追跡!ワイナリー最新情報!『雪川醸造』新銘柄が続々と登場し、新たな取り組みにも積極的

石狩川水系の豊かな水と大自然に囲まれた場所、北海道上川郡東川町にある「雪川醸造」。雪川醸造の代表である山平哲也さんは、東川町地域おこし協力隊のワインづくり担当でもある。

以前は東京のIT企業に勤務していた山平さんは、類まれなる行動力と企画力、実行力を駆使し、構想からわずか1年半でワイナリーを立ち上げた。

ぶどうの栽培や醸造の経験がないままワイナリーを始めた山平さんだが、ファーストヴィンテージでつくった「スノー リバー アンスパークリング ロザート 2021」は、「サクラアワード2022」でゴールドを受賞した実績を持つ。

今回見ていくのは、雪川醸造の2022年と2023年について。激動のファーストヴィンテージを終え、次に目指すものとは?

栽培・醸造と、そのほかの取り組みについて、山平さんにお話を伺った。

『2022年以降の取り組み』

最初に見ていくのは、雪川醸造の2022年以降のぶどう栽培。天候の特徴や、栽培管理で心がけたことなどを紹介していこう。

▶︎販売や栽培の仕組みづくりに奔走

まずは、2022年の天候とぶどうの様子を振り返りたい。2022年は北海道全般において雨量が多く、特に6〜7月にかけては雨が続いた。

だが、長い経験を持つ北海道のベテランぶどう農家の方によると、2022年の気候はおおよそ例年通りだったのだとか。2021年と比較すると降水量が多かったものの、例年通りの終了をキープできたそうだ。

雪川醸造の自社畑の樹は植えて2年目のため、まだ本格的な収穫には至っていない。2022年の畑の状況について、山平さんは次のように話してくれた。

「雨が多かったことで、病気が出てしまいました。2021年が乾燥した年で病気が少なかったので、比較するとより目立ちましたね。うちの畑ではありませんが、品種によっては開花時期と雨が重なって、ひと房に付く実が少なくなる『花ぶるい』も見られた地域もあるようでした。必要なだけ栽培管理に時間を割けなかったのは、辛いところでした」。

2022年は、雪川醸造がワインのファーストリリースを迎えた年。さまざまな仕事が重なり、畑仕事だけに時間をかけられない状況だったのだ。

ぶどうの樹は溜め込んだ養分を次の年の生育に使うため、2022年に手をかけられなかった分が2023年に影響するという。実際、2023年のぶどうの様子を見ると、品種によっては発芽や開花の数が少ないという影響が見られた。

▶︎初収穫を目前に控えて

「2022年のうちに、畑仕事の手伝いを地域でお願いできる仕組みを整えました。そのため、2023年は畑作業に十分な人力を投入することができ、必要な作業力を確保しました」。

また、2023年春には2,500本近くの苗を植えた。短時間で大量の作業を完了させられたのは、ひとえに手伝ってくれる人々がいたからこそ。ワイナリーの土台を作る年だった2022年を乗り越えたことで、ワイナリー運営は順調に進んでいるようだ。

早ければ2023年には、自社畑のソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、ピノ・ノワール、ツヴァイゲルトの初収穫が迎えられそうだ。
「若木に収穫するまで房を残すと、ぶどうはたくさんのエネルギーを使います。十分に樹が育っていないと次の年の生育に影響することもあるため、収穫まで持っていくかどうかに関しては慎重な見極めが必要だと感じています」。

『雪川醸造のワイン造り』

2021年ヴィンテージは東川町産ぶどうのみを使用していた雪川醸造。2022年には、原料に余市のぶどうとりんごが追加された。

「ワイナリー設立時には、ワイン特区の制度を利用していました。しかし、余市の農家さんとご縁があったことなどをきっかけに、町外の原料も使ってみることにしたのです。酒造免許の切り替えをおこない、2022年には余市の農家さんなどからぶどうやりんごをご提供いただきました。自社畑のぶどうでのワイン醸造が安定するまでは、東川町内とほかの地域の原材料を使用して行きたいと考えています」。

余市産のぶどうとりんごが原料として追加されたことで、雪川醸造のラインナップは大きく変わった。新銘柄が登場した2022年ヴィンテージのワインを紹介していこう。

▶︎2022年ヴィンテージのワイン

まずは、2023年秋に発売中の銘柄を紹介したい。余市産と町内産の原料を両方使用した「スノー リバー デュエットロザート 2022」だ。

「スノー リバー デュエットロザート 2022」は、余市産ツヴァイゲルトと東川町産のセイベル13053をブレンドしたロゼワイン。「ツヴァイゲルトロザート」よりも、かわいらしい印象を感じ取ることができる味わいだ。

ツヴァイゲルトはスパイシーさが強いのが特徴だが、セイベルはよりライトでフルーティー。「スノー リバー デュエットロザート 2022」に使用しているセイベルのチャーミングさが如実に表れている。ツヴァイゲルトのスパイシーさがほどよく緩和され、多くの人に好まれる味わいだ。

▶︎発売予定の銘柄

これから発売される予定のワインについてもお知らせしよう。発売が予定されているのは、いずれもロゼワインと赤ワインの4銘柄だ。名称が決まっていないものもあるそうだが、可能な限り詳しく紹介していきたい。

まずは、2021年ヴィンテージに引き続き、「スノー リバー ロザート 2022」が登場予定だ。メインとなる品種は、東川町産のセイベル13053。深みがありつつも透明感があるルビー色の液色が美しい。

ふたつめに紹介するワインは、2021年ヴィンテージにも提供したセイベル13053をベースにした微発泡タイプのロゼワイン。2021 年は「スノー リバー アンスパークリング ロザート 2022」として発売していたが、今ヴィンテージの名称がどうなるのか心待ちにしたい。

これらの銘柄は、2021年ヴィンテージと2022年ヴィンテージを比べて楽しむのもおすすめだ。ヴィンテージの違いを味わえる、楽しい体験になるだろう。

続く2銘柄は、余市産ぶどうを使用した新銘柄。名称は決まっていないため、それぞれの特徴を紹介したい。

ひとつは、余市産のキャンベルアーリーを使った微発泡ロゼワイン。もうひとつは、「ロゼワイン寄りの赤ワイン」だ。

特徴的な仕上がりになっているというキャンベルアーリーのワインには、「今までにないものになっている」と手応えを感じているという山平さん。

「いろいろな土地で醸造されたキャンベルアーリーを飲んで、余市の特徴をどう反映するかを考えながらつくったワインです。ぜひ楽しみにしていただきたいですね」。

雪川醸造のキャンベルアーリーは、口当たりがよく、料理に合う味わいだ。キャンベルアーリー特有の香りはやや抑えられ、上品な仕上がりに。色調は濃いが味わいは軽く、どんな場面にもフィットする柔軟さを持つ。おすすめのペアリングを尋ねた。

「ロゼ仕立てなので、日常的に食べる食事にはだいたい合わせられますよ。特に、エビチリ、餃子などがよいのではないでしょうか。アルコール度数は低めで柔らかいですし、香りもキャンベルアーリーにしては控えめなので、食べ物の味を邪魔しないと思います。幅広いメニューと合わせて楽しんでいただきたいですね」。

▶︎エチケットのイラストを描いたのは?

雪川醸造のワインボトルには、淡く柔らかな風景が描かれたエチケットが貼られている。エチケットのイラストを描いたのは、なんとコンピューター。山平さんがAI技術を使って作成したイラストなのだ。

「赤い森のイメージ、二匹の小鳥と若々しい森のイメージなど、ワインの印象からイメージを思い浮かべ、AIでイラストを作成しています」。

エチケットにAI技術を使うとは、元・IT企業勤務の山平さんならではのアイデアだ。雪川醸造のワインボトルを手にとったら、どんなイメージが表現された絵なのかを考えてみると面白いかもしれない。今後新たにリリースされる銘柄に採用されるイラストも楽しみにしたいものだ。

▶︎シードルを準備中

「2022年には、タンクや除梗機といった設備を増やしました。また、りんご専用の破砕機や小さめのプレス機も導入しています。試験醸造的な扱いですが、冬の間に原料を調達してシードルをつくってみました」。

シードルに使用したのは、余市産のふじ。深みのあるオレンジ色で、味わい深いシードルが誕生した。生産本数は100本強と限られているため、リリース方法を検討しているという。

「初めてのシードル醸造でしたが、得るものがたくさんありました。次の醸造にも生きてくるように感じます。2023年以降もおそらくシードル醸造に取り組みます。ただ、醸造のタイミングがワインと近いので、スケジュール調整が必要です。シードルの仕込みも奥が深いので、仕込み方も工夫しながら取り組んでいきたいと思っています」。

山平さんがシードルをつくった理由は、より幅広い顧客を獲得するためなのだとか。ワインを好む客層とシードルを好む客層は異なるという。

具体的に言うと、シードルファンは大きくふたつのグループに分かれるそうだ。ひとつは、若者や女性といった「飲酒量の少ない人々」、もうひとつは「クラフトビールファン」だ。こういった層の人々はワインに目を向けることが少ないため、シードルを介してターゲットを広げようという作戦だ。それぞれのターゲットに訴求できれば訴求対象を大幅に拡大できる。

「今後、本格的にシードル製造をするなら、シードルにあったりんご品種を探したいと思っています。どんな品種を使えば美味しいシードルになるのか、調べて実験していたいですね」。

やりたいことが本当にたくさんある、と笑う山平さん。忙しさを感じさせず、楽しそうに醸造をおこなう造り手のワインやシードルは、飲み手にワクワクを伝えてくれるに違いない。

『2022年の振り返りと、2023年の目標』

最後に見ていくのは、2022年におけるトピックと、2023年の目標について。山平さんの頭の中にはたくさんのアイデアがあり、2022年もひとつずつ実行に移してきた。

2023年以降は、どんな企画にチャレンジしていくのか。ワイナリーの目標と今後に向けての構想をお話いただいた。

▶︎学びの多い「委託醸造」

前回のインタビューで、「委託醸造を受け入れたい」と話していた山平さん。2022年にはさっそく、委託醸造の依頼を受けたという。

「依頼いただいたのは2件です。ひとつは、元・NIKI Hills Wineryの醸造家である麿さんからのお話。麿さんの『MARO Wines』だけでなく、ニュージーランドで活躍する日本人醸造家の小山さんとの共同ブランド『KOYAMARO』のお話も引き受けました。もうひとつは、Cave d’Eclat(カーヴデクラ)の出蔵さんからの委託です」。

委託醸造の依頼を受けることができたのは、ワイン特区を外したことが大きい。町外のぶどうを受け入れることが可能になったため、道内のワイナリーとのつながりが広がった。

委託醸造を受け入れる際、山平さんも醸造の手伝いをおこなっている。ほかの醸造家の仕事を間近で見ながら実践できるのは、またとない学びの機会だ。特に2022年に受け入れた醸造家は3者とも経験豊富。「非常に勉強になります」と山平さん。

「委託醸造は、2023年以降も引き続き醸造経験がある方からのお話を主として対応していきます。北海道でのワイン醸造に興味がある方からご相談いただけたら嬉しいですね」。

▶︎これからのワイン醸造

現状の雪川醸造のラインナップには、圧倒的に「ロゼワイン」が多い。今後もロゼワインを中心に醸造していくのだろうか。山平さんに、今後の製品展開について尋ねてみた。

「手に入るぶどうは、今は圧倒的に赤ワイン用品種が多いのです。そのため、当面は赤ワインとロゼワインを中心に造る予定です。もちろん、白ワイン用品種が手に入ったら、白ワインも造りたいと思っています」。

山平さんがロゼワインに注力している理由は、醸造技術を一点集中で向上させるためだという。経験が少ない中でいろいろな醸造手法に手を出し、技術が中途半端になってしまうことを懸念しているのだ。

「まず自分が習得すべきは、基本となる白ワインの醸造方法だと思ったのです。そのため、赤ワイン用品種でも白仕立てに醸造して、ロゼにしてきました。白ワインにチャレンジしたい気持ちは強いので、シャルドネなどが手に入れば嬉しいですね」。

もしシャルドネの白ワインを造れるなら、樽熟成にも挑戦するなどの夢は広がる。また、ほかにも挑戦したいことがあるという。

「実現するかどうかはわかりませんが、日本でつくった樽熟成のシャルドネとオーストラリアでつくった樽熟成のシャルドネを両方リリースできたらと考えています。2023年3月にオーストラリアのワイナリーで仕込みの手伝いと勉強をさせてもらいました。来年以降、南半球のワイナリーでワインをつくりたいと考えています。たとえば同じ手法の醸造と熟成過程でつくった日本とニュージーランドやオーストラリアのような南半球のワインを比較できたら、面白いなと思っています」。

ひとつのワイナリーのワインで、ふたつの国のテロワールを楽しめるとは珍しい。ワインファン必見の試みが、ぜひとも実現することを期待したい。

『まとめ』

2022年の雪川醸造は、新しい試みのオンパレードだった。販売や畑の仕組みづくりを整え、新たに2,500本の苗を植樹。また、ワイン特区を外したことで町外の原料を仕入れることが可能になり、より自由度の高いワイン造りをおこなう環境が整った。

余市の原料を使った銘柄を生み出し、シードルも初醸造した2022年。委託醸造の受け入れなど、醸造に関する取り組みでも大忙しだった。

2023年には、「さっぽろオータムフェスト2023」など、イベント参加も積極的におこなっている。

今後も雪川醸造は、造り手の個性と北海道ならではのテロワールを反映したワインで、多くの人を魅了していくのだろう。2023年にもさまざまなチャレンジを予定しているという山平さん。今後もますます目が離せない。


基本情報

名称雪川醸造
所在地〒071-1423
北海道上川郡東川町東町2-1-6
アクセス車:旭川北ICから30分、旭川鷹栖IC40分程度
HPhttps://www.snowriverwines.com/

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