追跡!ワイナリー最新情報!『ルミエールワイナリー』ヴィンテージごとの魅力を最大限に生かしたワイン造りがさらに進化

創業100年を越す、山梨県の老舗ワイナリー「ルミエール」。甲府盆地に位置するルミエールは、自社畑のぶどうと契約農家のぶどうから上質で日本文化に馴染むワインを生み出す。

ルミエールのぶどう栽培は、極めて自然に近い状態でおこなわれている。雑草を生かした「草生栽培」や人工的に耕さない「不耕起栽培」による土づくりを実施しているのだ。世界的にオーガニックワインが注目される中、高温多湿な日本の気候風土で、20年近く前から除草剤や化学肥料、化学合成農薬を使わずにぶどう栽培に取り組んでいる。

自然に近い環境でぶどうを栽培する理由は複数ある。雑草を増やすことにより、多種の生物が共存する「生物多様性」が守られ、害虫によるブドウへの食害が減る「防虫効果」が期待できること。また、草生栽培により、腐葉土のように柔らかな土壌が保たれることで、空気を取り込みやすくするからだ。また、それらの結果として、自然由来の天然酵母を使ったワイン醸造ができることも利点のひとつだ。除草剤や化学合成農薬を使わず、草生栽培することで、天然酵母の生き生きとした活動を促している。

そして、ぶどうが持つ個性を最大限に生かした自然なワイン造りを目指し、上記のぶどうを使って醸造した“光シリーズ”はルミエールのトップキュベであり、繊細かつ日本食にもよく合う味わいだ。

また、力を入れているスパークリングワインも見逃せない。瓶内二次発酵で生まれた泡は包み込むように柔らかく、甲州を中心としたぶどうの魅力を最大限に引き出しているのが特徴だ。

今回は、代表取締役の木田茂樹さんと、醸造責任者の産方(うぶかた)剛志さん、広報担当の三枝恭子さんにお話を伺った。

さっそく、ルミエールの2021〜2022年ヴィンテージの様子を追っていこう。ぶどう栽培やワイン銘柄について、そして2023年以降の目標まで、さまざまな角度からルミエールの最新情報に迫りたい。

『2021〜2022年のぶどう栽培』

まずは、2021〜2022年におこなわれたぶどう栽培の振り返りと、2023年の栽培目標について。それぞれのヴィンテージの天候やぶどうの様子、造り手の思いを紹介しよう。

▶︎ぶどう栽培を振り返って

栽培担当の産方さんは、2021年の天候について次のように話す。

「よいか悪いかでいうと、『決してよくはなかった』という感じでしょうか。今までにない雨の降り方に戸惑った年でした」。

2021年の雨の特徴として特筆すべきだったのは、「お盆の長雨」。例年なら気温が高い晴天になるはずの8月中旬に、1週間に渡って雨天や曇天が続いたのだ。近隣の農家も、「珍しい天候だ」と口を揃えていたという。

長雨の影響から、2020年に発生した病気がぶり返すこともあったそうだ。そして、もっとも大変だったのは収穫作業だった。

「お盆明けからはぶどうの収穫とワインの仕込みが始まります。農家さんから仕入れるデラウェアからスタートし、その後は甲州などが続きます。収穫は10月の半ばくらいまでですが、2021年は病果の手入れをしながらだったため、スムーズに進まず苦労しましたね。ここ10年くらい天候が読めない年が続いてはいましたが、2021年の天候は初めてのパターンでした」。

総じて天候に苦労した1年だったが、悪いことだけが起きたわけではない。雨だからこそ得たものもあった。例年、赤ワイン用として収穫しているプティ・ヴェルドを、「スパークリングワイン用」として収穫するという新たな試みが生まれたのだ。

「本来プティ・ヴェルドは、9月半ば頃に収穫するぶどうです。しかし2021年は雨の影響で裂果があったため、時期を早めて8月後半に収穫しました。実が割れると、そこからカビが広がってしまうからです。早く収穫すると熟度は落ちますが、酸が豊富に残ります。つまり、スパークリングワイン用として最適な状態だったのです」。

ルミエールではプティ・ヴェルドは、本来は赤ワインのブレンド用として使用する品種だ。しかし2週間も収穫期を早めると、赤ワインにはライトすぎる仕上がりとなる。そこで急遽、スパークリング用として使うことに決めたのだ。

「収穫直前までどうするか悩みましたが、これまでもスパークリングワイン用として赤ワイン用ぶどうを収穫してきた経験があったので、決断ができました」と、産方さん。

代表の木田さんも、次のように続ける。

「ルミエールはもともと、スパークリングワインの醸造を得意としています。2021年の天候は確かに難しかったかもしれませんが、スパークリングワイン用としてスピーディーに転換を図れたのは、むしろよいことだったといえるでしょう。無理に赤ワインに固執せず、ロゼなどのスパークリングワインにした方が、ぶどうの個性を生かした美味しいワインができる。そんな経験を得て、今まで以上に味わい深いスパークリングワイン造りに舵を切る、いわば転換期となった年なのです」。

続いては、2022年のぶどう栽培について見ていきたい。「わりと平穏な年だった」と、産方さん。異常気象が続く近年の中では、安定した1年だったようだ。

「2022年は梅雨明けが非常に早い年でしたね。ただし、梅雨が明けた後に天候のぐずつきがあり、油断できない日が続きました。7月半ばまでは長雨がしとしとと降りましたね」。

2022年の収量は平年並み。赤ワイン用ぶどうの色づきがいまひとつだった点が惜しまれるが、そのほかは比較的良好だった。

2021年も2022年もそれぞれ異なる天候の特徴があり、注意しなくてはいけない栽培のポイントが変わってくる。臨機応変な天候への対応が必要なぶどう栽培の難しさを、造り手の話から改めて感じることができた。

▶︎気候変動があろうとも、「得意」に目を向けて乗り越える

気候変動が叫ばれる昨今、ルミエールの造り手たちも、以前とは違う天候の様子を身に染みて感じているという。

気候変動によってぶどう栽培がどんどん難しくなる一方、ワイン造りにとっては、よい面も確実にあると木田さんは言う。

「2021年にプティ・ヴェルドをスパークリングワイン用として方針転換したように、天候がよくなければ、その年なりの工夫で、いくらでもよいワインを造ることができます。例えば、2018年は天候不順に悩まされた年でしたが、『デキャンター・ワールド・ワイン・アワード (DWWA)2021』で『光 甲州 2018』という銘柄が見事プラチナを受賞しました。天候が思わしくなくても、収量制限して品質を高めれば美味しいワインができることが証明された例だと思います」。

大切なのはあくまでも、ぶどうの状態をしっかりと見極めること。また、難しい年はワイン造りも慎重にならざるを得ないため、かえって繊細で品質の高いワインが生まれることも多い。

「南米をはじめ、海外のように雨の降らない場所で育てるワイン用ぶどうは糖度30度にも上り、ワインのアルコールは15度に達することもあります。しかし果たして、そういったボリューミーなワインが日本に馴染むかと考えると、そうではないと思うのです。日本は熟度もありつつ低アルコールのワインが作れる場所であり、それが日本ならではのよさになります。幸いなことに、世界的にも低アルコール志向に傾いてきています。日本だからできるワイン造りを徹底し、美味しいものを極めていくのが大切だと考えているのです」と、木田さん。

2021年のスパークリングワインも、日本らしさを追求した結果生まれたものだ。酸が命のスパークリングワインを造る際は、豊富な酸を利用して味わいを組み立てていく必要がある。夏の日照量が少なかった2021年は、プティ・ヴェルドの酸が強く出た年。収穫期を早めることでよりシャープな酸が際立ち、高品質で美味しいスパークリングワインができたのだ。

「そもそもスパークリングワインに使うぶどうは、あえてまだ糖度が低いタイミングで収穫します。瓶内二次発酵の過程で糖分を添加するので、もともとのぶどうに糖分が多すぎるとアルコールが強くなりすぎてしまうのです。2021年は天候に合わせて対応した結果、よいワインができたのですから、難しい天候もワイナリーにとってプラスだったと捉えています。天候が悪いからといって、ワインが美味しくないということにはならないのです」。

ルミエールは今後、よりスパークリングの製造量を増やしていき、日本産スパークリングの魅力を発信することに引き続き力を注ぐ。

▶︎2023年からスタートした栽培の取り組み

次に、2023年に取り組んでいる栽培の試みと目標について見ていきたい。取り組んでいることは、大きくふたつあるという。それぞれの詳細を紹介しよう。

2023年に新たに取り組んでいることのひとつ目は、「下草の刈り込み」だ。ルミエールでは、以前から草生栽培に取り組んできた。

「これまで10年ほど継続して、下草を刈らない方式での草生栽培を行ってきました。長く伸びた草は根元から横に倒し、土壌の水分の蒸発や直射日光のダメージなどを防ぐために、畑の土をビニールや藁などで覆う『マルチ』の代わりにしていたのです。しかし2023年からは、下草の根っこは残しつつ、こまめに表土の草を刈る方法を試すことにしました。これから数年かけて結果を比較したいと思います」。

なぜあえて「表土の草を刈る」草生栽培をしようと思ったのだろうか?理由は、下草の種類に偏りができたことだという。雑草を伸ばしたままにすると、勢いの強い雑草がほかの雑草を追いやる傾向が見られているのだ。産方さんらは近年、「似たような下草ばかり生えてきている」ことに気づいたのだという。

「草を刈ることで、圃場に生える植物の多様性が出るかもしれません。長い目で見て、圃場の変化を追っていきたいです」。

天然酵母でワインを造るルミエールにとって、圃場の生態系を豊かに保つことは重要な課題だ。圃場の多様性が、具体的にどうワインに反映されていくのか。一見些細な問題にも思えるが、長くワイン造りを続けていく上では無視できない重要な点だ。

続いて、ふたつ目の試みを紹介しよう。2022年から新しくピノ・ノワールを育て始めたことと、2023年も新たな苗を増やしたことだ。ピノ・ノワールの栽培を始めた理由は、スパークリングワインを造るため。

ピノ・ノワールを選んだのは、シャンパーニュと同じぶどう品種で造るスパークリングワインにチャレンジするという目的がひとつ。そして、ほかの品種と収穫期がかぶらないという、栽培管理上の理由もある。産方さんはピノ・ノワールについて、次のように話す。

「今後はシャルドネやピノ・ノワールといった、シャンパーニュ地方で使用されているぶどうを増やしていきたいと思っています。そのための足がかりとして、まずピノ・ノワールを植えました。また、ピノ・ノワールは早生品種で、赤ワイン用にする場合の収穫期は9月過ぎです。しかし、スパークリング用ならさらに早いお盆前くらいに収穫するので、とても都合がよいのです。これからも順次、ピノ・ノワールを増やしていきたいですね」。

今までの方法をブラッシュアップし、新しい品種にチャレンジする。ルミエールは歴史の長いワイナリーだが、現状に甘んじることなく、新たなステージへと挑み続ける。日本ワイン造りの先駆者として高みを目指す意気込みを感じた。

『最新のワインを紹介 購入可能な銘柄の特徴やおすすめペアリングまで』

さてここで、ワインの紹介に移りたい。公式オンラインショップで手に入るワインのなかで、特におすすめの銘柄を尋ねてみた。

「全部おすすめですよ」と朗らかに笑う皆さんだったが、無理を言って、それぞれひとつに絞っていただいたので紹介していこう。

▶︎トラディショナル スパークリング KAKITSUBATA

最初に取り上げるワインは、甲州のスパークリングワイン「トラディショナル スパークリング KAKITSUBATA」。

このワインの最大の注目ポイントは、樽発酵・樽熟成した甲州を瓶内二次発酵させていること。ステンレスタンクで発酵熟成させた甲州のスパークリングワインとは異なり、ふくよかでボリューム感ある味わいが特徴だ。

「トラディショナル スパークリング KAKITSUBATA」について、木田さんは次のように話す。

「スパークリングワインを事業化したときからある銘柄のひとつです。出来上がるまでに5年近くかかるワインで、複数のヴィンテージをブレンドして瓶内二次発酵させたあと、さらに瓶内熟成も加えてやっと商品になるのです。実に多くの工程をかけた、手のかかっているワインですよ」。

「トラディショナル スパークリング KAKITSUBATA」では、複数ヴィンテージをブレンドする手法を採用している。ヴィンテージごとの個性を混ぜ合わせ、味わいや香りのバランスをとっているのだ。複数ヴィンテージをブレンドするスパークリングワインの製法は、シャンパーニュの「ノンヴィンテージ」と呼ばれるワインと同じスタイルである。

「シャンパーニュと同じ手法で造ってみようと考えて、スパークリングワインの製造を始めた当初からチャレンジしている試みです。どのようにブレンドしたらよいものになるか、現在でも研究を重ねています」。

造り手の手間と愛情、そして時間の重みが込められた「トラディショナル スパークリング KAKITSUBATA」。樽のニュアンスがほんのりと香り、丸みを帯びた味わいだ。これまでに甲州のスパークリングを飲んだことがある人こそ、ぜひこのワインを飲んでみてほしい。こんな甲州もあったのかと嬉しい驚きを感じること請け合いだ。

▶︎スパークリング 甲州 2020

続いて紹介するのは、「スパークリング 甲州」。産方さんが紹介してくれた銘柄だ。

「『スパークリング 甲州』は、ルミエールの定番銘柄です。安定した味わいを保っているワインだと思っています。年間多くの本数を製造していますが、それでいて瓶内二次発酵の本格的なスパークリングに仕上がっています。製造本数が多いからこそ、比較的リーズナブルに本格的な品質として提供できています。自信をもっておすすめできる1本ですね」。

「スパークリング 甲州」は、毎年15,000本程度を製造している。「大量生産」といって差し支えないほどの量を造っているとはいえ、その言葉から想像する工業的なイメージとはほど遠い。ぶどう本来の力を使ったワイン造りがおこなわれているのだ。

「スパークリング 甲州は、あるがままのぶどうの品質で勝負したスパークリングワインです。甲州を使ったワインは、シュール・リー製法や樽熟成タイプなど、様々な造りのものがありますが、個人的には、スパークリングワインにするのが甲州の美味しさを一番堪能できると思います」。

甲州の特徴である、柑橘系の香りやすっきりとした味わいがそのまま味わえる、「スパークリング 甲州」。現在販売されている最新ヴィンテージは2020年のもの。瓶内二次発酵のきめ細かい泡の質感と、甲州の爽やかな風味を楽しんでほしい。

▶︎石蔵和飲 2021

広報の三枝さんのおすすめ銘柄は、2021年ヴィンテージの「石蔵和飲(いしぐらわいん)」。マスカット・ベーリーAを房ごと仕込んだ、滋味深い赤ワインだ。

「石蔵和飲」は、昔ながらの醸造タンクと伝統的な手法を用いて造られている非常に珍しいワイン。なんと、名前にもなっている「石蔵」のタンクを使って、醸造をおこなっているのだ。

「日本でのワイン造りが始まった、明治期のワインは日本酒と同じく木桶で醸造していましたが、やがて大量生産のために花崗岩を積み上げて作った巨大な石造りのタンク『石蔵発酵槽』を使うようになりました。石蔵和飲は、当時の石造りのタンクで造った赤ワインなのです。耐水性や耐酸性に優れた花崗岩のタンクは1901年から使っていたもので、丁寧にメンテナンスしながら当時のものを今も使用しています」。

やがて石蔵発酵槽の時代は終わり、ホーローやステンレスのタンクに移行した。現在のルミエールではステンレスタンクなどの最新設備を導入しているが、「石蔵和飲」のみ、昔ながらの石造りのタンク「石蔵発酵槽」で醸造しているのだ。

石蔵発酵槽の容量は、実に10,000ℓ。人が中に入って立ち上がっても、まだ高さに余裕があるほど深く大きく、タンクの内側は色素が染み込んで「葡萄(えび)色」に染まっている。タンクに染み込んだ深いワインの色は、ルミエールの歴史の長さを感じさせる。

明治の頃は、石蔵発酵槽10基をフル稼働させてワイン造りをおこなっていたそうだ。タンクは登録有形文化財に認定されており、日本遺産の構成要素にも選ばれている。ルミエールのワイナリーツアーに参加すると、日本ワインの歴史を感じられる設備を見学できる。いにしえのワイン造りに思いを馳せるのもよいだろう。

「『石蔵和飲』は、石蔵発酵槽を使うだけでなく、荒ろ過なども当時のやり方を踏襲しています。ろ過装置がなかった時代には、竹製の簀子(すのこ)を使ってワインをろ過していました。そういった当時の知恵と技術を引き継いでいます。だからでしょうか、飲んだときに歴史の重みが感じられるのです。ステンレスタンクのワインからは感じ取れない何かが『石蔵和飲』にはあります。味も複雑で独特、ほかでは味わえないおもしろさがあると思います。

▶︎スパークリング オランジェ 2021

最後に紹介するワインは、甲州を皮ごと醸したオレンジ色のスパークリングワイン「スパークリング オランジェ 2021」。オレンジワインは数あれど、スパークリングのオレンジワインはルミエールならではのアイテムだ。

「今は人気が出ているオレンジワインですが、『スパークリング オランジェ』はオレンジワインが流行る前から製造していました。ルミエールがスパークリングを始めた2008年から製造している歴史ある銘柄です」。

「スパークリング オランジェ」は、ビールのように気軽に乾杯できるお酒として造っている。普段はワインを飲まない人でも親しみやすいよう、ボトルの栓もコルクではなく王冠に。味わいも、皮から出る苦味と渋みをそのままに残した。まさに「ビール」のようなイメージのスパークリングワインなのだ。

肩肘張らずに居酒屋料理と合わせられる楽しいお酒、「スパークリング オランジェ」は、味噌系の味付けともよく合う。和食や家庭料理のお供として、のびのびと味わっていただきたい。

▶︎ペアリングを楽しんで

ワインの楽しみ方を広げるペアリングについても、さまざまな組み合わせを提案していただいた。最初に、「トラディショナル スパークリング KAKITSUBATA」のペアリングだ。木田さんは次のように話す。

「樽を使った重めの甲州ですので、お肉料理にも合わせられる力を持っています。通常の「スパークリング甲州」なら生の魚介類などが合いますが、『「トラディショナル スパークリング KAKITSUBATA』の場合は、ぜひお肉料理と合わせてみてください。ワインと料理の組み合わせは、味付けによっても印象が大きく変わります。色々な味付けのペアリングをチャレンジして、気に入ったものを探してみてほしいですね」。

次は、三枝さんがおすすめする「石蔵和飲」のペアリングを紹介しよう。

「昔ながらの日本食にあわせてもらうと、味わいが際立つと思います。豚の角煮や筑前煮など、煮物系との相性がよいですね。個人的にはうなぎとの組み合わせもおすすめです。タレの甘辛さとよく合いますよ」。

代表の木田さんは、ペアリングの考え方について次のように教えてくれた。

「マスカット・ベーリーAはタレ系・醤油系、甲州は塩と覚えるとわかりやすいですよ」。

木田さんが特に詳しく解説してくれたのは、甲州のシュール・リーと山菜の天ぷらとの組み合わせ。たらの芽、ふきのとうなど春の山菜の苦味が、甲州のもつほろ苦さと非常によく合うのだという。調味料はもちろん、「塩」で楽しんでほしい。

「ほかには、川魚の持つ苦味との相性も抜群です。あとは、お寿司の『ガリ』をつまみにして甲州を飲むのもおすすめですよ。生姜系との相性がよいのです。」。

木田さんからは、おすすめのペアリングの提案が次々と溢れ出る。それだけ真摯に自分たちのワインと向き合い、人生をともにしてきたという証だろう。

最後に教えてくれた「お新香」「いぶりがっこ」と甲州のペアリングも、一見ならぬ一食の価値ありだ。古きよき日本の味を、甲州とともにいただきたい。

『ルミエールの目標』

最後のテーマは、ルミエールの「これから」について。2023年以降に向けて取り組んでいること、力を入れていきたいことを紹介したい。

▶︎毎年新商品を出す気持ちで取り組む

「基本かつ大切な目標は、変わりゆく気候や日本ならではの環境の中で、いかにぶどうを育て、美味しいワインを造るかということです。日本で育てたぶどうでどれだけ美味しいワインを造れるか、同時に、どこまで日本の食事に寄り添うワイン造りができるかどうか、という命題に挑むことは、日本の醸造家の使命なのです。気候変動はこれからも続くでしょう。私としては『毎年新商品を造る』というイメージでチャレンジしています。そもそもワインは、まったく同じものは2度とできないのですから」。

未来を見据える木田さんの言葉は力強い。大切なのは、毎年全力でぶどうと向き合うことなのだ。

ルミエールはこれからも、さまざまなぶどう品種の栽培を試み、環境の変化に対応しながらチャレンジしていく。

環境の変化といえば、ぶどう農家の減少も課題に挙げられる。ルミエールではぶどう農家が減り続けるという地域の現状に適応するため、自社圃場の拡大を進めているという。ぶどう栽培担当社員の人数も増やし、体制を整えているところなのだ。

「農家が減っている状況を危惧していますが、自社畑が増えれば、今よりさらにこだわりあるワインが造れるのではとも考えています。これからも、起こるであろう変化に柔軟に対応しながら、チャレンジを続けていきます」。

▶︎消費者の見ているものを大切に

「消費者と一緒に楽しんでいきたい」と話してくれた木田さん。どんなペアリングがおすすめか、どんな場面でワインを楽しみたいか。広い視野で日本ワインを発展させることが未来につながるという。

「たとえば、『ほうとう』と合うワインを造りたいと考えていますが、すでにどういったものが合うか試している消費者の方もいるかも知れません。消費者の方と一緒にワインを楽しんでいけたらと思っています。消費者の目線で考えると、キャンプを楽しむ人が増えているので、「BBQのようなキャンプで楽しむ食事に合うワイン」を造るのもよいかもしれませんよね。ワイングラスではなくコップに入れて飲めば、ワインはより気軽に楽しめます」。

遊び心を持って、ワイン造りに取り組むルミエール。自由な発想を表す商品として、キャンプにも使える「ワイン用ステンレスタンブラー」の取り扱いもある。真空構造で保冷・保温性能が高く、どんな場所でもワインが美味しく飲める優れものだ。

消費者の目線を大切にしつつ、ルミエールは日本ワインをさらにおもしろいものにするために動き続ける。視野を広く持ち、外からの意見も参考にしつつ答えを見つけることが、ワインをより魅力的にするのかもしれない。

▶︎イベントを大切に

2023年の目標でもっとも大きなもののひとつが、10/28(土)〜29(日)に開催する「ルミエールワイナリー 秋のワイン祭り」を成功させること。

「ルミエールワイナリー 秋のワイン祭り」は収穫祭を兼ねた、ワイナリーの一大イベントだ。例年、ワイナリーに隣接した大宮神社の境内を借りて開催されている。

祭りの会場にたくさんのキッチンカーが並び、多彩な料理を楽しめる。もちろん、ルミエールのワインと一緒に味わうことができるのだ。

そのほかにも、プロが演奏するジャズライブも必見だ。木田さんの友人であり、プロとして活躍するミュージシャンたちが、「ルミエールスペシャルバンド」としてバンドを組み演奏する。

「新型コロナウイルスの影響が落ち着いてから、初のワイン祭りとなるため、今年は盛大におこないたいと思います。例年、2日間で1,000人近くのお客様に来てもらっているイベントです。今年もいいものが催せるように、頑張って準備を進めていきます」。

木田さんは、これからもイベントごとを大切にしたいと話す。多くの人がワイナリーに遊びに来てくれれば、山梨県の観光事業も発展する。山梨県を盛り上げることもまた、ルミエールの使命のひとつなのだ。

「山梨は自然が素晴らしく、東京からのアクセスも良好です。山梨はこれからも永遠にワイン産地として続いていくでしょう。だからこそ、大切に盛り上げていきたいのです」。

『まとめ』

2021〜2022年のルミエールは、気候変動の影響を受けた年になった。特に2021年は今までにないタイミングでの長雨が造り手たちを悩ませた。

しかし、プティ・ヴェルドをスパークリング製造用として活用したことや、難しい天候だったからこその丁寧な醸造によって、質の高いワインを生産。

「ルミエールは、日本ならではの気候風土を生かし、日本が得意とするジャンルで挑戦します」。

木田さんの言葉には迷いがなく、「日本ワインの造り手」としての自信に満ちている。

ルミエールは2023年も、消費者との交流を大切にしながら良質なワインを醸造する。ぜひ直接訪れて、ワイナリー見学やイベントに参加してほしい。

造り手の素顔やワイナリーの歴史、圃場の空気感を知ることで、ワインはもっと美味しく、そして楽しくなるのだから。


基本情報

名称ルミエールワイナリー
所在地〒405-0052
山梨県笛吹市一宮町南野呂624

アクセス電車
塩山駅からタクシーで15分

勝沼インターから車で5分
HPhttps://www.lumiere.jp/

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