追跡!ワイナリー最新情報!『エーデルワイン 』地元農家と共に長い歴史を歩んできたワイナリーの 1 年

「エーデルワイン」は岩手県花巻市にあるワイナリーだ。前身となった合資会社の創立は1962 年。「地元の農家の収入を少しでも高めたい」との想いから歩みをスタートした。 

60 年もの長きに渡り、地元の生産者たちとの結びつきを強めながら、「よいワインはよいぶどうからしか生まれない」の社是のもと、高品質なワインを世に送り出してきた。
花巻を代表する特産品として、エーデルワインのワインはふるさと納税の返礼品にも指定されている。 

ワイナリーと研究施設、生産者の三位一体により造り出されるワインは、国内外のコンクールでの数々の輝かしい受賞歴を誇る。公営の研究施設との協力体制のなか、試験栽培からぶどう品種の選定を行い、新しい品種でのワイン造りにも積極的に取り組んでいる。
「ラタイ」や「ロースラー」など、日本ではほとんど栽培例のない品種も栽培しているのだ。 

また、醸造用ぶどう農家は化学肥料や農薬の低減に取り組み、エコファーマー認定も受けている。「ワインツーリズム岩手」をはじめとした各種イベントも行っており、生産者と消費者との交流の場を積極的に設けている。 

エーデルワインの 2021 年シーズンについて、工場長の藤原欣也さんにお話を伺った。 

『4 年連続のひとつ星認定』 

エーデルワインのワインは毎年、国内外の各種ワインコンクールで数々の賞を受賞している。2021 年 11 月にはオーストリアのウィーンで開催される「awc vienna(International wine challenge)」では、4 年連続で「ひとつ星」の評価を得た。 

「オーストリアのベルンドルフ市と、ワイナリーがある旧・大迫(おおはさま)町は友好都市提携していました。そのため、『awc vienna』には特別な思いがあります」。 

ワインコンクールにはさまざまな種類があるが、エーデルワインは数あるコンクールのなかから厳選して出品する。コンクールで賞を獲得することが目的ではない。
世界のなかで自分たちのワインが、今どのレベルにあるのかを知り、さらなる技術の向上に生かすためだ。

『高品質な 2021 年のぶどう』 

2021 年の岩手県の夏は、ワイナリーのスタッフがかつて経験したことがないほどの暑さに見舞われた。7〜8 月中旬まで、35℃を超える日も多く、ぶどう栽培は暑さとの戦いだった。 

冷涼な岩手県に住む人にとって、35℃を超える気温は過酷。エーデルワインでは、畑担当の社員が休憩時間を長めにとれるよう配慮、熱中症対策もじゅうぶんに実施した。 

8 月中旬を過ぎると 2 週間ほど天候が不順となり、早生系統の品質低下が心配された。しかし、9〜10 月の収穫シーズンは天候に恵まれ、非常に高品質のぶどうが収穫できた。 

ぶどうの成熟期間に好天が続き、乾燥傾向にあったことがぶどうの出来に直結した。

病害虫に関しても例年に比べると少なかったという。収穫時期は例年よりも 1 週間から 10 日程度早まった。 

▶収量制限の効果

2021 年のぶどうの出来は天候だけではなく、エーデルワインがこれまで取り組んできた「収量制限」が功を奏したと考えられる。
収量制限とは、樹に残すぶどうの房数をしぼることで、濃縮した味の果実に仕上げる方法だ。 

「ワイン専用品種のメルローやツヴァイゲルトレーベなどは、収量制限の効果が出て、特に濃い味わいになりました。できたワインの品質を確認しながらにはなりますが、今まで以上に樽熟成も取り入れていきたいと思います」。
仕込まれたワインは熟成期間を経て、数年後にはさらに豊かな風味を持つことだろう。 

過去のヴィンテージでも、ツヴァイゲルトレーベの樽熟成ワインは、ハイエンドクラスとして販売されている。上品でふくよかで豊かな味わいが特徴のぜいたくな 1 本だ。2021 年のワイン専用品種の品質に自信を見せた藤原さん。できあがったワインが気になる人は、ぜひ手に入れてみてほしい。 

▶全体の収量は減少 

ぶどうの品質が全体的によかった反面、収穫量は例年よりも少なかった 2021 年。当初の計画では合計 350t の仕込みが予定されていたが、実際の仕込み量は 240t 程度にとどまった。エーデルワインだけではなく、2021 年は岩手県全体のぶどうの生産量が前年比80%となってしまった。

収量が減った主な理由は、春先の霜被害や夏場の高温による日焼けが発生。また、鳥獣被害の影響も出たという。春に出たぶどうの新芽を、たくさんの鹿がやってきて食べてしまったのだ。エーデルワインでは急遽、自社畑の周囲に電気柵を設置。電流を流した線で畑を囲み、侵入してくる動物から畑を守った。 動物たちの住まいである山で、なんらかの理由で食べ物が減ってしまったことが獣害の拡大につながった。

「鹿は、見た目は可愛いんですけどね。被害が増えているので、農家さんのことを考えるとそうもいっていられません」お腹を空かせた動物にとって、柔らかいぶどうの新芽はごちそうに違いない。
ここ数年、獣害は増加傾向にある。周辺では鹿のほかに、熊による被害の報告があったそうだ。

『2021 年ヴィンテージの仕上がりに期待』

2021 年度のぶどうは、糖度が例年より 1〜2 度高かった。仕込み中のワインは今後、続々とできあがってくる。優れた品質のぶどうの果実は、それぞれの品種の特徴をしっかりと発揮。ぶどう本来の持ち味がじゅうぶんに表現されたワインになることが期待される。  

例年は 11 月10日前後までかかるワインの仕込み作業も、ぶどうの収穫時期が前倒しになったことから 2021 年は 10 日程度早く終了。ぶどうの仕込みが終わった後には、シードルの仕込みにとりかかる。 

▶定番商品に注力 

エーデルワインでは、2021 年は定番商品の確保を優先させた。9 月中旬ごろに、ぶどうの収穫量が少ないかもしれないとの情報が入ったためだ。原料が少ない場合、新たな醸造法に挑戦するのはリスクが高い。

もともと商品のラインナップが豊富なエーデルワインでは、定番商品といっても実にバラエティに富んだ銘柄がそろう。2021 年ヴィンテージも、エーデルワインらしさを存分に味わえるワインが魅力だ。

▶直売所限定で醸造用品種のぶどうジュースを販売 

エーデルワインでは、2021 年にはじめての取り組みとして、試験的にぶどうジュースを商品化した。 

直売所での限定発売が開始されたのは、なんと醸造用品種で造ったぶどうジュースだ。生食用品種のぶどうジュースは一般的だが、ワイン専用品種のジュースはめずらしい。お客様からの要望が商品化を後押しした。
「まずは、お客様の反応が確認しやすい直売所限定での販売をおこなっています。味に対するご意見などを伺って、来年以降も継続するかどうか検討したいですね。とても美味しいぶどうジュースですよ」。 

ジュースの製造は他社に依頼したが、将来的には自社での製造も検討するという。エーデルワインこだわりのぶどうジュースが、全国で味わえる日がくるのが楽しみだ。 

『新型コロナウイルス流行の影響』

ぶどう栽培やワイン醸造が順調なエーデルワイン。しかし、社会全体にさまざまな影響が出た新型コロナウイルスの流行と無縁ではない。 

エーデルワインでは、直売所の売り上げが大きく減少。今までなら観光バスで訪れていたたくさんの観光客が激減したためだ。 

▶自社ワインを紹介する機会を復活させたい

また、毎年 9 月の第 3 日曜日に地域ぐるみで開催していたワイン祭りや、エーデルワイン主催の感謝祭などのイベントも開催を断念した。自社のワインをお客様にアピールする機会を失った影響は大きい。 

さらに、生産者によるワインのお披露目会も 2020 年から 3年連続で中止を余儀なくされている。ワインのお披露目会とは、エーデルワインに醸造用ぶどうを提供している生産者たちが、自身のぶどうを使って醸造されたワインをお客様に直接ふるまう。

復活が強く望まれているイベントだ。ソムリエのように黒いエプロンを身につけた生産者たちが、お客様のグラスに自らワインを注ぐ。生産者にとって、自分たちの努力の結果を身をもって感じることができる、非常に意義のある会なのだ。 

「お客様と会話ができる貴重な機会なので、生産者のみなさんが毎年楽しみにしてきたイベントです。3年連続して中止になってしまいましたが、何かしら形を変えてでも開催できたらと考えております」。
和やかにワインを囲んで、みんなで楽しめる場。そんなイベントをエーデルワインが再び提供してくれる日が訪れるのを望むばかりだ。 

▶ワインは人を幸せにする飲み物 

「このまま世の中から、『みんなで集まってお酒を飲む』という機会が消える流れにならないことを願っています」と、藤原さん。 

人が集まり、お酒を酌み交わすなかだからこそできるコミュニケーションは、かけがえのないものだ。ワインを飲みながら語り合うことで、人と深くつながることが期待できる。 

「前社長の藤舘が、いつも口にしてきた『ワインは人を幸せにする飲み物だ』という言葉があります。非常に共感できる言葉です」。
ワインを囲み、たくさんの人が笑顔になる機会が持てる日常が戻ることを、切に願うばかりだ。 

『エーデルワインのこれから』

2022 年、エーデルワインは創業 60 周年の節目を迎える。イベントの詳細は未定だが、社内ではいくつかのプロジェクトチームが企画を立てて準備をすすめている。 

60 年もの長い間、大迫町のシンボル的存在として地域を牽引してきたエーデルワインのこれからの歩みがますます楽しみだ。

▶岩手県産の原料にこだわる・地元のぶどう園を守ることも使命 

長い歴史の中で、新しい栽培品種の開拓などさまざまなことに挑戦してきたエーデルワインには、創業から決して変えずに守ってきたことがある。
「岩手県産の原料のみを使ってワインを造る」ことだ。 

2021 年同様、過去にも原料が足りなくなる事態も経験した。しかし、なんとか切り抜け、これまで原料はすべて岩手県産のものを使用することにこだわってきた。 

岩手県産の原料にこだわるのは、地元の生産者と共に歩んできたエーデルワインが決して譲れない、郷土愛のあらわれだ。岩手県産の原料で醸造したワインを全国に届けたいとの強い思いがある。 

エーデルワインで原料として使われるさまざまなぶどう品種の中で、最も多くの割合を占めるのが、生食用品種のキャンベルだ。キャンベルの入荷が少なかったことが、2021 年度の仕込み量の減少にも大きく響いた。 

キャンベルの収量が少なかったのは、樹が老木になってきたことが理由のひとつ。そして、キャンベルを栽培する農家自体の減少も大きな原因だ。キャンベルは、大迫町で昔から多く栽培されてきたぶどう品種だ。しかし、近年ではシャインマスカットなど、販売価格が高い品種への切り替えを行う農家も多い。

また、栽培している農家の高齢化も深刻だ。大迫町内の農家の平均年齢は 70 歳で、後継者がいない農家も多い。そのため、キャンベルの収量減は今後さらに進むことが予想されている。 

エーデルワインの主力品種であるキャンベルの収量を維持することは、優先して対応すべき課題なのだ。 

 「まずは、ぶどう園を廃園にしないための対策が必要です。ありがたいことに、大迫町でぶどう栽培をしたいという新規就農者がいるので、継続が難しくなった畑を引き継いでもらう取り組みをしています」。 

自分では農業を継続できないが、ほかの人に畑を貸すことに前向きな農家も多い。後継者のいない農家と、大迫町で新たにぶどう栽培をしたいと考えている人をマッチングし、ぶどう園の廃園をくい止めているのだ。 

都会への人口集中が進む昨今だが、パンデミックの発生をきっかけに、若い世代を中心として暮らしかたの見直しをはかる流れも起きている。昔から住む人にとっては見慣れた土地でも、都会から訪れる人にとっては、緑豊かな自然の中での生活が魅力的に映る例は多い。 

「新たに来た人からは新しい情報も聞けますし、地元に住んでいると気づかないことを再発見するきっかけにもなる。ぶどう園を引き継いでくれる人たちをあたたかく受け入れて、積極的に支援していきたいですね」。 

都会にはない澄んだ空気と水が身近にある生活。美味しいワインを造るための高品質なぶどう作りを夢見て農地を求める人にとって、大迫町は魅力にあふれる土地だ。今後、新規就農者が作るぶどうにも期待したい。 

『まとめ』 

地元の生産者のために立ち上がり、60 年もの長い歴史を生産者と共に歩んできたエーデルワイン。今後もあらゆる困難を乗り越えつつ、地元を支えていく存在だ。そして、広い世界に向けて、魅力あふれるワインを届け続けてくれることだろう。 

お酒を気軽に楽しめる日常が戻ったとき、エーデルワインの豊富なラインナップのなかから気になる 1 本を選び、気心の知れた友人たちと一緒に楽しんでみてはいかがだろうか。 


基本情報

名称エーデルワイン
所在地〒028-3203 
岩手県花巻市大迫町大迫10-18-3
アクセスJR花巻駅下車 タクシーで30分
花巻インターチェンジ利用 20kmで大迫へ
詳しくは、こちらにアクセス
HPhttps://edelwein.co.jp/

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