追跡! ワイナリー最新情報!『大池ワイナリー』 生産量を増やし、新しい品種を植えて飛躍の年に!

長野県東筑摩郡山形村にある「大池ワイナリー」。社長の藤沢啓太さんが、ヤマ・ソーヴィニヨンの畑を叔父から引き継いだのが創業のきっかけだ。

自社農園は、肥沃な扇状地がなだらかに広がる高原地帯にある。日照時間も十分で昼夜の寒暖差が大きく、水はけのよい土壌はワインの生育に有利だ。できるだけ自然な方法を用いて土壌の微生物を増やすなど、環境にも優しい栽培法を心がけている。

標高720〜800mの圃場では、ソーヴィニヨン・ブランやシャルドネ、メルロー、ヤマ・ソーヴィニヨン、山ぶどうなどの品種を栽培。また、一部ではシードル用のリンゴを栽培している。

大池ワイナリーが目指すのは、「飲み飽きないワイン」。酸味を大切に、ぶどうの個性が表現できるワインが理想だ。収穫した日のうちに仕込み、温度管理を徹底することで、良質なワインを生み出している。

商品ラインナップには、小規模ワイナリーならではの個性が光る。例えば、「信州・山形村の里山時間で育った個性豊かなワイン三姉妹」と銘打つ3本のワインのエチケットは、社長の娘さんたちがモチーフ。

また、一度にいろんな種類が楽しめるよう、375mlの小瓶を積極的にリリースするなど、消費者目線を意識した戦略も特徴だ。

『2021年は、霜と雨に悩まされた年』

2021年の大池ワイナリーの状況について、栽培と醸造担当の小林和俊さんにお話を伺った。

天候に大きく左右されるぶどう栽培で、人間にはコントロールできない、自然を相手にする大変さを実感した年だったようだ。

▶︎収量減でも、品質のよいぶどうを収穫

「2021年は、難しい天候の1年でした。4月下旬に霜が降りて、ぶどうやリンゴの芽が枯れてしまったのです。また、夏季に雨が多かったので、収量は見込みの半分以下でしたね」。

2021年は大池ワイナリーだけでなく、近隣のワイナリーでも、霜や長雨の被害で収量が減った年だった。

特に、赤ワイン専用品種のメルローが大きな打撃を受け、収量が激減。原因は主に、長雨による病気の発生だ。

「信州・山形村の里山時間で育った個性豊かなワイン三姉妹」にも使われているメルロー品種。十分な収量が確保できなかった2021年ヴィンテージは、ワイナリーのイチオシ銘柄の販売にも影響が出てしまった。

だが、メルロー以外の品種では、糖度が高く、品質のよいぶどうが収穫できたのが大きな成果だ。

「年が明け2022年になってからは、連日、マイナス10度を下回る気温を観測する寒い冬になりました。2022年は雪がしっかりと降ったため、霜が少ない年になりそうでよかったです。2022年の天候には期待が持てます」。

▶︎防除の方法やタイミングを見直し、柔軟な対応をすすめる

特に霜と雨の被害が大きかったのは、赤ワイン用ぶどう品種のメルロー。もともと、雨や病気に強いと日本でも植えられてきた品種だ。だが、2021年の大池ワイナリーでは、シャルドネなどの白ワイン用ぶどう品種のほうが、雨や病気に耐えていた。

「同じ農薬を使い、同じタイミングで防除をおこないましたが、メルローだけ生育状態がよくなかったのです。2021年の失敗を繰り返さないよう、2022年はぶどうの様子をしっかりと見守り、防除のタイミングや農薬の選定について、柔軟に対応したいと思います」。

▶︎レインカットで、ぶどうにかかる雨の量を調整

ぶどうが病気になる要因のひとつに、結実したあと、果実に雨が当たって皮が割れてしまうことが挙げられる。大池ワイナリーでは2022年、メルローの房に雨が直接当たらないよう、レインカットをおこなう予定だ。

レインカットの導入を検討する背景には、ぶどうの生育に適しているとされる長野県でさえ、気候変動の影響が大きくなってきたことがある。

以前から雨の多かった地域である西日本のワイナリーでは、独自の方式で棚を作ってぶどうを仕立て、上からビニールをかける雨対策を実施している。大池ワイナリーでも同様に、気候に合わせた工夫を取り入れることを検討しているのだ。

「近年では長野県でも、8月中旬から台風が来るのが当たり前になってきています。そのため、雨対策が急務なのです。費用がかかったとしても、対策をしていかなれば、ワイナリーの経営に影響が出かねません。まずはメルローにレインカットを導入したいと考えています」。

温暖化がさらに進めば、雨や病気に強いハイブリッド品種を植えるなどの選択肢を視野に入れていくことも検討している。

「メルローでレインカットを試してみて、効果があれば、シャルドネやソーヴィニヨン・ブランなどの畑にも順次導入していきたいですね」。

さまざまな資材を駆使して、ぶどうにかかる雨量を減らすのが、現在できる最適な対策なのだ。

▶︎大池ワイナリーの栽培の工夫

大池ワイナリーでは、雨対策以外にも、栽培方法を試行錯誤しながら、より高品質なぶどうを収穫するための対策をおこなっている。2021年のぶどう栽培での工夫について伺った。

品質のよいぶどうを収穫するため、例年であればぶどうの房は枝に対して2房ずつにしているところを、早い段階で1房に変更することを決断。さらに、病気が進んでいるぶどうに関しては、収穫時に手作業でよい実だけをより分けて収穫した。

これまでは1枝に3房程度残して栽培していたヤマ・ソーヴィニヨンに関しても、すべて1~2房に調整し、できるだけ糖度を上げることを優先したそうだ。

収量を重視するのであれば、メルローを早めに収穫するという選択肢もあった。大池ワイナリーでは、広島県三次市のワイナリー「Vinoble Vineyard & Winery」代表の横町さんに、醸造指導を依頼している。横町さん自身は、「Vinoble Vineyard & Winery」の自社畑のメルローは早めの収穫を実施したという。

大池ワイナリーでメルローを早めに収穫した場合、商品展開にも影響が出る。小林さんは、横町さんに相談しながらも、最終的には収穫適期まで慎重に見守ることを選択した。収量が減っても、糖度がしっかりと上がったぶどうを収穫したいと考えたためだ。

だが、ある程度の収量が確保できなければ、ワインの醸造と販売は難しくなるのが現実だ。

「2021年の結果を踏まえて、2022年は、適度に糖度が上がった段階で収穫に踏み切ることも視野に入れています。判断が難しいところですが、栽培が難しい年からは、たくさんの経験を得られたメリットもありました。天候の影響を最小限にする技術があるなら、先行投資をして、しっかりと対策をとっていきたいです」。

大先輩の横町さんからも引き続き助言を受けながら、栽培方法に工夫を凝らすことも継続し、醸造量と品質を担保していく。

収量や品質が天候に左右されてしまうのは、ぶどう栽培をおこなううえでの宿命だ。大池ワイナリーの、メルローの順調な生育に期待したい。

『シードルは生産が追い付かないほど人気』

大池ワイナリーでは、リンゴで醸造したシードルも、主力商品のひとつだ。大池ワイナリーのシードルは、醸造指導者の横町さんから醸造技術を伝授された、自慢の品だ。

販売先からも好評で、より多く購入したいとの声が多い。そのため、2021年はこれまでで最も多くのシードルを醸造した。

▶︎「ふじ」のシードルが大好評

「2021年のシードルの醸造量は5t程度でしたが、おかげさまで好評をいただき、『ふじ』の甘口と辛口は、いずれも早い段階で売り切れとなりました。2022年は、さらに醸造量を増やすことを検討しており、6t程度仕込むつもりです」。

ただし、醸造量をアップさせるには、醸造タンクが不足しているのが現状だ。追加での醸造タンク購入が難しい場合には、仕込みを2回に分けて実施することも視野に入れている。

リンゴは、収穫後に冷蔵庫での保存が可能な果実だ。そのため、11月に1回目の仕込みをおこなって、年明けごろに瓶詰めし、空いたタンクで2回目の仕込みに取りかかる計画なのだ。

▶︎シードルの原料確保も課題

シードルの醸造量を増やす場合には、原料となるリンゴの確保も課題となる。近年は天候が安定しないため、リンゴの収量にも影響が出ているためだ。

2021年は、霜や長雨の影響で、多くのリンゴ農家で収量の減少が目立った。大池ワイナリーは、さまざまな農家を回って声をかけ、加工用リンゴを購入。シードルの仕込み量を増やす考えの2022年は、より多くの原料を確保できるよう、新たな農家にも声をかけて契約農家を増やしていく予定だ。

『大池ワイナリーのワインの魅力』

続いては、大池ワイナリーで醸造されるワインの魅力に迫っていこう。小瓶の「Lapin」シリーズやヤマ・ソーヴィニヨンの「紫風の里」など、個性的なラインナップがそろう、大池ワイナリーのワイン。おすすめのワインについても伺ったので、購入を考えている人は、ぜひ参考にしてほしい。

「うちのワイナリーのラインナップのなかでは、現在はシードルの人気が高いのが特徴です。低アルコールの飲みやすさが支持されているのかもしれないですね。シードルの販売先の業者さんで、ワインに興味を持ってくださる方も多いので、今後は、おすすめワインの販売活動にも注力していきたいと考えています」。

▶︎ソーヴィニヨン・ブランとシャルドネ

小林さんが自信をもってすすめてくれたのは、ソーヴィニヨン・ブランのワインだ。醸造指導者の横町さんからも「香りがしっかり出ていて、大池ワイナリーの顔になる可能性がある」とのお墨付き。

大池ワイナリーでは現在、ワインの醸造量を増やすことも課題である。2021年の春には、ソーヴィニヨン・ブラン80本を追加で植樹した。若木が成長する2024年頃には収穫の開始が見込める。

ソーヴィニヨン・ブランの収量がアップした際には、ワインの販売価格をよりリーズナブルに見直し、食中酒として家飲みにも最適な1本に仕上げたい考えだ。

また、シャルドネにも期待がかかる。樽発酵のワインやスパークリングなど、同じシャルドネでも、異なる醸造方法の銘柄を展開中。最近ではシャルドネのスパークリングの人気も上々なので、2022年は特に、スパークリングの醸造に力を入れる予定だ。

▶︎ヤマ・ソーヴィニヨンを長期熟成型の赤ワインに

赤ワイン用品種のおすすめは、ヤマ・ソーヴィニヨン。さらに今後は、これまで1年程度を目安に樽熟成させていたヤマ・ソーヴィニヨンを、さらに追加で熟成させる、長期熟成型の赤ワインを醸造していきたい考えだ。樽の香りや味わいをしっかり出し、酸味をまろやかにしていく狙いがある。

「2018年のヤマ・ソーヴィニヨン樽熟成ワインを販売していますが、まだまだしっかりとした酸味が残っています。あと5年ほど瓶内熟成すると、より酸が柔らかくなっていくのではないでしょうか。今後は、瓶詰め前に、より長く樽熟成させたワインの醸造にも挑戦してみたいですね」。

ヤマ・ソーヴィニヨンの長期樽熟成には、醸造場でしっかりと温度管理をすることが必要だ。15〜20度を保てる環境が確保できなければ、ワインの品質劣化のリスクが高まる。

醸造場の設備が整っていない現在は、夏の暑さでのワインの劣化を防ぐため、夏前には瓶詰めを完了させている大池ワイナリー。今後は設備投資をすすめ、温度管理が行き届いた環境を整備したい考えだ。

「ヤマ・ソーヴィニヨンは、メルローのワインにも負けない味に仕上がる、大きなポテンシャルを秘めた品種です。将来的には、樽でしっかりと長期熟成させた、深い味わいのワインをお届けできればと思います」。

『大池ワイナリーの新たな挑戦』

近年の日本ワインのブームも後押しし、全国各地で、数多くのワイナリーが新たに創業している。

小林さんは、日本ワインのブームが一過性で終わり、文化として定着しない可能性を危惧する。それぞれのワイナリーが共存し、日本ワインがより広く受け入れられるためには、ワイナリー独自の個性を磨く必要があると考えているのだ。

「ほかのワイナリーとは異なる、大池ワイナリーだけの個性を、より前面に出していくことを模索しています。すでに香港やシンガポールに輸出しているシードルも、今後はさらに醸造量を増やして、販路を拡大していきたいですね」。

世界中の人に、大池ワイナリーのワインを味わってもらえる日が待ち遠しい。

▶︎コンクールに出品するのが目標

小林さんには、自社のワインやシードルをコンクールに出したいとの思いがある。大池ワイナリーのワインの味が、どのように評価されるのかを確認したいと考えているのだ。

しかし、コンクールに出品するには、一定以上の醸造量が必要とされる。コンクールによって異なるが、600〜1000本以上醸造されていることが、出品基準であることが多い。

小規模ワイナリーには厳しい基準だが、一定の醸造量を満たしていることは、高い評価を受けた後のワインの販売を考えると、欠かせない条件でもある。

大池ワイナリーの自信作のソーヴィニヨン・ブランのワインの醸造量は、現在300本程度。コンクール出品の基準には届かない。

そのため、コンクールに出品できる醸造量を目指し、定期的に植栽を続けて自社畑を拡張。土地にあう品種かどうかを見極めながら、ピノ・ノワール、ピノ・グリ、リースリング、ゲヴェルツトラミネールの植栽をすすめている。

▶︎シードルの新たな銘柄の誕生

2022年4月、大池ワイナリーでは新しく「紅玉(こうぎょく)」品種の辛口シードルの販売をスタート。鮮やかなピンク色が特徴の「メイポール」という品種も、少量ブレンドする。

今後は「ふじ」と「つがる」のシードルをメインに、お客様の意見も参考にしながら「紅玉」銘柄の増産も検討する予定だ。

また、新たなリンゴ品種の植栽も始めた。今後、さらに新たな銘柄のシードルが登場するのを楽しみにしたい。

『2021年、オンラインツアー開催に初挑戦』

大池ワイナリーでは、2021年にはじめてオンラインツアーを実施。オンラインツアーの参加者が、コロナが落ち着いた時期に、ワイナリーを訪問してくれたケースもあった。

お客様との新たな絆が生まれたオンラインツアーは、今後も定期的に実施したいと考えている。

▶︎2022年はさらに進化したオンラインツアーを計画

オンラインツアーでは、畑や醸造場内を案内し、月ごとに異なるおすすめのワインを紹介する取り組みを実施した。オンラインツアーの開催を勧めてくれたのは、小林さんと交流のあるソムリエ資格を持つ知人だ。季節ごとの畑の様子や、ワインの醸造機器などの説明に加え、ワインの飲み比べを解説した。

「仕込みの時期に、醸造所を撮影しながらオンラインツアーできれば、もっと面白くなるのではと考えています。忙しい時期ではありますが、興味を持ってくださるお客様に、仕込みの現場や発酵中のワインの様子をぜひご紹介したいですね」。

『まとめ』

将来を見据えて、さまざまな課題にしっかり対策をおこない、前進を続ける大池ワイナリー。少しずつではあるが確実に、大池ワイナリーの自慢のワインとシードルを味わえる機会が増えてくるだろう。

大池ワイナリーでは広報活動のひとつとして、自社のファン作りにも積極的に取り組む予定だ。LINEグループを作り、参加者に畑の状況や発酵過程などの情報を発信する。

「今、ワイナリーではこういうことをやっているという情報を、いち早くLINEで発信していきたいと思います」。

自身をアナログ人間と言いながらも、新しいことへの挑戦に迷いはない様子の小林さん。大池ワイナリーからの今後の発信に、大いに期待したい。


基本情報

名称大池(たいけ)ワイナリー
所在地〒390-1301 
長野県東筑摩郡山形村2551-1
アクセスお車でお越しの場合
中央自動車道
松本I.Cから約15分 塩尻北I.Cから約20分

電車・飛行機で
JR篠ノ井線
松本駅からバス・タクシーで約30分
松本電鉄上高地線・波田駅からタクシーで約10分
信州まつもと空港からタクシーで約15分
HPhttps://www.taikewine.jp/

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