日本のワイナリーの皆様へ:日本ワイナリーアワード協議会 代表理事・審議委員長 遠藤利三郎氏インタビュー

皆さま、こんにちは!
「Terroir.media」は日本全国のワイナリーのインタビュー記事を掲載し、日本ワイン普及の一助となるべく日々努めています。現在までに、210社を越えるワイナリーにご協力いただきました。国内だけでなく、海外の日本ワインファンからも愛読いただいています。

この度「Terroir.media」では、新たに「日本全国のワイナリーの皆さまに向けた」発信を開始します。ぶどう栽培やワイン造りにおいてヒントになる話題、お客さまに話したくなってしまう話題をお届けできればと考えています。

初回は、日本ワイナリーアワード協議会 代表理事・審議委員長の遠藤利三郎さんをお迎えし、ワイナリーの皆さまへいただいたメッセージを紹介します。

取材の最後に「ワイナリーの皆さまへ一言お願いします」と依頼すると、「そうだなあ、たくさんあるなあ」としばらくお考えになっていた遠藤さんの、温かい眼差しが印象的でした。

取材・記事執筆は、「Terroir.media」にて180社以上のワイナリーにインタビューした長島が担当します。


◆遠藤利三郎様プロフィール

日本ワイナリーアワード協議会 代表理事・審議委員長
遠藤利三郎商店オーナー
アカデミー・デュ・ヴァン講師
J.S.A.認定ソムリエ
外務省在外公館課にて日本ワイン講座担当
日本輸入ワイン協会会長
日本ワインコンクール審査員
塩尻ワイン大学学長
30年以上ワイン講師として活動し、ボルドーワイン騎士団評議員、ブルゴーニュワイン騎士団理事、シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ、サーブルドール騎士団名誉会長など多くのワイン騎士団にて役員・騎士を務める

一般社団法人 日本ワイナリーアワード協議会について

「数多くの日本ワインの中から、傑出した品質を誇るワイナリーを顕彰する」ことを目的に、2018年に設立。第7回となる2024年は、6月に東京丸の内にてメディア・関係省庁・ワイナリー関係者70名、一般参加者100名を招き授賞式・記念パーティーが開催された。日本に現在500社ほどあるといわれるワイナリーの中から、17場のワイナリーが5つ星に選ばれた。4つ星は66場、3つ星は111場、コニサーズが62場、全256場のワイナリーが選出。2024年10月から11月にかけて、東京丸の内にて「日本ワインを学び、飲み、応援する〜丸の内 日本ワインWeeks〜」が開催され、多くの方が日本ワイナリーアワードで受賞したワイナリーのワインを楽しみに訪れた。

それでは、日本ワイン普及を目指して30年以上活動してきた遠藤さんからワイナリーの皆様への応援メッセージを、どうぞお楽しみください!


◆不信感を拭えない「国産ワイン」をどうにかしなければ

2000年前までは、「国産ワイン」はぼやけた印象がありましたね。1980年代には海外のワイン原料から毒物が検出される事件も起きて、「国産ワインには何が入っているかわからない」「海外原料が使われている」というイメージが消費者に広まってしまいました。実は当時、私はその事件で問題になった会社の新入社員でした。あの頃のことは決して忘れません。

私は1990年代の終わりから、日本のワイン文化の普及に尽力されたワイン界の重鎮であり弁護士の山本博先生のお供として、日本中のワイナリーを巡る機会に恵まれました。実際にワイナリーを訪れてみると、よいぶどうを作り、よいぶどうを農家から買ってワインを造るワイナリーが随分あることを知りました。品質が素晴らしいワインがこんなにあるのかと驚きましたね。

しかし、それを東京に帰ってワインスクールの講師仲間やワインメディアの方に話しても、旅先で飲んだからそう感じるだけではと皆信用してくれませんでした。

どうすればよいのかと考えあぐねている矢先、山本先生が著書『日本のワイン』の出版パーティーを開催するというので、ワイナリーに協力してもらい、日本ワインを来場者に試飲していただいたのです。大勢の方を招いたパーティーで、国産ワインにも美味しいワインがあることを初めて知ったとの声をたくさんいただきました。

プロでさえ国産ワインのおいしさを認識していないのだから、国産ワインをもっと多くの人に飲んでもらわなければ。現状を打破するために、定期的に国産ワインを試飲できる機会を作ろうということになりました。それが「日本ワインを愛する会」だったのです。

国産ワインにはまだまだ不信感がありました。輸入原料を使ったワインと、日本で作ったぶどうだけで造ったワインは違います。明確に区別するため、日本産ぶどうで作った純国産ワインを「日本ワイン」と呼び、多くの方に日本ワインを飲んでもらい美味しさを知ってもらおうと、山本博先生が提案したのです。

「日本ワインを愛する会」を発足した目的は、「多くの方に日本ワインを飲んでもらい、美味しさを知ってもらうこと」、「日本ワインという名称を普及させること」のふたつでした。

その後、「日本ワインを愛する会」は、目的がほぼ達成された「日本ワイン元年」といわれる2018年に、「日本ワインを愛する会」に名称変更してリニューアルしました。「日本ワイン愛好家のため」という原点に立ち返り、2018年11月1日に辰巳琢郎さんを会長に迎えて現在に至ります。

◆「日本ワイン」という名称が起こした変化

かつては飲食店やワインショップに「国産ワインを置いてください」といっても、「うちは輸入ワインしか置かないよ」と断られることが多かったのです。ところが「日本ワイン」という言葉を使うと置いてもらえるようになりました。

「国産ワイン」という言葉を使うと、「国産ワイン」対「輸入ワイン=フランス・イタリア・ドイツなどオールスターのワイン」という発想になるのでしょうね。一方で「日本ワイン」という名称を使いはじめると、「ワイン産地にはイタリアやスペイン、ニュージーランドもあるし、最近は日本ワインもあるね」と抵抗なく受け入れられるようになりました。言葉の力の大きさを実感しましたね。

辰巳琢郎さんが、当時いつも「飲食店に入ったら『日本ワインありますか?』と聞いてみましょう」とおっしゃってたので、メンバーで飲食店に入るたびに「日本ワインありますか?」と一声運動をしていました。

◆日本ワイナリーアワードの誕生

7〜8年ほど前から、日本のワイナリーが急激に増えはじめました。最初の頃は日本のワイナリーを全て把握していましたが、増え方が急過ぎて勉強が追いつかなくなってしまいました。消費者も、どの日本ワインを選べばよいか分からなかったでしょう。

「日本ワインを愛する会」は全てのワイナリー・全ての日本ワインを応援する、というスタンスで活動していました。しかしこれほどワイナリーの数が増えると、一般消費者や海外の方が混乱してしまいます。そこで、「素晴らしい日本ワイン」の指標を作ろうではないかと立ち上がりました。

その頃、東京オリンピックやEUのワイン関税撤廃の話題も浮上し、人々の関心が輸入ワインに移って日本ワインが忘れられる懸念があったのです。「このワイナリーのワインなら間違いなく美味しい」というわかりやすい指標を作りたいという思いから、「日本ワイナリーアワード」は誕生しました。

◆ソムリエ・ワインショップの方に審査を依頼

審査員には、日本ワインだけでなく、世界のワインにも精通したソムリエやワインショップの方にお願いしました。「世界基準で評価してもらう」ことを重視したのです。

ワイン初心者の方が「フランスワインは美味しい」と聞いても、どのワインを飲んだらよいかわからないですよね。「ブルゴーニュならこのドメーヌ」「ボルドーならこのシャトーがよい」と候補があれば手に取りやすいでしょう。

ソムリエやワインショップの方は、消費者に一番近いワインのプロです。世界のワインを熟知して、消費者に最も近い立場にいます。かつ、日本ワインを応援している人たちに評価してもらいたかった。アワードの設立には、ワインジャーナリストの石井もと子さんにもご協力いただきました。

ワインではなく、ワイナリーに賞を贈ることには理由があります。「消費者に日本ワインを身近に感じてもらう」ことが日本ワイナリーアワードの目的ですから、1万円もする高価なワインばかり評価されても、「今日の夕飯で飲んでみよう」とはならないですよね。そのため、「このワイナリーの2千円を切る価格のワインも美味しいんですよ」ということを消費者に伝え、日本国内でカジュアルラインの日本ワインを普及させたかったのです。ワインが売れなければワイナリーは存続できませんから。

◆日本ワインは世界基準を目指せるワインだ!

一方で、日本ワインは世界のワインと肩を並べるポテンシャルを十分に持っています。かつて「日本ではよいワインはできない」などと言われたこともありました。しかし今や、世界のワインコンクールで日本ワインが上位入賞するのが当たり前になりつつあるのですから。

日本ワインは、世界基準を目指せるワインなのです。「日本ワイナリーアワード」は、日本のトップレベルのワイナリーのワインを世界に送り出したい。「日本ワインならこれがよい」ではなく、「世界の中でこの日本ワインが素晴らしい」という実力を、日本ワインは十分に備えているのです。

たとえば、世界の星付きレストランで人気の日本ワインの存在を際立たせて、「これが日本ワインのフラッグシップだ」というイメージを定着させる方法です。海外に高品質な日本ワインを輸出して、海外のワイン愛好家に「日本ワインの品質は素晴らしい」という認識を確立させたいと思っています。

◆「地方での日本ワイン普及」が鍵になるのではないか

しかし現状、日本ワインの国内需要は芳しくありません。日本ワイン業界の外では「日本ワインは美味しくない」という誤解が拭えないのです。ワインの国内流通量で日本ワインが占める割合は5%程度で、日本ワインはまだ日本国内で十分に認知されていません。まずは、日本でしっかり土台を作ることが急務だと考えます。

ワイナリーの数が増えても日本ワインの消費量は増えていないということは、つまり売れないワインが出てきているのです。淘汰の時代が始まっています。ワイナリーを存続させるためには、よいワインを造るしかありません。では、よいワインとはどのようなものでしょうか。ワインは商品ですから主観では売れません。

お客様が求めるワインはどんなワインなのか。自分たちのワインは売れる品質に値するのか。売り上げに悩むワイナリーは、真摯にこのことを考えることが必要だと思います。立ち上げた時は友達が買ってくれても、果たしてずっと続くかどうかを客観的に判断しなければなりません。

長いスパンで見れば、日本のワイン市場は今後、拡大傾向にあると思います。ここ数年は踊り場状態ですが、数十年という時間軸で見れば、確実に日本のワイン消費量は増えています。他のアルコール類と比べれば一目瞭然でしょう。とりわけ日本酒との対比は鮮明です。

現状では、日本のワイン消費は首都圏をはじめ大都市に偏っているので、今後はいかに地方でのワイン消費量を増やしていくかがポイントになると思っています。全ての都道府県にワイナリーがあることを考えると、日本のワイナリーの存続は「地方でのワイン普及」が重要な鍵になってくるのではないでしょうか。

◆地域ぐるみで勉強会をしよう。自分たちの「テロワール」について議論しよう

これから頑張ろうとしているワイナリーには、さらに勉強してほしいと思います。プロの料理と素人の料理のレベルが全く違うように、醸造技術と栽培技術を知らなければ、プロとしてワインという商品は売れません。夢は大切ですが、夢に見合う勉強が必要になります。

留学はできなくても、たとえばボルドー大学やカリフォルニア大学デービス校などの研究機関が出している論文を読んでみるとよいと思います。ひとりではたいへんだしつまらないから、地域でグループを作って勉強会を開くことを勧めます。他の生産者に声をかけてみると、海外で勉強してきた人がひとりはいるものです。その人をリーダーとして定期的に勉強会を開催すれば、試飲もしやすくなり、地域全体のレベルが上がります。

勉強会では、自分たちの産地の個性、テロワールをどう言葉で表現するかをぜひ議論してほしいですね。まずは、地域の共通項となるテロワールについて仲間と議論してください。それを自分のワイナリーに持ち帰り、自分たちの個性をどのようにワインに表現するかを考えて言葉にするのです。そこにワイナリーのオリジナリティが出てくるのではないでしょうか。

逆にいえば、自分たちのテロワールを言葉で表現できなければ、淘汰されてしまうと思います。国内に500以上もワイナリーがあり、輸入ワインもたくさんある中で、唯一無二のテロワールを言葉で表現できなければ埋もれてしまうでしょう。

「ぶどうの声を聞きながらワインを造りました」と雑味の多いワインを出されても、それはテロワールではありません。テロワールを言葉で表現するということは、まず自分なりにテロワールを解釈し、さらに「こういうワインを造りたい」という思いを、どうワインに表現するか考え抜き、醸造をコントロールすることです。自然に振り回されてはいけません。

たとえば同じ風景を描くにしても、画家によって表現の仕方が全く違いますよね。油絵で描くか、水彩画にするか、どの景色を切り取って描こうか。景色をどう表現するかは画家の自己表現です。同じように、テロワールというひとつの共通項から、どんな手法でワインという作品を造り上げるかを考え抜くのです。

考え抜かれて、造り手の思いとテロワールがきめ細やかに表現されたワインを飲むことは、私にとってとても楽しいことなんですよね。

◆ワイナリーに来てもらえることはチャンス

日本のワイナリーのよいところは、日帰りでも見学に行けることです。これは日本のワイナリーにとって、大きなチャンスだと思っています。たとえば、画家のアトリエを見学して作品を解説してもらう機会があれば、その画家の作品を見るたびにアトリエを訪問したことを思い出し、画家のファンになるかもしれません。

ワイナリーの場合、ワインがその場で飲めるという体験がついてくるのです。今後、訪問者がワイナリーのワインを飲んだ時に、ワインの造り手の顔が浮かぶでしょう。「これはあの人がつくったワインだ」と身近に感じてもらえることは、大きなチャンスだと思います。普通ならグラス一杯のワインを飲んでも、頭に浮かぶのはせいぜいボトルのエチケットくらいですから。

フランスに比べて、カリフォルニアなどのワイナリーは、見学者コースがよく考えられているなと感心します。醸造設備が見やすく工夫され、レストランではワインと料理のマリアージュを楽しめます。アメリカ人はワイン文化がまだ浅いので、ワイナリーに人を呼び、スポーツのルールを教えるように、見学者にワインの楽しみ方を教えているのです。

サッカーの試合観戦で「オフサイド」の意味を知っているのと知らないのとでは、試合の面白味がまったく違いますよね。同じように、ワインのルールを知ればもっとワインが好きになり、楽しみ方が伝わります。日本でも、ワイナリーが人を呼び、ワインの楽しみ方を発信できればと思います。

◆日本固有品種が日本中で栽培されることを期待

私は外務省在外公館課で日本ワイン講座を担当していますが、海外に行かれる方には「和食には日本ワインを提案してください!」と依頼しています。フランス料理ならフランスワインが合うように、「和食には日本ワインが合うよ」ということです。日本酒はもちろん、日本には美味しいワインもあることを、ぜひ無形文化遺産に登録された和食と共に勧めてもらいたいのです。

品種としては、やはり和食とも合わせやすい甲州とマスカット・ベーリーAを世界に広めたいですね。甲州の栽培は山梨が主流になっていますが、日本中で栽培されるようになってもよいのではないでしょうか。これには反対する方もいらっしゃるかもしれないのですが、湿潤な日本の気候にあう品種なので、「日本固有品種」として日本全国で栽培されれば面白いと個人的には思っています。

そのほかに日本ワインで期待する品種としては、ピノ・グリはいかがでしょうか。ピノ・グリは尖ったワインになりにくく、ボリューム感もありバランスがよいのが特徴です。香りも個性が強過ぎないので、和食の出汁の香りを引き出してくれると思います。

◆ワインは農家の温もりを感じるお酒

私にとって、ワインとは人の温もりを感じるお酒です。造り手の気持ちが伝わり、農家の温もりを感じるお酒だと思います。ヨーロッパのワインは歴史や文化と密接な関係があるので、ワインを飲むと、遥か彼方の時代や文化を連想させてくれます。ワインは奥深く楽しみの宝庫のようなお酒だと思うのです。

日本のワイナリーのみなさん、日本は世界の銘醸地に匹敵するポテンシャルを持っています。メルシャン エグゼクティブ・ワインメーカーの安蔵光弘さんは「ボルドーは決してワインに適した土地ではなかった、何百年もかけて人間が努力して、素晴らしい銘醸地にしたんだ」とおっしゃいました。日本にも十分に可能性があるのです。

日本を世界の銘醸地にするのは、日本のワイナリーのみなさんの力です。ぜひ、世界の銘醸地にしてください。それを信じて、私は応援しています。

「私にとって、ビールは『今日もお疲れ様でした!』と言ってくれる癒しのお酒」とおっしゃる遠藤さん。


2024年10月24日から11月10日まで、東京丸の内にて「日本ワインを学び、飲み、応援する~丸の内日本ワインWeeks 2024~」が開催されました。

初日となる「日本ワインで乾杯の日®️セレモニー」に参加させていただきましたが、主催の一般社団法人日本ワイナリーアワード協議会はじめ三菱地所株式会社、DMO東京丸の内、皆様の熱い思いに心打たれました。「日本ワインが世界基準のワインになる」ことを宣言し、喜びを全員で分かち合うような、力強さと温かさを体感した、素晴らしいセレモニーでした。

「Terroir.media」はこれからも日本ワインの普及を目指し、日本全国のワイナリーの紹介記事を掲載して発信して参ります。

今後の記事もどうぞお楽しみに!

©株式会社Henry Monitor 執筆:長島綾子 レビュー:小松隆史

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