『井上ワイナリー』高知の食に合うワインで地域振興を目指す

「井上ワイナリー」は、高知県にあるワイナリーだ。ほかの地域と比較すると、四国にはワイナリーが少ない。理由は、四国の天候にある。
特に高知は高温多湿で台風被害が多く、ぶどう栽培に向いている地域だとみなされていなかったのだ。

困難な環境の中、なぜ井上ワイナリーはワイン造りを始めたのか。ワイン造りの背景には、井上ワイナリーの親会社である「井上石灰工業」の強い思いと社員の情熱があった。

ワイナリー誕生のストーリーとぶどう栽培やワイン醸造について、社長の井上孝志さん、営業責任部長の梶原英正さん、醸造担当の黒川拓郎さんにお話を伺った。

『本業を生かしながらワインで高知を元気に ワイナリー創設の背景ときっかけ』

最初に紹介していくのは、井上ワイナリー創設の歴史や背景の物語だ。まず井上ワイナリーの経営母体について説明しよう。

井上ワイナリーを運営している井上石灰工業株式会社は、1884年創業の歴史ある企業だ。

なぜ石灰を取り扱う会社が「ワイン」を造り始めたのか。謎に迫りつつ、ワイナリー誕生までの道筋をたどりたい。

▶「石灰」とワインのつながりに着目 ワイン造りの可能性を見出す

「石灰」が、ぶどう栽培に欠かせないものであることはご存知だろうか。

井上ワイナリーの畑がある高知県南国市では、純度が非常に高く品質がよい石灰が採掘される。南国市は石灰産業の地として発展してきた歴史があり、井上石灰工業が創業した場所でもある。

そして井上石灰工業は、石灰とワインの関係性にいち早く着目した企業だ。
目を付けたのは、ワイン用ぶどう栽培に欠かせない「ボルドー液」だった。

ボルドー液は石灰と硫酸銅を原料とした、フランス生まれの防除剤だ。農業全般に使用できるが、元はワイン用ぶどう栽培のために造られた歴史を持つ。安全性と効果が実証されており、日本の農業においても広く使用されてきた。

かつては、農家がそれぞれに石灰と硫酸銅を混ぜて手作りしていたボルドー液。
しかし農家でボルドー液を調合するのは、手間がかかり難しい作業だった。 

そこで井上石灰工業は、利便性の高い濃縮タイプのボルドー液を製造。1994年に井上石灰工業が発売した「ICボルドー」はJAS法有機栽培にも適合し、農家に愛用されている。

「ボルドー液というワインとのつながりを持つからこそ、『ワイン造り』にチャレンジしたい」と、井上さんは考えたのだ。

ワイン造りに可能性を見出した理由は、ボルドー液製造メーカーであることだけではない。もうひとつの大きな理由は、南国市の「石灰質土壌」の存在だ。フランスのブルゴーニュなどワイン銘醸地に多い石灰質の土壌。
そう、石灰産業が盛んな高知県南国市は、ワイン用ぶどう栽培に最適な土壌だったのだ。

ボルドー液と石灰質土壌という、ワインに大きく関係するふたつの要素が、井上石灰工業をワイン造りの道へと歩ませた。

▶難しい環境でもあきらめない 高知でのワイン造りが始まる

付加価値のある産業としてのワイン造りに可能性を感じた井上石灰工業は、ぶどう栽培とワイン造りに向けて動き出す。

はじめてのぶどう栽培には不安も多かった。最たる理由は高知の天候だ。高知県は全国的に見ても降雨量が多い土地だ。
果たして本当に、ワイン用ぶどう栽培ができるのだろうか?

迷いが生まれる中、背中を押す声があった。ワイン用ぶどう栽培の権威「志村葡萄研究所」の志村富男さんが「高知でもぶどう栽培ができる方法がある」とアドバイスをくれたのだ。井上さんと志村さんは、古くから交流があった。

志村さんからのアドバイスは2点。ひとつは、栽培品種を厳選すること。そしてもうひとつは、栽培方法を工夫することだ。具体的な栽培方法の工夫は、「雨対策の徹底」。レインカット等を利用することで、ぶどうを雨に当てないことが重要だと教えられた。

「高知でもできる」。志村さんの言葉で、ぶどう栽培に自信を持った井上さん。2012年には試験的なぶどう栽培をスタートさせた。

雨が多く天候に恵まれたとはいえない年が続いたが、収穫されたぶどうは見事なものだった。ワイン用ぶどうにとって過酷な高知の環境でも、品質のよいぶどうができることが証明された。試験醸造でできたワインの評判も上々だった。

ぶどう栽培を始めるまでは、周囲に「高知でワイン造りなんて不可能だ」といわれていた。しかし試験栽培の結果から、井上さんは高知でのワイン造りができることを確信したのだ。

天候の問題は、栽培の工夫で対策できる。さらに井上ワイナリーの圃場には、ワイン用ぶどうに最適な石灰土壌がある。大きな手応えを持って、ワイン造りを本格的に進めていったのだった。

▶次なる工夫 「高知ワイン」を選んでもらうためにしたこととは

高知でもぶどうが栽培でき、ワインが造れることはわかった。だがさらに次の問題が立ちはだかる。
「いくつもの競合ワイン産地がある中で『高知のワイン』を選んでもらうためにはどうしたらよいのか?」という問題だ。

そこで井上さんが考えたのは、ワインを地元食材とコラボレーションさせること。着目したのは、高知県民のソウルフード「鰹のタタキ」。
ワインのPRポイントを「鰹のタタキに合わせられるワイン」に決めたのだ。

「今まで高知の鰹のタタキには、日本酒が合わせられてきました。ワインとの組み合わせには意外性があり、インパクトを与えられると思ったのです」。

また、数値でのエビデンスが必要だと考え、高知大学のある研究室に協力を仰いだ。なんと、「お酒と食材の食べ合わせ」が数値化できる仕組みがあるという。井上ワイナリーのワインと「鰹のタタキ」との組み合わせの測定を依頼した。

結果は、100点満点中で90点台後半という高得点。科学的な観点からみても、ワインと地元食材との組み合わせは申し分ないものだったのだ。

今までにない切り口のPRポイントと数値的な裏付けから、ワインビジネスの可能性が見えた。周囲が「高知のワイン」に注目しはじめた瞬間だった。

▶ワイン造りは高知の地域振興につながる

軌道に乗り始めた井上ワイナリーのワイン造り。しかし挑戦は終わらない。ワイン造りの次なる使命が生まれたのだ。

それは、高知の耕作放棄地を解消して地域の雇用を生むことだった。井上ワイナリーの狙いは、耕作放棄地をぶどう畑にして観光に結びつけること。東西に長い高知県の県内各地でぶどうを栽培し、味の違いを楽しんでもらおうと考えたのだ。
「土地に合ったぶどうを育て、地域ごとの『地ワイン』が造れたらよいと思ったのです」。

地域の特色を出して観光に結びつけようと考えたのにはわけがある。ワインを目的に観光客を誘致することで、高知に来る観光客の宿泊率を増やそうと考えたのだ。

現状、高知の観光業界では「県内での宿泊客が他県に流れる」という問題を抱えている。日中に県内を観光する客はいるものの、宿泊は隣県である愛媛の道後温泉などに移動して宿泊するケースが多いからだ。せっかく観光客がきても、宿泊なしでは観光による経済効果が小さくなる。
だが、ワインと食を目的とした観光であれば、宿泊客の増加が期待できる。

井上ワイナリーの考えに共鳴し、地元の人が続々と協力を申し出てくれた。
「ワイナリー経営をする以上、利益を出す必要はもちろんあります。しかし大切なのは、利益だけではありません。ワイン事業で地域を活性化させ、人々をつなげることに意義があるのです」。

井上ワイナリーのメンバーは、ワイン造りに誇りを持っている。今以上に、より大きなムーブメントにしていきたいと決意を話す井上さん。井上ワイナリーが進めるワインプロジェクトは、高知の人々の熱い思いを乗せて拡大し続ける。

『未経験から出発して 井上ワイナリーのぶどう栽培』

続いてみていくのは、井上ワイナリーのぶどう栽培についてだ。

井上ワイナリーのぶどう栽培やワイン醸造は、井上石灰工業の社員が担当する。ぶどう栽培を始めた当初は、社員はみな農業未経験だった。

井上ワイナリーのぶどう栽培は、いかにして軌道に乗っていったのだろうか。自社畑や栽培するぶどう品種、栽培の工夫から苦労したことについて伺った。

▶県内5つの自社畑 それぞれの特徴を生かして

井上ワイナリーは、高知県内の5市町村に自社畑を保有する。それぞれの畑が持つ特徴を紹介していこう。

ひとつ目の自社畑は、南国市にある「稲生(いなぶ)圃場」。石灰鉱山のある稲生は、石灰質の土壌が大きな特徴だ。稲生圃場では、井上ワイナリーの会員組織「TOSAワイン同盟」のメンバー用ワインのぶどう「富士の夢」を栽培している。TOSAワイン同盟の会員は、毎年およそ600~700名ほど。
県内を中心に、全国各地に会員を保有する。

次に紹介するのは、香南(こうなん)市にあるふたつの畑。「山北圃場」と「手結(てい)圃場」だ。香南市は、みかんの産地として名高い。日当たりが良好で水はけもよく、果樹の栽培に適した場所だ。ぶどう栽培にも合う土地なので、2021年現在も畑を拡張している最中だという。

ユニークな場所にある手結圃場の立地についても紹介したい。手結圃場があるのは、ゴルフ場の敷地内。クラブハウスの目前に、一面ぶどう畑が広がっている。開けた場所なので、日照条件は最高だ。海から直線距離にして数百メートルの場所にあり、潮風が当たる。風が湿気を吹き飛ばし、ぶどうにとって好ましい環境を生み出している。

続いては香美(かみ)市にある自社畑を紹介する。香美市は、「アンパンマン」の作者であるやなせたかしさんの出身地。近くには「香美市立やなせたかし記念館 アンパンマンミュージアム」があるなど、香美市の施設が集中している地区のため、エリアの観光名所としても活用していきたいと話す。
地域の老人クラブが積極的に畑作りに関与してくれ、今後も地元を巻き込んだ地域活性化に期待が持てる。

次に紹介する畑は梼原(ゆすはら)町にある。場所は愛媛との県境。標高が400m以上で、高知県の中でも最もぶどう栽培に適している場所だ。梼原町の畑では、町内の人々が積極的に栽培に関わっている。
梼原町と契約を結び、県の農業振興センターなどとも連携しながらぶどうの栽培規模を広げている最中だ。

ほかにも佐川(さかわ)町に畑を保有。すべての畑を合わせると、広さは2haほどだ。2022年のワイナリーグランドオープンの状況を見ながら、畑面積を更に広げていくことを検討している。

▶高知に合う品種を探して 井上ワイナリーの栽培品種

井上ワイナリーでは、ヤマブドウ系品種と西洋系ぶどう品種を栽培している。

ヤマブドウ系の品種は、以下の3種類を栽培する。

  • 富士の夢
  • コベル
  • エイトゴールド

いずれも、ぶどう栽培の指導者である志村さんから提供を受けた品種だ。

富士の夢は、メルローと日本古来のヤマブドウをかけ合わせた品種。そしてコベルは新しいオリジナルのぶどう品種だ。
こちらもヤマブドウ系で、「北天の雫」という白ぶどうの兄弟品種に当たる。リースリングの血をひくため、ドイツワイン様の香りが出るのが特徴だという。

続くエイトゴールドは、志村さんが作ったヤマブドウとピノ・ノワールの交雑品種。

エイトゴールドという名前の由来を説明しよう。エイトゴールドとは、土佐の方言「はちきん」から取った名称だ。はちきんとは、男勝りのしっかりものである土佐女性を指す言葉。
しっかりとした味わいを持つぶどうを、芯の強い高知の女性になぞらえた。エイトゴールドは、井上ワイナリーでしか栽培していない、貴重なぶどう品種だ。

そのほかにも、西洋系品種にマスカット・ベーリーAを加えた5品種を栽培する。

  • シャルドネ
  • アルバリーニョ
  • タナ
  • マルスラン
  • マスカット・ベーリーA

現状ヤマブドウ系の品種は垣根仕立て、西洋ぶどう品種は棚仕立てで栽培しているが、徐々に棚仕立ての一文字短梢剪定栽培に移行中だという。

棚仕立てを選ぶのには理由がある。雨が多い地域では、棚仕立ての方がぶどう栽培に向いているのだ。果実が地表から遠いところに実るため、湿気が溜まりづらく病気になりにくい。

また垣根よりも葉の受光体勢が確保されるため、果実の糖度が高くなる。例えばシャルドネは、糖度21度の果実を収穫することができた。
そして作業効率の面でも、棚仕立てに軍配が上がる。

▶ぶどう栽培のこだわり 高品質のボルドー液と気候対策

井上ワイナリー栽培のこだわりは、大きくふたつある。

ひとつは、高品質なボルドー液を適切に使用していることだ。ワインを造るには、病気のない健全なぶどうの栽培が必要不可欠だ。
親会社がボルドー液を製造していることから、特に強いこだわりを持って自社製品での防除に取り組んでいる。

井上石灰工業はボルドー液を造っているメーカーであるため、長年にわたる他県の農業現場や試験場のぶどう栽培データが蓄積されている。経営母体が持つ経験や知識を利用しつつ、精度の高いぶどう栽培を行っているのだ。

ふたつ目のこだわりは、天候対策の徹底だ。雨や台風に備え、「レインカット」を設置して対策している。雨が降る前だけ設置するのではなく、生育初期から設置するのがポイントだ。
生育初期から雨に当てないことで、病害を防ぐ可能性の大幅な上昇が期待できる。

井上ワイナリーはワインの品質を最大限に上げるため、高品質なぶどう栽培に力を注ぐ。高知ならではの工夫を凝らしたぶどう栽培が、着実に実を結んできている。

『高知ならではのワインを目指して 井上ワイナリーのワイン』

続いては、井上ワイナリーのワイン醸造について紹介しよう。ぶどう栽培と同様、未経験からのスタートだった醸造作業。担当する社員は、委託醸造先の山梨のワイナリーに4年間通って醸造経験を積んできた。

2021年、念願の自社醸造所での醸造を開始した。2022年にショップも含めたワイナリーのグランドオープンを目指す。年間の製造本数は1万本が予定されている。

井上ワイナリーが目指すのは、「高知の食材と合うワイン」。
毎日の食卓に並べても飲み飽きないワインの醸造だ。

気を付けているのは、「甘味」「辛味」「酸味」「渋味」のバランスがよいワインを生み出すことだ。井上ワイナリーの醸造担当の黒川さんは、自社のワインを「老若男女問わず楽しんでほしい」と話す。

▶バランスの良い味わいを表現したい こだわりのワイン造り

井上ワイナリーが実践する、醸造のこだわりポイントは3つある。

ひとつは、ぶどうの収穫時期の見極め。
ふたつめは、赤ワインと白ワインで出したい味に応じた醸造方法を実践すること。
そして3つ目は、オフフレーバーを出さないための管理を徹底することだ。

まずはぶどうの収穫時期の見極めから見ていこう。味わいのバランスがよいワインを生み出すには、ぶどうの糖度と酸度のバランスが重要になる。そのためには、適切な収穫時期の見極めが必要だ。ぶどうの糖度が上昇して酸が下がりきらない絶妙なタイミングで、慎重に収穫を行っている。

次は赤ワインと白ワインの醸造についてだ。白ワインで主に行っている工夫は、味を見て発酵を止めるタイミングを考えること。赤ワインで行う工夫は、渋味が強くなりすぎることを防ぐために、搾汁時期を調整することだ。
目指す味を表現するために、細かい醸造工程を調整しつつワインを造っている。

最後は、オフフレーバー(欠陥臭)を出さない管理について。井上ワイナリーでは、オフフレーバーの発生を防ぐために亜硫酸管理はもちろん、満量貯酒管理を行うことを徹底している。
満量貯酒管理とは、発酵中のワインが空気に触れることを避けるため、常にタンク内を満量にしておく管理方法のことだ。

井上ワイナリーでの自社ワイン醸造は、2021年に始まったばかり。目指すワインを表現するため、これからも担当者による醸造のこだわりは止まらない。

▶醸造の苦労ややりがい 初めての醸造を終えて

未経験からぶどう栽培、ワイン醸造を始めた井上ワイナリーのメンバー。最初の自社ワインができ上がるまでには、多くの苦労があった。

まずは天候における苦労だ。特に2020年は、観測史上最も梅雨が長引いた年だった。6月から7月末まで梅雨が続いたことで、糖度が上がらず酸が高いぶどうになってしまったのだ。

高すぎる酸を解消するべく、醸造で工夫を凝らした。一部の白品種では酸味を和らげるために、マロラクティック発酵(乳酸菌の作用で酸味をまろやかにする発酵方法のこと)を行ったのだ。
工夫のかいあって、最終的には味わいのバランスを整えることができた。

次なる苦労は、棚栽培用の「棚を建てた」こと。井上ワイナリーの栽培棚は、自社メンバー自らが設置した。高知県内に棚を設置する業者がいなかったためだ。栽培醸造にたずさわるメンバーたちは、棚の建て方を学ぶために山梨の業者の建築現場に滞在し、必死に建て方を覚えた。

いざ自分たちで棚を建て始めてみたが、なかなか思うようにはいかない。ひとつの圃場に棚を建てるのに、3週間近くもかかってしまった。だが、次第にコツをつかみ、最後には早く美しく棚を建てられるようになった。
「初めて棚を建設し、完成した時の達成感は今でも忘れられません」。
黒川さんは、当時を思い出す。

苦労と同時に、初めてのぶどう栽培にはやりがいもあった。自分たちの手でやっとの思いで建てた圃場の棚に、想像を超えた品質のぶどうができたのだ。見事なぶどうを収穫できた時は、この上なく感動した瞬間だった。

そして、自社醸造でのファーストヴィンテージは、山梨での醸造研修の成果を感じられる出来に仕上がった。今まさにリリースの時を待っているワインは、造り手の努力と情熱がしっかりと感じられる味わいになることだろう。

▶最初に飲むならスパークリングを おすすめワイン紹介

井上ワイナリーのワインをはじめて飲むなら、「ヴェラート コベル」というスパークリングワインがおすすめだ。

醸造委託先のワイナリーで分析を行った結果、スパークリングワインに適していることが判明したぶどう「コベル」を使用して辛口のスパークリングに仕上げた。
合わせてほしい食材は、高知の新鮮な海の幸。魚介類との相性は、文句のつけようがないほどだという。

2021年以降は、自社醸造のワインが続々と登場する。「2021年のぶどうは過去最高の出来」だと自信をにじませる黒川さん。
「栽培と醸造技術の向上を続けて、いつの日か誇れる日本ワインとなれるように頑張りたいと思います」。

『より「高知らしい」ワインを造っていく 井上ワイナリーの未来』

最後に、井上ワイナリーが進める将来へ向けた構想についてたずねた。ひとつはワイン造りにおける目標で、もうひとつはワイナリー全体の目標だ。それぞれ順にみていこう。

▶高知食材とのマリアージュを目指して ワインの目標

井上ワイナリーが掲げるワイン造りの目標は、さまざまな高知食材とのマリアージュを極めていくこと。
鰹のタタキのほかに、四万十鰻、鮎、土佐あかうし、山菜とのペアリングを考え、「この食材にはこのワイン」など、それぞれにベストマッチするワインを造る。

具体的な醸造目標は、幅広いスタイルのワインにチャレンジすること。例えば、ステンレスタンクのスッキリとした白、スパークリングワイン、樽熟成ワインやフルボディの赤ワインなど、さまざまなスタイルのワインを造ることを目指す。

醸造と同時に、栽培でも新しい試みが進行している。高知の気候に合ったぶどう品種も、今後さらに増やしていく予定だ。

▶ワインフェスの開催を目指して

井上ワイナリーでは、ワインフェスの開催も検討している。ワインフェスを行う目的は、高知の中心地で、高知各地のワインが一度に味わえる場を提供するため。各圃場のワインを飲み比べ、各地の食材とともに楽しめるフェスの開催を想定している。

井上ワイナリーが見すえるのは、ワインだけでなく高知の人の動きや働きをどう作り出していくかだ。そのために、地域を巻き込んだワインプロジェクトを進める。ワインを通して地域活性につなげる活動を起こせることが、井上ワイナリーならではの強みだ。

ワイン品質のレベルアップと同時に、井上ワイナリーが取り組む地域活性化への取り組みにも注目していきたい。

『まとめ』

井上ワイナリーは、ワイン造りで地域振興を目指すワイナリーだ。高知ワインの素晴らしさはもちろんのこと、高知という場所が持つ豊かな魅力を、私たちに教えてくれる存在だといえるだろう。

井上ワイナリーを訪れた際には、自然豊かな高知の景色と食材の恵みを感じながら、高知ワインをのんびりと味わってみたい。(オープンは2022年5月の予定)

基本情報

名称井上ワイナリー
所在地〒781-5233 
高知県香南市野市町大谷1424番地31
アクセス
南国ICから車で30分
電車
のいち駅から徒歩30分
https://www.inoue-winery.co.jp/access.htm
HPhttps://www.tosawine.com/

関連記事

  1. 『DOMAINE HIROKI(ドメーヌ・ヒロキ)』ぶどう栽培のプロが実現させた池田町初のワイナリー

  2. 『丘の上 幸西ワイナリー』ぶどうを優しく見つめながら「片丘ワイン」の表現を目指す

  3. 『熊本ワインファーム』世界レベルのシャルドネとスマート農業で、未来を見つめるワイナリー

  4. 『ドメーヌ・タカヒコ』ピノ・ノワールで日本の食文化を表現するワイン界の哲学者

  5. 追跡! ワイナリー最新情報!『VinVie』挑戦を続けた2021年、新たなワインとシードル銘柄も登場

  6. 追跡!ワイナリー最新情報!『蔵邸ワイナリー』新しい醸造と農業教育への取り組み