追跡! ワイナリー最新情報!『サンサンワイナリー』 新たなチャレンジを続け、「人生を彩るワイン」を造る

長野県塩尻市の柿沢地区にある「サンサンワイナリー」は、栽培から醸造までこだわり抜いたワイン造りをおこなっている。

自社畑は3か所にあり、ワイン用のぶどうとシードル用のりんごを栽培している。自社畑がある土地は標高が高く、昼夜の寒暖差が大きいのが特徴だ。糖度がしっかりと上がり、適度な酸が残る高品質なぶどうが収穫できる。

サンサンワイナリーの強みは、「ノン・シャプタリザシオン(無補糖)」によるワイン造り。果実が持つ甘みだけでワインを醸造している。栽培から瓶詰めまで全工程をとおして、しっかりと造りこんだワインであることも自慢だ。また、SDGsを意識した施策の推進にも積極的で、循環型の農業を目指す取り組みをおこなう。

今回は、ファクトリーマネージャーの田村彰吾さんにお話を伺った。サンサンワイナリーの2022年以降の様子を見ていこう。

『2022年のぶどう栽培における取り組み』

まずは、2022年のぶどう栽培の様子から振り返っていきたい。2022年は春先の気温低下が原因による冷害が発生した年だった。

4月中旬頃、春を迎えて気温がぐんぐん上昇し、品種によってはすでに発芽したものもあったタイミングで急激に気温が低下。2日連続で遅霜が発生して、ぶどうの生育に大きな影響を及ぼした。

▶︎不安定な気候が続く

「近年、春になって植物が芽吹いたあとに発生する遅霜が増えたと感じています。2022年はシャルドネが霜の被害を受けました。霜の影響で発芽が遅れ、芽が出ない樹もあったのです。収量も減り、被害の大きさに驚きましたね」。

発芽の時期が違う品種は遅霜の被害を受けることはなかったが、全体的に栽培管理が難しい年だと感じたそうだ。

「きっと、霜の通り道というのがあるのだと思います。同じ畑でも被害を受けたところと受けなかったところがあったので、地形の影響などで冷気が発生しやすいかどうかが決まるのかもしれません」。

サンサンワイナリーでは、霜対策として「防霜資材」を畑に散布している。農薬に混ぜて散布するタイプの資材で、新芽を冷害から守る効果がある。だが、樹そのものを守ることはできないので、根本的な対策は難しいのが現状だ。

「火を焚いて温まった空気を畑に循環させる方法などはありますが、実際におこなうのは費用面の問題もあり現実的ではありません。栽培管理での最近の悩みは、やはり遅霜対策です。特に春先の気温が安定しなくなってきているので、急激な温度変化に植物がダメージを受けてしまうのです」。

塩尻市はぶどうだけでなく、りんごや梨、桃などさまざまな種類の果樹栽培が盛んな地域だ。2023年にも4月中旬に遅霜が発生して被害が出た。近くの梨農家では、収量が半減したケースもあるという。農業では、人の力が及ばない天候をなんとか味方につけて、柔軟に対応していくことが必要なのだろう。

▶︎栽培における取り組み

2022年、サンサンワイナリーの自社畑のぶどう栽培で特徴的だったのは、メルローの房のサイズが大きくなってしまったことだ。

「メルローの房のサイズがなぜか通常よりも大きくなったため、例年は6.4t程度だった収量が、2022年には約8.4tに増えました。原因は不明ですが、樹齢が10年を超えたメルローはクローンの種類によっては房型が大きくなるという話を聞いたことがあるので関連があるかもしれません」。

春先にはすでに房が大きくなるだろうと予測できたので、房の上部の余分な花芽を摘み取る「肩落とし」を念入りにおこなった。房が成長して実が大きくなる前に、あらかじめ不要な部分をカットすることで、残した実に栄養を集中させることができる。だが、肩落としを実施してもなお、例年よりも収量が多かった。

「天候の影響もあるのではないかと考えて過去のデータを見返しましたが、特に原因は見当たりませんでした。ワイン用のぶどうは、房が大きくなりすぎると色付きが薄くなったり凝縮感がなくなったりするので避けたいのです。2023年も同じような傾向が見られたので、より慎重に対応しました」。

▶︎より高品質なぶどうを栽培するために

メルローの房のサイズが大きくなるという現象は、近隣のワイナリーの畑でも発生したそうなので、気候の影響も多少はあるのかもしれない。

サンサンワイナリーが対策として導入した肩落としの作業は、ワイン用品種においてはヴェレゾン期に実施することが多い。だが、あえて早い時期に肩落としをおこなったのにはわけがある。

「ぶどうの色付きが始まるヴェレゾン期よりも前に肩落としをおこなうと、花ぶるいなどが起こると書籍で読んだことがありました。しかし、それが本当に正しいかどうかについてかねてから疑問を持っていたので、テスト用の樹で実験をした経験があるのです」。

サンサンワイナリーでは、圃場管理を担当するスタッフが個人ごとに管理している実験用の樹があり、新たな栽培方法などを試すために活用している。田村さんはかつて、自分が管理する樹でメルローの房型の調整や、新梢ごとに付ける房の数を変えるなどの実験をおこなった。すると、早いタイミングで房数を減らしたり、肩落としをして房型を小さくする対応をすると、色付きがよく美しい房型に育ったのだ。また、なによりも凝縮感があり濃厚な味わいのぶどうになったという。

「書籍に書いてあることが、うちの自社畑にすべて当てはまるわけではないということですね。気候や土壌によって、適した栽培管理の方法は異なるのだと思います。手間がかかる作業ではありますが、2023年はさらに早めに肩落としをおこなったので、果実味がしっかり感じられるぶどうが収穫できるのではと期待しています」。

『2022年ヴィンテージの醸造における取り組み』

続いては、2022年に醸造したワインについて見ていきたい。新たな醸造方法を取り入れるなど、いくつかの変化があった2022年。新しく挑戦した醸造方法で、どのような特徴を持つワインを造ったのかに注目していこう。

▶︎新しい造りの赤ワイン

2022年の赤ワイン醸造において、新たな醸造方法を導入したサンサンワイナリー。ぶどうを圧搾するときにワイン自身の重さと果帽の重みで流れ出る「フリーラン」果汁と、その後、圧力をかけて搾った「プレスラン」果汁を別々に仕込んだのだ。

フリーラン果汁を使ったワインは、メルロー100%で樽熟成。すべて手で除梗したというこだわりぶりだ。ぶどうの梗には苦味やえぐみといった成分が含まれるため、手で果実をひとつずつもいで梗が入らないようにしたのだ。果実の風味がしっかりと感じられる。ピュアでクリーンな味わいのワインになった。

「手除梗は手間がかかりますが、時間をかけるだけの価値が十分にあります。現時点でもすでにおいしくなりそうな雰囲気をまとっています。造りを変えた効果が出ています」。

一方、プレスランはメルローとシラー、ピノ・ノワールをブレンド。ステンレスタンクで熟成させる際には、オークチップを使用した。新たな試みで造ったワインには、それぞれに予想外の特徴も出たそうだ。

「フリーランの方は樽熟成していますが、ピュアでクリーンな味わいです。思っていたよりも濃い味わいになっています。一方のプレスランはタンニンやアントシアニンの成分が強く抽出されるだろうと考えていましたが、予想外に軽い印象に仕上がりました」。

フリーランのワインはさらに樽熟成を続けて2024年以降に販売するが、プレスランのワインは瓶詰めが終わり次第リリースする予定だ。両方を購入して、飲み比べてみるのもよいかもしれない。

▶︎香り豊かなロゼワイン

次に紹介するのは、2022年ヴィンテージのロゼワイン「サンサンエステート柿澤ロゼ2022」。ロゼワインも、2022年に醸造方法を変更した銘柄のひとつだ。

2021年ヴィンテージまでは、ロゼの製法には「セニエ」を採用していたサンサンワイナリー。セニエとはロゼワインの製法のひとつで、赤ワインと同じように果皮と果汁を一緒に発酵させ、途中で果汁だけを別のタンクに移して発酵を続ける方法だ。もっとも一般的なロゼワインの造り方である。

だが、2022年には「ダイレクトプレス」を採用。ダイレクトプレスは、果皮が黒いぶどうを使って白ワイン醸造の製法でおこなう手法だ。セニエよりも淡い色わいのロゼワインを造ることができるのが特徴だ。

「サンサンエステート柿沢ロゼ2022」は、メルローを使ったロゼワイン。収穫時期をロゼ用に少し早めて、発酵温度も調整した。田村さんの狙いどおりの味わいに仕上がったそうだ。

「ダイレクトプレスに変更したことで、香りが明らかに変わりました。柑橘系の爽やかな香りと、ハーブのニュアンスが感じられます」。

すっきりした味わいで香り豊かなロゼワインなので、幅広い料理に合わせられる。また、季節を問わず楽しめるのもロゼワインの魅力だ。

「ロゼワインは、残念ながら日本人には親しみがまだあまりないようです。イベントなどで出しても、積極的にすすめないとまず飲んでもらえません。しかし、飲んだ方は口を揃えて『とても美味しい』と言ってくださるんです」。

ロゼワインは甘口だというイメージを持っている人や、熟していないぶどうを使ったワインだと誤解している人もいるそうだ。

「日本では、桜色のロゼワインは花見のときに飲むワインだという認識を持っている方も多い気がします。実際に飲んでいただければ美味しいとわかってもらえるはずなので、もっとたくさんの方に飲んでいただけるようにおすすめしていきたいですね。暑い季節に冷やして飲むロゼは最高ですよ」。

2023年のロゼワインも2022年の造りを踏襲し、よりハーブの味わいが強く出るように工夫していく予定だ。新たなヴィンテージのロゼがより多くの消費者に届くことを期待したい。

『ワインは人生を豊かに、より楽しくする』

サンサンワイナリーは、ブランド・アイデンティティとして、「人生を彩るワイン」を掲げている。田村さん自身も、ワインは人生を豊かに、より楽しくしてくれる飲み物だと考えている。サンサンワイナリーがワイン造りにこめる思いを紹介しよう。

▶︎美味しさと共に、新たな発見を届けたい

「ワインは、人生をより楽しくしてくれるお酒です。そして、ワイナリーとしてワインを造るうえで、常に新しいことにチャレンジすることが、よりワクワクした気持ちにつながると考えています。栽培も醸造もそのために常に進化させ、ほかの生産者とも交流しながら日本ワインがもっと成長するように力を尽くしています。私たちの思いをお客様に還元し、ワインがもたらす感動体験を届けたいと思っているのです」。

サンサンワイナリーは若いスタッフが増えて世代交代が起こり、チャレンジしていこうという好ましい流れになっている。挑戦する姿勢があり、新しいことに挑戦してパワーアップできるタイミングが訪れているのだ。

実際に、2023年もすでに新しいことに挑戦し始めている。ピノ・ノワールの栽培をスタートさせたのが、新たな取り組みの一例だ。今後もヨーロッパ系品種を増やしたいと考えているサンサンワイナリー。自社畑で栽培している品種のうちでもっとも品質がよいのはシャルドネだ。だが、もっと適した品種があるのではないかと模索中なのだとか。

自社畑ではピノ・ノワールやソーヴィニヨン・ブラン、カベルネ・ソーヴィニヨンなどを試験栽培し、メルローやシャルドネに代わる武器となる品種を探している最中だ。数年経って樹が成長してくるにつれ、サンサンワイナリーの自社畑に合う品種が次第にわかってくることだろう。栽培管理の方法は、2022年までのやり方を踏襲して、さらに進化させていく。

「メルローやシャルドネは、ピノ・ノワールなどに比べてどんな土地でも比較的栽培しやすいため、ある意味で万能な品種です。しかし今後は、サンサンワイナリーだからこそ栽培できるぶどうを探していきたいと考えています。栽培技術をしっかりと向上させてきたので、以前は難しかった品種でも栽培が可能になったものがあるはずなのです」。

塩尻市はメルローの栽培が盛んな土地だが、ほかの地域と同じく、気候の変化などの要因によって栽培に適した品種が次第に変わってくることが避けられない。数年後には、これまでになかった新たな塩尻ワインが登場することもあるだろう。

▶︎お客様との接点を増やし、つながりを強化

ファクトリーマネージャーである田村さんが今後に向けて検討していることは、お客様との接点を増やしていくことだ。

サンサンワイナリーは、「人生を彩るワイン」を実現するためのキーワードとして、「技術」「感動」「つながり」の3つを挙げている。これらすべて実行することこそが「人生を彩るワイン」を実現させるというわけだ。そして、田村さんが今もっとも強化したいと考えているのが「つながり」だ。

「これまでは、ワイナリーの見学ツアーを担当していたのは、営業スタッフのみでした。しかし、これからは栽培や醸造に関わるスタッフも見学ツアーを担当しようと検討しています。造り手が自ら思いを伝える機会を持つのは大切なことだと思うのです」。

さらに、栽培や醸造の作業を体験できるイベントの実施にも意欲的。ワイン造りに関わる体験を提供することで、サンサンワイナリーのファンを増やしていきたい考えだ。イベント情報の発表を楽しみに待ちたい。

▶︎剪定枝をバイオマス発電に利用

最後に、サンサンワイナリーが以前から積極的だったSDGsへの取り組みにも、新たな動きがあるのでお知らせしておこう。

最新の施策は、剪定した枝を活用したバイオマス発電だ。収穫が終わった後に実施する剪定作業では、毎年多くの剪定枝が出る。チップ状にして畑に戻すこともできるが、万が一、樹にウイルスなどが発生していた場合には病気が蔓延してしまうリスクがある。

人々の生活に役立つ何かに活用できないかと考えて商工会議所に相談したところ、廃棄する剪定枝などを活用したバイオマス発電の事業化をしている企業があるということで、塩尻市も巻き込んで実現に向けて動いているところだという。

サンサンワイナリーでは、ぶどう栽培とワイン醸造で出る廃棄物を可能なかぎり無くし、循環型の農業を実践している。ぶどうの搾りかすをお菓子作りに生かすという構想もあり、老舗のお菓子屋さんとのコラボレーション企画の検討が進んでいる。

ぶどう栽培とワイン造り以外の部分でも新たな挑戦をやめないサンサンワイナリーの姿勢に、賞賛をおくりたい。

『まとめ』

「人生を彩るワイン」を確立するために、「技術」「感動」「つながり」を意識してぶどう栽培とワイン醸造をおこなうサンサンワイナリー。年に1度しかできないワイン造りに向けて、毎年さまざまな試行錯誤をしながら取り組んでいる。

2022年は、ワイン醸造における新たな取り組みをいくつかスタートさせた。そして、2023年からはピノ・ノワールの栽培にも挑戦。より高品質なぶどうを栽培し、美味しいワインを造るために柔軟に対応していく。

サンサンワイナリーでは、品質の向上を目指すのは当たり前のこと。常に新たなチャレンジをし続けることが、飲み手のワクワクや発見と感動体験につながるという思いを持って突き進む。

毎年どんな取り組みが新しく始まるのかを楽しみに見守るうちに、いつの間にかサンサンワイナリーのファンになっていたという人が次々と出てくるに違いない。


基本情報

名称サンサンワイナリー
所在地〒399-0722
長野県塩尻市大字柿沢日向畠709-3
アクセスhttps://sun-vision.or.jp/sunsunwinery/facility/
HPhttps://sun-vision.or.jp/sunsunwinery/

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