紀伊半島の西部に位置する、和歌山県有田郡湯浅町。果物などの栽培が盛んで「醤油発祥の地」としても有名な湯浅町に、2019年に開業したのが「和歌山湯浅ワイナリー」だ。
地元と日本各地で栽培された高品質なぶどうを使ってワインを造ってきた和歌山湯浅ワイナリーは、2014年から自社畑でのぶどう栽培をスタート。かつて柑橘類が栽培されていた耕作放棄地を活用し、地域活性化にも貢献している。また、2024年には自社畑を拡大し、新たな品種の栽培にも着手。今後、さらなるラインナップの拡大を目指している。
発酵文化の歴史が息づく土地柄を生かし、「醤油料理に合うワイン」という独自の視点を持ってワイン造りに取り組む和歌山湯浅ワイナリーは、地元産のフルーツを使ったワインや、海中で熟成させたワインなどの開発にも積極的だ。
今回は、和歌山湯浅ワイナリーのこれまでの歩みと今後の展望について、運営会社である「株式会社TOA」代表取締役会長兼ワイナリー事業本部本部長の橋本拓也さんと、醸造栽培部長の西馬功(にしうま いさお)さんにお話を伺った。和歌山湯浅ワイナリーの魅力を余すところなく紹介していこう。
『湯浅町の魅力を発信するワイナリーとして』
まずは、和歌山湯浅ワイナリー誕生までの経緯を振り返ろう。和歌山湯浅ワイナリーの経営母体である「株式会社TOA」は石油関連の事業を展開してきた企業だ。
刻々と変化する社会情勢を受けて、石油関連以外の事業にも拡大することにした際に、湯浅町が持つ「発酵」の歴史に注目。湯浅町と連携して町に新たな「発酵文化」を産み出すことで、地域活性化にも貢献したいと考えたのだ。
また、ワイナリー事業の実現には、代表取締役会の橋本さんが昔から漠然と感じてきた、あるジレンマも関係していた。
「私自身が生まれ育った和歌山は、魅力にあふれた土地です。しかし、県外では和歌山の素晴らしさがあまり知られていないのです。そのため、いつか和歌山の魅力を広く発信したいと思い続けてきました。美味しいものが多く、特に果物は格別です。ワイナリーを設立して和歌山の果物でワインを造ることで、遠方の人たちにも和歌山の美味しさを届けられるのではないかと考えました」。
▶︎和歌山湯浅ワイナリーの自社畑
続いて、醸造栽培部長の西馬さんから、和歌山湯浅ワイナリーの自社畑についてお話いただいた。
和歌山湯浅ワイナリーの自社畑は数か所に点在しており、標高20~30mの区画と、450~460mの区画がある。いずれの畑も土壌は粘土質で垣根栽培を採用している。
自社畑での栽培をスタートさせた2014年には、まずメルローやシャルドネなどの欧州系品種を植栽。だが、温暖で雨も多い和歌山でのぶどう栽培は、決して簡単なことではなかった。
そこで、2024年には新品種の植栽を新たにおこなって、自社畑での栽培に改めて取り組み始めた。今回選んだのは、ヤマブドウと欧州系品種の交配品種だ。和歌山の気候に合うと考えられている新品種で、将来的には20tほどの収量を目指して畑の拡大を進めていく。
和歌山は山と海とがせめぎ合うような土地が多く、平野部が非常に少ないのが特徴だ。和歌山湯浅ワイナリーの自社畑も丘陵地にあり、かつてはミカンなどが栽培されていた段々畑を利用している。
ワイン用ぶどうを栽培する土壌には水はけのよさが必要だが、和歌山湯浅ワイナリーの自社畑は粘土質。一般的には水はけがよい土壌ではない。だが、段々畑として造成された土地のため、水は自然と下段に流れていく。降水量が多い和歌山でのぶどう栽培には最適な立地だといえそうだ。
降水量が多い土地でぶどうを栽培する場合には、雨の影響による病害虫の発生が懸念点となる。そこで、和歌山湯浅ワイナリーでは最新のグレープガードを採用。設置が容易なタイプのため手間がかからず、大きな効果を実感しているという。
「和歌山県は南北に長い地形で、南部は特に雨が多い気候です。自社畑は県北部にあるので、比較的恵まれています。海が近いため風が強く台風の影響も受けますが、日照量は十分に確保できるため、健全なぶどうの収穫が期待できます」。
和歌山県は果物の栽培が盛んな地域のため、これまで実績がなかったワイン用ぶどうの栽培にチャレンジすることにも抵抗はなかったそうだ。うまくいくことを期待していると話してくれた、代表取締役会長の橋本さん。新たに植栽した苗が育つと共に、和歌山湯浅ワイナリーの栽培技術も向上していくことだろう。
▶︎和歌山でのぶどう栽培
和歌山湯浅ワイナリーのぶどう栽培では、酸度と糖度のバランスがよい状態を目指している。畑で徹底した選果をして、健全果をベストな状態で収穫することを重視しているそうだ。
品種ごとに最適な時期は異なるが、全体的に収穫時期は早めだ。特に、メルローやシャルドネは、8月後半から9月前半に収穫を迎える。
「酸が落ち始める前に収穫する必要があるため、まだ暑い時期に収穫しなければなりません。そこで、栽培担当以外の社員も総出で夜明けと同時に収穫を開始し、午前8時頃には収穫を終えるのです」。
朝一で収穫をおこなう「モーニング・ハーベスト」には、暑さによる体力的な負担を減らす以外にも、ぶどうが夜の間に蓄えた香り成分を逃さず収穫できるというメリットがある。
また、気温が上がり切る前に収穫することで、ぶどうの房の温度が低い状態をキープできる点も、その後の醸造工程によい効果をもたらすという。
『和歌山湯浅ワイナリーのワイン醸造』
和歌山湯浅ワイナリーで醸造栽培部長を務める西馬さんは、以前は兵庫県のワイナリーに勤務していた経歴を持つ。兵庫での経験も、和歌山でのぶどう栽培とワイン醸造に役立っているそうだ。
「同じ西日本とはいえ、地域によって気候が異なります。そのため、産地による特徴を比較すると興味深いですね。どんな気候でぶどう栽培とワイン醸造をするにしても、大切なのは厳選された高品質なぶどうを使うことです。ぶどうの品質によってワインの出来が変わるので、よいぶどうを使えば、暖かい地域でも素晴らしいワインが造れますよ」。
和歌山湯浅ワイナリーのワイン醸造について深掘りしていこう。
▶︎ワイン醸造におけるこだわり
和歌山市から南へ約30km。ミカンの木々が連なる小山に見えてくる、白と黒を基調とした外観の醸造所が和歌山湯浅ワイナリーだ。果実味豊かで味わいのバランスが取れたワインを造るため、和歌山湯浅ワイナリーのこだわりは収穫した段階から始まっている。
「厳選した最高品質のぶどうを慎重に選別します。そして、ぶどうの特性や畑の土壌、気候条件に合わせて適切な発酵方法を選択して醸造をおこなっています」。
たとえよいぶどうが手に入っても、ぶどうのポテンシャルをしっかりと発揮させることが出来なければ、美味しいワインにはならない。そのため、ぶどうの性質を見極めて個別に最適な対応をしなければならない。
ワイン醸造をする上で注意すべきことはいくつもあるが、仕込み段階から温度管理をしっかりとおこなうことも重要なポイントのひとつだ。和歌山湯浅ワイナリーでは、仕込む際のぶどうの温度が十分に低いことにもこだわっている。収穫してすぐに仕込めば鮮度が高くてよいワインができると思うかもしれないが、ぶどうの温度が高い状態で仕込むと、品質に悪影響が出てしまうという。
高い外気温にさらされた果実は、手で触れると熱く感じることもあるほどだ。高温の房をそのまま搾汁することは出来ないため、気温が高い時間帯に収穫した房は、一晩冷蔵庫で寝かせてから搾汁をおこなう。これによって、より果実味豊かで品種ごとの個性が際立つ味わいに仕上がるのだ。
和歌山湯浅ワイナリーが導入している「モーニング・ハーベスト」は、ぶどうの温度を低くキープできる点において、醸造工程にスムーズに入るために一定の効果を発揮していることがわかる。
▶︎目指すのは、和歌山ならではのワイン
和歌山湯浅ワイナリーでは、独自の風味と特徴を持つワインを理想としている。土地の個性や気候条件を反映した味わいを造り、飲み手に和歌山のテロワールの素晴らしさを伝えることが目標だ。
自社栽培のぶどうでワインを造る一方で、山梨などからの買いぶどうも利用してワインを造っている和歌山湯浅ワイナリー。高品質な原料ぶどうを確保することの難しさを実感しているが、これまで長い時間をかけて築いてきた人たちとの繋がりのおかげで、素晴らしいぶどうを購入することができている。
和歌山で育った自社栽培のぶどうと、山梨などからの買いぶどうでは、醸造方法を変える必要があると話してくれた西馬さん。ぶどうの個性に合わせて、それぞれのよさを最大限に活かすワイン造りをおこなうために心がけているのは、徹底した温度管理とpH管理だ。また、熟成にステンレスタンクを用いるか樽を使うかという選択や熟成期間の見極めにもこだわっている。
「最終的におこなうブレンドも、仕上がりを左右するので大事ですね。和歌山湯浅ワイナリーのワインは、同じアイテムでもヴィンテージによって特徴のある味わいなのが特徴です。ヴィンテージ違いで飲み比べていただくのもおすすめですよ」。
▶︎素晴らしいワインを届けるために
ワインの醸造工程で西馬さんが気をつけているのは、さまざまなケースに柔軟に対応することだ。天候の影響などにより、ぶどうの品質は常に変化する。そのため、画一的な対応ではぶどうの魅力を生かしきれなくなってしまう。醸造はもちろん、栽培の段階から各工程のタイミングをしっかりと見極めることを心がけているという。
「これまでの経験から、実際にぶどうを見ればどのように仕込めば最適なのかはすぐにわかります。また、より慎重になる必要がある場合には、測定したさまざまな数値も参考にしながら醸造に取り組んでいます」。
和歌山湯浅ワイナリーでは、新たな醸造技術や機器の導入も積極的に推進し、ワインの品質向上と作業の効率化を図る努力も継続している。さらに、マーケティングや販売戦略の改善にも注力し、飲み手のニーズに合わせてよりよいワインを提供できるように努めているのだ。
『和歌山湯浅ワイナリーのおすすめ銘柄』
和歌山湯浅ワイナリーのラインナップは、大きく3つに分けられる。自社栽培のぶどうを原料としたシリーズと、買いぶどうを原料としたシリーズ、そして和歌山のフルーツを使ったリキュールのシリーズだ。
「どのシリーズのワインも、幅広い年齢層の方々にご満足いただけると自負していますので、ワインを楽しみたい全てのお客さまを歓迎します。中でも、ワイン愛好家や美食家、高品質なワインを求める方に、和歌山湯浅ワイナリーのワインを届けたいと思っています」。
和歌山湯浅ワイナリーが想定しているのは、特別な日や特別な食事の際に楽しんでもらうこと。また、リラックスした時間や友人との会話を楽しむ際のお供としても最適だ。ワインを通じて人々が心地よい瞬間を共有し、思い出に残る体験を作り出すことを願う和歌山湯浅ワイナリーの、造り手の思いを感じながら味わいたい。
そんな和歌山湯浅ワイナリーがリリースしているラインナップの中から、おすすめを紹介していこう。
▶︎和歌山らしさを表現した「和」シリーズ
まずは、和歌山湯浅ワイナリーいち押しの「和シリーズ」から見ていこう。「和シリーズ」に使用しているのは、自社栽培のメルローだ。ステンレスタンク熟成と樽熟成、ロゼのラインナップとなっている。
「和歌山のぶどうを使って和歌山らしさを表現しています。和歌山のメルローは柔らかく繊細な味わいが特徴です。タンニンが少なめで優しさを感じるワインに仕上がっているため、和食にも合わせやすいですね。すき焼きなど醤油を使ったメニューや、ジビエとのペアリングがおすすめですよ」。
2024年に新しく植栽した品種も、数年後に収穫した際には「和シリーズ」としてリリースする予定。今後さらに多彩な「和歌山らしさ」が表現されたワインが登場するのを楽しみにしたい。
▶︎醤油料理に合うワイン
和歌山湯浅ワイナリーには、醤油発祥の地でワインを醸すワイナリーならではの「醤油料理に合うワイン」というラインナップがある。
「TOA200 北杜の雫」は、カベルネ・ソーヴィニヨンとヤマブドウ系の「行者の水」の交配によって生まれた「北杜の雫」という品種を使用。一般的に、暖かい地域で育ったぶどうは色付きが薄い傾向があるが、ヤマブドウ系の「北杜の雫」は濃い色付きが特徴で、果実味豊かだ。
「カベルネ・ソーヴィニヨンのようなボルドー系の香りがありつつ、口当たりが柔らかく飲みやすい味わいに仕上げました。伝統ある湯浅町の醤油を使った料理によく合います」。
ヤマブドウ由来の強い酸味は、収穫時期の調整や熟成期間を長く取ることで穏やかになっている。ヤマブドウ系品種に初めて挑戦する人にも、ぜひ試していただきたい1本だ。
▶︎コンクール受賞ワイン
和歌山湯浅ワイナリーの設立は、2019年のこと。ちょうど設立直後に発生した新型コロナウイルスの影響で、市場は麻痺しイベントの開催なども難しい時期が続いた。そのため、2023年頃からになって、ようやく試飲会への参加やワインコンクールへの出品をスタートできたところだ。そんな中でも、コンクールでの快挙を成し遂げたワインもすでにあり、手応えを感じているという。
「TOA200 海 白ワイン 甲州」と「TOA200 空(木樽仕込み) 赤ワイン」は、「サクラアワード 2024」において金賞を受賞。いずれも、厳選した高品質なぶどうを使った自信作だ。「TOA200 空(木樽仕込み) 赤ワイン」は、「北杜の雫」と「マルスラン」を使用しており、マイルドな味わいで和食との相性がよい。
また「甲州 スパークリング」の2022年ヴィンテージは、「日本ワインコンクール 2023」で銀賞を受賞。甲州種にしては珍しく、垣根仕立てで栽培されたウィルスフリーのぶどうを使った、こだわりのスパークリングワインだ。ウィルスフリーの甲州は種に苦味が少なく糖度も高いという特徴がある。
2022年ヴィンテージはすでに完売しているが、2023年ヴィンテージは現在販売中なので、チェックしてみてはいかがだろうか。
『まとめ』
最後に、和歌山湯浅ワイナリーの強みと魅力について尋ねてみた。
「日本各地の産地で育った選りすぐりのぶどうを使い、独自の風味と特徴を持つワインを造ることができる点が強みですね。また、和歌山ならではの豊かな風土と個性を、ワインの味わいを通して味わっていただけるところが魅力でしょうか」と、西馬さん。
和歌山湯浅ワイナリーは、南紀白浜など和歌山県内でも有数の観光地から近いため、近くを訪れた際には立ち寄ってみるのがおすすめだ。今後はワイナリー見学や試飲イベントの機会を頻繁に設ける予定だということなので、和歌山湯浅ワイナリーの魅力を現地で体験し、ワインを味わいたい。
また、海まで徒歩約10分という立地を生かした海底ワインの開発に取り組み、2024年7月31日にはクラウドファンディングが終了した。
さらに、地域の特性を反映するため、和歌山の名産であるミカンを使ったワインや、世界遺産にも登録された熊野古道から採取された清酒用の吟醸酵母「古道酵母」を使用したワインは、和歌山ならではの特別な味わいを醸してくれることだろう。
「多彩なワインラインナップを提供し、お客様のさまざまな好みやニーズに応えることを目指しています。新しいブレンドやバリエーションの開発に力を入れており、ワイン愛好家に新たな味わいの発見を提供したいと考えているところです」。
具体的には、今後は畑違いの銘柄やブレンドを探求し、独自の味わいや風味を生み出すことに注力していく予定だ。
最新鋭の機器を駆使して、和歌山の独自性と魅力を持つワインを生み出す和歌山湯浅ワイナリーの活躍を、これからも追いかけていきたい。
基本情報
名称 | 和歌山湯浅ワイナリー |
所在地 | 〒643-0005 和歌山県有田郡湯浅町栖原332 |
アクセス | https://maps.app.goo.gl/BVSbQppKJtyxor4HA |
HP | https://yuasa-winery.jp/ |