『常滑ワイナリー・ネイバーフッド』ワインを囲む、映画のような幸せなワンシーンを実現するワイナリー

知多半島の西海岸に位置し、名古屋市からは車で1時間弱ほどの位置にある愛知県常滑(とこなめ)市。「常滑ワイナリー・ネイバーフッド」は、高温多湿な気候で、ワイン醸造に関しては前例がない常滑市にある。

常滑ワイナリー・ネイバーフッドは、アメリカンスタイルのスタリッシュなワイナリーだ。オーナーの馬場憲之さんは、ワインと人とが作る幸せな光景に出会い、ワイナリー創設を決意。まったくの未経験から、ワイナリーの創設を成功させた。

今回は馬場さんに、ワイナリー立ち上げのきっかけや常滑ならではのワインの味、これからの取り組みなどについてお話を伺った。早速、紹介していこう。

『飛行機の機内誌がきっかけとなった、常滑ワイナリー・ネイバーフッドの始まり』

馬場さんがワイナリーを作るきっかけとなったのは、2007年、アメリカ・デトロイトに向かう際に搭乗した飛行機の機内誌だった。当時、すでに農業に着手していて、アメリカの農業を視察したいと考えていた折のことである。機内誌には、農業が盛んなオレゴンの特集が掲載されていたのだ。

▶オレゴンで見た映画のワンシーンのような光景

記事に興味を持った馬場さんは帰りの航空券を買い替えた。そして、アメリカ西海岸に位置する州、オレゴンに向かったのだ。オレゴンはカリフォルニアワインの中心地であるナパに次ぐ、アメリカの主要なワイン産地である。

馬場さんは当初、ワイン造りにはそれほど関心がなかったという。だが、ぶどう作りとワイン醸造が盛んなオレゴンの農業の視察では必然的にワイナリーを見ることになり、イメージが一変した。

「オレゴンでワイナリーを見たときに、映画のワンシーンのようにカッコよく感じたのです。自分もそんなシーンを創り出す立場になりたいと思いました。それなら、自分でワイナリーを設立すればよいのだと決意したのです」と、馬場さんは振り返る。

▶思い立ったらすぐ行動

オレゴンでは、地元のスタッフが全米から来た人たちを、地元の食材と自分たちで造ったワインでもてなす姿に感銘を受けた。そして、日本でワイナリーを作ることを決心し、帰国後すぐに行動に移したのだ。

馬場さんはまず、ワインを飲むことから始めた。もともとお酒が飲めず、ワインに関しての知識もなかったのだ。そして、国内のワイナリーを回って情報を集めた。

「それこそ、ぶどうのヴィティス・ヴィニフェラ種とヴィティス・ラブルスカ種の違いもわからなかったですから。シャルドネが白か赤かも知らなかったのです。基本的なところから学び、ワイナリーを訪ねて、オーナーさんにいろいろと聞きました」。

ワイナリー巡りをとおして、馬場さんはほぼ独学でワイン醸造を学んだ。ぶどう栽培に関しても、新潟市のワイナリーで1か月の手伝いを経験したのみだ。誰かに栽培や醸造の方法を教わったわけではなく、自分で見て聞いて、体得したことだけを頼りにワイナリーを立ち上げたのだ。

馬場さんがワイナリーを作ろうと思い立ってから丸10年。常滑ワイナリー・ネイバーフッドがオープンした。10年の歳月は決して短くない。しかし、当時を振り返る馬場さんは、どこか飄々としている。

「資金や土地、場所を用意し、ぶどうを植えて実がなるまでは当然、時間がかかります。ワイナリーを始めるには、時間をかけるしかないんですよね」。

まったくの未経験、しかもワインに関して知識がないところからスタートを切り、ワイナリーオープンを果たした馬場さん。成功を支えたのは、軽やかな思考法と行動力だ。

「ワイナリーを作った経験がない人にワイナリーを作りたいと相談すると、できない理由ばかりあげるはずです。しかたがないですよね、作った経験がないから不可能に思えるのでしょう。だから相談するなら、ワイナリーを作った経験がある人にすればよいのです。なぜならその人は、ワイナリーを作ることが可能だと知っているのですから」。

なるほど、たしかにそうだとうなずいてしまう。

「思い立ったらすぐ行動するべきです。やりたいことがあってもすぐにやらず、いろいろとできない理由をわざわざ探し、結局やらない人が多い。でも、やりたいことをやらないなんて、そんなのもったいないですよ」。

自分の中に秘めたる思いがある人には、きっと馬場さんの言葉は響くものがあるに違いない。

『常滑ワイナリー・ネイバーフッドのぶどうとワイン』

馬場さんが初めて植えたぶどうはピノ・ブランだ。その後、ピノ・ノワールとシャルドネも植えた。2022年現在はアルバリーニョとメルローの2品種も加わり、全部で5種類を栽培している。また、ほかの農家から引き継いだ畑にはデラウェアと巨峰も植えられている。

▶常滑ならではのテロワール

一般的にぶどう栽培は、年間を通した平均気温は10〜20度で、1日の寒暖差が大きい気候が適しているとされている。また、降水量に関しては、栽培期間中の春から秋にかけて800〜900mm程度がよいともいわれる。

一方、常滑市は年間平均気温が約15℃と温暖なものの、1日の寒暖差は大きくない。また、春から秋にかけての降水量は1,000mmを超える。

しかし、馬場さんは常滑がぶどう栽培にとって、決して条件の悪い土地だとは考えていない。

「愛知県はスイカやイチジク、メロンなど、さまざまな果物の産地でもあるのに、ぶどうだけ育たないのはおかしいと思うんです」。

雨が多く寒暖差が小さいとしても、年間3,000時間を超える日照量があることは、植物全般にはなによりもの好条件だと考えられる。

たしかに、寒暖差の小ささはタンニンの生成や糖度の上昇に影響はある。しかし、愛知県はいろいろな果物が育つ土地である。光合成をしっかりさせて元気な樹を作れば、おいしい実ができるはずだというのが馬場さんの考えだ。

もちろん、雨の多さに対してはカビ系の病気を予防するため、ぶどうの葉を減らして風通しをよくするなどの対策は必須だ。しかし、葉が少なすぎれば光合成の量は減ってしまう。そこで馬場さんたちが導き出した葉の枚数は、本梢に16枚、副梢に20枚ほど。残りはすべて摘芯する。

「通常の栽培方法よりも、光合成の量は多いと思うんですよ。すると、ぶどうがより資化性窒素を蓄えて、酵母が入って発酵するときに、エネルギーとして使うことができるんです」。

「資化性窒素」とは、酵母の栄養となるアミノ酸などのことである。資化性窒素が不足すると、還元臭(発酵中に育成される、腐った卵やゴム臭などのオフフレーバー)や発酵遅延が起こりやすくなる。また、最悪の場合は発酵が止まることもあるため、資化性窒素はワイン醸造には欠かせない物質なのだ。

そして、十分な光合成と風通しをよくして湿気への対策をすることのほか、忘れてはならないのは毎日の観察だ。圃場に毎日足を運ぶことで、万が一の病気の兆候にも気づくことができ、問題の芽を摘むことも可能になる。

「先日、テレビで北海道のワイナリーを紹介しているのを観たのです。ピノ・ノワールは15度を超えるところでは育たない、だから冷涼な気候で育てるのが最適なのだ、と説明していました。しかし、夏は40度まで上がる僕たちの畑でも、ピノ・ノワールが元気に育ってますよ」。

十分な日照量と丁寧な栽培により、高温多湿な土地でも健全なぶどうが育つことを常滑ワイナリー・ネイバーフッドは証明しているのだ。

北海道には北海道のピノ・ノワールがあり、愛知には愛知のピノ・ノワールがある。ぶどうはそれぞれの土地に適応し、生きていくものだ。それぞれの土地でのぶどうの生き方が、そのままテロワールとしてワインになっていくのである。

▶鮮やかな酸とミネラル感が特徴のワイン

常滑ワイナリー・ネイバーフッドのワインは、鮮やかな酸とミネラル感が特徴だ。その特徴は、常滑の土地に非常に深い関係がある。

常滑と聞くと、真っ先に「常滑焼」を連想する方は少なくないだろう。常滑焼は、「日本六古窯(ろっこよう)」のひとつにも数えられる、平安時代末期から続く焼き物だ。「朱泥(しゅでい)」と呼ばれる赤土で作られる赤茶色の急須が特に有名だ。常滑の粘土の赤みは、鉄分が豊富に含まれていることによると考えられる。

「辰巳琢郎さんはうちのワインを飲んで、夏期の気温が40度を超える土地なのに、なぜ酸が抜けないのか?と驚いていました。それは、土の中の鉄分の作用によるものなんだと思います」と、馬場さんは分析する。

鉄分など、ミネラルには酸と結合する作用があるのだ。

常滑ワイナリー・ネイバーフッドでは、土地のミネラルをストレートに感じられるかどうかを醸造の肝に置いている。しかも、フローラルさも感じられる程度の軽いミネラル感ではなく、石灰の感じがするほどのクリアなミネラル感を目指しているのだ。

「ワインを一口含んで、トップノートで強いミネラルが感じられるようなワイン。『この酸が常滑らしいね』と、一口飲んで言ってもらえるワインを造りたいですね」。  

▶風土をストレートに表現するワイン

馬場さんは、テロワールをストレートに表現できたワインは、ぶどうの力によるところが大きいと考えている。

そして、醸造過程においてはなによりも、ワインに空気が触れすぎないことなど基本的なポイントを非常に大切にしている。

また、澱とのコンタクトは短めにし、シュール・リーもあまり長時間は行わない。澱の上でワインを醸造するシュール・リーには、アミノ酸などのうま味成分をワインに移す効果がある。しかしその反面、澱がワインを痛ませる危険性もはらんでいるのだ。

固形物を沈殿させて発酵させる、デブルバージュもやりすぎないようにしている。

ほかのワイナリーで長い経験がある醸造家は、常滑ワイナリー・ネイバーフッドのワインを飲んで、「自分たちだったらもっといろいろと工夫するけれど、シンプルに醸造するから、ぶどうをそのまま食べている感じで面白い」との感想を持つそうだ。

テクニックがないから、と馬場さんは謙遜するが、2021年、常滑ワイナリー・ネイバーフッドのワインは、隔月月刊誌の「ワイン王国」で5つ星を受賞している。常滑ワイナリー・ネイバーフッドは、技術においても着実に向上してきたのだ。

「お酒が飲めなくても、五つ星が取れるんです」と馬場さんは、いたずらっぽく笑う。

そもそも、基本に則ることは、醸造にとって最も重要なことである。そして、ぶどうのストレートな味わいを表現することにおいても、大切なことなのだ。

ワインは長い歴史を経るうちに複雑化し、醸造方法にさまざまな選択肢が形成されてきた。ワイナリーを運営する場合、ついいろいろな選択肢を網羅しようとしがちだ。そうなると、ビジネスとしては立ち行かなくなることがある。

一方、常滑ワイナリー・ネイバーフッドは、選択肢を広げる方向は取っていない。そのかわりに、「ネイバーフッド=近所」の地産地消でワイン造りをおこない、土地ならではの表現をすることに注力しているのだ。

「土地の味をそのままワインにして、あとは好きか嫌いかを皆さんに決めてもらうという形が、一番わかりやすいと思うんです」。

地域に根ざしたワイン造りを志す馬場さんならではの、少し尖った、ブレのない一言である。

▶アメリカンなワイナリーであることのこだわり

常滑ワイナリー・ネイバーフッドは、馬場さんがオレゴン州で目にした、ワインと料理を囲んだ幸せな光景への感動から生まれたワイナリーだ。そのため、常滑ワイナリー・ネイバーフッドにもレストランが併設されている。

ワイナリーとレストラン周辺は、まるで外国のようなスタイリッシュな空間だ。醸造所の壁には、友人アーティストによる壁画が描かれている。

メインの壁は葛飾北斎を彷彿とさせるテイストで、インディアンが波に乗っている。波が紫で描かれているのは、ピノ・ノワールの海だからだ。その証拠に、サーフィンをしているインディアンの片手にはワイングラスが。アメリカ西海岸のカルチャーが好きな馬場さんをイメージし、日本の古きよきカルチャーとミックスさせる形で描かれている壁画なのだ。

ワイナリーを訪れるお客様はみな、壁画の前で写真を撮っていく。

「僕らの思いが伝われば、きっかけはなんでもよいと思っています。あくまでも僕たちはアメリカンなワイナリーなので、そこは伝えたいストーリーですね」。

馬場さんが伝えたいストーリーは、アメリカ西海岸の街、ポートランドやロサンゼルスのような、街中に壁画アートがたくさんあるカルチャーの中で醸し出される世界観だ。

訪れる人に常滑ワイナリー・ネイバーフッドの世界観の中に入り込んでもらい、それぞれのストーリーを楽しんでもらいたいと、馬場さんは望んでいる。

▶常滑焼のアンフォラ

常滑ワイナリー・ネイバーフッドでは2022年4月現在、常滑焼の「アンフォラ」を使用して醸造したワインを販売している。

アンフォラは、古代ギリシャやローマ時代に、ワインやオリーブオイルなどの運搬や保存に使われていた陶器の総称だ。アンフォラを使ってのワイン醸造は、今から8,000年ほど前、現在のジョージアにあたる地で始まったとされている。

アンフォラを使ったワイン醸造は近年、アメリカやヨーロッパでブームとなっているのだ。

馬場さんが検索で見つけたアンフォラ作りのYouTube動画は、オレゴン州にあるワイナリーのものだった。そこで馬場さんは直接電話で問い合わせ、翌月には現地に直接出向いてアンフォラ作りの過程を見学。その後、自分たちだけでアンフォラ製作をおこなった。

常滑焼は素焼きなので、水分の滲出を防ぐためにあえて高温で焼き締めて作られる。常滑焼のアンフォラは、より空気に触れにくい仕上がりとなる。そのため、アンフォラを使用することで、熟成感もあるフレッシュなワインに仕上がるのだ。

常滑ワイナリー・ネイバーフッドのアンフォラ仕込みワインは、お客様からも大変好評だ。現在はアンフォラ2020を販売中で、なくなり次第、アンフォラ2021をリリース予定。気になる方は、ぜひチェックしていただきたい。

▶洋梨のようなアルバリーニョとポップなエチケット

馬場さんおすすめのワインは、アルバリーニョだ。クリアでストレートな、常滑ワイナリー・ネイバーフッドらしい味が感じられるワインとなっている。

特に、2021年ヴィンテージのアルバリーニョは、洋梨のようなアロマと味わいだ。香りと味にストレートに洋梨感があり、真っ直ぐでクリアな味わいに出来上がっている。

また、常滑ワイナリー・ネイバーフッドのワインで特筆すべきなのは、非常にポップなエチケットであること。フジロックフェスティバルのTシャツグランプリ優勝者によるデザインで、アメリカの昔のマッチ箱がモチーフになっている。

思わず、「ジャケ買い」ならぬ「エチケット買い」をしたくなる、スタイリッシュなデザインだが、一部のワイン通には、突飛すぎるように感じる人もいるそうだ。一方で、ポップでファンキーだと好印象を持つ人もいて、賛否両論である。

しかし、カジュアルなアメリカンスタイルの常滑ワイナリー・ネイバーフッドの雰囲気にはぴったりのエチケットだ。インテリアのアクセントにもなりそうで、若い世代の人にもおすすめできるデザインである。

「つい手に取ってみたくなるワインであって欲しいですね」と語る馬場さんの笑顔は、まるで、ちょっとやんちゃなアメリカの少年のようだ。

▶名古屋ワインに挑戦

馬場さんは現在、新たに「名古屋ワイン」プロジェクトの立ち上げに挑戦中だ。

常滑ワイナリー・ネイバーフッドがある常滑市は、名古屋から車で1時間弱の、カントリーサイドのワイナリーである。そのため、今度は都市型の「アーバンワイナリー」の創設に挑戦しているのだ。

すでに名古屋市内に醸造施設を建設中で、畑も名古屋市内に確保済みだ。2022年3月からぶどうの苗を植える予定である。品種はアルバリーニョと、暑さに強く、アメリカ西海岸でも流行りのシラーを選んだ。

「名古屋は暑いですから、名古屋の暑い夏に合うワインを造りたいと思っています。ロゼを仕込んで、ルーフトップでキンキンにワインを冷やして飲む。そんなストーリーを名古屋で作りたいですね」。

実現すれば、名古屋で栽培されたぶどうを使い名古屋で醸造する、正真正銘、初の「名古屋ワイン」となる。馬場さんの手による名古屋ワインが購入できるのも、そう遠くはなさそうだ。

『まとめ』

常滑ワイナリー・ネイバーフッドはこれからも、地域に根ざしつつ、なおかつ多くの人にとってカルチャーとして浸透するようなワインを目指していく。

ワインはいろいろな人に、夢やロマンが与えられる、素晴らしいツールだ。常滑ワイナリー・ネイバーフッドは、みんなが楽しめるワインをしっかりと造り、多くの人に幸せを届けたいとの想いを胸に、さらに大きく飛躍していくことだろう。

基本情報

名称常滑ワイナリー・ネイバーフッド
所在地〒479-0003
愛知県常滑市金山上白田130
アクセス電車
名鉄常滑線蒲池駅から車で4分

常滑ICから車で7分
HPhttps://www.tokonamewinery.jp/index.php

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