『岩崎醸造』こだわりぬいたワイン造りで地元に愛されるワイナリー

山梨県甲州市勝沼にある岩崎醸造。勝沼といえば、ワイン醸造が盛んな場所。岩崎醸造はワインの歴史ある勝沼で、70年余りの歴史を持つワイナリーだ。

岩崎醸造の魅力は、地元農家との強い結びつき。そしてあらゆる要素を考え抜いて造られるこだわりのワイン醸造だ。商品開発室・室長を務める白石さんに、岩崎醸造の歴史やぶどう栽培・ワイン造りについて伺った。

岩崎醸造のワインを、いますぐ飲みたくてたまらなくなってしまうようなお話をいくつもいただいた。ふくよかなワインが香ってくるかのようなエピソードに、存分に浸ってみて欲しい。

『農家が集まってできたワイナリー、創業のきっかけと歴史』

最初に伺ったのは、岩崎醸造創業の歩みについてだ。1941年創業の岩崎醸造は、もともと農家たちが集まった共同醸造組合だった歴史がある。共同醸造組合に集まったのは、醸造免許を持っていた旧・祝村の農家たち。
旧・祝村は、現在の勝沼町の「上岩崎」、「下岩崎」そして「藤井」にあたる。醸造免許を持っている人達が集まってできたのが、岩崎葡萄酒共同醸造組合だった。

共同醸造組合が作られたきっかけは、国の方針に関係する。当時戦時中だった日本は、音波防御レーダーのソナーに使用する「酒石酸カリソーダ(ロッシェル塩)」を求めていた。
酒石酸はワイン醸造過程で発生する成分のひとつだ。岩崎醸造の初代代表は現社長の父、大島利元氏。岩崎・藤井地区をまとめた当時の祝村(現・甲州市)の村長だった。
国が必要としていた「酒石酸」を集めるために、村長が周囲の農家に呼びかけて集まったのが「岩崎醸造」の前身だったのだ。

▶岩崎醸造の「ホンジョーワイン」に込められた意味

岩崎醸造は、商品のブランド名が「ホンジョーワイン」となっている。ホンジョーとは人名?地名だろうか?

「ホンジョーは、『本格醸造』という意味です。地元の方には岩崎醸造ではなく、ホンジョーさんと呼ばれています」。地元農家達が出資してできた岩崎醸造。最初は、農家達が小さな醸造器具を集めてワインを造っていた。
農家達はその後、近代的な醸造設備を導入。樽や蒸留塔を用意し、当時最先端のワイン造りを始めたのだ。当時新しかった醸造技術でワイン造りを行っていた岩崎醸造は、周囲から「本格醸造」のホンジョーワインと呼ばれていたのだという。

ホンジョーワインという呼び方は、現在でも続いている愛称。
「地元からの変わらないワイン造りへの信頼」そして「日本ワインへのこだわり」が感じられる、魅力的な呼び名だ。

▶地元農家とのつながりに魅力を感じて

今回お話を伺った白石さんは、取締役商品開発室室長を務めている。ワインとの出会いや、岩崎醸造にはどのような経緯で入社したかを伺った。

愛媛出身の白石さんは、もともと遺伝子関係を研究する医学部目指していた。医学部のことしか考えていなかった白石さんだったが、医学部以外の進路を探してみると「ぶどうの遺伝子が面白そうだ」ということに気づく。
ぶどう栽培では、種まきではなく挿し木で苗を作る。ぶどうは種にしてしまうと、変異しやすい性質があるのだ。不安定な遺伝子を持っているぶどうに惹かれるものを感じ、山梨大学に進学した。

専攻したのは、当時の山梨大学工学部・ワイン科学特別教育プログラム。学部1年から修士過程終了までの6年間で、ワインのスペシャリストを目指すコースだ。ぶどう遺伝子や微生物農薬を学び、ひたすらに勉強した。

その後、進路を決める際に選んだのはワイン販売の仕事。デザインやプログラミングの心得があったため、仕事に生かせると考えたからだ。そして卒業後に入社したのはワインの輸入商社だった。
ワイン生産者と話す機会に恵まれた白石さんは、ワイン造り自体に強い興味を覚えるようになる。次第に、ワイナリーで働く夢が膨らんでいったという。

その後岩崎醸造に入社。岩崎醸造に魅力を感じた理由はふたつあり、小回りのきく地元密着ワイナリーであることと、ワイナリーがたどった歴史の面白さだった。

岩崎醸造は、現在も130名の農家が株主だ。勝沼周辺には共同醸造所を前身に持つワイナリーが多いが、現在でも農家が株主をしているワイナリーは珍しい。
「ぜひ、岩崎醸造に使ってほしい」と農家がぶどうを持ってくるのは、信頼関係があるのにほかならない。

人と人とのつながりに魅力を感じて入社した岩崎醸造。商品作りを担当しながら、ワインやワイナリーの魅力を発信し続ける。

『高品質な契約農家のぶどうと、1haの自社畑』

続いて、岩崎醸造のぶどう栽培について紹介していこう。岩崎醸造では、契約農家のぶどう栽培を中心に、1haの自社畑でのぶどう栽培も行っている。

まずは自社畑に植えられているぶどうについて見ていきたい。
自社畑は、大きく4つに分けてぶどうが栽培されている。

1haの自社畑を4つに分けたうちの1つに植えられているのは甲州。
もう1つは甲斐ノワールだ。そして残りのエリアには、赤白の欧州系のぶどう品種が育つ。

欧州系ぶどう品種のうち、白ぶどうはシャルドネ、赤はメルローと、補助品種としてのプティ・ヴェルド、マルスランを育てる。なおマルスランとは、最近フランス・ボルドー地区でも栽培が認可されたばかりの赤ぶどう品種だ。また、わずかではあるがマスカット・べーリーAも育てている。

自社畑に植えられている品種を選んだ理由について尋ねた。まずは甲州について。これは言わずもがな、この土地に古くから根付いてきたぶどう品種だからだ。
気候や土地に合うことが歴史的に証明されており、高品質なものが栽培できる。そのため、岩崎醸造でも甲州の栽培を行っている。

甲州に関しては新しい試みにもチャレンジしており「甲州によるオレンジワイン」がその最たる例だ。白ワインでありながらも果皮ごと醸す「オレンジワイン」。
岩崎醸造では以前からこのタイプのワイン「ホンジョー かもしピンク」を数十年間造ってきたが、現代の嗜好に合わせ2019年にブラッシュアップし、「シャトー・ホンジョー 甲州かもし アンティーク」を販売した。

次は甲斐ノワールについて。甲斐ノワールは、比較的新しいぶどう品種だ。岩崎醸造で栽培している理由は2つある。ひとつは、誕生初期から長年育てている「自社のアイコン」的品種だから。もうひとつは、栽培は難しいが良質なワインができるポテンシャルがあり、その土地、その年を反映することができる性質を備えているからだ。

栽培が難しい品種だという甲斐ノワールは、カベルネ・ソーヴィニヨンとブラック・クイーンを掛け合わせて誕生した。

親品種であるブラック・クイーンは、酸が高くて病気に強くボリューミーな味わいが特徴だという性質を持つ。一方のカベルネ・ソーヴィニヨンは複雑な香味を持ち緻密で美しい酸が魅力だが、山梨だと高温のため着色不良を起こしやすいうえ、病気にもなりやすい。お互いの長所を生かすために開発された品種が、甲斐ノワールなのだ。

そんな甲斐ノワールは、カベルネ・ソーヴィニヨンの持つピーマン的な青い香りが強く出る品種。そのため「グリーンハーベスト」という、収量制限のための作業が必須になる。
栽培にかなりの繊細さを要する品種であり手間がかかるため、造っているワイナリーは少ない。難しいからこそ、自分たちのワイナリーで造ることに大きな意味があると考えているのだ。

▶栽培の工夫、さまざまな棚仕立て

自社畑のぶどう栽培は、棚仕立てで行っている。ぶどう品種によって、棚仕立ての中でも仕立て方を細かく変えているのが、岩崎醸造におけるぶどう栽培の特徴だ。

甲州と甲斐ノワールは、X字剪定で仕立てている。X字剪定は、高度な技術が必要な育て方。日本の気候には、X字剪定による棚仕立てが非常に好相性だ。

日本の降雨量は、年によってかなり差がある。つまり、ぶどうの樹勢をコントロールするのが非常に難しいといえる。
X字剪定の棚仕立てであれば、前年の枝の伸びや土壌の状態によって、仕立て方を調整できる。毎年の気候に対応して最適なぶどう栽培につなげられるため、日本の気候に最適なのだ。

シャルドネとメルローも棚仕立てで栽培しているが、こちらは一文字剪定を使う。一文字剪定はぶどうを上に広げる栽培方法ではあるが、直線に広げていくのが特徴だ。
「面」に広げるのがX字剪定、「直線」に広げるのが一文字剪定と考えると分かりやすい。

一文字剪定の棚仕立てで栽培している理由は、凝縮度を上げたり、健全なぶどうを作るための管理がしやすいからだ。凝縮度を上げるだけであれば垣根仕立てでもよいが、健全なぶどうを育てるためにはぶどうの実を地面から離す必要があるという。
雨が多い日本では、地面に近い場所に葉や実があると、湿度が高くなり病気になりやすい。土壌によっては熱くなりすぎて、着色不良・日焼けで腐ってしまうこともある。

特に雨が増えている近年の気候を考えると、垣根仕立ての代わりに一文字剪定の棚仕立てを導入する利点があるという。

▶「笹子おろし」が育む健全なぶどうと、自社畑の環境

岩崎醸造の自社畑は、岩崎地区で山側の場所にある。
「昔から、山側の畑に育つぶどうは『やまつき』と言われていました。やまつきの畑で収穫されたぶどうは、醸造用に使用されることが多かったと地域の方からは聞いています。弊社の畑もやまつきの畑です」。

岩崎醸造の自社畑の環境について、詳しく見ていこう。基本の土壌は粘土質。粘土質はほどよい水分量を含む。養分持ちもよいため、ぶどうがのびのびと元気に育つ土壌だ。
また粘土質の土壌は冷たいので「ぶどうをゆっくりと成熟させてくれる」という利点もあるのだとか。

土壌のほかにも、環境に恵まれている点がある。風通しが非常によいのだ。近くを通る甲州街道には、夕方になると「笹子おろし」が吹き抜ける。「笹子おろし」とは、笹子峠を抜ける冷涼な風のことだ。

「笹子おろしは、夏の暑さを和らげ、溜まった湿気を飛ばしてくれます」。強い風がぶどう栽培に悪い影響を与えることはないのか尋ねると「ほとんどないですよ!」。あえてひとつ挙げるとすれば、シャルドネの新芽だけは少々注意が必要なのだとか。
シャルドネは新芽の出が早く、さらに折れやすい。新芽が出る時期は、傷まないように注意しながら栽培しているという。

ぶどう栽培に恵まれた岩崎地区。長年培ってきた栽培技術と土地勘で、高品質なぶどう栽培が行われているのだ。

▶作業が大変だった2020年のぶどう栽培

雨が多かった2020年。岩崎醸造のぶどう栽培は、天候の影響を受けたのかについて伺った。答えは、「まさに地獄のような年でした」。どんな困難があったのかと不安になったが「作業は大変だったが、品質はよいものができた」ということだった。

作業の大変さは、やはり雨の多さにあったという。2020年7月はほとんど晴れがなかった。雨ばかりだったため、ボルドー液をはじめとした防除薬をほとんど撒くことができなかった。
結果、収量は普段の4分の3ほどにまで減少してしまったのだ。

また作業として最も大変だったのは、選果だったとか。通常であればひと箱を5分で収穫できるものが、2020年は30分くらいかかったそうだ。雨が多かったせいで、選果が難しかったことが理由だ。

収量や作業の面では大変だったが、ぶどうの生育にとって良い点もあった。8月は登熟のスピードが早かったのだ。
「通常甲州は10月に入って収穫します。甲州でもスパークリング用のものは、通常より早く9月の半ばに収穫しますが、それでも熟度が高いものができていました」。

栽培は苦労したが、丁寧に育てたかいがあり、品質は上々だ。2020年のヴィンテージは、ぶどうの凝縮感が楽しめる年に仕上がっているという。2020年ならではの味を、ワインで感じとる贅沢。
ヴィンテージを比べて楽しんでみるのもよいだろう。

▶株主農家とのつながりが強み

岩崎醸造が強みとしているのは、ぶどうを安定した収量かつ安定した品質で作れること。収量と品質の両方を安定させることを実現できているのは、他ならない株主農家のおかげだ。

岩崎醸造の株主農家は代々、岩崎の地でぶどう栽培をしている「ぶどう栽培」と「土地」のプロ。高レベルなぶどう栽培によって、岩崎醸造が造るワインの品質を上げている。

「我々は、いわゆる『ドメーヌ』ではありませんが、ブルゴーニュでいう『père et fils(ペール・エ・フィス、父と息子の意)』 のようなワイナリーであると思います。弊社の株主達は、この土地で代々農業をしているからこそ、よいぶどうを作ることができます。我々もそんな彼らを理解し、代々同じ信条でワイン造りを行っているからこそ、テロワールを反映したワインが造れるのです」。

スタンダードワインは、すべて株主農家によるぶどうのワイン。岩崎醸造では毎年同じ農家からぶどうを仕入れているため、品質が安定しているのだ。入ってきたぶどうは、質によって3段階に分けられる。
高品質なぶどうしか、ワインにならないのである。しかも最も下のレベルであっても、通常の基準と比べて非常に高品質なのだという。

ワイナリーと農家、お互いがお互いを尊重し合い信頼しているからこそ、高い品質のワインを提供できているのだ。

なお岩崎醸造では、企業や個人からの委託醸造も行っている。これはぶどうが潤沢だからこそできること。農家の方と密にやりとりできるため、細かい要望にも応えやすいのだ。
「一緒にどういうワインにしたいかと考えながら造ります」。

昔からのつながりを大切にしているからこそ、素晴らしいワインが生まれる。地元を大切にし続けている岩崎醸造だからこそ、人に愛されるワインを造れるのだと感じた。

『バックグラウンドまで考え抜くワイン造り』

岩崎醸造のワイン造りついて、目標や醸造のこだわり、ワインへの思いを紹介したい。岩崎醸造が目標としているのは、消費者のレベルに合わせて多様なワインを造っていくことだ。
特に昨今は、消費者のレベルが上がってきている。多種多様かつ高品質なワインを求められていると感じているのだ。

岩崎醸造では以前から、気軽に楽しめ、飲み疲れしないワインが数多くラインナップされていた。地元の人が集まって造った岩崎醸造だからこそ、今でも地元の人がワインを買いに来る。親しみやすいワインが気軽に購入できることは素晴らしいことだ。

一方でワインレベルの高い消費者の要望にも応えるため、今まで以上にこだわりを持って造る必要が出てきているのだという。

▶醸造のこだわりは考え抜くこと

ワイン造りのこだわりについて伺った。大きなこだわりはふたつある。
「基本的なことをしっかりとやること」と「なぜ造るのかまでを考え抜くこと」だ。

岩崎醸造が第一に大切にしているのは、基本的な作業をおろそかにしないこと。もちろんワイン造りにおいては、基本的なことの徹底こそ難しいのはいうまでもない。

「特に亜硫酸の量は、最小限になるよう心掛けています。『fault(フォルト、欠陥臭)』と判断されるようなものは出荷したくありませんが、少なすぎると量販店に出すには品質を保てないし、多すぎるとアロマや味わいが抜栓後すぐに開かない。適量が肝心です。酵母以外の微生物も関与させた、ナチュラルな造りのワインもいずれ造ってみたいです」。

岩崎醸造では、消費者に自信を持ってワインを届けるため、当たり前のことを当たり前に行うことを大切にしている。新しいタイプのワインを造る際には、山梨大学教授や高いレベルを有した技術者に、技術的なアドバイスをもらっているという。

続いてのこだわりは「なぜ造るのかまでを徹底的に考え抜くこと」。
新興ワイナリーの数が増えているからこそ「ただ造る」のではいけないと考えている。「なぜこのワインを造るのか」まで、バックグラウンドを考え抜きたいのだという。

ひとつひとつの作業を考え抜くのは、簡単ではない。例えばワインの樽熟成ひとつをとっても、あらゆる疑問を想定し、ワインにとって最適な方法を考える。

「なぜ樽熟成するのか?どうして樽香をつけたいのか?もちろん、味わいのバランスも大切ですが、出来上がったものに日本の文化的背景を投影したいと考えています。それは、樽材や醸造方法であったり、フード・ペアリングであったり、フレーバーだったりと色々ですが、納得感がなければなりません」。

ワイン醸造の作業は「なんとなく」では行わない。やらなくてはいけない理由、やった方がよくなる具体的な理由があるからこそ行う。そんなバックグラウンドへのこだわりが、ワインに深みを与えると考えているのだ。

岩崎醸造を訪れワインを買う時は、是非そのワインについて聞いてみて欲しい。それぞれのワインにストーリーがあり、こだわりがある。
「バックグラウンドを聞いて楽しむ」ことで、ワインの深みがよりいっそう増すことだろう。

▶こだわりのオレンジワイン「シャトー・ホンジョー 甲州かもし アンティーク」

岩崎醸造では、2020年にオレンジワインをリリースした。甲州のオレンジワイン「シャトー・ホンジョー 甲州かもし アンティーク」誕生には、努力と苦労とこだわりが詰まっている。
ワイン誕生のストーリーやこだわり、味わいについて紹介していきたい。

「シャトー・ホンジョー 甲州かもし アンティーク」はどのようなワインなのか?味の印象について伺った。
「熟したりんごのコンポート、和柑橘の皮のほろ苦さがあるワインです。香りだけではなく、口に入れた時の感触が印象深いものに仕上がりました。心地よい苦みが印象を残すワインです」

レストランでも人気のワインで、日本人好みの味だという。緑茶や山菜など、苦みに美点を見いだせる日本人ならではのワインだという。

「シャトー・ホンジョー 甲州かもし アンティーク」は「五感で楽しめる作品のようなワイン」であることを意識して造られた。まずこだわったのは「見て楽しむ」ためのエチケット(ワインのラベル)デザインだ。
消費者はワインを選ぶ時、まずエチケットを見る。ワインの顔であるエチケットは、おろそかにしてはいけない部分だと考えたのだ。

オレンジワイン「シャトー・ホンジョー 甲州かもし アンティーク」のエチケットイラストは「富士山」。ソムリエ資格を持つ女性の日本画家、安藤 樹里氏に描いてもらったものだ。
「富士山は、その独自性と多面性ゆえに時代や観る者によって姿を変える『信仰の対象と芸術の源泉』。甲州を醸したオレンジワインは、勝沼に馴染みの深いタイプのワインです。時代を経てもそうあり続けて欲しいという願いがあります」。
そしてワインを「作品」のように見てもらいたい、という思いも込められている。

岩崎醸造では、オレンジワインを造る意味についても、歴史背景まで踏み込んで考えた。ジョージアやイタリアのフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州のものが有名なオレンジワイン。
世界的に流行しているオレンジワインだが、実は山梨には昔からオレンジワインがあった。オレンジワインができた背景には「果汁だけを取り出す高度な機械がなかった時代に、白ワインを皮ごと仕込んでいた」という歴史があるのだ。

「山梨でも同様の理由でオレンジワインが造られていましたが、時代の流れとともに造られなくなってしまいました。今、流行っているから取り入れるのではなく、岩崎醸造は今までも造ってきたし、これからも造っていく。そう決意して、ブラッシュアップしてリリースです」。

新しいオレンジワインを造るからには、美味しくするための技術を吟味して取り入れた。行ったのは、近代的な低温発酵やロゼワインに使われるセニエ法などだ。品質を上げるために相応の技術を考え、醸造した。

またぶどうの収穫時期もほかの甲州と変え、後ろにずらして行った。オレンジの色調を出すためには、果皮に含まれるフェノール類が熟してから収穫する必要があるからだ。
「ひとつのものを造るのにも、徹底的に考えます。目の前にあるぶどうや人、文化と向き合い、ワインを造っているのがこだわりですね」。

そんな「シャトー・ホンジョー 甲州かもし アンティーク」のペアリングを楽しみたいなら、ホタルイカやアスパラガスを使ったオイルベースパスタと合わせると絶品だ。ワインと食材の持つ「旨味と苦み」がマッチング。
オイルベースによる丸みも、ワインとの調和を生み出す。「熟した感じと苦みのコントラストを楽しんでもらいたい組み合わせです」。

▶「飲んでもらえれば幸せ」ワインへの思い

岩崎醸造では、どんな場面でどのようにワインを楽しんで欲しいと考えているのだろうか?

「ワインは面白くて美味しくて、探しがいのある飲み物。身近な存在として楽しんで欲しいです」。岩崎醸造が考えるワインの楽しみ方は、ずばり「自由」。楽しみ方はひとつではないと考えるし、どのような場面で楽しんでもよいと考えている。
ワイナリーにとって喜ばしいのは、難しいことを考えずに「気軽に買って、気軽に飲む」。それだけのシンプルなことだ。

岩崎醸造は、もともと地元の生活の一部として扱われてきたワイナリーが発祥だ。農家の生活に根ざして発展し、地元と共に歩んできた。
「自分たちのワインが生活の中に自然に出てくるものになれば、ワインにとっても嬉しいことなのかなと思います」。

岩崎醸造の公式Instagramには、ワインを造っている工程など、醸造の裏側も載せている。ワインを買った際には、ワイン造りの様子を併せて見てみると、より楽しいワイン体験になるだろう。
また公式ホームページには、食事と楽しんでもらいたいとの思いから料理とワインの組み合わせ提案も掲載している。

「季節にあったペアリングを楽しむもよし、贈答用に買っていただくもよし。そして僕らのワインのファンになって、多くのワインを探求してもらえれば、もちろん一番嬉しいです!」ワインを飲み、造り手のこだわりを知り、裏側のストーリーを聞く。
岩崎醸造のファンになってしまうことは間違いないだろう。

『新しいワイン・新しいぶどう 岩崎醸造の未来』

最後に伺ったのは、未来へチャレンジについて。これから挑戦してみたいことや、考えている企画はあるのだろうか?岩崎醸造の、今後の展開について見ていこう。

現在進行形で動いている新しい試みは、大きく2種類ある。ひとつは高品質なスパークリングワインを造ること。もうひとつは、土地に合う新しいぶどう品種を増やしていくことだ。

スパークリングワインは今後のワイン醸造において、大きな目標のひとつに掲げられている。特に、瓶内二次発酵してからの醸造工程にこだわりを持って取り組みたいと考えているそうだ。
「原料のワインにこだわるのはもちろんですが、スパークリングである以上、その後の泡を生む醸造工程にこだわるべきだと思うのです。徹底的に考えて造っていきたいですね」。

もうひとつのチャレンジは、新たなぶどう品種を定着させること。温暖化により、ここ数年を見ても大きく気候が変わったという山梨県。今後10年、20年で気温が3度上がるともいわれている中で、気候変動に合うぶどう品種を探すことが狙いだ。

「実際にカベルネ・ソーヴィニヨンが気候に合わなくなり、近年取り扱いをやめました。山梨に合うぶどう品種で、まだまだ知られていないものがあるはずです。探求していきたいですね」白石さんは熱意を込めて話す。

気温だけではなく、降雨量も年を増すごとにひどくなっていることを、肌で感じているという。新しい気候に合うぶどう品種への挑戦は、自然の中で行うワイン造りにおいて、必要不可欠なものだ。
「ぶどうは植えてから5年程度は収穫できないので、見極めるのにも時間がかかります。若いうちから挑戦することで、次の世代へ引き継いでいきたいです」。

いくつかの品種を試していくというが、中でも「フィアーノ」というイタリア系のぶどう品種に可能性を感じているという。樹勢も強く、気候との相性も悪くなさそうだとのこと。

ぶどう品種は、世界中に星の数ほど存在する。岩崎醸造から今後生まれるワインは、私たちが知らないぶどう品種を使った、新しいワインかもしれない。

山梨に合うぶどう品種が見つかるその日まで、岩崎醸造の挑戦を応援し続けたい。岩崎醸造へ実際に訪問してワインを飲み、ワイン造りの話を聞きながら、未来のワインに思いをはせられれば幸せだ。

『まとめ』

岩崎醸造は考え抜くワイン造りにこだわりを持ち、造り手と土地とぶどうを感じられるワインを造る。

地元の人に親しまれているワイナリーである岩崎醸造は、長い歴史がつむいできた経験や技術を強みに、新しい気候や環境へ挑戦を続ける。岩崎醸造に行ってワインを飲めば、たどってきた歴史の深さ、農家の絆、ワインの持つストーリーの厚みを感じられることだろう。

基本情報

名称岩崎醸造(ホンジョーワイン)
所在地〒409-1313
山梨県甲州市勝沼町下岩崎957
アクセス電車
勝沼ぶどう郷駅から
・勝沼地域バスにて生福寺(300円、30分)さらに徒歩3分
・タクシー10分

中央高速 勝沼インターチェンジから3分
HPhttps://www.iwasaki-jozo.com/

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