『丹波ワイン』京都・丹波のテロワールを表現する、多彩な味わいのワイン

京都府船井郡京丹波町にある「丹波ワイン」は、1979年創業のワイナリー。京料理には欠かせない食材の産地でもある丹波は、豊かな自然が息づく場所だ。

丹波ワインは、丹波の大地と空気をぶどうとワインに溶け込ませ、「丹波でしか出来ないワイン」を造る。

日本のどこよりも「和」の空気をまとう、歴史ある街・京都で、なぜ丹波ワインはワインを造るのか。そこにはどんな物語と信念があるのだろうか。

丹波ワインの歴史とワイン造りをひもときながら、丹波ワインの「ワイン哲学」にも触れていこう。今回は、製造部醸造課の課長でエノログでもある内貴麻里さんにお話を伺った。

『京都でワインを造る 丹波ワインの歴史』

まずは、丹波ワイン設立までの物語をたどっていこう。丹波ワインの創業者・黒井哲夫氏は、なぜ京都にワイナリーを造ろうと思ったのか。また創業当時には、どんな思いを抱いてワイナリーを興したのだろうか。

▶︎ワインとの出会い 創業のきっかけ

もともと照明器具メーカーの社長を務めていた黒井さん。丹波ワイン設立以前には、ぶどう栽培やワイン造りの経験はなかった。

「あるとき、海外の駅のホームやカフェなど、気軽に楽しめる場で出会ったワインの美味しさに衝撃を受けたそうです。さっそく、気に入ったワインを買い込んで日本に持ち帰りました。しかし、帰国してから改めて味わった同じワインからは、なぜか海外で飲んだ時の驚きを得ることができなかったのです」。

現地ではあんなにも感動を受けた味だったというのに、日本で飲むと何かが足りない。その後も、同じような経験を何度も繰り返すことになった黒井さん。やがて、あることにふと思い至った。

それは、ワインの味わいには、飲んだときの気候や空気の匂い、話されている言葉、一緒に味わった料理に使われていた調味料などが複合的に作用して自然と形成された、『食文化』が大きく影響しているのではないかということだった。

ワインは現地の食文化とともに味わってこそ、本領が発揮されることを確信したのだ。 

▶︎ワインに魅せられて 京都の食文化に合うワイン造りを

黒井さんはワインの真髄を感じ、可能性を追求したいと考えるようになった。そこで会社を辞任し、私財をなげうって自らぶどう栽培とワイン造りに乗り出したのだ。目指すのは、日本、そして京都の食文化に合うワイン造りだった。

こうして1979年4月17日、丹波ワイン株式会社が誕生した。同年6月からは試験醸造を開始し、1981年には酒類製造免許を取得。ついに本格的なワイン醸造をスタートさせたのだ。

そして現在に至るまで、自社圃場のぶどうと全国の産地から買いぶどうを使って、世界を見据えたワイン醸造に挑戦し続けている丹波ワイン。京都のテロワールが感じられるワインを追求し、ワイン造りの高みを目指すのだ。

『京都・丹波でのぶどう栽培』

続いて見ていくのは、丹波ワインのぶどう栽培について。京都の自社圃場でぶどう栽培をおこなう丹波ワインは、どんな品種をどんな方法で育てているのだろうか。

また、京都のテロワールを表現するために栽培において工夫していることについても尋ねてみた。詳しく紹介していこう。

▶︎丹波の気候に合う50品種を育てる

丹波ワインが栽培しているのは、京都に合う品種を探すために選ばれた約50品種。そのうち、ヴィニフェラではないものも2品種手がけている。

製品化している品種のうちで代表的なものを挙げると、以下のとおりとなる。

<赤ワイン用品種>

  • ピノ・ノワール
  • タナ
  • サンジョベーゼ
  • カベルネ・ソーヴィニヨン
  • メルロ

<白ワイン用品種>

  • シャルドネ
  • ピノ・ブラン
  • ピノ・グリ
  • セミヨン
  • ソーヴィニヨン・ブラン
  • ショイレーベ

上記以外にも、おもに瓶内二次発酵のスパークワイン用として使われる20~30品種を栽培している。実に多彩なラインナップである。丹波ワインでは、なぜこれほどまでに多くの品種を育てているのだろうか。

「創業当初はドイツ系の品種を植えていたのですが、例えばリースリングのように、丹波の気候に合わないものもありました。丹波の気候に合うものを探すため、さまざまな品種を試していたら、結果的に50種類になっていたというわけです」。

現在栽培している品種は、丹波の気候下での生育状況がよいものばかりではない。そのため、丹波のテロワールを表現するには、丹波で健全に育つ品種選びが欠かせない。丹波ワインでは、丹波でしか表現できない味を求めて、テロワールを生かしたぶどう栽培をおこなっているのだ。

▶︎丹波の自社圃場

丹波ワインの自社圃場は、照明器具メーカーの工場建設予定地だった場所を開墾した土地だ。だが偶然にも、自社圃場の近隣には経験の長いぶどう栽培農家がいるという、恵まれた立地だった。ワイナリーを始めるという挑戦を、ワインの神様が優しく見守ってくれていたのかもしれない。

「たまたま近くでぶどう栽培をされていた農家さんのうち1軒が、丹波ワインのぶどう栽培に協力してくださることになったのです。『京都・丹波に根ざしたワイン造りをしたい』という丹波ワインの想いに賛同していただけてありがたかったですね」。

丹波ワインの自社圃場の、土壌や気候についても見ていきたい。

土壌は褐色森林土が主体の、いわゆる「黒ボク土」。比較的、粘質が多いのが特徴だ。黒ボク土を代表とする火山灰土壌は、鉄やアルミニウムを多く含んでいるためにリン酸固定力が大きい。塩基が欠乏しやすく酸性に傾きがちだという。

透水性はまずまずで、保肥力や保水性は良好。圃場の中でも特に排水性の悪い場所には、暗渠を通して水はけを確保するよう工夫している。

続いては、気候の特徴を見ていこう。まずは雨について。ぶどう栽培においては、生育期にあたる4〜10月にかけての降水量が大きく影響する。丹波ワインの自社圃場周辺における生育期の降水量は、およそ1200mm。やや降水量が多い環境だと言えそうだ。なお、台風の直撃はほとんどないという。

果実の糖や酸の生成に欠かせない気温については、世界のワイン生産地の気候区分でいうと、創業当時は南フランスや北イタリアと同等の「リージョンⅢ」だったが、現在は「リージョンⅤ」に相当する。また、地形の特性上、夜温が下がりやすい点が特徴としてあげられるそうだ。

▶︎雨対策と栽培管理におけるこだわり

丹波ワインのぶどうは、すべて垣根仕立てで栽培されている。創業当初から仕立て方はほぼ変わっていないそうだ。

「特にこだわっているのは、病害リスクを極小化するための取り組みですね。繁忙期に作業が集中することや、病害のリスクを分散する目的もあり、生育期や熟期の異なる複数品種で畑を構成しています」。

その他にも、さまざまな環境に対応できるぶどうを自社でまかなうため、複数の台木品種を育てている。ぶどうの環境適応能力は、台木の性質に大きく左右されるためだ。

丹波ワインでは新規に苗を植え付ける際、クローン品種を数種類と台木品種数種を組み合わせ、まずは試験栽培をおこなう。クローン品種と台木品種の掛け算で何種類もの苗が出来上がるため、当然、手間と時間がかかる。だが、丹波の土地で健全にぶどうを育てるために、苦労を惜しまず取り組むのが丹波ワイン流なのだ。

そして、栽培管理をする上で懸念しているのは、やはり雨の影響による病害発生のリスクだ。そのため、雨除けによる病害防除を徹底。レインカットやフルーツゾーンの雨除けを設置して、雨の影響を最小限に押さえている。

『丹波ワインのワイン醸造』

続いては、丹波ワインのワイン醸造にフォーカスしたい。

丹波ワインではどのようなワインを目指し、どんなこだわりをもってワインを醸造するのか。具体的な銘柄なども挙げつつ、丹波ワインのワイン醸造をさまざまな角度から紹介しよう。

これから丹波ワインのワインを味わってみたいと考えているなら、ぜひ参考にしてほしい。

▶︎丹波ワインが目指すワイン像

丹波ワインで造るワインのラインナップは実に幅広い。単独品種のスティルワインや、ブレンドのスパークリング、そして極甘口のデザートワインまで多彩である。

味わいの方向性も品種も多様だが、実は、すべてに共通する思想がある。それは、「それぞれのぶどうで表現できるベストを目指す」こと。多数の品種を取り扱う中でも、品種の個性表現を何よりも強く意識しているのだ。丹波のテロワールと品種個性の両方を追求すれば、丹波ワインの深みは底のしれないものになるだろう。

和食に合うという日本ワインならではの特性も生かしながら、丹波ワインの造り手は、丹波におけるぶどう品種の最高の形を目指してこだわり続ける。

▶︎目標をイメージして造るワイン

品種それぞれにおけるベストを目指すワインを実現するため、丹波ワインは醸造にどのように臨んでいるのだろうか。

「ぶどうの長所を最大限に生かせるワインをイメージし、そこから逆算して必要なことを考えながら醸造しています。自分が美味しいと思う『綺麗なワイン』が造れるように、何が必要なのかを都度考えながら造り込むことが大切ですね」。

目指す姿を明確に定め、そこに向かってワイン造りを進めていくと、まれに、「まるでパズルのピースがピタッとはまるように」すべてが上手くいくことがあるという。内貴さん自身が納得できた仕上がりのワインに対しては、周囲からも想像以上の反響を受けることが多いのだとか。

また、丹波ワインは、エチケットデザインにもこだわりがある。「和」の心を感じさせるエチケットは顧客の心をとらえて離さない。エチケットのセンスのよさを褒められることもしばしばあるという。

ワインを造るなかでは、苦労や困難も数多い。しかし内貴さんは前向きだ。失敗も苦しみもすべてを自分の力にして、ワイン造りに向き合っている。

「出産のときの苦痛は赤ん坊の顔を見れば忘れるという話のように、ワイン造りでいろいろな苦労があっても、シーズンが終われば忘れてしまいます。なにごとも経験として今後につながる糧となるので、大変だった出来事も今となってはすべて笑い話ですね」。

どんなときでもひたむきにワイン造りに取り組むからこそ、丹波ワインは顧客の心をしっかりとつかむワインを醸すことができるのかもしれない。

▶︎「京都丹波 ソーヴィニヨン・ブラン」

リリース済みのワインのなかで、内貴さんおすすめの銘柄を教えていただいた。まずは、白ワインの「京都丹波 ソーヴィニヨン・ブラン」。2020年ヴィンテージはフランスのワインコンクール「Challenge International du Vin2023」にて金賞を受賞した自信作だ。現行ヴィンテージは2021で、公式オンラインショップでも購入可能。

「ソーヴィニヨン・ブランは丹波の気候に合う品種で、安定的によいぶどうが収穫できます。秋の長雨が始まる前に収穫期を迎える品種であることも、収穫が安定する理由のひとつでしょう。糖度が十分に上がりつつ、酸も残ります。ソーヴィニヨン・ブラン特有の香りもはっきりと表現できており、丹波での可能性を感じますね」。

「京都丹波 ソーヴィニヨン・ブラン」から感じられるのは、グレープフルーツや白桃、ソーヴィニヨン・ブラン特有のハーブなどの豊かな香りだ。口に含むと骨格のしっかりとした味わいが広がり、程よい酸が心地よい。上品な苦味も感じられ、複雑性のあるワインに仕上がっている。

「暑い季節にはきりっと冷やして飲んでいただければ、幅広い料理と合わせて楽しめると思います。魚介類やイタリアン・フレンチの前菜、鶏料理と合わせていただきたいですね」。

繊細な味わいの和食との組み合わせはもちろん、洋食と合わせてワインの持つ奥行きを楽しむのもよいだろう。

▶︎「京都丹波ピノ・ノワール ヴィエイユ・ヴィーニュ」

赤ワインのおすすめ銘柄も紹介しよう。「京都丹波ピノ・ノワール ヴィエイユ・ヴィーニュ」だ。

「自社圃場のピノ・ノワールの樹齢は30年を越えました。古木になったことで、より安定したよいワインができるようになっています。自信作ですので、ぜひ味わってみてください」。

「京都丹波ピノ・ノワール ヴィエイユ・ヴィーニュ」は、古木の果実を丁寧に手摘みして造ったワインだ。和食に合う奥ゆかしさを備え、柔らかなタンニンが心地よい。メインの香りは赤系の果実だが、キノコや枯れ草などのほのかな香りと、優しい樽香も顔をのぞかせて調和する。

おすすめのペアリングは、肉料理やジビエ。ピノ・ノワールの繊細な旨味や香りが、肉のおいしさをいっそう引き出すだろう。

年内に2020年ヴィンテージをリリース予定のため、気になる方はぜひチェックして頂きたい。

▶︎たくさんのワインを、たくさんの人に届けたい

多くの人に丹波ワインを届けたいと話してくれた内貴さん。たくさんの銘柄をそろえているからこそ、ビギナーからワインラヴァーまで、あらゆる層の飲み手が満足できる1本を提供できるのだ。幅広いワインを提供できることは、丹波ワインの強みであり最大の魅力でもある。

「ワインの魅力をしっかりと感じるには、やはり食事と共に嗜むのが一番です。丹波ワインのワインを、美味しいお料理と合わせて飲んでいただければ、さらに嬉しいですね。ワインでたくさんの人に幸せを届けたいと思っています」。

『丹波ワインの挑戦 新圃場の運営とワイン造りにおける目標』

丹波ワインのぶどう栽培とワイン醸造は、毎シーズン新たな挑戦の連続だ。ワイナリーが現在取り組んでいる取り組みについて紹介したい。

新たな自社圃場がスタートし、さらに今後は丹波ワインのフラッグシップとなるワインの確立にも取り組んでいくという。丹波ワインの未来の姿を、少しだけのぞいてみよう。

▶︎北海道・壮瞥町の自社農園

「2023年にチャレンジしたいこと」として話していただいたのは、北海道有珠郡(うすぐん)の壮瞥町(そうべつちょう)にある自社圃場のぶどうを使ったワイン造りだ。2018年に植樹が開始された新しい圃場であり、試験圃場からスタートした。現在は約2haの広さだ。

「壮瞥町の圃場のピノ・ブランはすでに商品化しているのですが、2021年に植樹したピノ・ノワールやシャルドネなども2023年に収獲できそうです。北海道で収穫できたぶどう単独での仕込みが出来れば、試験醸造して新しいワインの可能性を確認していきたいですね」。

北海道と京都は、気候も土壌もまったく違う土地だ。距離の離れたふたつの土地のテロワールは、どのような味わいの違いとしてあらわれるのか。今から楽しみでならないと、造り手自身も期待を膨らませている。

品種個性だけではなく「土地の個性」もワイナリーの新たな武器として、今後も丹波ワインの挑戦は続いていく。

▶︎丹波に合う品種を深掘りしたい

多くの品種のぶどうを栽培している丹波ワインだが、現在丹波で手がける50品種の中から、土地に適したぶどう品種をさらに掘り下げたワイン造りに挑戦していきたいと話してくれた内貴さん。

「これまでは、丹波で育てることができるぶどうはどれかを見極めるという視点で、適正品種を見つける事に重きを置いてきました。しかし今後は、その先に進みたいと考えています。栽培している50品種のうち、これこそが丹波ワインを代表するワインだ言えるものを確立していきたいのです」。

どのワインが「丹波ワインの代表」になるかは、今まさに模索中。候補としては、周囲からも高い評価を受けているソーヴィニヨン・ブランやセミヨン、ピノ・ノワール、タナなどが可能性を秘めていると言えそうだ。

「日本はもとより、世界中から京都を訪れる観光客の皆さまに、『京都に来たら丹波ワインを楽しみたい』と思っていただける存在になることができたら嬉しいですね」。

『まとめ』

京都・丹波の自社圃場でぶどうを栽培し、品種個性とテロワールを映し出した、多彩なワインを生み出している丹波ワイン。栽培や醸造に関して高い技術力を持ち、あらゆる人を満足させられる幅広いラインナップを生み出していることがワイナリーの魅力だ。

ワイン造りだけでなく、イベント開催にも積極的な丹波ワイン。2023年8月下旬には「ワイン用ブドウ収穫祭」、10月には「黒豆枝豆の収穫体験 × 丹波ワイン新酒イベント」を開催した。

収穫祭はピノ・グリ、ピノ・ブランといったワイン用ぶどうの手摘み収穫体験や、手絞りジュース搾汁体験などに参加することができ、幅広い年齢で楽しめるイベントだ。また「黒豆枝豆の収穫体験 × 丹波ワイン新酒」のイベントは、丹波の名産品である「黒豆」の収穫とヌーヴォーワインが同時に楽しめる企画として好評を博した。

丹波ワインでは、年間を通じて多彩なイベントを開催している。ぜひ京都に直接出向き、現地でしか味わえない体験とワインを楽しんでほしい。丹波のテロワールが生み出す美味しいワインが与えてくれる幸せに、酔いしれてみてはいかがだろうか。

基本情報

名称丹波ワイン
所在地〒622-0231
京都府船井郡京丹波町豊田鳥居野96
アクセスhttps://www.tambawine.co.jp/access/
HPhttps://www.tambawine.co.jp/

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