世界と戦える高品質なワインを造る、奥野田ワイナリーの情熱

山梨県甲州市にある奥野田ワイナリーは、創業者の中村雅量さんをはじめ、5名のスタッフで運営する小さなワイナリーだ。
ワインに相応しいぶどうの栽培から、ワイン醸造までを丁寧に行い、世界の名立たるワインに引けを取らない、高品質なワイン造りに情熱を注いでいる。

『創業1962年の奥野田ワイナリー』

奥野田ワイナリーの創業は1962年。
当時、大学を卒業して老舗ワイナリーであるグレイスワイナリーに勤めていた中村さんが、単身で飛び出して始めたワイナリーだ。

「ワインの製造現場でワイン造りを学んだり、テイスティング力をつけていくうちに、ワインは食べるためのぶどうで造るものではないことを知りました。
ワイン醸造は、美味しいワインを造るために栽培されたぶどうですべきだと強く思い、ぶどうのポテンシャルを知りたいと夢を描いて、一人でワイン造りに挑みました」と中村さんは語る。

山梨県では、在来種、甲州種、マスカット・ベリーA種、デラウエアなどを中心に、主に食べるために栽培されたぶどうでワイン醸造を行っていた。
しかし、ワインを造るための質の高いぶどう栽培なくして、世界の名立たるワインと戦える美味しいワインを造ることはできないと、中村さんは考えたのだ。

『ワイン造りは質の高いぶどうから』

奥野田ワイナリーの理念である「ワイン造りは質の高いぶどうから」を目指すと同時に、「ぶどうの産地である甲府盆地で栽培したぶどうでワイン醸造をしたときに、世界で通用するかどうかを知りたい」という探求心が中村さんを突き動かす。

「世界のワイン産地で栽培されているぶどうを、甲府盆地で栽培する。
そのぶどうで出来上がったワインを同じ土俵にのせてテイスティングしないと、甲府盆地が優れたぶどうの産地かどうか、また甲府盆地でできるワインの特徴もわかりません。
だからこそ、世界のワインと比較できるよう、最もメジャーな品種であるカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シャルドネなどを中心に、ぶどうの栽培を始めました。」

世界で認められるワインと並び立つために、奥野田ワイナリーはワイン用ぶどうとしてメジャーな品種を栽培し、ワイン醸造を行っているのである。

『品種で、棚栽培と垣根栽培を使いわける』

奥野田ワイナリーでは、ぶどうの持つ最大限のポテンシャルを発揮できるよう、垣根栽培や棚栽培など、各品種にふさわしい環境下で栽培を行っている。

「例えば、在来種や甲州種、マスカット・ベーリーA種、デラウエアなどは、長い栽培の歴史の中、棚で栽培するのにふさわしい樹勢ものが系統選抜され、種苗されて市場に出回っています。
棚で栽培するために選抜されてきたのに、狭い垣根に押し込んでは樹勢のバランスが合いませんよね。逆に、カベルネ・ソーヴィニョンやメルロー、シャルドネは、ヨーロッパで時間をかけて垣根に植え付けるように系統選抜されてきたものを、日本に持ってきて種苗して植え付けています。
与えられたぶどうのポテンシャルを発揮するためには、在来種などは棚栽培が良く、近年日本に持ち込まれた品種は垣根栽培がふさわしいのです。」

奥野田ワイナリーでは、中村さんの言葉通り、ヨーロッパから来たカベルネ・ソーヴィニョンやメルロー、シャルドネを垣根栽培。
在来種であるデラウエアは棚栽培をしている。

『傾斜がきつく、日当たりと水はけが良い』

奥野田ワイナリーがぶどうを栽培するのは、山の傾斜がきつく、日当たりと水はけが良い農地ばかり。
一人でワイン造りを始めた中村さんが借りられたのは、食用のぶどう栽培に不向きではあるが、偶然にもワイン醸造用のぶどう栽培に適した土地であった。

「傾斜がきつくて日当たりと水はけが良いけれど、耕作条件が悪いため収穫量はわずか。ただ、収穫できるぶどうの品質はとても良く、美味しいワインができる」と中村さん。
その土壌は、傾斜がきついために表面を覆っていた関東ローム層が雨で流されて残った薄い表土と、花崗岩の仲間の御影石が主だ。

中村さんは土壌の違いによるワインの味の変化にも興味津々で、
「例えば、川べりの砂地と山地の赤土で栽培・収穫した甲州種のワインは味が異なります。組み合わせにより出来上がりが変わるのも、ワインの面白さ」と目を輝かせて語る

『肥料を加えず、耕さない栽培方法』

奥野田ワイナリーのぶどう栽培における大きな特徴は、「無肥料不耕起」であることだ。土壌に肥料を加えず、全く耕さないのには、もちろん理由がある。
まず、耕うんしないことで、マメ科の植物を守り、土壌に良い微生物を繁殖させる。そして、土壌に肥料を加えないことで、葉が養分過多になるのを防ぐのだ。

耕さず、土を育む微生物を繁殖させる

マメ科の植物(クローバーなど)は、背が低く、小さいが幅の広いやわらかな葉を持っている。
さらに、大気中の窒素を捉えて窒素養分を根に溜める習性があり、窒素養分を溜めたまま枯れて空洞をつくる。

枯れた植物の空洞には空気が含まれており、土の中には耕したかのように空気が入り込むのだ。
その結果、窒素養分をエネルギーに、植物を健全に栽培するための好気性(空気を好み、窒素養分をエネルギーにする)の微生物が繁殖する。

好気性の微生物が繁殖すると、窒素養分がたくさんの微生物の菌体の内側に固定され、雨が降っても流れず、その微生物とともに土壌に窒素養分が留まるのである。
保肥力を持つ微生物の繁殖が、ぶどう栽培を支える良質な土を育てていくのだ。

無肥料で虫害と病を防ぎ、光合成効率アップ

土壌に肥料を与えないこともまた、奥野田ワイナリーで栽培するぶどうに大きなメリットをもたらしている。
無肥料は結果として、光合成効率を上げ、虫害と病気を防ぐ。そのロジックは、高性能の肥料が雨などの水に溶けやすいことに起因する。

晴れた日、ぶどう農園では日差しがぶどうの葉を激しく照らしている。
日光で熱せられた葉は、熱を下げようと、地面から水分を吸い上げて葉で蒸発させる。このとき、もしも前日に雨が降っていたらどうだろう。
肥料が溶け込んだ水分を吸い上げた結果、葉に養分が濃縮されてしまい、メタボ状態になってしまうという。

養分過多になった葉は、光合成効率が悪いうえ、昆虫に狙われやすくなる。
さらに、養分を求めてカビが繁殖するなど、病気になりやすくなってしまう。 反対に、少しお腹が空いてはいるが、十分な養分を持つ葉は、光合成効率が良い。加えて昆虫に狙われにくくなり、カビも繁殖しにくくなるそうだ。
すると、ぶどうが早く熟し、殺虫剤も殺菌剤も使用しなくてよくなる。さらに、化学薬剤の使用量が減ると、土壌の微生物が増え、保肥力が出て、養分が雨で流れず、土が育つという好循環がもたらされる。
このように、奥野田ワイナリーは殺虫剤や殺菌剤がいらないロジックを、畑の中で展開しているのだ。

『無肥料不耕起で育つぶどうは、醸造にも有利』

好気性の微生物が多く繁殖する土壌で育ったぶどうは、ワイン醸造にも都合が良い。ワインを醸造する際に、過度なSO2(酸化防止剤である亜硫酸ガス)を使用しなくとも、健全な発酵ができるのだ。
あるいは、優秀な発酵酵母を積極的に添加しなくとも、また添加が遅れたとしても、野生酵母によって健全な発酵が進められる。

「奥野田ワイナリーにとっては、ぶどう栽培とワイン醸造は一体です。
契約農家のぶどうであっても、僕らのやり方を理解し、実践してもらって、全体の品質を僕らが考える理想まで高めています。
僕らは5人で畑を守りながら、年間約4万本のワインを造っている。
家族経営でぶどう畑を守りながら、美味しいワインを、顔の見えるみなさんに届けていくというスタイルを、これからも続けていきます。」

美味しいワインを造りたい、それにふさわしい環境やロジックはどのようなものなのか、思い描きながら仕事をストーリーとして構築していく中村さん。

もちろん最初からこれを構築できたわけではなく、数十年という長い時間の中、試行錯誤を繰り返すことで、このストーリー構築がされたのだ。

『自然農法ではなく、ワインの美味しさにこだわる』

「奥野田ワイナリーが無肥料不耕起を採用するのは、美味しいワインを造るためであって、自然農法にこだわっているからではない」と中村さんは断言する。

「見る角度によっては自然農法かもしれないけれど、自然農法にこだわるわけではありません。例えば、僕らのワインを待っている人がいるのだから、今年はワインが1本もできませんでしたでは無責任。
不都合な天候変化が起こり、化学薬剤を使った方がよければためらわずに使います。ただ、農薬を好きな人はいないし、自分で農薬をかぶるのが嫌というのは大きいですね。」
微生物と対話しながら土を育み、ぶどう栽培とワイン醸造が一つのストーリーでつながる、そんなワインを目指していると話す。

また、奥野田ワイナリーの理想とするワインは、
「何かを美味しく食べるための道具」
「天ぷらを塩で食べるときには、ハナミズキブランドがいいよねとか、山梨は馬刺しが美味しいんだけど、馬刺しならスミレ・ルージュで合わせてくださいとか。そういうことを妄想しながら、ワインを造っています。」

『エチケットも、奥野田ワイナリー産』

ヴィーナスシリーズ以外のエチケット(ワインのラベル)はすべて、中村さんの妻である亜貴子さんがデザインしている。
メインワインのシリーズのエチケットで蝶々をモチーフとして使っているのは、戦国の時代から縁起虫や勝ち虫といわれているため。
特に女性が身に着けたり、着衣にあしらうと縁起がいいと語り継がれているからだという。みんなにも良いことがあるようにという願いを込めて、蝶々をデザインしているのだ。 

そのほか、ワインの香りが白い花のイメージだというハナミズキ・ブラン、バラの香りがするローズ・ロゼ、スミレの香りのスミレ・ルージュは、花のデザインをあしらっている。

「スミレ・ルージュに関しては、妻がスミレを描く練習を始めたら上手に描けてしまい、スミレの香りのする赤ワインをつくってほしいとオファーがありました。エチケットが先だったんですね。
スミレのイメージなら、ブルゴーニュボトルで、やわらかい味のメルロー100%のワインをつくってみようと生まれたのです。」

小さなワイナリーだからこそ、5人でできることは全部やる、
みんなで何でもできるのが強みだと中村さんは笑顔を浮かべる。

『1年間ぶどうの木を所有するクラブ活動』

奥野田ワイナリーでは、900株のカベルネ・ソーヴィニヨンを栽培する自社の圃場「HIYAKE VINEYARD」で、奥野田ヴィンヤードクラブの活動を行っている。
このクラブ活動は、ぶどうの木を1年間所有し、ぶどうの生育ステージに合わせて座学でぶどう栽培の知識を深め、畑での作業を行うというプログラムだ。
驚くことに、中村さんは試行錯誤しながら培ってきたぶどう栽培からワイン醸造のノウハウを惜しげもなく伝えている。
価値あるノウハウをオープンにする背景には、どのような想いがあるのだろうか。

「僕たちのワイン造りへの情熱に共感してワインを買ってくれたお客様が、ワイン会に自慢のワインとして持って行ったときに、“日本は雨が多いから、そもそも美味しいワインはできない”という先入観で否定されるという、悲しい経験を何度もさせてしまいました。
僕らを応援してくれるお客様に、誰にも負けない美味しいワインが出来上がる仕組みを知ってもらい、ぶどう栽培やワイン醸造について一番近くで触れて学んできた存在としてワインについて正しく語ってほしい。
これが活動をはじめるきっかけです」と中村さん。

十分な雨量があって、湿度があり、日差しが強いので地温が十分にある。
隆起した年代が若く養分が豊富な土壌で微生物が繁殖することで、保肥力が発生し、その保肥力がぶどうにストレスを与えて、熟度が高まっていく。

「雨が多いから美味しいワインができないというロジックはない」と理解してもらいたいという。

「小さなワイナリーが経営するクラブ活動ですが、毎年220~230名ほどが活動に参加してくれていて、女性比率は7割を超えています。
女性のコマーシャル力は素晴らしく、週明けに昨日山梨に行ってきて、すごく楽しかったのよと宣伝してくれるのも、大きなパワーになっています。
僕たちも集まってくれたみなさんから学ぶことが多く、収穫の時期は大勢で収穫することが楽しく、今後も大切に続けていきたいですね。」

クラブ活動で仲良くなった女性同士が東京都内で一緒に食事を楽しむなど、参加者同士の交流も広がっているようだ。

『魚料理に合う、オレンジワインを造りたい』

近年、オレンジワインという新たなキーワードが注目されており、オレンジワインは今中村さんが力を入れたいと考えているワインの一つだ。
これは、白ワイン用のぶどうを使い、赤ワインの製法を用いて造るワインのことで、新たなワイン醸造ではなく、ワインの先祖返りととらえるとわかりやすいという。

「搾汁機の性能が進化して搾汁時間が短縮されたことで、ワインはフレッシュでフルーティーな路線をここ何十年も歩んできました。
白ワインの辛口が、魚料理の生臭さをマスキングできなくなってきたと感じており、食べることを大切にする奥野田ワイナリーにとっては由々しき自体だったんです。だからこそ、ぶどうの果皮の影響を強く受けたオレンジがかった色調の辛口ワインを造りたい。
性能の悪かった時代の搾汁機で造ったようなワインを、性能の良い近代的な搾汁機で造りあげることで、雑味のない輪郭のくっきりした、魚料理の生臭さがマスキングできるオレンジワインを醸造したいと考えています。」

『新たな技術に挑戦しながら、美味しいワインを造る』

地球温暖化が叫ばれる中、多くのワイン好きはぶどうの産地が北へと移動するのではないかと危惧している。
しかしながら、ブルゴーニュやシャンパーニュなどを訪ねた中村さんは、
「そんなことはないというのが最近わかってきた」と自信満々に語る。

「例えば、ドイツは伝統的に甘いワインを造ってきたのですが、世界市場で甘いワインの需要が減り、需要の高まった赤ワインを醸造することになったんです。ドイツは赤ワイン用の異なる品種のぶどうを栽培するために産地を動かすのではなく、栽培品種を変えることで対応しました。
つまり、ぶどうの栽培もワイン醸造もまだまだ進化する余地があるということ。産地は北に移動しません。」
また、ぶどうの栽培技術は地域に根付いており、そこに住む人たちが持つもので、それこそがぶどうの産地の強みだとも話す。

奥野田ワイナリーは現在、地球環境の変化に対応するために新たなワイン工場を建設中だ。

「これまで冬の作業として伝統的に行ってきた、剪定と瓶詰のタイミングをひっくり返す。先に瓶詰をしてから剪定するように作業を入れ替えることで、温暖化に対処したワイン醸造が可能になります。新たな技術にも挑戦しながら、美味しいワイン造りを続けていきたい」と中村さんは誓う。

『まとめ』

世界で名の知れたワインにも負けない、高品質で美味しいワインを造ることに情熱を注ぐ、奥野田ワイナリーの中村雅量さん。
無肥料不耕起で、土壌の微生物を最大限に活用しながらぶどうを栽培し、そのぶどうで唯一無二のワインを醸造する。

年間約4万本と限られた本数しか世に出ないながらも、奥野田ワイナリーのファンは数知れず。
美味しいワインを生み出すために試行錯誤を繰り返し、新しい技術にも果敢に挑戦する姿に多くの人が魅了されている。
奥野田ワイナリーから今後どのような魅力的なワインが誕生するのか、期待を込めて待ちたい。

基本情報

名称奥野田ワイナリー
所在地〒404-0034
山梨県甲州市塩山牛奥2529-3
アクセス・電車でお越しの場合
中央本線『塩山駅』よりタクシーで5分/徒歩20分
・お車でお越しの場合
中央自動車道『勝沼IC』より15分
HPhttp://web.okunota.com/

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