追跡!ワイナリー最新情報!『坂城葡萄酒醸造』ラインナップがさらに充実したヴィンテージ

「坂城葡萄酒醸造」は、長野県埴科郡の坂城町にあるワイナリーだ。イタリアンとフレンチレストランのオーナーでもある成澤篤人さんが、自身の地元に創業した。

成澤さんはかつて、飲食店に勤務したことをきっかけにソムリエの資格を取得。そして、自らのレストランを開業後には、レストランで提供するワインを自ら造るためにワイナリーを立ち上げたのだ。

2011年からぶどう栽培を始め、2018年には自社ワイナリー、坂城葡萄酒醸造での醸造を開始。そのほかにも、日本ワイン文化を根付かせるためのさまざまな活動にも積極的に取り組んできた。

坂城葡萄酒醸造では、カベルネ・ソーヴィニヨンを中心に、おもに欧州系品種のぶどうを育てている。近隣の産地は粘土質土壌が多いなか、砂礫土壌の坂城葡萄酒醸造の自社畑のぶどうは、高品質で魅力的なワインに仕上がる。

成澤さんたちは変わりゆく自然環境に適応するため、真摯にぶどう栽培に取り組んでいる。

それぞれのワインが飲まれるシチュエーションや合わせる料理までを考え、栽培から醸造までこだわり抜いてワイン造りをおこなってきた坂城葡萄酒醸造。今回は、2022年の歩みについて成澤さんにお話を伺った。

『2022年のぶどう栽培』

取材したのは、2023年4月中旬のこと。坂城葡萄酒醸造のぶどう畑は、芽吹きを迎えた頃だった。

「ちょうど樹の誘引が終わったところですね。日中の気温は上がってきましたが、夜間の冷え込みはまだ強く、3℃くらいまで下がる日もあります。数日前には霜が降り、近隣の果樹農家では被害が出たところもあると聞きました」。

昼夜の寒暖差が大きい気候の坂城町。まずは、2022年の天候はどのようなものだったのかをみていこう。

▶︎日照量に恵まれなかった2022年

「3月に入ると、例年よりも早く気温が上がってきました。気温が上がると萌芽が早まるので、遅霜の被害を心配しましたが、なんとか大丈夫でしたね」。

その後は、観測史上もっとも早い梅雨明けを迎えたものの、梅雨明け後に雨が続いた。だが、収穫時になると晴天が続いたため、収穫は非常にはかどったそうだ。

2022年に収穫されたぶどうは、幸いにも病気による被害は少なかった。だが、梅雨明け後の降雨による日照不足と、夏の気温が非常に高かった影響で、色付きが若干薄く、糖度は低めとなった。

「気候に関しては、近年は予想すらつかない状態です。そのため、毎年の天候に合わせて栽培管理を調整しています。私たちは、美味しいぶどうを作ることが、美味しいワインを造ることにつながると考えています。天候は私たちの力ではどうにもなりませんが、与えられた環境を受け入れつつ、常に最善を尽くしています」。

気候が安定しないことが増え、農業の大変さはさらに厳しさを増している。前年には正解のように見えた方策が、次の年には通用しないということがあたりまえのように起こってしまうのだ。

▶︎ぶどうを観察し、病気に対して早めの対処を

予想だにしないような気候に見舞われれたときこそ、成澤さんがぶどう栽培においてもっとも大切だと考えている「観察力」が効果を発揮する。ぶどうを常に観察し、病気などを早めに見つけて対処することで、病気の拡大を防げるのだ。

一言で観察するというと、簡単なことに聞こえるかもしれない。しかし、こまめに畑に足を運び、注意深くぶどうを見ることは、決して容易なことではない。注意力があるかどうかはもちろん、これまでの経験値が試されることもある。また、真心を持ってぶどうに向き合うことも欠かせない。

自然という、思い通りにはならない巨大な相手に対峙しなければ、健全なぶどうでのワイン造りは成り立たない。坂城葡萄酒醸造のワインは、心を込めて地道な努力をして育てたぶどうがあるからこその味なのだ。

▶︎マグネシウムでカベルネ・ソーヴィニヨンを守る

坂城葡萄酒醸造が2022年、ぶどう栽培において新たに取り組んだこととして、マグネシウムの葉面散布がある。

「主力品種として栽培しているカベルネ・ソーヴィニヨンにおいて、房の先端部分が枯れやすいという問題がありました。品種特性とも考えられますが、原因がよくわからなかったため困っていたのです。文献を読んで研究したところ、マグネシウムの散布が効果があるということがようやくわかり、試験的に葉面散布をおこないました」。

マグネシウムを散布したところと、していないところを作って比較した結果、葉面散布をしているカベルネ・ソーヴィニヨンは、していないところに比べて被害が半分以下となった。

もともと房が小ぶりなカベルネ・ソーヴィニヨンは、被害が出ると収穫量が減ってしまうことが懸念されるため、対策が見つかったことは坂城葡萄酒醸造にとって大きな収穫だった。2023年も施策を継続し、さらなる効果に期待する。

▶︎坂城葡萄酒醸造の自社畑ならではのぶどう

2011年からぶどう栽培をしている坂城葡萄酒醸造。もっとも土地に適していると成澤さんが感じているぶどう品種は、メルローだという。

また、長野県内のほかの産地と比べて独自性のあるぶどうが採れている品種としては、ソーヴィニヨン・ブランの名を挙げてくれた。

「長野県のソーヴィニヨン・ブランの多くは、標高の高い土地で作られてます。そのため、フランス・ロワール地方のように酸がキリッとしたワインに仕上がるものが多いのです。一方、坂城葡萄酒醸造の畑は長野県内としては低い位置にあり、標高は400mです。そのせいか、少し厚みがあるトロピカルなニュアンスのあるソーヴィニヨン・ブランができると感じています」。

また、2022年にはようやく、カベルネ・フランが単体でワインにできるまでに成長した。

「これまで使用していた赤ワイン用品種は、タンニンが強くてパワフルなカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローのみでした。そのため、トマト系のパスタや、前菜に合う赤ワインを造りたいと考えたのです」。

清涼感があり、スマートでエレガントなワインになる品種として選んだのが、カベルネ・フランだ。2021年に初収穫したが、収量が少なかったためにメルローとブレンド。そして2022年ヴィンテージでは、満を持してカベルネ・フラン単一のワインを仕込んだ。

坂城葡萄酒醸造はもともと、成澤さんが経営するレストランで「自分が納得したものを提供したい」との思いからスタートしたワイナリーだ。

2022年ヴィンテージの新商品となったカベルネ・フランの赤ワインは、坂城葡萄酒醸造の志を体現する銘柄となるだろう。

▶︎ぶどう品質は徐々に向上

坂城葡萄酒醸造では、2018年頃に自社畑を拡大。また、樹の成長に伴い、収量は年々増えてきた。しかし、樹齢10年を超えた樹では、やや収穫が減ってきているものもあり、全体の収量は微増といったところだ。

「いちばん古い樹は樹齢12年です。若い頃は水分が多く大きな実をつけていたものがだんだん小ぶりになってきました。樹が成長するにつれて、品質は確実によくなっている気がしますね」。

成熟した樹から生まれるぶどうが、これからのヴィンテージでどんなワインになっていくのか。坂城葡萄酒醸造の今後のラインナップから、ますます目が離せない。

『新たな商品が登場した2022年ヴィンテージ』

続いては、坂城葡萄酒醸造の2022年ヴィンテージのワイン醸造に迫ろう。

坂城葡萄酒醸造では、オンラインショップと提携の酒販店でもワインを販売している。だが、メインはあくまでも、ワイナリーでの販売とレストランでの提供だ。

2022年ヴィンテージの白ワインはすべてリリース済みで、赤ワインはボトリング後に順次リリース予定。2022年のおすすめ銘柄について尋ねてみた。

▶︎エレガントなカベルネ・フラン100%のワイン

まずは、坂城葡萄酒醸造で初となる、カベルネ・フラン100%のワインについて。リリースは2023年7月頃を予定している。

「カベルネ・フランの品種の特性である、少し青い感じの香りも出ているエレガント系のワインです。余韻が長く続いて、旨味が後からじわっと出てくるタイプですね」。

坂城葡萄酒醸造では、成澤さんと醸造家だけでなく、レストランのシェフも一緒になってどのようなワインを造るかという方向性を検討。合わせる料理を決めてから逆算してワイン造りを組み立てるのだとか。例えば、カベルネ・フランのワインではどのように検討したのかをみていこう。

まず、カベルネ・フランでは、前菜や軽めの料理に合わせやすいワインを造ることにした。そのため、樽ではなくステンレスタンクを使うことに。味わいは、タンニンを抽出しすぎない仕上がりを目指した。

レストランでは、自社醸造のカベルネ・フランには、山菜のフリットや長野県産の生ハムなどとのペアリングをすすめる。なんと提供している生ハムは、スタッフみんなで製造元に出かけて一緒に仕込んだものなのだとか。

「脂身が控えめでさっぱりとしていて、旨味がしっかりとした凝縮感のある感じの生ハムです。同じ土地の食材を合わせるペアリングは絶対的なものだと思っています。うちのレストランでは、できるだけ地元の食材を使った料理を提供しているのですよ」。

坂城葡萄酒醸造のニューフェイス、カベルネ・フラン100%と長野の生ハムという魅力的なペアリングを、ぜひ現地で味わってみたいものだ。

▶︎果汁の甘味を生かしたロゼワイン

2020年と2021年、ツヴァイゲルトをベースに、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンを使った『三毛猫ロゼ』をリリースした坂城葡萄酒醸造。

そして、2022年にはこの銘柄をさらに進化させ、5品種のぶどうを使った『ジュース・リザーブ製法』によるやや甘口のロゼワイン、「Miau〜ミアオ〜」が誕生した。

ジュース・リザーブ製法では、発酵前の果汁を冷凍し、瓶詰め前のワインに解凍した果汁を入れる。すると、果汁の甘味の残ったワインができるというわけだ。

「これまでの坂城葡萄酒醸造のロゼワインは、すべて辛口でした。そのため、少し甘くて飲みやすいワインを造りたかったのです。ロゼは使い勝手のよいワインなので、サラダ仕立てのカルパッチョやホタルイカのパスタ、豚肉のロースなど幅広い料理に合わせられます」。

ロゼワインは、日本のワインファンの間では、赤や白ほどの人気があるわけではないだろう。流通している外国産のロゼワインは甘口が多く、初心者向けのようなイメージが定着していることも原因となっているだろうと成澤さんは言う。

しかしロゼワインは、肉や魚、野菜など、さまざまな食材を使った料理に合わせやすく、大変魅力のあるワインなのだ。

坂城葡萄酒醸造のレストランでは、さまざまな料理とロゼワインのペアリングを提案し、その度に「ロゼってこんなに美味しいのか」と、嬉しい反応があるという。
果汁の自然な甘みが生きた坂城葡萄酒醸造のロゼワイン、「Miau〜ミアオ〜」なら、ふだんの食卓にも馴染んでくれそうだ。

▶︎地元の人のために巨峰で造る微発泡ワイン

坂城葡萄酒醸造では毎年、微発泡タイプのペティアン、その名も『ペティにゃん』を限定生産している。原料は自社栽培の巨峰で、リリース時期は坂城町で開催される「ねずみ大根祭り」の開催時に合わせている。

「ねずみ大根」とは、坂城町で古くから栽培されている辛味大根のこと。ねずみ大根の絞り汁に信州味噌や薬味を加えて食べる「おしぼりうどん」は、坂城町の伝統的な郷土料理だ。

そして、坂城町のシンボル的な特産品であるねずみ大根をアピールする祭りに合わせ、猫がモチーフのワインが醸造されるというのだから、なんとも粋な計らいだ。

「ねずみ大根祭りが開催される11月に合わせて瓶内発酵させ、ボトル販売をしています。レストランではサーバーで提供していますよ。ラブルスカ種特有の甘い香りがありますが、味わいとしてはすっきりと辛口です」。

坂城葡萄酒醸造としては異色の巨峰を材料に選んだのは、地元の人たちが気軽に飲めるワインを造るため。巨峰はもともと、坂城町で多く栽培されていた品種なのだ。現在は巨峰を栽培するぶどう農家が減ったため、自社栽培の巨峰のみでの少量生産に切り替えた。

ペティニャンは地元を大切にする成澤さんの思いから生まれた限定ワイン。ケグから注ぎたてのペティニャンを味わいに、ねずみ大根祭り開催のタイミングで坂城町まで足を伸ばしてみたいものである。

『まとめ』

最後に、成澤さんが目指すワインについて尋ねてみた。

「1本の高級ワインよりも、みんなで飲むテーブルワインの方が美味しいなんてよく言われますよね。私自身も同じようなことを感じることが多いのです。私はレストラン出身ですので、食卓の上に料理があり、一緒に飲む人がいるという『時間』と『空間』までトータルで美味しいと思えるようなワインを造りたいと考えています」。

また、今後のワイナリー運営に関しては、新たなステージに登るときが来たと実感しているという。

「2009年に飲食店を始め、2018年にワイナリーを立ち上げて、ずっと駆け足でやってきました。これからの数年は、じっくりと足場を固める時期にしたいと思っています。将来的には、スパークリングワインの醸造などにも挑戦していきたいですね」。

創業から目覚ましい成長を見せてきた坂城葡萄酒醸造は、ワイナリーとしての新たなフェーズに突入していく。今後も遠い将来までを見据え、着実に歩みを進めていくことだろう。

「『100年続く企業、1000年続く産地』を目指しています。坂城町は本当に小さい町で、観光資源もほとんどありません。私たちのワイナリーがあることで、町外からお客様が来てくれたり、新規就農者が出てくるなど、地域の起爆剤となる企業として地域に根ざしていけたらと思います」。

何よりも大切にしたいのは、「続けていくこと」だと話してくれた成澤さん。ワイナリーを設立してぶどう栽培を開始しても、引き継ぐ人がいなければ、畑は荒廃農地に逆戻りしてしまう。

長野県はかつて、養蚕のための桑栽培において産業の衰退を経験している。同じことがワイン産業でも起こる可能性は、否定できないのだ。

ワイン産業を継続していくためには、まずはワインを楽しむ文化を構築することが大切であり、ワインを飲む人を増やしていくことが重要だ。

「ワインは難しくとらえられがちですが、そういう壁を取っ払うことから取り組みを始めたいですね。日本産だということに魅力を感じる人は多いはずなので、ふだんワインを飲まない人にも、ワインって意外と美味しいなと感じてもらえたらうれしいです。飲む人を増やして文化形成していくことが自分たちの役割だと思っています」。

淡々と、しかし非常に力強く、「バックボーンも含めて、日本ワインの魅力を伝えることが真っ先にやるべき使命」だと語る成澤さん。その眼差しは、日本ワインの未来をしっかりと見つめている。坂城葡萄酒醸造の取り組みを、これからも応援していきたい。


基本情報

名称坂城葡萄酒醸造
所在地〒389-0601
長野県埴科郡坂城町坂城9586-47
アクセス
上信越道坂城ICから5分
電車
しなの鉄道「坂城駅」から徒歩7分
HPhttps://sakaki.wine/

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