追跡! ワイナリー最新情報!『くらむぼんワイン』 気候変動への対応をすすめ、新たな取り組みにも積極的だった2021年

山梨県甲州市勝沼で、1913年(大正2年)からワイン造りを営む「くらむぼんワイン」。宮沢賢治の小説「やまなし」の一節からとったワイナリー名には、くらむぼんワインが目指す「自然なワイン醸造」への決意が込められている。

「理想のぶどうは、人の手が加わっていないふかふかの土で育つ」と考え、自社畑では自然に任せた環境で土を作っているのが特徴だ。雑草の根が伸びて、微生物が土壌を作ることができるよう、自然の営みを見守る。

合成化学農薬は散布せず、有機栽培でも使用可能なボルドー液のみを使用する。低農薬で、自然の酵母が残るようにぶどうを育てている。

ワイン醸造においては、「土地そのものの風味が生きたワイン」を目指す。土地に合うぶどう品種を扱い、「濾過は最低限」「補酸をしない」など、人為的なものを極力介入させずに醸造するのが、くらむぼんワイン流だ。

さまざまな試行錯誤を経て造られるワインは、料理に合うことがテーマ。くらむぼんワインのラインナップにはいくつかのシリーズがあり、日常の食事とともに楽しめるワインのほか、ハイクラスなワインもそろう。

くらむぼんワインの、2021年のぶどう栽培とワイン醸造について、代表の野沢たかひこさんにお話を伺った。新たな取り組みと、今後の展望についても、あわせて紹介していこう。

『くらむぼんワイン、2021年ヴィンテージの特徴』

雹(ひょう)害に苦しんだ2019年、長雨が続いた2020年に比べると、2021年は病害が広がることもなく比較的安定した年だった。ぶどうに酸が残りやすい傾向はあったものの、健全なぶどうが収穫できたのだ。

▶︎2021年のぶどうの特徴を表現した爽やかなワイン

2021年の夏のはじめ、勝沼を猛暑が襲った。しかし8〜9月には長雨が続き、収穫までの時期は気温の低い日が多かった。そのため、収穫のタイミングでぶどうの酸が高めだったのだという。

くらむぼんワインでは、「酸が強いから除酸をする」「酸が足りないから補酸をする」という考えはなく、ぶどうの出来栄えに合わせて仕込みをおこなっている。

全体的に酸が強く残る年になりそうだと思ったら、収穫時期を調整する。また、酸がやや強いことが予想されれば、ヴィンテージの特徴を生かした、爽やかな風味のワインとして醸造するのだ。

「酸が強いぶどうを醸造する場合、発酵の最後の段階で糖分の食い切りが少し悪くなることがあります。そのため、発酵温度が低くなりすぎないように気を遣うなど、発酵の状態はしっかりとチェックしています」。

年ごとのぶどうのよさが生きたワインになるよう、醸造中の管理を怠らないことが、美味しいワインを生み出す秘訣なのだ。

▶︎2021年はぶどうの品質がよく収量もアップ

酸が少し残るぶどうは病気にかかりにくく、醸造後も変質しにくいワインになる。2020年は長雨の影響で、やや厳しい品質のものもあった。反省を生かして栽培を工夫することで、2021年は健全なぶどうが収穫できたそうだ。

「酸が残っているため、長い熟成にも耐えるワインができそうです」と、野沢さんはワインの出来栄えへの期待を語ってくれた。

白ワイン用品種の甲州は、醸造後の味の予測が特に難しい。だが、糖度が低めで酸が強いぶどうの場合でも、2年ほど熟成させるとフレッシュ感が持続して美味しい年もあるのが、ワイン醸造の面白いところでもある。

2021年に収穫した甲州は、熟成後も甲州特有のフレッシュさを保ってくれる可能性が高い。2021年ヴィンテージの甲州ワインの数年後が、今から楽しみだ。

『2022年春、新しい品種への植え替えを実施』

くらむぼんワインでは、土地の風味が生きたぶどうを作りたいと、自社畑でのぶどう栽培もおこなっている。2021年も引き続き、土地の気候風土に合う品種を栽培をするのが一番だという考えを貫いてきた。

▶︎農薬の使用を抑え、土地の風味が生きたぶどうを栽培

土地の風味が生きたぶどうを作るため、土壌の中の微生物を活性化させる取り組みを実施するくらむぼんワイン。土地に合う品種を用いて農薬の使用を抑え、有機栽培に使用が認められるボルドー液のみを使ってぶどう栽培をおこなっている。

土壌が本来持つ力を生かし、より微生物層が活性化するよう不耕起により土壌を管理することを心がけている、くらむぼんワイン。また、健全なぶどう栽培を持続するためには、土地に合う品種の見極めも常におこなっていく必要性を感じている。

▶︎気候変動に合わせ、欧州系品種の植え替えをすすめる

現在、勝沼の多くのワイナリーでは、メルローやシャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨンに代わる品種を植え始めている。温暖化のため、勝沼の新たな気候に適したぶどう品種を見極めるためだ。

ワイナリー同士で勉強会なども実施しており、10年後には勝沼の地に適した欧州系のぶどう品種はガラリと変わっていると予測する野沢さん。

ワイン用ぶどう栽培の歴史が長いフランス、ボルドー地方でさえ、温暖化に適した新しい品種の栽培許可が下りた。世界規模で、変革の時期が到来しているようだ。

今後も温暖化が進むであろう日本。近年の気候変動が著しい山梨において、どのワイン用ぶどう品種が土地に合うのか、いまだ答えはでていない。しかし、ぶどう品種は次第に北へと生息域を変えていくことは間違いない。

勝沼でも以前より梅雨の期間が長くなり、梅雨と台風の時期との間隔も短くなりつつある。長雨の対策として、傘かけや、ぶどうの房の上部をビニールで覆うレインカットを導入するぶどう農家も増えている。

▶︎長期的な取り組みを視野に

くらむぼんワインでも、2022年春、垣根仕立ての自社畑にヴィオニエとタナを植えた。ヴィオニエは強い香りが特徴の白ワイン用ぶどう品種で、タナは色づきがよく温暖な気候でも酸が残りやすい赤ワイン用ぶどう品種である。

ヴィオニエとタナは、これまでシャルドネとカベルネ・ソーヴィニヨンを栽培していた場所の4分の1ずつ程度を、段階的に植え替えるイメージだ。一度に植え替えると収量確保が難しくなるので、10年~15年ほどかけて、少しずつ植え替えていく予定。変わりつつある気候に合わせ、温暖な気候でも育てやすい品種にしていくことを目指しているのだ。

「自社畑を増やすこともあり得えます。高齢となり、ぶどう栽培を続けることが難しくなった契約農家の方から、代わりにぶどう栽培をしてほしいとの声をいただくことが増えたのです。自社畑を増やす場合には、新たな品種を植えることもあるかもしれません。先のことは不透明な部分もありますが、柔軟に対応していきたいですね」。

栽培品種に合わせて、くらむぼんワインのラインナップは、年を経るごとに変わってくることだろう。今後の展開から目が離せない。

▶︎勝沼の美しい棚栽培の風景を守りたい

ワイナリーが数多くある勝沼では、条件のよい畑に空きができれば、すぐに担い手が見つかる。そのため、どのワイナリーにとっても、畑の確保は常に大きな課題だ。

くらむぼんワインでは、作業効率や移動の手間を考えると、すでに保有している自社畑に近い畑を確保すべきだと考えている。

「勝沼では、伝統的に棚栽培が多いのが特徴です。一面に広がる棚栽培のぶどう畑は、勝沼ならではの美しい景色なのです。この風景は守っていかなければならないという使命感があります」。

近年、もともとワイン用ぶどうを栽培していた農家でも、市場価格の高いシャインマスカットの栽培に切り替えるケースが増えているのだという。

「勝沼の景観を守るためにも、栽培に手間のかかる食用ぶどうと、比較的栽培が容易な甲州ぶどうの両方の栽培を続けていくのはどうかと、地元のぶどう農家さんに提案しています」。

甲州ぶどうの棚栽培の見事な景観が今後も長く続いていくよう、野沢さんの取り組みを応援したい。

▶︎山梨県全体のワイン業界の活性化に期待

山梨県全体では、新たなワイナリーが設立されるなどの変化はあるのだろうか。「食事に合うワイン」にこだわる野沢さんは、地域の事情にも目を配っている。

勝沼には更地が少ないので、新しくワイナリーを造るのは、ほかの地域に比べてハードルが高いという地域特有の事情がある。

だが、山梨県全体でみると、ワイナリー数が増加し、ワインの品質も年々向上しているのは事実。またそれにより、県内産ワインを扱うレストランが増えているのだ。

「東京から移住してきた方が飲食店を開業したり、地元出身の方がリターンされているケースもあるようです。山梨県内で、無農薬の美味しい野菜を作る農家さんが増えていることも、地元のワインへの注目が集まっている一因でしょうか。地元の食材とワインが楽しめるレストランが増えているので、地元の人が改めて山梨の素晴らしさに気づくきっかけになればと考えています」。

『くらむぼんワインの新たなラインナップ』

くらむぼんワインでは2022年、新シリーズのリリースを計画中だ。くらむぼんワインの新たなラインナップについて、詳しく紹介しよう。

▶︎売店やネットショップ限定商品を販売予定

新シリーズの展開を考えている要因のひとつに、コロナ禍でワイナリーを訪れる人が減っていることが挙げられる。また、ワイナリーの売店を訪れたお客様に、「ここでしか買えない限定商品はありますか?」と尋ねられることも多いそう。自社のワインに興味を持ってくれたお客様の期待に応えたい気持ちも大きい。

そのため、くらむぼんワインでは、ワイナリーの売店の限定商品や、自社のネットショップ限定のワインの販売を予定しているのだ。新しいシリーズの構想は順調にすすんでおり、エチケットデザインが決まるのを待つばかり。

そのほか、2021年に販売して好評を得たラインナップの2022年ヴィンテージも登場するという。甲州の新酒やロゼなど、2022年ヴィンテージの特徴がしっかりと感じられるワインがリリースされる予定だ。

▶︎樽熟成のワインと、華やかな香りの甲州ワイン

「2022年にリリース予定のワインは、3~4月から瓶詰めに取り掛かっています。最も注目いただきたいのは、樽でしっかりと熟成させたワインです。夏頃に登場予定ですので、楽しみにしていただきたいですね。酒質が落ち着いてこないと断言はできないのですが、甲州は例年よりも香りが華やかになると予測しています」。

くらむぼんワインは、2013年に創業100周年を迎えたタイミングで社名を変更した。さらに2018年には、全商品を全面的にリニューアル。そのため、新たなラインナップの維持と定着を直近での目標にしている。リニューアル後の銘柄やエチケットは、ようやくお客様に浸透してきた印象だ。

エチケットのデザインに力を入れている、くらむぼんワイン。特に、ワイナリーの世界観を表現した「くらむぼんシリーズ」のエチケットにはこだわった。

ラインナップとエチケットデザインを一新したことで、販売戦力も立てやすくなったと語る野沢さん。今後の商品展開にも引き続き期待したい。

『リアルイベントに代わり、オンラインイベントを実施』

新型コロナウイルス感染症の影響で、2021年も引き続き、現地にお客様を集めるイベントの開催は難しかった。

そのため、くらむぼんワインでは、オンラインミーティングが手軽に開催できる「Zoom」を利用したイベントやキャンペーンを開催した。

▶︎ZoomイベントでワイナリーをPR

Zoomを使ったイベントは、ワインツーリズムを手掛ける「一般社団法人ワインツーリズム」や、山梨県のワイン組合と協力して開催した。

2021年初の試みとして、フィリピンのホテルと繋いでオンラインワイナリーツアーを実施した。あらかじめフィリピンにワインを送り、ツアー中に現地の参加者に味わってもらったそうだ。

「かつてはロンドンまで直接出向いていたワインのプロモーションイベントにも、2021年はオンラインで参加しました。未曾有の出来事だったコロナ禍ですが、だからこそ、距離を感じないオンラインイベントが増えたことは、ワイナリーにとってもある意味メリットだったかもしれません」。

▶︎リアルイベントの再開にも期待

7~8年前から、お客様と直接対話できるイベントに力を入れてきていた、くらむぼんワイン。コロナ禍で対面イベントの開催は難しいのが現状だが、参加者が少人数であれば、オンラインでも、お客様を身近に感じられるイベントは可能なのだと実感しているという。

予測が難しい状況ではあるが、徐々に改善されていく未来を心から望むばかりだ。

『まとめ』

日本ワインの一大産地である勝沼で、土地本来の個性をしっかりと生かしたぶどう栽培とワイン造りに力を入れる、くらむぼんワイン。

化学農薬や殺虫剤は使わず、畑の手入れをこまめにおこなって、丁寧にぶどう栽培をおこなっているのが特徴だ。じっくりと低温発酵させ、ぶどう本来の風味がしっかりと残るワインを生み出している。

ぶどうの出来が上々だった2021年。ワインの仕上がりを、野沢さん自身も楽しみにしているという。

高品質なぶどうから上質なワインができあがる背景には、くらむぼんワインの、ぶどう栽培とワイン醸造への真摯な姿勢が垣間見える。

「世界情勢がどうであろうと、勝沼の土地の味を表現し、ワイナリーとして実直におこなうべきことは変わらないのです」と語ってくれた野沢さん。

これからも、くらむぼんワインの躍進に引き続き注目していきたい。


基本情報

名称  くらむぼんワイン
所在地〒409-1313
山梨県甲州市勝沼町下岩崎835
アクセスお車で→ 中央自動車道・勝沼ICより5分
電車で→ JR中央本線勝沼ぶどう郷駅より、タクシーで8分。 町内循環バスぶどうの国文化館下車3分
HPhttps://kurambon.com/

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