『大阪エアポートワイナリー』空港内にあるワイナリーとして、一期一会の出会いを提供

大阪国際空港(伊丹空港)は、大阪府豊中市と池田市、兵庫県伊丹市にまたがって建設されている空港だ。 1994年の開港時には国際空港として機能していたが、現在は国内線専用の基幹空港として運用されている。

そんな伊丹空港内にあるのが、今回紹介する「大阪エアポートワイナリー」。世界初の、「空港内にあるワイナリー」である。

大阪エアポートワイナリーの運営母体は、東京にふたつの都市型ワイナリー「深川ワイナリー東京」と「渋谷ワイナリー東京」を擁する、「株式会社スイミージャパン」だ。

大阪エアポートワイナリーにはワインバルが併設されており、店内では生ビールのようにタップから注ぐ、フレッシュなワインを楽しむことができる。

今回は、大阪エアポートワイナリーの設立から現在までのストーリーを紹介しよう。お話を伺ったのは、醸造責任者の足立聡さんと、マーケティング事業本部兼新規事業部マネージャーの石倉いずみさん。さっそく見ていきたい。

『世界初の空港内ワイナリー』

大阪エアポートワイナリーのオープンは、2018年4月18日。伊丹空港の中央ターミナルが大規模改修に伴ってテナントの入れ替えが計画され、空港内にワイナリーを誘致するという企画が持ち上がったのだ。

「空港内でビールを醸造するブリュワリーは、ヨーロッパなどに数軒ありましたが、ワイナリーは世界初の取り組みでした。スイミージャパンはすでに都市型ワイナリーを経営している実績があったため、世界に先駆けて、空港内ワイナリーを手がけることになりました」。
スイミージャパンには新しいことにどんどん挑戦するという社風がある。新たな取り組みにも、大変さよりむしろ面白さを見出し、プロジェクトはスムーズに進んだそうだ。

▶︎オープンまでの道のり

空港内という特殊な環境にワイナリーをオープンさせる上では、一般的なワイナリー設立とは異なる問題や苦労があったのではないだろうか。

「通常のワイナリー設立では考慮しないポイントでも、空港内だからこそ気をつけるべきポイントがいくつかありましたね」。

設備的な制限に関しては、オープン準備から現在にかけて主に3つの点をクリアする必要があった。ひとつずつ紹介していこう。

まずは、空港内に醸造設備を搬入する際に、時間的な制限があったことだ。ワイナリーとして稼働するためには、大型のタンクなどのさまざまな醸造設備を設置することが欠かせない。だが、多くの人が利用する空港では、利用客が多い時間を避けるなどの配慮が必要だった。

「オープン前の準備期間だけではなく、現在も、原料ぶどうの搬入などに関しては空港を利用される方のご迷惑にならない時間に運び入れるよう注意しています」。

▶︎空港内ならではの対策を実施

ふたつ目は、自然災害などへのリスク対策について。ワイナリーがあるのは、ホテルと飲食店が入る3階エリアだ。1階のチェックインカウンターや、2階の出発・到着フロアと比べると、比較的落ち着いた雰囲気が特徴である。

伊丹空港は大規模改修を実施したタイミングで、到着口がひとつに集約された。そして、ワイナリーは到着口から出てちょうど上を見上げた、ひとつ上のフロアにある。ガラス越しに醸造施設が見えるおしゃれな造りだ。

「ガラス張りなので、空港を利用される多くの方に醸造施設をよく見ていただけるのはメリットですね。ただし、地震などの自然災害に備えて、リスク対策は万全にしています」。

一般的には、醸造所のタンクを施設内に設置する際には、固定する必要性はあまりない。しかし、大阪エアポートワイナリーは空港ビルの3階にある。さらにガラス張りの空間なので、タンクが倒れでもしたら一大事だ。

そのため、大阪エアポートワイナリーでは、タンクの上部と下部の2か所をワイヤーでしっかりと固定。さらに、空港自体は長い歴史を持つ建物のため、重量がある醸造機器で荷重がかかりすぎないよう、床の補強工事を実施した。

そしてなんと、ワイナリーが開業してわずか2か月後の2018年6月には、大阪府北部においてマグニチュード6.1の地震が発生。

「伊丹空港周辺でも大きな被害がでました。飛行機はすべて運休、空港内のテナントも臨時閉店となりましたが、大阪エアポートワイナリーは被害がなく、タンクもすべて無事でした。高い安全性が確認できた出来事でしたね」。

▶︎制限を魅力に変える

3つ目に紹介するのは、クリアすべきだったポイントの中でもっとも「空港らしい」制限だ。

スイミージャパンでは、深川ワイナリー東京と渋谷ワイナリー東京でも、店舗内でワインを醸造して出来立てワインをタップで提供してきた。タップからワインを注ぐ際に液体を押し出すために使っているのは、窒素ガスだ。

だが、大阪エアポートワイナリーは空港内にあるため、使用できるガスの種類に制限がある。窒素ガスもそのひとつで、危険物に該当するため使用が許可されなかった。そのため、代わりに炭酸ガスを使用することになったのだ。だが、炭酸ガスを液体に混ぜると、どうしても泡が発生してしまう。

「炭酸ガスを使って窒素ガスと同じ要領でタップから注ぐと、ガスが強すぎてしまいます。スパークリングワインのようになることもあるため、コントロールが難しいですね。しかし、ボトルに詰めたワインにはないシュワシュワ感があり、店に足を運んだいただいた方だけが楽しめる味なので、お客様には好評です」。

▶︎スペースが限られる大変さ

大阪エアポートワイナリーには、空港内という特殊な環境にあることだけでなく、醸造スペースが限られているという点での苦労もある。

飲食スペースの座席数は、カウンター席とテープル席をあわせて40席ほど。ワインバルとしては決して席数が少ないわけではないが、併設の醸造スペースは一般的なワイナリーの設備よりも非常に狭い。

「一見普通のワインバルに見えるので、カウンター席の正面のガラスの向こう側に醸造タンクがあるのを見て驚かれるお客様も多いですね。醸造スペースは、ワンルームマンションくらいの広さでしょうか」。

また通常、醸造中には床の洗浄のために多くの水を使用するが、大阪エアポートワイナリーではその点にも配慮する必要があるそうだ。

▶︎ 『大阪エアポートワイナリーのワイン醸造』

続いては、大阪エアポートワイナリーのワイン醸造について紹介していこう。

醸造に使用する原料ぶどうは日本および世界各地から購入したものだ。また、ワインバルを運営する大阪エアポートワイナリーでは、日本でぶどうが収穫できる時期以外にもコンスタントに醸造を継続する必要がある。そのため、海外から取り寄せたぶどうも醸造に使っている。

「南半球のぶどうの収穫は2〜3月ぐらいから始まるので、夏までは南半球のぶどうで対応しています」。

南半球からやってくるぶどうは、冷凍や低温コンテナに入れられて鮮度を保ったまま船便で届く。また、海外から届くぶどうはジュースに加工された状態のものもあるそうだ。

それぞれの原料は、社長や社員が現地に赴き、農場の担当者と直接やりとりをして厳選されたものばかり。購入したぶどうは、スイミージャパンの3つのワイナリーで使用しているが、北米から取り寄せたコンコードだけは大阪エアポートワイナリーで醸造している。

「新しいエリアのぶどうを開拓しようという意図で選択したのが北米のコンコードです。この大阪エリアでは古くから馴染みのある品種なので、コンコードのワインを好むお客様が多いですね」。

コロナ禍には空港の利用客が激減した時期もあったため、8つあるタンクがフル稼働することはなかった。だが、ようやく客足が戻ってきた2023年以降には、醸造量を以前のレベルに戻していく予定だという。

▶︎ワイン造りにおけるこだわり

大阪エアポートワイナリーの醸造におけるこだわりは、醸造中のワインに毎日しっかりと気を配ること。

「子供に接するように目をかけることが、いちばん大事だと思います。味わいに関しては、飲み飽きないクリアな味わいで、食事と一緒に楽しんでいただける味に仕上げることを目指しています」。

ワイン造りにおいては、「コンタミネーション(混入)」と呼ばれる汚染が発生しないようにじゅうぶんに気を配る必要がある。そのためにも、細心の注意を払ってワインを観察し、衛生管理をしなければならないのだ。

「醸造量は系列のほかのワイナリーに比べて少ないので、それほど大変さは感じません。特に気を使っているのは、施設をきれいに使って衛生管理を徹底することですね。お客様に見られる環境で醸造するので、常に気を張っている感じです」。

大阪エアポートワイナリーに常駐している醸造担当は足立さんのみ。仕込みや瓶詰めなどで人手が必要な際には、系列のワイナリーから応援を呼んで対応しているそうだ。

▶︎目指すのはきれいな味わいのワイン

醸造責任者の足立さんは、2023年から大阪エアポートワイナリーでの勤務をスタートさせた。大阪エアポートワイナリーに異動する前は、深川ワイナリー東京での醸造を担当。以前から、たびたび出張で大阪エアポートワイナリーを訪れて仕込みなどのサポートをおこなっていた経験がある。

そんな足立さんが感じるのは、同じ原料を使用しても、ワイナリーごとに出来上がるワインには個性が生まれること。まったく異なる特徴を持つワインになることもあるそうだ。

仕込みの温度や期間、濾過の有無など、選択する醸造方法は醸造家によって違う。結果として、同じぶどうからさまざまなスタイルのワインができるのだ。ワイナリーごとのワインの味わいの違いを飲み比べるのも楽しいかもしれない。

大阪エアポートワイナリーのワインの特徴は、すっきりとしたきれいな味わいであることだ。足立さんの前任者は、造り手として20年以上の経験を持つ大ベテラン。得意としていたクリアな造りを、足立さんも継承することを心がけているという。

▶︎ 『大阪エアポートワイナリーの楽しみ方』

店内でフレッシュなワインが飲める大阪エアポートワイナリーには、さまざまな楽しみ方がある。伊丹空港を訪れた際にぜひ立ち寄りたい大阪エアポートワイナリーでは、どんなワインが飲めるのだろうか。

おすすめワインと、ワインバルで提供される料理とのペアリングについても紹介していこう。

▶︎一期一会の出会いを楽しむ

大阪エアポートワイナリーでは、空港の利用客が気軽にワインを楽しめるフードメニューを展開している。

イタリアンメインで、地元産の食材も積極的に使用。パスタや小皿料理など、ワインとの相性が抜群な品揃えだ。

特に人気があるのは、3種類のタップワインと3種類の前菜がセットになった「マリアージュセット」。

ワインは各40mlで、提供されるワインは随時入れ替わる。赤ワインと白ワインをはじめ、オレンジワインやロゼワインが提供されることもあるので、どんなワインが出てくるかは注文してからのお楽しみだ。

空港という人が行き交う場にふさわしい「一期一会の出会い」が、ワインでも楽しめるのではないだろうか。

「普通のワインバルだと思っておひとりで入られた方が、ここでワインを造っていることを知って、面白そうだからとご注文いただくことが多いですね」。

空港という場所柄、常連客が多いというわけではないが、中には出張などで伊丹空港を利用するたびに来店するビジネスマンもいらっしゃるのだとか。

▶︎おすすめペアリング

ワインを飲みながらイタリアンの小皿料理をつまめるのが魅力で、随時新しい銘柄が登場するワインと合わせる楽しみが味わえる大阪エアポートワイナリー。

ここで、もっとも人気があるコンコードのワインと、ワインバルで提供しているメニューとのペアリングを提案していただいた。

「食事と合わせたワインを提供することが全社共通のコンセプトなので、大阪エアポートワイナリーでもフードメニューとワインのペアリングをご提案することは多いですね。お客様に呼んでいただいて、ワインについてご説明することもよくあります。コンコードのワインと合わせるのがおすすめなのは、『トマトとモッツァレラチーズのカプレーゼ』ですね」。

アメリカ原産のラブルスカ種であるコンコードは、生食用としても人気がある。色付きがよく香りが華やかで、濃い味わいが特徴。酸味が少なく、ぶどうジュースのような風味のため、ワインをあまり飲んだことがないという人にも好まれる。

軽めのフードメニューとよく合うが、中でもトマトとチーズと合わせることで、より香りが引き立つのだ。

そのほかにも、いくつかご提案いただいたペアリングを紹介しておこう。

まずは、山形県産のマスカット・ベーリーAと、大阪のソウルフードである「たこ焼き」の組み合わせ。

大阪エアポートワイナリーでは、赤ワインを混ぜ込んだオリジナルのソースをたこ焼きに使用している。マスカット・ベーリーAは和食と親和性が高いため、ソース味とのペアリングは、ぜひ一度試してみたいものだ。

また、大阪エアポートワイナリーでは、たこ焼きのほかにも、南イタリア人が作ったというコンセプトで大阪名物の料理を提供している。

「『大阪串揚げ風イタリアーナ』には、シュナン・ブランのワインがおすすめです。酸が豊富でさっぱりした味わいのシュナン・ブランは、揚げ物とよく合いますよ」。

意外性も感じられる、多様な味わいを提供する大阪エアポートワイナリー。だんだんと、「訪れてみたい!」と感じ始めた人も多いのではないだろうか。

『大阪エアポートワイナリーのさまざまな取り組み』

最後に紹介するのは、大阪エアポートワイナリーがおこなっている取り組みについて。

地域との繋がりを大切にする大阪エアポートワイナリーでは、地元とのコラボワインをリリースしている。また、それ以外の取り組みや、今後の新たな展開にも焦点を当ててみたい。

▶︎コラボワインもリリース

大阪エアポートワイナリーでは、タップから提供するワインのほか、瓶詰めしたボトルワインの販売もしている。赤と白が常時1種類ずつで、醸造本数が少ないため、基本的には大阪エアポートワイナリーの店頭での取り扱いのみだ。

「タップから提供しているものと同じスタイルで造っていますが、タップで提供するものとボトルワインでは、濾過の方法を変える場合もあります。同じワインでも、タップで注いだワインはフレッシュ感、瓶詰めしたワインは熟成を楽しんでいただくことができますよ」。

瓶詰めタイプのワインには、空港がある池田市とのコラボ銘柄もある。大阪エアポートワイナリーでは、地域との繋がりを作る取り組みにも積極的なのだ。

「池田市の『五月山動物園』に、世界最高齢のギネス記録を持つウォンバットがいます。なんと、お名前が『ワインくん』なので、コラボワインを造っているのです。空港や池田市のイベントで販売していて、リリースするたびに即完売する人気商品ですよ」。

▶︎空港内のワインスクール

また、大阪エアポートワイナリーでは、2019年から空港内でワインスクールを開校している。

「ソムリエとワインエキスパート試験の対策講座をおこなっています。全6回の1次試験講座と、ワインの試飲付きの2次試験講座で、試験合格を目指す方たちから評判ですよ」。

テキストだけを使って試験対策が実施されるワインスクールが多い中、大阪エアポートワイナリーでは実際の醸造設備を確認することができるのがメリットだ。

空港内でワインスクール?と驚くかもしれないが、気になる方は大阪エアポートワイナリーの公式サイトや公式Instagramで公開されている情報をチェックしてみてほしい。

▶︎ぶどう栽培にも期待

スイミージャパンが運営するワイナリーのうち、東京都江東区にある深川ワイナリー東京では、都市型ワイナリーには珍しくぶどうを栽培している。大型プランターをビルの屋上に設置して、最低限の土でぶどうを育てる「根域制限栽培」をおこなっているのだ。

系列の都市型ワイナリーでの成功実績があるぶどう栽培を、大阪エアポートワイナリーでもおこなう予定はあるのかについて尋ねてみた。

「空港の屋上でぶどうを栽培する構想はあったのですが、空港ならではの問題点があり、難しいところですね。空港の屋上でぶどうを栽培すると、ぶどうを狙って鳥が飛んできてしまう可能性があります。空港内に鳥が多く飛来すると、航空機に鳥が衝突する、いわゆる『バードストライク』発生の可能性がアップするのです」。

いつか、鳥を完全に防ぐ仕組みが考案できれば、大阪エアポートワイナリーでのぶどう栽培が実現するかもしれない。課題はあるが、スタッフたちも望んでいるという計画が実現する日が来るのを楽しみに待ちたい。

『まとめ』

インタビューの最後に、今後の抱負についてお話いただいた。

2023年に創業5年を迎えた大阪エアポートワイナリー。10月には、コロナ禍で一時的に中止していた醸造所見学を再スタートさせた。地元・大阪はもちろん、東京から参加したお客様にも好評を博しているそうだ。

「40分くらいかけて醸造施設を見学して、最後にテイスティングもできる見学会です。空港内のワイナリーならではの特徴と魅力をお伝えしていきたいですね」。

思いついたらすぐ取り組み、フットワークが軽いタイプだと自身を評する足立さん。きっと、大阪エアポートワイナリーの今後を、より一層興味深いものにしてくれることだろう。

空港という、いつもは通過するだけの場所にある特別なワイナリー。伊丹空港を訪れた際には、空港内で醸されるワインとの出会いを楽しみたいものだ。

何度でも訪れたくなるような場の創造を目指すスイミージャパンが手がける、ちょっと珍しい空港内のワイナリーならではの魅力を、たっぷりと感じてみてほしい。

基本情報

名称大阪エアポートワイナリー
所在地〒560-0012
大阪府豊中市蛍池西町3丁目555番
大阪国際空港(伊丹空港)内中央3階エリア
アクセスhttps://www.airportwinery.osaka/maps
HPhttps://www.airportwinery.osaka/

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