追跡!ワイナリー最新情報!『アルカンヴィーニュ』千曲川ワインアカデミー卒業生に交流の場を

日本のワイナリーの中で、特に異彩を放つ存在の「アルカンヴィーニュ」。長野県東御市にあるアルカンヴィーニュは、ワインを醸造するだけなく、「ワイン醸造とワイナリー経営の学び舎」である「千曲川ワインアカデミー」としての活動も主軸としている。ぶどう栽培に始まりワイナリーの経営方法までを体系的に学べる、日本における数少ない教育機関だ。

アルカンヴィーニュがワイナリー経営の指導を推進するのは、千曲川ワインバレー構想を実現するためだ。農業中心の豊かな地域社会を「ワイン産業」で叶えるために、日本のワイン産業活性化につながる活動をおこなっている。

アルカンヴィーニュの醸造責任者であり、取締役も務める小西超さんに、2021年のアルカンヴィーニュと千曲川ワインアカデミーの活動についてお話を伺った。

さっそく、最新エピソードを紹介していこう。

『「千曲川ワインアカデミー」の2021年 コロナ禍が直撃』

まずはアルカンヴィーニュの「千曲川ワインアカデミー」としての活動を追いたい。

2021年はどのような状況だったのだろうか。授業や受講生の様子、そして2021年ならではの新しい試みについて見ていきたい。

▶︎人数を縮小して開催したアカデミー 初のオンライン授業も開講

2021年の千曲川ワインアカデミーの様子を一言で表現すると、「新型コロナウイルスの影響が大きく響いた1年」だったと言える。ひとつの空間に人が集まる状況がよしとされない風潮の中、大幅に定員数を減らして開講されることになったのだ。

「2021年期は、アカデミーの募集人数を半分に減らしました。そのほかにオンライン会員を募集して、配信授業もおこなっていました」。

コロナ禍の情勢に合った形で、オンラインも取り入れた授業を開催することにしたのだ。

安易な想像だと、オンライン授業は非常に便利に思える。実際のところ、遠方の居住者や平日仕事が忙しい方々にとっては非常に好評だったのだそうだ。だが、難しい点もある。

ぶどう栽培とワイン醸造には、実地での経験が欠かせない。また、生徒同士や講師との人間関係の構築が大切だと考え、2022年はオンライン会員は募集しなかった。

「オンライン授業には遠隔地からも参加できるというメリットがあります。そのため、将来的にはオンライン授業を復活させる可能性もありますよ。2021年には北海道、2022年には沖縄から参加してくれた参加者もいらっしゃいました。日本全国にワインを造りたいと思う人がいることの重要性を、改めて実感しています」。

ワインを造りたい、ワイナリーを始めたい。内に留めておけないほどの熱意は、どんなに離れた場所だったとしても学びの場を求める。アルカンヴィーニュは、ワインへの情熱ある人の成長を全力でサポートする。

規模を縮小せざるを得なかった2021年。新型コロナウイルス流行下での運営の難しさを実感した1年だったが、この経験が「学び場所を提供する大切さ」を改めて教えてくれることになった。

▶︎アカデミーのつながりをより強固に

「アルカンヴィーニュで学んだ人達のつながりは非常に強いものがあります。特に同期メンバーの横のつながりは強固です」。

アルカンヴィーニュの千曲川ワインアカデミーでは、1年間でワイン造りやワイナリー経営を体系的に学ぶ。年齢、性別、職業や役職も千差万別の生徒達は「ワインを学びたい」という同じ目的に向かって力を合わせる。1年間の学びの月日は、同期の生徒たちを固い絆で結ぶのだ。

同期のつながりは、アルカンヴィーニュを卒業してからも続くケースが多い。ワイン造りやそのほかの活動で、連絡を取り合いながら助け合っている姿が印象的だという。

「同期の卒業生たちは、ワイナリーやぶどう畑を始めたときに協力し合っているようです。『一緒にワイン造りを学んだ』というつながりで、関係が長く続くのは素敵なことですよね。一生大切にできる同志を作れる場を提供できているのは、非常に誇らしいことです」。

しかし小西さんは、さらなる「卒業生同士のつながり」を提供したいとも話す。

「同期間のつながりは太いのですが、期を越えて交流することがほとんどないことを残念に感じてきました。そこで2021年からは、アルカンヴィーニュ卒業生全員の交流機会を増やす企画を進めてきました」。

2022年に8期目の募集を迎えた千曲川ワインアカデミー。7期までを合わせると、卒業生の数はおよそ200名にものぼる。同じ志を持った200名をつなげるためのひとつ目の試みが、「アルカンヴィーニュ卒業生LINEグループ」の立ち上げだ。

卒業生たちのLINEグループでは、自由な情報共有がおこなえる。同期の枠を越えてつながりを持つことで、卒業生全員が持つ独自の知識や経験を、よりたくさんの仲間に伝えることが可能になった。

「将来的には、卒業生全体で集まってイベントを開きたいですね。コロナ禍が落ち着いたら、同窓会のような場の開催も考えています」。

同窓会は、アルカンヴィーニュの卒業生が所属する団体「千曲川ワインアカデミー倶楽部」を中心に行う予定だ。千曲川ワインアカデミー倶楽部は、卒業生の同窓会機能と、卒業生のワインの販促活動を目的として結成された。

▶︎アルカンヴィーニュ卒業生による様々な企画

アルカンヴィーニュの卒業生には、さまざまな職種、経歴の方々がいるため、企画力と行動力は十分。歴代卒業生の中には、優秀なメンバーも数多い。豊富な人材が集まっているため、千曲川ワインアカデミー倶楽部は多様なアイデアが実現できる環境にある。

「卒業生が独自に、メタバース(仮想空間)でのワイン会などを開催しています。私やほかの卒業生がゲストとして呼ばれたり、仮想空間内でアバターになって会話したりするなど、面白いことがたくさんおこなわれているんですよ」。

新しいことをしたい、さまざまなことにチャレンジしたい。そういった意欲的な人材が集まる卒業生のコミュニティは、非常に刺激的だ。現状はオンライン上での集まりが多いが、リアルのつながりを増やせれば、より団体としての動きが活発になるだろう。

アルカンヴィーニュとしてできるのは、卒業生たちが活動しやすい場を提供すること。人と人とを結び付けられる存在でありたいと、小西さんは話してくれた。

アルカンヴィーニュはこれからも、ワイン造りを学ぶ人と、日本ワインを広める人を増やすため「縁の下の力持ち」的存在であり続ける。

『アルカンヴィーニュとしてのイベント活動とワイン造り』

続いては、アルカンヴィーニュが2021年に活動した内容を見ていこう。参加したイベントやワイン醸造について紹介していきたい。

▶︎参加イベントはオンラインが中心 ネットを活用してPR

2021年から2022年にかけてアルカンヴィーニュが参加したイベントは、大部分がオンライン開催のものだった。

例えば2021年7月に開催された、銀座NAGANO×東急百貨店「長野ワインオンラインセミナー」がある。対象のワインを購入したお客様だけが参加できる、特別なイベントだ。

そのほかにも、多くのオンラインイベントに出演した。またワイン好き芸能人として知られる「髭男爵 ひぐち君」開催のオンラインワインサロンに、アルカンヴィーニュ卒業生が参加したこともあった。

「新型コロナウイルス流行以降は、リアルでのイベントはほとんどが中止になっています。そういった状況の中でも、消費者との接点を絶やさずに持ち続けることはとても大切です」。

消費者との接点のひとつとして、SNSも重視しているアルカンヴィーニュ。InstagramやFacebookで定期的に情報発信をしている。

2022年に入り、ようやく少しずつイベントが再開できているとのこと。ワイナリーに赴き、ぶどうやワインに直接触れることでしか味わえないものがあるのも確かだ。アルカンヴィーニュのイベントの告知に注目し、ぜひ積極的に参加してみてはいかがだろうか。

▶︎アルカンヴィーニュ2021年の委託醸造

アルカンヴィーニュでは、ほかのワイナリーからの委託醸造も請け負っている。委託の依頼があるのは千曲川ワインアカデミーの卒業生が多い。数千本単位での委託醸造を依頼されるケースもあるそうだ。

積極的に委託醸造を請け負うアルカンヴィーニュだが、小西さんには懸念点もある。それは「ナチュラルワイン」として醸造して欲しいという要望が、以前よりさらに増えていることだ。

「世界的にもナチュラルワインが流行していますからね。しかし、ナチュラルワインのぶどう栽培や醸造には一定のリスクがあり、どちらかというとイレギュラーなワイン造りです」。

必ずしもナチュラルワインが悪いわけではない。しかし、スタンダードなワイン造りを経験しないまま、安易にナチュラルワインに飛びつくことに警鐘を鳴らすのだ。

ナチュラルワイン醸造を目指す人には、無農薬栽培に挑戦した結果、ぶどうを全滅させてしまった例もあるという。「挑戦したい気持ちはわかるのですが、健全なぶどうが収穫できなければ、意味がなくなってしまいます」。

ナチュラルワインを造るには、ぶどう栽培に関する知識や科学的な醸造知識、そしてなによりも経験が必要だ。まずは日本におけるぶどう栽培とワイン醸造の従来的な方法が満足にできなければ、次のステップに進むことは難しい。

「どんなことでも、基本は大切です。ワイン造りにおいても同様ですね。まずはスタンダードに造る経験が必要だと思っています」。

もちろん、注意点を理解した上で、それでも挑戦したいという造り手もいる。その場合には万が一のリスクを説明し、理解を得てから協力している。

ワイン造りのプロとして、最前線で活躍する小西さんの言葉には重みがある。アルカンヴィーニュの委託醸造は、依頼者に寄り添いながらも、日本でワイン造りをする覚悟を教えてくれるのだ。

『アルカンヴィーニュが目指すもの 2022年からの目標』

最後のテーマは、アルカンヴィーニュの2022年以降の目標についてだ。着手していきたい企画や具体的な目標、目指すワイナリーの姿について伺った。

アルカンヴィーニュでは、委託醸造だけではなく、オリジナルのワインやスパークリングワイン、シードルも造っている。

兄弟ワイナリーであるヴィラデストワイナリーではできない、新たなブレンドにチャレンジをしたり、長野県産原料にこだわりつつ、ヴィラデストよりもカジュアルな価格帯のワインを造っているのが特徴だ。

そんなアルカンヴィーニュは今後、何を目指すのか。さっそく見ていこう。

▶︎日本ワインのシェアはまだまだ

小西さんは、日本ワインをさらに日本中に広めたいと話す。2022年以降も引き続き、アルカンヴィーニュは日本ワインの普及のために尽力する。

ここで、日本ワインの現状について解説しておきたい。

日本で楽しまれているワインのうち、「日本ワイン」の割合は何%だかご存知だろうか?その答えはなんと、たったの5%未満。日本で飲まれるワインのほとんどが、輸入ワインもしくは輸入原料で造られたワインなのだ。

「まだまだワイン全体に対する日本ワインのシェアは少ないのが現状です。もっと日本中の皆さんに日本ワインを飲んでもらいたい。そのためには、日本ワインの質をさらに上げていく必要があります」。

質を上げると話す小西さんだが、すでに最近の10〜20年で日本ワインの品質は劇的に向上している。以前は「日本ワインで3,000円以上は高すぎる」と言われていた時代があったが、現在では海外ワインと同様の価格設定でも手に取ってもらえることが増えた。日本人の「日本ワイン」に対する感覚は、確実によい方へ変化していると考えてよい。

「アルカンヴィーニュが目指すのは、さらに品質の高い日本ワインです。海外の名醸地で造られたワインと肩を並べるような、それでいて、日本らしい個性を発揮した、おいしいワインをつくりたいのです」。

▶︎ワイナリーを集積して一大産地を形成したい

「千曲川周辺の地域でも新規ワイナリーの件数は増えていますが、飽和しているわけではありません。増える余地があるのだから、もっと小規模ワイナリーが集まってもよいはずです」。

日本におけるワイナリーの件数は着実に増加しているが、小西さんは「まだ足りない」と話す。これほどまでにワイナリーを集めたい理由は、集まることによるメリットが計り知れないからだ。

海外事例を見てみよう。海外のワイン産地を見ると、同地域内に100〜200件ものワイナリーが集まっている。するとどうなるか?地域の周辺に、ワインに関する新たな事業者が生まれるのだ。瓶詰め専門業者や倉庫専門業者、大型機械を使用した農作業の業者など、分業が進む。するとワイナリーの生産効率が向上し、より手頃な価格で高品質なワインを提供できる。もちろん雇用の創出効果もある。

小西さんはもうひとつのメリットについても言及する。それは「ワイン産地」としての存在感が増すというメリットだ。千曲川周辺が日本ワインの中心地になれば、多様なワイナリーが集まり、個性をより自由に発信できるはずだ。

「近い将来、日本ワインはさらに面白くなるでしょう。いや、面白くしていきたいですね」。小西さんの決意は固い。

『まとめ』

アルカンヴィーニュの2021年は、コロナの影響を大きく受けた年だった。千曲川ワインアカデミーの定員数を例年の半分にし、オンライン授業を開講するなど新しい試みにチャレンジ。オンライン授業は利便性から好評を受けた一方で、直接ぶどうにふれることができないというオンラインならではの難しさも実感することになった。

だが、「リアルの活動」が減少したからこそ取り組んだことも多い。ひとつは、卒業生コミュニティをつなげるためのLINEグループ作成や活動支援。そしてもうひとつは、オンラインイベントへの参加だ。例年はできなかったことに取り組めた、新たな発見があった1年になった。

今後も、アルカンヴィーニュは日本ワインのさらなる発展のために力を尽くす。アルカンヴィーニュと、日本ワインのより一層の躍進に期待したい。


基本情報

名称アルカンヴィーニュ
所在地〒389−0505 
長野県東御市和6667
アクセス【電車】
○長野(北陸)新幹線「上田駅」下車 (東京〜上田間 約1時間30分)
上田駅よりタクシーにて約30分
【車】
○上信越自動車道「東部湯の丸IC」で下り、料金所すぐの「東部湯の丸IC入口」信号を左折、県道4号線を再び左折して管平方向へ向かい「田沢」信号を右折、料金所出口より約15分
HPhttps://jw-arc.co.jp/

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