『南三陸ワイナリー』南三陸の食材と人とを、ワインで結ぶワイナリー

宮城県北東部、三陸海岸南部にある人口わずか約12,000人ほどの小さな町、南三陸町。地域の美味しい食材に合わせることを目的に、南三陸町でワイン造りをおこなっているのが、今回紹介する「南三陸ワイナリー」だ。

南三陸町は三方を山に囲まれ、養殖業が盛んな志津川湾に面している。ほかの三陸地域の自治体同様、2011年3月11日に発生した東日本大震災により、甚大な被害を受けた町のひとつだ。

そんな南三陸町で、ワインで地元の食材と生産者をつなぎ、盛り上げようと立ち上がったのが佐々木道彦さん。佐々木さんは長年、大手楽器メーカーで企画開発に関わってきた後に、南三陸ワイナリーをオープンさせた。

異業種に携わってきた佐々木さんをワイナリー設立に駆り立て、思い立ってからわずか数年の間に夢を実現させることになった背景には、どんな物語があるのだろうか?

南三陸ワイナリー代表取締役の佐々木さんに、ワイナリー創設までの経緯と、南三陸ワイナリーのワインや取り組みについてお話を伺った。

『新しい産業で町の賑わいを』

南三陸ワイナリーの創立のきっかけには、東日本大震災の発生が大きく関わっている。

ワイナリーのある南三陸町は、震災によって町の中心部が丸ごとなくなってしまうほどの壊滅的な被害を受けた。町が復興するためには、既存の産業の再建だけでなく、新しい産業を興す必要があった。

▶︎南三陸ワインプロジェクト

町の復興のため、南三陸町は「地域おこし協力隊」制度を活用し、いくつかのテーマの復興プロジェクトを並行して開始。そのうちのひとつが、「南三陸ワインプロジェクト」だった。

「当時はまだ、私はプロジェクトには参加していなかったのですが、被災地復興を目的として組織された『地域おこし協力隊』のメンバーが畑を借りて、ぶどうを植え始めたと聞いています」。

だが、宮城はもともと、ぶどうの生産が盛んな地域ではなかった。また、県内にあった唯一のワイナリーは津波で流されたという。

一方、宮城の近隣県にはワイナリーが多い。2021年度の国税庁の調査によると、山形のワイナリー数は全国4位、岩手は全国5位。国内でもワイン製造業が盛んな地域のひとつである東北地方にありながら、宮城県のワイナリー数は震災後にはゼロになってしまったのだ。

そのため、震災後には宮城県内にワイナリーを設立して、生産者とともに被災地を盛り上げることを目指す動きが出る。2015年には仙台市に、「秋保ワイナリー」が新たに創業した。

秋保ワイナリーでは、県内で多く生産されているリンゴを使って、シードルの醸造も手がけた。そして、秋保ワイナリーがりんごを購入していたうちの1軒が偶然、南三陸町の農家だったのだ。これがきっかけとなり、秋保ワイナリーから南三陸町に、ワイン用ぶどうの苗木が寄贈されたそうだ。

「寄贈されたぶどうの苗木は、南三陸町ですくすくと育ちました。町内でぶどう栽培ができることがわかったのです。南三陸町は、牡蠣やホタテなどの美味しい海産物がたくさん取れる志津川湾に面しています。そこで、志津川湾の海産物に合う白ワインを造ろうということになったのです」。

2017年には、町内にシャルドネを植樹。南三陸ワインプロジェクトが本格的に発足した。

▶︎三陸の復興のために

ここで、佐々木さんの経歴と、ワイナリー設立までの経緯に触れておきたい。佐々木さんは、大阪府生まれの山形県育ち。高校卒業後に東北を離れ、社会人になってからは静岡県浜松市の大手楽器メーカーで新商品の企画開発に携わっていた。そんななか、東日本大震災が発生した。

「私の地元である東北が、震災で大変な状況になっていることを知り、なんとか力になりたいと考えました。そこで、当時住んでいた静岡県から出発する復興支援バスに乗り、何度も東北を訪れました。被災地ボランティアとして、三陸沿岸部の復興支援をおこなったのです」。

被災地入りして現地の惨状を目の当たりにするにつれ、荒廃してしまった東北に、新しい産業を起こす必要性を痛感した佐々木さん。三陸の復興のために自らの経験を生かしたいと思うようになったのだ。そして2014年、佐々木さんは家族とともに宮城県仙台市に移住した。

▶︎日本人に合うワイングラスを開発

仙台に移住した佐々木さんは、いくつかの仕事に携わることになる。そのうちのひとつに、日本の伝統技法で造られる新商品の企画があった。この企画こそが、佐々木さんとワインとの出会いだったのだ。

企画内容は、「日本人に合うワイングラスの開発」。有名なワイン漫画の原作者とともに、日本の硝子職人の技術を生かしたオリジナルのワイングラスを開発した。

もともと、ワインを飲むことは好きだったという佐々木さん。ワインに関わる仕事をするうちに、スタッフとしてワイン会などにも参加するようになった。

美味しい食事を楽しみながら、どういう場所で作られたぶどうなのか、ワイナリーでどんな風に醸造されているのかについて、興味を持っている人が沢山参加されていました。また、一緒にワインを飲む人と、地元のどういった食材と合わせると美味しいのかなどの話に花が咲くことにも、魅力を感じました」。

ワイン会では、参加者だけでなくスタッフも生き生きと楽しそうに立ち働いている様子を見て、ワインの持つ不思議な力を実感。地域と人、食材が繋がることに可能性も感じ、自分でもワイナリーができないだろうかと考え始めたのだ。

▶︎ワイナリー創設まで

2018年、佐々木さんはワインに関しての勉強を開始。時を同じくして、南三陸ワインプロジェクトの求人を知った。

当時、南三陸ワインプロジェクトは立ち上がってこそいたものの、事業化までの道がなかなかみえず難航している状態。中心となってプロジェクトを推進できる人材を求めていた。求人を目にした佐々木さんは、自分がこれまで培ってきたスキルを生かせるのではないかと直感し、すぐさま応募を決意した。

2019年1月、佐々木さんは南三陸町の地域おこし協力隊の新たなメンバーとして着任。町内に移住した。

そして、驚くべき手腕でプロジェクトを推進。なんと、着任の翌月にはプロジェクトを法人化させ、「南三陸ワイナリー株式会社」を立ち上げたのだ。また、空きが出た仮設の水産加工場をリフォームし、2020年秋にはワイナリーオープンも果たす。

「さまざまな巡り合わせで、ワイナリーの立ち上げを進めることができました。スムーズにプロジェクトを進められたのは、たくさんの方に支えていただいたおかげです」。

ワイン造りを思い立って、若干2年でワイナリー設立までたどり着いたのは、佐々木さんの行動力のなせる技だ。また、これまで数々の企画開発を手がけて成功させてきた経験をフル活用した成果でもあるだろう。

▶︎山と海の国際認証を持つ自治体

実は佐々木さんは、移住前に南三陸町の移住体験ツアーに参加した経験を持つ。その際に南三陸町の自治体ぐるみの環境保全への取り組みを知ったことが、プロジェクトへの参画と移住を後押ししたそうだ。

「移住の半年前に参加した移住体験ツアーで、南三陸町が自然の循環を大切にしている自治体であることを知りました。豊かな自然環境を持続可能なものにするため、町内で出る生ゴミを液肥にして米作りなどに使う『南三陸町バイオマス都市構想』に取り組んでいます。資源の循環をおこなっている環境で栽培される、こだわりの美味しい食材にも魅力を感じました」。

南三陸町は海と山に囲まれた町。小規模な自治体ではあるが、銀鮭養殖の発祥地として名高い志津川湾に面していて、養殖業が盛んだ。豊かな海洋資源を守るために、近隣の山林を健全に保ち、川から海に流れるミネラルを良質なものに保つ取り組みもしている。

南三陸町は、ブランド杉である「南三陸杉」の産地でもある。持続可能な林業を実践し、林業に関する国際基準である「FSC® FM認証」を取得。

また、町内で盛んな牡蠣の養殖業では、同じく国際認証である「ASC養殖場認証」を取得済み。林業と養殖水産業におけるふたつの国際認証を取得しているのは、日本国内では南三陸町のみだ。

さらに、志津川湾は「ラムサール条約」の登録地にもなっている。ラムサール条約の正式名称は、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」。登録地には湿地の保全と賢明な利用促進のためにとるべき措置などが規定されている。

小さな町でありながら、循環型社会の実現に積極的に取り組む先進性を持つ点と、海産物を中心とした豊かな食材の存在が、佐々木さんを南三陸町に惹きつけたのだ。

『南三陸の美味しい食材に合うぶどう』

続いては、南三陸ワイナリーのぶどう栽培について紹介しよう。栽培しているぶどうは7品種。いずれも、地元の食材に合わせることを考えて選定された。

▶︎海産物に合う、白ワイン用ぶどう品種

南三陸ワイナリーで栽培する白ワイン用ぶどう品種は、シャルドネ、アルバリーニョ、ソーヴィニヨン・ブランの3つ。

シャルドネは南三陸産の牡蠣など、海産物に合わせるために選ばれた。南三陸ワインプロジェクトのスタート時から栽培している。

またアルバリーニョは、スペインの北西部にあるガリシア州、大西洋沿岸地域が発祥のぶどう品種。「海のワイン」とも呼ばれ、海産物との相性がよいとされる。

ガルシア州には5つの「ワイン原産地呼称」があり、そのうちのひとつが「リアス・バイシャス」だ。リアス・バイシャスを含むガリシア地方の海岸線は入り組んでおり、「リアス式海岸」の名称の由来となった。

「リアス・バイシャスとは、『リアスの南の方』という意味だそうです。日本でリアスの南といえば、まさに南三陸町のある場所です。日本のリアス・バイシャスとなるべく、アルバリーニョで、町の目の前に広がる海の幸に合うワインを造りたいと考えています」。

アルバリーニョは日本の気候でも栽培しやすく、海産物に合わせやすいという品種特性からも、注目しているワイナリーが多い。日本の太平洋側ではまだ成功例が少ないが、三陸沿岸部で広げようという動きがみられる品種なのだ。

続くソーヴィニヨン・ブランは、華やかな柑橘系の香りが特徴の品種だ。カルパッチョなどのさっぱりした海鮮料理などに合わせやすい。

南三陸ワイナリーで育てられている白ワイン用品種はすべて、海産物との相性を考えて植えられていることがわかるだろう。

▶︎南三陸産の肉に合う、赤ワイン用ぶどう品種

南三陸ワイナリーで栽培する赤ワイン用品種は、メルロー、ビジュノワールのほか、試験的にピノ・ノワールとカベルネ・ソーヴィニヨンが選ばれた。

メルローは世界的に名高い赤ワイン用ぶどう品種で、比較的栽培が容易だとされる。ワイン用ぶどうの栽培が難しい日本の気候を鑑みて、南三陸ワイナリーでは、メルローを主要品種とした。メルローは醸造方法も多彩で、樽を使うことでさまざまな表情を見せる特徴もある。

また、ビジュノワールは色が濃く、発色が美しいため、ブレンド用に栽培されている。

カベルネ・ソーヴィニヨンは、山形県上山市にある南三陸ワイナリーの自社畑で栽培。メルローに比べると栽培が難しいとされるカベルネ・ソーヴィニヨンだが、上山にはもともとカベルネ・ソーヴィニヨンを生産していた農家がいるため、ノウハウを教えてもらいながら栽培ができる。

「南三陸は海産物が有名な地域ですが、お肉料理も楽しめます。脂が乗って非常に美味しい放牧豚の『いばり仔豚』や、ワカメの茎の部分を餌にした、臭みの少ない『わかめ羊』があります。地元産の豚、羊、牛が手に入るので、赤ワインとロゼワインも造って、肉料理に合わせられるラインナップにしています」。

▶︎分水嶺に囲まれた町

南三陸町は、上空から見ると志津川湾を囲むように、アルファベットの「C」の形。南三陸町の形は、南三陸ワイナリーのロゴにも使われている。

また、「分水嶺」に囲まれている町でもある南三陸町。分水嶺とは雨水を異なる水系に分ける境界(分水界)となる山稜のことだ。南三陸町では、町内に降った雨はすべて志津川湾へと流れる。

「ぶどうと海産物が、同じ水とミネラル分で育つので、組み合わせとしては最高なはずです。また、南三陸町で育てられた豚や牛、羊にも同じことがいえますね」。

南三陸のワインと食のマリアージュは、たぐいまれな自然環境によってもたらされた、奇跡的な組み合わせなのだ。

▶︎南三陸のテロワール

南三陸ワイナリーの自社畑で、本格的にぶどうが収穫できるようになったのは、2020年のこと。収穫が可能な状態まで樹が生育しているのはシャルドネのみなので、南三陸のテロワールがはっきりとわかるには、もう少し時間がかかりそうだ。

南三陸町の自社畑は町内に2か所ある。隣接したエリアながら、海側に面した標高約500mの田束山の山頂付近に1か所、内陸側にある標高約300mの童子山の中腹に1か所で、土壌や気候の条件が異なる。当然、出来上がるぶどうとワインの味は違ってくるだろう。

それぞれの畑で収穫できるぶどうの品種と収量が増えたとき、ようやく南三陸のテロワールがはっきりと姿をあらわすことだろう。非常に楽しみだ。

▶︎ナイト・ハーベストの実施

ぶどう栽培におけるこだわりについて、佐々木さんに尋ねてみた。

「ぶどう栽培を始めてまだ4〜5年という状況なので、何十年も続けているぶどう農家さんやワイナリーさんに比べると、素人のようなものです」との謙虚な回答が返ってきた。

駆け出しとはいえ、もちろん気をつけていることはある。時代の多様なニーズに合わせ、できるだけ農薬を減らして栽培しているのだ。

また、収穫に関しては、夜間に収穫する「ナイト・ハーベスト」をおこなっている。太陽が昇る前にぶどうを収穫すると、香りや旨味の成分がより凝縮されることが、検証結果でもわかっているためだ。だが、時間との戦いとなる収穫作業は、決して楽なものではないはずだ。

「朝3時からボランティアの方にも集まっていただいて収穫します。真っ暗ななか、ヘッドライトをつけて収穫するのです。日の出前には、収穫を終えます。日が昇って、ぶどう畑を眺めながらシェフお手製の朝食をみんなで食べるのは、最高の時間ですよ」。

▶︎獣害を受けた苦い経験

続いて、ぶどう栽培で大変だったことについて伺った。2019年、植えて3年目になるシャルドネが、ようやく初収穫を迎えた時のことだ。

南三陸ワイナリーは、創立から2年間は秋保ワイナリー醸造を委託していた。そのため、佐々木さんたちワイナリーのメンバーは、仙台市秋保に出かける機会が多かった。

「収穫直前に畑を離れて秋保に出かけ、戻ってきたら、ぶどうが半分くらいハクビシンに食べられていたんです。それまで一度も獣害がなかったのに、収穫まぎわで甘い香りを放つシャルドネに誘われたのでしょう。ほんの少し目を離したすきに被害を受けたので、非常にショックでした」。

被害後、すぐに獣害対策の専門家にアドバイスを求めて電柵を張り、被害を逃れたシャルドネは無事に収穫。しかし、当初100kg程度と予測していた収穫量は激減した。あいにくの長雨の影響も重なり、結果的には収量は約20kgだった。

また、三陸沿岸部特有の「やませ(山背)」と呼ばれる偏東風によって引き起こされる被害から、ぶどうを守る必要もあった。

春から夏にかけて吹く冷たく湿ったやませは、樹の成長を妨げる。太陽を遮り日照量を減らし、湿度を上げて虫の被害を引き起こすことがあるためだ。

農業は、自然相手の問題が多く、人によるコントロールができない部分が大きい。経験を積み、工夫を凝らしながら、実直に向き合う努力が必要なのだ。

佐々木さんたちは失敗しつつも経験を少しずつ重ね、徐々にぶどうの収量を増やしてきた。新しく開拓する畑には獣害対策を徹底し、悲劇を繰り返さないための対策も万全だ。

「2021年にようやく、自社畑の収量が1tを超えました。非常に感慨深かったですね」。

『南三陸の食材を楽しむためのワイン』

南三陸ワイナリーが目指すワインは、南三陸産の食材を楽しむためのワインだ。

食事と一緒に楽しむことが前提なので、醸造するのは辛口ワインのみ。ぶどうの持っている香りや旨味を大切にしっかりと発酵させることを基本とし、南三陸の食材とのペアリングもイメージして酸も大切にしている。

「南三陸町の特産品である生牡蠣は、レモンを絞って食べると美味しさが引き立ちます。酸味と相性がよい食材ですので、合わせるワインも酸を高めに醸造しています。ワイナリー併設のキッチンでシェフが作る料理に合わせることをイメージして、醸造していますね。南三陸町の食材の美味しさが、さらにひろがることを願ってワイン造りをしています」。

▶︎ワイン醸造のこだわり

佐々木さんたちは、ワイン醸造に関するさまざまな勉強会に参加したり、ほかのワイナリー から教えてもらったりしながら、ワイン造りの技術を磨いてきた。

「醸造学で有名なカリフォルニア大学デイビス校で学ばれた経験がある、山梨大学の先生にも来ていただいています。世界レベルの醸造を基準とした指導を受けられるので、ありがたいですね」。

南三陸ワイナリーが醸造の基本として大切にしているのは、オフフレーバーや酸化などの欠陥がないワインづくりだ。基本をおさえたうえで、南三陸の食材と合わせやすいワインになるよう、品種ごとに工夫を凝らす。

たとえば、青森や山形で生産量が多いスチューベンには、独特の花の香りがある。赤ワイン醸造には使いづらいとされることもある品種だ。南三陸ワイナリーでは、スチューベンを白ワイン仕込みにすることで、ホヤなどの海産物や肉料理にも合わせやすくしている。

「シャルドネは、樽熟成でオークの香りが強いものが高級感があるとされ、人気があります。しかし、樽香が強いシャルドネのワインは、生牡蠣との相性があまりよくないのです。そのため、発酵のときにはフレンチオークやアカシアの樽を使いますが、発酵後はステンレスタンクを使う工夫をしています」。

繊細で優しい味わいの食材に合わせるため、香りが控えめな樽を使って、ほのかな複雑味を楽しめる仕上がりを目指す。

南三陸ワイナリーが重視するのは、あくまでも南三陸産の食材との相性がよいワイン。南三陸町の食材と合うワインにするため、ぶどうをどう生かすのかを考え続けているのだ。

▶︎海産物と一緒に味わってもらいたい

次に、どんなシーンで南三陸ワイナリーのワインを味わってもらいたいかについて伺ってみた。

「できれば、南三陸町にきて、新鮮なとれたての魚介類と一緒にワインを楽しんでもらいたいですね。ワイナリーでは食事も提供しているので、目の前の海を眺めながら、ワインと食事を楽しんでいただけますよ」。

また、南三陸までは足を伸ばすのが難しい場合におすすめなのが、公式オンラインショップで購入可能な「マリアージュセット」。南三陸ワイナリーのワインと、地元の海産物のセット商品だ。

生牡蠣やたこ、ほやなどの南三陸の海産物や、ワイナリー併設キッチンメニューとワインが自宅でも気軽に楽しめる。気になる方は、ぜひチェックしてみてほしい。

▶︎南三陸ワイナリーの海中熟成ワイン

南三陸ワイナリーではワインの海中熟成をおこなっている。

ワインの海中熟成は、沈没した豪華客船から取り出されたワインがきっかけとなった手法だ。

地上で熟成した同じヴィンテージのワインと比較して、海底熟成ワインは熟成がより進み、味わいがまろやかになるという。イタリアやアメリカなど、世界各地のワイナリーでワインの海底熟成が試みられている。日本でも、日本酒や泡盛の海中熟成は昔から受け継がれてきた先人の知恵だ。

ワインを海中で熟成させることには、ふたつの利点がある。

ひとつめは、地上に比べて、海中の温度変化が少ないこと。ワインの保管温度である5〜15度前後にほぼ安定し、直射日光が当たらないため、ワインの保管場所として最適なのだ。

ふたつめは、海中の振動がワインの熟成に適していること。実は近年になってようやく、海中でアルコール類の熟成が進む理由について、いくつか研究結果が出て来ている。

「海中は地上の4倍近い速さで音が伝わるため、海の中のあらゆる音が振動としてワインボトルに届きます。海の振動は、音による微振動なのです。超音波をかけ続けたワインの熟成が進んだという検証結果や、音の微振動がアルコール内の水分子とエタノール分子が構成するクラスター(原子や分子の集合体)が均一で安定化しやすいという研究もあるそうです。海中の振動は、分子レベルでバランスよく、しかも早くワインを熟成させるのです」。

佐々木さんたちの実感としても、海中熟成させたワインは、地上で熟成させたワインよりも2~3倍程度熟成が早いというのだから驚きだ。

南三陸ワイナリーがワインの海中熟成をおこなうのには、海の目の前である立地を生かすことのほかに、もうひとつ大切な目的がある。

「ワインを海に沈めるときと引き上げは、必ずイベントを開催して、参加者を募ります。みんなで牡蠣の養殖ネットにワインをくくりつけ、船に乗って漁師さんと一緒にネットを吊す作業などを一緒におこなっているのです」。

海中ワインイベントの参加者は、ワイナリーを訪れるだけでなく、漁師さんとともに作業に参加することで、南三陸町の漁業の営みを知るきっかけにもなる。

南三陸の海中熟成ワインは、ワイナリーのコンセプトである「南三陸の美味しい食材と生産者を、消費者につなげる」という、地域活性化の象徴ともいえる大切な試みなのだ。

▶︎ワインツーリズムの開催

南三陸ワイナリーでは、気仙沼や陸前高田、大船渡など、三陸沿岸部のワイナリーとともに、県をまたいだ2日間のワインツーリズムイベントを2022年秋に開催する予定だ。

「シャトルバスをワイナリーがある4都市に走らせ、それぞれのワイナリーを訪れて地元の食材と一緒にワインを味わってもらうことを目的にしています」。

「現地に来てもらってこそわかる、本当の三陸の魅力を感じていただきたいです。私自身も土地の美味しい食べ物を日々楽しんでいるので、お客様にも、ぜひ楽しんでいただきたいと考えてワインツーリズムを企画しました」。

『まとめ』

2022年は、ワイナリー併設キッチンでのわかめ羊料理の新メニューの提供と、羊肉に合うワインの発表会もおこなった南三陸ワイナリー。海中熟成ワインの引き上げイベントや、ワインツーリズムの開催も楽しみだ。

「私がかつて勤めていた楽器メーカーは、120年以上の歴史がありました。長く続いてきたのは、常に新しいことをやり続けてきたからだと思うのです。ですから、南三陸ワイナリーでも、新しいことにたくさん挑戦していきたいです。いつも面白くて、美味しそうなものがあるワイナリーだなと感じて欲しいですね。そしてぜひ、たくさんのお客様に現地に来ていただきたいです」。

東日本大震災により、大きな被害を受けた南三陸町。町の復興に貢献するにとどまらず、震災前以上の賑わいを呼び込む勢いを持った存在が、南三陸ワイナリーだ。これからのさらなる活躍に期待したい。

基本情報

名称南三陸ワイナリー
所在地〒986-0733
宮城県本吉郡南三陸町志津川字旭ケ浦7-3
アクセスhttps://www.msr-wine.com/view/page/access
HPhttps://www.msr-wine.com/

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