山形県上山(かみのやま)市、蔵王連峰のふもとに位置する「ウッディファーム&ワイナリー」。先祖から受け継いだ果樹栽培に適した土地で、栽培しやすい品種を試しながらワイナリーを築いてきた。
「上山で栽培したぶどう本来の味を、ワインを通してしっかり伝えたい」との想いを胸に、まずは地元の人に愛されるワインを目指して挑戦を続けている。
『ぶどうを供給する契約農家から、ワイナリーへ』
ウッディファーム&ワイナリーは2013年9月に醸造免許を取得して誕生したワイナリーだ。ワイナリー設立は2013年であるものの、実は先代から契約農家としてぶどうを栽培していた。
昭和40年代になり、大手国内ワイナリーと契約。ヨーロッパ系品種の苗木を譲り受けて作付けを始め、良質なぶどうを供給した。
▶︎自分たちが栽培したぶどうを、自分たちの手でワインにしたい
ワイナリー設立のきっかけは、現在の代表取締役社長・木村義廣さんが、「自分たちが作ったぶどうを、自分たちの手でワインにしたい」との夢を抱いたことだ。「ワイン造りはいいぶどうから」という、近隣にあるタケダワイナリーの前社長・武田重信さんにも影響を受けた。
だが、当時は何の実績もない企業がワインの醸造免許を取得できる時代背景ではなかった。そのため、ぶどうやさくらんぼ、ラ・フランスなど、需要の高い果物を中心に栽培していた。
2000年代に入ると規制緩和が進み、新規ワイナリーが続々と立ち上がるように。ウッディファーム&ワイナリーも満を持して、自分たちのワイナリーの立ち上げを計画。畑の整備などを行い、醸造免許の許可が下りた2013年からワイン造りをスタートした。
毎年のように増産体制を組み、3.7haだった自社畑は約8haに。ヨーロッパ系のワイン専用品種を自社畑で栽培し、年間約3万本を醸造するワイナリーへと成長した。
▶︎山形県上山市のワイン専用品種の歴史は古い
ウッディファーム&ワイナリーの畑には、メルローやカベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネなどがある。ワイナリー設立前に植えた苗木が、今では古木となって残っているのだ。(2020年11月に惜しまれながら伐根された。)山形県のような寒いエリアでのテスト栽培のために植えられたものだが、栽培に成功し、脈々と受け継がれてきた財産だ。
「実は上山市のワイン専用品種は歴史が古いんです。先祖から受け継いできた果樹栽培に適している土地で、私たちなりに栽培しやすい品種を模索してきました」と、醸造責任者の金原勇人さん。
▶︎上山市の土地に適した、ヨーロッパ系ぶどう品種を選定
ヨーロッパ系品種は病気に弱く、栽培が難しい。その結果、収量が落ちて収入が減ってしまう。
「代表の木村は、この土地に適したヨーロッパ系品種は何かを探してきました。ワインへの補糖はしない方針なので、果実の糖度や酸度のデータは特に重視しています。最近ようやく、この土地で糖度と酸度が十分上がり、フレーバーが充実したぶどう品種がしぼれてきました」。
メインの白ワイン用ぶどう品種は、プティ・マンサンとアルバリーニョ。赤ワイン用ぶどう品種は、カベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フラン。今後のウッディファーム&ワイナリーの主力品種として、栽培を強化している。
『自然に配慮した、持続可能なワイナリーを目指す』
ウッディファーム&ワイナリーの名称の一部である「ウッディファーム」は、木村さんの名字から連想された命名だ。
木村さん自身も木への関心が高く、設立時から「持続可能なワイナリーを作りたい」と、自然に配慮した素材で建物を建築しているという。また、建物の上にソーラーパネルをつけるなど、エコスタイルも意識している。
▶︎環境への負荷を減らす取り組みを行っている
ワイン事業自体は一見、環境に優しく思える。しかし、木を切って畑にしたり、土壌改良や農薬も使用する。さらにワイナリーでは少なからず電力をつかうなど、実は環境へ負荷をかけている側面も持つ。
「木村は、『環境に負担をかけず、後世に続くようにしたい』との思いをずっと持っています。私たち従業員もそれに準じて、できるだけ環境への負荷を減らす取り組みを行っています」。
除草剤は一切使わず、草生栽培を採用。化学肥料も使わない。農薬を使用せざるを得ない場合は、規定の3分の2や半分以下の使用量にすることで、有機減農薬の「山形県認定特別栽培」認証を受けている。
▶︎農薬を減らすため、土地に適した病気に強いぶどうを栽培
農薬を使わないと病気になって収量が減ってしまうぶどう品種では、負のサイクルに入ってしまう。よって、農薬を減らすためには、病気に強い品種を栽培する必要がある。
「ウッディファーム&ワイナリー」では、山形県上山市の気候風土に合い、栽培しやすいワイン用ぶどう品種であれば、必要最低限の農薬で十分素晴らしいぶどうが収獲できると考えた。
「梅雨や秋雨、台風など、日本のどこの生産者も厳しい条件の中でぶどう栽培をしています。そういった厳しい気象条件でも優れた品質に栽培できるのが、私たちが求めるぶどう品種なのです」。
『傘をかけなくてもよい、病気に負けない品種を模索』
ウッディファーム&ワイナリーでは、棚栽培でぶどうを栽培している為、ひと房ずつ傘紙をかける必要がある。2020年は傘だけで24万枚を発注したので、費用もかさむ。
ただ、秋雨などで日本のワイン用ぶどう品種は病気になりやすい。傘を全くかけないわけにはいかないが、傘をかけなくても美味しく育つぶどう品種を模索してきた。
「私たちは毎年畑を増やしており、傘をかける枚数も増えています。スタッフの数にも限りがあるため、傘をかけなくても病気に負けない品種を探し求めてきました。そのひとつがアルバリーニョです」。
▶︎無理なく作ることができる品種が、この土地に合う品種
ウッディファーム&ワイナリーは、試行錯誤を繰り返し、この土地で無理なく作れるぶどう品種を特定しつつある。逆に、この土地に向いていない品種は栽培を断念する。
「現在作付けしている白ワイン用品種はソーヴィニョン・ブラン、シャルドネ、プティマンサン、アルバリーニョの4種類です。赤ワイン用品種はピノ・ノワール、メルロ、カベルネ・ソーヴィニョン、カベルネ・フランの4種類で合計8種類になります。以前はピノグリやピノムニエ、シュナンブラン、マルベックなどもありましたが断念しました。残った8種類の中でも、アルバリーニョやプティマンサン、カベルネ・ソーヴィニョン、カベルネ・フランは特に品質・収量も良く、耐病性も優れる事から期待しています」。
かけた時間に対する品質や収量、病気になりやすいかどうかをシビアに見ている。限られたメンバーで最高のものを作るのが目的だ。無理なく育つ品種こそ、土地に合っている品種なのだ。
▶︎「この土地だからこそ、美味しいぶどう」を探す
無理なく栽培ができることに加え、「ほかの産地に比べて、特筆すべき美味しさがある」のも選ぶポイントだ。
「ほかの土地では栽培が難しいが、上山の土地で必要最低限の手間で最高の品質になるぶどう品種を探してきました。今、ようやく見つかってきた段階です」。
自分たちが伝えたいワインへと、着実に焦点が合ってきている。
『ふたつの異なる土壌と、風通しのよい畑で栽培する』
ふたつの異なる土壌が、ウッディファーム&ワイナリーのぶどうを育んでいる。ひとつは山の斜面を切り開いて畑にした土壌で、非常にやせた土地。もうひとつは山の斜面から離れたエリアで、黒ボク土と呼ばれる栄養豊富な土壌である。
▶︎ぶどう栽培に向いた、水はけがよく養分の少ない土壌
「これらの土地は果樹栽培に向くと、木村が借り受けて、ぶどう栽培を始めました。水はけがよく養分の少ない土壌は、果樹栽培ではプラスに作用することが多いのです。この土地で栽培しているぶどう品種は、とてもよい結果が出ています」。
「風通しのよい土地であることも、非常に好条件だと思っています」。
風通しのよくない畑は、湿気がこもって病気が出やすい。台風の被害を大きく受けてしまうこともあるものの、風の抜けがよいと、湿気がこもる土地に比べると病気による被害は少ないそうだ。
▶︎栄養豊富な黒ボク土では、プティ・マンサンを栽培
一方、山土に比べて栄養が豊富な台地である黒ボク土は、特にプティ・マンサンの栽培に適している。
「プティ・マンサンはポテンシャルの高いぶどうです。黒ボク土の土壌に植えているプティ・マンサンは、よい結果が出ています。今後もっと模索を深めていけば、この土地にはこのぶどうというのが、精度よくできると考えています」。
『ワインで、ぶどう本来の味を伝えたい』
ワイナリー設立以前から、ぶどう栽培に力を入れてきた自負もあり、ぶどうの味には絶大な自信を持っている。土地に合うぶどう品種は何か、どんな仕立て方が最適なのかなど、さまざまな試行錯誤を重ねて、ようやく形になってきたところだ。
▶︎口に含むと山形県の景色が広がるワインを目指す
醸造責任者である金原さんが重視するのは、「ぶどうの本来の味を伝えるワイン造り」。
樽などの貯蔵容器に由来する香りは、ワインにとって大切な要素だ。しかし、それらがぶどうの味を絶つことは、絶対に避けたい。「自分たちが栽培したぶどう本来のよさを、ワインをとおして、飲み手にしっかり伝わる醸造にしたい」と考えている。
上山のぶどうはほかとは違うことが伝わり、実際に見に行きたいと思ってもらえるよう、ぶどう由来の味をダイレクトに飲み手に伝える。
「飲んだ瞬間に、山形県に来たことがない人も、山形県に興味を持って山形県の景色が広がる」。
そんなワインを目指しているのだ。
『スタッフ一人ひとりの考え方や行動が、品質に影響する』
金原さんが感じてきたワイン醸造の大変さは、ぶどうという腐りやすい果実が原料であることと、人によって感覚が異なることだ。それも年々ぶどう栽培への感覚を磨いたり、伝え方の工夫を重ねることで改善できている。
▶︎ぶどうには貯蔵性がないので、スピード勝負
「ワイン醸造は、原料に貯蔵性がないのでスピード勝負です。ぶどうが届いたら早く処理しなければ、腐っていくばかり。ぶどうの収穫場所と醸造場所も大切です。それがぶどう栽培とワイン醸造の一番面白く、また難しいところだと思います」。
条件も毎年異なり、途中までは順調だった年でも後半に難しくなることや、その逆もある。感覚が大切で、工業的にはできないのだ。
▶︎伝え方の工夫で、細かな収穫の精度を上げる
ぶどうの収穫に関しても、人によってとらえかたが違うのが難しい部分だ。金原さんが「このくらいの色のぶどうを収穫してください」と伝えても、スタッフに指示どおりのぶどうを収穫してもらうのは難しかった。「このぶどうにはこうしてもらいたい」との希望があるものの、言葉では正確に伝わらないことも多かったそうだ。
「ひとりで管理することは不可能なので、毎年検証して伝え方を工夫してきました。細かい収穫の指示が伝わると、自分たちの成長を実感しますね」。
収穫と仕込みの時期である9月と10月は特に忙しい。金原さんが全部の現場に立つことはもちろんできないため、それぞれのスタッフが責任をもって現場を回している。ひとりひとりの考え方や行動が、最終的なワインの品質にダイレクトに響いてくるのがワイン醸造なのだ。
▶︎面倒でも、細やかな作業が品質のよいワインを生む
ワイン醸造の現場について、日本酒の醸造工程と比べてお話いただいた。
「以前、日本酒の蔵に1年いました。日本酒では、洗練された複雑な工程が緻密に組み上げられています。修正のポイントも多く、何百年も培ってきた英知が息づいている。しかし日本酒と比べて、工程の少ないワイン醸造はより修正が難しくなってくる。最初の部分をしっかり管理することが本当に大切です」。
細かいことではあるが、収穫が終わったら収穫コンテナをしっかりと洗う。タンクは何度も丁寧に洗浄する。手間のかかる作業を丁寧に行うことが、高品質なワインにつながるのだ。
『地元の人に広く親しまれるワインになっていきたい』
「うちのワインは、まずは地元・山形県の人にもっと飲んでもらいたいのです」。
地酒にとって、地元の人が愛してくれるかどうかは、とても重要だと考えているのだ。目指すのは、地元の人が毎日飲んでも飽きないワイン。さらに地元の食材に合うワインであり、県外へのお土産として選んでもらえるワインだ。
▶︎身近な人が、身近に感じて愛してくれるワイナリーへ
「自分たちが造ったワインが地元の人に広く親しまれるようになってこそ、文化の一部として認められた実感がわくのではないか」と金原さん。
「山形県の人口は減っているので、地元のシェアだけで5万本、10万本を消費するのはもちろん難しいでしょう。しかし、地元の人に愛される基盤がないワイナリーは、長続きしないのではないかと思っています。一番身近な人たちが身近に感じ、愛して受け入れてくれるようなワイナリーでありたいですね」。
世界的に見ても、地元の料理と地元のワインを合わせるのは鉄則だ。例えばイタリア料理とイタリアワイン、ドイツのソーセージとドイツビールなど。「地元に愛されているからこそ、ほかの国や地域の人が見て美味しそうだと感じるのではないか」と考えているのだ。
『ウッディファーム&ワイナリーの、ふたつの挑戦』
ウッディファーム&ワイナリーとして、今後挑戦していきたいことはふたつ。全国的にまだまだ数が少ないぶどう品種を、「この品種ならば山形県だ」と全国に広めること。
そして、そのぶどう品種を使ったウッディファーム&ワイナリー独自のブレンドワインを造ることだ。
▶︎この土地に合ったぶどう品種で、地域特有のブレンドワインを
プティ・マンサンやアルバリーニョ、カベルネ・ソーヴィニヨンなど、ウッディファーム&ワイナリーで造っているぶどう品種は、日本全国で見ても例が少ない。
「『カベルネ・ソーヴィニヨンなら山形県』『プティ・マンサンなら山形の上山』など、品種と産地が結びつくワインを造りたいですね。さらにその品種で、エリア特有のブレンドワインを造っていきたいです」。
金原さんが特に薦めるのが、2021年4月に発売された3種類のワイン。ひとつは白ワインの主軸であったソーヴィニヨン・ブランにプティ・マンサンをブレンドした「樽発酵ソーヴィニヨン・ブラン2019」。
次に「植ノ山畑シャルドネ」。これまでのウッディファーム&ワイナリーのワインよりも格段に美味しくなっていて、山形県のシャルドネの新たな魅力が引き出された自信作だ。
最後は「Holiday アルバリーニョ 2019」(予約にて完売)。ひと樽分しか造っていなかったためすでに完売したものの、山形県で初のアルバリーニョのワインだ。山形県のアルバリーニョは今後、絶対に伸びると感じてもらえるワインに仕上がった。
『まとめ』
大手ワイナリーに原料を提供する契約農家からスタートし、自分たちの自慢のぶどうで、自らワインを造りたいとワイナリーを設立したウッディファーム&ワイナリー。山形県の上山の土地に最適なぶどう品種を探し求め、ようやく満足のゆくぶどう品種を特定できるようになってきた。
ウッディファーム&ワイナリーでは、ぶどう栽培と品質に大きな自信を持っていて、生み出されるワインは「ぶどう本来の味」がダイレクトに伝わるように造られている。なによりも、試行錯誤を繰り返しながら年々ワインの質を向上していこうと、努力している姿勢が素晴らしい。
ワイナリー独自のぶどう品種でつくられるブレンドワインが、さらに精度をあげて、その名を広く知られる日も近そうだ。
基本情報
名称 | ウッディファーム&ワイナリー |
所在地 | 〒999-3212 山形県上山市原口829 |
アクセス | 電車 JRかみのやま温泉駅から車・タクシーで15分 車 かみのやま温泉ICから車で24分 |
HP | http://www.woodyfarm.com/ |