横浜の港に面した、小さな都市型ワイナリー『横濱ワイナリー 』の大きな挑戦

横濱ワイナリーは、みなとみらい線の元町・中華街駅から徒歩3分に位置する、都市型ワイナリーだ。横濱ワイナリー代表で醸造家の町田佳子さんの前職は、環境NGO職員。
ワイン醸造に関しては全くの未経験の状態でワイナリー創設を思い立ち、そこからたった2年でワイナリーの設立までこぎつけた。

その情熱の源は、生産者と消費者を繋げること。また、食料問題と環境問題についての意識を高めたいという思いだ。

今回は横浜港に臨む小さなワイナリー、横濱ワイナリーの大きな挑戦の物語を紹介したい。

『横濱ワイナリー創業のきっかけ』

町田さんがワイン醸造に関わることになったのは、前職で『食のものづくり』を体験する場を作るということになり、そのとき出会ったのがぶどうとワインだった、ということがきっかけだった。

町田さんは「ワインは好きだけれど、マニアというわけではなく、ワイン造りに関してはかなり『アウェイ』なんです」と語る。

横濱ワイナリーの創業は2016年。2021年でワイン醸造の4シーズン目を迎える。横濱ワイナリーは、横浜唯一の日本ワイン醸造メーカーだ。ワイナリー名の「濱」は旧字体。古くからの貿易港で、外国からワインが入ってくる港でもあった横浜の歴史を感じさせる。

町田さんが横浜でワイナリーを始めようと思ったきっかけは、「たまたま横浜に住んでいたから」だという。横濱ワイナリーの創設までにはさまざまな「たまたま」が、素敵な縁を引き寄せたようだ。

町田さんがワイナリーの立ち上げを決意したのは、横濱ワイナリー創業の2年前のことだった。複数のワイナリーにおもむき、学ばせてもらったと町田さんは語る。
そして、知識と経験が足りない部分については独学で学び、ワイン醸造技術を習得した、というから驚きだ。

そして2016年に醸造免許を取得。その1年後に、横濱ワイナリーは創業を開始した。創業を思い立ってからワイナリー開始まで、ひとりで漕ぎ着けた町田さんの行動力には脱帽するしかない。

▶横濱ワイナリーのオリジナリティ

横濱ワイナリーは、非常にオリジナリティのあるワイナリーだと言える。その理由の1つには「都会にある、消費者に近い参加型ワイナリー」であることがあげられる。消費者が単にものを消費するだけで終わりではなく、地元での「食のものづくり」に参加できる。
都会であるからこそ、横濱ワイナリーは、なお貴重な存在だ。

また、消費者の存在が近いということは、マーケティングのしやすさにもつながる。消費者の声を聞きながら、そのニーズに直接応えていくことができるワイナリーなのだ。

もう1つの理由は、サステナブルな取り組みをしていることだ。横濱ワイナリーではワイン造りをする上で、環境にできるだけ負荷がかからないように配慮している。
また、「食のものづくり」を通して、消費者ともに環境への意識を高めていく取り組みもしている。

横濱ワイナリーで作業に参加する人たちは学生から高齢の方まで年齢層もさまざまで、男女比も大体半々くらいだという。ワインが好きだからというよりは、なぜか不思議と「ワインは飲めないけど、面白そうだから」という理由で参加する方が多いのだそうだ。
そんな参加者が横濱ワイナリーのワインを試飲して「これなら飲める!」という感想を聞くのが町田さんの喜びだ。

『横濱ワイナリーのワインの特色』

横濱ワイナリーで取り扱っているぶどうの主力品種は、岩手県の山ぶどう、山形県のデラウェアと巨峰、山梨県の甲州、青森県のスチューベン。最近ではメルローとカベルネ・ソーヴィニヨンもラインナップに加わった。
その他にもりんごやいちごのフルーツワインとシードルの製造も行っている。

「自分で作っているわけではないので、いろいろな方との紹介やツテで、ご縁があったところのぶどうを使わせてもらっています」と町田さん。もちろん、原料の選択にはこだわっている。まず、生産者のところに必ず直接会いに行き、現地を見る。
栽培方法を説明してもらい、一緒に作業をさせてもらうそうだ。そして、ここなら信頼できる、と思う農家のぶどうを選んでいるという。

横濱ワイナリーと契約している農家は、現在4軒。幅広い世代の農家と繋がってワイン醸造を行っている。どの契約農家との関係も、極めてスムーズだ。「ぶどうとちゃんと向き合っているな、と思う生産者のぶどうを使っています。農薬などをできるだけ抑えようとしている、無農薬でやっている、というのも大切なポイントですね」

「食のものづくり」がテーマである、横濱ワイナリーのならではの原料選びへの取り組みだ。

▶横濱ワイナリーのワイン造りのこだわり 

横濱ワイナリーのワインは、フルーティで優しい口当たりが特徴だ。できるだけ酸化防止剤の使用をさけ、無濾過。さらに補糖をしないというこだわりのもとで作られている。

横濱ワイナリーのワインは飲みやすいため、初めて飲んだ人は「え?これほんとうにワイン?」という反応を見せるという。アルコールがつんとこないので、ワイン初心者にもおすすめだ。
これまでワインを飲んでこなかった人にもワインを飲んでもらい、ワイン愛好者の裾野を広げたい、というのが横濱ワイナリーの思いだ。

コンテストに出て賞を取り、海外のワインと張り合うようなワインを造ろうという狙いはない。それまでワインを飲んでこなかった人がワインに親しむ、そんなきっかけになるようなワインを造るというのが横濱ワイナリーのスタンスなのだ。

また、無濾過の横濱ワイナリーのワインには、ぶどうそのものの味を味わう楽しみがある。「濾過すると、水っぽく味がなくなってしまい、コクとか深みなどが取れてしまうように私は感じます。濾過しないと、これはぶどうからできたものなんだなって、良くわかるんですよね」

無濾過のワインにはぶどうの成分が沈殿物として残るというデメリットも確かにある。しかし、ぶどうの旨味やコクが入ったままのワインを、さらに味を変化させていく方が、町田さんは好きなのだそうだ。

衛生管理の難しい無濾過ワインは、ともすると雑菌が入って味が劣化してしまうことがある。無濾過でのワイン製造は、非常に微妙な部分にまで神経を使う、大変な作業なのだ。

横濱ワイナリーでは通常では困難とされる天然酵母でのワイン造りにも取り組む。既に、りんごのワインとシードル、そしていちごワインに関しては天然酵母で発酵させた商品を発売している。

▶これからはスクリューキャップの時代

横濱ワイナリーのワインでもうひとつ特筆すべき要素は、スクリューキャップだ。

自分自身コルクを開けるのが苦手だという町田さん。ワインを開けても、コルクが入るなどの失敗することもある。せっかくのワインがもったいない、と残念に思う経験が多かったという。
町田さんがここだけは絶対譲れなかった点が、スクリューキャップの導入だったのだ。

ワインのコルクを開ける作業は、ワインを飲み慣れていない人には特に高いハードルになってしまう。気軽に飲めるスクリューキャップで味を覚えてもらって、日本のワインファンを増やしたい、という考えもある。

「コルクをポン!と抜くのがワインだ、と言う意見もある。しかし、簡単に開けられるスクリューキャップにならない限り、日本でワインは普及しない」いう町田さんの考えには、女性ならではの合理性と鋭さを感じる。

コルクとスクリューキャップでは、保管の条件はほぼ変わりがない、というのが町田さんの考えだ。コルクから空気が抜けることがワインの保管にとって好条件なのだという意見もたしかにある。しかしその分雑菌も入るのでは?と町田さんは疑問を呈する。

「スクリューキャップであれば飲みかけのワインに簡単に蓋をして、冷蔵庫にしまい、また好きなときに飲むことができる。その手軽さが好き」と町田さんは語る。

コルクは木なので、森林伐採につながる。自然から作られたものを、たった1回の使用で捨ててしまうのはいかがなものか。そのような考えから、横濱ワイナリーのワインボトルはすべて、スクリューキャップを採用している。

町田さん曰く「アメリカ、チリ、ニュージーランドやアルゼンチンなどのニューワールドワインはほぼすべてスクリューキャップ」なのだそうだ。これからはスクリューキャップの時代なのかもしれない。

▶横濱ワイナリーのワインの楽しみ方と、おすすめのワイン

横濱ワイナリーのワインは単体で飲むのも良いが、家庭料理と合わせるのがおすすめだ。特に鍋やとんかつなど、私たちが普段食べる身近な和食が合う。

町田さんのおすすめの横濱ワイナリーのワインと料理のペアリングは、デラウェアとカレー、甲州と鍋。そしてスチューベンとハンバーグ、またはチョコレートケーキだそうだ。ぶどうの味わいと普段の食事との組み合わせを楽しめるのが横濱ワイナリーのワインなのだ。

また、町田さん一押しのワインはシャルドネだそう。今年初めて、酸化防止剤不使用で醸造した。濾過していないので、深めの味があり、コクのあるシャルドネに仕上がっている。横濱ワイナリーの顔となるワインだ。

▶小さなワイナリーだからこその苦労

天然酵母や無濾過でのワイン製造と、通常のワイン製造では難しいとされることにあえて挑戦している横濱ワイナリー。ワイン醸造での苦労は?と問うと、町田さんの口から真っ先に出てきた答えは、意外にも「スケジュール管理」であった。

ワイナリーとしては小さい容量のタンクでワインを造っている横濱ワイナリー 。限られたスペースに運ばれてきたぶどうを、期間内に発酵を終わらせなければならない。そんな状況でワイン醸造を行っているのだ。

発酵や圧搾、熟成などのすべての工程を一つの作業場で行わなければならない。そのため、いつぶどうが運ばれてくるか、そのタイミングを把握することは非常に重要だ。しかし、ぶどうの収穫時期はいつになり、いつ運ばれてくるかは直前まで把握できない。
何かが少しでも遅れると、全てのスケジュールがずれ、そのたびにタンクのやりくりでパニック状態になる。

「ハラハラ、ドキドキです。秋口は戦いですね」と町田さんは言う。スケジュール管理の問題は、スペースが限られた都市型ワイナリーには避けられないようだ。

『横濱ワイナリーのこれからの取り組み』

横濱ワイナリーでは去年から、りんごやいちごのフルーツワインやシードルだけでなく、ぶどうのワインにも天然酵母で発酵させる醸造を一部試み始めている。新たな挑戦について紹介しよう。

▶天然酵母でのワイン醸造

横濱ワイナリーでは、フルーツワインを乾燥酵母と天然酵母で醸造し、仕上がりを比較している。「比較してみると天然酵母の方がおいしい、全然違う」と町田さんは断言する。

普通の乾燥酵母のワインはキリッとしている。一方で、天然酵母の方は柔らかく優しい。香りや味も、甘さが残っている感じがするそうだ。天然酵母のワインはお客さんにも好評なのだという。

天然酵母の方が乾燥酵母に比べ発酵のスピードが遅かったり、ムラがあったりするというデメリットはある。しかし、最終的に行き着くところにはやはり「おいしい」という結果が待っているのだ。ワイン醸造において天然酵母を使うのはかなり難しいとされている。
しかし、そこでもまた町田さんはチャレンジ精神を発揮する。

「教科書通りにやるならば乾燥酵母を使うというのが普通だと思う。でも、天然の物と人工のものと、やっぱり違うんですよね。将来的には天然酵母に切り替えていくことが私の目標ですね」と町田さんは力強く語る。

▶ぶどう栽培への挑戦

横濱ワイナリーでは、2020年から地元横浜でのぶどう栽培を始め、改めてぶどう作りの大変さを身をもって実感しているところだ。もともと耕作放棄地だった、都会としては広めの40アールの土地に、ピノ・ノワールとシャルドネを植えた。現在は余裕を持って植樹しており、圃場には4〜500本程度植えられる広さがある。

ぶどうが実るまでには数年かかるため、ワイン原料にするまでにはまだ時間を要する。ただ、横濱ワイナリーがぶどう栽培に着手したそもそもの大きな目的は、「食のものづくり」を、原材料であるぶどう作りからはじめよう、というところにあるのだ。

横濱ワイナリーでは、醸造も畑仕事も、ぶどうの苗のオーナーやFacebookや地元の広報誌で募った参加者による参加型で行っている。

「今まではぶどうが届いて、ワインができるまでを見てきました。これからはぶどうを育てるところからやってみようということになったんです」と町田さん。

▶ぶどう栽培の苦労

横浜でのぶどう栽培は、決して簡単なものではなさそうだ。

ピノ・ノワールとシャルドネという、王道のブルゴーニュ品種を栽培しているため、高温多湿の横浜の土地で果たして育つかどうかには確証がない。しかし、横浜でも巨峰とピオーネを掛け合わせた食用品種「フジミノリ」は横浜で「ハマブドウ」というブランドで栽培されている。
横浜でぶどうが全くできない、というわけではないのだ。

「ぶどうは強い植物なので、できないわけではない。どう美味しくできるのか、というのはやってみないとわからないですね。去年幸いにも横浜の方には大きな台風がこなかったので大丈夫だったけれど、大きいのが来たら大変ですね。
この辺りは高温多湿なので病気の心配もあります。そして日々、雑草との戦いです」と町田さんは言う。

横濱ワイナリーのぶどう栽培法は現在、垣根栽培で行われている。垣根栽培を選択する理由は、棚栽培だと景観に影響があることと、より多くの設備が必要になることだ。ただ、まだまだぶどうの苗が小さいため、これから仕立て方を検討していく、という段階だ。

横濱ワイナリーの圃場は、富士山の噴火で流れてきた、豊かで黒く肥沃な黒ボク土だ。表面は乾くが、下の方に保湿性があるため、水やりはほぼ不要。しかし通常、ぶどう栽培には向かないと考えられる土地だ。
土壌分析にかけた結果ではそんなに肥沃すぎるわけでなく、耕作放棄地であるために肥料も抜けている。ぶどう栽培にはまずまず、ということだ。

必ずしも栽培適地ではない土地でのぶどう作りは、ハードルが高い。しかし、横浜の土地で素材作りからワイン醸造を経験するためには、必ず超えなければならない問題なのだ。

▶土地に合わせたぶどう栽培

また、できるだけ農薬を使いたくないと町田さんは言う。どうすれば薬を使わずにぶどうを育てられるかが、これからの課題だそうだ。最終的に口に入るものだから、できるだけ農薬は使わない、というのが横濱ワイナリーの今のスタンスだ。

現在栽培しているピノ・ノワールは、実は町田さんが一番好きな品種なのだという。「ピノ・ノワールがすごく難しいとは知りながら、あんな味のワインができたらいいな、と思うのは欲ですね」と町田さんは笑う。
しかし、あえて難しいことに挑戦する町田さんは魅力的だ。

ピノ・ノワールとシャルドネが「早生」にあたる品種であるのも、町田さんがこの2種を選んだもうひとつの理由だ。関東近辺では9月頭には収穫が可能なため、台風の被害から収穫時期をずらすことができる。また、醸造シーズンである9月以降の繁忙期と重ならないように収穫を終えられるのだ。

ちょうど自分のやりたいものと、収穫時期とが合ったのだと町田さんは言う。ここでも「たまたまが繋がった」ということなのだろう。環境と向き合う、ということはこのような「たまたま」にうまく身を任せていくことなのかもしれない。

横濱ワイナリーでは今のところぶどうの栽培品種を増やす計画はない。しかし、神奈川でぶどうの栽培をしている他の2つの農家からの情報を得ながら、試行錯誤しつつ今後の品種展開を考察していく予定だ。

▶サステナブルなワイン造り

横濱ワイナリーはこれからもできるだけサステナブルなワイン造りを続けていく。

ワインの味へのこだわりもさることながら、ワイン造りは決して環境に負荷のかかるものであってはならない。環境問題への意識をなによりも重視するというのが横濱ワイナリーのポリシーだ。

横濱ワイナリーでは、ワインボトルのリユースにも取り組もうとしている。「プラスチックに関しては海洋汚染などで今かなり問題意識が高まっています。しかしプラスチックの背後には、ガラス瓶のゴミ問題も隠れているんです」と町田さん。

たった一度の使用で役目を終え、廃材になってしまうガラス瓶の製造・廃棄は環境への負荷が大きい。だが、リターナブルボトルの使用は、ワイナリー業界では今のところ全く進んでいないというのが現状だ。

「一緒にこの問題に取り組んでくれるワイナリーさんがいたら、ぜひ手を組みたい。美味しいものを飲むためには、環境問題もふまえて考えていかなければ」と町田さんは語る。

『まとめ』

都会の小さな醸造所で、地球規模の環境問題と向き合いながらワイン造りに励んでいる横濱ワイナリー。

「食のものづくり」を通し、生産者と消費者、そして環境を地道に繋いでいく。横濱ワイナリーの取り組みは、ワインファンのみならず、多くの人々の胸を打つことだろう。

基本情報

名称横濱ワイナリー
所在地〒231-0801 
神奈川県横浜市中区新山下1-3-12
アクセスみなとみらい線 元町・中華街駅 下車 元町口出口より徒歩3分
HPhttps://yokohamawinery.com/

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