追跡!ワイナリー最新情報!『 GAKUFARM & WINERY』新たな醸造技術に挑戦し、ラインナップの幅を広げた1年

GAKUFARM & WINERYは、長野県松本市の笹賀地区にあるワイナリーだ。北アルプスを西に望む、果樹栽培に適した土地でぶどうを栽培。試行錯誤しながら品種の特性を見極めつつ、丁寧なぶどう栽培をおこなっている。

栽培管理におけるこだわりは、農薬の使用は極力控え、ときには収量制限をすること。欧州系品種を中心とした高品質なぶどうは、自社の醸造所で香り高いワインになる。

GAKUFARM & WINERYの代表は、古林利明(こばやし としあき)さん。古林さんがワイン造りにおいて大切にしていることは、品種の持ち味を生かし、「この土地らしい」味わいを目指すことだ。

探究心と土地に対する愛着から生まれる情熱で、魅力的なワインをリリースし続けているGAKUFARM & WINERY。2022年の動向についてお話を伺ったので、さっそく紹介していきたい。

『2021年のぶどう栽培』

まずは、GAKUFARM & WINERYの2022年のぶどう栽培を振り返ろう。

結果的に、ぶどう栽培にとって非常に厳しい年となった松本市の2022年の気候と、GAKUFARM & WINERYではどんなぶどうが育ったのかを見ていきたい。

▶︎厳しい天候

「2022年の春先から夏にかけては晴れの日が多く、天候に恵まれました。グレートヴィンテージが出来そうだと期待していたところ、なんと、9月半ばくらいから雨が増えて気温が一気に下がったのです。天候が崩れるまでに収穫を済ませることができたシャルドネやピノ・ノワールは、幸いにも品質がよい状態で収穫できました。しかし、収穫期が遅いメルローやカベルネ・フランなどは、色づきが進まず糖度も上がらなくて苦労しましたね」。

色づきが進まなかった品種に対しては、収穫時期を例年より半月ほど遅らせることで対策した。その結果、ある程度の糖度は上がったものの、酸はかなり落ちてしまったという。ぶどうの樹に無理をさせてしまった年だったと古林さんは振り返る。

決して理想的とはいえない状態での収穫となり、2022年ほどぶどう栽培にとって条件が悪い年は、古林さんにとって初めての経験だったそうだ。

どんなに人が努力して栽培したとしても、あくまでもぶどうは植物。出来栄えは年ごとの天候に大きく左右される。

天候がそのまま味わいに映し出されるのがワインの魅力のひとつではあるが、できればどの年も、ぶどうにとって育ちやすい年であって欲しいと願わずにはいられない。

▶︎レインカットが防波堤に

長野県松本市周辺は内陸性気候で、降雨量が少ない地域である。雨が少ないエリアでワイン用ぶどうを栽培している場合、特に雨対策をしていない栽培家も多い。

そんな中、GAKUFARM & WINERYでは、ぶどう栽培を開始した当初からレインカットを導入している。ぶどうが極力雨に濡れないよう万全を期しているのだ。 

「房が雨に濡れると病気が発生しやすくなります。ぶどうにとってマイナスとなる要素をできるだけ排除したいので、栽培開始時からレインカットをしています。2022年は収穫期に雨が続いたので、レインカットの効果が発揮されました。ぶどうは糖度が上がって酸が落ちてくると病気になりやすいため、この時期に雨が当たらなければ病害の発生が防げて助かりました」。

雨が少ない地域にありながら、リスクを徹底して防ぐために設置していたレインカットが、2022年には大いに役立った。もしレインカットがなかったら、2022年の雨による被害はもう少し大きかったかもしれないと古林さんは言う。

「天候は自然のものですから、仕方ないのです。しかし、年ごとの気候の振れ幅が大きいのはぶどう栽培をする上では大きな問題ですね。ヴィンテージによって収穫するぶどうの品質が違うことが、これほどワインの仕上がりに影響するのだということを実感した年でした」。

安定した気候が望めなくなってきている近年では、できる対策を可能な範囲で早期導入しておくことが、品質のよいぶどうを収穫するために欠かせない取り組みなのだ。

▶︎花振るいによって収量が減少

また、2022年には一部の品種において別の問題も発生した。春先の「花振(ぶ)るい」が発生し、収量が減少したのだ。

花振るいとは、開花時期の低温や降雨などが原因で受粉がうまくいかなかったときに、ひと房あたりにつく実の数が少なくなってしまう現象だ。

「受粉が正常におこなわれなかった品種は、いわゆる『ばら房』になってしまいます。気候だけではなく、樹のコンディションなどの影響も、花振るいの原因のひとつかもしれません。笹賀の土地に合う品種かどうかも、うまく生育させる上では非常に重要ですね」。

▶︎シュナンブランの大きな可能性

2023年には、古林さんがぶどう栽培を始めて9年目を迎える。これまでの経験を通して、ぶどう栽培とワイン醸造においてたくさんの知識を蓄え、多くの経験を積んできた。

そんな中、古林さんが注目している品種がシュナンブラン。土地への適性があり、大きな可能性を感じているため、追加で少しずつ植栽して増やしているところだ。

「シュナンブランは面白い品種ですよ。酸がとても強いので、ワイン醸造に最適な程度に酸が落ち着くまで、収穫しないで樹に実らせたまま置いておくのです。すると、どうなると思いますか?そのまま干しぶどうになるのです。非常に興味深い特性を持っているので、醸造するのも楽しいですね」。

一般的には、ぶどうを樹に実らせたまま収穫を遅らせると、実に水分が残っているため病原菌が発生したり、実が腐って落ちたりする。しかしシュナンブランは、なんと見た目も味も正真正銘の干しぶどうになるのだというのだから驚きだ。

「シュナンブランは皮が薄いので、自然に水分が抜けて干しぶどう状になるのだと思います。酸が高く病気にかかりにくいことも関係しているでしょう。干しぶどうはぶどうの風味が凝縮しているので、濃くて余韻が長く続くワインになりますよ」。

GAKUFARM & WINERYならではの、個性的な取り組みが可能な品種で造られたワインにぜひ注目したい。

そのほか、自社畑に最も適していると古林さんが感じる赤ワイン用品種は、メルローやカベルネ・フランだ。特にメルローは、隣接する塩尻市で盛んに作られている品種。松本市にあるGAKUFARM & WINERYの自社畑でも、健全で高品質なメルローが収穫できる。また、白ワイン用品種の中では、ピノグリやヴィオニエに可能性を感じているのだとか。

700mほどの標高があり、寒暖差が大きいGAKUFARM & WINERYの自社畑は、欧州系品種にとって快適な条件が揃っているのだろう。

『新しい醸造方法に挑戦した2022年』

続いては、GAKUFARM & WINERYの2022年のワイン造りについて紹介していこう。

どんなワインが新登場したのか、深掘りしてみたい。

▶︎年ごとのぶどうのよさをそのままワインに

GAKUFARM & WINERY で2022年に醸造した品種は以下の7種類。

  • メルロー
  • ピノグリ
  • シャルドネ
  • ピノ・ノワール
  • シュナンブラン
  • カベルネ・フラン
  • ヤマブドウ

2021年ヴィンテージはカベルネ・フランとメルローをアッサンブラージュしたが、2022年は熟成後のワインを見て決めるとのこと。

GAKUFARM & WINERYの2022年の自社畑のぶどうは天候の影響で厳しい結果だったため、醸造も苦労を伴うものだった。

「どのヴィンテージのワインでも、飲み手の皆さまには美味しく飲んでもらいたいと思うので、そのための工夫はできるだけしたいと思っています。ワインはヴィンテージごとのぶどう本来の味が出るものです。年ごとの味わいの変化を受け入れ、楽しんでいただけたら嬉しいですね」。

▶︎野生酵母での発酵に挑戦

GAKUFARM & WINERYの2022年ヴィンテージのワインの注目ポイントに、野生酵母による発酵がある。

「野生酵母の使用は、2022年から本格的に始めました。満足のいく結果が出ていると思います。メルローは、野生酵母を使ったものと乾燥酵母を使ったものの2種類を仕込んだので、最終的にはアッサンブラージュする予定です。複雑味と奥行きがあるワインに仕上がりそうですよ」。

スタート時から非常によい結果が出ている野生酵母を使った醸造だが、GAKUFARM & WINERYはナチュラルワインを目指しているわけではない。野生酵母は醸造手法の選択肢のひとつとして、今後も使い続けるつもり予定だ。

ワイン醸造は、酵母の選択をはじめとした自由度が非常に高いのが特徴の酒造り。どんなワインをどんな方法で造るのかは、醸造家の腕の見せどころだ。

例えば、乾燥酵母による発酵はクリーンなワインができるというメリットがある。いっぽう、野生酵母による発酵は多種多様な菌が混ざり合い、最終的にいろいろな香りと複雑味が出るというメリットがある。

最終的にワインにしたときの仕上がりを見極め、ぶどうの品種や出来栄えによってふたつの酵母を使い分けようと古林さんは考えている。目指すのはあくまでも、出来上がったワインが魅力的かどうかなのだ。

▶︎マセラシオン・カルボニックを採用

2022年、古林さんが注目する品種であるシュナンブランの醸造には、新たにマセラシオン・カルボニックを採用した。

マセラシオン・カルボニックとは、ボジョレー・ヌーヴォーの醸造でも使われる技法だ。ぶどうを破砕せずに二酸化炭素と一緒にタンクに入れて発酵させることで、フレッシュな香りと濃い色合いを兼ね備えた、渋みの少ないワインを造ることができる。

GAKUFARM & WINERYでマセラシオン・カルボニックを取り入れたのは初めてのこと。新たなシュナンブランのワインは、どんな味わいで飲み手を驚かせるのか。リリースを楽しみに待ちたい。

▶︎アッサンブラージュによって生まれる味

古林さんが考える美味しいワインとは?とたずねると、次のような答えが返ってきた。

「赤ワインであれば、余韻が長く、複雑さがあることが重要です。また、口に含んだときに豊かな香りや味が感じられるワインが、私にとって美味しいワインですね」。

古林さんが目指すのは、グラス1杯にさまざまな面白さが詰まっているワインだ。

GAKUFARM & WINERYのワインでいえば、メルローとカベルネ・フランをアッサンブラージュした「SEIL(ザイル) メルロ+カベルネ・フラン2021」が、まさにそのタイプのワインなのだとか。

「ほのかな土の風味があるメルローに、華やかな果実味が特徴のカベルネ・フランを22%アッサンブラージュして、味にふくらみをもたせました」。

タイプの異なる香りや味を持つ品種を組み合わせてアッサンブラージュすることで、香りや味の広がりを複雑に引き出している。風味豊かでエレガントな味わいが魅力のワインに仕上がった自信作だ。

ワインのよさを追求していくために、アッサンブラージュを積極的に採用したいと話してくれた古林さん。これからも、GAKUFARM & WINERYからリリースされる色彩豊かな銘柄に注目していきたい。

▶︎地元の食材と一緒に味わう、さりげない贅沢

おすすめのワイン、「SEIL メルロ+カベルネ・フラン2021」に合わせる料理として、古林さんがイメージしているのはジビエだ。

「しっかりした味わいの赤ワインなので、ジビエに合うと思います。松本市は山に囲まれている土地なので、地場で獲れたシカをローストにしたり、イノシシをジャーキーにしたりと、ジビエを食べる機会が多いのです。うちの隣には猟師さんが住んでいて、イノシシやシカが獲れたら持ってきてくれるのですよ」。

ジビエはどこでも食べられる食材ではないが、松本市ではかなり身近な存在であることに驚かされる。同じ土地で育った食材同士のペアリングは格別だろうと想像できる。

そのほかにも、やはり地元で採れる食材とのペアリングが最高だと話してくれた古林さん。中でも特産品でもある野沢菜は、あるテレビ番組の取材の際に、ピノグリのワインとともに出してみたところ、とても好評だったのだとか。

「漬け物がワインに合うイメージはないかもしれませんが、ぜひ一度、試していただきたいですね。自家用の野菜を作っている畑で採れた野菜も、ワインのつまみにぴったりですよ。ペアリングをしっかりと考えて、ワインと料理を合わせることは大事です。しかし、日常のお酒として飲むときには、もっとシンプルに考えればよいのではと思っています。地元のよさを再認識できますよ」。

ワイナリーのすぐ隣の土地で育つ野菜は、古林さんのお母さんが手塩にかけたもの。もちろん、絶品の野沢菜漬けもお母さんの愛情たっぷりの手作りだ。

新鮮な採れたて野菜と地元で育ったぶどうで造ったワインのペアリング。これ以上ない、贅沢な組み合わせに違いない。

▶︎6種類のりんごとラ・フランスを使ったシードル

GAKUFARM & WINERYではワインのほか、シードルも数種類造っている。原料となるりんごはGAKUFARM & WINERYがある笹賀地区の隣、今井地区で栽培されたりんごだ。どのシードルも、すべて瓶内二次発酵方式を採用している。

「長野県はりんごの栽培も盛んなので、地元のりんごを生かしたいと思ってシードル造りを始めました。シードルはワインとは造り方が全然違うのです。いろいろと試行錯誤する部分もあって、難しさはありますが面白味も感じますね」。

ワインはある程度自然に美味しいワインになっていくが、シードル醸造には技術力が必要なのだとか。多くの人が飲んで美味しいと感じる品質のシードルを造るのはなかなか難しい。

長野県で栽培が盛んなりんごで造るシードルを、もっとたくさんの人に楽しんでもらいたいと思っているGAKUFARM & WINERYでは、シードル造りには毎回さまざまな工夫を凝らしてきた。

「2022年は6種類のりんごを使って複雑味を出し、さらに洋梨のラ・フランスを加えた香り豊かなシードルを造ってみました」。

シードルは、ワインほどの認知度がないのがネックだ。日本においては、まだあまり馴染みがないお酒のため、いつどうやって飲めばよいのかよくわからないという人も多く、手を出しにくい原因となっている。

古林さんは、蕎麦粉のクレープである「ガレット」や、パスタ、パン、ピザとのペアリングを提案しているそうだ。また、ハンバーガーなどの軽食と合わせるのもよい。

ラ・フランスも含め、すべて長野県産の原料で造られる香り高いシードルを、ぜひ自分なりの気軽な飲み方で楽しんでいただきたい。

『まとめ』

ぶどう栽培とワイン造りにとって、さまざまなハードルが立ちふさがった2022年ではあったが、古林さんにとっては大いなる収穫の年でもあった。

「野生酵母を使ったり、マセラシオン・カルボニックを試すことができたりして、しっかりと結果を出せたのがよかったですね。この土地らしいワインを造るにはいろいろなスタイルのワインを造る必要があると思っているので、今後はさらに幅広い醸造技術を追求していきたいです」。

実験や冒険が好きだと語る古林さん。その探究心はワインだけでなく、ワインボトルのエチケットデザインでも発揮されている。

趣味の山登りの際に撮影したさまざまな山の写真をもとに、エチケットのデザインをしているのだ。山をワイナリーのテーマに据え、これからもいろいろなデザインを試していきたいと話してくれた。

山の恵みを受ける信州の地で、GAKUFARM & WINERYは小規模ながらさまざまなことに果敢に挑戦するスタイルのガレージワイナリーだ。

遊び心とチャレンジ精神あふれるGAKUFARM & WINERYから、どんなワインが登場するのか。これからも目が離せない。


基本情報

名称GAKUFARM & WINERY
所在地〒399-0033 
長野県松本市笹賀171-5
アクセス電車
広丘駅から車で7分

塩尻北ICから車で10分
HPhttps://gakufarm.jp/

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