『VinVie』自由な発想から生まれるワインとシードル 地域の酒文化に新たな風を

「VinVie(ヴァンヴィ)」長野県松川町、日本アルプスの山々に囲まれた緑豊かな南信州(南信地区)にある。りんごを代表とする果樹栽培が盛んで、どこか懐かしさを感じる里山の風景が魅力的な土地だ。

そんな美しい自然の中にあるVinVieは、ぶどうで造る「ワイン」とりんごで造る「シードル」両方をメインとするワイナリー。双方の垣根なく、自由な発想で醸造が行われている。

高校の同級生でもある2人の取締役、営業・企画担当の佐藤篤さんと、ぶどう栽培・醸造担当の竹村剛さんに、ワイナリーの魅力やエピソードについて話を伺った。 

『VinVie創業の歩み 6次産業を立ち上げたい』

最初に紹介したいのは、VinVieの歴史について。VinVieは「りんご農家」「醸造家」「企画・販売」の3つの分野の専門家たちによるワイナリーだ。
代表の竹村暢子さん、夫であり農園を営むりんご農家の隆さん、醸造家の竹村剛さん、そして販売を担当する佐藤さんの4名のメンバーで運営されている。

▶VinVieが誕生したきっかけとは

VinVieが誕生したきっかけをみていこう。「元々、『栽培』『醸造』『販売』という6次産業をしたいと考えていたのです。原料である果物を造るところからはじめて、商品を作ってお客さんに届けるまでのすべてをやりたいという思いがありました」と竹村剛さん。

原料を造るところから顧客に販売するまでを実現するには、専門知識が必要だ。それぞれを得意とし、経験のある人々が組んで事業をスタートすることが、最も近道だと考えた。

そして2018年にVinVieを立ち上げる。社名でもあり、ブランド名でもある「VinVie」は、フランス語で“ワイン”を表す「Vin」と“人生”と“暮らし”を意味する「Vie」を合せた造語である。
2020年4月には醸造所とショップが完成し、醸造免許がおりたのは2020年8月のこと。現在ショップでは、2020年ヴィンテージのワインとシードルが販売されている。

自社で醸造を始めるまでは、「信州まし野ワイン」への委託醸造でワインを生産していた。VinVieメンバーのひとり、醸造担当の竹村剛さんは元々、信州まし野ワインで醸造を担当していたのだ。ワイナリーの起業を機にまし野ワインを退職。VinVieの醸造担当に就いた。

▶出会いのきっかけはシードル

ワインとシードル両方をメインに販売するVinVie。ぶどうとりんご、両方を取り扱うようになったきっかけは何だったのだろうか?

「ワインからではなく、シードルがつないだ縁でした」と剛さん。りんご農家である竹村夫妻とワイン醸造家の剛さんが出会ったのは、シードルがきっかけだったのだ。

果樹栽培が盛んな松川町は、りんご農家の多い土地。観光農園業が広く営まれていて、収穫したりんごは、自社農園で直売している。余ったりんごはジュースにされることが多かったが、近年は「シードル」に興味を持つ農家が増加。
地元の農家がシードルを造ってみたいと考えていた時期と、剛さんが醸造担当者として信州まし野ワインにやってきた時期がちょうど重なったのだ。

ワイナリーにやってきた剛さんはシードルの委託醸造を引き受ける機会も多く、りんご農家とのつきあいが増えた。そんな中で出会ったのが、VinVie創業メンバーでもある竹村さん夫妻。
「私が南信地区にやってきたばかりの時は、シードルの醸造ばかりでした。ワインを造るために、自分でぶどうを育て始めたところだったのですが」と、剛さんは当時のことを話してくれた。「りんご農家と醸造家が、シードルを通してつながったのです」。

ワインとシードルを醸造するVinVieは、それぞれのラインナップも豊富だ。VinVieでは「土地で取れた果物で造るお酒を飲む文化」を根付かせることを最終目標に、日々栽培、醸造と販売に取り組んでいる。果樹栽培が有名な地元の産業を尊重し、新たな取り組みにチャレンジし続けるワイナリーだ。

『VinVieで育てるぶどうとりんご 南信地区への適性を探して』

VinVieで栽培する「ぶどう」と「りんご」の栽培について伺った。VinVieでは、多数のぶどうとりんごの品種を育てている。たくさんの品種を育てているのには、確固たる理由と信念があった。

▶VinVieが栽培するぶどう品種

まずはぶどう品種についてみていこう。育てているのは、醸造用ぶどう品種が8種類。生食用ぶどう品種が3種類だ。

醸造用品種の白ぶどうは次の4品種。ソーヴィニヨン・ブラン、プティ・マンサン、ゲヴュルツトラミネール、そしてケルナーだ。
黒ぶどうはメルロー、シラー、カベルネ・フラン、ピノ・ノワール。計4品種。
生食用のぶどう品種は竜眼、デラウェア、ナイアガラの3種類を栽培する。

多くのぶどう品種を育てる理由は大きくふたつある。ひとつは、南信地区での栽培に適するぶどう品種を探すため。VinVieがある南信地区は、醸造用ぶどうを栽培する農家がまだ少ない。
どの品種が土地に適性があるのかがまだ分かっていないので、自分たちで試していく必要があると感じているのだ。もうひとつの理由は、ワインを造る剛さん自身が「飲みたい品種だから」というもの。

理由について、品種ごとにもう少し深掘りしていこう。白ぶどう品種は、目指すワインのスタイルに合いそうなものが厳選されている。剛さんが目指すワインのスタイルとは、香りが高く酸味と厚みがあるものだ。

VinVieのソーヴィニヨン・ブランは、柑橘の香り以上に「落ち着いた香り」が強調されている。厚みも出るスタイルのワインができているという。

プティ・マンサンは、酸味が十分蓄えられ、糖度も上がりやすい。雨に強く、むしろ降雨を好む品種だ。南信地区は長野県のほかの地域に比べると雨量が多い。
雨に強いプティ・マンサンの特性は、松川町での栽培にうってつけなのだ。

ゲヴュルツトラミネールは、バラやライチの香りが印象的なぶどう品種。「香りが良いワインを造りたい」との理由で栽培している。

なお白ぶどうの栽培品種の中でも、プティ・マンサンとゲヴュルツトラミネールは試験栽培が始まったばかり。まだワインとしては販売されていない。

次は黒ぶどう品種について。黒ぶどうは単一品種ではなく、ブレンドしてワインを造っている。
「様々な品種が織りなす、奥行きのある香りを含めて造っています」と剛さん。特にカベルネ・フランとシラーは、南信地区に栽培適性があると感じている。

最後に生食用品種について。生食用のぶどうは、カジュアルに飲めるラインのワインを造るために栽培している。手頃な価格で提供するため、収量を多くしやすい棚仕立てで栽培されているのだ。
生食用ぶどうから造られるワインは「KeyKeg(キーケグ)®」と呼ばれる、大ぶりのペットボトルでも販売されている。KeyKeg®は、ビールサーバーにつなげる「樽生ビール」を入れる容器として使用されるペットボトルだ。容器にワインを入れることで「樽生ワイン」として、サーバーから注ぐ気軽なスタイルで楽しめる。

▶VinVieが栽培するりんご品種

ワインと並ぶ2本目の柱である「シードル」。シードルの原料となるのがりんごの果実だ。VinVieでは、シードルにするためのりんご品種を多数育てている。

りんごには「醸造用品種」もあることをご存じだろうか?VinVieでは、一般的な生食用りんご品種と、醸造用りんご品種の両方が栽培されている。生食用のりんごは10種類を育てており、ふじ、紅玉、王林が中心だ。

3年ほど前から、醸造用のりんご品種も栽培している。なんと育てる品種数は、30種類ほど。醸造用りんご品種は、日本ではほとんど栽培されていないので、聞き慣れない名前も多い。
「ヴァージニアクラブ」や「コックスオレンジピピン」などの、イギリスやアメリカの品種が中心だ。

生食りんごと醸造用りんごの違いは、タンニン(渋味成分)の有無だ。日本の生食りんごにはタンニンがないが、醸造用品種はタンニンが豊富に含まれる。かじるとしっかりと渋みを感じるのだ。
そのまま食べると渋さが目立つが、シードル醸造には最適。甘みだけではない奥深さのある、味わい豊かなシードルができあがる。

「海外で言うと『ビタースイート』な味わいになります。日本のりんごには渋味がないので『ビター』感はなかなか出せません」と剛さん。ビタースイートやビターシャープな味のシードルにするために、渋味のある醸造用りんご品種を使っているのだ。

日本全国でみても、醸造用りんご品種の栽培は珍しい。醸造用ぶどう栽培と同様、南信地区でもあまり例がない。
「僕らが自分たちでやらなければ」と、試験的な栽培を続けている。現在は30品種と多数の品種を育てるが、今後は土地に合う品種を選抜していく予定だ。最終的な品種は、次第にしぼられていくだろう。

りんごもぶどうも、苗木を育て始めてから収穫して実際に酒になるまでには3年以上の歳月がかかる。VinVieはでは、まだ多くが挑戦や実験の段階だ。
「自分たちが試験を続けることで、土地に合う醸造用の品種が見極めていければと考えます。僕ら以外にも、シードルのためのりんごを作る農家が地域に増えていけば嬉しい。『醸造用りんご』を栽培する農家を増やすことも目標のひとつですね」と剛さん。

▶梨棚を再利用したぶどう栽培

醸造用ぶどう品種を「垣根仕立て」、生食用ぶどう品種を「棚仕立て」で栽培しているVinVie。
「垣根栽培は、苗木の数がたくさん必要な栽培方法です。10aで300本程の苗木を植えることになります。一方の棚栽培は、多く見積もっても垣根の約10分の1の苗木で済む。費用を抑えられるので、生食用ぶどうの栽培に利用しています。生食用ぶどうは、カジュアルラインのワイン用ですね」と剛さん。

ぶどうを棚仕立てで栽培するにあたって有効活用しているのは、地域に元々あった「梨棚」だ。南信地区は、梨の栽培が非常に盛んな地域。
しかし梨は、笠かけや防除が頻繁に必要であり、収穫に至るまでりんご以上の神経を使うのだ。手間がかかることから、撤退する農家も多い。

梨の樹が切られた梨棚には、棚の枠組みだけが残る。そこで近年ではシャインマスカットを植えるなど、梨棚を使ってぶどう栽培する農家が増えている。梨棚を使ったぶどう栽培は、通常の棚栽培とほぼ同様だ。
梨棚を再利用する利点は、地域の資源を再利用できること。もちろん費用負担も抑えられる。すでに棚が準備されていることで、よりスムーズに栽培作業を始めることが可能になるのだ。

棚と垣根、どちらの方法が松川町でのぶどう栽培に適していて、品質が優れたぶどうが収穫できるのかを検証中だ。様々な方法や品種の栽培を組み合わせて試す中で、「これだ」という方法が見つかっていくのだろう。

▶栽培のこだわりは「変化に適応すること」

VinVieならではの、栽培のこだわりについて伺った。「後々手をかけないで済むために、先に手をかけておくことがこだわりですね」と剛さん。土壌や天候など、地域に合うぶどう品種を選ぶところから吟味している。
気候の変動など、ぶどう栽培には変化がつきもの。「変化に対し柔軟に適応すること」を大切に考えたぶどう栽培を実践する。

VinVieで具体的に行っている畑作りは、「草生栽培」。下草を伐採せず、生やしたままにする栽培方法だ。雑草の根が自然に土を耕し、土壌の状態をよくする働きがある。

また、畑には肥料を使用していない。「元々の畑の状態で、ぶどうがどのように育つのかを試している状態ですね」と剛さん。今後は適量使用していく可能性もあるという。
使用する農薬はぶどうの状態を観察して、天気を考えて予防的に使用している。また、極力少ない回数で病気を抑えられるように工夫をしているのだ。

「松川町は、100年以上もの果樹栽培の歴史を持つ土地です。寒暖差のある気候で、水はけのよい土壌。果樹栽培の好適地ですね」と佐藤さん。これから大切になるのは「ぶどうとりんご品種の見極め」になるだろう。

異常気象への対応など、土地や気候の変化に「適応」することを一番に重視する方針だ。醸造用のぶどうとりんご栽培において、地域のパイオニア的存在のVinVie。
松川町に果実酒造りの文化を根付かせるため、これからも先陣を切って醸造用品種の栽培にチャレンジしていく。

『自由な発想で造られるVinVieのワインとシードル』

続いて伺ったのは、VinVieで造るワインやシードルについて。VinVieが目指すワインは「飲み飽きず、飲み続けられるワインとシードルであること」と「ゆるさを持ったワイン・シードル」だ。
そのため、日常に寄り添うワインとシードルが造られている。

VinVieでは、「ハレの日」から「日々の食卓」まで幅広い日常のシーンに対応する1本が見つかるのが特徴だ。「日常とひとことで言っても、一定ではなく波がありますよね。さまざまな日常の風景で楽しめるワインやシードルをそろえているのです」と佐藤さん。

「カジュアル」「スタンダード」「フラッグシップ」と、異なるラインを豊富に取り扱うことで、生活の多くの場面にマッチさせることができる。
「毎日飲める」のが魅力のラインナップだ。

ワインだけでなくシードルがあることも、日々の生活になじむポイントだ。ワインと比べるとシードルのアルコール度数は低く、5~7%程度。飲み疲れしない酒であることが、VinVieの目標でありコンセプトなのだ。

▶大切にしているのは「発酵初期」の醸造工程

新しいチャレンジが続いている、VinVieのワインとシードル醸造。様々な酵母の使用や、酸化防止剤を使わない醸造法も試している。

そんなVinVieにおける醸造のこだわりは、発酵の「最初期段階」を重視すること。発酵の最初期段階とは、発酵が始まるか始まらないかの状態のこと。酵母が断続的に増殖する前段階だ。
「発酵が始まるか始まらないかの時期は、赤ワインなら色が出て、白ワインなら香りを出る。シードルもワインもジュース状態からアルコールが生まれます。出来上がりを左右する、最も大切な段階だと考えています」と剛さん。

発酵が本格的に始まると、酵母に任せていれば自然とワインやシードルができあがる。そのため、酵母が本格的に活動する前までに、出来上がりを考えた醸造の工夫や対応をする必要があるのだという。

発酵が本格的に始まる前段階で具体的に行っていることは、空気と温度の管理だ。「本来発酵とは、空気が要らない反応。ですが、酵母が増え出すときは少し空気があったほうがよいのです」と剛さん。
「空気の量」をどのくらいにするかが、悩みどころであり工夫のしどころでもある。

温度管理も重要だ。どの程度の温度で発酵前段階を過ごさせるかによって、ワインやシードルの出来が変わってくる。液体の「濁り」や「香り」の具合を見つつ、空気の入れ具合や温度を調整している。

剛さんは、ワインやシードル造りを「簡単にできてしまうからこそ難しい」と話す。大切なのは、発酵がはじまる前に、どのような工夫をして完成度を上げるか。「考えれば考えるほど難しくなっていく世界です」と剛さん。

VinVieの考えるワインやシードルのゴールはどこにあるのか?できあがったワインやシードルを飲むことで、造り手の思いや理想を読み取りたいものだ。

▶醸造の苦労、失敗と挑戦

ワインやシードルを造るうえでの、困難や苦労のエピソードについて伺った。「どれも大変ですよ」と剛さん。試行錯誤し、頭を悩ませながら生み出している1本なのだから、当然のことかもしれない。

あえてその中でも何が大変だったかを聞くと「シードル造り」なのだとか。「ワインとシードルを比べると、シードルの方がはるかに難しいです」と剛さん。
日本でも珍しい「醸造用りんご」を育てるVinVieでは、シードルに関してたくさんのチャレンジを行っている。だからこそ、たくさんの失敗もあるという。

最も大変だったエピソードを紹介しよう。赤ワインのように、実と皮を一緒に仕込んで発酵させたときのこと。発酵させる期間が長くなってしまったものがあり、りんごがドロドロに。
せっかく発酵させたものの、なかなか搾汁が進まなかったのだとか。

シードル造りの難しさは「ほかのワイナリーや醸造所が行っていない試みが多い」ことも大きい。例えばVinVieにはホップやハーブ、スパイスのブレンドをしたシードルがある。
しかしほかに同様のシードルを造っているワイナリーがほとんどないため、ブレンドの配合量や、浸漬の時間を考えるだけでも難しい。「どのくらい入れるべきなのか?」という指標がないからだ。全てを1から自分たちで試している状態。「難しいところでもあり、楽しいところでもありますね」と剛さん。

▶VinVie自慢のワイン・シードル 蜂酵母シードルとは

2021年に続々と新しいワインをリリースしているVinVie。同年4月にも、2020年ヴィンテージのワイン3種類をリリースした。
ひとつは契約農家のぶどうから醸造した「VinVieルージュ メルロー・カベルネ」。
残る2種類は、自社ぶどうを使用した白ワイン「緒 いとぐち -Itoguchi-」と赤ワイン「編 とじいと -Tojiito-」だ。いずれもオンラインショップでは限定20本ずつの少量販売。
「酒屋さんやワイナリーに来てもらう人の分を確保すると、ネットでの販売が少なくなってしまう点が小さなワイナリーの悲哀です」。

可能な限り、実際にワイナリーに足を運んで飲んでもらうのが一番だと話す佐藤さん。ぶどうやりんごが生まれた場所で、育った風景を見ながら飲んでもらうのが、最も美味しく味わえると考えるからだ。

続いて、VinVie自慢のラインナップのひとつである「蜂酵母」を使用したシードルについて取り上げたい。「蜂酵母」とは、蜂の体内から採取された酵母のこと。アメリカで発見された酵母なのだそうだ。

蜂酵母は、酒の醸造に適しているという。理由は蜂酵母特有の性質にある。蜂酵母を使用してアルコール発酵させると、アルコールと二酸化炭素のほかに多くの「エステル」と「乳酸」が生まれる。
エステルの働きで、とても良い香りが出てくるそうだ。また、乳酸の働きで、特有の「酸味」が出現。「乳酸がもたらす酸味は、綺麗な酸。蜂酵母を使用すると、綺麗な酸味のあるハチミツやネクターの香りのするシードルができあがるのです」と剛さん。

蜂酵母は元々アメリカで、酸味のあるビールを造るために使用されているもの。「日本酒醸造に使えないか」との考えから、蜂酵母を扱っていたアメリカの方と偶然にも出会った剛さん。
シードルに使わせてもらうことになったのだ。「シードルに使うのは、世界でまだだれもやっていない。ぜひやってみて」と言われたのだとか。

世界でVinVieだけの「蜂酵母のシードル」。蜂蜜やネクター様の香りが生まれるのが特徴だ。
「うちのシードルでは『りんごの花』の香りが感じられます」と剛さん。

「VinVieといえば『蜂酵母』。柱となる存在になりました」と佐藤さん。珍しい「蜂酵母」と松川町産りんごとの奇跡の出会いを、こだわりのシードルで楽しみたい。

▶ぶどうとりんご、ワインとシードル 自由度の高さと多様性が強み

多くの試みにチャレンジするVinVie。強みや「VinVieらしさ」は得意分野も経歴も違う4人が造ったワイナリーであるという点だ。

ワインとシードルの両方を扱うことにも、ふたつの利点がある。ひとつは「発想の自由度が上がること」。もうひとつは「ふたつの商品があることで、より幅広い客層に訴求できること」だ。

ワインとシードルの両方を取り扱うことで、片方の造り方をもう片方に生かすことができる。同じ社内でワインとシードル両方を造っていることから、ふたつの商品に垣根はない。

特にシードル造りの発想をワインに生かせることが大きいのだという。「自分も以前、ワイナリーでワインを造っていたから分かるのですが、特にワイン造りは『こうあるべき』という考えになりがちです。
今もシードルを醸造しているからこそ、柔軟で自由な発想ができていると感じます」と剛さん。

ワイン造りだけをしていると、よくも悪くも「ぶどうの特徴的な香り」や「醸造方法などの型」について考えがちになるという。
例えば「ソーヴィニヨン・ブランであれば、品種特有の香りが必要」、「シャルドネであればこの醸造方法が最適」などといった考えだ。

しかし試行錯誤でシードルを醸造しているからこそ、型にとらわれなくてもよいと気づけた。
「こんな楽しみ方があってもよい、これとこれを合わせても楽しいなど、セパージュなどでも自由になれましたね」と剛さん。

シードル造りがあるからこそ、ワイン造りでも従来の方法にとらわれない、「自分達らしさ」を出せる。VinVieならではの大きな強みになっているのだ。

「ワイン」「シードル」というふたつの柱があることも、VinVieらしさにつながっている。ふたつの商品を扱う分、対応する市場も広がる。
ワインを見に来た訪問客にシードルをすすめるきっかけになり、その逆もあるという。

結果として、多くの顧客とつながる機会が生まれる。またシードルについては、アルコール度数や醸造過程などの点で、クラフトビールとの共通項も多い。そのためクラフトビール好きの人々に訴求できる点も大きな強みだ。

「『ワインを飲む人はビールや日本酒飲まない』ではなく、自由な発想を感じてもらえると嬉しいです。何よりも自分達が楽しんで造っている雰囲気やスピリットを楽しんでいただけたら」と佐藤さん。

経験や得意分野が違う4人が集まったからこそ、たくさんのアイデアや自由な発想が飛び出すVinVie。多様性が尊重された雰囲気の中で、栽培と醸造が行われているのがVinVieらしさであり、最大の魅力なのだ。

『地元を大切にしながら外に発信していく VinVieの目標』

最後に伺ったのは、VinVie将来の目標や今後の展開について。具体的に目指していること、これから挑戦したいと思っている取り組みなどを教えていただいた。

まずは、将来的に見据えている大きな目標について。「ローカルな部分を大事にしつつ、松川町から外への発信も挑戦していきたいです」と剛さん。
今後少しずつ進めていく取り組みにはなるが、世界とつながることも大切にしていく。ワインとシードルの輸出、そして国外のお客様に来てもらうことを目標に、一歩一歩進んでいきたいと考えている。

続いて、今後造りたいワインとシードルについての目標。それは、今育てている醸造用ぶどうやりんごをしっかりと育て、まとまった量のワイン・シードルにしていくことだ。
まだまだ土地と品種との適性を模索している最中のVinVie。品種を見極めつつ醸造する作業が続いていくだろう。

「2020年ヴィンテージが最初でしたが、最初ながらにいろいろなチャレンジができました。お客さんの反応も見れたので、来年以降はさらにブラッシュアップさせていきたいと考えています」と剛さんは決意を語る。

新しい取り組みを続けつつ、最初のコンセプトからぶれない「日常に寄り添うものを造る」ことを貫くVinVie。
「人の生活や社会が変わっていっても、僕らのワインは日常に寄り添うものであり続けたい」との思いは揺るがない。

VinVieが目指すのは、地域の中に「VinVieがあってよかった」と思ってくれるようなワイナリーであること。外への発信をしていきたいという思いも、地域の人の誇りであることが前提になっているのだ。

「まずは地域の人の自慢のワイナリーであること。そのうえで、僕らの商品や考えをよいと思ってくれる県外や海外の人を招きたい。広く愛されている様子を見て、また地域の人が誇りに思ってくれたら最高です。濃い循環を生み出したいですね」と佐藤さん。
地域の新しい酒文化の発信源であるVinVie。地元へのリスペクトと自由な発想は、今後のさらなる活躍を予感させる。

『まとめ』

VinVieは、ワインとシードルの両方を両軸として醸造するワイナリー。型にしばられない自由な発想で、メンバーそれぞれが心から楽しみながら「栽培」「醸造」「販売」に取り組む。

新しいものに触れてみたい人はもちろん、「普段ワインしか飲まない」人も、ぜひ訪れてほしいワイナリーだ。「楽しむことが何よりも大切」という、挑戦さえも楽しむ造り手の精神を感じることができるだろう。

美しい山並みの中で、しがらみにとらわれず心が開放される。VinVieは、そんな気分を味わえる場所だ。

基本情報

名称VinVie
所在地〒399-3304 
長野県下伊那郡松川町大島3307-7
アクセス
中央自動車道「松川」インターチェンジより車で5分。
電車
JR飯田線「伊那大島」駅より車で8分
HPhttps://vinvie.jp/

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