追跡!ワイナリー最新情報!『原茂ワイン』天候に恵まれ、高品質なぶどうが収穫できた2022年ヴィンテージ

日本の一大ワイン産地であり、数多くのワイナリーがある勝沼の中でも、特に歴史が長いワイナリーのひとつが「原茂ワイン」だ。大正に創業した原茂ワインは、現代に至るまでぶどう栽培とワイン醸造に実直に向き合い続けている。

原茂ワインが扱う主なぶどう品種は、勝沼を代表する品種の「甲州」はもちろん、世界で広く栽培されているワイン専用品種の「メルロー」や「シャルドネ」など。そして、日本生まれの交配品種「アルモ・ノワール」も、原茂ワインを代表する品種だ。

原茂ワインの自社畑は傾斜地に広がっており、水はけが良好。また、昼夜の寒暖差が大きく、ぶどう栽培に最適な条件がそろっているのが特徴だ。

原茂ワインは、土壌や気候の個性を生かしてぶどうを栽培する。使用する原料は、買いぶどうもすべて山梨県産だ。健全なぶどうを丁寧に仕込み、山梨ならではのテロワールを表現する。

今回は、原茂ワインの2022年に迫る。代表の古屋真太郎さんに伺った、2022年ならではのエピソードを紹介していきたい。さっそく見ていこう。

『原茂ワイン 2022年のぶどう栽培』

1.5haの自社畑でぶどうを栽培している原茂ワイン。まずは、2022年のぶどう栽培について見ていきたい。また、ぶどう栽培に大きな影響を与える「天候」についても、あわせて確認していこう。

2019〜2021年までは悪天候が続き、ぶどう栽培は苦戦を強いられた勝沼エリア。2022年の空模様はどのような様子だったのだろうか。

▶︎勝沼の2022年の天候

勝沼エリアでは近年、ぶどうの生育期にあたる時期に気温が低いことや、収穫期に秋雨が続くなど、ぶどうを栽培する上での不安要素が次々と発生していた。

特に、房に雨が当たると病害虫の発生がしやすくなるため、健全なぶどうを収穫するためにできるだけ避けたいのが収穫期の雨だ。

2022年の勝沼エリアでは、降水量や日照量、全体的な気候はどのようだったのだろうか。

「2022年の勝沼の天候は、ここ最近のヴィンテージの中では比較的よかったといえるでしょう。2022年の栽培管理においては、除葉と収穫制限をしっかりとおこない、高品質なぶどうの収穫を目指すことができました」。

喜ばしいことに、2022年の天候は原茂ワインのぶどう栽培に味方してくれた。1年の様子をさらに詳しく追っていこう。

2022年3〜5月にかけては、適度な雨と日照に恵まれた勝沼エリア。適度な水分と温暖な気温はぶどうによい影響を与えた。例年と比較すると発芽が早めだったという。また、芽のそろいもよく、栽培シーズンのスタートは順調に開始した。

受粉後の6月は、通常であれば梅雨で雨模様が続く時期だ。しかし2022年は空梅雨だった。この時期に雨が少ないのは、ぶどう栽培にとってはありがたいことだ。病害や生理障害が出にくくなり、健全に生育が進むことが期待できる。

だが、降雨量が少ないということは、ぶどうが地面から吸い上げる水分が少くなるということでもある。雨が少なかった影響で果粒の肥大が十分ではなく、全体的に小粒となった。

また、梅雨明けも早く、2022年は7月下旬には早々とぶどうの果皮の着色「ヴェレゾン」が開始した。8月も雨の少ない月となり、中旬に集中雨があったのみだった。

さらに特徴的だったのは、夏季の気温だ。日中は気温が高く夜温が低めだった。昼夜の気温差は、生育期のぶどうにとっては非常に好ましい。果皮の色付きが進み、糖度もしっかりと上昇する効果が期待できる。8月下旬に確認したところ、糖度の伸びが顕著だったという。

そして9月。上旬には台風の襲来があったものの、大きな被害は免れた。房はすくすくと育ち、良好な果実が出来上がった。

近年の地球は大きな気候変動に直面していると言われる。古屋さんから見て、勝沼の気候になんらかの変化は感じているのだろうか。

「現在の地球は1800年代後半と比べ、平均気温が1.1℃上昇しています。そして2011年から2020年は、観測史上最も気温が高い10年間となりました。地球規模で見ると、深刻な干ばつや水不足、海面上昇や洪水、倒壊的な暴風雨などが増えているようです。しかし勝沼では、まだそこまで深刻な影響は現状感じられていません」。

勝沼でも気温の上昇や降水量の増加傾向はあるものの、2022年のように良好な年もあり、一概に「気候変動でぶどうの生育が難しくなってきた」とまでは断言できない。

このような状況の近年では、天候の変化に振り回されるよりも、ぶどうの質をあげるための「基本」を徹底することが美味しいワインを造るための近道なのかもしれない。

▶︎植え替えや剪定方法の調整を実施

原茂ワインが2022年におこなった栽培の取り組みを、ふたつ紹介しよう。

ひとつはぶどうの樹の植え替えだ。長年栽培していると同じ品種であっても樹によって調子のよいもの悪いものが出てくる。2022年はメルロー、シャルドネ、甲州などで不調が出ていた樹を新しい苗に植え替えた。

ふたつ目は、シラーの剪定方法を変えたことだ。樹勢の強い一部の樹のみ、一文字短梢剪定から長梢剪定に変更した。剪定方法を変えると、樹形や芽の数などが大きく変わる可能性がある。

剪定は樹の寿命にも影響してくる要素であり、栽培作業のなかでも技術と経験がものをいう作業だ。

「剪定方法を変えたところで、もちろん、短い期間では結果は出ません。今後も継続して様子を確認していきたいと思います。よい効果が現れることを期待しています」。

植え替えをおこなった樹と、剪定方法を変えたシラー。これから数年後に、原茂ワインのぶどう栽培にどのような変化が見られるのかが今から楽しみだ。

『原茂ワイン 2022年のワイン造り』

続いては、ぶどう作りからワイン造りへとテーマを移そう。2022年の原茂ワインは、どのようなワイン醸造をおこなったのだろうか。

2022年に醸造した銘柄や醸造の様子、また現時点で手に入るおすすめのワインなど、原茂ワインのワインに関する情報についてお話を伺うことができた。

▶︎2022年に醸造したぶどう

最初に紹介するのは、2022年に醸造された銘柄について。原茂ワインでは、自社畑で栽培したぶどうと、契約農家から買い取ったぶどうの両方からワインを醸造している。

原茂ワインでは、2022年も数多くの品種がワインになった。使用されたぶどう品種は次のとおりだ。

  • デラウエア
  • 甲斐ブラン
  • シャルドネ
  • 甲州
  • アジロン・ダック
  • ネオアリカント
  • ブラッククィーン
  • ヤマ・ソービニヨン
  • メルロー
  • アルモ・ノワール
  • シラー

2022年ヴィンテージの銘柄のうち、ここではふたつを紹介しよう。デラウェアの白ワイン「デラウェア 2022」と、原茂シリーズの赤「ハラモ アジロン 2022」だ。

「デラウェア 2022」は、新酒ならではのフレッシュさが魅力の白ワイン。原料はすべて、山梨県産だ。果実感と甘酸っぱさが混ざり合い、ごくごくと飲めてしまう魅力たっぷりの1本。

「ハラモ アジロン 2022」は、勝沼で栽培されたアジロン・ダックを100%使用して造った赤ワイン。天候に恵まれた2022年の勝沼のテロワールを感じたい。アジロン・ダック特有の甘い香りがしっかりと出ており、爽やかな酸味とフルーティーさが魅力で、色味も可愛らしいワインだ。

いずれのワインも、新酒らしいみずみずしい果実感が感じられるワインになっている。原茂ワインのフレッシュな新酒を飲めば、暑い季節もすっきりと乗り切れそうだ。ぜひ公式ホームページから手に入れて欲しい。

▶︎醸造中のメルローが期待大

2022年の新酒はすでにリリース済みだが、そのほかに、まだ販売されていない銘柄も数多い。

醸造中の2022年ヴィンテージワインの中で、古屋さんが特に期待しているワインは何だろうか?おすすめを伺った。

「天候がよかったおかげで、メルローとシャルドネの品質が非常によい年でした。そのため、ワインの仕上がりにも期待しています」。 

原茂ワインの自社畑で育ったメルロは、例年「ハラモ メルロ」という銘柄として発売されている。マロラクティック発酵や樽熟成を使い、まろやかでバランスのとれた豊かな果実味が魅力のワインだ。

メルローは樽の中で仕上がりを待っている状態だ。時間が経つごとに香りや味わいは刻々と変化し、完成へと近づいていく。

2022年らしさを感じられるであろう、自社畑のメルローやシャルドネの発売はもう少し先の話になる。リリース情報は公式ホームページで発表されるため、ぜひこまめにチェックして欲しい。


▶︎新アイテムの開発に向けて

原茂ワインが取り組んでいる、醸造の新しい取り組みについても尋ねてみた。

「まだワインになるのは先ですが、新しいアイテムが増えそうです。山梨県果樹試験所が開発した新品種、『ソワ・ノワール』を植えることにしています」。

ソワ・ノワールは、「メルロー」と「ピノ・ノワール」の交配品種。赤ワイン用のぶどうであり、絹のようになめらかな味わいが特徴だという。

また、味だけでなく、育てやすさの面も注目に値する。早生品種であるメルローよりもさらに早く成熟する品種特性があるため、病害虫のリスクを低く抑えられるのだ。高温下でも着色しやすく、温暖化が進む近年の日本でも栽培しやすい品種だと期待されている。

ソワ・ノワールが新アイテムとして原茂ワインに登場するのは、早くても5〜6年後になるだろう。

原茂ワインのソワ・ノワールは、単一ワインになるのか、はたまたブレンドとして使用されるのか。さまざまな想像を膨らませつつ、新アイテム発表のときを待つとしよう。

▶︎発売中の銘柄紹介「原茂 甲州シュールリー 2021」

2023年春に新しく発売されたワインの中で、古屋さんが特におすすめする銘柄について伺った。古屋さんのいち押しは、「原茂 甲州シュールリー 2021」。いったいどんなワインなのだろうか。

「『原茂 甲州シュールリー 2021』は、勝沼産の甲州をシュール・リー製法で5か月間、澱(おり)と一緒に熟成させた白ワインです。甲州は繊細な風味を持っているので、果汁の段階から液体に含まれる『溶存酸素』を増やさないように注意しました。味わいは、梨や白桃のような優しい香りと、柑橘系の香りが重なっているイメージです。バランスのよいワインに仕上がっていますよ」。

シュール・リーとは、「澱」とともにワインを熟成させる醸造手法のこと。シュール・リー製法を使うことで、澱から溶け出たアミノ酸がワインに厚みのある旨味を付与するのだ。

「原茂 甲州シュールリー 2021」は、シュール・リーのバランスが大きな特徴になっているという。重すぎず軽すぎない旨味がほどよくワインに溶けており、飲み疲れしない。かといってライトすぎるわけでもないため、ワイン単体でも満足感は十分だ。

古屋さんがおすすめしてくれたのは、春野菜や魚介類の天ぷらとのペアリング。天ぷらの油をさっぱりと切ってくれると同時に、甲州の旨味と繊細な風味が具材とマッチする。

「近所に住む音楽仲間と、春の天気のよい日に原茂ワインのガーデンで小宴を開いて、その場で提供したいと思えるワインになりました」。

気の置けない仲間たちと、優しい木漏れ日の中でのんびりと楽しむ時間に飲みたい、まさに幸せを運んでくれる味わいの1本だ。

『2023年以降の目標 訪れて楽しいワイナリーを目指して』

最後のテーマは、原茂ワインの目標について。近い将来におこないたいことや、ワイン造りで目指したいことなど、ワイナリーの未来についてお話いただいた。

▶︎ぶどうの品質を向上させる

2022年のぶどう栽培を経て、あらためて古屋さんが感じたことがある。それは、「適房」がいかに重要かということだ。適房のタイミングと加減は、ぶどうの高品質化に直結する要素なのだ。

「ぶどう作りに関しては、これからも収量制限し、さらなる高品質化に向けても努力したいです。そのためには適房が大切になりますが、適房を適切におこなうには、いかにしっかりと畑で観察をするかにかかっていると思います」。

よいぶどうを育てるための近道は、「地道に観察すること」にほかならない。基本を徹底してこそ、品種の個性や土地の恵みを十分に表現できるぶどうが生まれるのだ。

原茂ワインは長年のぶどう栽培の経験から、基本が何よりも重要であることを深く理解しているのだ。

▶︎訪れて楽しいワイナリー

原茂ワインには、ワイン造り以外の目標もある。それは、「訪れて楽しいワイナリー」を目指すこと。

「ガーデンカフェをしたり、ライブ演奏、フラメンコダンスなどのイベントを開催しようと考えています。気まぐれですので告知はまだですが、開催する際にはぜひお越しいただきたいですね」。

「気まぐれ」といいつつ、有言実行の古屋さん。2023年5月のゴールデンウィークには「HARAMO ガーデンカフェ 2023」が開催された。参加者はブランチやホットドッグ、スイーツ、チーズなどを新緑のぶどう棚の下で楽しんだ。

原茂ワインでは今後も、ワインとともに食や音楽を楽しめるイベントが開催されるのだろう。そんな原茂ワインは、「訪れて楽しむ」のが大正解だ。

造り手や訪問客などと同じ空間を共有し、原茂ワインに行くことでしか味わえない貴重な時間を、ぜひ現地で満喫していほしい。

『まとめ』

昨年までの天候不順を吹き飛ばす、「よいヴィンテージ」になった2022年の原茂ワイン。天候がよくても悪くても、大切なのは基本に忠実で丁寧なぶどう栽培とワイン造りだ。畑をつぶさに観察し、摘房で収量制限を施して、高品質なぶどうが収穫できた。

気になる2022年ヴィンテージのワインは、2023年6月時点では新酒のみリリース済み。そのほかの銘柄はまだ熟成中で、なかでも古屋さんが特に期待を寄せているのはメルローだ。

勝沼の地で日本ワインの歴史を長く紡いできた原茂ワイン。古屋さんは、日本ワインの未来について、次のように話す。

「ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュなど世界に名が通る銘醸地にはワイン法があり、世界をマーケットにしています。世界の名だたる産地と比較すると、日本はワインについての価値観に後れを取っていると思われます。日本においてワインは小さな産業ではありますが、世界のワイン産地と同等な価値観で表現できるようにしていきたいです。勝沼ワイン協会は、『GI勝沼』の登録・申請に向けて努力中です。山梨県甲州市勝沼町を世界に通じる銘醸地にしたいと考えています」。

日本ワインへの強い思いを持ってワイン造りに取り組んでいる原茂ワイン。ワイナリーを訪れて原茂ワインのワインを飲むことで、古屋さんたちの活動と日本ワインの明るい未来を応援したい。


基本情報

名称原茂ワイン
所在地〒409-1316 
山梨県甲州市勝沼町勝沼3181
アクセス
中央自動車道:勝沼インターより約5分。
電車
JR中央本線「勝沼ぶどう郷」駅下車、徒歩20分。
HPhttps://www.haramo.com/

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