「新潟の海と砂のテロワール」を追求するワイナリー、「フェルミエ」。代表取締役兼栽培・醸造家の本多孝さんは、「海のワイン」と呼ばれる白ワイン「アルバリーニョ」を中心に、ぶどうと土地の個性を引き出すワイン造りをおこなっている。
フェルミエの自社畑の最大の特徴は砂質土壌であること。角田浜の海岸エリアに広がる畑は「海砂」が堆積したエリアであり、個性あるぶどうの栽培地だ。
丁寧な観察と臨機応変な対応によって、土地の恵みを生かしたぶどうを育てているフェルミエ。一部の畑では完全有機農法を採用し、畑に息づくエネルギーをそのままぶどうに写し込む。
フェルミエで醸造しているワインの中で、特に個性が光るのは、やはりアルバリーニョ。アルバリーニョだけでも複数の銘柄を展開しており、それぞれに違った魅力を持つ。
同じ品種でいくつもの銘柄を展開するのは、それぞれのぶどうに対し全力で向き合っているから。栽培する区画が異なれば、ぶどうの性質や印象は異なる。フェルミエではぶどうの個性に合ったワインを造っているのだ。
今回はおもに、2022年のぶどう栽培の様子と誕生したワインについてお話いただいたので紹介していこう。
『フェルミエのぶどう栽培』
フェルミエにおける、ぶどう栽培に対するスタンスは毎年同じです、と本多さん。
ぶどうを観察し、ぶどうが求める対応をする。また、年ごとのぶどうが持つよいところを伸ばすことに注力するのみだという。
▶︎ぶどうは自分の子供のような存在
ぶどうに対する本多さんの姿勢は、自分の子供に対する向き合い方と同じだ。自分自身の理想を押し付けず、ひとりひとりの個性に真正面から対峙する。
「ワインについて、『よい年』『悪い年』という言い方をすることがありますが、私はその表現は使いません。なぜなら、その年ごとの天候がぶどうの個性になるからです。どんな天候にも『よい』『悪い』はないのです。ぶどうはどんな年でもがんばって成長していますから」。
年によって気候が異なるため、できるぶどうも一律ではない。それがワインの面白さであり醍醐味だ。本多さんは年ごとの天候をニュートラルに受け入れている。心を込めて育てたぶどうをワインにすることで、年ごとの個性がしっかりとあらわれたワインが出来上がる。
「2021年も2022年も、毎年おこなうべき当たり前の作業を丁寧に実施しました。天候や出来上がりといった要素を栽培家がコントロールしようなどとは考えていません。自然のままのぶどうを表現するだけです。子育てへの姿勢でたとえるとわかりやすいかもしれませんね。例えば、『音楽の才能がある子だから、音楽家にしよう』『自分自身が音楽好きだから、子供を音楽家にしよう』ではなく、『この子がやりたいように育てよう』と考えているのです」。
フェルミエの栽培家のあたたかな眼差しに見守られて、自社畑のぶどうはのびのびと育つ。造り手の信頼を受けて育ったぶどうは、新潟のテロワールとヴィンテージごとの特徴をはっきりと映し出すのだ。
『フェルミエのアルバリーニョワイン』
フェルミエの代名詞ともいえるのが、アルバリーニョのワインだ。2023年現在リリース済みの最新銘柄に迫りたい。
▶︎7種類のアルバリーニョ
「2022年ヴィンテージが6種類、2021年ヴィンテージが1種類、計7種類のアルバリーニョを販売中です」。
7種類の銘柄について、それぞれ紹介しよう。
フェルミエが大切にする「海と砂のテロワール」を最も素直に表現した銘柄が「エルマール・アルバリーニョ2022」と川沿いのエリア「南区」の自社畑で棚栽培した棚栽培のぶどうから醸した「アルバリーニョ2022」。
そして、棚栽培の畑のなかでとりわけ品質のよいぶどうを選抜した「アルバリーニョ・セレクシオン2022」。これら3種類は、畑もしくは区画が違うぶどうを使っているが、いずれも同様の造りだ。
4つ目の銘柄「アルバリーニョ・バリッカ2022」は全体的な造りこそ上記3銘柄と同じだが、最終的に樽熟成している点が異なる。
また、上記とはやや毛色が異なる銘柄とてしては、「アルバリーニョ・マセラシオン2022」「エルヴォルカン・アルバリーニョ2022」「アルバリーニョ・パシフィカード2021」が挙げられる。これらはエルマールの系統とは違った造りのため、詳細を個別に紹介したい。
▶︎醸し発酵の「アルバリーニョ・マセラシオン2022」
「アルバリーニョ・マセラシオン」は、醸造工程で果皮を漬け込んで発酵する「マセラシオン」を採用しているワインだ。マセラシオンは通常、赤ワインのみに採用される手法。だが、あえて白ワインの醸造に取り入れることで、アルバリーニョの皮に含まれる繊細なアロマや、皮や種から抽出されたタンニンが溶け込んだ豊かな味わいを目指した。
ここまでの説明で、ワイン好きならば「オレンジワイン」を連想する人も多いことだろう。確かに以前までの「アルバリーニョ・マセラシオン」は色調も濃く、まさに「オレンジワイン」といった印象のワインだった。しかし近年のヴィンテージではマセラシオンの工程をできるだけライトに寄せ、「オレンジワインと白ワインの中間」のような仕上がりにしている。
造りを変えた理由について、本多さんは次のように話してくれた。
「なぜ『オレンジ』を目指さなくなったのかというと、より品種個性を活かした方向性にシフトしたためです。醸しを強くしすぎると、アルバリーニョ特有のエレガントさが消されてしまいます。アルバリーニョの特徴が消えてしまってはこの品種で醸す意味がないと考え、醸しの工程を短く調整したのです」。
調整するといっても、 なにかを加える作業などはしないのがフェルミエ流。皮を漬け込む時間や、皮の量のコントロールのみをおこなった。「アルバリーニョ・マセラシオン」は、「アルバリーニョらしさ」をしっかりと発揮するための手法を採用したワインなのだ。
「アルバリーニョらしさを目指した結果、色は少し濃い目の黄色に落ち着きました」。
「アルバリーニョ・マセラシオン2022」は、幅広い食事に合わせられる味わいだ。2022年ヴィンテージはより「きれいさ」が強調されているため、上質な食事とも好相性。さまざまなメニューとの組み合わせを試していただきたい。
▶︎「外向き」のエネルギーが表現された「エルヴォルカン・アルバリーニョ2022」
「エルヴォルカン・アルバリーニョ」の「ヴォルカン」とは「火山」の意。こちらも「エルマール」と同じく海と砂のテロワールを表したワインだが、「火山」の名を冠している意味を尋ねてみた。
「理由はふたつあります。ひとつは、畑のテロワールを表していること。また、このワインが持つ『外向き』のエネルギーの強さも表現しています」。
まずは、ひとつめの理由について。海砂の土壌が広がるフェルミエの畑だが、実は砂地の下には溶岩の層だ。畑の背景に望む角田山は火山噴火の溶岩が堆積したもので、フェルミエが位置する角田山の裾野には溶岩の地盤が広がっているのだという。
また、ふたつめの理由についても見ていこう。「エルヴォルカン・アルバリーニョ」が持つ「外向き」のエネルギーとは。
「世界の名だたるビオディナミストが造るワインは非常にパワフルでエネルギーを感じます。『エルヴォルカン』は、『ビオディナミストが造るような外向きのエネルギーを持つワインができないか』と考えて造ったワインなのです」。
ビオディナミとは、化学的なものは一切使用せず、ぶどうや土地の持つ力を活性化させて栽培をおこなうことを特徴とする有機農法の一種である。「エルヴォルカン・アルバリーニョ」が持つ力強さの源にあるのは、有機栽培かつ亜硫酸無添加のぶどうが放つ野性的な生命力だ。
また亜硫酸を使用していないことも、爆発的なエネルギーの表現に一役買っている。
「『エルマール』などは、リンゴ酸を残すために、亜硫酸を使って乳酸発酵を止めています。そのため、ミネラル感がしっかりと出て、輪郭もクリアな造りです。一方の『エルヴォルカン』は、亜硫酸無添加です。有機栽培で野生酵母を使い、しかも亜硫酸を添加していないので、外向きに湧き上がるようなエネルギーを表現できていると思いますよ」。
「エルヴォルカン」は、土地とぶどうが持つ純粋なパワーを象徴するワインなのだ。
▶︎凝縮された一滴の集合体「アルバリーニョ・パシフィカード 2021」
2021年ヴィンテージの「アルバリーニョ・パシフィカード」は、ここまで紹介してきたアルバリーニョとは一線を画す。陰干ししたぶどうを使用する「パッシート製法」のワインだからだ。
「収穫したアルバリーニョを陰干してから搾汁しています。干すことで水分が抜けているため、凝縮感が段違いです。トロピカルな雰囲気が強くなっており、リッチな味わいを楽しんでいただけると思います」。
干しぶどうを使って醸造する場合には、通常よりも多くのぶどうが必要になる。そのうえ、通常のワインに比べて作業の手間もかかる。味わいだけでなく、醸造背景も含めてリッチなワインだといえるだろう。
『ピノ・ノワールと新潟ワインシリーズの最新情報』
アルバリーニョ以外の銘柄にもスポットを当てていこう。
2023年にリリースされた銘柄のうち、3種類のピノ・ノワールと、新潟シリーズの3銘柄を紹介したい。
▶︎ピノ・ノワールのワイン
2023年に一般販売用としてリリースしたピノ・ノワールは、「ピノ・ノワール2021」「ピノ・ノワール2021 プルミエクラッセ」「シュペートブルグンダー2021」だ。いずれも自社畑で収穫したぶどうを使用している。
「ピノ・ノワール2021」と「ピノ・ノワール2021 プルミエクラッセ」に使われているピノ・ノワールは、フランス・ブルゴーニュの「ディジョン・クローン」。ディジョン系統のクローンは、ピノ・ノワールのクローンの中でも果実が小粒なのが特徴だ。凝縮感が出るため、味わいに厚みが生まれやすい。
ふたつのワインの違いについても言及したい。いずれも同じぶどう、同じ造りのワインだが「プルミエ クラッセ」は樽熟成時に「新樽」のみを使用している点が異なる。
「プルミエ クラッセ」は、2021年がファースト・ヴィンテージ。豊かな樽香をまとった上質なピノ・ノワールの記念すべきファースト・ヴィンテージ。ピノ・ノワールのワインが好きな人には特におすすめの銘柄だ。
続いては、3つ目のピノ・ノワールの銘柄、「シュペートブルグンダー2021」を紹介していく。こちらのワインで使用されているピノ・ノワールは、ドイツ系統の苗。「シュペートブルグンダー」とは、ドイツの「ピノ・ノワール」のことだ。ディジョン・クローンとは異なり、果実が大粒で「ゆるさ」のある味わいを特徴としている。
「ドイツ系統のピノ・ノワールは、2020年ヴィンテージまでは、ピノ・グリとブレンドしてロゼに仕上げていました。2021年に初めて造った赤ワインが、『シュペートブルグンダー2021』です」。
ぜひ、造りやクローン違いのピノ・ノワールが持つ多様性を体感してほしい。
▶︎新潟ワインシリーズ
フェルミエのワインの中で、新潟を強く意識して造られたのが「新潟ワインシリーズ」。エチケットはすべて新潟の風景や名所などが描かれており、新潟の魅力が存分に感じられる味わいなのが特徴だ。
2023年8月時点の最新銘柄は、「田園 新潟シャルドネ2022」「夕陽 新潟カベルネ・メルロー2022」「花火2022」の3つ。田園は白ワイン、夕陽と花火は赤ワインだ。
「新潟ワインシリーズ」は夏にぴったりのワインです。また、花火と夕陽は軽やかな仕上がりなので、コース料理の前菜ともしっくり馴染みます」。
エチケットに描かれているのは、すべて「新潟の夏」の風景だ。貼り絵画家・深町めいしゅう氏が描いた貼り絵のイラストは、どこか懐かしさを覚えるような暖かさと柔らかさに満ちている。
新潟に思いをはせながら、新潟シリーズのワインを開けてみてはいかがだろうか。
『フェルミエの楽しみ方』
フェルミエには、本格的なフレンチが楽しめるレストランが併設されている。続いては、フェルミエのレストランの魅力や楽しみ方、気になるイベントについて深掘りしていく。
▶︎究極のペアリングが楽しめる、フェルミエのレストラン
フェルミエの魅力を語る上で欠かせないのが、レストランの存在だ。フレンチの伝統的な技法をベースに、新潟らしさを創意工夫で表現した料理の数々は、各方面から高い評価を得ている。
例えば、2020年には「ミシュランガイド新潟2020」において、ミシュランから高い評価を得ているおすすめ店である「ミシュランプレート」に選ばれた実績を持つ。
また、2023年の春には、「新潟の風土や歴史を料理で表現した飲食店を表彰する」ことがコンセプトの「新潟ガストロノミー・アワード」のレストラン部門にて受賞を果たした。
「フェルミエのレストラン最大の魅力は、地元の素晴らしい食材を使ったフレンチと、フェルミエのワインとのペアリングです。新潟出身のシェフが、ワインと合うように香りや味付けを工夫しているのです。ワイン造りのテーマでもある『新潟の土地を表現したワインを造る』というコンセプトに沿って、レストランでも上質な料理を提供しています。フェルミエのワインとレストランの料理のペアリングは大変好評ですよ」。
本多さんが太鼓判を押すペアリングの例をひとつ紹介したい。料理はハーブを使った前菜、「シェフのスペシャリテ」だ。
このメニューと合わせるのは、もちろんフェルミエで醸造したアルバリーニョのワイン。アルバリーニョの香りにはグリーンや柑橘の要素があり、味わいにはミネラル感と酸味が含まれる。そのため、ハーブの持つ爽やかな香りが非常によくマッチするのだ。
フェルミエのレストランはランチもディナーも展開しているが、本多さんのおすすめはランチタイムの来店だ。ランチタイムの利用をおすすめしてくれた理由は、レストランの窓から見える風景にあるという。
「ランチライムに来ていただければ、レストランの窓の向こうに広がる美しいぶどう畑が一望できます。季節によっては、たくさんのバラが咲き誇る庭も楽しめます。また、食事前にワイナリーツアーに参加していただければ、料理やワインがより一層美味しく感じられますよ」。
ランチタイムのフルコースは、ランチの時間帯にディナーと同様の内容を楽しめるため人気だという。14時開始の予約まで受け付けているので、少し遠方からの来店でも間に合うだろう。
遅めにスタートしたランチを食べ終わると、時刻は夕暮れ時になっているだろう。新潟駅に向かう帰りの車窓からは、フェルミエのワインのエチケットさながらの、日本海に沈む美しい夕陽が見えるはずだ。
▶︎2023年のイベントも期待大
フェルミエが開催している中でも、特に人気があるイベントは、「フェルミエ・マリアージュの会」。毎年、夏と冬に開催している限定イベントだ。例年大盛況で、告知後すぐ満席になってしまう。2023年の夏に開催したマリアージュの会は、限定16席のイベントを計3回実施した。
「クローズドなイベントにしたいわけではないのですが、人気が高いため、今のところワイナリー会員の方たちにしかご案内できていない状況です。幅広いお客様に楽しんでいただきたいので、今後は一般のお客様向けにも開催したいと思っています」。
興味を持った方は、ぜひフェルミエの公式SNSやホームページで発信される情報を確認してほしい。
『まとめ』
2023年もフェルミエでは数々のワインをリリースした。造りや畑の違いが楽しい7種類のアルバリーニョや、新しい銘柄が増えたピノ・ノワール。
また、新潟の夏の情景がエチケットになった新潟ワインシリーズも2022年ヴィンテージが勢ぞろいしている。
「フェルミエのワインは、新潟のテロワールをそのまま表したワインです。ぶどうが育った土地の風景を想像しながら飲んでいただけたら嬉しいですね」。
もちろん、フェルミエのレストランで地元食材とワインのペアリングを堪能するのもおすすめだ。新潟のテロワールを愛するフェルミエのワインの真髄を味わう上で、現地でワインを味わう以上の楽しみ方はないだろう。
醸造シーズンが終わる11月以降には、新たなイベントの開催も予定しているそうだ。その際にはぜひワイナリーに足を運び、新潟のテロワールを感じてみてはいかがだろうか。
基本情報
名称 | Fermier(フェルミエ) |
所在地 | 〒953-0012 新潟市西蒲区越前浜4501番地 |
アクセス | JR越後線 越後曽根駅、関越自動車道 巻潟東インター |
HP | https://fermier.jp/ |