『大崎ワイナリー合同会社』生食用ぶどうで造るフレッシュな味わいのワイン

宮城県大崎市は県の北西部に位置し、北に秋田県、西は山形県に接している。ササニシキやひとめぼれなどのブランド米の発祥地でもあり、東北でも有数の米どころとして知られている土地だ。

そんな大崎市に2019年に設立されたワイナリーが、『大崎ワイナリー合同会社』だ。生食用ぶどうの栽培からスタートを切った家族経営のワイナリーで、こだわりの「農家が造るワイン」を醸造している。

日本各地の農家や醸造家とつながりを持ちながら技術を着実に身につけてきた大崎ワイナリー。フレッシュなぶどうそのままの風味が生きたワインを造り、地元の人たちを中心にファンを獲得してきた。

今回は、大崎ワイナリーのこれまでの歩みとこれからの展望について、代表社員の喜藤孝徳さんにお話を伺った。大崎ワイナリーの魅力に迫っていきたい。

『大崎ワイナリー設立までのストーリー』

まずは、大崎ワイナリーがぶどう栽培をすることになったきっかけから見ていこう。

「うちは先祖代々、農家なんです。祖父はチャレンジ精神が旺盛で、いろいろなことに挑戦してきたようです。父の代からは、いちご栽培を始めました」。

▶︎いちご農家から、ぶどう栽培に転向

喜藤さんのご両親がおこなっていたのは、地面に作った畝でいちごを栽培する昔ながらの農法だ。しゃがみこんで作業をしなければならないため、体にかかる負担は大きく、年齢とともに続けることが難しくなった。

そこで、いちご以外に生計を立てられる作物はないかと考えた喜藤さんのお父さんがたどりついたのが、生食用ぶどうのスチューベンだった。

青森県の津軽地方が日本一の生産量を誇るスチューベンは、晩秋に収穫されるぶどうで、栽培も比較的簡単な品種だ。

いちごを育てていたビニールハウスの周辺の土地で、スチューベン栽培を始めた喜藤さんのお父さん。しかし、スチューベンは市場に出荷しても、それほど高値がつく品種ではなかった。また、ぶどうは一年に一度しか収穫できない作物である。

ぶどう栽培を続けながら収入を確保するための方策を検討した結果、ぶどうの加工品を製造して販売までを手掛ける、いわゆる「6次産業化」をするべきだということになった。ぶどうの加工品といえば、ワインである。ここから、大崎ワイナリーのストーリーが始まるのだ。

▶︎WANOワイナリーとの出会い

喜藤さんたちがワイン醸造についてレクチャーを受けたのは、醸造青森県鶴田町の「WANOワイナリー」だ。津軽地方にある鶴田町は、スチューベンの生産量が日本一の町である。WANOワイナリー代表の八木橋さんから、ワイナリーを設立するまでのノウハウについても教えを受けた。

2018年には、収穫したぶどうを持ってWANOワイナリーまで持っていき、ワイン醸造を実践的に学んだそうだ。

「仕込みの時期には、宮城と青森を行ったり来たりしていましたね。ワインを仕込んでいったん宮城に戻り、瓶詰めのためにまた青森に行き、ワインの瓶を積んで戻ってきました」。

そして、2019年に大崎ワイナリーを開業。2020年には醸造免許を取得して、自社醸造を開始した。

『大崎ワイナリーのぶどう栽培』

開業当時から、スチューベン、キャンベル・アーリー、ナイアガラの3種類の生食用ぶどうを栽培し、ワインを造っている大崎ワイナリー。なぜ、生食用ぶどうを栽培しているのだろうか。

大崎ワイナリーのぶどう栽培について紹介したい。

▶︎選りすぐりの生食用ぶどう

まずは、大崎ワイナリーの自社畑の土壌についてふれておこう。

自社畑は、広さが30aほど。平地にあり、土壌は粘土質だ。周囲には果樹栽培をしている畑はなく、あるのは水田のみ。また、仙台への通勤が可能な大崎市は、東北地方の中では農業従事者が少ない土地なのだ。

一般的に、粘土質土壌は水はけが悪く、ぶどう栽培には不向きとされている。また宮城は、果樹栽培が盛んな土地が多くある東北の他県に比べて、気候条件が果樹栽培向きとはいえない。果樹の生育期にあたる夏に、「山背(やませ)」という北東からの冷たい風が吹くため、冷害が起きてしまう可能性が高いのだ。

「気候条件と土壌がぶどう向きではない土地なので、栽培がしやすく、より多くの収量が確保できる生食用ぶどうを栽培することにしました。また、生食用のぶどうは、ワインにしたときに熟成期間を長く取る必要がなく、フレッシュな感じに醸造できます。そのため、収穫時期が異なる品種を育てれば、小さな醸造所でもやりくりしやすいと考えました」。

▶︎効率重視の栽培品種

大崎ワイナリーの自社畑で栽培しているぶどうを、収穫時期が早い順に見ていこう。

まずは、9月上旬に収穫時期を迎えるキャンベル・アーリー。早生品種であるため、栽培を始めた。次がナイアガラで、収穫は9月下旬頃。そして10月中旬から収穫がおこなわれるのが、もっとも栽培面積が広いのがスチューベンだ。

小規模ワイナリーでは、一度にたくさんのぶどうの収穫を迎えるとタンクが不足するなど、醸造スペースの確保が問題となることが多い。

そのため大崎ワイナリーでは、ワインを造ると決めたときから、収穫時期が異なる品種を栽培して、仕込みや醸造の期間がかぶらない品種を選んで植栽したのだ。なんとも合理的である。

▶︎シャインマスカットも栽培

かつて、最初のスチューベンを植えたときから、日本各地に赴いてぶどう栽培に関する情報収集を積極的におこなってきた喜藤さんたち。宮城や青森だけでなく、ツテをたどって

山梨や長野などにも足繁く通ったそうだ。

当時からの人脈は、今でも大崎ワイナリーのぶどう栽培とワイン醸造に生かされている。今でも毎年、長野に行ってぶどう栽培のアドバイスを受けている。気候風土が違うのでノウハウをそのまま生かせない場合もあるが、貴重な情報源であることには変わりない。

大崎ワイナリーでは、ワイン醸造に使う3種類のぶどうのほか、シャインマスカットも栽培している。シャインマスカットを栽培することになるきっかけも、人との縁によるものだった。

「今では高い市場人気を誇るシャインマスカットですが、当時はまだそれほどではありませんでした。山梨で試験栽培をしていた方に紹介してもらい、たまたま栽培を始めたのです」。

2020年には、ビニールハウスで栽培していたいちごを、すべてシャインマスカットに植え替えた。育てていた作物をすべてやめ、新たな作物に刷新するという決断は、農家にとって非常に勇気のいるものだったに違いない。しかし、決断が功を奏し、シャインマスカットは今でも喜藤さんにとって非常に重要な収入源となっている。

▶︎丁寧なぶどう栽培がこだわり

大崎ワイナリーのぶどう栽培は非常に丁寧で、すべての品種のぶどうに、ひとつずつ袋かけをしている。

「一般的には、加工用のぶどうには袋かけをすることはあまりないと思います。しかし、天候から守るため、うちでは加工用のぶどうにも袋をかけた方が出来がよいと判断しておこなっています」。

また、脇芽を取る作業も、こまめに実施する。ぶどうは、途中で枝が折れても問題ないように、最初に生える主枝のほかにも、副次的な枝を次々と伸ばす習性を持っている。しかし、伸びた副梢を放置すると、ぶどうの房に十分な栄養が行き渡らなくなってしまうのだ。

「脇芽はどんどん伸びてきますので、その都度、摘み取ります。脇芽との追いかけっこですね」。

また、枝を食い荒らす虫を見つけた場合には、虫が作った穴から細い針金を通して、虫を潰していくという今季のいる作業も欠かさずおこなう。

栽培管理に手間暇を惜しまない大崎ワイナリーでは、ワイン用ぶどうの栽培担当は喜藤さんひとりだ。病害虫が発生しやすい日本の環境では、丁寧に栽培すればするほど、よく育つと感じているそうだ。

愛情をたっぷり受けて育った大崎ワイナリーのぶどうは、実りの時期に健全な房をつける。

『大崎ワイナリーのワイン醸造』

大崎ワイナリーでは2022年に自社醸造の3年目を迎えるが、すでに3品種の醸造スケジュールが確立している。

一体どんなスケジュールで醸造しているのだろうか?

▶︎醸造スケジュールはルーティン化

まず最初に醸造するのはキャンベル・アーリーだ。9月上旬に収穫して赤ワインとして仕込み、「澱(おり)引き」のため2週間ほど冷蔵する。ワインの出荷は10月第2週頃。

次にナイアガラは9月下旬に収穫して白ワインとして仕込み、11月上旬には出荷する。

そして最後はスチューベン。10月中旬に収穫してロゼワインとして仕込む。

さらに、2022年には、スパークリングワイン用の炭酸ガス充填のための機器を導入した。白ワインとロゼワインは、スティルワイン用とスパークリングワイン用のふたつに分ける。

白とロゼのスパークリングワインも醸造が可能となったため、大崎ワイナリーのワインの銘柄が5種類に増えたのだ。

「スパークリングの機材が入ったことによって作業がひと工程増えたので、少し大変ですね。スパークリングワインはお客様からのご要望が多かったので、飲んでいただくのが楽しみです」。

▶︎ワイン造りのこだわり

喜藤さんに大崎ワイナリーのワイン造りのこだわりを尋ねると、次のような答えが返ってきた。

「農家が造るワインなので、ぶどうそのもののポテンシャルを生かした、風味がしっかりと感じられるワインにしたいですね。生食用ぶどうで造っているので、ライトでフレッシュな飲み口が特徴です。日本人には飲みやすく、購買層は広いはずだと考えています」。

また、これまで日本酒や焼酎を飲んできたけれど、健康のためにワインに切り替えたいと思っている人にもおすすめだと話してくれた喜藤さん。

工夫というほどのことはしておらず、レクチャーしてもらった醸造方法を守っているだけだと謙遜する喜藤さん。しかし実は、基本に忠実に醸造することこそが難しいのではないだろうか。

「お客様に、『今まで飲んだワインの中で一番美味しい』と言っていただけると、やはり、ぶどうの品質にこだわっていることが仕上がりに直結しているのだと感じます」。

▶︎よいワインは、よいぶどうから

ぶどうの香りと味がそのまま感じられるフレッシュなワインを造るために特に気をつけているのが、原料となるぶどうの選果だ。

収穫したぶどうをタンクに投入する前に、実が割れていたり、痛んでいたりする実はすべて取り除く。「よいワインは、よいぶどうから」というワイン醸造の基本となる考え方を実践するためだ。

また、「澱(おり)引き」の行程にもこだわっている。

「清酒を瓶詰めする際にタンクの底にたまったカスを取り除くために使われる『濾布(ろふ)』を使って、ワインの澱引きをしています」。

濾過専用の布を使うことで、タンクの下に溜まりがちな、香りや味が凝縮された成分を逃

さない。また同時に、不要な澱も取り除くことができるのだ。

大崎ワイナリーでは2021年から濾布を導入。施策の効果があり、2021年ヴィンテージは導入前のワインに比べて、より味と色合いが濃くなったと評判だ。

濾過した液体は2週間かけて冷却し、液体の対流をなくす。濁りの原因となる酒石がタンクの下に沈殿しやすくなり、清澄なワインになる。

さらに、冷却装置にもこだわりがある。通常の冷却タンクの構造は、二重になった層の間に冷やした不凍液を入れて冷却する仕組みだ。しかし、より多くのワインを一度に冷却するため、大崎ワイナリーでは通常のタンクを冷蔵庫で囲って冷却する。

大崎ワイナリーではワイン醸造においても手間暇を惜しまない。だからこそ、フレッシュで美味しいワインが提供できるのだ。

『小人が造る?大崎ワイナリーのワイン』

大崎ワイナリーのワインのエチケットには、どこかノスタルジックで繊細なタッチで描かれた小人が登場する。ぶどう栽培とワイン造りの各工程をストーリー仕立てで表現しており、すべてのボトルをコンプリートしたくなる愛らしさだ。プレゼントにしても、きっと喜ばれるに違いない。

全5銘柄は以下。

  • キャンベル・アーリーの赤ワイン「大﨑ハーベスト」(収穫)
  • ナイアガラの白ワイン「大﨑ブリュー」(醸造)
  • スチューベンのロゼワイン「大﨑バンケット」(宴会)
  • ナイアガラのスパークリングワインの「大﨑ホリデー」(休日)
  • スチューベンのロゼスパークリングワイン「大﨑バケーション」(休暇)

それぞれ順に紹介していこう。

▶︎スティルワイン3種

キャンベルアーリーの赤ワイン「大崎ハーベスト」の特徴は、なんといってもリリース時期がワインとしてはとても早いこと。10月第2週頃に販売する。

「『ボジョレー解禁よりも1か月早く出る新酒』が謳い文句です」。

次に、ナイアガラの白ワイン「大崎ブリューは、辛口仕上げ。ナイアガラは甘口ワインに造られることもあるが、差別化を図るため、大崎ワイナリーではあえてさっぱりとした味わいに造っている。

そして、スチューベンのロゼワインは『大崎バンケット』だ。

「スチューベンはあえて甘口のロゼにしています。本来、スチューベンは赤ワインにする方が簡単なのですが、すでにキャンベル・アーリーの赤があるので、ロゼワインにしました。」。

3種のワインを造るにあたっては、WANOワイナリーでの研修中におこなった試作ワインで評判のよかったものの糖度などを計測し、商品化する際の参考にした。

▶︎スパークリングワイン2種

続いて、2022年から醸造を開始したスパークリングワインを見ていこう。

ナイアガラのスパークリングワインは「大崎ホリデー」、スチューベンのロゼは「大崎バケーション」だ。

大崎ホリデーは食事とともに楽しめる辛口、大崎バケーションは酸味が控えめの甘口だ。暑い季節にも手にとってもらいやすいようにと、冷やして楽しめるスパークリングワインの醸造も開始した。

「うちのワインはすべて2,000円未満で、購入しやすい価格設定です。ワイン初心者の方にも、気軽にたくさん飲んでいただきたいですね」。

お客様の声も参考にしながら、今後の商品展開を考えているという喜藤さん。将来的には、現在の甘口に加えて、辛口のスチューベンのロゼスパークリングワインの醸造も検討するという。

さらにラインナップが増えると、お気に入りの1本を選ぶ楽しみも出てくるだろう。

『まとめ』

最後に、大崎ワイナリーの今後の展望を語っていただいた。

「うちの自社畑の周辺は、平地で粘土質の土地ばかりです。ワイン用のヨーロッパ系品種の栽培に適しているとはいえません。しかし、いずれは栽培に挑戦したいと思っています」。

ヨーロッパ系品種のなかでも、喜藤さんが特に栽培したいと思っているのはメルローだ。メルローをスチューベンとブレンドし、メルロー単一のワインよりも手頃な価格で提供できればと考えているという。

「カベルネ・ソーヴィニヨンなどは、土壌や気候に左右されやすい品種特性があるので、日本で栽培すると野性味が足りなくなる傾向があるようです。その点メルローは、雨が多かったり粘土質だったりしても育ちやすく、失敗が少ないと考えられるので、ぜひ栽培してみたいですね」。

大崎ワイナリーの自社畑にメルロー植栽され、収穫を迎えるのはまだ先の話だ。いつかリリースされる日を楽しみに待ちたい。

また、今後はイベントへの参加も積極的におこなって行きたいという大崎ワイナリー。

「新型コロナの影響で参加が難しい日々でしたが、今後は地元のイベントやお祭りにどんどん出店します。地域の方に飲んでいただいて、意見を取り入れていきたいですね。まずは、地元に愛されるワイナリーを目指します」。

大崎ワイナリーのワインは、もの造りへの誠実な姿勢がそのままに表現されている、優しい味わいだ。ぶどうの風味がそのまま生きたフレッシュなワインを、ぜひ一度、味わってみてはいかがだろうか。

基本情報

名称大﨑ワイナリー
所在地〒989-6105
宮城県大崎市古川台町3-15
アクセスJR古川駅より徒歩10分
東北自動車道古川ICより車で15分
Google Maphttps://goo.gl/maps/FPBPAuVfLQPYqNR26

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