『GAKUFARM & WINERY』生まれ育った土地の個性が発揮されたワインを追求するガレージワイナリー

長野県松本市笹賀は、3,000mを超える山々が連なる北アルプスを西に望み、日本ワインの銘醸地である塩尻市に隣接する扇状地だ。夏暑く、冬は寒い内陸性の気候で、果樹栽培に適した土地である。

松本市笹賀にある「GAKUFARM & WINERY」は、自らの土地に根付いた仕事を求めた人物が立ち上げたワイナリーだ。代表の古林利明(こばやし としあき)さんは、30年ものキャリアを持つ翻訳家でもある。

土地の個性を発揮するぶどうとワインに対して、並々ならぬ探究心を持つ古林さん。ワイナリーを立ち上げたきっかけや、ぶどう栽培とワイン醸造へのこだわりなどについてお話を伺った。

『土地に根付いた仕事を求めて、ワイナリーを立ち上げる』

古林さんは、GAKUFARM & WINERYのある松本市笹賀の出身だ。大学時代を東京で過ごし、IT関係の技術者として働いた。その後フリーランスで特許関係の翻訳の仕事についた古林さんは、娘さんの小学校進学をきっかけに、地元にUターンした。

▶塩尻ワイン大学の一期生として学ぶ

翻訳の仕事は、海外や東京のクライアントからの発注がほとんどだ。いわゆるテレワークで行える仕事のため、居住地を選ばない。

古林さんは松本市に帰ってからも翻訳の仕事を続けた。だが、地元と関わりのない仕事を続けることに、次第に疑問を感じ始める。

また、もうひとつの懸念事項が生まれた。松本市で農業を営んでいたご両親が高齢になり、長男である古林さんが、今後を考えなければならない立場となったのだ。

ちょうどその頃、古林さんは偶然、「塩尻ワイン大学」が開校されることを知った。塩尻ワイン大学は、塩尻市と市農業再生ネットワーク会議がワイン産地の維持と強化を図るために2014年にスタートさせた事業だ。ぶどう栽培や醸造、経営やワインのテイスティングなどを、4年間の過程で学ぶことができる。

当時の古林さんはワイン愛好家ではあったものの、ワイン造りに興味を持っていたわけではなかった。しかし農業には興味があったので、ひとまず見学だけのつもりで一期生として参加した。そんななか、塩尻ワイン大学の講義内容は非常に濃く、徐々に古林さんを惹きつけていった。

「最初は、まさか自分がワインを造るなんて、と思っていました。しかし、勉強していくうちに、どんどん面白くなってきたと感じたのです。せっかく畑もあるのでぶどう栽培を始めて、今に至ります」。

古林さんのご両親は様々な作物を育てており、ぶどうも栽培してはいたものの、品種は生食用のみだった。そのため、古林さんは2015年にワイン用ぶどうを植え始めた。

そして、2017年には委託醸造でワイン造りを開始。2020年からは、満を持して自社醸造をスタートさせた。

『「この土地らしさ」の探求』

GAKUFARM & WINERYのぶどう畑は、松本平の南西部にある。

松本平南西部は、梓川、奈良井川、鎖川など複数の河川によって形成された複合扇状地となっている。なかでも梓川は、北アルプスの穂高岳北部を源とし、3000メートル級の山々から大量の礫や砂・泥などを西側から松本平に押し出して大きな扇状地を形成している。標高は約700~750m、扇状地特有の礫質と粘土質が入り交じる水はけのよい土壌だ。

また、この大きな扇状地の南側からは、中央アルプスの木曽駒ヶ岳北部を源とする奈良井川が流れ込み、河岸段丘を形成。その最下段にあるぶどう畑は、古くは河床だったため、少し地表を掘ると石がゴロゴロと出てくる。水はけが非常によくミネラル分の多い土壌だ。

▶いろいろな品種を栽培

GAKUFARM & WINERYで栽培されているワイン用ぶどうのラインナップは、次の通り。

  • メルロー
  • ピノ・グリ
  • ピノ・ノワール
  • シャルドネ
  • シュナン・ブラン
  • カベルネ・ブラン
  • ヴィオニエ
  • シラー
  • ソーヴィニヨン・ブラン

ぶどうの苗は毎年新たに植えられているため、収穫できる品種が徐々に増えてきている段階だ。

メルローは、隣接する塩尻を代表する品種。GAKUFARM & WINERYがメルローの栽培を選んだのは、自然の流れといえそうだ。塩尻の大手ワイナリー、メルシャンからは、質のよいメルローのワインがリリースされている。古林さんにとっても、メルシャンのメルローワインは、ひとつの目標なのだという。

メルロー以外の品種に関しては、土地らしさを追求するため、いろいろな品種を植栽して試している段階だ。

▶規模の拡大よりも特性を見極めることを重視

多くのぶどう品種を栽培しているGAKUFARM & WINERYだが、規模の拡大を見込んでいるわけではない。

「うちはガレージワイナリーなので、小規模でよいと思っているんです。たくさんのワインを造っていくことより、いろいろと試行錯誤しながら、品種や土地の特性を見極めていくことに力を入れたいですね」。

土地ごとに、栽培に適しているぶどう品種は異なる。また、同じ品種でも、土地ごとに特徴のある味わいが生まれるのが、ぶどうから造るワインの醍醐味でもある。

「ブルゴーニュのピノ・ノワールは酸が強いけれど、南のラムドック産の場合には酸が穏やかで、暖かい感じがします。ピノ・ノワールといえばブルゴーニュのイメージが強いですが、ラムドックの緩やかなピノ・ノワールも魅力的です。同じように、「この土地らしい」味を表現できたらと思っています」。

▶自然相手の大変さ

2021年は長雨に見舞われ、日本全国の果樹栽培やワイン造りに、多大な影響があった。GAKUFARM & WINERYのある松本市でも梅雨が長く、7月は長雨に見舞われた。

8〜9月は天候がよかったものの、品種によっては病気が多かったり、糖度や酸度が上がりすぎるケースも出たそうだ。

「ほかの農家さんたちも、みなさん天候を心配していました。梅雨がなかなか終わらなかったので、今年はどうなるのかと不安でした」。

GAKUFARM & WINERYの2021年のぶどうの出来は、全体的によかったそうだ。周辺のリンゴ農家などでは、例年の1〜2割しか収穫できないところもあったなか、GAKUFARM & WINERYでは大きな被害を免れることができたのだ。

企業などに勤めている場合、一定の給料が保証されるため、収入には変動が少ない。しかし、天候に左右されやすい農業は、収入の振れ幅が大きい。

「経験が長い農家さんは、みなさんタフですよ。『自然相手の農業は、そういうものだから』と、達観した感じです。すごいですよね」。

古林さんが語る言葉からは、農業に関わる人たちの苦労と覚悟が感じられ、改めて頭の下がる思いがする。

▶樹をよく観察し、無理をさせない

古林さんがぶどう栽培において大切にしているのは、樹の様子をしっかりと観察することだ。

なるべく農薬を使わない栽培を実践するには、早めに手を打つことが肝心である。樹のちょっとした変化にも、早い段階で気づくことが大切なのだ。

また、樹に無理をさせないことにも気を配っている。ぶどうの房をつけすぎると、樹の負担が大きくなる。そのため、収量制限をして適正な量の房数にコントロールすることで、樹の健康を保っている。

塩尻ワイン大学では、ぶどう栽培とワイン醸造に関するさまざまな知識と経験を持った技術者が、講師として授業を行う。古林さんが塩尻ワイン大学で学んだことは非常に多い。

「塩尻ワイン大学では、有益な知識を学ぶことができました。教えられたことが現場で役立っている部分は大きいですね。ただし、知識量が増えたことで、栽培や醸造をする際に、考えすぎることもあるような気がします」と、古林さんは笑う。

ワイン醸造を経験すると、ぶどうの収穫の時期や収穫間際のぶどうの状態の大切さが実感できると話してくれた古林さん。ぶどうの酸度と糖度がいかに大切かを痛感したそうだ。収穫時期が近づくと、ぶどうに注いでいた観察眼を、さらに鋭くしていく。

「収穫間際には、ピリピリしています。苦しみながらではありますが、そこが面白い部分でもあるんですよね」。

ぶどう栽培は面白い、と古林さんは繰り返し語る。自然が相手なので、自分の思い通りにはいかないこともまた、面白いのだそう。

毎年の気候の問題にせよ、自然を受け入れるしかない。苦労であり、同時に喜びにもなりうる点だ。自然は多くを奪い、また多くを与えてくれる存在なのだ。

▶試行錯誤を続けていくこと

ぶどう栽培で一番苦労したことは?と古林さんに尋ねた。

「なにごとも、目論見通りにはいかないことでしょうか。例えば剪定ひとつとっても、こんなふうに木を剪定したらこうなるだろうと、目論んだ通りにはいかないんです」。

剪定で樹の形を変えるのは、樹勢をコントロールすることが目的だ。どのように結実させるかの計画を立てることが、ぶどう栽培の1年の始まりなのだ。しかし、計画は秋の結果としてはなかなか現れない。さらに、去年の反省を生かしてやり方を変えたとしても、結果につながるとは限らないのだ。

ぶどう栽培のやり直しのきかなさも、苦労のひとつだという。ぶどう栽培のサイクルは1年がかりだ。剪定からはじまり、開花と結実、収穫するまでのそれぞれの過程は後戻りが効かない。失敗があっても、次の年に生かすしかない。しかも次の年は、前の年とはまた違う年なので、同じ条件の年は2度と訪れない。

毎年のぶどう栽培とワイン造りは、毎回が本番一発勝負だ。同時に、試行錯誤の連続でもある。しかも、相手は生き物なのだ。なかなか素直に育ってはくれない。

「ぶどうも、人と同じですね。熟練の農家さんたちは試行錯誤を繰り返し、経験を蓄積しています。私にはまだまだ難しいことです」。
7年の経験を積んでなお、古林さんは謙虚さを失っていない。

▶生食用ぶどうも栽培しているからこそわかること

古林さんはワイン用ぶどうのほかにも、シャインマスカットなどの生食用ぶどうも栽培している。ワイン用ぶどうの栽培だけでなく、生食用ぶどうの栽培にも面白さを感じているそうだ。

生食用ぶどうはワイン用ぶどうに比べ、栽培に関しての技術がよりしっかりと確立されている。そのため、教科書どおりに栽培すると、成功するのだという。

「シャインマスカットのきれいな房がたくさん実っているのをみるのは、嬉しいものですね」。

古林さんが生食用ぶどうの面白さを感じる理由は、成果が現れやすいからだけではない。丹精こめた努力の結果が出る早さにも、魅力を感じているのだ。

ワイン用ぶどうの場合は、収穫して仕込み、熟成を待つ期間が必要だ。赤ワインであれば、出荷は2年ほども後のことになる。一方、生食用ぶどうは半年で収穫した段階で、その年の成果が確認できる。

また、シャインマスカットは非常に人気があり、食べてくれる人は必ずといってよいほど喜んでくれるため、栽培者冥利に尽きる。

生食用ぶどうとワイン用ぶどうの両方を栽培していることは、それぞれの違うところと、共通点の双方を知ることになる。結果的に、ぶどうという植物そのものについての理解を深めることにもつながるようだ。

「栽培のポイントが違うんですよね。生食用ぶどうは樹勢を強くして、肥料を与えて粒を大きく育てます。ワイン用ぶどうは逆ですよね。あまり肥料は与えず、なるべく粒を小さくして果皮の比率を大きくし、成分が凝縮した実を収穫するのです」。

生食用とワイン用とでは、ぶどうという植物を異なる方向性で育てる。だが、ぶどうのもつ生理や性質をどのようにコントロールするのかという点においては、どちらの栽培でも同じことだ。

生食用ぶどうとワイン用ぶどう、両方を栽培している古林さんだからこそ、「ぶどう栽培は面白い」という言葉がさらに重みを持つのではないだろうか。

『品種の持ち味を活かすワイン造り』

GAKUFARM & WINERYではぶどう栽培を始めて3年目、2017年にファーストヴィンテージをリリース。300本程度からのスタートだった。塩尻ワイン大学時代からの友人のワイナリーでの委託醸造だったが、自社での醸造も2020年から開始した。

▶道を極めるためには、試行錯誤が必要

ほかのワイナリーに委託醸造していた時期も、古林さんは醸造に参加した。2021年までに5回の醸造を経験していることになる。

「委託先のワイナリーさんで場所を借りて、自分でタンクを持ち込んでいました。ピジャージュ(タンク内に浮き上がった果皮や種子などを攪拌する作業)などを自らおこないましたね」。

ワイン醸造もぶどう栽培同様、試行錯誤の連続だ。同じ品種のぶどうだったとしても、畑によって個性が違う。同じ品種のぶどうでも、どの畑で育ったかによって醸造の方法も変えなければならない場合もある。しかも、ぶどうの状態は年によっても違うため、試行錯誤を毎年続けていかなければならないのだ。

ワイン醸造とは、ぶどうとの一期一会のなかで繰り返す、奇跡にも似た技術なのかもしれない。

ぶどうを潰した後に、どのようにアルコール発酵させるのか。使用する樽はどのような種類にするのか。さまざまな選択を重ねながら、畑とぶどう品種の持ち味を上手く発揮させることが、古林さんが一番狙いたいと望んでいるところなのだ。

古林さんはさまざまな試行錯誤を行い、ぶどうが最もポテンシャルを発揮できるワインを目指す。また、土地由来の野生酵母での自然発酵にも、少しずつ挑戦しているそうだ。

製品としては、安定したワインの品質こそが求められる要素なのかもしれない。しかし、古林さんは安定したものを作りたいとは考えていない。

「物事を極めていくときには、高い次元で試行錯誤するからこそ、前に進んでいくことができると思うんです」。
柔和な印象の古林さんが力を込めて語る言葉は、非常に印象的で説得力がある。

▶楽しみながらワインを飲んでもらいたい

古林さんは、GAKUFARM & WINERYのワインを、楽しい場面で飲んでもらいたいと考えている。

「食事とマリアージュさせたり、うちのワインのことを話のネタにしてもらったりすると嬉しいですね。レストランでもホテルでも、もちろん自宅でも、楽しみながら飲んでもらえたらと思います」。

2022年3月現在、新型コロナウィルスによる影響はまだまだ下火とはいえない状況だ。人と人とが語り合い、笑い合える幸せな時間がGAKUFARM & WINERYのワインの周りで生まれる日常も、そろそろ戻ってくることを期待したい。

▶ガレージワイナリーとしての気概

GAKUFARM & WINERYでは、今後もガレージワイナリーとして、丁寧にぶどうと向き合いながらワインを造っていく方向で進んでいく考えだ。

「イメージとしては、マイクロソフトやアップルコンピューターがガレージで事業を始めたような感じですね。そこで試行錯誤しながら、すごく先を見てブランドを作ったり、少しでも個性のあるものを創り出したりできるのが、ガレージワイナリーの魅力だと思います」。

GAKUFARM & WINERYは古林さんにとって、飽くなきチャレンジの場であり、創造の場でもあるのだ。

試行錯誤ばかりしていてよいのかという迷いも正直ある、と話してくれた古林さん。それでも、試行錯誤していくことこそが、古林さんにとって暮らしていくことであり、生きていくことそのものなのだ。

『まとめ』

2022年も新たなシーズンが始まるなかで、さまざまな苦労があるはずだ。しかし、「これから実がなるまでは楽しさだけですね」と、古林さんは語る。心からぶどう栽培を楽しみ、ぶどうの持つポテンシャルを最大限に活かすことに努める古林さんのワインに期待が高まる。

古林さんのワイン造りは、「この土地らしさ」の探求に尽きる。自らが生まれ育った土地と自然、周囲の山々などに対する愛着に導かれた行動なのだ。

「自然の恵みに感謝しつつ、この土地らしさが感じられるワインを造っていきたいという思いを抱いています」。

GAKUFARM & WINERYのワインには、古林さんの真摯な探究心をも含めた松本平南西部のテロワールが存分に表現されていることは、間違いないだろう。

基本情報

名称GAKUFARM & WINERY
所在地〒399-0033 
長野県松本市笹賀171-5
アクセス電車
広丘駅から車で7分

塩尻北ICから車で10分
HPhttps://gakufarm.jp/

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