今回紹介するのは、青森県北津軽郡鶴田町にある「つがるワイナリー」。鶴田町でワイン造りをおこなってきた「WANO Winery」を引き継いで、新たなスタートを切ったワイナリーだ。今は亡きWANO Wineryの代表・八木橋英貴さんの思いを繋ぎ、鶴田町の特産品であるスチューベンを生かしたワインを造っている。
つがるワイナリーの栽培・醸造責任者は、藤井大樹さん。日本国内だけでなく世界各地でぶどう栽培とワイン醸造の経験を積み、鶴田町のスチューベンとWANO Wineryの八木橋さんに出会ったことで、鶴田町でのワイン造りを志した。
鶴田町の気候と土壌が持つポテンシャルに注目した藤井さんは、地元で長く続けられてきた伝統ある栽培技術にも共感。鶴田町で育つスチューベンのワイン用ぶどうとしての多彩な表情にも魅せられたという。
そんな藤井さんが醸すのは、スチューベンを主体とした多彩な味わい。また、土地の特産品を活用し、斬新なアイデアにあふれたクラフトワイン造りにも積極的に挑戦している。
藤井さんとワインの出会い、そしてつがるワイナリーの設立までには、いったいどんなストーリーがあるのだろうか。さらに、つがるワイナリーのぶどう栽培とワイン醸造におけるこだわりとは。藤井さんに詳しく伺うことができたので、余すところなく紹介していこう。
『日本と世界で、ぶどう栽培・ワイン造りに携わる』
まずは、藤井さんとワインの関わりと、つがるワイナリー設立までの物語を順にたどっていきたい。鶴田町に来るまでに、すでに15年ほどぶどう栽培とワイン醸造を生業としてきた藤井さん。
「最初は山梨、その後は長野や北海道のワイナリーで働きました。インターンという形で海外にも赴き、南アフリカやドイツ、ニュージーランド、オーストラリア、フランス、チリなど、いろいろな国のワイナリーで研修を受けた経験があります」。
▶︎WANO Wineryとの出会い
フランスでは、「ボーヌ農業促進・職業訓練センター(CFPPA)」の栽培・醸造コースを修了。帰国後は北海道上川郡鷹栖町にある「とわ北斗ヴィンヤード」で、栽培・醸造の責任者となった。
さまざまな土地でぶどう栽培をする中で、日本でワイン用ぶどう栽培にもっとも向いているのはどのエリアなのかを探り続けてきた藤井さん。
注目したのは、青森から函館にかけてのゾーンだった。梅雨や台風の影響が少なくて冷涼な気候のために、秋が長くしっかりと熟したぶどうを収穫できる。中でも青森は、土壌が火山灰土のため水はけに優れていて、土壌表面の作土層(さくどそう)が広い。
理想とする気候を有する土地はここしかないと目星をつけ、青森に移住した藤井さん。そして、地元のワイン業界の関係者と交流を持つ中で出会ったのが、WANO Wineryの八木橋さんだった。
▶︎鶴田町でのワイン造りをスタート
「八木橋さんとお会いしたのは、末期がんだった八木橋さんが入院する前日のことでした。直接会ってお話しできたのは、そのとき一度だけですね。WANO Wineryに醸造ができるスタッフがいなかったため、シードル造りをして欲しいとの打診を受けました」。
当時WANO Wineryにはソムリエスタッフがひとりいるのみ。醸造担当のスタッフがいなかったにも関わらず、近いうちにシードル用のりんごが届くことになっていた。そこで、醸造経験がある藤井さんに白羽の矢が立ったのである。
藤井さんはまず300ℓほどのシードルを造り、入院中の八木橋さんからLINEのやりとりで業務の引き継ぎを受けた。その後も鶴田町に留まって、「つがるワイナリー」としてワイン醸造をすることになったのだ。
『つがるワイナリーのぶどう栽培』
次に見ていくのは、つがるワイナリーのぶどう栽培について。どんなこだわりを持って栽培しているのだろうか。
青森の気候や土壌が秘めたポテンシャルに魅力を感じた藤田さんだが、鶴田町がスチューベンの生産量日本一を誇ることは、鶴田町に来てはじめて知ったという。
「北海道上川郡鷹栖町でもスチューベン栽培はおこなっていましたが、『とにかく酸っぱいぶどう』というイメージでした。しかし、鶴田町のスチューベンは糖度が高く、酸とのバランスが絶妙です。しかも完熟しているため、ワインにしたらどんな表情を見せてくれるのかとワクワクしましたね」。
▶︎鶴田町特産のスチューベン
ワインの味わいや仕上がりは、原料のぶどうの品質によって決まる。そのうち、ワインの出来をもっとも左右するのは完熟度だという。
「鶴田町のスチューベン完熟度合いを見て、熟度が高く優れた品質のぶどうができるのはこのエリアだという予想が正しかったと確信しました」。
つがるワイナリーでは、スチューベン以外にもピノ・ノワールとソーヴィニヨン・ブラン、リースリングとシャルドネを栽培している。いずれも、WANO Wineryだった2021年に植えられたものだ。
また、八木橋さんの友人である町内のぶどう農家が栽培したシャルドネとピノ・ノワールも購入し、ワイン醸造に使用している。
「2023年には、ぶどう栽培に非常によい気候を備えた土地である弘前の農家さんに依頼して、メルローを1000本植えていただきました。2025年頃から少しずつ収穫できるようになるでしょう。スチューベンとのブレンドの相性がよさそうな品種としてメルローを選びました」。
▶︎鶴田町でのぶどう栽培
続いては、鶴田町におけるぶどう栽培にスポットを当てていこう。
まずは、鶴田町の気候から紹介したい。青森といえば雪深い北国の印象を持つかもしれないが、鶴田町の積雪は12月にスタートして、年を越した3月中頃頃まで。以前藤井さんが住んでいた北海道と比べると、実に2か月も積雪期間が短いという。
夏には気温が上昇するが、梅雨や台風の影響は受けにくいため病害虫の発生リスクは低い。そのため、農薬散布量も基準より少なくても問題ないそうだ。
「ワイナリーのすぐ隣にある20a程度の畑は、有機栽培に準じた管理に切り替えました。特に2023年は雨が少なかったため、病害虫発生の不安がない栽培シーズンでしたね」。
ぶどうの品質は、収穫時期の天候によって決まるといっても過言ではない。青森は気候の面においても、非常に条件がよいのが特徴。秋雨の影響を受けることなく収穫を迎えられるのだ。そして、鶴田町は秋が長い気候のため、ぶどうが完全に熟した状態での収穫が可能となる。
「収穫前の1か月間は、雨が少ないほどよいのです。秋雨は病気が発生する原因になりますし、水分量が増えると水っぽいぶどうになってしまうこともあります。鶴田町では、秋雨が来る前に収穫できる状態まで果実が熟すのです。また、夜温が下がって秋がはじまることもも、ぶどうにとっては重要です。寒暖差が出て秋シーズンが長い鶴田町は、ぶどうがしっかり熟すので最高ですよ」。
品質のよいぶどうを収穫するためには、ゆっくり時間をかけて熟度が上がるのが理想だ。時間をかけた分だけ、香り成分も蓄積される。だが、天候は毎年まったく同じように推移するわけではないため、叶わない年もある。
2023年は気温が高く、昼夜の気温差が出にくい年だった。果皮が色づくタイプのぶどうは、夜温が下がることで色づいていく。しかし2023年は秋になっても夜温がなかなか下がらなかったため、色付がイマイチだったという。地元農家も、これまで経験したことがないと驚くほどの暑さだった。
例えば、早生品種であるシャルドネやピノ・ノワールの収穫時期は9月後半頃。例年、その時期の日中の気温は20℃程度で、夜温は急激に下がる。そのため、ぶどうがゆっくりと熟しつつ香りもどんどん広がっていく。
しかし、2023年は9月後半になっても夜温がなかなか下がらなかった。夜間も温度が高くぶどうの樹が活動し続けていることで糖度は上がり続けたが、酸が下がって香りがあまり出なかったのだ。
▶︎「つるたスチューベン」と「つるた式栽培」
鶴田町で栽培される生食用スチューベンは、「つるたスチューベン」として「GI(地理的表示保護制度)産品」に登録されている。
糖度の高さや貯蔵性に優れている点が評価される「つるたスチューベン」だが、規定のひとつとして、鶴田町独自の「つるた式栽培」で仕立てることが定められているという。
つるた式栽培とは、「津軽式改良仕立法」とも呼ばれる仕立て方法で、「超長梢剪定(ちょうちょうしょうせんてい)」「強摘心(きょうてきしん)」と呼ばれる技法を組み合わせた技術を用いている。
WANO Wineryから畑を引き継いだつがるワイナリーでは、ワイン用として使用するスチューベンにおいても、「つるた式栽培」を採用している。
「フルーツゾーンを高い位置に設定する仕立て方なので、房の下を風が吹き抜けていきます。ちょうど垣根と棚の中間のような形の仕立て方が、健全なぶどうを育くむのです。畑で作業をしていると、よく風が吹き抜けることがはっきりとわかりますよ」。
「つるた式栽培」では、まず枝を斜め上に伸ばしてから、地面と水平に張ったワイヤーに誘引して這わせる。葉同士が重ならないため光合成の効率が上がり、栄養が豊富に作れるのが特徴だ。また、枝を折り曲げてワイヤーに誘引した時点で樹の成長が阻害されることで、樹の上部には行きにくくなった栄養分が実に集中するというメリットもある。
70年ほど前に導入され、50年ほど前から町をあげて受け継いできた、鶴田町の「つるた式栽培」。枝をY字に仕立てる栽培方法は海外にも例が見られるが、機械を使った収穫に対応できないなどのデメリットもあるのが現実だ。そのため、フランスワインの一大銘醸地であるボルドーでも高く評価されたが、産業化に伴い拡大を諦めざるを得なかったという歴史もある。
「ボルドーやブルゴーニュでも一部の生産者は採用していて、非常に栽培効率がよいといわれている方法です。日本でも海外でもぶどう栽培の考え方は同じなのだと、鶴田町のぶどう栽培を見て感じましたね」。
「つるた式栽培」では、枝のもっとも高いところは190cm、フルーツゾーンは110cm程度。湿度が高い日本の気候でぶどう栽培をする場合の理想形なのかもしれない。
もちろん、雪が多い北海道では導入が難しいなど地域による向き不向きはある。だが鶴田町における冬季の積雪は、ちょうど枝の上部が雪から顔をのぞかせるくらい。樹の根本は雪に守られるが、枝は折れない仕組みになっているのだ。
先人たちがさまざまな工夫を重ね、試行錯誤を繰り返して守ってきた「つるた式栽培」。藤井さんも鶴田町ならではの伝統を誇りに思い、これからも大切に継承していこうと考えている。
▶︎土壌環境の改善に取り組む
ぶどう栽培において、土中の環境改善が非常に重要だと考えている藤井さん。
「土中の微生物が住みやすい環境にしていくことを突き詰めていくと、結果的によいぶどうが採れます。まず考えるべきなのは、水と空気の環境を整備することですね」。
微生物が住みやすい土の条件として藤井さんが挙げたのは、土が小粒の集合体を作っている「団粒(だんりゅう)構造」だ。適度な隙間があるため通気性と柔軟性を持ち、排水性と保水性に優れている。微生物の活性化に最適な構造のため、作物にとって有益な微生物が繁殖しやすいといわれている土壌なのだ。
土を団粒構造にするための対策としては、pH調整がある。土中の微生物は活動すると酸を発するが、酸が増えすぎると微生物にとっては生存が難しくなってしまう。そこで、酸を中和するための対策として炭酸カルシウムを散布するのだ。
藤井さんのこだわりは、粉状ではなくゆっくりと土に溶け出す2〜4mmの石状の炭酸カルシウムを使用すること。5年に1度くらいのタイミングで散布するのが最適だという。
また、土に施す堆肥は牛糞堆肥を使用。こちらも、ゆっくりと栄養分が分解されるようにという理由からのセレクトだ。
「炭素と窒素の比率である『C/N比』が18くらいの堆肥を使用しています。微生物によって時間をかけて分解されて窒素化されるので、このくらいがちょうどよいですね。作土層が広く、水はけがよい土壌造りが可能になります」。
藤井さんが施肥をする際に参考にしているのは、イブ・エロディ氏から学んだ内容だ。イブ・エロディ氏は多数の書籍も出している土壌学者で、藤井さんはフランス滞在中に直接エロディ氏に会いに行き、レクチャーを受けたのだという。
つがるワイナリーのぶどうは、藤井さんが国内外で得た豊富な知識や経験をもとに大切に育てられているのだ。
『つがるワイナリーのワイン醸造』
続いて、つがるワイナリーのワイン醸造を見ていこう。つがるワイナリーがメインで使用している品種は、もちろんスチューベンだ。
「完熟したスチューベンをふんだんに使ってワインを造れるだけでも幸せです。また、白、赤、ロゼ 、スパークリングと幅広く造るにつれ、豊かな表情を見せてくれる品種だということを改めて感じています」。
▶︎スチューベンの魅力とは
2022年は、藤井さんが鶴田町でスチューベンを使ったワイン造りを初めて経験した年だ。どのように醸造するべきか迷う部分もあったため、さまざまな手法を試してみることにした。
すると、赤ワインではラズベリーやクランベリーなどの赤いベリーのチャーミングなニュアンスがあらわれた。また、スパークリングワインではブラッドオレンジのような表情を見せたのだ。さらに、少し甘口のロゼワインではストロベリーのニュアンスが出てきたという。
そこで2023年は、スチューベンが持つさまざまな特徴を、さらに引き立てるようなワイン造りを目指した。
「白ワインは樽仕込みにして少し深みを加え、日本食レストランでも楽しめる味わいにしました。また、赤ワインはイタリアの『アマローネ』のように陰干ししたぶどうを使い、より濃い色合いとタンニン感を表現しています。アルコール度数も高めで凝縮感があり、さらに新しい顔を見せてくれましたね」。
陰干ししたスチューベンを使った赤ワインは、カカオやチョコレートのような香りがベースで、クランベリーのようなニュアンスも出た。
スチューベンという、たったひとつのぶどう品種がこれほどまでにバリエーション豊かな表情を見せるとは驚きである。
また、シャンパーニュ方式で造ったスパークリングは、深みのある味わいを目指す。そのため、3年以上熟成させてからリリースする予定だ。スチューベンが魅力的な表情を見せる、2023年ヴィンテージのワインに注目したい。
▶︎クラフトワインシリーズも展開
つがるワイナリーでは、ワインの新しいスタイルを提案する「クラフトワインシリーズ」を展開している。伝統的な醸造手法に一手間加えた「クラフトワインシリーズ」は、低アルコールで気負わず楽しめて、ペアリングも自由な新しいコンセプトのシリーズだ。
「伝統的な手法で醸造したワインに新しい工夫を加えたものが、つがるワイナリーのクラフトワインです。『クラフトワインシリーズ』では、スチューベンだけでなく、そのほかの品種の新たな魅力を引き出すことにも挑戦しています。
「クラフトワインシリーズ」のスチューベンの白ワインには、青森で有名な酒蔵が手がけた甘酒をブレンド。桃のようなフルーティな香りが楽しめる。イタリアンやフレンチの割烹料理店向けに、日本酒のイメージで楽しめるワインとしてペアリングを提案しているところだ。
また、レッドナイアガラに桃を漬け込んだ「ヴァン・オ・ペッシュ」や、ナイアガラにりんごを漬け込んだスパークリングワインもある。どれも美味しそうで、どんな味わいなのかを想像するだけでも楽しいものばかりだ。
今後は、スチューベンに干しぶどうを合わせたり、スチューベンの白をシェリー樽で熟成させたりするタイプも登場する予定なのだとか。
斬新なアイディアの源泉は、「人との会話」だと藤井さんは言う。さまざまな人と語り合うことで、ひとりで考えているときには出てこないアイディアにたどり着くことがあるそうだ。
「スチューベンはそもそも、アメリカ生まれのハイブリッド品種です。昔からの醸造法をハイブリット品種に用いて、さらに鶴田町ならではの特産物や技術を加えることで、より新しい価値を提案できたらと思っています」。
つがるワイナリーのクラフトワインシリーズは、どれもアルコール度数が低め。ふだんワインを飲む習慣のない方でも、カジュアルに楽しめるだろう。ぜひ試してみていただきたい。
▶︎縄文時代の酵母が産んだ「縄文の奇跡」
従来のワインに新たな要素をプラスしたのが「クラフトワインシリーズ」。そして、ワインに「歴史」と「文化」をプラスしたワインとしてつがるワイナリーが提案するのが、「縄文の奇跡」という銘柄である。
「縄文の奇跡」は、青森県の縄文遺跡から発見された「三内(さんない)丸山ユメカモス酵母」を使った、スチューベンの濃厚な赤ワインだ。
「三内丸山ユメカモス酵母」とは、5000年前の縄文地層から取り出された酵母を製品化したものだ。この酵母を使うことで、よりフルーティな香りが引き立つ仕上がりになったという。
青森県は、食料需給率が120%と言われるほど高い地域だ。現代まで続く青森の豊かな食文化は、はるか縄文時代から続くものだろう。実際、「三内丸山ユメカモス酵母」が発見された縄文地層の土壌には豊富な微生物が存在していた。青森生まれの「縄文の奇跡」は、土地のDNAをしっかりと引き継いだワインだといえるだろう。
「酵母による味わいの特徴も感じていただきたいですし、青森は縄文時代が長かった地域なので、古代から続くストーリーを知っていただけたらと思っています」。
目指すのは、ワインを飲んで鶴田町の食文化や伝統文化、地域性を感じてもらうこと。温度管理と酸化に気をつけ、衛生管理も徹底した上で、最適な方法を模索しながら造った。
「縄文の奇跡」とのペアリングにおすすめの料理は、津軽の郷土料理「イカメンチ」。イカのゲソのミンチを玉ねぎやにんじんなどともに揚げた、津軽のソウルフード的存在のお惣菜だ。イカの旨味に野菜の甘味が効いたコクのある味わいが、縄文の奇跡の濃厚さにぴったりである。
津軽の食文化は非常に豊かだ。イカメンチ以外にも、ワインに合う魅力的な郷土料理がたくさんある。
例えば、青森では古くから食されている山菜の「ミズ」は、白ワインとの相性がよい。シャキシャキとした食感で、ホヤと一緒に調理される一品が地元では人気だ。
また、幻の食材と称される「大鰐(おおわに)温泉もやし」の根の天ぷらも「縄文の奇跡」によく合う。独特の香りと歯応えとほのかな甘味と旨味があり、「縄文の奇跡」と絶妙にマッチするのだ。
青森に足を運んだ際には、つがるワイナリーのワインと郷土料理のハーモニーに身を任せてみたい。
▶︎津軽塗をモチーフにしたエチケット
つがるワイナリーでは、2024年にワインボトルのエチケットデザインを一新する。青森県弘前市を中心に制作される伝統工芸品の「津軽塗(つがるぬり)」をモチーフに採用したのだ。
「津軽塗は、漆を何度も塗り重ねて仕上げるクラフト作品です。手間がかかるという点では、クラフトワインとの共通点を感じますね。また、漆は縄文時代から使われている素材のため、青森の地域性と繋がりが感じられるでしょう。エチケットに採用することで、青森全体のアピールにもなると思います」。
つがるワイナリーでは、ボトルに津軽塗を直接施す限定ワインも販売予定だ。飲み終わった後もガラスと漆が融合した美しさを楽しめる、アート性が高い作品になることだろう。
『まとめ』
地域の独自性豊かな食材や伝統工芸とワインを組み合わせ、新たな提案を続ける、つがるワイナリー。藤井さんは、つがるワイナリーの強みを「地域性」だと語る。
また、藤井さんがワイン造りにおいて大切にしているのは、「歴史」と「哲学」である。土地の歴史と哲学を知ることが、土地の「テロワール」を表現することに繋がると考えているのだ。
「鶴田町はスチューベンの生産量が日本一で、しかもしっかりと完熟したものが採れるという大きな魅力があります。青森は果樹王国でもあるので、地元産の桃やりんごをスチューベンと掛け合わせるなど、ワインを通して青森の魅力を提案できることが強みですね」。
もちろん、津軽にも他の地方と同様に農家の高齢化という深刻な問題を抱えている。ぶどう農家は減少の一途をたどり、スチューベンの生産量も下がる一方だ。
さらに、ワイン醸造で使用する「種あり」のスチューベンは、「種なし」ぶどう全盛の昨今の流行からは外れているため栽培する農家が少ないという課題もあるのだ。
しかし、鶴田町の完熟したスチューベンの美味しさには、絶対の信頼を置いている藤井さん。今後は生食用としてはもちろん、ワインやジュースなどの加工用としてのスチューベンのポテンシャルの高さも積極的に発信していくつもりだ。
「地元の若い生産者と一緒にイベントなどを開催してアピールすることで、産地を守っていきたいですね。さまざまなクラフト製品を製造している造り手とコラボして、津軽を背景に感じられるワインを造っていきたいです。また、他の地域のワイナリーともワイン造りでコラボできたら、より面白いものができそうだと考えています」。
発想力に富んだ今後の藤井さんの活躍と、つがるワイナリーから生まれる多彩なワインの数々に、今後も大いに期待したい。
基本情報
名称 | つがるワイナリー |
所在地 | 〒038-3503 青森県北津軽郡鶴田町大字鶴田字小泉335-1 |
アクセス | JR五能線 陸奥鶴田駅より徒歩10分 |
HP | https://www.tsugaru-winery.com/ |