震災後の三陸に新たな文化創造を目指す、『THREE PEAKS(スリーピークス)』のワイン造り

スリーピークスは、2013年5月、及川武宏さんが地元・岩手県大船渡市で始めたワイナリーだ。譲り受けたりんご農園から生まれたシードルが好調で、2019年には大船渡で収穫した最初のワインがリリースされた。
なによりも原料を大切に、手間暇をかけてワインやシードルを造っているという。及川さんは、ワイナリーの成功の先に、東日本大震災で傷ついた三陸に「国内外から観光客が訪れるような新たな文化を創造したい」という大きな夢を抱く。

『地元・大船渡で、事業を起こしたい』

「岩手県大船渡市の出身で、学生のときから地元で長く続けられる事業ができないかと考えていました」と及川さんは語る。

及川さんの経歴を聞くと、ワイン造りの前に、経営についてや三陸にどう観光客を呼ぶかなどを考えた行動や職業を選択しており、長い期間、夢を叶えるために模索してきたことが窺える。

どのような事業を手掛けようかと考えながらも、Facebookの出始めであったこともあって、WEBについて知っておいた方がよいと東京都内のITの会社に入社した。
その後、将来自分が経営することを見据えて上場企業の監査などを行う監査法人に転職。経営者と会う機会を増やして、事業を始める機会を虎視眈々と狙っていたのだという。
25歳の時にはワーキングホリデーでニュージーランドに滞在し、地方での観光業のあり方について学んだ。

各社で働きながら、及川さんが事業を始めるべく力を着実に溜め込んでいる最中に、東日本大震災が起こる。及川さんは震災後、津波に襲われた地元に何度も戻ったという。
傷ついた三陸を見て、復興の一助にならなければという思いも重なり、今こそ地元で事業を始めようと真剣に考え、行動に移したのだ。

『ニュージーランドで、ワイナリーと出会う』

「ニュージーランドに滞在していた時にワイナリーやぶどう園、りんご畑などで働く機会があり、そこでの経験が今のワイナリーの立ち上げにつながっています」

ニュージーランドのワイナリーには多くの観光客が訪れ、ワーキングホリデーで働きに来ている人たちがもたくさんいたという。

「当時、ニュージーランドのワイナリーで10か国くらいの人たちと一緒に働きましたが、日本の地方もそうなればいいのにと思ったのが最初です。ワイナリーは農業であり、製造業、サービス業、観光業まですべてつながる事業。それを地方に根付かせることができればと漠然と考えていました。2005年や2006年ごろでしたが、当時の日本の外国人観光客は600万人くらいで、まだまだ増えるだろうという考えもありましたね」と及川さん。

ワーキングホリデーにニュージーランドを選んだ理由としては、「日本に近い環境があると思ったからです。また、観光は地方にとって大切な事業で、観光立国であるニュージーランドには学ぶべきところが多い。
観光案内所などはどんなに田舎町に行っても必ずありましたし、行政の整備も行き渡っている。そういうものを見たいという思いもありました。ワイナリーにはたまたま連れていかれたのですが、そこでの出会いがあったので今があります」と話します。

震災をきっかけに、ワイナリー事業をスタートしようと準備を始めた及川さん。ただ、15年以上地元を離れていたため、東北の当時の環境がわからなかったのが課題に。
まずは東日本大震災復興支援財団に転職をし、東北の人たちと関わりながら、どのように事業を進めていくかを模索していった。及川さんの一番の目標は、「地方が継続し、生き残っていく事業を運営すること」。
そのためのコンテンツの一つとして、ワイナリーがふさわしいと考えたのだ。

『将来的には、生活の場づくりや食、観光へ』

実は、THREE PEAKS(スリーピークス)という名前も、ニュージーランドでの出会いが関わっている。

「ニュージーランドで滞在していたゲストハウス、当時はバックパッカーズと呼んでいたのですが、そこがピークという名前でした。僕はそこから数カ月毎日ぶどう畑に通っていたんです。
いろいろな国から来た、さまざまな年代の人が、働いたり遊んで帰ってきて、夜になるとみんなでごはんを食べる。そういう環境をつくりたいと思ったので、ピークと名付けました」と話します。

ピークという名前だけではたくさんの会社があるので、三陸の三、スリーをつけて、スリーピークスと名付けたそうだ。ワイナリーだけではなく、将来的にはゲストハウスなどの生活の場づくりや食、観光などの事業も手掛けていきたいと考えている。

『5・6種類のぶどうと、りんご栽培を手掛ける』

スリーピークスで育てているぶどうは、シャルドネやメルロー、ピノ・ノワール、アルバリーニョなど、5~6種類。

「シャルドネはとてもメジャーな品種ですが、それがこの土地でどんなワインになるのかを知りたくて、特にたくさん植えています。また、三陸は牡蠣などが有名で、海産物が美味しい。合わせるのであれは、シャルドネが良いのではないかという思いもありましたね」。

圃場があるのは、大船渡湾から約3キロの場所。海にも比較的近く、この土地ならではの課題もあるという。「夏に冷たく湿ったやませが吹くことも多く、日照時間が足りなくなって病気になることも多いです」と及川さんは語る。

2013年創業の若いワイナリーなので、安定的にぶどうが収獲できようになるまでにはまだ時間が必要だ。そのような事情もあり、スリーピークスでは、ぶどうの栽培と並んで地元の人に譲り受けたりんご園でりんご栽培にも力を入れている。

「隣町の陸前高田市は、140年続くりんごの産地。そのりんごを食べて僕らは育ってきました。そのりんご園が高齢化で後継ぎがいないために閉園すると聞いて、それならば引き継ぎたいと譲り受けたのです。
りんごの栽培も、病気が出ますし、木が古く台風で折れることもあってとても難しい。ですが、りんごはとても美味しくて、質の良いシードルができる。もちろん、りんごジュースも美味しいです」とりんごを用いた商品への自信をのぞかせる。

『木本来の力で育つよう、土壌に乳酸菌を撒く』

ぶどうやりんごを作るための土壌については、今の土壌で作りたいという思いもあり、肥料はあまり与えていないという。及川さんが良質な土壌を作るために、主に使用するのは乳酸菌だ。

「ご縁があって、京都大学の先生が研究している、菌への耐性が強くなるという乳酸菌を主に使っています。ジェル状で水に溶かして撒くものなのですが、果実の糖度があがるという結果も出ている。その乳酸菌を使いながら、木の本来の力である程度育つように育成を続けていきたいと考えています」と語る。

ぶどうやりんごに木については、虫による害はあまりないものの、ベト病と晩腐病になりやすいため、病気にならないための防除は行っているそうだ。
圃場がそこまで広くなく、機械に頼るのが難しい土地であるため、できるだけ手作業で、手間をかけてぶどうやりんごを育てているのが特徴だ。

「大きい会社ではないので、圃場の広さも限られています。だからこそ、例えば虫がいっぱいついたとしても、薬に頼るよりは手をかけて解決できる方法を選びたいと思っています。
今は家族だけで運営していますが、将来的には圃場を広げて、1.5ヘクタールくらいまでにしていきたいとも考えています」。

ただ、ぶどうやりんご作りは自然が相手ということもあり、天候の悪い日が続いたり、病気が広く発生するなど、ままならないことも多い。
毎年、今年は美味しく育つのかどうか不安に思っていると及川さんは話す。
「農業はとても楽しいのですが、雨が降り続くと何もできないなど、究極の理不尽な仕事。どうにもなりませんが、そういう面では苦労や心配が絶えないですね」。

『余計なものを足さず、素材の味を生かす』

自社のぶどうを使ったワイン醸造は、2020年で3シーズン目だ。ワインやシードル造りのこだわりとして、「原料をすごく大事にしている」と及川さんは話す。

「ワインやシードルで一番大切なのは、原料だと考えています。傷んでいるぶどうがあれば、一粒一粒手作業でとりますし、りんごも黒くなっているところがあれば、ナイフで切って綺麗な部分だけを使うようにしています。ぶどうやりんごのポテンシャルを一番発揮できる環境にまずは置くこと。そして、余計なものを足したりしないこと。それがこだわりです」。

さらに、温度をしっかり管理し、発酵の速度をコントロールする。それを忠実に行うことで、自然の素材を生かした美味しいワインやシードルになるのだという。
例えば、冬季は気温が低く、そのままでは発酵が進まないので、毎日ストーブをつけて部屋の温度を上げるなど、細やかな温度管理を行っているという。

『目指すのは、シャブリ・ワインのような白ワイン』

及川さんが目指すのは、三陸の海の幸に合うすっきりとしたワインだ。

「まずは、地元の食、特に魚介類に合うワインを造りたいですね。大船渡でワイナリーを運営しているので、それは外せません。
ただ、10年くらい立ったら、もっと重いワインも造りたいという別の欲が出てくると思う」と語る。今はまず、大好きなシャブリ・ワインのような白ワインを造りたいと考えている。

一方、スリーピークスではりんごだけのワイン、アップルワインも醸造している。アップルワインは辛口で軽い感じの白ワインという印象で、酸味があり、いろいろな料理に合わせられるという。

「Zoomでワイン会を行ったときに、いただいたキジハタという魚を、刺身やなめろう、アップルワインの酒蒸し、皮のポン酢だれなどに調理したんです。すっきりしたアップルワインは、どれにも合いましたが、ポン酢を使った料理がおすすめでしょうか。アルコール度数も高くなく、飲みやすいとよく言われます」。アップルワインは、日本で出しているところが少ないこともあり、特に飲食店での需要が高い。

また、りんごで造るシードルは、エスニック系や香りの強い料理にも合い、肉料理や餃子などにも合うそうだ。スリーピークスには、白ワインやアップルワイン、シードルなど、特に女性が好むような、香り高く果実感のあるお酒が揃っている。

『経験を積んで、美味しいワインを造りたい』

及川さんにワイン造りを教えたのは、岩手県内にあるワイナリーだ。「研修のような感じで、好きなときに通わせてもらっていろいろと教わりました。
実際にやってみないとわからないことも多く、今でも教えてもらいながら実践しています。岩手県のワイナリー同士はとても仲が良く、集まって研修会をしたり、営業もみんなで行こうという雰囲気なんですよ」と楽しそうに語る。

しかしながら、ワイン造りでも苦労は多いのだそう。「まだ経験が少ないため、理想と違う方へ向かってしまったときに、どう軌道修正をしていいのかがわからない。

最もいい状態にするにはどうしたらいいのか、もっと勉強し、経験を積んでいかなければならないと思っています」。
設備投資など課題は多いというが、これからさらに経験を積んでいった先にある、美味しいワインやシードルの誕生が楽しみだ。

『乾杯のシーンで飲んでほしい、爽やかなシードル』

どんなシーンでスリーピークスのワインやシードルを飲んでもらいたいかという質問に、及川さんは「コロナ禍で乾杯の場面は減っているものの、美味しいものを食べながら、みんなでワイワイ飲んでもらいたいというのがうちのワインやシードルです」と話す。

「看板商品の一つであるシードルは、乾杯に飲むお酒としておすすめしています。かなりドライで、フルーティーかつ爽やかな味わい。スパークリングワインのように楽しんでもらえると思っています。アルコールも抑えめなので、飲み疲れもしないのが特徴です」と及川さん。

将来的には、ニュージーランドのバックパッカーズのように、人がにぎやかに集う環境をつくりたいという及川さんの思いがワインやシードル造りにも表れている。

『ワンランク上のワインやシードルを造りたい』

「ワインに関しては、今はまだぶどうをしっかりと育てていかなければならない段階。まずは、三陸の食事に合うワインを生み出す品種を選定するのが、目下の目標です。りんごも、140年続いてきた地元の文化を継承していきたい。
また、美味しいシードルやアップルワインを造りながら、同時に、シャンパンと勘違いをされるようなワンランク上のシードルを造りたいと考えています」と及川さんは未来を見据えて語る。

将来的には、シードルもワインもそれぞれ1商品は、素晴らしくいいワインやシードルを造りたいという。普段は今あるものでもいいけれど、特別感のあるものを造っていきたいのだそうだ。また、ワイナリーの運営に関しても、今よりもさらに人とつながりを増やしていく予定だ。

「もともと、人に来てもらって畑に入ってもらったり、醸造を手伝ってもらったりするなど、みんなでつくっていくワイナリーをイメージしていました。実は近い将来、外部に売るわけではないのですが、梨を植えようと計画しています。
梨好きが多かったこともあり、Facebookで梨を植えたい人を募ったら、10人以上の人が手を上げてくれた。小さな梨園を作るような気持ちで、みんなでわいわいできたらいいなと思っています」。

『まとめ』

岩手県大船渡市に生まれ、学生時代に地元・三陸で事業を起こすことを夢見て、企業やニュージーランドで経験を積んできた及川さん。東日本大震災で大きなダメージを受けた三陸の復興の一助になろうと、2013年にワイナリーをスタートさせ、夢への第1歩を踏み出した。

及川さんは家族とともに、大船渡市ではぶどうを育て、陸前高田市では譲り受けたりんご園でりんごを栽培。手をかけて育てたぶどうやりんごを、醸造所で一つひとつ丁寧に扱い、余計なものは加えず、温度管理と発酵速度をコントロールして、美味しいワインやシードルを造っている。
ワインは三陸の海産物に合うように造られ、シードルは乾杯のシーンで飲んでもらえるようスキッとしたドライな味わいだ。

将来的に及川さんが目指すのは、海産物の味わいを深める、シャブリ・ワインを思わせる爽やかでキレのある辛口ワインや、シャンパンのような質の高いシードルだ。そしてその先に創りたいと夢見ているのは、ニュージーランドのバックパッカーズで出会った、いろいろな国から、さまざまな年代の人が集う生活の場所なのだ。

今はまだ、東日本大震災のつらい記憶が残る岩手県の三陸に、たくさんの人がそのにぎやかさや温かさを求めて訪れる日は、きっと遠くない。

基本情報

名称THREE PEAKS(スリーピークス)
所在地〒022-0002
岩手県大船渡市大船渡町茶屋前99
アクセス大船渡駅より徒歩3分
HPhttps://3peaks.jp/

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