『はすみふぁーむ&ワイナリー』「小さなワイナリー」から世界に羽ばたく挑戦を続ける

「はすみふぁーむ&ワイナリー」は、長野県東御(とうみ)市にある小さなワイナリーだ。小さくかわいらしい小屋の外観をした醸造設備で、自社畑でとれたぶどうを醸造している。

はすみふぁーむ&ワイナリーでは、長野県では珍しい「甲州」を育てていたり、ニューワールドスタイルのピノ・ノワールワインを造っていたりと、個性的な魅力にあふれている。

そんなワイナリーの歴史や、ぶどう・ワイン造りのこだわりについて話を聞いた。世界に羽ばたく「小さなワイナリー」のストーリーを、じっくりと楽しんでいただきたい。

『「日本一小さいワイナリーからの挑戦」その歴史とは』

はすみふぁーむ&ワイナリーのオーナー蓮見喜昭さんが、どのような経緯でワイナリーを立ち上げたのか、その歴史に迫ろう。

ワイナリーを立ち上げる前の蓮見さんは、アメリカメジャーリーグの球団職員。主に南米選手の英語通訳をしていた。ワイナリーオーナーとしては、異色の経歴といえるのではないだろうか。

球団の選手と食事に行くことも多かった蓮見さん。食事を囲み、仲間と開けるワイン。その時に飲んでいたワインの美味しさに強く魅せられたのだ。

「こんなワインを自分で造ってみたい」という一心で、帰国後に栃木の「COCOFARM&WINERY」でぶどう栽培・ワイン醸造に携わる。その後、自分自身のワイナリーを造るために独立。
2005年に「はすみふぁーむ&ワイナリー」を立ち上げて今に至る。

▶長野県東御市を選んだ理由ワイン造りに適した土地を求めて

はすみふぁーむ&ワイナリーがあるのは、長野県東御市。なぜワイナリー設立の土地として、この場所を選んだのだろうか。

東御市は、ワイン醸造に向いている土地を探し求めた蓮見さんにとって理想の地だったのだ。気象データによると、長野県東御市の地理的・気候的条件は、銘醸地フランス・ブルゴーニュに近いのだ。

付近には川が流れ、斜面の多い土地は十分な日照量が確保できる。もともとぶどう栽培が盛んに行われていた地域でもあり、ワイナリーを造る場所として申し分ない条件がそろっていた。

蓮見さんが東御市に入植し、ワイナリー業を開始してぶどうを植え始めたのが2005年。入植当初は東御市で「里親制度」を利用し農業に従事した。「里親制度」とは、新規就農者を支援する制度だ。
東御市の農家さんに弟子入りをして仕事を手伝いながら、自分の農地開拓も進めることができた。

はすみふぁーむ&ワイナリーのファースト・ヴィンテージは2010年。それまでは、県内のワイナリーにピノ・ノワールとシャルドネのワインを委託醸造していた。

現在のワイナリー運営は、オーナーである蓮見さんも含め4人で行っている。直営のカフェ運営もこの4人で回しているというのだから、驚くほど少ない人数だ。
「大変ではありますが、4人全員が『ぶどう栽培』も『ワイン醸造』も『店舗やカフェ』も全てやっています。分担が分かれていないので、珍しい形態と言えるかもしれませんね」とゼネラルマネージャーの内山貴之さんは微笑む。

朝から晩まで働きづめかと思いきや、過酷な労働環境にならないよう、朝8時出勤17時退社だ。収穫などの忙しい時期は別として、普段は週休2日も確保されているという。

▶小さな家のロゴマークが示す意味

はすみふぁーむ&ワイナリーのロゴマークには、小さな家が描かれている。ロゴは温かな手書きの風合いがかわいらしく、行ったことがなくてもワイナリーの柔らかい空気感が目に浮かぶようだ。
シンプルながらも印象に残るロゴマークの由来やエピソードについて、内山さんに話を伺った。

「社名ロゴにある家のマークは、お客様にもかわいいと好評なのですよ」と内山さん。はすみふぁーむ&ワイナリーは、実際にロゴマークに描かれている様な小屋の設備でワインを造っているのだという。
醸造設備のある小屋に見学にやってきたお客様に「醸造設備はどこですか?」と聞かれてしまうほど小さいのだとか。

現在は、はすみふぁーむ&ワイナリーよりも小さいワイナリーが存在するが、創業当初は「日本一小さいワイナリー」だったそうだ。はすみふぁーむ&ワイナリーのストーリーは「日本一小さいワイナリー」から始まった挑戦の物語なのである。

▶上田柳町のはすみふぁーむ&ワイナリーShop&Café

はすみふぁーむ&ワイナリーは、醸造設備のある東御市のワイナリー以外にも、長野県上田市に店舗を持つ。上田にある店舗は、「はすみふぁーむ&ワイナリーカフェ」。ワインを購入できるのはもちろん、食事とワインを合わせて楽しむことができるスペースを備えている。
店舗の構想は、蓮見オーナーが早い時期から考えていたものだったそうだ。しかし、なぜワイナリーのある東御市に併設させなかったのか。長野県上田市にカフェを開いた経緯について尋ねた。

「アクセスの良い場所に、お客様と交流する場所を作りたかったというのが最大の理由です。東御市は、最寄りの駅からワイナリーまでの道がずっと斜面の坂になっていて遠く、アクセスが悪いのです」と内山さん。
上田市内であれば、駅から歩いても10~15分で店舗までたどり着く。店舗までの道は市街地で平坦だ。道すがら観光できるお店もあり、遠出してきた人がアクセスしやすい。

また店舗のある柳町は、北国街道のレトロな町並みが続く場所。ぶらぶらと観光するのが楽しいエリアだ。柳町のメインストリートは「柳町発酵通り」と言われ、「味噌」「日本酒」「天然酵母のパン屋さん」といった発酵食品の店が建ち並ぶ。柳町は、元来日本酒や味噌の生産者がいた町。
観光のために町を整備する一環で、こういった通りが生まれたのだ。もちろんワインも発酵食品であり、まさしくぴったりの立地といえよう。

これ以上ないほどの好立地にカフェを構えられたのには、上田市の日本酒蔵「岡崎酒造」が大きく関わっている。ワイナリーが本格的に立ち上がる前の蓮見さんは、岡崎酒造で醸造の手伝いをしていたことがあった。
岡崎酒造の先代会長から「隣の土地の中に新しい建物を建てるから、一緒にやらないか」とお誘いいただいたのだ。

2013年から始まったカフェは一部古民家をリノベーションして造られ、いわゆる日本家屋の外観だ。町中にマッチした「和」の見た目でありながら、中では洋食・ワインを楽しめる場所になっている。
カフェの食事は、なんと蓮見さんと内山さんで食材の仕込みをしている。

「観光のお客様や、ワインファンのお客様が飲みに来てくれています」と内山さんは嬉しそうに話す。2019年には、観光バスが週に100台近くやってくる時期があった。
県外からの観光客も多く「ワインを買ってみたら、とても良かったから」とリピーターになってくれることも多いという。

「人との交流」を大切にしたいと考えている、はすみふぁーむ&ワイナリー。「人が来てくれることで、自分たちがワインを造ってきた話などを直接お客様にお話できますから」と内山さんは話す。上田のカフェは、はすみふぁーむ&ワイナリーにとって欠かせない存在。
お客様と交流する場として、重要な意味を持っているのだ。

▶内山さんと、はすみふぁーむ&ワイナリーの出会い

内山さんは、はすみふぁーむ&ワイナリーでゼネラルマネージャーを務めている。内山さんとワインとのつながりや、はすみふぁーむ&ワイナリーとの出会いについて聞いた。

「実は、ワインについては全くの門外漢でした。10年以上ずっと建築に携わっていましたから」驚いたことに、内山さんは全くの異業種出身だったのだ。観光で訪れていた長野に魅せられ、こんな環境で生活したいと考えていたのだという。

「自分たちがやってきたことを、お客様に直接伝えられる仕事を探していました。建築の仕事は、お客様に直接伝えることが難しい面があります。そもそもお客様に会う機会がなく、自分の造った物についてお客様に伝えることができないのです」

そんな内山さんがつかんだ新しい仕事が、長野県のホテルで、サービススタッフとして働くというもの。新しい仕事のために長野県内のワイナリーを勉強していた時に、はすみふぁーむのワインを飲んで衝撃を受けたという。

「日本で、こんな美味しいワインを造っているワイナリーがあったのかと、驚きました。しかも自分の働いている近くに、こんなに素晴らしいワインを造っている場所があるなんてと衝撃を受けたのです」

すっかりワイナリーのファンになった内山さんは、ぶどう苗を植えるボランティアやアルバイトでワイン造りに参加するように。「そして、いつのまにかこの会社で働いていました」と笑う。

建築業とワイン業、違いや共通点はあるか尋ねた。「共通するのは『体を使うこと』『物を造ること』くらいですかね」と内山さんは話す。建築の仕事は、調達してきた材料を加工して造る仕事だ。しかしワインは材料から自分たちで作る仕事。さらにいうと、材料を作るための「土地や環境」に至るまで自分たちで整えなくてはならない。

内山さんは、農業について「根底から『もの』を作っていく必要があると感じます。物づくりの基礎に迫るのが、ワイン造りや農業だと痛感しています」と話す。

大変な仕事ではあるが、ワイン造りの仕事は、内山さんにとって喜びに満ちあふれている。もともと接客業がやりたくて仕事を変えたこともあり、やりがいを強く感じる場面が多いのだという。

「ワイン造りについて、お客様にお伝えしたいことがたくさんあるのです。ワイナリーには、ワインの話を聞きたくて来てくださるお客様もいて、とても楽しいですね」と答える内山さん。
「ワイン造りやワイナリーの仕事に対する愛情」はあふれんばかり。その思いはまるで、きらきらと輝いて目に見えるようだ。

『自社畑で育てるぶどう達』

はすみふぁーむ&ワイナリーで育てているぶどう品種について紹介しよう。自社畑の広さは2.6ha。自社畑で育てている品種は以下の通りだ。

  • メルロー
  • シャルドネ
  • ピノ・ノワール
  • 甲州
  • アルバリーニョ
  • カベルネ・フラン

メインの品種は「メルロー」「シャルドネ」「ピノ・ノワール」「甲州」であり、それぞれ年間平均1.2トンほどの収量がある。

アルバリーニョ、カベルネ・フランは少量を栽培している。ナイヤガラなどの生食用ぶどうもごく少量栽培をしているというが、あくまでもメインは「ワイン用」のぶどう品種だ。

これらの品種を選んだ理由についても、順に紹介していこう。メルローとシャルドネは、長野県内での栽培が多い品種だ。昔から「長野の環境に合っている」といわれていることから、はすみふぁーむ&ワイナリーでも栽培を行っている。

ピノ・ノワールを育てている理由には、オーナーの強い思いが関係している。オーナーの蓮見さんにはもともと「この土地で、自分の思うピノ・ノワールを造りたい」という強い思いがあったのだという。
ピノ・ノワールはある意味一番「栽培に気合いの入る品種」だという。

はすみふぁーむ&ワイナリーがある場所は、ピノ・ノワールの生産可能地域的には「南の限界点」。繊細で栽培が難しいとされているピノ・ノワールだからこそ、おのずと栽培に気合いも入る。
生産者の造り方によって「赤ワイン」「白ワイン」「スパークリング」と様々な表情を見せる魅力も大きい。

甲州を選んだ理由は、蓮見さんが甲州に大きなポテンシャルを感じていたからだ。実は、長野県内で甲州を栽培・醸造しているワイナリーはかなり少数派。現状甲州を100%自社畑で育てて醸造までを行っている長野のワイナリーは、はすみふぁーむ&ワイナリーだけなのだそうだ。

現在では、塩尻市で一部栽培され始めてはいるが、ワイナリー創業当時は県内で甲州を育てているワイナリーはゼロだった。
甲州が長野で栽培されないのは、名前が「甲州(山梨県甲州市から取られた)」という理由が大きい。「なぜ、長野のワイナリーなのに甲州を育てているのか?」と尋ねられることもあるという。

長野で扱うワイナリーが少ないということもあり、はすみふぁーむ&ワイナリーの特徴的なワインのひとつになっている甲州。全国的にも標高700~800mで甲州を育てている場所は少なく、ワイナリーの個性を表現するぶどう品種といえる。

ナイヤガラ、コンコード、ブラック・クイーンを使ったワインも一部存在するが、ぶどうを購入して醸造に利用している。

▶草生栽培による土作り

自社畑の土をどのように作っているのか、内山さんに尋ねた。はすみふぁーむ&ワイナリーでは、人為的な土作りは行わない。その代わりに行っているのは「草生栽培(下草を残した畑作り)」だ。
そのため肥料を入れることは一切ないという。

というのも、8割が火山灰系の土壌で構成されている自社畑は、非常に肥沃な土地。土質も田んぼに使われるような強粘土質であり、水持ちの良い土壌だ。

一方で、掘ればごろごろと石が出るくらい、石の多い土壌でもある。そのため粘土質にもかかわらず、水はけは良すぎるほどだ。「肥料がいらないほどの栄養分」と「水持ちと水はけの良さ」により、これ以上余計なことをする必要がないのである。
「下草を大地に返す作業くらいで、土作りできてしまう場所です」と内山さんは話してくれた。

▶2020年の天候とぶどう栽培

難しい年といわれる2020年の圃場の様子について伺った。2019年はぶどうの質や量が今まで以上に素晴らしい年だったため、2019年と比較すると収量は6~7割程度に落ち込んだ。
長雨による実付きの悪さが響いたという。雨によって媒介される病気は若干発生したが、幸いにも大打撃というほどではなかった。

夏は酷暑だったため空気が乾燥し、ぶどうひとつひとつの品質は大変良いものができた。特に黒ぶどう品種の調子が良かったという2020年。内山さんは、空気の乾燥が黒ぶどう品種にとって良かったのではと考察している。
一方の白ぶどう品種は、長雨による花ぶるい(開花後にすぐ花が落ちてしまうこと)があり、難しさがあったという。

天候はぶどう栽培にとって重要だが、人間にはどうしようもない部分。「与えられた環境で、どこまでぶどうをケアしていけるかですね。台風が来るからといって、全て囲ってあげることはできない。自然任せなところはあります」と内山さんは話す。

2020年のエピソードとして、もうひとつ面白いお話をしていただけた。「最近は地元農家さんにも知り合いが増えてきました。農家さんのひとりに『かまきりの卵占い』というものを教えてもらったのです」

「かまきりの卵占い」とは、かまきりが卵をどの位置に産むかで、雪の積もり具合を占うというものだ。2019年は「足のすね」くらいの高さに卵があったため「今年はあまり雪が降らないよ」とのこと。ところが2020年は「今年はかまきりが1.5mの場所に卵を産んでいるから、たくさん雪が降るよ!」と言われたそうだ。

「実際に、2020年の降雪量は2019年に比べて段違いに多かったので、驚きました」と内山さん。その土地で昔から農業を営んできた人の話は、知識や経験の宝庫。「ぶどう栽培に取り入れていきたいです」と話してくれた。

▶地域の人とのつながり

地元農家と良好な関係を築く、はすみふぁーむ&ワイナリー。地元の人々とのつながりについて話を伺った。意外にも、地域の人とのつながりは最近になってから徐々にできはじめたという。
移住当初は、ワイン用ぶどう栽培が「異質なもの」扱いされていたこともあったとか。

もともと東御市は「くるみ」や「巨峰」の栽培が多い地域。当時は地元の人にとって「ワイン用ぶどう」が全く未知の存在だったという。最初は地元の人に「お酒を造ってるんだろう。儲けているんだろう」と言われたこともあった。

今ではワイナリーの数も増え、地元でもワイン造りについて理解がある。地元の農家がはすみふぁーむ&ワイナリーのワインを飲んでくれたり、りんごなど原材料の一部を提供してくれることも。

東御市は人口の25%が農業従事者だという。「東御市には特殊な作物を作っていたり、変わった考え方を持っている人がたくさんいます。そういった人々とつながっていけるのが、今後も楽しみです」と内山さんは話す。
畜産も盛んな東御市、総理大臣賞受賞ブランド牛「峰村牛(みねむらぎゅう)」もあるのだとか。鶏肉も美味しく「黄金シャモ」が有名だ。

東御市は農産物や畜産物の素晴らしいポテンシャルがある土地。はすみふぁーむ&ワイナリーが造るワインも、この地が生み出す農産物のひとつ。恵まれた土地の豊かな風味と美味しさを、独自のワインで表現しているのだ。

▶「なぜこの作業をするのか」を考え抜くぶどう栽培

続いて、はすみふぁーむ&ワイナリーのぶどう栽培のこだわりについて紹介しよう。はすみふぁーむ&ワイナリーのこだわりは「ぶどうが育ちやすくなるためには、どうしたらよいか」を徹底的に考え抜くことだ。

「いかにぶどうのごきげんをとり、育ちやすい環境にしてあげるかを常に考えています。蓮見さんからは『ぶどうがどうやって伸びたいのかを考えて剪定しなさい。そのうえで、収量を落とさないことを想像しながら切りなさい』と良く言われています」と内山さんは答える。

はすみふぁーむ&ワイナリーは、剪定の基礎にこだわらない。ぶどうの様子をしっかりと見て、一番調子の良い枝を見つけ、それが伸びるにはどうしたら良いかを考えることを大切にしているのだ。

大きく育ったぶどうであっても、残すべき芽を真剣に考える。そして日当たりが悪いと感じたら剪定する。何月に何をして、というスケジュールに則した作業だけではなく、その時の状況に合わせて作業を日々変えているのだ。
「ぶどうに、いかによい環境を整えてあげられるか」を考え抜くことを大切にしている。

考え抜くぶどう栽培は、難しさもひとしおだ。自分以外のスタッフが剪定をしたぶどうの世話をするのは、特に難しい。「なぜこの芽を残したのか?」と、仲間のとった作業ひとつひとつについても考え抜く必要があるからだ。

「蓮見さんはワイン造りについて『趣味でやっている』という言い方をしたりするんです」と、内山さんは話す。好きだからこそ、徹底できる。反対にいえば、好きでないとこだわり抜いた作業はできない。
はすみふぁーむ&ワイナリーのぶどうは、ワインを愛するスタッフひとりひとりの情熱に支えられ、今日ものびのびと育っている。

『独自性の強いはすみふぁーむ&ワイナリーのワイン』

はすみふぁーむ&ワイナリーが目指すワインとはどんなものだろうか。内山さんに尋ねた。
「オーナーの蓮見が目指すピノ・ノワールは、アメリカ西海岸のピノ・ノワールワインのような味わいです」

ピノ・ノワールはアメリカにおいても高品質なワインが造られているが、一般的にはフランス・ブルゴーニュ産のイメージが強い品種だ。アメリカのピノ・ノワールは、フルーツの香りやジューシーさがありながらも、後味に赤ワインらしいどっしりとした味わいが特徴的。
はすみふぁーむ&ワイナリーでも、そんなピノ・ノワールを目指している。

一般のイメージとは別の、独自の路線を突き進むはすみふぁーむ&ワイナリー。そのワイン造りのこだわりや苦労について紹介していこう。

▶辛口ワインと自然なぶどう醸造のこだわり

醸造のこだわりについて聞いたところ、内山さんの答えは「第一は『辛口ワインを造る』ということにこだわっています」というものだった。

長野でも、昔ながらの「葡萄酒」的な甘口ワインが数多く見られる。観光に来るお客さんを見ていても「甘口葡萄酒のイメージ」の根強さを、ひしひしと感じているという。

「昔ながらの甘口ではなく、欧米ワインのような辛口であること。しかし、日本人の味覚に合うよう「渋み・酸味」の強くない口当たりのワインを目指しているのです」と内山さんは話す。
はすみふぁーむ&ワイナリーでは、低価格帯のワインでも高価格帯のワインでも、「辛口であること」という考えが根底にあるのだ。

ワイン醸造に関するこだわりもある。ひとつは、自然の酵母でワインを醸していること。はすみふぁーむ&ワイナリーのトップレンジワインは、乾燥酵母を使用せず野生酵母で醸造している。

さらに、アメリカンオークを使用していること。オーク樽を使用しているワイナリーはいくつも存在するが、その多くは「フレンチオーク」の樽だ。フレンチオークとアメリカンオークの違いは、香りの強さ。同じオークでも、木自体の香りが全く異なるのである。
フランス産は香りが穏やか、アメリカ産はウイスキーを思わせるバニラ香が特徴だ。「樽の香りが強い分、それに負けないぶどうを育てなくてはならないのです。そこがアメリカンオークを使う難しい点ですね」と内山さん。

はすみふぁーむ&ワイナリーでは酵母や栽培方法を変える派手な改善ではなく、地道な改善を重ねてワインを造る。そして、土地・ぶどうに合った改良を少しずつ試していく。必ずしも「自然派」を目指しているわけではないが、ぶどうをのびのびと育ててワインにすることが醸造のキーポイントになっている。

▶メルロー栽培の苦労

ワイン造りにおいて苦労したことを伺った。ここ最近で1番の苦労は、意外にも長野ワインとして代表的な「メルロー」の栽培にあった。

2017年から2018年にかけて、メルローの病気を止めることに非常に苦労していたという。メルローを立て直すため、作業にいくつもの改良を加えた。冬の時期や春先の手入れに力入れることで、徐々に持ち直してきたのだ。

「私たちの考えでは、メルローがこの土地に合っているという話にはやや懐疑的ですね」と内山さん。メルローに関しては、なかなか手放しでは育ってくれない品種なのだという。周囲のぶどう農家の話でも、3年に1回は大不作の年が来るのだそうだ。
さまざまな対策を打つことで、幸いにも2020年には病気の蔓延が抑えられた。

1年に1回しかできないぶどう栽培、ワイン造りについて、内山さんはこう話す。「あるワイナリーの方が『ワイン造りは、時間が有限であることを思い知らされる』と言っていました。その言葉を身にしみて実感します」

気候や環境や時間の流れは誰しも変えることができないが、ワイン造りという仕事では影響がダイレクトに響く。造り手が感じるもどかしさや、やるせなさは想像以上のものだろう。

▶願いは「食卓にワインが並ぶ」こと

はすみふぁーむ&ワイナリーでは、どのような人に、どのような場面でワインを飲んで欲しいと考えているのだろうか。

内山さんは「私たち全員が常日頃思っているのが『いかに日常の食卓にワインがあがってくれるか』ということです」と話す。

はすみふぁーむ&ワイナリーの願いは、日本の食卓にワインが並ぶことだ。食卓に並べて欲しいはすみふぁーむ&ワイナリーのワインを例に挙げよう。「Niagara Dry」「Concord Dry」「HASUMI FARM Cidre」には、日々の食卓で、ビールや日本酒をあけるように楽しんで欲しいという思いが込められている。

一方「千曲川ワインバレーシリーズ ピノ・ノワール」などの高級ラインは、記念日や晴れの日の食卓で味わって欲しいワインに仕上がっている。

ワインのイメージが強い長野だが、実は日本酒の消費量が多いのだとか。「地元の人の食卓にも、日常的にワインが出てくることを目指していきたいです」と内山さんは思いを語る。

▶自社畑と得意品種の強み

はすみふぁーむ&ワイナリーならではの強みについて紹介していきたい。ワイナリーならではの強みは大きく3つある。

ひとつは、主要品種のワインを「自社栽培・自社醸造」している点だ。もうひとつはワイン醸造の考え方を他のワイナリーと変えている点。他のワイナリーとの差別化は、大きなアドバンテージになる部分だと考えている。最後は、得意品種である「甲州」と「ピノ・ノワール」を持っていることだ。特にピノ・ノワールは、思い入れを持っているワインファンが多いぶどう品種だ。

内山さんがワインのイベントに参加すると、例年必ず「ピノ・ノワールファンのお客様」が見つかるのだという。こういったお客様は、自分の理想の「ピノ・ノワール」について確固たるイメージを持っている人が多い。

「ピノ・ノワールファン」は、自分のイメージと合致したピノ・ノワールを造るワイナリーの大ファンになってくれるのだ。毎年、ピノ・ノワールのワインのリリースを心待ちにしてくれる。

特徴的な「ピノ・ノワール」を持っていることは、はすみふぁーむ&ワイナリーにとって大きな強みなのだ。

『地元での活動と世界への挑戦』

最後にはすみふぁーむ&ワイナリーが目指す将来について尋ねた。

「まずは、ワインの生産量を維持していきたいです。小さな施設ながらも、年間2万5,000本という量のワインを造っています」と内山さんは話す。

もうひとつの目標として教えていただいたのが海外展開についてだ。「Think Globally , Act Locally」がスローガンだというはすみふぁーむ&ワイナリー。地元でワインを造っていくのと同時に、世界に発信していくことを今後の課題としている。

実際に活動は始まっており、2019年はマレーシアの展示会に出品。香港や台湾にはすでに輸出を始めている。

「日本で造られるワインのポテンシャルを、海外の人にも知って欲しいです」と内山さん。

アジアの輸出から始めているのには理由があり、東南アジアや中国の人々は「日本のものはポテンシャルが高い」と思ってくれるのだという。まずはアジアの人々にワインのクオリティの高さを知ってもらい、最終的にはアジアから西への展開を目指す。

たった4人のスタッフで、小さな施設でワインを造る「はすみふぁーむ&ワイナリー」。海を越えた挑戦はまだ始まったばかりだ。「日本一小さいワイナリーからの挑戦」を、私たちも応援し続けたい。

『まとめ』

はすみふぁーむ&ワイナリーは小規模なワイナリーだが、ワイン造りへの熱意と高い志を持つ、ハートの大きなワイナリーだ。

アクセスの良い上田のカフェはもちろんのこと、東御市のワイナリーにもぜひ立ち寄ってみてほしい。ワイン造りの面白さや大変さ、素晴らしさ。造り手から、ワインにまつわるたくさんの話を聞くことができるだろう。

基本情報

名称はすみふぁーむ&ワイナリー
所在地〒389-0506
長野県東御市祢津413
アクセスしなの鉄道田中駅より車10分
HPhttp://hasumifarm.com/

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