2018年、長野県松川町に創業した「VinVie(ヴァンヴィ)」。日本アルプスの山々に囲まれ、緑豊かな里山の風景に溶け込むワイナリーだ。
VinVieでは、ワインとシードル両方の醸造と販売しているのが大きな特長のひとつ。醸造用、生食用を問わず、多数のぶどうとりんご品種を自社農園で栽培し、醸造をおこなっている。日本ではほとんど栽培されていない、醸造用りんご品種も数多く栽培しているのだ。
畑作りでは、下草を生やしたままにする草生栽培を採用している。土地のポテンシャルを最大限に発揮させるため、肥料は使用しない。
栽培のこだわりは、「変化に対して柔軟に適応すること」。寒暖差があり、水はけのよい土壌だが、変わりやすい天候への対応は不可欠。ぶどうの状態をしっかりと見守りながら、天気を考慮して予防的に農薬を使用する方針をとっている。
醸造では、発酵の「最初期段階」をもっとも重視する。出来上がりをイメージし、酵母が本格的に活動する前段階の空気の量と温度を調整している。工夫次第で、完成度が大きく変わるのだという。
VinVieが目指すのは、「飲み飽きず、飲み続けられる」ワインやシードル。種類豊富な商品ラインアップのなかからは、ハレの日から日々の食卓まで、幅広い日常のシーンに対応する1本が見つかるはずだ。
今回は取締役で営業・企画担当の佐藤篤さんと、醸造家の竹村剛さんに、VinVieの2021年を振り返って詳しくお話しいただいた。さっそく紹介していこう。
『VinVieのぶどう栽培とりんご栽培』
最初の話題は、2021年のぶどう栽培とりんご栽培における、天候の影響と果実の品質について。りんごには遅霜の影響が少しあり、ぶどうの一部の品種は、お盆過ぎに続いた雨の影響が出た。
▶︎2021年のりんご栽培
りんご栽培に影響したのは、3~4月にかけて発生した遅霜だ。VinVieがある南信地域のりんご畑では、収穫量自体は落ちなかったが、食用品種では贈答用にはできないものもあった。そのため、地域のりんご農家では、加工用に回すりんごが増えたそうだ。
VinVieではシードルの原料となるりんごは、ほぼすべて自社畑で栽培しているため、醸造に必要な収量はしっかりと確保できた。
遅霜の影響を受けたりんごは蜜の入りが悪くなるため、食用には適さない場合が出てくる。だが、シードルに加工するにはまったく問題ない。醸造用の原料にする際には、りんごの色や形は影響がなく、収穫時の糖度も醸造には必要ないためだ。甘み以外の成分である酸味や渋みが豊富なほうが、かえって味わいに複雑味のあるシードルになる。
▶︎2021年のぶどう栽培
続いて、2021年のぶどう栽培についてみていこう。ぶどうの芽吹きは、りんごよりも時期が遅いため、遅霜の影響はなかった。だが、8月半ばに続いた雨の影響で、ナイアガラなどの早生品種は糖度が上がりにくかった。一方で、ワイン醸造で重視される酸度はしっかりと残ったという。
「自社畑のぶどうは、例年よりも収穫時期を1~2週間ほど遅らせて、できるだけ熟した状態で収穫しました。8月の長雨後は天候が持ち直し、10月以降は好天に恵まれましたね。品質のよいぶどうに育ったと思います」と、剛さん。
醸造段階の補酸や補糖、除酸はおこなわず、果実そのままの風味を生かして醸造するのがVinVie流。
2021年の白ワイン用ぶどう品種はアルコール度数が低く、酸度が高いワインに仕上がった。2021年のうちにリリースされた早摘みのナイアガラは、スティルワインとペティアンの2種類がある。いずれも、2020年のヴィンテージと比べるとキリッとした酸味が際立つ。ヴィンテージごとの違いを飲み比べるのも面白いだろう。
『2021年春、自社畑を拡張』
VinVieでは2021年の春先に、松川町内の西山地区、標高850mの場所に畑を20aほど拡張。シラー500本を植樹した。
さらに、隣町である高森町にある標高720mの畑には、プティ・マンサンを植えた。高森町の畑は梨畑だった土地のため、もともとあった梨棚を利用した棚栽培でプティ・マンサンを栽培する。
新たに2種類のぶどうの樹を増やした理由を、剛さんに伺った。
▶︎シラーとプティ・マンサンを植樹
「日本の標高の高いところで育つシラーは、エレガントな胡椒の味で、日本人の味覚にマッチするといわれています。いわゆる白胡椒っぽい味わいになると聞いて、面白いと思ったんです」と、剛さんはシラーを選んだ背景を語る。
VinVieの直売所でも、シラーがブレンドされているワインを購入する人が多い。シラーの人気や注目度が高いのも、シラーを植えた理由のひとつだ。
VinVieではプティ・マンサンを以前から栽培しているが、十分な収量ができていなかった。プティ・マンサンはぶどうの房が小さく、小さな粒がバラバラにつく品種のためだ。だが、ワイン醸造に理想的な品種特徴を持つぶどう。そのため、今後はより多く醸造したいと考え、追加での植樹を決断したのだ。
また近隣には、手間のかかる梨栽培の継続を断念する農家も多く、梨棚が残った遊休荒廃地を有効活用したいという思いもあった。
「プティ・マンサンは樹勢が強く、ほかのヨーロッパ系品種よりも棚栽培に向いているのではないかと考えています」と、剛さんが今後への期待を語ってくれた。
▶︎地元農家を応援する取り組みにも着手
VinVieのある下伊那地区は、昔から梨作りが盛んな地域だ。ほかの地区では、巨峰などを作っていたぶどう棚をワイン用ぶどう栽培に活用する例があるが、梨棚をぶどう栽培に活用するのは同地域ならではの試みだ。
近年、下伊那地区では梨を作る農家が激減している。りんごと梨の両方を栽培していた農家でも、梨栽培から撤退するケースが多いという。
「梨の栽培には、とても手間がかかります。受粉はひとつずつ手作業でおこない、袋がけもひとつずつおこなう必要があるためです」と、剛さん。
りんごの受粉はミツバチに任せることができるが、梨の受粉は「ぼん天」を使って、人の手で花粉をひとつずつ付けていく必要がある。さらに袋かけも欠かせず、作業姿勢も辛いなどの理由から、梨栽培を断念する人が多いのだ。
そこでVinVieでは、地元の梨農家の継続を応援する取り組みにも積極的だ。
▶︎「ペアサイダー」を試験的に醸造
消費者に人気が高い和梨の栽培が、地元から消えていくことを懸念しているVinVieが試みたのは、和梨の「ペアサイダー」醸造だ。以前から「バートレット」という品種の洋梨でのペアサイダー醸造をおこなってきたVinVieだが、和梨での醸造は初の取り組みだ。
2021年に醸造したのは、和梨「南水」でのペアサイダー。地元で栽培された梨を、付加価値の高いお酒に加工して販売することで、梨農家の生き残りの道を探る。
「ペアサイダーの醸造には、『クリオコンセントレーション』と呼ばれる冷凍濃縮の手法を取り入れ、手間暇かけて造りました。甘口で、風味豊かなペアサイダーです。梨好きのお客様には喜んでいただけました」と、佐藤さん。
『VinVieのワイン 新たなラインナップ』
2021年、VinVieではワインの商品ラインナップに、新たにロゼが加わった。また、自社畑で栽培したぶどうを使用した赤ワインと白ワインの生産量も徐々にアップ。スタンダードラインのワインがより充実してきた。
あらたに誕生したワインの銘柄に焦点を当てて紹介していこう。
▶︎カベルネ・フランの辛口ロゼ
VinVieが新しくリリースしたのは、カベルネ・フランのロゼだ。除梗破砕した2日後に、タンクから全体の2割ほどの液体を抜いてロゼワインとして醸造した。
圧搾をしていない贅沢なロゼは、色付きがよく香りも芳醇だ。ベリー系の香りと椿のような赤い花の香り、さらにハーブの香りが複雑に混じりあい、エレガントな仕上がりになった。
「想像以上の品質で、素晴らしい仕上がりでしたね。少量生産だったので、もっとたくさん造ればよかったと思ったほどです」と、剛さん。
佐藤さんは、「キレのある辛口に仕上がっているので、夏であれば少し冷やして飲むと、スッキリと美味しく味わってもらえますよ」と話してくれた。
ロゼにした以外のカベルネ・フランは、樽で熟成中。2022年中にリリースされる予定なので、楽しみに待ちたい。
▶︎樽熟成ワインもリリース予定
自社畑で栽培したぶどうを使ったVinVieのスタンダードラインが、赤ワインの「編【とじいと】」と白ワインの「緒【いとぐち】」シリーズだ。スタンダードラインの生産量が順調に増えてきたのが、2021年の変化のひとつ。
さらに、2021年はそれぞれ、一部を樽熟成させている。今後は、よりハイグレードランクのシリーズをリリースしていく予定だ。
赤ワイン用ぶどう品種は、カベルネ・フランをアメリカン・オーク樽で熟成しており、樽由来のバニラのような香りが特徴。
白ワイン用ぶどう品種のシャルドネは、フレンチオークとアカシアの木を使った樽で熟成中。樽熟成のよさも出て、フローラルな香りの仕上がりになるそうだ。
「樽熟成の工程も、非常に難しいですね。樽の種類や熟成期間など、悩むポイントが多いのです。出来上がりを想像しながらの試行錯誤を、今後も続けていきたいです。経験を積めば、次第にVinVieのワインにピッタリの樽熟成の方法がみえてくると思います」と、剛さんが話してくれた。
『海外の醸造家のアイデアが新しいシードルに』
続いては、シードルについて紹介しよう。VinVieでは2020年、約10種類のシードルを醸造していた。続く2021年は、さまざまなチャレンジの末、さらに新たな商品ラインナップが増えたそうだ。
また、「グローバル・サイダー・コネクト」というプロジェクトに参加し、海外の醸造家とのコラボレーション企画にも挑戦した。それぞれ詳しくみていこう。
▶︎スパイスを漬け込んだ新感覚シードルをリリース
VinVieのシードルの定番ラインナップは、「VinVieシードル」と「蜂酵母のシードル」。2021年には新たに、「スパイスシードル」「ホップシードル」「ヴェルモットシードル」が加わった。スパイスやホップ、ニガヨモギなどを漬け込んだ、華やかな香りと苦みが特徴の新感覚シードルだ。
「面白い商品になりました。好みもあると思いますが、評判は上々です」と、剛さん。変わり種のシードルが加わり、ラインナップがさらに充実したことで、VinVieのシードルはいっそう幅広い層への訴求が可能となった。
シードルが好きな方も、これからシードルを飲んでみたいと思っている方も、VinVieならきっとお気に入りの1本が見つかるはずだ。
▶︎南信州の醸造所5社が世界の醸造所とつながる
シードルに関しての、もうひとつのチャレンジが、「グローバル・サイダー ・コネクト」への参加。2020年に発足した新たなプロジェクトで、南信州のシードル醸造所5社が、世界の醸造所とつながる取り組みだ。
日本のシードル醸造所とコラボレーションしたのは、ノルウェーやスペイン、デンマークなどにある醸造所。VinVieは、オーストラリアのタスマニアにある「ウィリー・スミス」社とコラボした。
当初は、海外から醸造家を招く予定だったが、新型コロナウイルスの流行により断念。だが、たびたびオンラインでつながってアイデアを持ち寄り、情報交換をおこなった。
▶︎ワインの醸造技術をシードル造りに応用
プロジェクトの一環としてVinVieで醸造したのは、「マセラシオン・カルボニック」という、ボジョレー・ヌーボーワインの醸造方法を応用したシードルだ。ウィリー・スミス社の醸造家のアイデアを、日本のりんごで形にすることになったのだ。
ボジョレー・ヌーボーの醸造では、ぶどうを房のままつぶさずにタンクに入れ、炭酸ガスを満たした状態で密閉する。タンクのなかで少しずつ発酵がすすみ、色が淡く甘いキャンディーのような香りが出てくるのが特徴だ。ワイン醸造においてはよく使われる技法だが、シードル醸造に取り入れたケースはめずらしい。
今回のシードル醸造では、丸ごとのりんごをタンクいっぱいに入れ、搾ったりんごジュースを加えて満タンにした状態で発酵をスタート。外気に触れさせず6週間ほど発酵したあとに、タンク内の固形のりんごを砕いて搾汁した。さらに、りんごジュースを混ぜ、もう1度発酵させれば完成だ。
従来の醸造方法を用いたシードルよりも、濃くて甘い口当たりに仕上がった。今回のチャレンジは、ウィリー・スミス社の醸造家が、「生食用りんごでも、醸造用品種のような濃い味わいが表現できないか」と、試行錯誤した結果にたどりついた醸造方法を採用したのだ。
ワインとシードル両方の醸造を手がけるVinVieならではの強みを生かした、興味深い試みだったといえるのではないだろうか。
『今後の展開の礎となった年』
VinVieの2021年は、数多くの新たな取り組みを実施をしたことで、変化が大きかった1年だ。
「不安定な情勢のなか、世間の波にうまくあわせながら、なんとかやってきました。最近では、定番銘柄に対するお客様の評価もわかってきたので、今後の進むべき道がはっきりとしてきましたね」と語ってくれたおふたりの口調からは、苦労だけでなく、未来に対する明確な希望が伺える。
▶︎2022年はリアルイベントの復活に期待を寄せる
2021年には、オンラインイベントに参加する機会も多くあったVinVie。もちろん、「グローバル・サイダー・コネクト」はそのひとつだ。コロナ禍のなかでも海外ともつながれるオンラインのメリットを、最大限に活用した取り組みだった。
ただ、飲食店で実施するワイン会など、リアルな場でのイベントはことごとく延期になった。また、毎年開催されていた「長野ワインフェス」など、リアルな商談の場がなくなったのは大きな痛手だ。
「リアルに人と対面して商談をする場は、うちのように比較的新しくワインやシードル造りを始めたワイナリーには欠かせません。オンラインも活用しつつ、さまざまなリアルのイベントの復活にも期待したいですね」と、佐藤さん。
また、長野県内でワイナリーが多く集まる千曲川ワインバレーでは、行政主導で生産者を紹介するイベントなどを都内や地元で開催している。
「この地域でも行政と地元の産業が一体となって、地域のお酒をアピールする機運がさらに高まればと期待しています。今後も、さらに活発に活動をしていきます」。
▶︎VinVieのワインがテレビで紹介され、大きな反響に
2021〜2022年の年末年始には、テレビ出演も果たしたVinVie。テレビ朝日系列7局で共同制作された『坂上・良純・宇賀のニッポンの酒』という番組で、VinVieのワインが紹介されたのだ。
「紹介された銘柄は『編【とじいと】2020』です。自社畑で栽培したメルローとシラー、カベルネ・フラン、ピノ・ノワールを醸造した赤ワインです。放映後にはハワイへの輸出の打診などもいただき、マスメディアの力が大きいことを実感しました。たくさんの人にVinVieのワインを知っていただくよい機会になりました。『編【とじいと】』の2021年ヴィンテージをリリースしたので、ぜひ楽しんでいただきたいですね」。
『まとめ』
挑戦の機会を逃さず、2021年も着実に歩みを進めてきたVinVie。
ワイン醸造のノウハウをシードル造りにも応用するなど、ワインとシードル両方を造っているのがVinVieの大きな特徴だ。形にとらわれない柔軟な発想力も、VinVieならではの強みだといえるだろう。
失敗や変化を恐れず、よりよいワインとシードルを造りを目指して邁進する姿は魅力的だ。樽熟成中のワインのリリースを待ちつつ、これからもVinVieの活躍を応援していきたい。
基本情報
名称 | VinVie |
所在地 | 〒399-3304 長野県下伊那郡松川町大島3307-7 |
アクセス | 車 中央自動車道「松川」インターチェンジより車で5分。 電車 JR飯田線「伊那大島」駅より車で8分 |
HP | https://vinvie.jp/ |