2013年創業の「Woody farm & Winery(ウッディファーム&ワイナリー)」は、山形県上山市(かみのやまし)にあるワイナリーだ。丁寧に管理された自社ぶどうからワインを醸し、上山市の豊かなテロワールを表現している。
上山市の気候風土に適合し、美味しさを表現できる品種を厳選した主力品種は、プティ・マンサンとアルバリーニョ、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランなど。
ウッディファーム&ワイナリーでは、補糖や補酸なしでのワインを醸造。ぶどうと土地本来の味わいをワインに投影することを心がけている。自分たちの手でぶどうを栽培しているぶどうの持つよさを、そのまま飲み手に伝えるためだ。
今回は、2022〜2023年にかけてのぶどう栽培とワイン醸造について、ワイン事業ゼネラルマネージャーの金原(かなはら)勇人さんに詳しいお話を伺った。さっそく紹介していこう。
『2022〜2023年のぶどう栽培』
まずは、2022〜2023年のぶどう栽培の様子から振り返っていこう。2022〜2023年の上山市の天候は、まさに「激動」という言葉がふさわしい状況だった。
天候の状況によって、ぶどうの生育の様子や出来が大きく左右されるぶどう栽培。最近の上山市では、どのような天候に直面したのだろうか。また、ウッディファーム&ワイナリーでは、どのように激動の2年間を乗り越えたのか。
直近2年間のぶどう栽培の様子と、新たな取り組みに迫りたい。
▶︎2022年は「雨と曇りのヴィンテージ」
2022年と2023年は、対照的な特徴の気候だった上山市。それぞれの年をひと言であらわすと、2022年は「雨と曇りのヴィンテージ」、2023年は「暑いヴィンテージ」だったという。天候に関するデータやぶどうの様子を振り返りながら、2年間を比較していきたい。
最初に確認するのは、上山市の積算温度の年ごとの違いについて。積算温度とは、毎日の平均気温を合計したもののことだ。
上山市の2022年の積算温度は2019℃、2023年は2217℃だった。実に200度もの違いがあることがわかる。そもそも、上山市の平均的な有効積算温度は、1950~2000℃程度。つまり2023年は、まれにみる「暑い」年だったのだ。
次に、日照量を比較していこう。2022年は、8月の日照量が観測史上ワーストを記録。例年であれば最も日光が照りつける季節にも関わらず、日照時間が足りないという悩ましいヴィンテージとなった。だが、2023年は一転し、8月はとりわけ快晴が多かった。
ぶどう栽培をする上で、8月はとても重要な時期だ。8月中旬のお盆前後になると、果実が着色する「ヴェレゾン」がスタートして成熟期に入る。そのため、8月の天候が秋以降の生育を左右すると言っても過言ではない。8月の気候は、最終的な糖度の上がり具合にも大きく影響する。
さて、8月が重要な時期だという点を踏まえて、より踏み込んだ比較をしていこう。
2022年8月の平均気温は24.2℃、月間降水量は144mmで、雨が比較的多かった。これは、雨が少ないヴィンテージだった2020年と比較すると、実に3倍もの降水量であるという。
雨の多さに耐えきれなかったことから、収穫量が減少した品種も出た。また、糖度も上がりづらく、酸も高いまま残った。特に厳しい結果になったのが、ソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールだ。
ソーヴィニヨン・ブランは例年の3分の1の収量になり、ピノ・ノワールはさらに少なくなった。特に9月に収穫を迎える品種が、8月の天候の影響をダイレクトに受けたことがわかる。
▶︎2023年は「暑いヴィンテージ」
続いて、2023年の天候の振り返りに移ろう。8月の平均気温は27.4℃で、月間降水量は100mmを下回った。上山の8月における平均気温は、例年25℃前後。2023年は暑く、雨が降らない夏だったことがわかる。
気温の高さや十分な日照量の影響で、2023年のぶどうは過去に例を見ないほど成熟スピードが早かった。糖度は急激に上昇し、反対に酸は急速に落ちていく。そのため、早めの収穫が必要となった。
ここまで見てきて、2022年と2023年は全く異なる特徴を持つヴィンテージであったことがよくわかるだろう。
「非常にダイナミックな2年だったと感じています。これほど大きな天候の変化は、いまだかつて経験したことがありませんでした。特に2023年の暑さは驚くべきものでしたね。上山市のデータを見る限りでも、これまででもっとも暑い夏だったのは間違いないでしょう」。
▶︎雨よけのカバーを設置
近年降水量が増えていることもあり、圃場では何らかの雨対策を施す必要性が増している。ウッディファーム&ワイナリーでは、2023年からソーヴィニヨン・ブランに簡易的な雨除けである「レインガード」を設置した。
「2019年までは、雨対策としてソーヴィニヨン・ブランすべてに『傘かけ』をしていましたが、2023年は『雨除け』を設置して効果を実感しました。今まででいちばん糖度が高いソーヴィニヨン・ブランができたので、嬉しい限りです」。
雨除けの設置は手間とコストがかかるため、一度に全面はおこなえない。そのため、今後も段階的に導入を進めていく予定だ。
「雨の多い本州でぶどう栽培をするなら、なんらかの雨対策は必要です。特に病気にやられやすい品種に対するケアは欠かせません。その点、アルバリーニョの強さは素晴らしいものがありますね。雨除けをほとんどしていないにもかかわらず、健全なぶどうが育ちます」。
毎年異なる天候に直面し、臨機応変な対応が求められるぶどう栽培。適切な雨対策と雨に強い品種を伸ばすことを柱に、ウッディファーム&ワイナリーは刻々と変化する環境に立ち向かっているのだ。
▶︎遅摘みプティ・マンサンの魅力
上山市におけるプティ・マンサンの可能性を追求しているウッディファーム&ワイナリー。特にこだわっているのが、適切な収穫時期の見極めだ。上山市のプティ・マンサンは収穫時期を遅らせることで魅力が高まるという。
2022年の場合、プティ・マンサンの収穫をおこなったのは、なんと12月に入ってからというのだから驚いてしまう。12月の上山市は降雪もある極寒の季節。そんな時期に収穫するのは大変ではあるが、プティ・マンサンの魅力を引き出すための取り組みなのだとか。
「2022年は夏の気温が低かったために成熟が遅く、収穫時期を後ろ倒しにする必要があると感じていました。プティ・マンサンの収穫は例年、11月中旬くらいにおこなっていましたが、2022年は11月に収穫すると品種特有のフレーバーが不十分だと考えたのです」。
収穫期を後ろ倒しにすれば、果実の成熟度を上げることはできる。だが、相応のリスクがあることも事実だ。大量の雪が降れば棚が壊れてしまうし、房を長く置いておくことで鳥害などが増える可能性も出てくるだろう。
だが2022年の場合、収穫を12月に行なったのは正解だった。成熟度が高く、満足のいく品質のプティ・マンサンが収穫できたのだ。
2022年の成功を踏まえ、2023年も12月初頭に収穫を実施。夏の暑さによって2022年よりも酸はやや落ちたものの、非常に品質のよいぶどうが採れたという。
「上山市のプティ・マンサンは、収穫時期を十分に遅らせることで、品質がピークに達すると感じています。11月に収穫すると糖度は25℃程度ですが、12月まで待つと26〜27℃までに上がり、果実の水分も抜けるため凝縮感が出るのです」。
▶︎リスクに立ち向かい、満足のいく品質を目指す
収穫時期を後ろ倒しにすることでよいぶどうが収穫できるとはいえ、上山市で12月におこなう収穫作業は過酷だ。凍えるような寒さの中、かじかんだ手で作業しなくてはならない。
しかし、過酷な作業を乗り越えた先には、素晴らしい品質の果汁が待っている。金原さんは収穫されたプティ・マンサンの様子を見て「リスクを恐れず待ったかいがあった」と話す。
収穫を遅らせると、雪害や獣害、鳥害リスクが高まるだけでなく、果実の水分が抜けて干しぶどう状態になることで、収量自体も減ってしまう。そのため、必ずしもコストパフォーマンスがよい栽培方法だとは言えないだろう。
「収量が減ると減収につながるため、契約農家に依頼している場合には、無理をいうことはできないでしょう。プティ・マンサンの収穫時期を後ろにするという戦略は、自社栽培のぶどうだからこそ実現できているのです。また、プティ・マンサンだけで1ha近い栽培面積があるからこそ、チャレンジ可能な施策でもあります」。
収穫時期を柔軟に設定できるメリットは、プティ・マンサンに限ったことではない。ウッディファーム&ワイナリーでは、9月中旬から11月中旬にかけて、複数回に分けてアルバリーニョを収穫している。狙ったフレーバーを出すための取り組みで、さまざまななタイミングで収穫することで味わいの繊細な違いを表現できるのだ。
「2022年のアルバリーニョは、4回に分けて収穫しました。早摘みしたときと遅摘みしたとき、それぞれの魅力があるのです」。
『醸造のキーワードは、「混醸」と「アルバリーニョ」』
続いては、2022年のワイン醸造について見ていこう。金原さんは、ふたつのキーワードを上げてくれた。ひとつは「混醸」で、もうひとつは「アルバリーニョのヴィンテージ」だ。
アルバリーニョにおいては過去最大の収量を記録して、醸造面でのチャレンジが自由におこなえた年だったという2022年。
どのようなチャレンジをおこない、どんなワインに仕上がったのか。ウッディファーム&ワイナリーのワイン造りの様子を覗いてみよう。
▶︎混醸の可能性を感じた2022年
ウッディファーム&ワイナリーが2022年におこなったワイン醸造には、今までにはなかった特徴がある。混醸の手法を積極的に取り入れたという点である。
混醸を採用したのは、9月に収穫したピノ・ノワールの品質をカバーする目的だった。2022年のピノ・ノワールは、天候の影響で収量を大きく落とし、雨による病害も多かったのだ。
そのため、丁寧な選果によって残った少数のぶどうを無駄にせず健全に発酵させるための対策として、混醸を採用した。
混醸とは、異なる品種のもろみを混ぜて発酵させることを指す。複数の品種やキュベを混ぜてワインの味を調整する技術には「ブレンド」があるが、ブレンドは出来上がったワインを混ぜ合わせることで、発酵の段階でぶどうを混ぜ合わせる混醸とは異なる。では、2022年のピノ・ノワールは、どうして混醸を採用したのだろうか。
「2022年のピノ・ノワールは病気の房が多かったため、病果を取り除いても微生物が残留していました。そこで、アルバリーニョの酸とphを利用してワインの状態を向上させることにしたのです。酸が高くphが低いアルバリーニョの果実をタンクの表面に敷き詰めることで、微生物の影響を最小限に抑えました」。
まずピノ・ノワールのもろみをタンクに投入し、その上に覆い隠すように10%程度のアルバリーニョのもろみを投入して発酵。また、タンク内をかき混ぜる「櫂(かい)入れはおこなわず自然に発酵させることで、微生物の影響を抑えることに成功した。
櫂入れしなかったのは、ピノ・ノワールの赤い色素をアルバリーニョに移さないためでもある。もろみを一緒にしてしまうことで、全体の色調が薄くなることを避けたのだ。
混醸をおこなった結果、2022年のピノ・ノワールは例年とは異なるフレーバーのワインに仕上がった。ほかのヴィンテージと比較して楽しむのもよいだろう。
混醸の可能性を見出した金原さんは、2023年の一部ワインにも混醸のテクニックを使用。2023年ヴィンテージのリリースも楽しみにしたい。
▶︎2022年は「アルバリーニョのヴィンテージ」
「2022年はアルバリーニョの品質が素晴らしいヴィンテージでした。収量も例年の4倍ほどありましたね。傘かけや雨除けなしでも非常にきれいな状態のぶどうができ、改めてアルバリーニョの雨に対する強さを実感できました」。
2022年のアルバリーニョはなんと、8t近くもの収量を記録。そのため、これまで試せなかった醸造方法にもチャレンジできた。いくつかのタイミングで収穫したアルバリーニョを収穫して個別に仕込んだのだ。それぞれのフレーバーを細かく確認しながら醸造に取り組だという。
成熟段階の異なる6種類ものアルバリーニョをブレンドしたワインが、「 Albarino(アルバリーニョ) 2022」だ。早摘みと遅摘みの香りが混ざりあった、爽やかながらも深みある味わいに仕上がった。
「これぞ東北のアルバリーニョだと感じていただける味わいでした。飲んでいただいた方からの評判も高く、すぐに完売した自信作です」。
また、遅摘みのアルバリーニョを使用した「Albarino Late Harvest Dry(アルバリーニョ遅摘み) 2022」も素晴らしい出来だった。アルバリーニョとプティ・マンサンとブレンドしたことで、「 Albarino(アルバリーニョ) 2022」とは明確な違いが感じられるのが特徴だ。
「ふたつの銘柄のフレーバーにははっきりと違いがあらわれました。同じ地域のぶどうでも、収穫時期が違うだけでこれほど味に違いが出るというのは新たな発見でしたね」。
「Albarino Late Harvest Dry(アルバリーニョ遅摘み) 2022」は公式オンラインストアから購入可能なので、ぜひお買い求めいただきたい。
紹介した2種類のアルバリーニョのワインを、味わいの面で比較してみよう。
レギュラータイプである「 Albarino(アルバリーニョ) 2022」は、レモンやレモンピール、硬い桃といった「アルバリーニョらしさ」がしっかりと感じられる。山形のアルバリーニョのピュアさを伝えることに焦点を絞った造りだ。
一方、「Albarino Late Harvest Dry(アルバリーニョ遅摘み) 2022」には、純粋なアルバリーニョにはあまり見られない香りも感じられる。具体的には、樽香とジンジャーが合わさったウッディーでスパイシーなフレーバー、白い花の香りなど。クリアな印象のアルバリーニョとはひと味違う複雑味が魅力だ。
また、プティ・マンサンの厚みが加わったことで、スパイシーさを感じやすいワインになったという。アルコール度数も13%あり、非常に力強い味わいだといえる。
「『Albarino Late Harvest Dry(アルバリーニョ遅摘み) 2022』は、濃い味付けの料理に合わせることができます。例えば、油淋鶏のような甘辛味付けの料理や、バンバンジーのようなしっかりとした味付けのものなどですね。中華やエスニックとの相性がよいと感じています。多少の癖がある料理と合わせても、味わいのよさを感じられるでしょう」。
夏は冷やして、冬場は常温で。いろいろな料理と一緒に楽しんでいただきたい。
『新しい取り組みと、変わらず目指すもの』
最後のテーマは、ウッディファーム&ワイナリーの「これから」について。
2023年に宿泊施設をオープンし、新たな一歩を踏み出したウッディファーム&ワイナリー。ワイン造りに関しても、これまでの経験を糧にさらなる高みを目指す。
また、今後実施を検討しているイベント等の構想や、ワイン造りに関する目標についても紹介していきたい。
▶︎「宿泊」×「ワイナリー」で盛り上げる
2023年9月、ウッディファーム&ワイナリーに宿泊施設がオープンした。その名も「蔵王ウッディファーム ワイナリーコテージ」。このコテージがオープンしたことで、ウッディファーム&ワイナリーは、山形県のワイナリーで唯一の「泊まれるワイナリー」となった。
「どのような企画を展開していくかなどは模索中です。宿泊込みでワイナリーを楽しめるような取り組みをしていきたいですね」。
コテージの周りに垣根のぶどう畑を作ったり、宿泊客と一緒になって楽しめるイベントを開催したり。ウッディファーム&ワイナリーを存分に楽むことができる構想が練られている。今後の展開に大いに期待したい。
▶︎品質をキープできるワイナリーでありたい
ワイン造りの面では、常に品質をキープし、さらに高いレベルを目指していきたいと考えている金原さん。今後のワイン造りの展望について、次のように話してくれた。
「カベルネ・ソーヴィニヨンやプティ・マンサン、アルバリーニョといった主力品種のワインを、ひとりでも多くの人に伝えることがミッションだと考えています。『山形のプティ・マンサンといえば、ウッディファームだ』と言っていただける存在になれるよう、力を尽くしていきます」。
ウッディファーム&ワイナリーが最終的に目指すのは「ブラインド・テイスティングをしても、ウッディファームのワインだとわかる品質のワイン」を造ること。上山市らしさとウッディファーム&ワイナリーらしさを安定的に確立させ、より一層の品質向上を目指す。
『まとめ』
雨と曇りの2022年、暑さの厳しい2023年。対極の性質を持つふたつのヴィンテージを乗り越えて、ウッディファーム&ワイナリーは多くの気付きを得た。そして、混醸や異なる成熟度合いのぶどうを使ったワイン造りなど、新たな技術に果敢に挑戦したのだ。
「激動の2年を経験したからこそ、どんなヴィンテージであっても安定した品質のワインを造りたいという思いを新たにしました。これからも引き続き、『これこそがウッディファーム&ワイナリーのワインの品質である』と提示できる、再現性のあるワイン造りを目指していきたいです」。
ウッディファーム&ワイナリーらしいワインの味わいに興味をもったら、ぜひ上山市まで足を伸ばし、ワイナリーを直接訪れてみて欲しい。ワイナリーショップには専門のスタッフが常駐し、定期的にテイスティングできる環境が整えられている。
現地を訪れるなら、ぶどうがたわわに実る季節を選ぶのがおすすめだ。豊かな大自然の中ぶどう畑がどこまでも広がる美しい景観と、上山市のテロワールが表現された美味しいワインを楽しむことができるだろう。
基本情報
名称 | ウッディファーム&ワイナリー |
所在地 | 〒999-3212 山形県上山市原口829 |
アクセス | 電車 JRかみのやま温泉駅から車・タクシーで15分 車 かみのやま温泉ICから車で24分 |
HP | http://www.woodyfarm.com/ |