しみがあれば、定期的に足を運びたくなるだろう。 

「特に人気なのは白ワインですね。赤ワインと白ワインは常に提供できるように準備しています。2024年の秋は、昨シーズン人気だった甲州を中心に幅広いラインナップを準備していく予定です。インバウンド客にはマスカット・ベーリーAも人気ですね」。

さらに今後は、シラーなどの品種にも挑戦していきたいそうだ。トライ&エラーを繰り返すことで、京都ワイナリー四条河原町醸造の個性が次第に磨かれていくことだろう。

▶︎一期一会の出会いを楽しむ 

京都ワイナリー四条河原町醸造の店頭では、ボトル販売のナチュールワインも購入できる。日本ワインの取り扱いもあるが、海外からの輸入製品の品揃えも豊富。販売しているナチュールワインは、どのように選んでいるのだろうか。

「私がこれまでにさまざまな仕事をする中で知り合った、信頼できる方からの紹介などで入手したものが多いですね。ナチュールワインは生産量が少ないことも珍しくはないので、安定供給ができないことはデメリットと思われがちですが、それがまた魅力でもあります。小規模生産者が手がける面白いワインとの出会いは、まさに一期一会です」。 

自社醸造のワインだけでなく、販売しているナチュールワインも、次に訪れたときにはすでに売り切れということも珍しくはないだろう。 

「ワインは工業製品ではなく農作物だと思っています。年ごとの気温や気候など、自然環境によってぶどうの味わいが変わる点も、ワインの魅力のひとつでしょう。それぞれのワインとの偶然の出会いも楽しんでいただけたら嬉しいですね」。

『百貨店の中にあるワイナリー』

京都ワイナリー四条河原町醸造が店舗を構えるのは、京都髙島屋に増床された新館の地下1階。なんと、国内外の選りすぐりの食材を扱う「成城石井」がすぐ隣、斜め向かいにはワインショップの「エノテカ」があるというのだから驚いてしまう。それぞれの店舗の客層は異なるそうだが、ワイン好きにとってはなんとも魅力的なラインナップだ。 

店舗内でワインを醸造していると伝えると驚かれることが多いが、オープン当初に比べるとリピーターも増え、スタッフも店に慣れてきているという。店頭にいるソムリエもお客様との交流に積極的だ。 

▶︎ワインを気軽に楽しめる場所 

京都ワイナリー四条河原町醸造のワインは、軽い味わいでアルコール度数も低め。「醸造所併設のワイン食堂」は、フードよりもワインの売り上げの方が多いのが特徴だ。 

「予想以上に、昼間からワインを楽しんでくださる方が多いのです。女性のお客様がひとりで立ち寄り、買い物ついでにワインを1杯だけ飲むといった使い方をするなど、新しいライフスタイルの提案にもなっていると感じています」。 

また、毎週タンブラーを持参して立ち寄りワインを購入してくれる人や、毎晩楽しむワインを求めて訪れる人もいる。それぞれのライフスタイルに合った楽しみ方がされているのは、まさに澤田さんの狙い通りだ。 

「時間帯を問わず、アフタヌーンティーを楽しんだり、バルで軽く飲んだりするイメージで利用していただけてありがたいですね。今では、お客様からワインの楽しみ方を教えていただいていると感じるほどです」。 

醸造担当者が店舗に顔を出して、お客様に挨拶をすることもある。造り手とのコミュニケーシ ョンをその場で楽しめるのも、都市型ワイナリーの醍醐味だ。ワインを味わうだけではなく、醸造を体験し、造り手とも語り合う。そんな一連の経験が、暮らしの中でのワインの楽しみ方をより豊かにしてくれるだろう。 

店内で味わえるワインの中で特におすすめなのは、4種類のワインを楽しめるセット。4種類を飲み比べたお客様の反応を見るのは、スタッフにとっても楽しみであり、勉強になる瞬間でもあるという。京都ワイナリー四条河原町醸造は、造り手とソムリエ、飲み手が、ワインを通じてコミュニケーションを交わす場なのだ。 

「ナチュールワインはおばあちゃんが手作りした漬物と同じように、毎年違う自然な味わいが魅力です。オープンしてしばらく経ち、お客様にもナチュールワインを楽しむ感覚が浸透しつつあるのを感じています。ソムリエ資格を持つ自社スタッフも、そんな風土を楽しんでいます。伝統的な場所で新しい風を吹かせている、ちょっと異端ともいえる存在かもしれませんね」。

▶︎「共創型」のワイナリーへ 

「日本ワインを普及させたい」「日本ワインの飲まず嫌いをなくしたい」と考えている澤田さんは、今後もさまざまな活動を推進していく計画だ。 

例えば、ぶどうの生産者と栽培を手伝いたいお客様をつなげる取り組みや、生産者による講演会、ワイン醸造体験、ワインの完成を共有するイベントなど、構想は多岐にわたる。 

京都ワイナリー四条河原町醸造を、飲食店としてワインを造り、飲んでもらうだけではなく、 多くの人がつながりを体験してもらう場所にしたいと考えている澤田さん。ワインを通してさまざまな立場の人が語り合い、共に日本ワイン業界を盛り上げていく「共創型」のワイナリーを目指しているのだ。 

生産者は、飲み手とつながることでよりモチベーション高くぶどう栽培をおこなえるだろう。 そして飲み手は、ぶどう栽培の様子やワイン醸造の現場を知ることで、よりワインに興味を持つだろう。そんなよい循環を作っていくことが、京都ワイナリー四条河原町醸造の使命なのである。

『まとめ』 

澤田さんが起業したのは約30年前のこと。設立以降一貫して街づくりに携わってきたのは、人の賑わいをつくり、笑顔を生み出すためだ。京都ワイナリー四条河原町醸造も、より一層人が集い、関わる多くの人を笑顔にしていく場となるだろう。 

「街づくりを通して新しいことをクリエイトし続けてきましたが、ようやく、多くの人がそれをポジティブに捉えてくれる時代になってきたとワクワクしています。長くワインを造り続けてきた企業ではないので、少し変わった価値観を持っているかもしれません。しかし、ダイバーシティ化が進む中で、マーケットに少数派のワイナリーが存在してもよいのではないでしょうか。共感してくださる方も多いので、これからさらに、ワインを自由に楽しめる場を創れたら嬉しいですね」。 

京都を訪れた際には、「京都のど真ん中」にある笑顔あふれる都市型ワイナリーで、ワインを飲む楽しさをぜひ体感してほしい。

基本情報

名称京都ワイナリー 四条河原町醸造
所在地〒600-8002
京都市下京区四条通寺町東入二丁目御旅町35 京都髙島屋S.C.[T8] B1F
アクセス【阪急電車】阪急京都線京都河原町駅下車、地下にて直結
【京阪電車】京阪祇園四条駅下車 徒歩5分
【バス】四条河原町バス停下車
HPhttps://chaos-chaos.com/owned_shop.php

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