『船橋コックワイナリー』千葉県の住宅街で、気軽に飲めるワインを造る都市型ワイナリー

2021年、千葉県初の都市型ワイナリーが誕生した。その名も、「船橋コックワイナリー」。代表を務めるのは、小久保尊さん。大ヒットワイン本『図解 ワイン一年生』の著者であり、レストラン経営者の顔も持つ。

船橋コックワイナリーでは、都市型ワイナリーの強みを生かしたワイン醸造をおこなっている。電動機械を極力使わない醸造で、ぶどうそのものの味わいが感じられる「にごり」ワインを造り出しているのだ。

ワインの風味からは、船橋コックワイナリーの願いである、「もっと気楽にワインを楽しんでほしい」という思いが感じられる。

船橋コックワイナリーはどういった経緯で誕生し、ワインを造りはじめたのだろうか。「ぶどうやワインへのこだわり」「ワイナリーが目指すもの」など、たくさんのお話を伺った。

『ワインを提供するレストランが作った、街なかワイナリー』

まずは、ワイナリー誕生のきっかけと経緯について。船橋コックワイナリーの代表、小久保さんは、なぜワイナリーを造ろうと思い立ち、決断に至ったのだろうか。小久保さんの思いやワイナリーができるまでの歩みを追っていこう。

▶︎飲食店経営からワイン醸造の道へ

小久保さんは、千葉県船橋市にある、肉とチーズとワインのバル「コックダイナー」のオーナーだ。レストランは2011年9月にオープン。またたく間に地域の人気店に成長し、2号店である燻製専門のバーである「立ち飲み燻製COQ DINER 離」もオープンした。

「2015年に、自分が持っているワインの知識を書籍として出版しました。『図解 ワイン一年生』という本です。ありがたいことに、非常に多くの人に手に取ってもらえましたね」。

敷居の高いものと捉えられがちなワインを、初心者にもわかりやすく解説した書籍は大ヒット。ワイン初心者からワインファンまで幅広い層で話題となった。2020年には、続編になる「図解 ワイン一年生 2時間目 チーズの授業」も出版された。

そして2021年。新型コロナウイルス感染拡大の影響でレストランが思うように運営できない日々が続くなか、小久保さんは自分のワイナリーを設立した。

「コロナ禍のなか、時間ができたので動くなら今だと感じました。チャンスを生かそうと思ったのです」。

2021年2月から申請に取り掛かり、書類審査と現地検査をクリア。9月には果実酒製造免許を取得した。

さっそく自社醸造所でのワイン造りをスタートさせ、2021年秋には買いぶどうを使ってファーストヴィンテージのワインを醸造したのだ。

ここでひとつの疑問が頭に浮かぶ。小久保さんは以前からワイナリー創業を考えていたのだろうか?

「ワイナリーを本格的に考えだしたのはごく最近、2020年頃のことです。正直今まで、自分がワイナリーを造れるとは思ってもいませんでした」。

自らのワイナリーを設立するという考えに至らなかったのには、3つの理由がある。

ひとつは、飲食店業が多忙でワイナリーの運営ができるとは到底考えられなかったから。もうひとつは立地の問題だ。小久保さんの拠点は、千葉県船橋市。都心に近い住宅地である船橋の土地は限られており、船橋にワイナリーを作るという発想がなかった。

そして3つ目の理由が、都市型ワイナリーのモデルケースが少なかったこと。日本において、都市型ワイナリーは稀な存在だった。

「ワイナリーは長野や山梨など、ぶどう産地ではじめるもの」という印象を強く持っていたという小久保さん。だが日本でも次第に都市型ワイナリーが増え、時間を捻出できたタイミングで、思い切って新たな挑戦に踏み切ったのだ。

小久保さんの決断と行動力のかいあって、千葉県初の都市型ワイナリー「船橋コックワイナリー」が誕生した。

▶︎住宅街の一区画にあるワイナリー

船橋コックワイナリーは、閑静な住宅街の一角にある。小久保さんは、「まわりには、住宅しか無いような場所ですよ」と話す。

ワイナリーがあるのは、もともと倉庫だった場所。建物を改築して醸造所を造ったのだ。敷地は18坪で、作業スペースは15坪の2階建て。限られたスペースで、ワイン造りをおこなっている。土地や建物は確保できたが、住宅地ならではの問題もあった。

「住宅地の中なので、大きな音をたてる機械が使えないのです。そのため、可能な限り手作業でワインを造っています」。

機械を使わない醸造工程が増えることは、さぞ大変だろう。しかし小久保さんは、大変さよりもメリットに注目する。

「確かに手作業のワイン造りは大変ですが、手作業中心であることが、結果的にワインの個性になっていると感じます」。

手作りならではの素朴な味を出せるのも、手作業でのワイン醸造の特徴だ。船橋コックワイナリーでは、手動中心の醸造を「ワイナリーの強み」として大切にしている。

2022年2月には、2階フロアにワイン直売所をオープン。ホームページには直売所の営業スケジュールが公開されているので、ぜひチェックしてみてほしい。

直売所では、1杯150円でワインの試飲ができる。試飲1杯の量は、およそ45ml。ふらっと立ち寄り、酒屋で飲酒を楽しむ「角打ち」的に楽しむ人も多いようだ。

レストランと同様、愛されるワイナリーとして地域に馴染みつつある船橋コックワイナリー。ワインはもっと気軽に、自由に楽しめると伝えることを使命としている。

より多くの人にワインの楽しみ方を伝えるため、小久保さんはあえて船橋の住宅地でワインを醸すのだ。

『船橋コックワイナリーのぶどうとは?買いぶどうの魅力を引き出す』

次のテーマは、船橋コックワイナリーがワイン造りに使用している「ぶどう」について。

醸造には、ぶどう農家が栽培した「買いぶどう」を使用している。2021年ヴィンテージで使ったのは、長野と山形のぶどう農家から買い付けた複数の品種。現地に行って畑の様子を見て、農家から話を聞くことで買い付け先を選定した。

長野と山形から買い付けている、ぶどう品種と特徴をみていこう。

▶︎長野県からの買いぶどう

「実が色づきはじめた8月ごろに現地に伺い、畑を直接見て買い付け先を決めました。品種はメインの3品種と、補助品種が1種類です」。

長野県の農家から買い付けている品種は、白ワイン用品種の甲州と、赤ワイン用品種のマスカット・ベーリーA、ブラッククイーン、サンジョヴェーゼだ。

甲州、マスカット・ベーリーA、ブラッククイーンは下伊那郡の農家から、サンジョヴェーゼは長野県北部から購入している。いずれのぶどうも、ベテランぶどう農家によって棚仕立で栽培されている。

これらの品種を選んだ理由は、醸造面での面白さが期待でき、ポテンシャルの高さも感じたからだ。「長野で甲州やマスカット・ベーリーAを栽培しているのは、珍しいかもしれないですね。紹介してもらった農家さんがたまたま栽培していて、興味がわいたので契約しました」。

ブラッククイーンは酸が強い品種なので、最初は醸造に不安を感じていたという。だが、サンジョヴェーゼとブレンドすることで、酸をまろやかにしつつ、個性を生かすことに成功した。

▶︎山形県からの買いぶどう

「山形県のぶどうはいくつかの農家さんから買っているのですが、購入の方法が少々特殊です。ぶどう農家さんをまとめているブローカーさんから購入しているのですよ」。

ぶどう品種は、デラウェアとマスカット・ベーリーA。すでにランク分けされたぶどうから、好みのランクを選んで買い取る方式だ。ランクごとに分類されたぶどうを購入できるので、ワイン醸造に使用しやすいのがメリットだという。

ワインに使えるぶどうを選り分ける選果作業には、手間がかかる。選果とランク分けがあらかじめおこなわれているぶどうを購入することで、ワイナリー側の負担を軽減できる。

「特に初年度は、まったくスケジュールに余裕がなかったので、ぶどうがすでにランク分けと選果されていて本当に助かりました」。

もうひとつ、ブローカーからの買い取り方式で便利なのは、「コンテナ」が必要ないことだ。収穫したぶどうを入れるコンテナは、自社で用意するか、農家から借りるのが一般的。

だが、自社で用意する場合はコンテナ本体の購入代金がかかり、農家から借りる場合にはコンテナの返送料を負担する必要が出てくる。

「ワイナリー側の調整が少なくて済むので、ブローカーさんからの購入は、新興ワイナリーにぴったりなのではないでしょうか」。

▶︎買いぶどうならではの難しさ

「農家さんとやり取りするうえで注意しているのは、スケジュール調整です。運送業者との調整や醸造の段取りも絡んでくるので、調整が難しいのです」。

ファーストヴィンテージだった2021年は、各種手続きと初めての醸造が重なり、スケジュール調整が困難を極めた。慣れないワイナリー運営で手一杯ななか、ぶどうの買い取り契約も並行して進めるのは、想像以上に難しいことだったのだ。

初年度の難しさとして小久保さんが挙げたのは、醸造免許の認可がいつ下りるかが分からないという点。

醸造免許の認可は、申請から「およそ半年後」といわれる。しかし、具体的な日付がわからない以上、事前に農家と契約することも叶わない。もし免許が下りなかった場合でも、一度買い取り契約をしたぶどうをキャンセルすることはできないからだ。

よいぶどうをいち早く確保したいが、醸造免許が下りるまでは、具体的な行動を起こせない。なんと、もどかしい期間だろう。

「農家さんと契約する5日前に、やっと免許が下りることがわかり、急いでぶどうの調達に動きました。事前に声掛けはしていましたが、ヒヤヒヤしながら待っていたので、無事免許が下りてひと安心しました」。

無事にぶどうを購入でき、ワイン造りがスタートできたのも「スタッフの力添えがあってこそ」と、小久保さんは話してくれた。

周囲への感謝の心を込めて、ワインを造る小久保さん。ワインは造り手の個性や思いを映し出すという。船橋コックワイナリーのワインからは、人情味と親しみやすさが自然に感じとれることだろう。

『 もっと気軽に楽しく飲んでほしい 船橋コックワイナリーのワイン醸造』

続いて、船橋コックワイナリーが醸造するワインについて紹介したい。

ワイナリーが目指すワイン像や、醸造の苦労とは?おすすめのペアリングやワインの銘柄など、ワインファンが気になる情報についても詳しく伺った。

▶︎家庭料理に合わせ気軽に飲めるワインが理想

「日本の家庭料理に合うワインがよいと思っています。強すぎず、優しい味わいのワインを目指したいですね」。

船橋コックワイナリーが大切にしているのは、料理とワインを組み合わせて気軽に楽しむこと。小久保さんがワイナリーをはじめたのは「ワインをもっと身近に感じてほしいから」。ワイン本を出版したのも、同じ理由だという。

ワインを気軽に楽しんでもらうために重視しているのは、フレッシュ感の表現。「船橋の街なかでワインを造っている」という特徴を生かし、できたてワインの味わいを提供したいと考えているのだ。

フレッシュ感を楽しんでもらうための醸造の工夫は、熟成に「樽」を使用しないこと。ぶどう本来の味や爽やかな果実感をダイレクトに味わってもらうため、ステンレスタンクで醸造している。

「熟成したワインや重たいワインは、海外のワインでも味わうことができます。しかし『できたて』は家の近くのワイナリーでしか味わえません。船橋コックワイナリーでしか味わえない新鮮な風味を感じてほしいです」。

長年ワインバルを経営している強みから、料理との組み合わせを提案することが得意な船橋コックワイナリー。料理店経営で培ってきた人間関係も武器にしつつ、独自のワイン醸造とワイナリー経営を目指す。

▶︎9つの銘柄 それぞれの味わいと特徴

船橋コックワイナリーでは、9種類のワイン銘柄を展開している。

  • 甲州 ブラン
  • 甲州 オレンジワイン
  • ブラッククイーン ルージュ
  • FUN ブラッククイーン・サンジョベーゼ
  • FUN M.B.A ロゼ(長野産のマスカット・ベーリーA)
  • FUN M.B.A(長野産のマスカット・ベーリーA)
  • Thank youデラウェア
  • Good Jobデラウェア オレンジ
  • Good LuckマスカットベーリーA(山形産のマスカット・ベーリーA)

白ワイン、ロゼ、赤ワインと、オレンジワインまで含めた豊富なラインナップだ。すべての銘柄をそろえて、飲み比べたくなってしまう。

小久保さんに一押しのワインを尋ねたところ、「Thank youデラウェア」「Good Jobデラウェア オレンジ」「Good LuckマスカットベーリーA」の3つを紹介いただいた。おすすめの理由を紹介しよう。

デラウェアは、小久保さんを含めたスタッフ全員が好きなぶどう。「ワイナリーをはじめようと決めたときから、デラウェアワインを醸造しようと考えていました」。

デラウェアの豊富な酸は時間が経つとまろやかになり、チーズや魚介との相性もぴったり。親しみやすさと、料理への合わせやすさが魅力のワインだ。

また、おすすめワイン3種のワインのエチケットには、ワインの銘柄名になっている「Thank you」「Good Job」「Good Luck」が、それぞれ印字されている。

「銘柄名とエチケットには、無事にワイン醸造ができたことへの感謝や思いが込められています。農家さんやスタッフへの思いを銘柄にして伝えたいと思いました」。

メッセージ性の強い銘柄名は、贈り物にも最適だ。船橋コックワイナリーのワインを手に取ったら、込められた「思い」もぜひ感じてほしい。

▶︎醸造の工夫や苦労 「手作業」ならではの大変さ

船橋コックワイナリーが、ワイン醸造をするうえで感じた苦労と苦労したエピソードを3つ紹介しよう。

ひとつは、醸造機材の取り扱いについての苦労だ。多くの醸造工程を手作業でおこなっているため、電動機材に頼るのは、除梗と破砕のみ。手作業で醸造する際に、特に取り扱いに苦労したのは「バスケットプレス」という機材だという。

プレスとは、ぶどうを桶に入れて上から圧力をかけ果汁を絞ることだ。電動機材も存在するが、船橋コックワイナリーでは手動の機材でプレスをおこなう。

「初めて使う機材ばかりで勝手がわからず、大変なことだらけでした。機材の癖や使用方法のコツがわからなかったのが、むずかしかった点ですね。醸造作業自体よりも、機材の扱いに苦労しました」と、小久保さんはファーストヴィンテージの醸造を思い出して語ってくれた。

搾汁の最中に、バスケットの隙間から果汁が吹き出してしまったこともあった。慌ててビニールをかぶせて対応するなど、苦労が絶えなかった。

しかし実は、手動のバスケットプレスは、ワインにとって大きな利点がある。ゆっくりと絞れるため、ぶどうに負担をかけず繊細な味や香りを表現しやすいのだ。

「同じくバスケットプレスでプレスをしている長野のワイナリーさんに話を聞いて、コツを勉強しました」。経験者から学びつつ、手探りで自分のワイン造りを貫いた船橋コックワイナリーにエールを贈りたい。

ふたつ目に紹介するのは、発酵や醸造の管理についてだ。夜中でも発酵の様子を見に行ったり、「ピジャージュ」という醪(もろみ)をかきまぜる工程のときも、絶えず様子を確認する必要があった。

健全に発酵がすすみ、好ましくない香りに汚染されていないか。ファーストヴィンテージの醸造に携わる醸造家には、心が休まる暇などなかっただろう。

「スタッフと手分けして作業することで、大変な中でもがんばれました」。自分たちの手でワインを造り上げたときの思いは、想像を超えたものであるはずだ。感動もあっただろうが、安堵の思いの方が強かったのではないだろうか。

そして最後に紹介するのは、ワイナリー経営者ならではの悩み。ワイナリーを運営するうえでクリアすべき点についてだ。

ワイナリーを運営し続けるためには、年間でフルボトル8,000本を生産しなくてはならない。小さなワイナリーにとって、年間8,000本の縛りはハードルが高い。飲食店や店舗での販売を効率よくおこなっていかなければ、ワイナリー運営の継続が難しくなる。

ワインに詳しい読者であれば、「ワイン特区」を利用すればよいのでは?と思う方もいるかもしれない。ワイン特区とは、少量の生産量でもワイン醸造が認可される制度のこと。しかしワイン特区を利用するには、特区内で取れたぶどうのみでワインを造る必要がある。そのため、買いぶどうで醸造する船橋コックワイナリーは、ワイン特区の制度が適用されない。

「免許の申請をする際に、はじめて知った規則がたくさんありました。ルールを守りながら続けていく必要があるのはなんとも胃が痛くなる課題ですが、しっかりとクリアして頑張っていきたいです」。

醸造から法令の遵守にいたるまで、ワイナリー経営が抱える課題は幅広いジャンルに及ぶ。困難にさらされても「街なかワイナリー」として自分たちのワイン造りをするために、小久保さんたちは苦労を乗り越えてワインを醸すのだ。

小久保さんたちの思いと努力を感じ、楽しくワインを飲むことで船橋コックワイナリーを応援していきたい。

▶︎船橋コックワイナリーの楽しみ方 日常に寄り添うワイン

小久保さんは船橋コックワイナリーのワインについて、「とにかく気軽に飲んでほしい」と話す。船橋コックワイナリーのワインは、家庭で食べる料理にあわせることを考えて醸造されている。おすすめの楽しみかたは、日々の食卓とともにコップでごくごくと飲むこと。

「船橋産の食べ物と合わせると、さらに楽しめると思いますよ」。

船橋は海が近く、貝類やスズキといった魚介が名産品だ。地元の食材とあわせることで、ワインのよさがさらに際立つだろう。

また、家庭で楽しむと同時におすすめしたいのは、小久保さんのレストラン「コックダイナー」の料理とともにワインを飲むことだ。レストランメニューとのおすすめペアリングを紹介したい。

まずは「甲州 ブラン」とのペアリング。あわせたいのは「ホンビノス貝の白ワイン蒸し」だ。甲州特有のほろ苦さと酸味に、貝の旨味が溶け合う。ホンビノス貝は船橋の名産品でもある。ぜひ最初に試してもらいたいペアリングだ。

赤ワインとの組み合わせも紹介しよう。ひとつは「FUN ブラッククイーン・サンジョベーゼ」と「君津産シカのタリアータ」。ブラッククイーンが持つ野性味とサンジョヴェーゼのまろやかさが合わさり、赤身肉にぴったりとマッチする。肉の旨味がワインで増幅されるのを、舌の上でじっくりと感じてみてほしい。

最後に、「Good LuckマスカットベーリーA」と「国産牛もも肉のカルパッチョ」のペアリング。ライトだが豊富な果実感が魅力のマスカット・ベーリーAが、脂の少ない牛肉のソース代わりになる。コックダイナーで提供されるカルパッチョは、肉の味が感じられるようシンプルに味付けされている。最初に肉本来の味を楽しんだら、次のひと口はワインとともにいただこう。まったく違う表情が楽しめるはずだ。家庭では、ローストビーフで代用してペアリングを楽しむのもよい。手軽にレストラン気分が満喫できるだろう。

コックダイナーでは、日によってメニューが変わるため、訪れた際に必ずしも紹介したメニューをオーダーできるとは限らない。目当てのメニューがなかったときは、ぜひスタッフに、当日のメニューとワインとのペアリングを質問してみてほしい。自分でおすすめの組み合わせを発掘するのも楽しいだろう。

『ワイン造りの目標 ふたつの柱を確立させたい』

最後に紹介するのは、船橋コックワイナリーが目標とする将来の展望だ。ワイナリーの挑戦は、大きくふたつ、「ワイン造り」と「新しい企画の運営実行」について。それぞれどのようなチャレンジになるかを追っていこう。

▶︎新たなぶどう品種での醸造に挑戦

「ファーストヴィンテージのワイン醸造では使わなかった、新しいぶどう品種を使ってのワイン造りにも挑戦したいです」と、小久保さんは意気込みを話す。

具体的なぶどう品種も決まっている。チャレンジしたいぶどうは「ナイヤガラ」。北アメリカ生まれの白ワイン用ぶどうのナイヤガラは、華やかな個性が特徴だ。「ナイヤガラらしさ」を出したいと、小久保さんはワイン造りの目標を掲げる。

ナイヤガラのワイン醸造は、可能であれば2022年ヴィンテージから取り組む予定とのこと。船橋コックワイナリーのニューフェイス登場を楽しみに待ちたい。

▶︎より人々に身近なワイナリーに 「醸造体験イベント」構想

船橋コックワイナリーでは、参加型のイベント開催も企画している。「ワイナリーで醸造体験会を開催したいですね。近所の方が気軽に参加できる催しを考えています」。

小久保さんが考えているのは、ワイナリーに集う人々の輪をさらに広げること。その一環として、「醸造体験イベント」の開催を計画しているのだ。醸造のどの範囲までを手伝ってもらうか、どのように進行していくかは目下構想中だ。

都市型ワイナリーの強みは、人とワイナリーとの距離の近さにある。たくさんの人とつながりを持つことで、ワインはより地域の人々の日常に浸透する。

今後の船橋コックワイナリーは、ワインをより親しみやすい存在にするための活動を精力的におこなっていくことになるだろう。

『まとめ』

千葉県船橋市の住宅街でワインを醸す、船橋コックワイナリー。手作業中心の醸造によって生み出されるワインは素朴で、毎日でも飲みたくなる味。ぶどうの個性を生かしつつ、船橋コックワイナリーでしかできないワインの味を表現している。

街に溶け込むワイナリーは、今や市民の憩いの場になりつつある。仕事帰りにふらっと寄れるような、気軽なワイナリー。「親しみやすさ」という個性が光る、人々のそばに寄り添う存在だ。

ぜひ、ワイナリーでしか味わえない空気感を感じに、船橋コックワイナリーの醸造所に足を伸ばしてみてほしい。

基本情報

名称FUNABASHI COQ WINERY
所在地2730004
千葉県船橋市南本町36-9
アクセスJR船橋駅から徒歩16分
HPhttps://fcw.theshop.jp

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