『domaine tetta』「洗練と実直」で人々を魅了する、石灰岩土壌のワイナリー

写真:Daichi Ano

domaine tetta(ドメーヌ・テッタ)は、岡山県新見市の山の中にある。「晴れの国」岡山の冴え渡る青空と一面に広がるぶどう畑は、日常から遠く離れた絵画世界のようだ。

そんなdomaine tettaの特徴は、「洗練されたアイデアとデザイン」と「実直なワイン造り」。一見、両極端とも思える魅力を内包する、実力あるワイナリーだ。domaine tettaの思いやこだわりを知れば、ワイナリーに行きそのワインを飲んでみたいと強く思うはず。

さっそく、domaine tettaのぶどうやワインについて紹介していこう。

『domaine tettaのはじまりと歴史』

domaine tettaが誕生したのは2016年。ワイナリーのぶどう畑があった場所は、もともと放棄された畑であったという。棄てられた土地から、現在のぶどう畑が生まれるまでには何があったのだろうか?

代表の高橋さんに、domaine tetta誕生の歴史について聞いた。

▶耕作放棄地から生まれたワイナリー

現在domaine tettaが所有するのは、8haのぶどう畑。この土地には始めからワイン用のぶどうが植えられていた訳ではなかった。

もともとこの畑を有していたのは、tetta株式会社(domaine tettaの運営母体)とは別の農業法人だった。その農業法人では、平成の初期から生食ぶどうを栽培していた。しかし、時は過ぎ、ほとんどのぶどう畑が雑木林に。
広大な土地が、耕作放棄地になってしまったのである。

tetta株式会社の代表、高橋 竜太さんは建設業を生業としている。全くの異業種を経験した高橋さんだが、放棄された畑を目の当たりにして考えたのは「この土地を、ワイン事業で再生できないだろうか」ということだった。
そして、未経験だった農業ビジネスに参入し、tetta株式会社が誕生する。これが、2009年のことである。

写真:Daichi Ano

なぜ高橋さんは、「ワインで土地を再生すること」を直感したのだろうか。理由はふたつあった。

ひとつは、当時、岡山県内にぶどう栽培から醸造まで一貫して行うドメーヌスタイルのワイナリーや、ワイン用ぶどう畑がなかったこと。
他にはない「ワイン用ぶどうに特化した畑」は、土地の大きな魅力につながると考えた。

もうひとつの大きな理由は、畑の土壌が「石灰岩土壌」だったことだ。石灰岩土壌は、フランス・ブルゴーニュをはじめとする、ワインの「銘醸地」に多い土壌なのである。
石灰岩土壌はワイン用ぶどう栽培をするのに適していると言われており、日本では石灰岩土壌の畑は珍しいのだ。

そんな恵まれた条件を持つこの土地に、高橋さんは「ワイン造りの可能性と面白さ」を感じたのだった。

こうして、ワイン用ぶどうの栽培がスタート。当初は、収穫されたぶどうは県外のワイナリーに委託醸造し、自社ブランドとして展開していた。
2016年には、ワイナリー「domaine tetta」が誕生。ワイン用ぶどうの栽培、醸造から瓶詰め、販売までを全て自社で行うことになる。

2021年現在は、5ヴィンテージ目の醸造が終わった段階だ。まだ試験栽培のぶどうも多く、今後も様々なワインの醸造が予定されている。銘醸地のポテンシャルを秘めたtettaの大地。
ここから生み出されるぶどうは、今後も私達に驚きを与えてくれるに違いない。

写真:domaine tetta

▶「栽培醸造から販売まで」ワイナリー名に込められた思い

domaine tetta(ドメーヌ・テッタ)は、高橋さんの思いが込められたワイナリー名だ。その由来や思いについて見ていこう。

フランスのワイン業界で使用される「domaine(ドメーヌ)」という言葉。これは「栽培から醸造、瓶詰めまで、ワイン造りに関する全てをワイナリーで行うスタイル」を意味する。
事業の最初に誓った「この畑を再生させる」という思いがあったため、当初からワイナリー名には「ドメーヌ」を付けようと考えていたという。「自分達のぶどうを栽培し、ワインを造る」ことは、まさしくdomaine tettaのぶどう栽培とワイン造りへのスタイルを表現している。

「tetta」は、一見ヨーロッパの言葉のようにも思えるが、これはワイナリーが位置する地名、岡山県新見市「哲多」町からきている。

ヨーロッパのワイナリーも、自分の地域の名前をリスペクトし、ワイナリー名としているものが多い。高橋さんは「呼びやすいですし、土地を借りる意味を込めて、町の名前にしました」と話す。

domaine tettaは、コンクリート造りのモダン建築だ。エチケットにも現れる洒落た印象から、スマートで都会的なワイナリーに見える。

しかし、その芯にあるのはワイナリー名の通り「自分でぶどうからワインまでを造り」「土地をリスペクトする」というまっすぐで素朴な思いだ。親しみがあり、何度も呼びたくなる「テッタ」という響き。
「こんなワイナリーがあってね」と、つい人に教えたくなるワイナリー名だ。

写真:Daichi Ano

▶建設業とワイン造り

代表の高橋さんは、建設業とワイナリー経営をしている。これらの事業に共通点や違いはあるのだろうか?高橋さんの考える、建設業とワイン造りについて聞いたところ、それぞれの違いが分かる興味深い答えをもらうことができた。

「建築業とワイン造りは、事業としては全く違います」と高橋さん。建設業は、与えられた図面に沿ってものを作る仕事だ。図面通りにできることが、お客さんにも「当たり前のこと」だと見なされる。

一方の農業は季節ごとに、その時々に応じた勝負がある。同じように作ろうとしても、自然相手で毎回環境が異なる。農作物の出来も毎回変わる中で、いいことも悪いことも、1年1年お客さんからの反応がある

建設業も農業も、「ものづくり」であることは同じ。しかし、つくった結果や、自分たちに返ってくる物が全く異なるのだ。

「似ているようで違うこと」を掛け持つのは大変に思えるが、高橋さんは「それぞれに違いがあって、刺激的で面白いです」とポジティブに楽しむ。

高橋さんのワイン造りへの携わり方は「任せるべきところはワイナリーのメンバーに任せ、自分は全体をマネジメントする」こと。中途半端に手を出すのではなく、畑全般や栽培・醸造に関する専門的な事柄は、若いプロに一任している。

異なるふたつの事業を営む高橋さん。そのものづくりへのバランス感覚こそが、domaine tettaの魅力を生み出しているのだと感じた。

写真:domaine tetta

『全て自家栽培 domaine tettaのぶどう作り』

domaine tettaでは、全てのぶどうを自家栽培してワインにしている。tettaならではのぶどうの魅力や、畑のこだわりとは?

ぶどう本来の力を引き出すtettaのぶどう栽培について、紹介しよう。

▶domaine tettaで栽培するぶどう品種

domaine tettaでは、同規模のワイナリーと比較して、非常に多くのぶどう品種を栽培している。まず、自社畑で栽培されているぶどうについて見ていこう。

栽培されているぶどうは、ワイン用品種と生食用品種がある。ワイン用品種だけで30品種、生食用品種で7種類が育てられている。30種類のうち10種類は、ワイン造りでメインに使用されている品種だ。残りの20品種は、試験用として栽培している。

メイン品種の黒ぶどうから見ていこう。多い順に「マスカット・べーリーA」「カベルネ・フラン」「メルロー」「ピノ・ノワール」だ。

白ぶどうは、「シャルドネ」「ソーヴィニヨン・ブラン」「シュナン・ブラン」「リースリング」「ピノグリ」がメイン品種だ。

試験品種として栽培されているぶどうは実に様々。少ない収量の試験品種は、アッサンブラージュ(ブレンド)してひとつのキュヴェとしてリリースしている。

こんなにも多くの試験品種を育てる理由を、「とにかく育ててみないと、この地に何が合うのか分からないので」と、栽培醸造責任者の菅野義也さんは答える。

また、ワイン用ぶどうと生食用ぶどうの、栽培方法の違いについても聞いた。「どちらの栽培も難しく、分からないことがたくさんです」という菅野さん。

生食用のぶどうは、樹齢の高いぶどうが多い。樹齢20年を超えたものもあるという。樹齢が高いと、芽かきひとつをとっても「ぶどうにとって負担になりすぎていないか」を考える必要があるのだ。一方のワイン用ぶどうは、樹齢の浅いものが多く、株に勢いがあり、アプローチが大きく異なる。「どちらも深く観察し、意志を通わせるように育てています」。

試験栽培中のぶどうも、土地に合うことが分かれば単独品種のワインとしてラインナップされていくのだろう。初ヴィンテージのワインを待つのも、ワイナリーの楽しみ方のひとつだ。

写真:Eiji Honda

▶ぶどう栽培の方法と、畑のこだわり

domaine tettaでは、まるでヨーロッパのぶどう畑のような風景が一面に広がっている。

そんなtettaの畑における、ぶどう栽培のこだわりや畑づくりの特徴について見ていこう。tettaのこだわりは「自然であること」。domaine tettaのぶどう畑には、化学的・人為的なものを極力与えない。

除草剤はもちろんのこと化学肥料は与えず、薬剤の使用も必要最小限に留める。化学合成農薬は年々量を少なくしており、より少ない散布量、回数を模索しているのだという。堆肥ですら、現在はまいていないというのだから驚きだ。

なぜここまで徹底して自然にこだわるのか?そこには、ぶどうになるべくストレスをかけずに育てたいという目的がある。自然に負担をかけうる物の使用は極力は避け、よりぶどうが本来の力を発揮できるようなアプローチを続けているのだ。

栽培醸造責任者の菅野さんはこう言う。「除草剤は使わず、雑草が生えたら刈り取って、それも畑に還すようにして育てています。畑を耕すこともしません」

一見楽に見えるtettaの栽培方法。しかし、実際はそう簡単なことではない。なぜなら、ぶどうの様子を片時も見逃さずに観察する必要があるからだ。

「実際、ものすごく気を遣います。自然と放任は似ているようで違います。その見極めをいつも考えています。収穫前はぶどうが獣に食べられていないか心配で、夜中に起きては畑の見回りに行きます」と菅野さん。

写真:domaine tetta

雨の多かった2020年のぶどう栽培の様子について、菅野さんに尋ねた。「2020年は、年間の降水量は過去10年で3番目に多い年でした。しかし、ぶどうにとって大切な『8月から10月』の降水量は少なく、救われました。品質も良い物ができたと思います」

様々な自然の要素が絡み合うぶどう栽培は、同じ年でも地域によって出来不出来の差が大きい。domaine tettaの2020年は降雨のタイミングに恵まれ、ワイン用ぶどうにとって良い年だったようだ。

そんな菅野さんは、ぶどう畑の周囲をきれいにすることで、病気や害虫がわきにくい環境作りも徹底している。薬の散布が少ない分、健全な自然の力で元気に育ってもらうことが大切だと話す。

徹底した観察と、自然であることにこだわり抜いた健全なぶどう栽培を「ぶどうと人間の、忍耐力の競い合い」と、高橋さんは言う。
ドメーヌスタイルのワイナリーのパイオニアとしての自負があるからこそ、使命感を持ってこの姿勢を貫く。普通より手間がかかり困難な道であっても、その決意は変わらない。

写真:domaine tetta

▶栽培醸造責任者 菅野さんとワイン

栽培醸造責任者の菅野さんに、ワイン造りのきっかけを聞いた。自然のままの栽培をこだわって貫く菅野さん。そんな彼とワインとの出会いはどんなものだったのだろうか?

「ワイン造りの道を歩むきっかけは2つありました。1つは大学時代に1年間休学してフランスのブルゴーニュに滞在していたこと。元々フランスに興味がありましたが、ブルゴーニュで見たぶどう畑のあまりの美しさに感動し、心を奪われました。いつか自分もワインを造れるようになってフランスに帰ってきたいと強く思いました。
もう1つは帰国後に研修でお世話になった山梨県にあるワイナリー「BEAU PAYSAGE」の代表、岡本英史さんとの出会いです。当時何も出来なかった自分を受け入れ、社会人としての在り方からワイン造りの多くを自分に授けようと必死に向き合ってくれました。およそ2年間お世話になりましたが、そこで過ごした時間を1日たりとも忘れたことはありません。今の自分があるのは岡本さんとの出会いがあったからです。」

山梨でワイン造りの多くを学び、2018年からtettaで働き始めた。そして、2020年には栽培醸造責任者に任命された。

フランスへの憧れと、恩師との出会い。たまたま、自分がこれと思うものの先にワインがあったという。domaine tettaとの出会いにも、不思議な縁を感じると話してくれた。

ワイン造りは、どれだけこだわっても終わりはないという菅野さん。「まだまだ自分は何も分かっていません。きっと分からないまま死んでいくでしょう。ただ、極められない世界だからこそ、死ぬまでやりたいと思えるのかもしれないです。そういう世界もいいのではないかなと思っています」

写真:domaine tetta

『domaine tettaのワイン』

domaine tettaのワインは、自然にこだわったワインだ。ぶどうに無理をさせることなく、ぶどうの持つ力を100%ワインに表現することを信条としている。

tettaの造るワインとは?こだわりや苦労、エチケットに込められた狙いについて、順に紹介していこう。

▶domaine tettaが目指すワイン

目指すのは、化粧をしない素のままのぶどうを魅せるワイン。自社原料100%だからこそ、土地の持ち味をその実いっぱいに詰めたぶどうに、余計なことを加えたくないのだという。

tettaのもともとの始まりは、農地の再生だ。「ワイン造りの可能性を秘めたこの土地のぶどうを、余すところなくワインに表現する」という使命が、最初から灯台のようにtettaを導く。

「多くの品種を育てているので、毎年違うワインができます。tettaならではの個性を、毎年違うものでも表現・発信していきたい」と高橋さんは意気込む。

そのためには、「今年やったことが来年生きるとは限らない」と考え、そのときによって考え方、アプローチを変化させながら、ワイン造りの引き出しを毎年増やしていく。tettaが目指すのは、土地の持つポテンシャルをぶどうで表現することだ。

写真:domaine tetta

▶ワイン造りは「ぶどうを信じ、見守る」だけ。しかしそれこそが難しい

domaine tettaのワイン造りのこだわりは「余計なことはせず、ぶどうを見守ること」。ぶどうに気持ちよく発酵してもらうことが考え抜かれている。
「フランスでいうと、ヴァン・ナチュール(可能な限り有機農法や自然な方法で醸造される、自然派ワイン)に近いのかもしれないです」と菅野さん。「ワインがこうなったら、これを加えて調整する」といった、教科書通りのことをあえて避けたワイン造り。このスタイルを、2016年の創業当初から続けている。

ワイン造りで「余計なことをしない」とは、具体的にどういうことなのだろうか。

ひとつは、余計なものを加えないことだ。培養酵母は添加せず、畑にある野生酵母で発酵させる。人為的にボディを強くする補糖や補酸も行わない。なんと、大多数のワインに使用されている「酸化防止剤」もほとんど使用しない。
使用するとしても、熟成中に欠陥と呼ばれる風味が発生したときのみ、基準値よりごく少量を加える程度だ。

もうひとつは、ワインに人為的な負担をかけないこと。例えば、多くのワイナリーがぶどう果汁の移動に使用している「ポンプ」を、tettaでは使わない。ポンプの代わりに、重力の高低差で液を移動させる手段をとっているのである。

滓(おり)引き(熟成の最後に、ワインに溜まった酵母などの沈殿物を取る作業)の際も、重力を使う。フォークリフトでタンクを高く上げて、高低差でワインを流していく。滓(おり)が入りそうになるタイミングでバルブを閉じる、という非常にアナログな作業をしている。

なぜ、これほど手間がかかる作業を、あえてしているのか?その理由は、ワインに酸化防止剤を使用していないことにある。

酸化防止剤を使用しないと、酸化が進みやすくなる。過度な酸化はワインの風味を劣化させる原因となるのだ。tettaのワインは酸化防止剤を使っていない分、果汁が非常に繊細なので、ポンプは使用しないのである。

また極力、濾過もしない。ごく粗いフィルターで不純物を取る程度にしている。そのため、「にごり」が見られることもあるが、それがワインの香りの要素や風味の良さにつながる。

「余計なことをせず、見守るだけ」簡単に聞こえるかもしれないが、教科書通りのワイン造りよりも大変。なぜなら、何が起こるか分からない怖さがあるからだ。欠陥臭がでたり、熟成が進みすぎてしまう可能性もある。

菅野さんは「常に不安です。何かおかしなことが起きてしまうのではないかという怖さと闘っています」と話す。ワイン造りで自分ができることは、表面に浮いている不純物を取り除いたり、タンク内や蓋に付いている結露を丁寧に拭き取ること。ワインを移動させる際、極力音を立てないように優しく扱ってあげることなど、とてもシンプルなことなのだそうだ。ぶどうは自分の力で発酵してくれるからである。

大切なのは、そういった地味なサポートの連続を「これくらいでいいや」と妥協せず続けられるか。これを突き詰めれば突き詰めるほど、化学に頼らずともぶどうが気持ちよく発酵できる環境に近づくと考えている。

大変だろうと恐怖があろうと、菅野さんはワインを見守り続ける。全ては、ぶどうが気持ちよく発酵してもらうために。

写真:domaine tetta

▶苦労を感じるのは、チームワークの大変さを実感する時

菅野さんにワイン造りの苦労について聞くと、返ってきたのは意外な答えだった。「仲間との意思疎通の方が、ワイン造り以上に悩みどころです」

菅野さんが悩むのは、メンバーへの作業の教え方や伝え方といったチームワークの大変さだ。「ワイン造りはもちろん大変ですが、やるべきことはシンプルです。むしろ、若い人にどう教えていくか、一緒に働く仲間とどうワインを造っていくかを考える方が難しいです」と話す。

経験や技術の力が大きいワイン造りでは、自分の持っている考えや経験を人に伝えるのはさぞ難しいことだろう。若いメンバーが多いというtettaでは、人をまとめていく難しさが特に大きいのかもしれない。

▶できるだけ多くの人に楽しんでほしいワイン

「domaine tettaのワインは、できる限り多くの人に楽しんでほしい。日本人全員に飲んでほしいです」代表の高橋さんはそう話す。

tettaでは、ワインはもっと気軽に飲めるものだと考える。「現在では、日本でもワインの生産者がたくさんいます。色々なワイナリーがあり、ワイン自体のハードルが下がっていることを感じています」と高橋さん。

現在、様々なレストランで日本ワイン・海外ワインに接することができる。10年前などと比較すると、その門戸は圧倒的に広がっている。だからこそ、ビールやジュースと同じように、誰であろうとどんなときでも、ワインを楽しんでほしいという思いが強い。

あえて飲んでほしい人を挙げるならば?と尋ねたところ、「強いて言うならば、若い人たちに飲んでほしい」と話してくれた。なぜなら、これからもワイン造りを続けるdomaine tettaのメンバーにとっては、若い人が飲むことでワインの未来につながるからだ。

ワインを飲んだことのない若い人たちにも、気軽に手に取ってもらえるようなアプローチを考えていきたい。domaine tettaでは、ワインを身近に感じてもらえるよう、これからもワインの魅力を発信し続ける。SNSやメディアを通して、ワインの飲み手と直接交流することにも積極的だ。

「従来の『卸から小売りへ』という販売チャネルでは、飲み手の本当の反応が伝わってきづらい部分がありました。しかし、メディアなどを通して直接飲み手の反応が見られることは、ポジティブなものもネガティブなものも、全てが自分たちの引き出しになります」と高橋さん。
今の時代に合った新たな方法で、より顧客とつながっていく方法を考えている。

写真:domaine tetta

▶パンダのエチケットの秘密とは?

洗練されたシンプルなデザインと、クスッと笑ってしまう「ゆるおしゃれ」なイラストが描かれたtettaのエチケット(ワインのラベル)。特に、シャルドネのエチケットに描かれたパンダのインパクトはなかなかのものだ。個性的で魅力たっぷりのエチケットには、どんな思いや狙いがあるのかを聞いた。

まずは、フラッグシップワインのシャルドネに使われている、パンダのエチケットについて紹介しよう。このパンダは、tettaのシンボルマークでもある。

なぜパンダ?と思うかもしれない。実はtettaのぶどう畑には、パンダの置物がある。まさにこのエチケットのイラストそのもののパンダだ。このパンダ、創業当時に耕作放棄地を再生しているさなか、畑から見つかったものなのである。

「それ以来、このパンダの置物は畑の守り神みたいになっているのです」と高橋さん。シャルドネは、tettaを代表するワイン。だからこそ、インパクトもあり自分たちのシンボルでもあるパンダにしたのだという。

tettaでは、他のワインボトルエチケットにも個性たっぷりのイラストが登場する。品種ごとに、それぞれのエピソードやイメージがあり、それをもとにエチケットを決めている。

例えば「カベルネ・フラン」に描かれている猪。これは「猪が畑を荒らしたことがあったので、因縁を込めて」採用されたのだとか。

このように、目を引くエチケットを考える理由。それは「エチケットは、ワイナリーの顔である」という考えがあるからだ。インパクトのあるエチケットは、お客さんとの会話につながったり、興味を持つきっかけになったりもする。

高橋さんは「CDのジャケ買いみたいに、まずは選んでもらうこと自体が大切だと思うのです。そういった意味で、デザインは大事なことだと考えています」と話す。

「嗜好品」であるワインは、こちらから訴えかけないとなかなか手に取ってもらえない。そんな中、エチケットでお客さんを呼び寄せることは「飲んでもらえる機会を作ること」だ。どんなに美味しく造ったワインでも、手に取ってもらえないと無駄になってしまう。

エチケットのインパクトで手に取り、ワインの美味しさを感じてさらに感動する。エチケットへのこだわりは、お客さんの心をつかむための魅力的な作戦だ。

写真:Yoko Inoue

▶domaine tettaのおすすめワイン

代表の高橋さんと、栽培醸造責任者の菅野さんに、おすすめのワインを挙げるならば?と尋ねた。

あえてひとつを選ぶことに苦しんでいらっしゃったが、これというひとつを挙げるならば「シャルドネ」のワインだという。

シャルドネは「tettaらしい」と言われることが多く、ワイナリーの柱となっているぶどう品種だ。中でも、極微発泡タイプのワイン「2020 Chardonnay Perlant」は、とりわけおすすめの1本。

「tettaらしさもあり、パンダのエチケットもあり、皆から好かれるような優しいワインに仕上がっています。ワイナリーを知ってもらうには最適なワインです。」と、菅野さんは言う。

domaine tettaでは、他にも魅力的なワインがそろう。高橋さんは「多様なアイテム数があるところが、うちの魅力かな」と話す。

2019年が初ヴィンテージとなった、リースリングの白ワインも予想以上に好評だったそうだ。リースリングは、ドライな味わいと花のアロマが魅力的なワインだ。

マスカット・べーリーAは、「西日本らしさ、tettaらしさ」が出ているという。山梨や長野など、東日本のマスカット・べーリーAと比べて、テロワール(ワインの味に影響する、栽培地の土壌・地勢・気候のこと)の違いを感じるのも面白い。

「どのワインであっても、飲んだとき直感的に、生きているぶどうを感じていただけたら」と菅野さん。ぶどう畑の風景が感じられるワインを理想として、domaine tettaはワイン造りと真正面から向き合っているのだ。

写真:domaine tetta

『domaine tettaの未来、ただひたすらにワインを極める』

domaine tettaの将来の展望を、高橋さんに聞いた。返ってきたのは、ただただ実直にワインに向き合い続ける決意だった。

「根気強く毎年ぶどうを育て、毎年ワインを造り、発信していくことを徹底をしていきたいです」同時に、大きな会社の目標として次の目標を話してくれた。

まずは、新たなお客さん、ファンをつかまえること。少しでもたくさんの人に、tettaのワインを飲んでもらうためだ。試験栽培されている品種も多いので、年々新しいワインが登場する予定だという。

「tettaでは、若い人たちがワインを造っていて、どんどん新しいアイデアが出てきます。変わったワイナリーだと思われつつも、これからも同じスタイルでやっていきたいです」

新しいものへのチャレンジと、変わらないワインへのまっすぐな姿勢。それぞれの強みを生かしつつ、domaine tettaは岡山県哲多町の畑から日本ワインに新しい風を送り続ける。

写真:domaine tetta

『まとめ』

domaine tettaは、日本でも珍しい石灰岩土壌の畑を持ち、自然のままの栽培醸造に真摯に向き合うワイナリーだ。

ただただワイン造りを突き詰めるだけでなく、ワイナリーのコンクリート建築やおしゃれなエチケットなどの遊び心もtettaの大きな魅力。

是非、domaine tettaのワイナリーで唯一無二の空気に触れ、日本ワインの明るい未来を体全部で感じてほしい。

基本情報

名称domaine tetta
所在地〒718-0306
岡山県新見市哲多町矢戸3136
アクセス飛行機/岡山空港から車で1時間30分
高速道路/中国自動車道 新見ICから車で30分
(*JR、バスはなし。近くにバス停もなし。アクセスは車に限られます。)
HPhttp://tetta.jp/

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