追跡!ワイナリー最新情報!『岩崎醸造』歴史と最先端の技術が、こだわりのワインを生み出す

日本を代表するワインの生産地である山梨県甲州市勝沼は、日本固有のぶどう品種「甲州」の発祥の地でもある。そんな勝沼で、1941年に農家たちが集まって共同醸造組合として誕生した老舗ワイナリーが、今回紹介する「岩崎醸造」だ。

近代的な設備によって「本格醸造」のワインを造ったため、地元では「ホンジョーさん」と呼ばれて親しまれる存在で、現在も周辺の農家と強い結びつきを持っている。

岩崎醸造の代表取締役社長である白石壮真さんは、ぶどうの遺伝子に興味を持ち、山梨大学で醸造を学んでワイン造りの道に進んだ人物だ。基本に忠実に、それぞれの工程がなぜ必要なのかをしっかりと考え抜くことを大切に、こだわりのぶどう栽培とワイン造りをおこなっている。

ぶどう栽培の適地である勝沼の優れたぶどうを使い、高い品質のワインを造り続けている岩崎醸造。最新ヴィンテージのぶどう栽培とワイン醸造、新たな取り組みについて、白石さんにお話を伺った。詳しく紹介していきたい。

『2022年のぶどう栽培とワイン醸造』

岩崎醸造は、ぶどう農家が株主になっているという、全国でも非常に珍しい業態のワイナリーだ。そのため、株主たちが岩崎醸造がワイン醸造に使用するぶどうのほとんどを栽培している。株主農家が岩崎醸造に提供したぶどうの量は、全部で40t程度。

また、岩崎醸造には1.5haほどの自社畑もある。主な品種は勝沼の特産である甲州で、そのほかに甲斐ノワールとメルローなども栽培している。

▶︎2022年のぶどうの特徴

まずは、2022年のぶどうの特徴から見ていこう。

「自社畑も株主農家さんたちの畑も、2022年はぶどうが小粒でしたね。例年であれば6月初旬には、果実が水分によって肥大化するのです。しかし、2022年はちょうどその時期の雨が少なかったため、品種を問わず全体的に小粒になりました。そのため、ワインは凝縮感のある力強い酒質になることが予想されます。」

6月以降の空梅雨や8月中旬の集中豪雨、9月の台風の襲来など、予測しにくい天候でありながらも、ぶどうは順調に生育。例年よりもやや早く成熟を迎えたという。

岩崎醸造のぶどう栽培では、ぶどうの房を樹につけたままで成熟を待つ「ハングタイム」を長めに確保するのが伝統だ。

長年培った栽培技術を駆使し、2022年は甲州をはじめとして、どの品種も非常に凝縮感の高いぶどうが収穫できた岩崎醸造。すべては、栽培家たちによる丁寧な栽培管理の賜物だ。

▶︎栽培家の腕が問われた年

素晴らしい結果を残した2022年のぶどう栽培だが、決して楽ではなかったと白石さんは言う。

「春先には越冬菌の密度が平年並みかそれ以上の降雨が予想されたため、こまめな手入れを行いました。十分な手がかけられなかった農家さんでは、結実前の段階で被害が出ていましたね」。

2022年は8月中旬以降の豪雨、9月上旬・中旬の台風の襲来で降雨量が多く、特に甲州の収穫時期である10月に晩腐病が広がりやすい状態となったのだ。

ベト病や晩腐病は、出てしまってからでは手の施しようがない。雨の多い年でもしっかりと防除をおこなえば、被害を最小限におさえることができる。天候に大きく左右されるぶどう栽培では、降雨のタイミングを予測して適切な予防策を講じることが欠かせない。

岩崎醸造では2022年、自社畑では傘かけも実施した。病気に強い甲州だが、より長いハングタイムを得ることが目的だ。

「天候に恵まれた年は醸造家の腕が試されますが、2022年は栽培家の腕が問われる年でしたね」と、白石さんは振り返る。

▶︎キャノピー・マネージメントの成功

難しい天候だった2022年だが、岩崎醸造では「キャノピー・マネジメント」が成功した年でもあった。

キャノピー・マネジメントは、健全でよく熟したぶどうを収穫するためにおこなう。冬場の剪定や生育期間中に余計な枝葉や房を取り除く、「除葉」「摘花」などの栽培管理のことである。

通気性を上げて病害を予防するだけなく、房にあたる日照量や収穫量も調整できるため、ぶどうや葉に日光をよく当てることで色づきや糖度をよくする効果も期待できる。

「メルローにおいては除葉のタイミングをうまく見極めることができ、色づきや糖度の上昇が非常によかったです。また、自社畑の甲州や甲斐ノワールにおいては剪定の具合を通常とは変え、棚下までしっかりと日光が入るようにすることでぶどうの果皮へのポリフェノールの蓄積を促すことができました。2022年は、キャノピー・マネジメントの結果が思い通りになり、非常に満足しています」。

岩崎醸造の自社畑で栽培された甲州は、「甲州ぶどう」と聞いて想像する果皮の色よりも随分と濃く、紫に近いほどの色合い。色づきのよさが一目瞭然で、まるで、異なる品種のぶどうに見えるほどだ。

収穫した甲州はさまざまな手法で醸造されるが、2022年ならではの特徴がよく表現されているのは、「シャトー・ホンジョー 甲州かもし アンティーク」という銘柄だ。いわゆるオレンジワインの醸造方法で醸して造られている。近年人気が高まっているオレンジワインだが、実は勝沼では醸しは伝統的に用いられてきた手法だ。

「ロゼに近いほどの濃い色合いで、香りもよいのが特徴です。醸しの期間は伝統に習い3日間でおこなってきましたが、2022年は10日間に伸ばしました。前年までに小ロットでの試験醸造が成功していたため、実施に踏み切ったのです。近代的な醸しの手法が成功しましたね」。

醸しの期間を長くとる場合、原料のぶどうの熟度が足りなければ苦味が出てしまう。その点、2022年の甲州はしっかりと熟したため、問題なしの品質だった。ワインの仕上がりは、醸造だけでなくぶどう栽培の段階から決まるということがわかるエピソードだ。

伝統的な手法を引き継ぎつつ、さらにステップアップした醸しワインは、現代日本人の嗜好にマッチする1本に仕上がった。

▶︎フレッシュタイプの甲州シュール・リー

ワイン造りの歴史が長い勝沼では、オレンジワインだけでなく「シュール・リー」も昔からおこなわれてきた醸造方法だ。シュール・リーとは、綺麗な澱の上で熟成させる手法のこと。

「当社ではシュール・リーはこれまで、海外のシュール・リーに比べると、リリースのタイミングが遅く、1年以上瓶熟させてから出荷していました。うちでは今後、よりフレッシュなタイプのシュール・リーに切り替えていこうと考えています」。

また、同時に検討しているのが、ワインを飲んで欲しいタイミングを消費者にしっかりと提示することだ。栽培と醸造だけでなく、販売戦略にも力を入れていくことを目指す。

岩崎醸造から登場する新しい甲州シュール・リーも、ぜひチェックしてほしい。

▶︎コンパクトながら凝縮感のあるワイン

2022年ヴィンテージは小粒でよく熟したぶどうが収穫できたため、コンパクトな中にもさまざまな要素が詰まった、凝縮感のあるワインになりそうだ。

「毎年、ぶどうの状態を見ながら造りを変えています。2022年は全体的に、ワイン愛好家にも評価いただける、本格的な仕上がりのワインが多いのではないかと期待しています」。

▶︎テレビ番組とのコラボワイン

白石さんは、地元テレビ局の「テレビ山梨UTY」の「スゴろく」という番組に出演している。

「番組内の企画で、メインMCの方と一緒にワインを造ったのです。コンセプトは、『挑戦とおふくろの味』。山梨を代表する品種で、飲んだ人が『次の世代に引き継ぎたい』と思うワインを造ることになりました。長期間醸したタイプのワインです」。

エチケットは、番組の視聴者からの400点もの応募作品の中からデザインが採用された。自社だけで造り上げるワインよりも時間はかかったが、たくさんの方に関わって造り上げるという挑戦できたと話してくれた白石さん。

ワイナリーとテレビ番組のコラボレーションによって誕生したワインは、2022年12月に発売してから数日で完売した。

▶︎スパークリングワインの魅力

岩崎醸造では、スパークリングワインも醸造している。販売中なのは、2021年ヴィンテージのスパークリングワインだ。中でも白石さんおすすめの1本は、マスカット・ベーリーAのスパークリングだという。

「僕は肉料理が好きなので、マスカット・ベーリーAの甘い香りと和牛の緻密な脂によく合うと感じます。果皮と果汁を発酵させ、ある程度経ったら果汁だけを抜き出してから発酵させる『セニエ』というロゼワインの手法で醸造。ぶどうの熟度が高いため、かなり色が濃いのです。色調の調整が難しい方法ですが、うまくいったと思います」。

マスカット・ベーリーAのスパークリングワインは、華やかな色合いと、ぶどう産地の地名にちなんだラベルの「祝」の文字が特徴。めでたい席などにもぴったりだ。3年程度の熟成期間を確保する予定で、2021年ヴィンテージから順にリリースしていく。運よく出会えた際には、ぜひハッピーな席でいただきたいものだ。

『岩崎醸造の未来に続く取り組み』

次に、岩崎醸造の新たな取り組みをいくつか紹介したい。

気候変動の影響を強く感じている勝沼の地で、これからもぶどう栽培を続けていく岩崎醸造。

気候に合わせた新しい品種を模索中で、プティ・マンサンやアルバリーニョなどの栽培を新たに開始している。

▶︎気候変動に合わせて新品種に注目

「今気になっているのは、山梨県が開発しているメルローとピノ・ノワールの交配品種ですね」。

メルローとピノ・ノワールの交配で生まれた『ソワノワール』は、2022年7月に品種登録されたばかりの赤ワイン用ぶどうだ。白石さんはこのソワノワールをいち早く取り入れていこうと考えている。

現在の山梨は、気温が高いために、ピノ・ノワールやシャルドネの栽培が難しくなってきている。そのため、遺伝子を引き継ぐ交配品種の導入を検討しているのだ。

「山梨でピノ・ノワールを栽培すると、『握り房』といって、粒がぎゅっと密集した房になりやすい傾向があります。一方、新たな交配品種は粒が離れた『バラ房』になるようなので期待が高まります」。

土地に合う品種の選定はワイン造りにとって欠かせないポイントだが、気候変動が大きい現代では、常に情報のアップデートが欠かせない。

勝沼の気候にマッチする新たな品種のワインが登場するときを、楽しみに待ちたい。

▶︎新たなシステムの開発に着手

続いては、岩崎醸造の新たな取り組みについて紹介しよう。東京の企業と共同で、ある装置の開発に乗り出したのだ。

「ぶどうの幹に固定し、天候をモニタリングしてクラウド上にデータを蓄積すると同時に、雨量や風速、日照量なども記録できる装置です。将来的にはタンクにも分析装置を取り付け、ひとつのワインを多角的に見ることができるシステムを作りたいですね」。

センサーさえ増やせば、ぶどうの水分量やpH値などさまざまなデータを残すことができる装置だという。

農業とIoTの融合は、特に海外において先進的な取り組みがされている分野だ。タンクに設置したセンサーでオフフレーバーの発生を予測するなど、海外では興味深い取り組みも多い。

「日本でも既存のデータ集積装置を導入しているワイナリーは多いのですが、既製品の枠の中で運用しても面白くないと思ったので、共同開発することにしました。数年間データを蓄積したら製品化したいです」。

新たな挑戦が実を結べば、日本ワインのさらなる品質向上に貢献できるシステムとなるに違いない。

▶︎マイスター・ハイスクール事業

岩崎醸造の挑戦は、まだまだある。文部科学省が推進する、「マイスター・ハイスクール事業」という施策をご存じだろうか。別名「次世代地域産業人材育成刷新事業」ということからもわかるように、将来活躍する人材を育成するために、産学官が連携して実施している事業だ。さまざまな産業の未来を担う人材を育てることが急務であるとして、日本全国の専門高校等と民間企業が協力して取り組んでいる。

岩崎醸造の白石さんは、製造から販売まで行ったことのある広い視野が評価され、山梨県でこのマイスター・ハイスクール事業に採択されている山梨県立農林高等学校から事業の統括者のひとりとして白羽の矢が立った。

山梨大学でワイン醸造について学んだ経歴を持つ白石さんは、かねてより教育分野にも関心を持っていた。

「山梨の代表的な産業であるワイン産業は、6次産業としてさまざまな産業と結びつける可能性のあるユニークな業界です。このワイン産業を多角的な視点で見つめる環境を作ることで、子どもたちを地域産業の担いとして教育し、高齢化で若い担い手の確保に悩むワイナリーの課題解決の糸口になればと考え、農林高校の取り組みに参画することにしました」。

白石さんが担当するのは、「マイスターハイスクールCEO」として事業の方向性や授業のカリキュラム作り。ぶどう栽培(生産)、ワイン製造(加工)、販売(流通)に関して、先生が指導できるようマニュアルや資料作りにも協力する。

「3年間の事業ですが、重要なのは3年後に私がいなくなっても学校がワインに関する教育を自ら行えるように体制を作ることです。具体的には、事業終了後に何か学校で困り事が出た際に産官学が連携できるよう、人と人とを繋げることが重要な仕事だと考えています」。

若い世代に、農業やワイン造りの魅力をどうアピールするか。白石さんの活躍に期待したい。

『まとめ』

最後に、岩崎醸造の今後の展望について尋ねてみた。

「畑と醸造、お客様をデータで繋いでいくような、IoTを利用したワイナリーの経営を推進していきたいと考えています。マイスター・ハイスクール事業も含め、山梨のワイン業界を今までにない角度から引っ張っていける存在になりたいと思っています」。

歴史と最新技術の融合は、新たな化学反応を起こして、飲み手を楽しませてくれることだろう。

「栽培と醸造に関しては、目の前の課題を黙々とこなすタイプ」と、自分を評する白石さん。お話を伺うほどに、新たな一面が垣間見られてなんとも魅力的な存在だ。

歴史あるワイナリーの若き経営者が挑む多角的な取り組みに、今後も引き続き注目していきたい。


基本情報

名称岩崎醸造(ホンジョーワイン)
所在地〒409-1313
山梨県甲州市勝沼町下岩崎957
アクセス【電車】
勝沼ぶどう郷駅から
・勝沼地域バスにて生福寺(300円、30分)さらに徒歩3分
・タクシー10分
【車】
中央高速 勝沼インターチェンジから3分
HPhttps://www.iwasaki-jozo.com/

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