『とみおかワインドメーヌ』富岡町ならではのワインを醸す、海の近くのワイナリー

「とみおかワインドメーヌ」があるのは、太平洋に面した福島県双葉郡富岡町。海風が吹くこの町は、2011年の東日本大震災で多大な被害を受けた地域のひとつだ。

原発事故の影響で始まった「全町避難」と津波の被害によって、現在も故郷に戻れない人々がいる。そんな富岡町で立ち上がったのが、とみおかワインドメーヌ代表理事の遠藤秀文さんだ。

富岡を元気にし、魅力を発信することで価値を高めたいという一心でワイン造りの活動を続け、「富岡に人を集めることのできるワイナリーづくり」を目指す。

今回は、代表理事の遠藤秀文さんと、統括リーダーの細川順一郎さんにお話を伺った。

とみおかワインドメーヌ設立までの経緯とぶどう栽培、ワイナリー運営の方針などについて、ひとつずつ紹介していきたい。

『とみおかワインドメーヌの歩み』

始めに見ていくのは、ワイナリー誕生のきっかけと、設立後の歩みについて。

どうして富岡町にワイナリーを造ることになったのか。なぜ「ワイン」だったのか。この2点に注目しながら、遠藤さんの思いとワイナリーの歩みをともに追っていこう。

▶︎富岡町のために何ができるか 会社を辞めて地元へ戻る

とみおかワインドメーヌの代表を務める遠藤さんの本業は、建設コンサルタントだ。現在は地元の富岡町で、建設コンサルティング会社「株式会社ふたば」の代表取締役社長を務める。

ワイナリーを始める前までの遠藤さんは、別の建設コンサルタントの社員として海外事業に携わっていた。では、なぜ遠藤さんは、富岡に戻ってきたのだろうか。

「大学時代からずっと、将来は富岡に戻って仕事がしたいと思っていました。海外勤務中もその思いは変わらず、『何があれば、大切な地元である富岡をより魅力的な土地にできるか』を常に考えていたのです」。

豊かな自然と過ごしやすい気候のおかげで、恵まれた環境にある富岡を、より輝かせるにはなにが必要なのか。そんなことを考えていた遠藤さんは海外勤務の中で、「ワインが地域活性の鍵になるのではないか」という考えにたどり着く。

富岡でぶどうを栽培してワインにし、現地で地域の食とともに楽しんでもらえたら、富岡の魅力を引き出せるのではないだろうか。遠藤さんは自分の考えを現実にするため、務めていた会社を辞めて、35歳のときに富岡町に帰郷した。

「帰郷した当時は、ぶどうを栽培するための土地を確保できませんでした。富岡町は福島県の原子力発電所で働く人が多い土地で、数少ない農地は田んぼになっているケースがほとんどだったのです」。

土地がなくてはぶどうは育てられない。富岡町でのワイン造りは実行に移すことができないまま、月日が経っていった。

▶︎東日本大震災をきっかけに植えられたぶどう

転機が訪れたのは2016年のこと。遠藤さんが構想していたワイン造りのプロジェクトがようやく本格始動することになる。

ワイン造りプロジェクトが進んだ背景には、東日本大震災による被害が関係している。震災から5年が経過したにもかかわらず、富岡町には被害の爪痕が深く刻まれていたのだ。

「原発事故の影響で、富岡町は無人の町へと変わってしまいました」。

2011年に「全町避難」指示が出てからというもの、まだ役場にすら人は戻っていない。夜にはイノシシがうろつき、人の気配はゼロ。「このまま何もしなければ、この町は衰退してしまう」強い危機感を覚えた遠藤さんは、町を救うために動き出したのだ。

「町が復興するためのきっかけを作る必要があると考えました。ぶどう栽培の実績がない場所だったので、無謀だという人もいましたね。しかし、まずはやってみないと結果はわからないですし、だめだったら次を考えればいいじゃないかと思ったのです」。

遠藤さんは、避難した住民に声をかけた。「一緒にワインで町の未来を作ろう」。そして、遠藤さんの思いに賛同した10名の町民が集まる。

週末になると避難していた土地から数時間かけて富岡町に通い、ぶどうの苗木を植樹していった。最初に植えたのは350本の苗木だ。海に近い場所に畑を構え、徐々に拡大してきた。

▶︎海の見えるぶどう畑 とみおかドメーヌワイナリー

「富岡町のために役立つことをしたいと思いました」。

遠藤さんの強い思いから始まったワイン造りのプロジェクト。ぶどう畑の場所として選ばれたのは、遠藤さんの先祖が残した杉林の跡地だった。

「遠藤さんが代表を務める「ふたば」の富岡町帰還に伴う本社社屋建築の材料を調達する目的で、先祖の杉林を伐採していました。すると、杉を切った先に見えた景色に目を奪われたのです。目の前に広大で美しい海が広がっていました」。

この場所でぶどうを育てたいと考えた遠藤さんは、杉林を開墾してぶどう畑に生まれ変わらせた。大木に育った杉を抜いていくのは、非常に骨の折れる作業だったという。

その後も畑は少しずつ広がっていき、2020年には富岡駅のすぐ側にも自社畑が誕生した。遠藤さんの決意から生まれたワイナリーは今、地域活性化のシンボルとして、確かに機能し始めている。

『「富岡町」の魅力を輝かせるぶどう作り』

続いては、とみおかワインドメーヌが育てる「ぶどう」について紹介したい。

太平洋に面している富岡町。海に近い場所でのぶどう栽培だからこその特徴とは?ワイナリーの栽培方針や、生まれるぶどうの特徴を紹介していく。

▶︎白ワイン用ぶどう中心の栽培品種 土地の個性を表現できるぶどうを育てる

とみおかワインドメーヌで栽培されているぶどうは約5000本。メインの品種は、次の5種類だ。

  • シャルドネ
  • ソーヴィニヨン・ブラン
  • アルバリーニョ
  • メルロー
  • カベルネ・ソーヴィニヨン

とみおかワインドメーヌが栽培するぶどうには白ワイン用ぶどうが多い。もっとも栽培量が多いのはシャルドネだ。およそ2000本を育てている。次いで多いのがソーヴィニヨン・ブランで、栽培本数は500~600本ほど。アルバリーニョも数を増やしているところだ。

赤ワイン用ぶどうはメルローとカベルネ・ソーヴィニヨンだが、このうちカベルネ・ソーヴィニヨンは近年増やした品種。土地に合うぶどう品種を実践の中で見極めながら、富岡の地に定着するぶどうを育てている。

メイン品種以外でも、数十本単位で育てている試験品種が存在する。今後新たなメイン品種となるぶどうも出てくるかもしれない。今後のぶどう栽培にも大きな期待がかかる。

とみおかワインドメーヌで白ワイン用ぶどうの栽培が多い理由について尋ねてみた。

「富岡といえば、豊かな海と川の資源です。海や川の食材に合わせることを一番に考えて、白ワイン用ぶどうを選びました」。

とみおかワインドメーヌのワインは、「地元食材とのマリアージュ」が何よりも重視されている。そのため、魚介類との相性がよいシャルドネやソーヴィニヨン・ブランを、ぶどうの栽培開始当初からメインに据えていた。近年加えたアルバリーニョも、海のワインと呼ばれるワインを生み出す品種だ。

遠藤さんは、ワイン単体で何かをするのではなく「地元の魅力を発信したい」と力強く話す。富岡の地に根を下ろし生きるぶどうたちが、富岡を代表する新しい「地元資源」になる日もそう遠くはないだろう。

▶︎富岡の気候と土壌 水と風の豊かな場所

栽培品種の次は、ぶどうが育つ富岡の気候や土壌についても知っておこう。

富岡町が面する海には、親潮と黒潮がぶつかる「潮目」がある。プランクトンが豊富で、さまざまな魚が集まる豊かな海域だ。

そんな富岡の気候について一言で表現すると、「過ごしやすい気候」なのだとか。なんと、この異常気象の中でも、夏季の最高気温は30度程度。その上、冬は東北地方の中でも比較的温暖で積雪量が少ない。

「夏は涼しく、冬はそこまで寒くないのです。四季を通じて過ごしやすいのが、富岡の気候の特徴ですよ」。

そのためか富岡町では、あらゆる動植物が育ちやすい。震災前には畜産も盛んにおこなわれており、「特別な管理をしなくてもすくすく育ってくれる場所」として知られていた。温度管理が不要な点が大きいのだろう。

ただし富岡町にも、厳しい気候条件がひとつ存在する。「海風」だ。町中は常に海風が吹き抜ける。ぶどうの枝が折れるなど、風が強すぎると感じることも多いという。

しかし、強い風ならではのメリットにも注目すべきだろう。風が吹くことによって湿気が吹き飛ぶため、病気の被害が少ないのだ。また、ぶどうを食い荒らす害虫も付きづらくなる。

湿度が高い日本のぶどう農家は、病害虫の予防に頭を悩ませることが非常に多い。強い風によってこれらの心配が軽減されるのであれば、強すぎる風も一種の「恵み」といって差し支えないかもしれない。

続いては、畑の土壌についても見ていこう。

最初に開梱した杉林の畑は、泥岩(でいがん)質。泥岩とは堆積岩の一種で、泥が固まってできた岩のような土壌のことを指す。「肥沃すぎず、コントロールしやすい土」だと遠藤さんは話す。

富岡駅の隣にある新しい畑は、造成段階で土を入れているため、多様な土質が混じり合っている。新しい畑からどのようなぶどうが生まれるのかは、今後の成長を待つ必要があるだろう。

統括リーダーの細川さんは、富岡のぶどうについて次のように話してくれた。

「冷涼な気候で育つぶどうなので、ワイン用としてポテンシャルがあると強く感じています。特に土地に合っていると思うのが、シャルドネとソーヴィニヨン・ブランですね。どちらも、よい結果が出ているのを感じていますよ」。

細川さんはもともと山梨県甲州市の塩山エリアでワインに携わっていた人物だ。代表の遠藤さんと知り合い、富岡に移住したのだ。

「私が住んでいた12年間で、山梨県の平均気温は0.8度も上昇したのです。そんな世界的な地球温暖化の影響下でも涼しさを保つ富岡の気候には驚きましたね」。

ぶどうやワインをよく知る人間から見ても、富岡の気候は驚くべきものだった。富岡はワイン用ぶどうにとって、「恵まれた条件」がそろっている場所なのだ。

▶︎富岡でのぶどう栽培

とみおかワインドメーヌが保有する自社畑の総面積はおよそ1.8haで、今後も拡張を続ける予定だ。

今まさに拡張している最中なのが、JR常磐線富岡駅の駅前にある畑だ。現在1.3haだが、将来的には4〜5haにまで広げていく。

自社畑はすべて垣根仕立てで、海に面した丘にある垣根の畑は「美しい」の一言だ。富岡でのぶどう栽培で、遠藤さんが意識している最大のこだわりは「景観づくり」だという。

「ワインには人を集める力があります。ワインとしての品質を求めるのももちろんですが、地域交流の核となる存在として、ぶどう畑の景観を大切にしていきたいのです」。

だからこそ遠藤さんはあえて、海が目と鼻の先の場所に畑を造成した。電車の車窓からぶどう畑が見えれば、きっと富岡町に人を呼ぶことができる。電車から見えるヴィンヤードやワイナリーの風景には、地域のイメージを形作る大きな魅力があるはずだ。

「とみおかワインドメーヌのこだわりは、地域の魅力を発信できるようなぶどうを栽培することなのです。単にワインを売り出したいのではなく、富岡の風景や土地が持つ力をぶどうとワインで表現していきます」。

ワイナリーを造る活動が、人々の移住を促し、町民を呼び戻すことに繋がるように。ワイナリーを富岡のシンボルにするため、とみおかワインドメーヌは「美しいぶどう畑」を作るのだ。

『地元食材とマッチする海のワイン とみおかワインドメーヌのワイン造り』

とみおかワインドメーヌのワインは、まだ一般販売されていない。ぶどうの樹齢が若く収量が限られることから、委託醸造によって限られた数が生産されているのみだ。

とみおかワインドメーヌは今後どのようなワインを造って、どのように販売していきたいと考えているのだろうか。

▶︎地元食材とのマリアージュが光るワインを目指して

「味へのこだわり以上に、どう地域の食材とマリアージュをしていくかを大事にワイン造りを進めていきたいと考えています。富岡という地域全体の魅力を発信するには、地域を感じられる食との組み合わせに価値を感じてもらう必要がありますから」。

とみおかワインドメーヌが目指すワインは、地元食材と合うワイン。ワイナリーの方針である「地域の魅力発信」という軸は、極めて明確でブレがない。

尖った味わいのワインを造っても、地域の食資源の魅力は伝えられない。富岡という土地の魅力を伝える上では、ワインだけが独り歩きしては違和感が生まれるだろう。

遠藤さんたちが求めるのは、地域のポテンシャルを深化させるためのワイン造りなのだ。

それではここで、地元食材の例を見てみたい。とみおかワインドメーヌのワインは、どんな食材とのマリアージュが想定されているのだろうか。

「まずは海の幸ですね。そして次が、富岡川の鮭です。富岡は海と川という豊かな水資源に恵まれた町なので、水産物とのマリアージュを想定してワインを造ります」。

町が面する太平洋では、「常磐(じょうばん)もの」と呼ばれる質の高い海産物がとれる。富岡付近に多いのは、ヒラメやアイナメ、メバル、白魚、そして穴子やホッキ貝などだ。特に白身魚類が多く生息し、白ワインとの相性のよさは抜群だろう。

そして海産物以上に見逃せないのが、富岡川の鮭とワインの組み合わせだ。

「震災以降はおこなわれていなかった鮭の稚魚放流が、久しぶりに再開しました。富岡川で育った鮭は、4年ほど経つと故郷に戻ってきます。鮭とワインのマリアージュができたら最高ですね。鮭の稚魚を放流する場所である『ヤナ場(やなば)が畑のすぐ近くなのです」。

鮭の遡上時期は9月から10月で、ちょうどぶどうの収穫時期と重なる。遠藤さんは、「鮭の遡上と収穫祭のコラボレーション」を考えている。とれたての鮭と土地のワインとの、贅沢なマリアージュが楽しめる場になることだろう。

「景色と食とワインの調和を目指します。食や景観に寄り添うワインを造りたいですね」。

実際に、とみおかワインドメーヌのシャルドネからは、「シャルドネらしさを感じつつも、まろやかで食材とマッチする」ワインができているそうだ。

富岡の風景や食があって初めて完成する、とみおかワインドメーヌのワイン。人や地域、食材と風景など、さまざまな「縁」を取り持つ、控えめだけれど不思議な力を持つワインが富岡の地で産声をあげようとしているのだ。

▶︎潮風を感じられるワインを造る

地元食材との組み合わせ以外に、とみおかワインドメーヌがワイン造りで重要視していることは、「海」の風味がするワインを造ること。

とみおかワインドメーヌのぶどうで造るワインについて、細川さんは次のように話してくれた。

「2021年に仕込んだシャルドネからは、相当に強い塩の影響が感じられました。 また、潮風に含まれる塩の影響で、ぶどうの果皮がほかの地域よりも分厚くなっています」。

ぶどうの果皮が分厚いと、果皮に含まれる成分が多くワインに溶け込むことになる。ワインの味を決定づけるのは、ぶどう果汁に含まれる糖分と酸、果皮に含まれるポリフェノール類などだ。果皮の分厚さや土壌のミネラル分が、富岡ならではの独特なフレーバーを生む。

「ぶどう果汁の段階から、富岡にしかみられない個性的なフレーバーがあります。ワインになると、さらに塩味のニュアンスがプラスされます。私は山梨県でもシャルドネのワインを造っていたので、味の違いがはっきりとわかります。富岡で造るシャルドネには、確かに海の風味を感じますね」。

遠藤さんによるワインの感想も面白い。遠藤さんは「メルロー」について、「いつも潮風に吹かれ続けた、根性のあるぶどう」だと話す。

「初めてワインになったメルローを飲んだときに、『富岡のメルローだ』という強い主張を感じました。潮風が富岡のぶどうを個性的にしているのだと思います」。

海との結びつきが強い富岡町には、海に近いからこその辛い過去もある。東日本大震災のとき、津波に襲われたのだ。さらに町内の大部分の建物が甚大な被害を受け、JR富岡駅の駅舎も津波に流された。

「駅舎が流されたにも関わらず、富岡駅はまた同じ場所に駅舎を造りました。うちの畑も、駅のすぐ隣にあります。海に近いことこそが、富岡の土地の個性なのです」。

海は自然災害だけでなく、豊穣の恵みや癒やしをもたらす存在でもある。「豊かな海がいつも目の前にある」ことが、富岡の誇りでありアイデンティティのかなめなのだ。

▶︎ソーヴィニヨン・ブランを育てる理由 姉妹都市との絆

とみおかワインドメーヌでは、ソーヴィニヨン・ブランをメインの品種のひとつと位置付けている。富岡の気候に合うという理由もあるが、とみおかワインドメーヌには、気候条件のほかにも、ソーヴィニヨン・ブランのワイン造りにこだわる理由があった。

「富岡の姉妹都市である、ニュージーランド・オークランド州の名産品がソーヴィニヨン・ブランのワインなのです。姉妹都市との交流を考え、ソーヴィニヨン・ブランは絶対に育てたいと思っていました」。

富岡町とオークランドとのつながりは強い。かつての町長同士の仲がよく、ともにワインを飲むこともあったそうだ。

「実は以前、私の父が富岡町の町長でした。海を見ながらワインを飲んだときの思い出を、父がニコニコしながら語ってくれたのです。父の楽しそうな表情から、ワインの素晴らしさを教わりましたね」。

思い出のぶどうであるソーヴィニヨン・ブランから、富岡町ならではのワインを造る。コロナ禍が収束して姉妹都市との交流が再開されれば、ワイン関連のイベントや企画も実現するだろう。

とみおかワインドメーヌの醸造は始まったばかりだが、ソーヴィニヨン・ブランからはすでに高いポテンシャルが感じられる。

「ソーヴィニヨン・ブランは、気候が合わないと品種個性が出にくいぶどうです。しかし富岡では、樹齢3〜4年のソーヴィニヨン・ブランからすでにしっかりと品種個性が感じられたのが衝撃でした。樹齢が上がっていくと、より高品質なフレーバーが感じられるでしょう」と、細川さん。

オークランドのソーヴィニヨン・ブランと、富岡のソーヴィニヨン・ブラン。いずれこれらのワインを同時に飲める機会ができるのだろうか。きっと楽しいワイン体験になるに違いない。

『3年後のとみおかワインドメーヌ』

最後のテーマ、「ワイナリーの3年後」に移ろう。

「おそらく3年後は、みなさん驚くと思いますよ。今はまだ草ばかりの場所に、畑やワイナリーが広がることになるのですから」と、遠藤さんは微笑む。

畑の拡張とワインの生産の安定化、そして自社醸造所の建設。とみおかワインドメーヌは、これから怒涛の3年間を過ごすことになるだろう。ワイナリーの未来の姿を、少しだけ覗いてみよう。

▶︎自社醸造所の完成を目指して  ストーリーを感じてもらえるワイナリーに

自社醸造所の建設計画が進んでいるとみおかワインドメーヌでは、2024年にワイナリーが完成する予定だ。

醸造所は、富岡駅のホームから見える場所に建設される。アクセスも良好で、駅から歩いて5分ほどで行くことができるという。

遠藤さんは、建設予定のワイナリーについて、ワインができるまでのストーリーとポジティブな気持ちを感じてもらえる場所にしたいと話してくれた。

「ワイナリーの設備の一部には、私の自宅の蔵を使用します。この蔵は、震災の津波でも流されなかった貴重な存在なのです。ワイナリーの意志の強さの象徴にしたいと考えています」。

とみおかワインドメーヌの活動から感じられるのは、不屈のポジティブ精神だ。遠藤さんの言葉には、逆境の中でも奮い立たせてくれるような力強さがある。

ワイナリーの社屋が完成して自社醸造がスタートしたら、「飲んだ人が笑顔になるワインを造りたい」と話してくれた細川さん。

とみおかワインドメーヌの一般発売は、自社醸造が始まってからになる見込みだ。2023年には先行して、ふるさと納税の返礼品としてワインが提供される可能性があるという。気になる人は、ぜひチェックしていただきたい。

「少しずつ規模を大きくして軌道に乗せていきたいです。ワインが一般販売できるようになったら、クラウドファンディングで支援してくださった方や協力してくださった方々と喜びを分かち合いたいですね」。

富岡に行きたいと思わせるワイナリーになるために、とみおかワインドメーヌは自分たちの夢を形にするのだ。

▶︎目標は「ワイナリーの未来が見える状態」に持っていくこと

「イベントやワイン造りなど、やりたいことはたくさんあります。すべてを一度に完成させることは難しいので、3年後にはまず、いろいろなことをやり遂げられるという目処が立っている状態にしていくつもりです」。

とみおかワインドメーヌの活動は、2016年から始まった。ほぼ無人の町を少しずつ開墾し、自社畑を広げてきたのだ。ワイナリーづくりのプロジェクトは、まだ始まったばかり。

「これからも歩みを止めず、富岡町の復興の象徴となるワイナリーにしたいと思っています。ワインをとおして、震災後の富岡町の歴史を年輪のように刻んでいきたいですね」。

『まとめ』

「私たちの町は、震災ですべて流されてしまいました。地元に戻ってこられない人が今でも大勢います。とみおかワインドメーヌは、富岡に戻れない方たちが保有していた土地を使って活動しています。震災があったからこそワイン造りが始まったともいえるのです」。

遠藤さんたちが背負っているのは、富岡に住んでいたすべての人達の故郷への思い。土地を譲ってくれた人々は、応援と期待の言葉をかけてくれるそうだ。

JR常磐線に乗るときには、とみおかワインドメーヌの存在を思い出してほしい。数年後にはきっと、富岡駅の周りはワインを楽しむ人々で賑わっていることだろう。

そんな未来を夢見て、これからもとみおかワインドメーヌの活動を応援していきたい。

基本情報

名称一般社団法人とみおかワインドメーヌ
所在地〒979-1111
福島県双葉郡富岡町小浜438-1
アクセスJR富岡駅より徒歩15分
HPhttps://tomioka-wine.com/

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