追跡!ワイナリー最新情報!『南三陸ワイナリー』新たな銘柄が登場し、イベントの継続開催で地域活性化に努める

三陸海岸南部、宮城県本吉郡にある南三陸町は、2011年3月11日に発生した東日本大震災によって甚大な被害を受けた自治体のひとつだ。南三陸町にある「南三陸ワイナリー」は、震災復興プロジェクトの一環として誕生し、地元産の美味しい食材に合うワイン造りをおこなっている。

南三陸町は牡蠣などの海産物だけでなく、豚や羊など畜産業も盛んな自治体だ。南三陸ワイナリーは豊かな自然に囲まれた立地を生かし、多様で豊富な食材とのマリアージュを叶えるため、さまざまなぶどうの栽培を実施。品種ごとに工夫を凝らし、食材に合わせやすいワインに仕上げている。

また、安定した温度と微振動を生かしたワインの海中熟成にも取り組んでいる南三陸ワイナリー。イベントやワインツーリズムの開催にも積極的で、地域に賑わいを呼び込む取り組みをおこなっている。

今回は南三陸ワイナリーの2021年以降の動向について、代表取締役の佐々木道彦さんにお話を伺った。

『2021年以降のぶどう栽培』

まずは、2021年以降のぶどう栽培について、佐々木さんにお話しいただいた内容を順に紹介してこう。

▶︎畑ごとの特徴と気候

町内に2か所、山形県上山市に1か所の自社畑を管理している南三陸ワイナリー。

町内のひとつめの畑は、入谷(いりや)地区にある童子山(どうじさん)の中腹に広がる。童子山は南三陸町内陸部にある標高約300mの山だ。2023年に植栽7年目を迎えたが、2022年には開花時期の長雨が影響で結実が進まず、収量は前年の4分の1程度にとどまった。

もうひとつの町内の畑は、標高500mほどの田束山(たつがねさん)の山頂付近にある。厳しい気候で凍害が発生しやすいこともあり、樹の生育スピードはゆっくりしている。2023年、苗を植えて4年目にしてようやく小さな房がつき始めた。

3つ目の畑は山形県上山市にある。大きな自然災害などの問題もなく、2022年に初収穫を迎えた。上山市は冬場の降雪量が多い地域のため、雪が多い年には被害が発生することがある。2021年には雪の影響で、棚仕立てのカベルネ・ソーヴィニヨンを中心におよそ4分の1の樹が折れてしまった。

だが、難を逃れた樹の初収穫の結果は上々。収穫できたのはメルローとカベルネ・ソーヴィニヨン、ソーヴィニヨン・ブランの3品種で、あわせて200kgほど。単一品種で仕込めるほどの収量はなかったが、2023年の初夏に発売したシャルドネのワインには、ブレンド用としてソーヴィニヨン・ブランを使用した。

また、童子山で少量採れたメルローに上山市のカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローをあわせて小さな樽で熟成させ、2023年冬に発売する。

▶︎栽培方法を模索

2023年現在、南三陸ワイナリーの自社畑の収量は、原料全体の1割以下。栽培開始から数年しか経過していないため、それぞれの畑や品種ごとのポテンシャルについてはまだ未知数だという。

南三陸ワイナリーでは、畑ごとに異なる品種と栽培方法を導入している。そのうち、2021年の大雪から生き延びた上山市の畑のぶどうは仕立て方の工夫が功を奏したのか、非常に生育がよい。

「上山市の畑だけは、垣根仕立てではなく『一文字短梢栽培』にしています。1本の樹の枝を左右に5メートルくらい伸ばしていて、たくさんの房が付けられる仕立て方です」。

上山市の畑に植栽しているのは約500本。ほかのエリアの畑よりも本数あたりの収量が多く、一文字短梢栽培の効果が実感できている。樹がさらに大きく成長した2023年も、上山市の畑ではかなりの収量が期待できそうだ。

佐々木さんが上山市の畑に一文字短梢栽培を採用したのは、上山市が南三陸から距離的に離れた土地であることがひとつの理由だ。週に1度ほどしか通えないため、できるだけ効率のよい栽培方法を考えて候補に上がったのが一文字短梢栽培だった。

「将来的には一文字短梢のカーテン仕立てに移行していく予定です。枝を横に伸ばし、新梢を垂らして摘心していく方法で、上山市の栽培者さんで導入されている方法です」。

▶︎個性あふれるぶどうが育つ

南三陸ワイナリーがある南三陸町は海に面しており、リアス式海岸が続く地形が特徴だ。そんな南三陸町にある童子山の畑では、酸がしっかり残りながらも糖度が上がる、良質なシャルドネが採れる。

また、同じくリアス式海岸であるスペインのガリシア州北西部のリアス・バイシャスが原産のワイン用品種、アルバリーニョも栽培している。アルバリーニョは、樹勢が強い品種特性を持っているため、南三陸町内にある自然環境が厳しい田束山の畑で栽培。植栽しているのは約1000本だ。

「今のところ、生育状態はよいですね。2024年か2025年頃には収穫できるはずです。三陸沿岸部とリアス・バイシャスは地理的条件が似ているため、陸前高田や大船渡などでもアルバリーニョの栽培を増やしている生産者が増えています。私たちも三陸沿岸がアルバリーニョの一大産地になればという期待を持って栽培に取り組んでいます」。

また、上山市の畑ではソーヴィニヨン・ブランやカベルネ・ソーヴィニヨンを中心に栽培している。上山市の畑は盆地にあるため昼夜の寒暖差が大きく白ワイン用品種はしっかり酸が乗り、日照量も多いためしっかりと色付いた赤ワイン用品種も収穫できる。2022年に初収穫を迎えたカベルネ・ソーヴィニヨンは優れた出来で、2023年も立派な房を付けた。

南三陸ワイナリーの3つの自社畑では、それぞれのテロワールを反映した個性があふれるぶどうが、今後も数多く育っていくことだろう。

▶︎土壌改良にも着手

南三陸ワイナリーでは、上山市と田束山の畑において、それぞれ土壌改良をおこなっている。

上山市の畑はもともとは水田として利用されていた場所で、水はけが悪かった土地だ。しかし、数年かけてコツコツと排水環境の改善に取り組んできた甲斐があり、徐々にぶどう栽培に適した土壌になってきた。

また、田束山の畑は標高が高いことに加えて表土が薄く、粘土質であるためにぶどうの根が張りにくいという問題があった。

「気温が下がりやすく凍害に遭うリスクが高いだけでなく、土壌の性質のせいで根が張りにくいのです。土壌が持つ特徴が原因で、生育がうまくいかないのではという指摘は、相談した専門家からも受けていました。そのため、思い切って土壌環境を再構築することにしたのです」。

2023年、樹の50cmほど横を掘り返し、堆肥や土壌改良材剤などを入れて埋め戻す作業に着手。開花シーズンまでに、畑の半分ほどまで対応を進めることができた。また、粘土質由来の水はけの悪さに対しても、水の流れる道筋を作る対策を実施した。今後も生育を見守り、改善が見られたら作業を継続する予定だ。

『2021年以降のワイン醸造』

続いては、南三陸ワイナリーの2022年ヴィンテージのワインについて話を進めていこう。あわせて、佐々木さんのおすすめ銘柄も紹介していきたい。

▶︎自社ぶどう100%の赤ワインを初醸造

南三陸ワイナリーでは2022年、初となる自社ぶどう100%の赤ワインを仕込んだ。童子山のメルローに上山市のカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローをあわせ、樽熟成させている。テイスティングを重ね、ベストの状態になったタイミングでリリースする予定だ。

「カベルネ・ソーヴィニヨンならではの、ふくよかな甘味が感じられる仕上がりになりそうです。いわゆるボルドー・ブレンドらしい味わいが特徴です。少量のリリースですが、2023年の年末までには販売する予定です」。

カベルネ・ソーヴィニヨンはもともと、佐々木さん自身が好きな品種なのだそう。そのため、カベルネ・ソーヴィニヨンを使った自社ぶどう100%の赤ワインの誕生は、南三陸ワイナリーにとって記念すべきことなのだ。

使用したのは、童子山と上山市の畑のぶどう。童子山のメルローはシャルドネの畑に混ざって植えられているそうだ。

童子山の畑では秋の収穫祭を実施する際に、参加者と一緒にぶどうの収穫をするのがワイナリーの恒例行事となっている。収穫のタイミングを収穫祭の実施日に合わせているため、最適なタイミンで収穫するのが難しいこともある。2022年のメルローは、熟度が少し控えめで果実味が強い状態だった。

いっぽう、上山市の畑のメルローはしっかりと熟して糖度が高く、ポテンシャルを感じる状態で収穫した。

異なったコンディションとテロワールを表現した2つのメルローが使われているため、仕上がったワインは、味わいのバランスが絶妙だ。南三陸ワイナリーならではのブレンドの妙がなせる、複雑で豊かな味わいが楽しめるワインとなった。

佐々木さんは新しいブレンド赤ワインを、南三陸町で育った「わかめ羊」の料理と一緒に提供したいと考えている。わかめ羊とは、南三陸産のワカメの茎の部分を食べて育った羊で、臭みが少なくジューシーで濃厚な味わいが人気だ。

「羊肉など濃厚な料理に合うような、しっかりとしたボディ感の本格的なワインを目指しました。メルローを使ったワインとしては、これまでも新樽を駆使するなどさまざまな工夫を凝らしたものを造ってきましたが、今回ようやく自社のカベルネ・ソーヴィニヨンとのブレンドワインができるので、大いに期待していただきたいですね」。

▶︎佐々木さんのおすすめ銘柄

続いては、2022年ヴィンテージのワインの中から、佐々木さんのおすすめの銘柄を紹介いただいた。

まずは白ワインの「VERDELEE(ヴェルデレー)2022」。上山市の契約農家が栽培しているぶどう品種「セイべル9100」が原料で、南三陸の牡蠣などによく合う味わいだ。

「早摘みのぶどうを使用しているので、酸がしっかり残りつつ、華やかな香りもふんだんにある仕上がりです。お客様に非常に好評ですね。牡蠣やサーモンと合わせると、旨味がたっぷり感じられます」。

また、ロゼワインでは「STEUBEN(スチューベン)2022」を挙げてくれた。リピーターの多い人気商品だ。

「スチューベンは果皮の色が薄い品種なので、2022年ヴィンテージからは、オーソドックスなロゼワインの製法と醸し発酵させる赤ワイン仕込みのふたつをブレンドしました」。

ブレンドによってできた新たなスチューベンは、過去のヴィンテージのものよりも濃い色合いに仕上がった。タンニンがやや感じられる味わいなので、軽い肉料理や麻婆豆腐、餃子などと合わせるのがおすすめだ。

最後に、赤ワインでは「MUSCAT BAILEY A(マスカット・ベーリーA)2022」をおすすめいただいた。

ひとつ前のヴィンテージである2021年には、収穫したマスカット・ベーリーAは果実味が強かったため、例年実施していたマロラクティック発酵をおこなわなかった。すると、いちごのような香りでキリッとした酸が感じられるワインになったそうだ。だが、酸味が強すぎるというお客様からの意見があったという。

「飲み手の方の声を取り入れて、2022年は酸を穏やかにしつつ、フルーティで軽やかな味わいに仕上げました。アルコール度数8.5%で、アルコ―ルが苦手な方でも気軽に飲めるチャーミングなワインです」。

「MUSCAT BAILEY A 2022」とペアリングしたいのは、トマトソースのパスタなど。日常の食卓で気軽に飲める赤ワインだ。

▶︎毎年味わいが変化するシードル

南三陸ワイナリーが醸造しているシードルについても紹介しよう。シードル醸造には、南三陸町産のりんごのみを使用している。

2021年は「ふじ」と「サワールージュ」「王林」の3品種のりんごを使用。そして2022年のシードルには、「ふじ」と「サワールージュ」の2品種を使用した。エチケットにもりんごのイラストがあしらわれている。

「『サワールージュ』は宮城県のオリジナル品種なので、県外の方には耳馴染みがないかもしれません。『サワー』という名前のとおり、酸味がある味わいが特徴でお菓子などに使われる加工用りんごです。『ふじ』の甘味と合わさると酸味がよいアクセントになり、美味しいシードルになりました」。

2022年は「サワールージュ」の比率が多めだったが、酸味はそれほど強くない。実は、「サワールージュ」の収穫は9月終わりから10月にかけてだが、ふじは11月後半に収穫時期を迎える。そのため、「サワールージュ」を新聞紙にひとつひとつ新聞紙に包んで冷蔵保管し、「ふじ」の収穫を待つのだ。保管している期間に、収穫したての鋭い酸味が徐々に穏やかになるという。

地元産のりんごをシードルの原料として使うことを優先するため、南三陸ワイナリーのシードルに使われる品種は毎年変化する。年ごとの味の違いにも注目しながら楽しんでみてほしい。

▶︎地元高校生とのコラボレーション

南三陸ワイナリーでは、目の前が海という立地を生かして海中熟成ワインを造っている。ワインを海に沈めるときと引き上げるときには必ずイベントを開催し、参加者を募ってきた。

「2023年は、地元の南三陸高校の生徒と一緒に海中熟成ワインを引き揚げてきました。南三陸高校が100周年を迎えたことを記念して、オリジナルラベルのワインを制作し、一部を海底熟成させていたのです」。

引き揚げイベントには20名ほどの生徒が参加し、漁船に乗ってワインを引き上げた。ワインボトルをネットから外したり、洗浄したりといった作業をわきあいあいとおこなった。海に面した南三陸町に住んでいるとはいえ、漁船に乗ったことのない高校生も多いそう。青春時代のよい思い出になったことだろう。

『まとめ』

南三陸ワイナリーには、自社醸造のワインと共に料理が楽しめる、「Shop & Kitchen」が併設されている。店内やテラス席で志津川湾の海を眺めながら、地元の新鮮な食材を使った料理とワインを一緒に楽しむことが可能だ。

地元産の旬の食材を使用した新メニューが季節ごとに登場することも、南三陸ワイナリーを訪れる醍醐味のひとつだといえそうだ。ワインに合うおつまみメニューやランチメニューを現地で楽しみたい。

また、南三陸ワイナリーは、さまざまなイベントへの出店や自社での開催もおこなっている。

2023年8月には、三陸や東北の食材を使ったさまざまな料理を提供しているレストラン「わたす日本橋」でメーカーズディナーを開催。南三陸の食材を使ったフルコース料理と、それぞれの料理に合う6種類のワインを提供した。引き揚げたばかりのメルローの海中熟成ワインの飲み比べもできるという充実した内容だった。

同じく8月に、第2回開催となる「ワインツーリズムさんりく」を実施。

「南三陸、気仙沼、陸前高田、大船渡の4か所をシャトルバスで結び、気になるワイナリーのワインが楽しめるイベントです。九州や関西など遠方からもご参加いただき、大変好評でした」。

2023年のワインツーリズムは、前年よりもさらにレベルアップし、三陸の夏を思う存分楽しめる内容となった。シャトルバスからはきれいな三陸沿岸部が見え、南三陸からはクルーズ船も出航。また、参加ワイナリーのメンバーと、ツアー参加者の交流イベントも開催されたのだ。

『「ワインツーリズムさんりく」は、今後も継続的に開催予定です。規模の大小はともかく、続けることにこそ意味があると思っています。イベントをきっかけに多くの方に三陸沿岸部に来ていただき、自然と美味しい食べもの、そしてワインを楽しんでいただきたいですね」。

今後もワインツーリズムや海中熟成ワインのイベントを開催していくという南三陸ワイナリー。三陸にさらなる賑わいが戻る未来も、きっとそう遠くはないだろう。


基本情報

名称南三陸ワイナリー
所在地〒986-0733
宮城県本吉郡南三陸町志津川字旭ケ浦7-3
アクセスhttps://www.msr-wine.com/view/page/access
HPhttps://www.msr-wine.com/

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