『都城ワイナリー』天孫降臨の地で、100年続くワイン造りを目指す

宮崎県の南西端に位置する都城(みやこのじょう)市は、神話の世界で天孫降臨の地とされる霊峰、霧島山系の「高千穂峰(たかちほのみね)」を有する土地だ。

そんな都城市で、神々の名前を冠したワインを造っているのが、今回紹介する『都城ワイナリー』。

雨の多い土地ながら、水はけのよい火山灰土の土壌を生かし、オリジナルの交配品種をメインに栽培。都城市で盛んな畜産業の副産物である堆肥を有効活用し、地元の食材に合う本格派ワインを造っている。

今回は、取締役の山内正行さんにお話を伺った。ワインの輸入業を営んでいた経歴を持つ山内さんは、筋金入りのワイン好き。人とに繋がりを大切にしながらワインを造っている。

都城ワイナリーができた経緯と、ぶどう栽培とワイン造りの特徴を紹介していこう。

『都城ワイナリー設立までの物語』

まずは、都城ワイナリー創設のきっかけと、現在に至るまでの足取りをたどる。

降水量が多く気温が高い土地でのぶどう栽培は難しいとされているが、都城ワイナリーの場合にはどうだったのか。ワイナリーの歴史を振り返ろう。

▶︎夢が周囲に支持される

地元を離れて働いていた山内さんが都城市に戻ったのは、30歳になったときのことだった。家業を継ぐために、それまでの仕事を辞めて故郷に再び降り立ったのだ。

「実家の父が病気をしたので、私が家業を継ぐことになったのです。家業はお酒の小売業でした。私はワインが好きだったので、ワインショップを経営することに決め、ソムリエ資格も取得しました。当時はワインを売るのに夢中になりましたね。その甲斐あって、フランス・ボルドーのボンタン騎士団の騎士に叙任されました」。

フランスのワイン産地にはワイン産業の振興を目的とした社交団体としての「騎士団」があり、中でも由緒正しいとされるのがフランス・ボルドーのボンタン騎士団。ボルドーワインの輸入販売に力を入れていた功績が認められたのだ。

仕事柄、フランスやイタリアのワイン産地を訪れる機会も多く、ますますワインに傾倒していった山内さん。ワイン造りに対するほのかな憧れはもともと持っていた。

そして同じ頃、地元の異業種交流会の忘年会に参加したことがきっかけで、ワイナリー設立に向けての思わぬ急展開を迎えることになったのだ。

「忘年会の場で、『10年後に叶えたい夢は?』というお題が振られて、私は『ワイナリーを設立してワインを造りたい』と答えました。すると、交流会の幹部を中心としたメンバーが私の夢に興味を持ってくれたのです。10年後といわず、今すぐやろうということになり、とんとん拍子に話が進みました」。

都城市でのワイナリー設立という目標が人々の耳目を集めたのには、理由がある。実は都城市は、「肉と焼酎のふるさと」という名で呼ばれるほど、畜産業と焼酎醸造が盛んな土地なのだ。

都城市の牛肉と豚肉の出荷額は、市町村別で日本一を誇る。そんな街に、肉料理と合わせられるワインを造っているワイナリーがひとつもないとは、なんとももったいないというわけだ。

こうして2007年、都城市にワイナリーを設立するというプロジェクトがスタート。まずはぶどうを植栽するところから取り掛かった。週末になると交流会の有志が集まって少しずつ植えたぶどうは、数年かけて順調に育っていった。

だが、ワイナリーオープンまでの道のりは、決して平坦なものではなかった。その後、リーダー的存在だった人物が病死してしまったことを機に、メンバー内のワイナリー創設への情熱が下火になってしまったのだ。

▶︎相次ぐ困難に立ち向かう

「そのときすでに資本金は使い果たしていましたので、今後の進め方に困ってしまいました。しかし、結婚して子供が生まれたばかりの社員もいたので、いまさら放り出すわけにはいかない状況でしたね」。

そこで、農業法人「都城ワイナリーファーム」を設立して、農林水産省の農地再生事業に参加することに決めた。補助金を受ければ、なんとか事業を継続できるという見込みがあったのだ。

補助金対象の事業として認可されるためには、ぶどうだけではなく野菜栽培も必要だったため、東京ドーム何個分もの土地を整備した。

2010年から野菜栽培を開始し、ようやく収穫を迎えた2011年1月のこと。なんと、近隣の火山が噴火し、収穫を目前に控えた畑は火山灰で一面埋まってしまったのだ。

自然災害のため、市や県からの支援が受けられることになり、気持ちを切り替えて再スタートという矢先、今後は3月11日に東日本大震災が発生。地震の被災地への支援が優先され、都城ワイナリーファームへの行政からの支援は立ち消えとなった。

「自助努力で野菜作りを再開しましたが、当時は本当に大変でしたね」。

そんな中ではあったが、ぶどうの栽培も継続しており、2010年には委託醸造でファーストヴィンテージをリリース。

そして、2010年の暮れにはワイナリーの建物が完成し、自社醸造の準備は整っていた。だが、火山灰によって自社畑のぶどうが大打撃を受けていたため、醸造しようにもぶどうが足りない。

なんとか自社でのワイン醸造を開始したいという一心で、隣町のぶどう農家をはじめ、全国各地の知り合いに声をかけて、ぶどうを分けてもらった。

その結果、九州はもちろん、広島、神戸、山形のワイナリーやぶどう農家から続々とぶどうが到着。2011年、無事に初の自社醸造ワインが完成した。

『都城ワイナリーのぶどう栽培』

大変な時期を乗り越えた都城ワイナリーでは、現在どのようにぶどう栽培をおこなっているのだろうか。

栽培している品種や圃場の特徴、栽培におけるこだわりについて尋ねてみた。

▶︎オリジナルの交配品種

都城ワイナリーが栽培するメインの品種は、オリジナルの交配品種だ。「エビヅル」というヤマブドウのような在来種をベースとした交配品種と、カベルネ・ソーヴィニヨンを掛け合わせたものだという。ちなみに、品種名は特にないそうだ。

「山梨の育種家が作った品種です。もともとはピノ・ノワールとエビヅルを掛け合わせたものでしたが、エビヅルの強烈な酸が残っていたので、さらに2回カベルネ・ソーヴィニヨンと掛け合わせてもらいました。例えるなら、ひいおばあちゃんが日本人のフランス人という感じですかね」。

そのほかにも、カベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワールを栽培。2023年にはシャルドネも400本植えた。地元特産の肉料理とのペアリングを考慮し、引き割った胡椒やハーブなどと合わせやすい品種ばかりだ。

オリジナルの交配品種をメインに栽培しているのは、南九州でぶどうを育てる上でもっともネックになる、「雨」に非常に強い品種だから。葉が厚く、カビ系の病気にも強い点も魅力。交配品種の中でもっとも若い樹は樹齢10年、古い樹は15年になる。

「だんだん成長してきて、ローヌ地方南部で栽培される『ムールヴェードル』という品種のような濃厚な感じになってきました。酸がシャープで、タンニンは少なめです。南ローヌのワインが髭面のヘラクレスだとすると、うちのは丸っこいお相撲さんみたいなワインですね」。

力強く濃厚さがあるものの、口当たりが柔らかく優しい感じのワインということだろうか。

▶︎自社畑の特徴

都城ワイナリーの自社畑がある都城市の気候の特徴は、なんとっても雨が多いこと。年間降水量は平均2482mlで、全国平均の1718mlを上回る。そのため、ぶどう栽培における最重要課題は雨対策だ。

「雨が当たると病気が発生しやすくなるので、房はすべてビニールでカバーしています。ただ、ラッキーなことに土壌は火山灰質で、細かいガラスのビーズでできているようなものなのです。火山灰質は水分をため込まないので、大雨が降っても1日経ったらすぐにカラカラですよ」。

南斜面にある畑は段々畑になっていて、標高は400〜500mほど。そのため、日中の気温が高くなる日でも夜温が下がり、しっかりと酸が残るぶどうが育つ。

雨が多く気温が高い南九州にありながら、都城ワイナリーの自社畑はぶどう栽培に最適なのだ。

▶︎ぶどう栽培における工夫とこだわり

ぶどうは一般的に、痩せた土地で育てるのに適した作物だとされる。しかし、都城ワイナリーではなんと、近隣の畜産農家から提供される堆肥を定期的に畑に撒いているという。一体なぜだろうか。

実は、火山灰質の土壌は、水分はもちろん栄養分を保持する能力もない。そのため、養分を与えなければ、植物が育たない不毛の地となってしまうのだ。

そんな特殊な土壌のため、都城ワイナリーの自社畑では、ぶどうの樹の仕立て方にも工夫が必要だ。自社畑はすべて垣根栽培だが、土壌の様態によって年ごとに仕立て方を変えている。

「土壌の栄養状態が毎年大きく変わるので、枝を何本残すかなどを、土壌の様子を見ながら変えています。一律の剪定をすると土壌の状態によって房の付き方が変わってしまうので、細かい調整が必要なのです」。

土の中は目に見えるわけではないので、どのような栄養状態なのかを把握するのは難しい。だが、都城ワイナリーの栽培担当者は、すでに10年以上の経験があるベテラン。そのため、雑草の生え方などで土壌の栄養状態をある程度、把握できるまでになっているのだとか。

土に十分な栄養がある場合は剪定を控えめにして枝を増やし、房に行き届く栄養量を減らす。逆に、土が痩せ気味の場合には枝を多めに刈り込んで、房付きがよくなるように調整する。

都城ワイナリーが自社畑に撒いている肥料は、地元で盛んな畜産業で出るもの。そのまま捨てれば廃棄物となるが、堆肥にすることで有効活用できるのだ。

栄養状態が安定しない痩せた土地ならではのぶどう栽培。そんな土地での仕立て方の技術は、ワイナリー創設10年以上が経って、ようやく確立しつつある。

『都城ワイナリーのワイン醸造』

ここからは、都城ワイナリーのワイン造りについて見ていこう。醸造面での工夫と、ワインの特徴を紹介したい。

▶︎地元の食材がもっと美味しくなるワイン

都城ワイナリーが目指すのは、地元で生産される食肉を使った料理に合うワイン造り。肉料理に合う味わいに仕上げるためには、自社畑で栽培するぶどうにやや不足しているタンニンを補う必要がある。

そこで都城ワイナリーでは、樽発酵させることによって、不足するタンニン分を補っている。新樽を使うのが理想だが、毎年すべての樽を買い換えるのは予算的に難しい。そのため、都城ワイナリーから2時間ほどのところにある樽屋さんで、古い樽の内側を削りなおして焼いてもらう。すると、樽香がしっかり付く樽に生まれ変わるのだ。

そのほか、肉に合うワインを造るためにこだわっているのは、大事な原料ぶどうを最後まで活用し、ぶどうのポテンシャルをすべて引き出し切ること。

例えば、ロゼを造る際には、果汁を絞ったあとに残る搾りかすは捨てず、発酵中の同じ品種を使った赤ワインのタンクの中に入れて、成分を残さず抽出する。より濃厚な赤ワインを造るために有効で、しかもエコな仕組みだといえそうだ。

▶︎一番人気の「Kumasotakeru(クマソタケル)」

山内さんおすすめの銘柄は、残糖があるうちに発酵を止めることによって甘口に仕上げた「Kumasotakeru(クマソタケル)」。都城ワイナリーでもっとも売れている商品だ。

実は南九州は、味噌や醤油も甘口が好まれる土地。そのため、ワインにもほんのりとした甘味が欲しいという地元の人の味覚に合わせて仕上げている。ウナギの甘いタレなどにもよく合うそうだ。

「クマソタケル」とは、古事記に出てくる神様の名前。ヤマトタケルと戦って敗れたが、地元では古くから親しまれてきた土地神様なのだとか。

都城ワイナリーがリリースしているワインは、「Kumasotakeru」以外もすべて神話に出てくる神様の名前を冠している。

▶︎赤ワイン「Tajikarao(タジカラオ)」

そのほかのおすすめ銘柄も続けて紹介しよう。

JR九州の豪華列車で採用された実績を持つ「Tajikarao(タジカラオ)」は、オリジナル交配品種100%のワイン。濃厚な味わいで、ビーフシチューなどの肉料理との相性は抜群。また、チョコレートを使ったデザートなどとのペアリングもおすすめだ。

タジカラオに合わせる料理として、山内さんは豚の軟骨を使った郷土料理をすすめてくれた。

「『豚軟骨の煮込み』は、軟骨のついた豚のかたまり肉を、味噌や生姜などで甘辛く煮た料理です。じっくり火を通すので、骨までコリコリと食べられるんですよ。濃い果実味がある『Tajikarao』とよくマッチします」。

タジカラオは力持ちの神様として知られる。日本の神話の主神で太陽神アマテラスオオミカミの「岩戸隠れ」の際、タジカラオが岩戸を動かしてアマテラスオオミカミを岩戸の外に出しため、世界に光が戻ったとされる。

「岩戸隠れ」について、山内さんは独自の興味深い解釈を聞かせてくれた。

「アマテラスが隠れてしまった天の岩戸の前で、神様が火を焚いて宴会をします。裸踊りをするほどに盛り上がっていたので、きっとみんなお酒を飲んでいたでしょう。そして、お酒は日本酒ではなく、赤ワインだった可能性があるのです」。

日本の書物においてお酒に関するもっとも古い記述は、出雲でスサノオノミコトがヤマタノオロチを酔わせて退治した、「八塩折之酒(やしおりのさけ)」についてだ。このお酒の造り方について、「もろもろの木の実を以って、酒八甕(かめ)を醸すべし」という記述がある。

つまり、当時のお酒の原料は「木の実」であり、さらにいうと山に自生していたヤマブドウである可能性も考えられるというのが山内さんの持論だ。

そして、八塩折之酒を造った神は、ヤマブドウの赤ワインの造り方を、天の岩戸のある宮崎の地にも伝えたのではないか。

「私は、そんなイメージを持ってワインを造っているのです。どうです、夢があると思いませんか。都城ワイナリーのワインは、この土地で採れた食材の味わいを引き出し、パワーアップさせます。ぜひ地元の食材と共に楽しんでもらいたいと思っています」。

ワインが生まれた土地の歴史や古の神話に想いを馳せながら、神々の名前を冠した都城ワイナリーのワインを楽しみたいものだ。

都城ワイナリーのワインは、公式Webショップでも購入可能。気になる商品が在庫切れでも、ワイナリーに直接問い合わせれば発送可能な場合もあるそうだ。

▶︎白ワイン『Tamanooya(タマノオヤ)』とロゼワイン『Konohanasakuya(コノハナサクヤ)』

都城ワイナリーの白ワインとロゼワインも紹介しよう。

白ワイン「Tamanooya(タマノオヤ)」は、シャルドネを樽で3ヶ月ほど発酵させている。樽の香りがほどよく、鶏肉や豚肉、魚料理によく合う。

「柑橘の香りも感じられるワインなので、レモンを絞りたくなるような料理には全部合いますよ。個人的には、あぶった魚とのペアリングがおすすめです。暑い季節に、よく冷やしてお飲み下さい」。

続く「Konohanasakuya(コノハナサクヤ)」は、肉料理にも合う、しっかりとした味わいのロゼワインだ。

「ロゼワインにしては、濃くて骨格がしっかりしているのが特徴です。ブラインド・テイスティングしたら、赤ワインだと思う人もいるかもしれません」。

日本神話史上、屈指の美神であるコノハナサクヤ姫の名が付けられたワインは、桜のような美しい色合いもポイントだ。

幅広い料理と合わせて、自分だけの最高のペアリングを見つけてみてほしい。

『まとめ』

雨が多い土地でありながら、水はけがよいという土壌の特徴を生かしてぶどう栽培をおこなう都城ワイナリー。造られるワインは、日本の食卓で日々食べられているメニューに気軽に合わせられる味わいだ。

都城ワイナリーの目標は、三ツ星レストランのワインリストに載るワインを造ること。そして、100年続くワイナリーにすることだ。

ヨーロッパの醸造家に、どうしたらワイン醸造がうまくいくのかと尋ねてみたことがあるという山内さん。すると「2代か3代経てば、自然とわかるようになる」との答えが返ってきたのだとか。

「今後は、より安定的に生産ができる体制の確立を目指し、うちならではの醸造スタイルをしっかりと作りたいと考えています。そして、次の世代の人がぜひ継ぎたいと思ってくれるワイナリーにしていきたいですね。持ち主が変わっても土地に根付いて続いていき、土地の食材を口にするときにいつも側に寄り添うワイナリーでありたいです」。

神々にゆかりが深い都城の地で生み出されるワインを、100年先まで楽しみたいものだ。

基本情報

名称都城ワイナリー
所在地〒885-0223
宮崎県都城市吉之元町5265-214
アクセスhttps://maps.app.goo.gl/mMYZzpkfUaiAWhNH7
HPhttps://www.miyakonojowinery.co.jp/

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