追跡!ワイナリー最新情報!『さっぽろ藤野ワイナリー』札幌の地でナチュラルワインを醸す実力派ワイナリーの1年

北海道の中心都市である札幌市。「さっぽろ藤野ワイナリー」は、札幌の市街地から車で30分ほどの、美しい田園風景の中にある。「体に優しいワイン」の醸造を目指し、2009年に創業したワイナリーだ。

添加物や亜硫酸をできる限り使わない自然派ワインを造るワイナリーでありながら、醸造量とラインナップが多いのが特徴。北の大地で、意欲的にナチュラルワイン造りをおこなっている。また、ワイン発祥の地ジョージアで伝統的に使われてきた素焼きの甕(かめ)である「クヴェヴリ」を使うなど、先進的な試みにも挑戦する。

さっぽろ藤野ワイナリーを立ち上げたのは、伊與部淑惠さんと、妹の佐藤トモ子さんの姉妹。素敵なマダムたちが率いるワイナリーは非常に風通しのよい社風で、スタッフたちは伸び伸びと力を発揮している。

今回は、醸造担当の浦本忠幸さんに、2021年のぶどう栽培とワイン醸造についてお話を伺った。今後の展望についてもお話いただいたので、あわせて紹介していこう。

『2021年のぶどう栽培』

さっぽろ藤野ワイナリーの2021年は、天候に恵まれた年だった。特に、開花時期となる7月の天候がよかったのだ。

7月に気温がしっかりと上がり、乾燥していたために花付きがよく、早い段階で豊作が予想された。

▶︎2週間早かった収穫時期

その後も順調に育ったぶどうは、収量も文句なし。ただし、困った点もあった。

「2021年は例年よりも、収穫時期が2週間も早く訪れました。これほど早く収穫したのは初めてのことで、かなり慌ただしいスケジュールでの作業になりましたね」。

気候の変動により、ぶどうの生育ステージのタイミングは変化しつつある。だが2021年は、あまりに早くぶどうが熟したため、念の為に収穫前の果実をしっかりと分析にかけた。糖度や酸度の値を確認するためだ。数値は確かに、収穫時期であることを示したが、生育期間があまりに短いことに、浦本さんは不安を感じたという。

「数値が目標をクリアしていても、本当にぶどうに味がのっているか、不安はありました。分析した結果だけが、ぶどうをワインにしたときの味を決めるとは限らないからです。しかし、収穫を遅らせると灰色かび病発生のリスクが高まり、収穫や選果の手間もかかります。その時のさまざまな状況を鑑みて、早めではありますが収穫することを決めました」。

▶︎品種の切り替えは慎重に

本来は冷涼な気候の札幌でも、近年では暑い夏が続いている。だが、問題視すべきは、気温の上昇だけではない。温暖化はもちろん、年ごとの気候が安定しない異常気象も不安要素なのだ。

「ここ数年のような、暑すぎる夏がずっと続くかどうかはわかりません。気温が上昇したことで、これまで北海道ではしっかりと熟すのが難しかった品種の栽培が可能になってきているのは事実かもしれません。しかし、栽培する品種を大きく変えることには慎重さが必要だとも考えています」。

さっぽろ藤野ワイナリーでは、変わりつつある気候を観察し、今後の対策についてしっかりと見極めている最中だ。その背景には、気温の上昇がぶどう栽培に与える、北海道ならではの理由がある。

ぶどうは品種ごとに異なる特性を持つ。土地にあった品種を選ぶことが大切なのは、土地ごとに異なる気候に順応するかどうかが重要だからだ。寒冷地でのぶどう栽培では、耐寒性が特に重視される。だが、温暖化しているというのに、なぜ耐寒性が必要なのだろうか?

「気温が上昇すると、積雪量が少なくなることが懸念されます。北海道のぶどう栽培では、冬季はぶどうの樹を倒して、雪ですっぽりと覆って越冬させます。外気温がマイナス10度以下でも、雪の中はマイナス1〜2度なので、凍害にあう心配はありません。しかし、積雪量が減ると、雪の下で越冬させられないので、凍害によってダメージを受けてしまうのです」。

過去には経験していないような気候が訪れるかもしれない今、さっぽろ藤野ワイナリーでは慎重に品種選定をおこない、少しずつ改植を進めている。

自社畑のぶどう以外にも、北海道各地の契約農家のぶどうも使ってワインを造っているため、異常気象で被害を受けるエリアがありながらも、ほかのエリアのぶどうでなんとか必要な原料を確保してきている。

「ぶどうの産地が分散していることで、ワイナリーとしては助かっていますが、それぞれの農家さんにとっては、厳しい年もあるのです。そのあたりをどうフォローできるかも、うちのワイナリーの今後の課題だと考えています」。

『2021年のワイン醸造』

ナチュラルなワイン造りがモットーのさっぽろ藤野ワイナリーでは、仕込み時期には涼しくなる、外気温が低い北海道の特性を生かして醸造所やタンクの温度管理なしで作業をするのが基本だ。

収穫時期が例年よりも2週間も早かった2021年は、これまでよりも醸造所内の温度が高い状態で仕込みをおこなった。そのため、いつもより発酵が早く進んだのが特徴だったという。

▶︎新たなスタートになったヴィンテージ

「気温が高いといっても、ある程度の温度の範囲なので、そこまで大きな影響があったわけではありません。北海道は冷涼な気候なので、余計な微生物の動きが抑えられます。また、発酵がゆっくり進むため副産物がいろいろと生まれ、味わいに深みが増すという一面もあります。そのため、野生酵母が使いやすい環境なのです。しかし、2021年はいつもより発酵が早く進んだので、これまで通りの感覚でやっているとどこかで失敗したり、大事なところを取りこぼしたりするリスクも感じました」。

発酵が通常よりも早く進むことには、メリットとデメリットの両方があるはずだが、いずれも未知数だった。しかし、これから先はむしろ、2021年の発酵のスピードが札幌のワイン醸造のスタンダードになっていくのかもしれない。その意味では2021年は、さっぽろ藤野ワイナリーにとって、新たなスタートの年だったのだ。

▶︎2021年ヴィンテージのワイン

2021年ヴィンテージのワインの出来を、浦本さんに尋ねてみた。

「まだ熟成しているものが多いのではっきりしたことは言えませんが、全体的にすごくよいワインになりそうな感触はありますね。2021年は仕込み量を30t程度におさえたので、醸造管理を丁寧におこなえました。また、熟度が高く、しっかり酸も残った高品質なぶどうが収穫できたことが何よりも大きな要因です」。

ワインの仕上がりは、ぶどうの品質でほとんどが決まるといっても過言ではない。2021年は満足のいく品質のぶどうが収穫できた。なおかつ、これまでの経験やチームワークにより収穫時期が早まったことや、仕込みの時期に外気温が高かったことにも対応できたことで、ワインも高品質に仕上がる見込みなのだ。

「ぶどうの品質がよい年は、ほとんど何もしなくても、よいワインになるんです。逆に、ぶどうの品質が厳しい年ほど、自分たちなりの醸造テクニックを駆使することになります。飲み手の方は、その年の気候を一緒に経験しているのでよくも悪くもすべてが伝わりますし、そこもある意味ひとつのやりがいなのかもしれません」。

さっぽろ藤野ワイナリーでは、手作業で除梗し、破砕していない状態でぶどうをタンクに入れる。このとき、温度が低いとゆっくりと発酵が進むが、温度が高いと発酵が早く進み、ぶどうが自重でどんどん潰れて成分が抽出される。そのため、これまでと同じ期間醸すと、えぐみなどが出てきてしまう可能性があるのだ。

だが、2021年のぶどうはポテンシャルが高く、抽出が強目でも耐えられる品質だったので、例年に近い醸し期間で結果的には問題がなかった。強めに抽出したことで、ボディがしっかりとして果実味もある複雑さが期待できる。

醸造の工程自体は変わっていないが、変化した点があることを意識しながら進めることが大切だったと語ってくれた浦本さん。

ぶどう本来の持つ力でよいナチュラルワインに仕上がった、さっぽろ藤野ワイナリーの2021年ヴィンテージを楽しみにしたい。

▶︎さっぽろ藤野ワイナリーらしさを大切に

2021年、さっぽろ藤野ワイナリーでは設備面での変化があった。ステンレスタンクを増やし、高性能のポンプも導入したのだ。新しい機材は作業の効率を上げ、スタッフの負担を軽減した。

だが浦本さんは、さっぽろ藤野ワイナリーの原点ともいえる、最低限の樹脂製タンクとプレス機だけでおこなうワイン造りにも魅力があると感じている。

最近新しく設立されたワイナリーでは、創業時からステンレスタンクなどクリーンな設備が整っていることが多い。だが、さっぽろ藤野ワイナリーの場合は、設備が整った状態でのスタートではなかったのだ。

「僕は逆に、『足るを知る姿勢』がうちのワイナリーのよさだとも思っています。必要最低限の設備を使ってワインを醸造するスタイルが、さっぽろ藤野ワイナリーらしいと感じるのです。もちろん今回設備が整ったことで、クリーンなワインが造りやすくなり、選択肢が増えたことはありがたいですね。ワインにとって何が本当によいのか、ワイナリーとしての軸は変えずに、試行錯誤していきたいです」。

限られた設備で、工夫しながら造るワインだからこそのよさもあるということなのだろう。浦本さんの優れた醸造家としての現在は、チャレンジングな環境で得た経験が作り上げているのかもしれない。

▶︎クヴェヴリでの発酵と熟成

さっぽろ藤野ワイナリーは、「クヴェヴリ」でのワイン造りにも力を入れている。クヴェヴリはジョージアで伝統的に使われてきた、ワイン用の素焼きの甕(かめ)だ。ステンレスタンクなどに比べると、素焼きの容器はざらざらとしていて隙間があるため、微生物にとっては住みやすい環境だといわれる。

さっぽろ藤野ワイナリーのクヴェヴリの活用方法を説明しよう。まず、白ワインであればぶどうの果実をそのままクヴェヴリに入れて発酵させ、半年ほど置いておく。つまり、醸し用の容器としてクヴェヴリを使うのだ。

一方、赤ワインの場合には、熟成容器としてクヴェヴリを使っている。同じ赤ワインを樽とクヴェヴリにそれぞれ入れて熟成させ、比較をおこなっている。

「クヴェヴリで熟成させるほうがピュアな味わいが出て、果実感も残ります。また、樽香がつかないぶん、ワインのシンプルな味わいをよりダイレクトに感じられますね」。

昔ながらのジョージアの手法では、クヴェヴリは醸し用の容器として使われる。しかし、さっぽろ藤野ワイナリーでは既成概念にとらわれずに、独自の経験と感性でクヴェヴリを使い、新たなワイン造りの潮流を生み出している。

さっぽろ藤野ワイナリーのクヴェヴリのワインは、2019年のヴィンテージがリリースを待っている状態だ。品種は、白ワインがケルナー、赤ワインがツヴァイゲルトレーベ。どちらも2022年中にはリリースされる予定とのことなので、楽しみに待ちたい。

▶︎2021年ヴィンテージのおすすめワイン

さっぽろ藤野ワイナリーの2021年ヴィンテージのワインの中で、おすすめの赤ワインを尋ねた。浦本さんが挙げてくれたのは、余市の中井観光農園で栽培された、ツヴァイゲルトレーベの樽熟成ワイン「NAKAI rouge」だ。

「改植した若い樹から収穫したぶどうですが、非常によい味わいに仕上がっています。品種特性であるスパイシーさとともに、果実感を中心に、軽やかさも意識して造っています。合わせる料理はシンプルな焼き鳥などがよいと思いますよ」。

また、浦本さんおすすめの白ワインは、三笠市でとれたバッカスのワイン「que sera」。さっぽろ藤野ワイナリーで取り扱うバッカスは、特徴的な地理条件も重なり、貴腐菌が付きやすいのが特徴だ。そのため、貴腐ぶどうならではの蜂蜜のような香りと甘い味わい、マスカット系のフレッシュな果実味もあるワインに仕上がっている。

「華やかな香りで果実感も強く、重すぎないので、家族や友人が集まるシーンでワイワイ楽しく飲んでいただきたいですね。足付きのワイングラスではなく、カジュアルなグラスで飲んでも美味しいと思います」。

バッカスのワインはスティルワインだが、微炭酸でやや濁りがある造り。ワイン好きの家族や仲間と一緒に、ぜひ楽しみたい銘柄だ。

『さっぽろ藤野ワイナリーのこれから』

さっぽろ藤野ワイナリーは、2022年にワイナリーのロゴと、ワインのエチケットを一新する。また、この機会にブランドイメージも変え、10年、20年後のワイナリーが目指す姿に向かって進む。

「2022年以降にさっぽろ藤野ワイナリーがリリースするワインは、これまでのイメージから、少しずつ変わる予定です。どんなふうに変わるのかを楽しみにしていただきたいですね。また、ワイナリーの後継者の育成についても考え始めました。ぶどう栽培とワイン醸造をやりたいという若い人が勉強できる場所をつくれたらと、みんなで話し合っています」。

▶︎自社畑の拡大と、改植の推進

2019年頃から、自社畑を広げる取り組みも開始した。新たに植栽したぶどうが収穫できるようになれば、ワイナリーとして、また新たなステージを迎えることになるだろう。

「さっぽろ藤野ワイナリーとしてやりたいことが、醸造だけではなく、ぶどう栽培からこだわっていけるのは嬉しいですね。また、契約農家さんとともに樹の改植も少しずつ進めているので、ソーヴィニヨン・ブランやピノ・グリなども収穫でき始めています。新たな品種が増えたことに、期待と面白さを感じています」。

『まとめ』

新型コロナウイルス流行以前には、ワイナリー併設のカフェレストラン「Vigne(ヴィーニュ)」で定期的にワイン会や演奏会などのイベントを開催してきたさっぽろ藤野ワイナリー。以前のようにイベントが開催できれば、それが何より嬉しいと浦本さんは話してくれた。

「僕らは基本的には畑にいて、仕込みのときには、蔵にこもりきりです。すると、ワインとは、人が集まる楽しい場のためにあるものだということを忘れがちになってしまうのです。お客様に楽しんでもらうためにワインを造るという原点に立ち返るためにも、イベントでお客様に直接お会いしていろいろなご意見を聞くことは、大きなフィードバックになります」。

酒屋や飲食店が多い札幌という街にワイナリーがあることにも、さっぽろ藤野ワイナリーは大きな可能性を感じている。

すぐ近くに消費者がいることで、酸化防止剤を使わない、よりナチュラルなワイン造りも可能になる。地元のお客様に、よりナチュラルで品質のよいワインを楽しんでもらうことが、ワイナリーの存在意義なのだ。

札幌の地で、こだわり抜いたワインを造ってきたさっぽろ藤野ワイナリー。今後のさらなる飛躍に注目していきたい。


基本情報

名称さっぽろ藤野ワイナリー
所在地〒061-2271
北海道札幌市南区藤野670−1
アクセス【お車でお越しの方】
国道230号線を札幌市街地方面から来ると、藤野3条2丁目信号左折、道なり2km先右側(看板あり)
【札幌駅バスターミナルから】
じょうてつバス定山渓線 [8] から定山渓車庫前、豊滝行き「藤野3条2丁目 下車 徒歩15分」。
じょうてつバス定山渓線 [7] から藤野4条11町目行き「藤野4条2丁目 下車 徒歩7分」。
【地下鉄南北線真駒内駅から】
じょうてつバス真駒内線 [12] 定山渓車庫前、藤野4条11丁目行き「藤野4条2丁目 下車 徒歩7分」。
HPhttp://www.vm-net.ne.jp/elk/fujino/index.html

関連記事

  1. 『中伊豆ワイナリー シャトー T.S』ワイン・レジャー・料理全てが楽しめる地上の楽園

  2. 追跡!ワイナリー最新情報!『サントリー登美の丘ワイナリー』新ブランド「FROM FARM」を掲げ、さらなる進化を続ける

  3. 『スペンサーズ・ヴィンヤーズ』厳しい収量制限で「美味しさ」を提供するワイナリー

  4. 『都城ワイナリー』天孫降臨の地で、100年続くワイン造りを目指す

  5. 『はこだてわいん』ISO9001を取得! 美味しくて、毎日飲める価格帯のワインを提供

  6. 『シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー』145年の歴史を守りながら果敢に挑戦し続ける